ドリーム・ウォーカー達のクリスマス♪


   【 第二章 】

 眠りに就いて間もなくのコト……、白いモヤのようなモノが掛かった宮殿のような場所に立っているオレが居た……、あァ、夢の中か……、なんとなくソレを確認するような気持ちで少しその変なモヤの掛かった世界を歩いてみる……、別段変わったコトは無い、特に面白くも何も無い夢だ……。

「ったく……、夢の中まで味気無いのか……」何度も言うが……、オレは心底アンチクリスマスの想いで一杯に成っていた……、そんな気持ちで少しその辺をフラフラと歩いていたときのコト、急に声を掛けられた。

「ケーキ、美味しかったですか?♪」
「あ?」

 突然、声を掛けられて少し驚いたが、所詮夢の中だ……、ソコでどんなコトが起ころうとフシギじゃない……、オレはそう想い、驚いた気持ちはすぐにかき消えて、その声の主の方に振り返ってみた。

「っ!」
「どっ、どうかしましたか?」

 あの娘だった……。

「あっ、いやっ、えっと……っ!」
「ウフフフフ♪」

 オレが驚いている様子を観て笑っているその娘。

「ケーキ、本当に食べてくれたみたいですね?」
「あァ……、は、はい……、そ、あの、ソコソコ美味しかったです……」
 そんなコトを思わず言っているオレが居た。

「ソコソコですか? もっと、喜んで貰えたら良かったのに……」
 と、少し残念な様子のその娘。

「あっ、いやっ、えっとっ! そっ、そのケーキ何て食べるの久しぶりだったし……、オレ、あんまり、甘党じゃ無いから……」
「そうなんだ……、じゃ、でも、ソレなのに、今日は買ってくれてありがとうございました」
 と、微笑んでいるその娘。

 間違いない、あの寒空の中、外で頑張って売り子さんをしていた、天使のようなあの娘だ……、コレはオレにとっては「クリスマス・プレゼント」と想ってイイかな? チョット、そんなようなコトを想ったオレが居た……。

「バイト、寒くなかったですか?」
「あ、うん……、あの後、雪が強く成って来ちゃってね? さすがに見兼ねて外での販売は終了して、お店の中に全部戻しちゃったの……」
「ですよね……、あの時点で既にこんな中、女の子一人外に出して、バイトさせるなんて、非人道的というか……、マッチ売りの少女か? みたいな感じでチョット想っちゃってました……」
「ウフフフフ♪」
 ソレを聞いてチョット楽しげに笑っている彼女、そしてこう付け加えて話していた。

「でもね? お店の中に入っちゃったら、もうお客さん来なくってあの後、一個も売れなかったの、だから、おにいさんが最後のお客さんだったんだよ? 本当にありがと」
「あっ、いや……、すっ、少しは、貢献出来たのかな……、お店の販売に……」
「うん…♪ チョコのヤツは売り切れって成ったから褒められたよ?」
「そっか、良かった……、ウチもワンホール全部は一人で食えなかったから半分に切って家族に渡したんだけど、珍しいコトもあるもんだ、みたいな感じで喜ばれてた」
 ソレを聞き、嬉しげな表情を浮かべるその娘。

「良かった、正直男の子ってケーキそんなに好きじゃない人も居るから、無理して買って貰っちゃってたら、悪いかなァ?って、チョット後《あと》に成ってそんなコトを考えちゃってたの」
「あ、いや、久しぶりに食ったんで美味かったですよ、クリスマス・ケーキ、今夜中に食べてくれって話だったから……」
「無理して食べてくれたの?♪」
 そう言って、少しイタズラっぽい笑みを浮かべつつコッチに言ってきてくれたその娘。

「あっ、いや、無理してっていうか…、まァ、少しは無理したかな? でも」
「でも?」
「あんなクリスマスっぽいコトしたの、本当何年ぶりかだったから、何ていうかありがと……、イイ想い出に成ったよ……、凄く可愛い娘に売って貰えたっていうのも嬉しかったし」
「良かった♪」

 そう言って、またあの観ていてまぶし過ぎる位の満面の笑みを浮かべてくれるその娘……。

「今日は本当にありがとう、とにかく、おにいさんが最後のお客さんだったの……、残ったのはバイトのみんなで持ち帰るコトに成っちゃったから、おにいさんが買ってくれなかったら、完売って成る商品が無いまま終わっちゃうトコロだったんだよ?」
「そっか、本当にオレなんかが少しは役に立てたようで良かった」
「うん、こちらこそ、お買い上げありがとうございました♪」

 そう言って、またあの「天使のような笑顔」をオレに向けてくれていた……。

 その後《あと》は、どう成ったかは良く憶えて居ない、何かしらもうチョット喋ったような気もしなくも無いが、所詮は夢の中の話だ、特に憶えていたからと言って、何かあるワケじゃない。

「じゃ、また、明日……」

 最後にそんなようなコトを言っていたような気がする……、ソレを最後にオレは深い眠りに就いた……。

 ソレ以来、オレは何となくではあるのだが、眠りに就くのが楽しみに成っていた……、そう夢の中でとは言え、あのクリスマスの夜、ケーキを売っていた可愛い売り子さんが毎晩のようにオレの「夢の中」に現れるように成ってくれていたからだ。

 その「夢の中」では、特に何をするというのでも無いのだが……、いつも、とりとめの無い話をして時間が過ぎ、そして深い眠りに就いて朝起きる、と、いうのを繰り返していた……、いわゆる、夢見がイイ、というのは、こういうコトなのだろうか? 朝起きた頃には、その「夢の中」で、どんな話をしていたか? なんてぇのは忘れてしまって内容を覚えているコトはほとんど無かったが……、彼女居ない暦=年齢のこのオレにとって、その可憐な美少女と過ごせるひとときは、例え「夢の中」でとはいえ、かなり楽しみなモノに成っていた。

「こんばんは、今日もやって来ちゃいました♪」
 と、彼女。
「おう、昨日ぶり」
 と、返すオレ。

 夢の中では、多少昨日話した内容を思い出しているようで、その続きからまた「会話」が始まっていくと、いう感じだ。

「確か、新しいケーキがどうのとか、そんなコトを言っていたような気がする」
「あ、そうそう、そうなの、アタシがね? こういうのどうですか?って、提案するケーキがことごとく却下されているの」
「ちなみに、どんなのを提案しているんだ?」
「こしあん入り、どら焼き風ケーキとか、甘い桃が入ったシュークリームとか、そういうヤツ」
 ソレを聞きオレは答える。

「こしあん入り、どら焼き風ってのは、そのままどら焼きで食べた方がイイんじゃないのか?」
「ソコは……、確かにそうかもしれないんだけど、アタシとしてはいつまでもおんなじのを売っていたら、お客さんに飽きられちゃうでしょ? だから、どんどん新しい商品を作っていって、お客さんを開拓していかなきゃ成らないって、そう想って言っているのよ」
 うん、まァ、言いたいコトの筋は通っている気がするが……。

「桃入りシュークリームは無理だろ……」
「なんで?」
「桃から出る汁で、シューがふやけちゃうだろ」
「あ、そっか」
「アハハハハ」

 と、いったように、いつも何かそんなような「とりとめの無い話」をして時間が過ぎ、ある程度 経《た》つと、本気で眠くなり深く眠りに就いて、その日のやりとりは終了して行くという感じだった、んで、朝、起きると、その内容はほとんど忘れてしまっている、と、いったような毎日を繰り返していたワケだが……、はて、たかだかあの一瞬、クリスマスの夜に少しやりとりをしてソレに萌え捲くった、と、いうだけで、こう何晩も同じ人の夢を観続けるだろうか……? ソコに少しフシギな気持ちを感じ始めていたときのコト。

 と、ある夜、また夢の中。

「そういやァさ」
「なに?」
「まだ、お互い自己紹介とかして居なかったよね?」
「そういえば、そうだね、いっつもお喋りに夢中に成っていて、そんなコト全然考えて居なかった♪」
「うん……、オレもまさか、こんなに毎晩夢に観るとは思って居なかったし、夢の中で知らない人と自己紹介をする機会なんて、コレまで、全くと言ってイイ程無かったから……」
「そう想うと、何か変な感じだね?♪」
 と、彼女。

 変というか、変過ぎるだろ……、とも想ったが、あのクリスマスの夜のやりとりがよっぽどオレの中で大きなインパクトを残した出来事だったんだな? ソレで、きっと毎晩こうして夢の中に「彼女」が現れるんだろう、とか想って、少し変だなァ?とは、感じつつも、お互いの自己紹介をするコトにした。

「あ、オレは……、嘉坐原《かざはら》ナオト16歳、あ、今年で16歳の高校一年生、血液型はB型」
「B型なんだ、アハハハ」
 と、彼女。

「なんだよ、B型でなんか悪いかよ?」
「いや、良く言うでしょ? B型の人は超超超マイペース、何があろうと我が道を進む人が多いって、ナオト……くん? だから、ナオトくんもそうなのかな?って、思って♪」
 と、笑っている彼女。

「しっ、失礼な、コレでも結構マジメで、気ぃ遣《つか》いなトコロがあるんだぞ?」
「うん、ソレは……、こうやって毎晩話していてそう想った、結構、ちゃんとコッチの話を聞いてくれるな?って」
「毎晩、話してるって……、やっぱり、ウチら毎晩、こうして夢の中で話しているっていうのがちゃんと踏襲《とうしゅう》されているのかな……?」
「とーしゅー?」
「あ、いや、夢なのにも関わらず、毎晩話している内容がきちんと、繋がり続けているのかな?って」
「そりゃ、そうでしょ」
「そういうモンか?」
「うん、だって、アタシ達、ドリーム・ウォーカーだから」
「は? ドリーム・ウォーカー……? なんだソレ?」
「うんと、ソレは話すと長いや♪」
 と、チョット楽しげに笑っている彼女。

「じゃあ、アタシね?」
「うん」
「アタシは安佐宮《あさみや》レミ、19歳、血液型はA型、よろしくね?」
「あ、ぅん……、って!」
「ん? なに?」
「歳上だったんだ!?」
「ん、アレ、言わなかったっけ?」
「てっきり、おない年ぐらいかと想ってた……」
「えっと……、ソレ良く言われる……」
 と、チョット不服そうな表情の彼女。

