ドリーム・ウォーカー達のクリスマス♪


   【 第十七章 】

 体育祭実行委員の会議が引けて、教室に戻っていたリサとオレ……。

「「実行委員」っていうのは、何だかんだと、やるコトが多くて大変だな?」
 と、オレ。
「ウフフフ♪ そうだね」
 と、チョット楽しげに笑っているリサ。

「リサって、こういうの何か得意そうだよな?」
「そう? なんで?」
「何ていうかさ、作業とか仕事とかがテキパキとしている、と、いうか……、書類書くのとか全部やっちゃってくれているしさ?」
「ぁ、ハハハ、ゴメン……、仕事全部取っちゃってるかな? アタシ……」
「ハハハ、いゃ、嫌味で言っているワケじゃなくて、本心からなんだよ」
 と、笑いながら返すオレ。

「アタシ……、他に取り柄って呼べるようなモノが無いから……」
「そうか? クラスの男子から人気があって、誰からも頼られていて、勉強も出来て……、仕事も早くて……、何ていうか取り柄だらけって感じがするけどな?」
 と、素直にそう想ったコトを話してみる。

「そ、そうかな……、す、素直に喜んでいいのかな? ソレって…」
「おうよ」
「アハハハハ♪ ありがと……、アタシ……、部活もやって居ないし……、短い高校生活でしょ? だから、何か出来るコトがあったら、出来るだけ頑張ってそういうのをこなして行きたいって、そう想っているの……」
「へぇ~~~~」
 正直、感心した、と、いうのがそのときのオレの素直な心境だ。

「ナオトくんこそ、凄いよ」
「ん? そうか?」
「うん♪ こういう言い方すると変かもしれないけど……」
「おう、なんだ? どんなコトだ?」
「アタシにはゼッタイ真似が出来ない……」
 少し、寂しげな表情のリサ。

「真似、出来ない……、ソレ言ったらコッチのセリフだぜ? 何でも如才《じょさい》なくこなして、その上こんなに可愛くて、男子達が夢中に成るのもワカリ過ぎる程、ワカルっていう気がするぜ」
「ウフフフ♪ ありがと……、でもね?」
「うん……」
「ソレって、アタシの見た目だけのコトだと想うの……」
 見た目……、そうか……、まァ、ソレでもこんだけ可愛ければ充分だな?とは、想わなくは無かったが……。

「人の……、本心って……、ワカラナイことだらけ……」
 何かを思い巡らせるようにそう言っている。

「確かにな? そういう部分はオレも腐るほど見て来たぜ……」
「うん……、でしょ? アタシ……中学のときにね?」
「うん」
「付き合っている人が居たの……」
 まァ、こんだけ可愛ければ彼氏の一人や二人居てもオカシク無いよな? そう想い聞いていた。

「だけど……、結局、その人は……、最終的には、他の人を選んでその人の方に行っちゃったの……、アタシはただなす術も無く一方的にフラレちゃったっていう感じで……」
 なっ、何て不届きな、こんな健気《けなげ》でマジメで可愛い娘にそんなコトをするヤツが居るとは、けっ、けしからん……、世の中ヒドイやつも居るもんだ、と、改めてそう思っていた。

「信じられネェな? リサみたいに可愛くてイイ娘……、何が不満だったんだろうな?」
「ソレは、ワカラナイの……、別れちゃった後、距離置かれちゃって、その人とはもう喋れなかったから……」

 可哀想に……、そんな風に感じたオレが居た、レミと付き合うように成るまで、年齢=彼女居ない暦だった、このオレの乏《とぼ》しい「恋愛経験」では、全く想像が付かず、こういうとき何て言ったらイイのかワカラなくて、正直チョット戸惑いながら話を聞いていた……。