「あっ、ゴメン、いや悪い意味じゃ無いんだけど」
「アハハハ、本当に気ぃ遣《つか》い屋さんだね?」

「ぅ、ぅん……、一応……、ま、でも、家族とは仲悪いんだけど……」
「ぇぇ、なんで?」
「いや、地の性格は、やっぱり超マイペースだから、親って色々言ってくるじゃん? マジ超鬱陶しくって、そういうのが」
「アハハハハ、やっぱりB型だね?♪」
 と、楽しげに笑っている彼女。

「そんなに、イメージ悪い? B型って……」
「う~ん、まァ、一般的に……、マイペース過ぎるみたいな、そういう捉《とら》え方はされているっていう気がするかな?」
「お、オレは一応、ちゃんと、そっ、ソレなりに、きちんと人と接するときは、ちゃんと接するようにしていると、いうか……」
「アハハハハ、気ぃ遣《つか》ってくれてるんだ♪」
「まァ、初対面みたいな人とか……、あと、目上の人に対してとかは……」
「目下の人に対しては?」
「あ……、結構ワガママに接しているかもしれない……」
「やっぱり、マイペースなんだね? 地の部分では♪」
 と、案の定そうなんだ、と、言わんばかりの様子で楽しげに笑っている。

「しっ、失敬な、だから、ちゃんとするトコロではちゃんとしているってば」
「うん……、ソレは話しててそう思った、さっきも言ったけど、この人、人の話ちゃんと聞いてくれる人だなって」
「そ、そりゃあ、そうだよ、オレだって、ソレなりに16年、生きて来てもう高校一年生なワケなんだから」
「そっか……、高校一年生か……」
「うん……、レミ、レミさんは……、今は学生さんなの?」
「そっ、ソレに関しては……、チョット……」
 と、何となく聞いてはマズイような内容らしいので。

「ま、人ソレぞれだよね?」
 とか、一応言っておいた。

「うん、今はそう想って置いて、近々きちんとした報告が出来ると想うから」
「きちんとした報告?」
「うん、今はバイトしかやっていないけど、アタシもソレなりに考えている部分があるから……」
「そっか……、だよね? そう聞くとやっぱり歳上って感じがする、その、見た目から行くと、もっと若いかと想ったんだけど……」
「まだ、ソレ言うかなァ……♪」
「あ、いやっ、だからその! 決して悪い意味じゃなくてっ!」
「アハハハハ、うん、ありがとぉ♪」

「今日も一杯、喋っちゃったなァ」
「そうだネェ、なんかナオトくんとだと、話し易《やす》くって……、何となく毎晩、ココに足運んじゃう」
「何? その足を運んじゃうっていうのは、どっかのゲームセンターみたいな感じなの? オレって……」
「あっ、そう、まさにそんな感じ♪」
「なんだ、ソレ……」
「ウフフフフ♪ じゃ、今日はコレくらいで」
「うん」
「じゃ、また明日よろしく♪」
「あ、うん」

 そんな感じでやりとりが終わり、オレは深い眠りへと入って行った……、でもなんだろう?「ドリーム・ウォーカーとか言っていたけど……、ソレって、一体なんなんだろうか……?」そんなコトを想いながら……。

   【 第三章 】

 ソレから、毎晩のように夢の中で彼女と過ごす日々を送り……、年が明け冬休みが終わり、また憂鬱な学校生活3学期が始まった日のコト……。

 登校してみると、一番後ろの席であるオレの横に机と椅子が置かれていた……。

 奇数人のウチのクラス……、一番後ろの席である隣は誰もおらず……空いていたはずなのだが……、何なんだろうか? 冬休みの間にどっかの部活かなんかがこの教室を使って、スペースを開ける為に移動してその後、戻すときに間違えたのか……そんな風にチラッと思ったりしたが、まァ、オレの知ったこっちゃないか、特に気にも掛けずホームルームの時間を迎えた……。

 そして、そのときは突然やってきた……。

 少し気だるそうな様子で入ってくるいつもの担任、そしてその先生はこんなコトを口にした。

「今日から、新しい生徒が入る、みんなゼヒ仲良くしてやって欲しい、では、安佐宮《あさみや》くん、入って来て」

 は? 転入生? こんな時期にか……? ま、人には色々と事情があるか……、そんなコトを思っていると教室のドアが開き「入って来て」と、言われたその生徒が入ってきた。っていうか、今、担任のヤツ、安佐宮《あさみや》 とか、言ってたな? 何となくどっかで聞いたような名前だ……?

 そして、その開いたドアから入ってきた人物を観て、オレは驚きを隠せなかった……っ、そのドアから入ってきた人物はショートカットで何処からどう観ても非の打ち所が無いといった感じの美少女……、そうオレが毎晩夢の中で出逢っていた彼女だった……っ。

 ユックリと緊張した面持《おもも》ちで入って来て教壇の前に立った彼女、その可愛さに男子達は早くもいろめき立つ様子を隠せないで居る……、そして彼女の方はというと少し緊張した様子でソコに立っていた。

「さ、じゃ、みんなに自己紹介して」と、先生に促《うなが》されるその美少女。

 そして彼女は思い切った様子で口を開いた。
「どうも、はじめまして皆さんおはようございます……、えっと……安佐宮《あさみや》レミ、と、いいます、コレからゼヒよろしくお願いします」
 と、何とか自己紹介を終え、ペコリと頭を下げる彼女。

「あ……っ!」
 余りの驚きで思わず、少し声が出てしまったオレ、周《まわ》りの生徒何人かがソレに反応しコチラを少し見たが、すぐにその視線は再び教壇の前に立つ彼女の方へと注がれた。

「えっと……、色々事情があって……、ワタシは今19歳です、あ、あと、A型です、よろしくお願いします」
 少しドギマギした様子ながらも、そうハッキリと口にした彼女……。

「か、可愛い……っ」
 思わず、誰かが口走っているのが聞こえた……、オレ自身は驚きを隠せずに戸惑っていたが、周《まわ》りの男子は既に彼女の可愛さに心を奪われ始めている様子だ。

「えっと、席は、アソコの一番後ろに空いている席が君の席だから、ソコに座って、何か分からなかったら、横の嘉坐原《かざはら》に聞いて、と、いうコトで嘉坐原《かざはら》ヨロシクな?」

「ぁ……、は、はい……」
 と、弱々しく答えるオレ……、正直まだ驚きと動揺が全く抑えられない……。

「コレはマジか? ソレとも、まだいつもの夢の続きか…?」そんなコトを想って正直、慌てふためいている気持ちを抑えられないで居るオレ……。

 先生に促《うなが》され、オレの横にやってくる彼女、「間違いない、クリスマスのあの日、寒空の中ケーキを頑張って売っていて、ソレから毎晩夢に出て来てくれていた、彼女だ……、そういえば……夢の中で自己紹介だなんだのと言った時に……安佐宮《あさみや》って言っていたはずだ……っ、なんだコレ、正夢かっ!?」ワケが判らず、焦りを隠せないで居るオレ、そんな驚きに翻弄されている頃、彼女は何事も無かったように、今日から新しく用意されて空いていた横の机の席についた…っ。

「あ……、えっと……、あの……」
 いまだ、落ち着きが取り戻せず、 焦った気持ちをあらわにしてあたふたしてしまっているオレ……、そんなオレに彼女は席に着きながらこう言った……。

「やっと、本当に逢えたね?」
「いゃっ! えっと、あっ、は、はい……っ!?」
 あんな可愛い娘と隣の席なんて、羨ましいぞこのヤローといった周囲の男子の視線をバンバンに浴びながら、いまだ慌てふためいているオレ……いま、「やっと、本当に逢えたね?」って言ってたよな…っ、どっ、どういうコトなんだよ、コレ……っ、事態が全く飲み込めず、全く落ち着きを取り戻せない……っ。

「コレからヨロシクお願いします♪」と、言ってニコッと笑う彼女……。
 間違いないあの娘だ……、夢に毎晩出て来ているケーキを売ってた娘だ……っ。

「こっ、コレって、あのっ!」
 焦ってそんな言葉を発してしまう。

「また今夜ユックリ話しましょ?♪」
 慌てる様子も無く、コトも無げに彼女はそう言った。
「あっ、えと……、はっ、はい……」
 そう答えるのが精一杯だった……。

   【 第四章 】

 そして、その夜、また夢の中でのコト……、いつものコトと成って驚かなくは成っていたが、また彼女が現れる……、だが、今日は少し事情が違う……、そう、今日学校で起こったコト、アレは何だったのか!? そのコトでオレの頭の中は一杯だった……。

「おっ、おぃ……っ、今日のアレ、アレは一体何だったんだよっ!?」
 今日起きたコトへの驚きをそのままに彼女に問い掛ける。

「言ったでしょ? 近々報告出来るコトがあるって」
「ほっ、報告っ!? とにかくアレは一体何だったんだよっ!?」

「アナタとアタシはドリーム・ウォーカー、夢の中を自由に行き来出来るの」
「ハァ?」
 何だソレ…っ、オレは全くワケがわからなかった。

「ちょっ、チョット待て、そのドリーム何とやらってのはイイとしてだ、今こうして喋っているのはオレの夢の中だけのコトじゃないっていうのか?」
 困惑しながらも精一杯の質問を浴びせる。

「そう……、アナタとアタシは夢の中で繋がっているの」
「なっ、何だってぇ!?」
 ソレを聞いて更に困惑するオレ。

「アナタが観ている夢をアタシも一緒に観ているって言ったらワカルかな」
「は、ハァ……?」
 何だよソレ……、どういうコトなんだよ……。

「今こうして喋っているのを、オマエも夢の中で同じように喋っているっていうコトか!?」
「簡単に言うと、そう、アナタはドリーム・ウォーカー、人の夢の中に入り込むコトが出来るの」
「なっ、何だそりゃあ、どっ、どういうコトなんだよっ!?」
 どう考えても理解出来ない……っ、夢ってぇのは、眠っているときに脳みそがなんか、その日にあった記憶やら情報なんかを整理している最中に観ているモノだって聞いていたつもりだが……。

「アナタには、他の人には無い能力が備わっているっていうコトよ」
「夢の中を行ったり来たり出来るってぇのか!?」
 全くワケがワカラナイ……、人の夢の中に入り込むコトが出来る? そんなの今まで観たコトも聞いたコトも無いっ。

「1万人に一人くらいは居るの、そういう人が……、だからそんなに珍しい力では無いんだけど……、ほとんどの人はアナタと同じ、ソレを知らないまま一生を終える人がほとんど」
「いっ、1万人に一人……?」
 な、なんか多いのか少ないのか良くワカラナイ数字だが……、日本の人口が1億何千万か居るって成ると……、日本に1万人以上は居るってコトか……? だとしたら、結構多いのか? なんか、とにかくよくワカラン……。

「一つ聞きたいんだが……」
「なに?」
「この今喋っている会話を、オマエはオレと、えっと……レ、レミと実際に喋っているっていうコトに成るのか?」
「そう……、アナタは朝起きたときには大部分は忘れてしまうようだけど……」
 確かに……、毎晩この娘がオレの夢の中に出て来ているっていうのは最近よく憶えては居たが……、何を喋ったかまではいつもほとんど忘れてしまっている……。

「とにかく、良くワカラな過ぎるコトだらけだ……、どう理解したらイイんだ……、今日オマエがオレの学校に転入して来たってぇのは夢じゃないよな……?」
「うん……、事情は色々とあって話せば長いんだけど……、アナタの学校にアタシが編入したのは本当の話」
「なっ、何でウチに編入して来たんだよ……」
「だから……、話せば長いし、今ココで話してもきっと……、明日の朝に成ったらアナタは内容をほとんど忘れてしまっているから……」
「信じろってぇのか? その話を……」
「うん♪」
 チョットそんな感じで楽しげに答える彼女。

 ダメだ……、ワカラン……、どう考えても全くワカラン……、頭が混乱しそうだ……、コレって夢だよな? 夢の中なら何が起きてもおかしくは無い……、っていう論法からすると、今ココで喋っている内容がデタラメであっても何らおかしくは無いっていうコトに成っちまうんだが……、ソレが、現実の相手と実際に喋っている? ダメだ……、そっから先が全く理解出来ない……っ。

「だから、そんなに慌てるようなコトじゃないし、珍しいコトでも無いって言っているのに……」
 と、コトも無げにそういう彼女。
「何処がだよ! 夢の中で現実の相手とやりとりが出来るなんて、どう考えてもおかしいだろ!? ソレこそ夢物語だろっ!」
 オレは焦りを抑えられず、そう声高に叫んでいた。

「そ、普通ならね? 本当にただの夢物語……♪」
 慌てているオレの様子を楽しむかのようにクスクスと笑いながらそう言う彼女。

「本当のコトなのか、夢なのかハッキリさせてくれっ」って、どう考えてもコレは今夢の中だよな!?

「いまは夢の中だけど……、何度も言うようにアナタには、人の夢の中に入る力があるのよ、だから、今こうしてアタシとやりとりが出来ているの」
「ワカラン……、ダメだ……、何度聞いてもただの夢としか思えん……」
「うん、だって今実際夢の中だしね♪」
 そう言って楽しげに笑っているレミ。

「オレの頭がおかしく成っちまったのか? 夢と現実がごっちゃに成ってって……っ」
「ぅぅぅん、アナタは正常、大丈夫、混乱するのもワカルけど、チョット落ち着いて♪」
 そう言ってまた笑っている彼女。

 全く……、一体どう成っちまったっていうんだ、このオレは……、日々の憂鬱さにイイ加減愛想が尽きてどっかがおかしく成っちまったんだろうか……。

「何度も聞くが……、今こうしてオレは……、そ、そのレミと……、あの現実世界に居るレミと同じ……人物と喋っているのか?」
「うん」
 あっけらかんとそう返す彼女。

 マジかよ……、何か嬉しいような……、良くワカラナイような、とにかく何か理解不可能な話だ……、大丈夫か? オレ……、余りにも突拍子も無い事実を突きつけられて、どうにも納得が出来ないオレが居た……。

「何か証明出来るモノがあれば、とも、思うけど……、今何を言っても、朝起きたときには、そのほとんどの内容をアナタは忘れてしまうから、今、ココでアナタとアタシが喋ったっていう証拠を残すっていうのは、チョット……難しいかな?と、思うんだけど……」
「じゃあ、今オレしか知らないコトをココで言って、オマエが今度学校でオレにソレを話してくれたら、今ココで起こっているコトを信じられるかもしれん……」
「ソレイイかも? じゃ、なんか……アナタだけしか知らないはずのコトを今話して?」
 何となく、そんなようなのを言っている映画みたいのがあったような気が一瞬したが……、ソレは置いておいて……。
「わ、ワカッタ…、もし、ソレをそのとき学校で聞いたらオレが驚くっていうのを言えばイイんだな?」
「そ♪」
 そう言って楽しげな視線を向ける彼女、余りに驚くコトの連続で忘れていたが……、とにかく彼女……、そうレミは可愛い……、視線をコッチに向けられたとき改めてそんなコトを想ったオレが居た……、っと、そんなコトを考えている場合じゃなくて……、オレしか知らないはずのコトか……、そうだな……、アレコレと思い巡らせて見る……、小学校の頃にあったコトなんかにするか……? 林間学校でクラスメートの島崎が片想いの相手に思い切って告白をしようと相談されたコト……? アレはオレと島崎しか知らないはずだ……、いやもっと昔のコトにするか……? ちっちゃい頃、大雨が降った後《あと》に出来た空き地の水溜りで初めてカブトエビを観たコト、今その空き地はマンションに成っているコト……、いや、なんか違うな? じゃ、もっと昔の……、ちっちゃい頃にテレビで観た戦隊ヒーローで一番好きだった敵の名前……、ほぼ毎回1話完結の話にも関わらず一度だけ戦隊ヒーローを翻弄し2話に渡って登場したヤツ……、よしコレにしよう、今頃あんな昔のヒーローモノの内容を憶えているヤツはほとんど居ないだろうし、第一この敵の話を誰かとした覚えがオレは一度も無い……、だからコレを知っているのはオレだけだ……、もしこの敵の名前を明日学校でレミが言ってきたら、オレは驚く……、よし、ソレにしよう……、何だか良くワカランし、メチャクチャしょうもないコトを自分でも考えているとも想ったが……、オレは半信半疑でレミにその敵の名前を告げた……。

「モンド・ギリアスだ」
「は? なにソレ……」
「オレが幼稚園の頃に好きだった戦隊ヒーローに出て来た敵の名前だ」
「なにソレ……」
 と、言って笑っているレミ。

 いやオレだって、自分で言っていてしょうもない話をしているな?とは、感じているが、もしコレを今頃に成って、しかも誰にも話していない、しかも戦隊ヒーローの敵の名前をこの笑顔がステキな「可憐な美少女」がオレに言おうモノなら、必ずや「なっ、何でオマエがソレを知っているんだ!?」と、驚くはずだ……。

「なんでもイイ、とにかく今度オマエがオレに、オレが幼稚園の頃好きだった戦隊ヒーローモノに出て来た敵役、だと言ったら、オレはゼッタイに驚くし、実際に夢の中で繋がっているというのを信じる根拠に出来るはずだ……」
「なんだかワカラナイけど、ソレでイイのね?♪」
 と、楽しそうに笑っているレミ。
「わ、笑うなよ、オレなりに一生懸命、かっ、考えたんだぞ!」
「ワカッタ……、えっと、なんだっけ? モンド・ギリアスっていうのが幼稚園の頃に観ていたアナタが好きな戦隊ヒーローの敵の名前なのね?♪」
 レミはおかしそうだ……、ちきしょーオレだってもうチョットマシな個人的なヒミツを言いたかったが、他にイイのが浮かばなかったんだよ。

「とっ、とにかく、女の子、しかも女子高生が、そんな昔の戦隊ヒーローの敵の名前なんて知っているワケが無いだろ? だから! ソレを言ってくれたら、きっとそのときオレはこの今の状況を理解する手掛かりに成るんだよ!」
「ワカッタ、ワカッタから怒らないでよ」
 と、言いつつまだ笑っているレミ。
「笑うなって言っているだろっ!」
「うん、ゴメン……」
 と、謝りながらもコロコロと顔をほころばせて楽しげに笑っている……、う~ん、かっ、可愛いから何となく許してしまうが……、どうにも言った自分が恥ずかしい感じでなんか悔しい気持ちだ……。

「じゃあ、アナタがココでのやりとりに慣れて来てイイ頃合いに成ったな?って想ったら、ソレを言うから、そのときを楽しみにしててね?♪」
「お、おぅ……」
 とか、言いながらまだ笑っているレミ。
「笑うなよ! 一生懸命考えたんだよっ!」
「いゃ、だって……、すっごい可愛いヒミツだから……っ♪」
 結局、その日は笑われっぱなしで、その後深い眠りに就いていったオレだった……。

   【 第五章 】

「おい……」
「ん? なに?」
「この農夫もオマエ達が戦っているっていう悪いヤツラなのか?」
「ん……」
 っと、敵のレベルメーターをチェックするレミ。
「一応……、この反応を見ると、カラーがレッドなので悪い夢属性であるコトは間違いないみたい」
 と、手元のハンディ・スキャナーをいじっているレミ。

「コレが悪いヤツなのか……? どう見てもただの人の良さそうな農夫にしか見えないんだが……」
 と、いぶかしみながら、そのカラーレッドと成っている男をしげしげと見ているオレ。

「おぃ、ソコの若ぇのっ!」
「あ、はい……」
「このオレを見ると! 甘く成るぜっ!? あっ、いや、このオレを甘く見ていると、甘く成るぜ!? あっ、いや、このオレを痛い目に合うと、甘く成るぜ!? あっ、いや」
 と、一応スゴもうとしているらしい農夫。

「オレを甘く見ていると痛い目に合うぜ?って、言いたいんじゃないのか?」
「おぅ、そうだよ、おぅおぅ若ぇの人のセリフを取ってくれちゃうとは度胸がイイじゃネェか?」
「いゃ、イイ度胸してるじゃネェか、じゃないのかな……」
「おぅおぅ、今回しか出番が無いかもしれないってぇのに? オレのセリフを2回も取るんじゃネェよ、この若ぇの!」
「あ、ちゃんと言えた」と、レミ
「おぅ、ちゃんと言えたぜ」
 ちゃんとセリフが言えたコトに少し嬉しそうな様子の農夫。

「おぃ……」
「なに?」
「何度も聞くようだけど、このオッサンも、オマエの言うその悪い夢の世界の連中なのか……?」
「うん、スキャンしたら、そう出てる…、一応やっつける対象ではあるみたい……」
「そっか、じゃ、やっちゃってイイんだな? このオッサン」
「うん」
「おぅおぅ、ナカナカいい威勢の……、いい威勢じゃネェか」
「イイ加減、ちゃんとセリフを言え――っ!」
 ブワキィーーー、ナオトのアッパーカットが農夫のオッサンに見事にヒットする。