「ゴメンね? 何か暗い話しちゃって…」
「いや、いいよ、こうして一緒の委員会に成ったワケだし、ソレに」
「ソレに?」
「オレとしては、1年のときクラス一緒だったろ? でも、全然喋って無かったじゃん? オレ達って……、せっかく、1年、2年と同じクラスに成ったってのも何かの縁だと想うから、その人がどういうコト考えているかとか、どういう風にコレまで生きて来たとか、そういうのって何ていうか、スッゲェ興味あるから」
「ウフフフ♪ 興味本位かな?♪」
 と、チョットイタズラっぽく笑うリサ、かっ、可愛い……。

 ったく、こんな可愛い娘を振るヤツが居るなんて、どんだけソイツは女の子に苦労して居なかったんだろうか? そんなコトを想いチョット恨めしく感じているオレが居ながら話を続けた。

「あっ、いや、あの……、何ていうかとにかく、こういう何か一緒にやるコトが出来たんだから、せっかくだし、仲良く成れたらイイな?って想って……、ソレにオマエ……本当可愛いしさ」
「アリガト♪ でも、大体の人はそうなの……、可愛いって言ってくれるのは嬉しくなくは無いんだけど……」
「うん……」
 ヤベッ、なんか余計なコト言っちまったか? 一瞬 焦ったオレ。

「いや、あの、本当にそういう風に言って貰えるのは嬉しいんだよ……?♪」
「そっか、良かった、オレ何か余計なコト言っちゃったかと、想って……」
「ウフフフ♪ ナオトくんって、素直だよね?」
 どうやら、地雷を踏んでは居なかったようで少し安心したオレ。

「そ、そうか? そう言って貰えると……、っていうか、でも、全部顔に出ちゃうっていう感じで、正直、世渡りとか全く上手くなくていつも失敗ばっかなんだよオレ……」
「ウフフフフ♪ でも、アタシは表面で考えているコトと、心の中で考えているコトが正反対の表向きだけイイ顔している人の方が嫌い、モノっ凄く嫌いなの、アタシそういう人」
「へぇ~~~~」
 正直、少しビックリした気持ちだった……、リサってもっと大人しい控え目な娘だと想っていたが……、話してみると、案外……、想ったコトを包み隠さないというか……、ハッキリとモノを言う娘なんだな?っていうのに、少し驚きを隠せないオレが居た……。

「オレも大の苦手、そういうタイプのヤツ」
「そっか、良かった♪ だから、アタシ……」
「ん?」
「ナオトくんみたいな素直な人と一緒に、こうやって何か出来るの……、何ていうか……、凄く楽しみにしているの……、アハハ、ブッちゃけ過ぎちゃったかな?♪」
 と、言って、ニッコリと笑っているリサ……、う~~ん、可愛いなんてモノじゃない……、眼が三日月状に弓なりを描いて、上気したほんのりと赤みを帯びた頬、そして、何より満面のスマイル……、破壊力あり過ぎるだろ……、コレで好きに成らない方がどうかしてるぜ……、そんな風にそのとき想ったオレが居た。

「で、結局アレか?」
「ん? なに?」
「オマエのルックスに惹かれる人ってのは大勢居るようだし……、実際、告られたりとか、ラブレター貰ったりとか、って、やっぱ多いのか?」
「……、うん……」
 チョット照れくさそうに、コクリとうなづくリサ、いちいち可愛いなァ本当にとか、そんなコトを想っていた。

「んでだ、でも……、結局はソレはリサの表面だけを見ているのであって、本当の意味で自分を好きに成って欲しいっていうので……、今その、色々と頑張っているっていう感じか」
「っ!?」
 少し驚いた様子のリサ。

「なっ、なんで? そ、そんなコトまでワカッちゃう?」
 驚きを隠せず思わず、そんなコトを言っている。

「うん、話聞いててそう想った、中学のときの付き合ってたヤツのコトとか、ココ最近の色んなコトに対して前向きに頑張っている、リサの姿を見ていると……」
「そっか……」
 気持ちを察しられたのを嬉しく捉《とら》えてくれたのか、少し嬉しそうな表情のリサ。