「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオフッ!!」
 吹っ飛んで行って空の彼方へと消え去る農夫のオッサン。

「おぃ、ココは片付いたぞ?」
「そぅ……、みたいだね……♪ ナオトくん、そんな力一杯やっちゃったら……」
「なんだよ」
「チョット可哀想、あのオジさん……」
「なんだよ、オマエが敵だって言うからだろ? 何度も聞くがあんなのもオマエらの戦っている連中の一味なのか?」
「うん……、人によってレベルは様々だけど……、悪い因子を埋め込まれていた人には変わりなかったみたい……」
「そっか、チョット気の毒だな、根はイイヤツだったのかもしれないな? あのオッサン……」
「うん……、でも一応本人に問題があるのは確か……」
「そうなのか……」
「仕方ないよ、コレばっかりは……ワイリー・フラウの人達に汚染されていたのは間違い無いから……、じゃ、次行こっか?」
「おう」

 と、そんな感じで、レミに率いられ、夜な夜な「ワイリー・フラウ」に汚染された人達をやっつける、と、いうクエストじみたコトをし始めるコトに成ったオレ……、一体いつがゴールなんだろうか……、ゲームじゃないからどっかの時点でクリアとか、そういうのは無いのかもしれないが……、出会った頃のノンビリとお喋りに花を咲かす……、そんな夢もまた観てみたいな?とか、チョット思わなくもないオレの夜だった……。

   【 第六章 】

 いつものように、夢の中でレミと喋っていたときのコト。
 ひとしきり、お喋りに花が咲き、少しの間、沈黙に成る……、いつものコトだが、そういうときレミは微笑を浮かべて何処か遠くを見るような美しい視線で何かを見つめている……。

「はァ……、カワイイ……、オレこの娘といつまでも、例え夢の中でとは言えこうやってずっと一緒に居られたらイイのになァ……」そんなようなコトを想い巡らせるのが、そういうときのオレの中での習慣のように成っている、ふと、そんなレミのキレイな瞳にウットリとしてボーッとしているオレの視線に気付き、コチラへ顔を向けるレミ、「うっ!」っと、声に成らない声を上げて、慌てて視線を逸《そ》らすオレが居る。

「ウフフフフ♪」
 イタズラっぽく笑うレミ。
「なっ、なんだよ……」
「ぅぅぅん、何となく……♪」
「なっ、何となく……、なっ、何だよ……」
 ドギマギしながら、そんな受け答えしか出来ないでいるオレが居る。

「ウフフフ♪ 何となァく、今、ナオトくんがどんなコトを考えてくれているのかなァ~~っていうのが、ワカッちゃった気がして♪」
「なっ、何をだよっ!」
 心を見透かされたような気がして、焦りを隠せないで居るオレ。

「…………」
 少し押し黙った様子のレミ。
 そして、ユックリと口を開く……。

「アタシね?」
「ぅん……」
「ナオトくん、と、こうやって一緒に居られる時間、凄く大切な時間だっていう気がしているの……」
「…………」
 レミのその一言を聞いて、嬉しい気持ちが沸いてくるのを感じているオレ。

「アタシ……、ナオトくんと出逢えて本当に良かった……、そう想っているの……」
「…………」
 言葉に成らなかったが……、正直言ってソレを言うなら、オレの方がそんな気持ちで一杯だと感じていた。

「アタシ、ナオトくんと、こうやってとりとめの無い話をしていられるときが……、好き♪」
「っ!?」
 レミがそうハッキリと言ってくれたコトに、嬉しい気持ちと同様に、少し焦って動揺を隠せないで居るオレ。

「す……、好きって、好きって……、って言ってくれたの……か……?」
「うん♪」

 そして、レミは思い切った様子で、こんな話をオレに語り掛けるようにし始めてくれた……。

「アタシね? ずっと3年間引き篭もっていたって言ったでしょ?」
「うん……」
「ソレには、ソレなりに色んな事情があったんだけど……、自分がドリーム・ウォーカーって気付く前から、どっか世の中に対して色々と幻滅しちゃって気が滅入っちゃっている自分が居たの……」
「うん……」
 ソレはオレも同感だ……、レミとこうして居られる時間は例えようも無い位に幸せなひとときだ……、でも、ひとたび現実の世界にって成ると……、思い通りに成らないコトがあり過ぎて……、くさくさとした後ろ向きな気持ちに成ってしまうコトなんて日常茶飯事だから……。

「で……、あるとき夢の中で……、アナタを観掛けたの……」
「オレ……、を……?」
「そう♪」
 レミは嬉しげな様子でそう言った。

「そのときは、もう自分には人の夢の中に入り込める力があるっていうのは知って居たから……、引き篭もっていて何もするコトも無いし……、ゲーム感覚っていうのかな? 夜、眠りに就いてから、色んな人の夢の中を渡り歩くのが……、唯一の趣味みたいに成っていたの……」

「うん……、な、なんかワカル気がする……、曲がりなりにも……、その人の深層心理みたいなのを観て周《まわ》れるって成ったら……、夢中に成るのはワカル気がするよ……」
「ウフフフ、アリガト♪ そう、本当にそんな感じで……、色んな人の心の中を覗かせて貰っていたの……、今想うと、チョット悪趣味かな?って感じもしなくは無いんだけど」
 と、言って少し笑っているレミ。

「でも……、ほとんどの人達は……、世の中に対して幻滅している……、そんな深層心理の人達ばかりだった……、表向きキレイな夢を観ているようで、ず~~っと、奥まで見させて貰ったら、大抵の人は……、ソコで「満足」していて……、何かを変えようって希望を持っている人は居なかった……」
「…………」

 確かに「夢」の無い時代っちゃ時代だからな……、オレなんかより遥かに前から、コイツは世の中の人達が人生に「希望」を失って……、ただ日々を送っているだけっていう「諦めに満ちた世界」を肌で感じて居たんだな……、そんな風に想いながら話を聞いていた……。

「で、あるとき……、たまたまだけど、凄く強い光がある人を見つけたの……」
「強い……光……?」
「そう……、なにコレ……?って、いう位に強くて力強くて、何処か温かくて……、人生を諦めている人達ばっかりの夢の中に辟易《へきえき》としてたアタシは、もしかしたら、この人には……、今までの人とは違った何かがあるのかも? みたいな、期待半分、諦め半分っていうか……、興味本位っていうか……、なんか、とにかく少しだけ「希望」みたいなのが、その光の先に有りますようにっていう願うような気持ちで、その強い光を発している人の夢の中を覗かせて貰うコトにしたの……」

「うん……、で、その人は、どんなヤツだったんだ?」
 オレに話したいコトが溜まっていたのか……、何か想うトコロがあったのかはワカラナイが、珍しく自分の過去について熱心に話し続けるレミの言葉に……、オレは吸い寄せられるような気持ちで聞き入って行った……。

「ビックリしたんだよ?」
「なっ、なにが……だ?」
「その眩しい光を放っている人の、心の中……」
「うん……、どんなヤツだったんだ?」

「何処まで行っても、その明るい光で彩《いろど》られていたの……、えっ、何? この人どんな人なの? 産まれたての赤ん坊か何か? そんな風に想ったくらい」
「随分と明るい性格のヤツだったんだな? その人……」
「うん……、本当に一番一番奥の底の方まで行っても、強くて眩しい光に包まれていて、何ていうのかな? 負けるっていう感情が何処にも無いの」
「そんなトコまで、ワカッちゃうのか……」
「うん……、チョット……、ズルイよね? 無断で人の性格を読み取っちゃうなんて♪」
 と、少し申し訳なさげにそう言っているレミ。

「何処を見ても、真っ白で汚れ一つ付いてない……、余りにも力強くてキレイな光に包まれていたので、その人の心の中に触ってみたら、こんな言葉が聞えたの……」
「なんて……、言っていたんだ……? その人は……」

「人の生きる道に、勝ちも負けも無い……、何度でもやり直せる、だからオレは一度も負けたコトが無い、コレまでも……、そして、コレからも……っ、て……」
「随分と前向きなヤツだな……?」
「うん♪ アタシもそう想った……」
 と、言い、そのときのコトを想い出したのか顔がほころんだ様子のレミ。

「いわゆる、穢《けが》れて無い人ってワケか……」
「そう……、その人は穢《けが》れて無かった……、っていうか、多分……、色んなコトがあったんだと想うんだけど……、その度にその人は自分の力で立ち直って行っていたんだ……、って想ったの……」
「…………、頭が下がるぜ、伝記にでも載りそうな人だな?」
「ウフフフフ♪ そうだね? ホント」
 と、言って笑っているレミ。

「で、ソレ以来、アタシは何かイヤなコトがあったときとか……、ふさぎ込んじゃうときとかって……、既に引き篭もりに成っちゃっては居たときだったんだけど……」
「うん……、その人んトコに行って、元気を分けて貰おうとか、そんな感じだったワケだ」
「そう!」
 レミは嬉しげにハッキリとそう言った。
「そうなの!♪ ワカッテくれるっ!?」
「あっ、いや……、なんかワカルよ……、そういうの……」
 かく言うオレも……、イヤなコトがあったときとか……、とにかく、この今目の前に居るときおり「天使」のような笑顔を観せてくれるレミに、何度その心を救われたか知れない……。

「で……、あんまりにも……、ステキな人なんだって、想って……、あるとき聞いてみたの……、チョットっていうか、すっごいドキドキしたんだけど……」
「まァな? 人の夢ん中に勝手に入っていって、その人に話し掛けでもしたら、そりゃ向こうからしたらマジでビックリするだろうからな?」
「うん……、そ、そうは想ったんだけど……、どうしても……、その人のコトをもっと……知りたくなって……、そしたらね?」
「うん……」
「ソレが…………」
 少し顔を赤らめるレミ。

「ナオトくんだったの」

 ソレを聞いたとき……、何ていうか……、一瞬、全ての時間が止まったように感じてしまっているオレが居た……、寝耳に水ってのは、どうやら、こういうコトを言うのかと……、そんな風に想って……。

   【 第七章 】

「な……っ、なんだよ、アレ……っ」
「巨大なモンスターね!?」
 と、レミ。

 その巨大なモンスターを見上げ、ア然としてこうつぶやいているオレが居た……。
「モン……ド……、ギリ…アス……っ」

「なにっ? なによっ!?」
「モっ、モンド・ギリアスだっ!?」
「ハァ?」
「前に言っていただろ!? オレが幼稚園生の頃に好きだったっていう、戦隊ヒーローに出てきた敵だって……」
「アナタ、まさかっ!?」

 ズガガガ――ン! その強力な「超能力」で、岸壁を打ち砕き、砕かれた岩石をコッチに向かって吹き飛ばしてくるモンド・ギリアス。

「キャアッ!」
 慌てて、「夢想防御」を張り、何とかソレを弾き返すレミ。

「今、何かそんなコトを想い浮かべたんじゃないでしょうネェっ!?」
「何がだよっ!?」
「この巨大なモンスターは、この人の中の悪い夢の因子の塊《かたまり》!」
「ソレがモンド・ギリアスだってぇのかっ!?」
「違うわよ! アンタが想い浮かべたコトがこの人の意識に投影されてるっていうコトよっ!?」
「ハァ!? 何だァ、そりゃあァっ!?」
「こんなときに余計なコト、想い出しているんじゃないわよっ!?」
「アレは! オレの意識が投影されて現れたモンスターだってぇのかっ!?」
「そうよ! この人の悪い夢の因子はまだ具現化していなかったのにっ、アンタが余計なコトを考えたから「形」に成って現れちゃったのよっ!」
 尚も巨大な岩石を突き飛ばしてくるモンド・ギリアス。

 ズガガガガガガガ――ァン!

「なんなのよ、もう!」強烈な精神波を張って、なんとかソレをしのいでいるレミ。
「んとに、余計なコトを余計なタイミングで想い出してくれちゃってぇっ!」
「しょっ、しょうがないだろっ!? こっ、コレが他の人の夢の中なのか?って、思ったら、前にオマエに「本当に夢の中で一緒だったっていう証拠を見せてアゲる」って言っていた場面を思い出しちまっていたんだからっ!?」

 ガガ――ン! ガガ――ン! ズガガガ――――ァン!、なんと岩石だけに飽き足らず、ミサイルまでコチラに向かい何発も発射してくるモンド・ギリアス! 二人の傍《そば》に着弾し、巨大な火柱が何本も上がっていく……っ。

「何なのよっ! メチャクチャ強いじゃないのよっ! このモンド・ギリアスっていうのォっ!」
「そっ、そうなんだよ! このモンド・ギリアスっていうのはなっ! 基本一話完結で進んでいく戦隊ヒーロー、フィーダーデッドん中で、唯一、二話に渡って登場し主人公達を翻弄したシリーズ最強の敵だったんだよっ!!」

 ズガガガガガガ――――ァン! モンド・ギリアスが吹き飛ばす岩石と、何発も絶え間無く発射されるミサイルが、二人に襲い掛かる。

「キャアッ!」急いで、二人を囲うように「夢想防壁」を何とか維持し続けていているレミ。

「なんでっ、よりにもよってそんな「強い敵」なんかを想い浮かべちゃうのよっ!?」
「しょうがネェだろっ! フィーダーデッドを翻弄し嘲笑する、その姿が強烈な印象を残してオレの中ではシリーズ中、最も好きなエピソードだったんだからっ!」

 その話を受けて、更に攻撃力が増すモンド・ギリアス! 二人の周《まわ》りに上がる炎と吹き荒れる爆風が勢いを増して行く……。

「だから、余計なコトを想い出すんじゃないって言っているでしょっ!? アソコに居るモンド・ギリアスってのは、アンタの意識の投影なのっ! アンタがアレやコレやと想い出すたんびに、よりリアルに具現化されて行っちゃうのよォっ!!!!」
「そっ、そんなコト、イキナリ今言われたってぇっ!」
 吹き荒れる爆風に翻弄され、涙目に成っているオレが言う。

 攻撃力を増し、二人に猛然と迫り来るモンド・ギリアス。
「こっ、コレ以上防ぎ切れないし、突進してくるっ! 早くしないと殺られちゃうわよ! アタシ達――っ!? なんか、弱点とか無いのっ!? このモンド・ギリアスってぇのにはっ!?」
「じゃっ、弱点……、そ、そんなコト言われたって、幼稚園の頃のチラッとテレビで観ていた記憶だぞ!? 内容なんて想い出せるワケがっ!!!!」
「だとしたら、アタシ達でココでデッドエンドなんてコトに成っちゃうでしょ!? 早く想い出してっ!!!!」
 一人、一生懸命「夢想防壁」を張りながら、手から光を放ち、突進してくるモンド・ギリアスに対しその衝撃力で何とか間合いを保っているレミ、孤軍奮闘、頭が下がる……、何て、想っている場合じゃない! モンド・ギリアスの弱点! ソレを想い出さないとっ!

「ちっ、ちなみにっ! ココでモンド・ギリアスに殺られて死んじまったら、オレ達はどう成るんだっ!? 一応、夢の中なんだろっ!? 此処《ココ》はっ!?」
「そっ、そぅ、だから、ココでアタシ達が死んでも、実際の肉体は死ぬことは無いけど! 潜在意識にその記憶が刷《す》り込まれて、鬱に成ったり、下手すると昏睡状態に陥《おちい》っちゃったりしちゃうのよっ!!!!」
「そっ、ソレで、オマエ……、不登校に……っ!?」
「そういうコトよっ! 前に夢の中でワイリー・フラウの連中との戦いに疲弊《ひへい》しているときに捕《つか》まってヒドイ目に遭ったのが原因で! ソレで、現実社会のアタシは生きる元気を失って毎日を呆然と無気力に送るコトに成って不登校に成っちゃったのよっ!って、そんなのイイから、早くモンド・ギリアスの弱点を想い出して――ぇっ!?」

 ガガガ――ァン! ズガガガ――ガガガ――ァン!

 徐々に間合いを詰め、超能力で砕いた岩石を吹き飛ばし、更にミサイルを使って猛攻撃を仕掛けてくるモンド・ギリアス!

「やべぇ、マジ強ぇ、さっ、さすがはモンド・ギリアス!」
「だから! そういうのを想い浮かべないでって言っているでしょっ!? 余計に強く成って行っちゃうじゃないのよっ!」
 その言葉通りに、その姿がよりハッキリとしたモノに成り、ミサイルの威力も格段に強力に成り、ついにレミの「夢想防御」を突破し、強烈な爆風が二人を猛烈な勢いで吹き飛ばす!

「つ、痛ぅ……っ」
「チョット、とにかく早く想い出してぇ! なんか弱点は無いの!? 直撃を喰らったらアウトなのよっ!?」
「わっ、ワカッテるよっ!って、でも幼稚園の頃に観ていた内容なんだよ、ハッキリと何て憶えているワケがっ!?」
「何でもイイから早くして――ぇっ!」

 っと、待てよ……、超能力……、一人のシスターがソレに対抗して……、って
「ワカッタ――――ァっ!!!!」
「想い出したのっ!?」

 ズガガ――ン! ズガガガガ――ン! 相変わらずモンド・ギリアスの激しい攻撃は続いている

「アイツは「十字架」が苦手だったんだっ! とにかく、何でか知らないが「十字架」を見たり、ソレが近くにあったりすると、混乱して「超能力」を使えなく成るんだっ! レミ! 十字架だっ! モンド・ギリアスの弱点は十字架なんだよっ!」
「ほっ、本当にそうなのねっ!? ソレが間違いだったら、アタシ達、本当にもう後《あと》が無いわよっ!?」
「なんでもイイ! 早く「十字架」を造ってくれっ!」
「ワカッタわよっ!」
 そう言って、手を広げ少し気合を入れてから構えをした後、空に向かってその言葉を叫ぶレミ。
「エルハビット・クロスっ!!!!」
 その途端、空に巨大な「十字」の光が現れて、モンド・ギリアスに向かって飛んで行く。

 バシ――――ッ! その巨大な十字の光がモンド・ギリアスに当たり弾け飛ぶ! そして。
「グァ――――ッ!」
 苦手な「十字架の光」を浴びて混乱し、慌てふためいてドタバタと何やらわめいているモンド・ギリアス!
「やったっ! 効いてるぞっ!」
「ほっ、本当にコレが弱点なのねっ!? 倒すにはどうしたらイイのっ!? そのアンタの好きっていう戦隊ヒーローは最後、モンド・ギリアスをどうやってやっつけたのよっ!?」
「まっ、待て、今、想い出すっ!」
「とにかく、早くして、まだアイツ完全には倒れていないわっ!?」
「ワカッテる、今頑張って想い出すから待ってくれっ!」
 そう言いながら、一生懸命記憶を巡らせるオレ……、モンド・ギリアスを倒したとき……、フィーダーデッドは毎回必殺の武器で相手を仕留めていたはずだ、アレ、何て言ったかなァ……っ!?

「早くして! アイツまた起き上がってくるっ!」
「ワカッテるってば、チョット待ってくれっ!」
 そうだ、プラズマ・ガンデッド! フィーダーデッドの必殺武器はプラズマ・ガンデッドだっ! ソレで最後、敵をいつも木っ端微塵に吹き飛ばすんだっ!

「プ、プラズマ・ガンデッドだっ!」
「何よソレ!?」
「戦隊ヒーロー、フィーダーデッドの必殺の武器なんだよ! ソレを出してくれっ!」
「アタシに出せるワケ無いでしょっ!? アンタの好きなヒーローが使っていた武器なんかアタシが具現化出来るワケ無いじゃない! 一生懸命記憶を辿って、ソレを頭に想い描いてっ!!!!」
「おっ、オレがアイツをやっつけるってのかよっ!?」
「言ったでしょっ!? 此処《ココ》は夢の中なのよっ!? 想い描いたモノなら、何だって形に出来るのっ! モンド・ギリアスを倒す武器がどんなのだったかを想い描いて! そしたら、アナタの手にその武器を出すコトだって出来るのよっ!!!!」
「オレが倒すってぇのかっ!」
「そうよ! アタシはこのモンド・ギリアスもその何とかっていう戦隊ヒーローも観たコトが無いんだからっ、早く想い出して! ソレを具現化して――――ぇっ!」

「十字架の光」を浴びて混乱していた、モンド・ギリアスだったがようやく少し落ち着きを取り戻し、再び二人に襲い掛かり始める、二人の周《まわ》りには飛んでくる岩石と放たれるミサイルが次々と着弾していく。

「もう! また元気に成っちゃったじゃないのよ、アイツが――ァ!? 早く! 早くその必殺武器っていうのをっ!」
「ワカッタよっ! 今やるから待ってくれっ!」

 フィーダーデッドのプラズマ・ガンデッド、どんな形をしていた……、なんか先端がとがっていて……、巨大な引き金が付いていて……、妙なカラフルな色彩の……、なんかそんな……、なんかそんなヤツだ……っ、オレは一生懸命今想い出した武器の形を頭に想い描く、周《まわ》りに襲い掛かる爆風はレミがなんとか「夢想防壁」で防いでいるが、そう長くは持ちこたえて居られないだろう、よし、ハッキリと、想い出せオレっ! 何だかワカラナイがとにかくやってみるかっ!