「でもよ」
「うん、なに?」
「ソレって、オレ一番イイことだと想うな?」
「本当に? そう想ってくれる?」

「おうよ……、見た目がイイから彼女に成って欲しいって言って来られてもな? 内面を好きに成ってくれなきゃ、ただのソイツん中だけの自慢みたいなモンだもんな? そんなのは「恋愛」とは呼べないって想うよ」
「うん、アリガト……、なんかナオトくんってスゴイね?」
「そっ、そうか?」
「ナオトくんは、勉強とかは……、その……そんなに……って感じでしょ?」
「アハハハ、ハッキリ言うな?」
 と、笑いながら答えるオレ。

「ゴ、ゴメン、悪い意味じゃないの……、ソレに部活動とかをしているっていうワケでも無い……」
「まァな?」
「でも、ソレなのに、何かアタシなんかには想像が付かないくらい、色んなコトを知っててワカってて、大人の人って感じがする……」
「ハハハハハ、そりゃ褒め過ぎだ♪」

 言われて、悪い気はしなかったが、このオレが大人……? 無い無い……、そんな風に想って思わずチョット苦笑してしまっているオレが居た。

「とにかく、良かった……」
「そっか」
「うん……アタシ……、アタシ、ナオトくんと、もっと仲良く成りたい……」
「ぉおぉぉっぉぉぉ、そ、そうか、そりゃ大歓迎だよ」
「うん♪ そう言ってくれると本当に嬉しい」
 そう言って上気した頬を赤らめて、嬉しそうな、さっきも言ったが弓なりに三日月状に成った明るさに満ちた瞳でオレを見つめるリサ……、何度も言うようだが、相当な破壊力のある、キュートなスマイルだ……。

「んじゃ、コレから改めてヨロシクな?」
「はい、こちらこそ、ふつつかモノですが、ヨロシクお願いします♪」
 と、言ってペコリと頭を下げるリサ。

 何て、イイ娘なんだ……、そう想わざるを得なかった……、やっぱりレミが言っていた、リサの夢の中の話……、黒い壁に閉ざされている、っていうのは……、コレまでに、色々と想い悩んで来たコトが重なって……、世の中に対して、警戒心を抱かずには居られないような苦悩を抱え込んでしまっているってコトなのかな?って想った、こんなに素直で明るくて健気《けなげ》でマジメで頑張っている娘……、ゼッタイに「悲しい想い」はさせたくない、だから、今リサが抱えているのかもしれない、そんな「苦悩」があるのなら、ソレを少しでも、少しずつでもイイから、取り除いて行ってアゲたい……、そんな風に想った、そのときのオレだった……。

   【 第十八章 】

 そうして迎えた体育祭。

 ウチのクラスは一致団結の気持ちを高めようと、リサが中心に成って、クラスの女子数人で全員分の鉢巻《はちまき》を用意してくれていた、ソレも、タダの鉢巻では無く、よくリレーのアンカーなんかが付けている思いっきり長くて走っていると、後ろにおっきくたなびくカッコイイヤツだ……。

 思えば、小学校、中学校と、クラスの中で一番、足が速いヤツだけが着けられる、その長い鉢巻、その「一番足が速い人」っていうのがありありと伺《うかが》える、ソレに対して、どっか「羨ましい」っていう気持ちがあったそのステータスの証であった長い鉢巻をリサは。

「運動神経なんて関係無いの、要はやる気の問題、誰もがクラスの気持ちを一心に背負って競技に臨《のぞ》めるように……」

 その為にクラスの全員がアンカーと同じように、皆の気持ちを込めて1日頑張れるように、と、いう、そのカッコイイ長い鉢巻を作ってくれていたのだった……。

 当日、皆にそのオレンジ色の少し光沢のある鉢巻が配られる……、コレまでゼッタイにそんなカッコイイ鉢巻に縁の無かったオレなんかも含めて、他の男子達も喜んでソレを頭に巻いていた……、ソレもただの薄っぺらい布切れでは無く、シルクでスベスベしていて光を反射する、とても出来の良い鉢巻だ……、着けているだけで気持ちが昂《たか》ぶって来るモノがあった……。