「ほっ、本当に頭に想い描いたのが出てくるって言うんだなっ!?」
「何度も言わせないで! 此処《ココ》は夢の中、想い浮かべたモノなら、何だって具現化出来る! 何度もそう言ったでしょっ!?」
「あァ――、ワカッタよっ! ちきしょう、しょうがない! こう成ったら、何だってやってやる!」
 オレはもう一度、頭にシッカリとフィーダーデッドの必殺武器、プラズマ・ガンデッドを想い描く。
「出でよ! プラズマ・ガンデッド!!!!」
 その途端、オレの周《まわ》りに閃光がほとばしり、その手の中には懐かしいあのフィーダーデッドの必殺武器プラズマ・ガンデッドが握られていたっ!

「でっ、出た! コレでやっつけられるぞっ!?」

 ズガ――ン! ズガ――ン! ズガガガガガ――ン!、相変わらずモンド・ギリアスから放たれるミサイルが二人の周囲に巨大な火柱を上げている。

「ゴチャゴチャ言っていないで早くソレでやっつけて――ぇっ!」
「まっ、待てっ! モンド・ギリアスはプラズマ・ガンデッドを用意して照準を合わせようとすると、瞬間移動して逃げちまうんだっ!!!!」
「ハァ!? 何よソレ――! そんな余計なコト、思い出さないでっ! ソレじゃあやっつけられないじゃないのよ――っ!?」
「だから、もう一度アイツを混乱させてくれ! さっきの「十字架」を! フィーダーデッドは十字架を造って! ソレでモンド・ギリアスが混乱しているときに、プラズマ・ガンデッドを放ったんだっ! もう一度、さっきのヤツをアイツに浴びせてくれ――っ!!!!」
「なんだか知らないけど、んとに、厄介なのを出してくれちゃったわネェ、ワカッタわよ! でも、撃ち漏らすんじゃないわよっ!」
「ワカッタ――――ァ、準備は出来ている、照準を合わせたら逃げられるんだっ、だからオレがアイツにコレを向ける前に早く! もう一度さっきのヤツをっ!」
「ワカッタわよっ! エルハビット・クロスファイアっ!!!!」
 と、空に向かって両手を広げそう叫ぶレミ、すると空中に二重に成った巨大な十字架の光が現れ、モンド・ギリアスに向かって吹き飛んで行く!

 バシ――――ッ!!!!
「グァ――――――――ッ!!!!」

 巨大な二重の十字架を喰らい、取り乱し混乱し慌てふためいているモンド・ギリアス!
「今よっ! 撃って――ぇっ!!!!」
「ワカッタよっ! プラズマ・ガンデッドっ!!!! いっけぇ――――――――っ!!!!」

 ズギュ――――――――ン!!!!
 オレの腕の中にあったフィーダーデッドの必殺武器、プラズマ・ガンデッドから強力なレーザー光線がモンド・ギリアスに向かって放たれる!

 ドシュ――――――――――――ッ!!!!
 その光線が勢いそのままにモンド・ギリアスのドテッ腹を見事に撃ち抜く!

「やっ、やったかっ!?」
 今の一撃を確認するようにモンド・ギリアスを目で追うオレ。

「うっ、う……っ、ウグァ――――――――ッ!」
 と、いう雄叫びをアゲそして……

 ドガガガアアアアアアアアアアアアアア――――ンっ!!!!
 巨大な炎を上げて大爆発して消滅するモンド・ギリアス。

「やっ、やったわっ!?♪」
「ふっ、ふぅ……、ハァハァ……」
 プラズマ・ガンデッドの威力が半端無くその衝撃で、身体にかなりの負担が掛かっていたオレは、消え失せて立ち昇って行くその火柱を見つめながら、何とか息を整えようと体勢を保っていた……。

「やっつけられたわっ!?♪って、今のは凄かったわねっ?」
「ふ、ふぅ……、こっ、こんなんで、い、イイのか……? フゥフゥフゥ……」

「アンタが余計なコトを考えるから、とんでもないのが具現化しちゃったじゃないのよ、ったく……、でもやっつけられたわ? なんとか♪」
 レミは至ってご機嫌な様子だ。

「オマエは……、毎回こんなシンドイ想いをして、そのワイリーなんとかっつぅヤツラと戦って来たのか……っ?」
「毎回こんなのばっかりじゃないけど……、まぁね?……でも今のは相当な相手だったわ……、この夢観てる人、よっぽど汚染されていたみたい」
「そのワイリー・フラウってぇのに、悪い根を付けられた人は、どんどん悪い人間に成っていっちまうのか……? ふぅ……ふぅ……」
「そう、病原体と一緒……、早めに見つけて対処しないと……、どんどんその人の心を蝕《むしば》んで行っちゃうの……、今日の人は、おそらく相当前にワイリー・フラウと出遭っていたんだわ……」
「そっ、そうか……、とっ、とにかく、疲れた……、ひと休みさせてくれ……」
「ウフフフ♪ そうね、でも何とかやっつけられた…、今夜はユックリ休んでね♪」
「お、おぅ……、んじゃ、また明日な?」
「うん♪」

 そう言ってレミと別れ、オレは自分の夢の中に戻って、ユックリと休養を取った……
「ふぅ……、シンドかった……、毎回あんなのは疲れて大変そうだが……、オレがあのフィーダーデッドの必殺武器を使えるように成るなんて……、ソレこそ夢にも想わなかった……、って、でもコレ夢の中なんだよな……、夢ってぇのは本当に何だって出来ちまうんだな? に、しても疲れたぜ今夜は……、ユックリと休ませて貰うか……」

そんなコトを考えながら……、オレは深い眠りに落ちて行った……。

   【 第八章 】

「おぃオマエ……」
「なっ、なんだよ……っ、ぶしつけに」
 飯を食っているときのコトだった。

「オマエ、レミちゃんと席が隣なのはイイとして、随分と仲がイイ様子だな? いつの間に、仲良く成りやがったんだ?」
 と、箕屋本《みやもと》。

 どうしようか? 夢の中でとはいえ毎晩会っているから、と、でも説明しろとでも言うのか……、いゃ何となく言ってはいけないような気がするし……、話したトコロでおそらく理解はしてくれないだろう、そんな風に想ったので。
「いゃまァ……、いつの間にっていうか……」
 とか、何とか言ってお茶を濁して置いた。

「羨まし過ぎるぞ? 席が隣ってだけでも、みんなオマエの幸運さをひがんで居るっていうのに」
 随分と率直に言って来るようだが、コイツはそういうヤツだと思っておいて貰えたらソレで大体間違っていないので、こういうヤツだと思っていて欲しい。

「オマエ、女子と喋るの苦手とか言ってなかったか?」
「うん、まァ、そうなんだけど……」
「どうやって仲良く成ったんだ?」
 だから、ソレは説明出来ないんだってばさ……、とか、想っていたが……。

「何ていうか、ほら……、あの娘、優しいだろ? 可愛いし……、何ていうか話し易《やす》いから……、まァ、席が隣ってのがやっぱラッキーだったのかもな?」
 とりあえず、そんな風に説明して置いた……。

「ったくよォ、クラスの男子は今みんなほぼレミちゃんの話題で持ち切りだぜ……っ、誰が一番最初に射止めるかってな?」
「まァな……」
 確かに、レミは可愛いし、実際性格も良い、休み時間に成ると意を決した男子が毎時間のように群がってくる、ソレに対して嫌がる様子も無く、一人ひとりに誠実に対応をしているという様子だ……、ソレを観ていると確かにチョット嫉妬めいた気持ちが沸いてくるというのがあるのはオレの中だけのヒミツなんだが……。

「まさか、オマエもう付き合っているとか言い出したりとかしないだろうな!?」
 チョット焦った様子で、そう聞いてくる箕屋本《みやもと》……。
「……」
 はて、どう答えたモノだろうか……、夢の中では確かにイイ仲に成っているのは事実だ……、ほぼ毎晩のように夢の中で一緒にお喋りをして楽しく過ごしている……、付き合っているというワケでは無いが……、親密な仲に成っているというのは間違い無いだろう……、チラリとそんなようなコトをほのめかしてくれたコトもあったように記憶しているし……。

「おぃおぃ、ソコで無言に成るってコトはオマエ! ひょっとしてオマエっ!」
 いゃ、まだお互いが「付き合う」と、いうようなコトは言って居ないはずだ……、夢の中で何を言ったか全部憶えているワケではないが……、とりあえず、この現実世界ではまだ、オレとレミは席が隣っていうだけのただのクラスメートでしか無いコトだけは確かだ……。

「いや、付き合ってはいない」
「なんだその意味深な発言は、今はまだだけど、コレからそう成りそうだ、みたいなニュアンスをオレは今、確かに感じたぞ!?」
 かなりツッコんだコトを聞いてくる箕屋本《みやもと》……、どうやらコイツ、レミにかなりご執心なようだ……、ま、あの「笑顔」は確かに無敵級のレベルだからなァ……、一発で恋に堕ちるのは良くワカル気がする……、っていうか、オレもその一人だったしな……。

「不公平だ」
「なにがだよ」
「オマエは席が隣というアドバンテージを最大限利用し過ぎだ、少しそのメリットをオレにも分けろ」
「ハァ? どういうコトだよ、なんかオマエとレミとの間《あいだ》に橋渡しみたいな手助けでもしろってぇのか?」
 核心を突いて聞いてみた。
「ぉっ、おう……、そっ、その通りだよ……、オレとレミちゃんの仲を取り持ってくれ……」
 随分ハッキリと言い切ったモノだな……。