「今日はみんな頑張ろうね?」そのリサの言葉に反応するかのように、みんながそのカッコイイ鉢巻を締めているという連帯感ともあいまって、いやが上にも士気が上がっているウチのクラスメート達……。

 競技は「出場したい人」全てが出ていいルールに成っており、他のクラスのようにただ惰性で臨《のぞ》んでいる連中とは違い、せっかく女子達が作ってくれた鉢巻の想いを無駄にしたくないと、ウチのクラスからは各競技への参加者がかなりの人数に上っていた、その為、競技が始まるに連れ、上位に入った人から加算される点数がどんどんと増えて行き、午後の昼食の時間を迎える頃には、ウチのクラスがダントツの1位の座に就いていた。

 そんな中、オレとリサは実行委員の為、障害物競走の準備やテープカット、上位入賞者を1位、2位、3位のフラッグの後ろに案内したり、やるコトも多く、必然的にリサとオレは行動を共にするコトが多い中……、応援席の方では出場していないクラスメート達が飲み物が入っていた紙コップの底をくりぬいて作った即席のメガホンで一生懸命熱の帯びた声援を送ってくれていた。

「うわァ……、なんかイイなァ……、こういうみんなが一つの気持ちに成って、何かに臨《のぞ》めるのって……、青春って感じがして、熱い気持ちが幾《いく》らでもフツフツと沸き出でてくるようだ……」
 オレはそんなコトを想い、長い鉢巻をたなびかせながら上位に向けて頑張って走ってくるウチのクラスの男女達を誇らしげに入賞者の列に案内していた。そういうような感じで、見事1位でゴールしてきたウチのクラスの橋本をテープカットで出迎えたときも。

「やった! 橋本マジ頑張ったじゃん!?♪」
「おう、クラスの女子達にイイとこ見せたくってよ? フルパワー出しちまったぜ、今日のオレは、いつもの「明日から頑張る」じゃなくて「今日頑張る」の本気のオレだぜ、この後もガンガン色んなのに出場して黄色い声援浴び捲くってやるからなっ!?♪」
 と、上機嫌でゴールして来たりしていた、そんなような感じで、リサがテープカットをしているとき等には上位入賞したウチの男子達のテンションの上がり方が半端無く。

「見ていてくれた!? リサちゃん! オレ、クラスのポイントに貢献したぜ!?♪」
 上気した頬を浮かべ、そんなコトをクラスのツートップであるリサに得意気に興奮気味に喋っている選手も良く見掛けた、そんな風にして応援にも出場する選手達も士気が高く、午後に向けてウチのクラスはいやが上にも盛り上がっていた。そして、皆に弁当とお茶を配っているリサとオレ、リサはクラスメート一人一人に声を掛けながら弁当を配っている。

「みんなのおかげだよ?♪」
 そんな風に言って、午前中頑張ったウチのクラスの出場選手達をねぎらっている、そのリサの気持ちに、嬉しさを隠すコト無くあらわにしている午前中頑張ったクラスメート達、その相乗効果からか、両隣のクラスとは全く違う熱気に満ちながら昼食を取っているウチのクラスの男女達の面々がソコにあった。

「この調子で行ったら優勝間違い無し! 後は最後のリレーまで気を抜かずにゼッタイ勝とうねっ!?」
 そう言って、更にみんなの気持ちに一致団結の想いを高めて行くリサ。