「そんなに好きなら自分でやれよ、告白をするか、少なくとも他の男子に負けない位のバイタリティで休み時間に話掛けに通《かよ》ったりするとかよ」
「ソレが出来たらオマエに頼んだりはしない」
 ごもっともです……。
「とにかくズルイぞ、オマエばっかり……」
「オマエ、リサちゃんに対してもそんなコトを言っていなかったか?」
「……」

「リサちゃんのコトはもう諦めたのか?」
「いや……、諦めたっていうか……、何ていうか…、リサは……高嶺の花過ぎるって感じがして……、何ていうか近づき難いオーラを感じてしまうというか……」
「確かにな……」
 今のトコロ、ウチのクラスで男子からの人気を二分する程の位置にあるのが、今名前が挙がったリサっていう娘だ……、可愛くて優しくて気が利いておしとやかで、何処か上品なのにあどけなさが残っているという感じで、レミの笑顔と同じで、一度喋ったら、そのハートをゴッソリと持って行かれる、何ていうかそんな超絶癒し系のカワイイ娘だ……、正直言うと、オレ自身もそのハートを持って行かれた男子の一人である、と、いうのはコレまたヒミツにして置いて貰いたい……。

「とりあえず、次の休み時間にでも、オレに話し掛けに来い、そしたらレミに話振って、3人で喋れるような状態を作ってやるよ」
「マジかっ!? おぉわが友よ!」

 うん、まァ…、何ていうか、人と付き合うのが苦手なオレにこうやっていつもストレートに接してくれる貴重な存在だからな? 箕屋本《みやもと》は…、ソレにレミとだったらオレは最早緊張しないで喋れるように成っている、少なからずコイツのお手伝い位なら出来そうだと感じたから、チョットそんな風に言って置いた。

「でも、後《あと》は自分でやれよな? 最初に喋れる切っ掛け位には成ると想うから、まァ、後《あと》は頑張れ」
「なんだよ、最後まで応援してくれよ」
「本気で付き合いたいって想って居るんなら、オレなんて充《あ》てにせず、自分でやれ、そしたら応援してやるが、全部おんぶにだっこでってぇのは、きっとレミがオマエを好きに成ってくれるっていう風には成らない、つまりだ」
「なんだよ」
「オレが手伝えば手伝う程、オマエにとっては好きに成って貰えるチャンスは減って行くっていうワケだ」
「なっ、なんだよソレ……」
「恋愛ってぇのはそういうモンなんだよ、本気で自分に惚れて欲しいなら、最初から気合入れて全部自分でやれ、そうしたらオレは素直にオマエを応援してやる」
 チョット可哀想な気もしなくも無いが、オレ自身が想う恋愛観から箕屋本《みやもと》にオレなりの精一杯のアドヴァイスをしてみた。
「オマエ、応援しようとしてくれているのか、そうでないのかワカンネェな? なんか」
 まァな、オレ自身も良くワカラン。

「まァ気長に頑張れ」
 とは、言ったモノの……、あの「笑顔」が誰か一人のモノに成ってしまうっていうのはチョット寂しい気がする……、オレやっぱり惚れてるっていうコトに成るのかなァ? レミは……、だとしたら、オレの箕屋本《みやもと》に対するアドヴァイスはどっかで防御線を引こうとしている気持ちから出た言葉だったのだろうか……、う~~ん、何だか良くワカラン……。

「ワカッタ、じゃ最初だけ手伝ってくれ、さっきの3人で喋るっていうヤツ、次の休み時間に実行してくれ」
「うん、まァいいよ、ソレ位なら……」
 とりあえず、そのときはそんな風に返答したが……、正直複雑な気持ちだ……、第一レミは、誰かと付き合い出したりしたら……、オレとの夢の中での時間を持ってくれなく成ってしまうのだろうか……、今夜チョットソレとなく聞いてみるか……。
「よし、頼んだぞ? 我が友よ」
「うん…、まァ、ワカッタよ……」

 そんなやりとりがあり、その夜、夢の中でレミに少々思い切ったコトを聞いてみようとチョット心の中で自分を奮起させているオレだった……。

   【 第九章 】

 そうして迎えた次の休み時間、レミから何かある様子で話し掛けて来た。

「ナオトくん」
「おぉぉぉぉ」
 橋渡しをしてやる、との言葉を胸に、オレの席の前までやって来ていた箕屋本《みやもと》、早速、話に入って来たレミに対してかなり嬉しそうな様子だ。

 飯のときに言っていた通り、箕屋本《みやもと》にも少しチャンスをやるかと想い、一緒に「お喋り」でもどうだ?と、話を向けようと、チラッとそんなコトを思ったときレミがソレを遮《さえぎ》るようにこう言った。

「チョット、ナオトくん借りていい?」
「ぇ?」
 明らかに不満そうな箕屋本《みやもと》。

「オマエ、何だよ、やっぱりオマエらっ!? なんかその! なんかそのっ!」
 慌てているその箕屋本《みやもと》の様子を見て少し笑っているレミ。

「ウフフフ♪ チョットだけ、ゴメンね? お喋りの邪魔しちゃって」
「いゃ、いいんです! レミちゃんの頼みであれば!」
 そんなコトを言ってチョットカッコ付けている箕屋本《みやもと》、本当にワカリやすいヤツだ……。

「話って何だよ?」
「チョット……、すぐ済むから」
 と、言ってオレを連れ出すレミ。

「箕屋本《みやもと》……、くん?」
「はい!」
 レミに話し掛けられて明らかにご機嫌に成っている様子の箕屋本《みやもと》。

「チョットだけナオトくん借りるね? ゴメンねお喋り遮《さえぎ》っちゃって」
 と、言うレミに対し。
「いや、結構です、レミちゃんのお願いであればどんなコトだって!」
 そう胸を張って言っている箕屋本《みやもと》、一生懸命なのはイイが、何かあんまりカッコ良くないぞ? 箕屋本《みやもと》…、と、チョットそんなコトを思っているオレ。

「そう、アリガト、じゃチョット、ナオトくん」
「うん、何だよ改まって……」
「チョット着いてきて」
「何処にだよ……」
「じゃ、箕屋本《みやもと》くん、また今度♪」
「は、はい! 是非また今度っ!」
 レミに声を掛けられて明らかに舞い上がっている箕屋本《みやもと》、全く本当にワカリやすいヤツだな……。

「何処に行くってんだよ」
 そんなコトを言いながら、レミに教室を連れ出されるオレ……。
「イイから着いてきて、屋上行こっ? アソコなら誰にも邪魔されずに話せるから」
「屋上? 施錠《せじょう》されてて入れネェだろ?」
「ウフフフフ♪」
 意味深な笑みを浮かべ、とにかくイイから来て、と、いう感じでオレを連れ出すレミ、階段を登り屋上の入り口に辿り着く。

「閉まってんだろ? 話すならココでもイイんじゃないのか?」
「せっかくだから、イイじゃない、屋上は気持ちいいよ?」
「確かに一回行ってみたい場所ではあったが……」
「でしょ? だから♪」

 ガチャ、屋上のドアに手を掛けるレミ、そして、ギ――――ッ、という音を立てて開くその入り口。
「おぉぉぉお、開いてんのか?」
「チョット細工を♪」
「なんだソレは……」

 コレまでにも、夢の中で話が出来るってんで、その超常的な出来事を毎晩味わっていたので、ソコまでは驚かなく成ってはいたのだが……、夢の他にも、まだ何か出来るコトがあるのか? コイツは一体本当にどんなヤツなんだ?とか、想いながら、屋上に出るレミとオレ、少し屋上の上から観える景色なんかを見つつ、スゥ~~っと胸いっぱいに空気を吸って気持ち良さそうな様子のレミ。

「う~~~~ん、やっぱり、こういう広々とした景色を眺められるトコロってイイね?♪」
「まァな……」
 ソレについては異論は無いが……、一体どういうカラクリだ? 屋上なんか普通開いているハズが無いだろ…、とか、いぶかしんでいるオレが居た。

「チョット細工をね? 用務員のオジさんの夢に少しだけ♪」
 そんなコトを言って、いつものステキ過ぎる笑顔で微笑んでいる。

「細工って何をしたんだよ? オマエ一体ナニモノなんだ? 本当に…」
「そんなコトより、こないだの夜話したコト憶えてる?」
「こないだの?」
 う~~ん、レミと毎晩夢の中で話しているのは事実だが……、その会話の内容まではハッキリとは憶えていないというのが正直なトコロだ。

「ナオトくんが言っていたんだけど……、アタシと夢の中で繋がっているっていう決定的な証拠が欲しいって」
「ん? あァ……、確かに……」
 そういえば、そんなような話をしていたっけか? 何日か前の夢の中で……

「ウフフフフフ♪」
 イタズラっぽく笑っているレミ。
「なっ、なんだよ……」
「いや、コレからアタシが言うコト聞いたら、ナオトくんどんな反応するかな?って想ったら楽しく成っちゃって♪」
 ヤケに嬉しそうな様子でそう言っているレミ。

「オレ……、何て言っていたんだ? そんとき……」
「本当に憶えて居ないんだね?」
「うん……、確かに夢の中にオマエが出て来てくれている、ってぇのはワカルんだが……」

「モンド・ギリアス♪」

「っ!?」
「ウフフフフフ♪」

 いっ、今っ、なんつった!?

「モン・ド、ギリ・アス♪」

 一瞬、走馬灯でも走るかのように、オレの頭にこの間《あいだ》レミと夢の中で会話した内容が、ブワ~~ッと湧き出てくる。

「っっっっっ!?」
 正直、驚愕する気持ちを抑えられないオレが居た。

「なんでしょ? ナオトくんが幼稚園の頃に好きだった怪獣? の、名前♪」
「ぁっ……ぁぁぁぁぁ……」
 言葉を失っているオレが居た……。

「戦隊ヒーロー? ソレに出てきた怪獣の名前って♪」
「っ!? マジかっ!!!!!!!!!!????????」
「マジです♪」

 正直、耳を疑った……っ、確か、そうだ……「オレしか知らないハズのコトを、レミがオレに現実世界で言ったら……、夢の中で実際に一緒に居るっていうのを信じられるかもしれない……っ」そういう「段取り」みたいのをして……、そのときに言ったオレの中で、ほぼオレしか知り得ないハズの内容……っ、今、レミは実際にこの……、目の前のレミは……、ハッキリと……、そう言った……っ。

「おぃおぃ、ソレって、その……っ!」
「うん♪ この間《あいだ》ナオトくんが夢の中でアタシに教えてくれたコト……、そうなんでしょ?♪」
 レミは「どうだ? 思い知ったか?♪」と、でも、言わんばかりの得意げな表情だ……。

「ぁっ、ぁぁぁぁぁ……」
「ウフフフフフ♪」
 まだ、ア然として、何も言えないでいるオレが居る……。

「マジで繋がってんのかっ!? あの……っ、ゆっ、夢の中で……っ!」
「ウフフフフ♪ やっと、認めたか♪」

 信じられないコトだが……、確かに今レミは「戦隊ヒーローの怪獣でオレが一番好きなヤツが、モンド・ギリアス」……、そう言ってのけた……。

 オレからレミの夢の中に入っているのか、レミがオレの夢の中に入って来ているのか、そのどっちかまではワカラナイが……、とにかくオレ達二人が現実のようにやりとりをしている、と、いうのは認めざるを得ない事実のようだ……。

「しっ、信じられない……」
「ウフフフフフ♪ 無理に信じなくてもイイし……、慌てて理解しようとしてくれなくてもいいよ……」
「ぁっ、ぃやあの、えと……」
 驚愕して固まっているオレの様子を、少しイタズラっぽい笑みを浮かべ見つめているレミ。

「オマエって、何ていうか……、あの夢の中に居るオマエは……」
「うん♪」
「ホンモノのオマエなのか……?」
「そういうコト♪ やっと、ワカッテくれた?」
「いや、ワカッテくれたも何もよ……」
 いまだ全く動揺を隠せずに、上がり捲くった心拍数と共に心臓が激しく鼓動しているのをいやが上にも抑えられないでいるオレ……、正直、頭が真っ白に成って、意識がブッ飛びそうだ……。

「そっ、そんなの……、ちょっ、チョット待ってくれ……」
「うん、なに?」
 オレは、改めて本気で本気なのか? コレは本当に起こっているコトなのか、と、いうのを確認する為に聞いてみた……。

「本当に……、オレ達って……、夢の中で実際にオマエとオレが会って会話をしている、っていうコトなのか……?」
「うん、そうだってさっきから言っているじゃない」

 しっ、信じられん……、確かレミは、ドリーム・ウォーカー……、そんなようなコトを言っていたが……、実際に「夢の中を渡り歩く」……、そんなコトが可能だとでもいうのを認めろっていうのかよ……。

「ぅ、ぅぅぅ……」
「なに?」
 まだ、動揺が抑えられないでいるオレの様子を少し楽しげに見つめているレミ。

「オレからオマエの夢の中に入るっていうのも出来るのか……?」
「うん、ナオトくんにもその力があるから……、コツがワカッテくれば、アタシみたいなドリーム・ウォーカー同士の夢の中だけじゃなくて……、他の人の夢の中にも……入れるように成るんだよ?」
「なっ、なんだよソレ……」
 正直、ソレがイイことのか悪いコトなのか全然ワカラン……、なんだその能力は……、とにかく理解の範疇《はんちゅう》を超えてい過ぎて……、今、夢の中じゃないよな? ソレを確かめるようにオレは周《まわ》りを眺めてみる、ソコには校舎の屋上から観える景色が広がっている、グラウンド、水平線……、ソレに見渡す限りの広い空……、今ココは確かに現実の世界のようだ……。

「信じられん……」
「ウフフフフフ♪ 少しずつ……、少しずつ……ね?♪」

 少しもへったくれもあるもんか、そんなコト……、と、思わずにはおれないオレが居たが……。

「さっきの、その、用務員のオジさんに細工ってのも……」
「うん♪ 夢の中でチョットお願いして置いたの」
 マジか……、コイツ一体ナニモノなんだ? 本当に……。

「夢の中で頼んだコトを、実際の現実世界でやって貰えちゃうなんてのが……」
「うん……、毎回上手く行くっていうワケでは無いけど、ソレもチョットしたコツみたいのがあって♪ 慣れてくれば結構簡単だよ♪」
 ダっ、ダメだ、非日常的な現象過ぎて、頭がこんがらがって何にも入って来ない……、そのとき、一つ気に成るコトがオレの頭を過《よ》ぎった。

「ちょっ! チョット待て」
「ん? 何?」
「オマエ、まさかっ!」
「なに?」
「ウチの学校の、ウチのクラス……、オレの隣の席……、ソレもひょっとして……っ」
「アハハ、バレちゃったか……♪ そ、校長先生と担任の先生に夢の中でお願いして置いたの、ソレバレちゃったのはなんか照れるけど……、どうせなら、ナオトくんの近くで学校生活を送りたかったから……」

 なっ、何てヤツだ……、何だかワカラナイが……、コイツ……、オレが考えるような世界に普通に居る人間じゃない……、ただそう、ただそういうように……、感じて居た……。

 ただ、のびやかに広がる大空を見上げるコトが出来、どこまでも伸びる水平線を眺めるこの屋上からの景色……、ソレだけは悪くない気がする……、と、なんかよくワカラン感慨めいたモノと、この今信じられないような衝撃的な事実を突き付けられ、いまだ動揺を隠し切れないでいるオレが……、ソコに居た……。

   【 第十章 】

「ソレで……、アタシこう想ったの」
「うん、なんて?」
「このまま引き篭もってちゃダメだ、人生は何度だってやり直せる、この人はそう言っている」
「ソレで……、雪の中頑張ってケーキを売っていたワケだ……」
「そう……、もう一度やり直す為には何だってやってやるって……、そう想えていたから……」
「そっか……、ソレはイイことだな……、オレが自分の中でそんなコトを想っているなんて想わなかったよ、オレの方こそ「諦め」の気持ちばかりで毎日くさくさして過ごして居たんだから……」

「でも、潜在意識のアナタは諦めて居なかった……、とても凄いコトなのよ? ソレって」
「ハハハハ、何ていうか……、お褒めに預かり光栄至極って感じだな」
 と、笑って返すオレ。

「ウフフフ♪ でもビックリした、近くに住んでいる人なんだっていうトコロまではワカッテいたの……、でも、あのとき……ナオトくんを観て……」
「オレだって気付いたワケだ……」
「本当に驚いた、でも、この人が……、この人が……その人なんだって想ったら、アタシ何か嬉しく成っちゃって♪」
「フフフ……、通りでね? ヤケに明るくて元気な娘って、そう想った……、あのときのレミのコト……、ひとときとして忘れたコトが無いよ……」
「ぇ……?」
「あの12月の寒空、雪まで降っている中で…、まるで……」
「まる、で……?」
「ハハハハ、笑わないで聞いて欲しいんだけど……」
「うん……、大丈夫信用して♪」
「じゃ、思い切って言うけど……、まるで、雪の中に天から舞い降りた「妖精」みたいだって……」
「なっ、なにソレ……」
 と、頬を赤らめるレミ。
「本当にそう想ったんだ……、こんな娘が頑張っているのに、オレは世の中に対して愚痴ばっかりコボして、何にもしてネェ……、その……レミのあのときのまばゆい位のステキな笑顔……、忘れられなかった……、正直、今でもね……」
「アハ……、そ、そうなんだ……、そんな風に想ってくれてたんだ……、全然ワカンなかった……」
「ハハハ、ソレ位、オレは卑屈に成って居たってコトかもしれないな……」
「…………」
 少し押し黙るレミ。

「ん? どうした?」
「ぅぅぅん、そんな風に想ってくれて居たんだって想ったら、アタシ……嬉しくて……」

 そう言うレミの眼には少し涙が滲んでいた、寒空の中、再び世の中に出て頑張ろうと想ったあの日を境に自分がしていたコトが意義のあるコトだったっていうのを改めて実感しているようだった……。

「だから……、アタシはアナタにお礼が言いたくて……」
「いゃ、ソレを言うのは……、どっちかっていうと、オレの方がっ」
「……っ、アハ、アハハハハハハ♪」
 そう言って楽しげに笑うレミ、ソレにつられるようにオレもおかしく成って一緒に笑っていた……。
「アハハハハハ♪」

「アタシ……、ナオトくんのコトが好き……」
「……っ!?」
 正直、嬉しくて堪《たま》らなかったが今の話を聞いていると、その言葉を……素直に受け止められるような気がしていた……。

「なんていうか、感謝の気持ちで一杯……、ふさぎこんでいたワタシにまた新しい毎日を……、アナタの心の奥底にある熱い情熱がプレゼントしてくれた……、だからアタシにとってはあの日は本当に……、人生をやり直す為にサンタさんがくれたクリスマス・プレゼントっていう気がしていたの……」
「おっ、オレもだよ! くさくさとふさぎこんでいたオレに……、レミの妖精みたいな眩しい笑顔と優しい気遣い、そして何より寒空の中頑張るオマエの姿……、オレは……、一瞬だけど……、神様みたいなモンを、サンタクロースっていう夢の存在を……、もう一度……、信じてみようかなっていう気持ちに…、成れたから……」
「…………」
「……」

「じゃ、お互いいいクリスマスだったんだね? アナタのハートにアタシは救われた……、ワタシ……ナオトくんのコト……、愛してる……、夢の中で言っているからちゃんと伝わっているかはワカラナイけど……♪」
「あっ、いやっ、あの……っ」

「どうしたの?♪」
「まいったな……」
「ウフフフフフ♪」

 そう言ってコロコロと鈴のような声でほがらかに微笑むレミ……、誰がどう見たって天使だろ、オレはそのとき、そう想って、この見解に対して「誰にも反論を許さない」とか何とかなんかそんなような気持ちに成っていた……。

「オレもまだ……」
「うん……」
「レミの全部を知ったワケじゃない……、自分がドリーム・ウォーカーって知って間も無いし、人の深層心理についての勉強もまだまだだ……、ソレにレミの潜在意識までオレはまだ知るコトが出来ていない、だから……」
「だから……?」
「オマエのコトを全部知っているワケじゃない! でもオレはレミが好きだっ!」
「……うん……」

「その気持ちに、変わりは無いから……」
「ありがとう……♪」

 その日、その夢の中で何があったかどうかまではハッキリとは憶えていないが……、ソレが切っ掛けだったんだと想う……、オレとレミは…、現実世界でも……、そのつまり……自分で言っていても、チョット恥ずかしいんだが……、その「恋人」というコトに成ったのだった……。