 この娘、本当にイイ娘だなァ……、そんな風に感じた……、短い高校生活……、クラスが一丸と成って出来るコトと行ったら、後は「文化祭」くらいだ、修学旅行もあるにはあるが、アレは「班分け」がされるし、みんなで一つの想い出にって成るっていうのとは少し違う想い出として残るはず……、と、成ると、このクラス全員での「共通の想い出」にするコトが出来る、この体育祭は、年に2回あるそんな想い出を残せる貴重なチャンスのウチの一回であり、他のやる気の余り感じられないテンションが低いクラスとは違って、少しでも皆で一緒に頑張れるように、一生懸命皆に声を掛けて周《まわ》っているリサの姿は、本当に何て言うか言葉では言い表せない位ステキな姿としてオレの眼に映っていた……。

 そして、最後のリレー、そのリレーには、クラス選抜の本気で「足の速い4人」が決まり競技に臨《のぞ》んだ、固唾を呑んでその光景に見入るオレ達2-Bの生徒達。

 ダ――――ン!

 スタートの号令が掛かり、各クラスの選手達が一斉にスタート、スタートダッシュに成功したウチのクラスの宮川、のっけから1位の状態に成っている、ソレを見て応援に熱が入って行くクラスメート達、更に2人目、3人目と、少し2位のクラスの生徒に距離を縮められるもなんとか1位をキープしている……、「このまま行ってくれ――!」誰もがそんな想いでトラックを見つめ声を張り上げる!「ガンバレー!」「頑張ってぇ! あと少し――っ!!!!」「お願い、勝ってぇ~~!」そんな皆の心の底からの声援が湧き上がっている、今日1日、皆で少しずつ積み上げて稼いできた点数、既にウチのクラスはトップに躍り出ていたが、最後のリレー、体育祭の締めくくりソコで、どうしても「優勝」という栄冠を手にしたい、皆が心一つにそんなコトを願い声を張り上げていた。

 そしてバトンはついに最後のアンカー、ウチのクラスでダントツに運動神経のイイ、長崎に手渡される、ソコからの長崎は本当に凄かった、2位との差をドンドンと突き放し、200m周《まわ》ったトコロでほぼウチのクラスが優勝するのは目に見えていた、その光景を前にがぜん、盛り上がるクラスメート達! 「いっけええええええええええ!」「長崎ぃぃいいいいいいいい!」「このままブッちぎれええええっ!」、最終種目であるクラス対抗リレーでの優勝、そのゴールが迫っていく緊張感が皆の気持ちを一気に高めて行く、そしてっ!

 パ――――ン!

 1位の選手がテープカットをして、その砲声がトラックに鳴り響く、長崎の走りは半端無く、2位のE組にほぼ半周差を付けて、ダントツの1位だった!

「やったァアアアアアアアアアアアっ!!!!」皆が誰彼無く抱き合って喜んでいる! そのとき、トラックの端で、走る選手たちの列への整頓をやっていたオレ、そのオレの眼には歓喜に沸いている応援席のクラスメート達の姿が観えていた……、その光景を少し離れたトコロから眼にしていたオレ、そんなオレも思わず「いゃったァ~!♪」と、叫んでしまい、応援席で喜んでいる皆の姿と、皆の気持ちが本当に一つに成ったそのときの瞬間の感激からチョット眼に涙が浮かんでしまっている程だった……。

 各種目への参加人数が圧倒的に多かったウチのクラスは当然入賞者も多くダントツの1位、リサを始めクラスの女子達が皆の為にと作ってくれた長くオレンジで光沢のあるシルクの鉢巻に込められた想いは見事、今日この体育祭で身を結ぶコトが出来たのだった……。

 表彰式が行われ、実行委員だったリサとオレがトロフィーと盾を受け取る、ソレを拍手喝采《はくしゅかっさい》で、盛り上がり迎えてくれるクラスメート達、まだこのクラスに成って、約1ヶ月しか経《た》って居ないが、率先して皆を率いていたリサの頑張りから始まって、最後の最後に感激に満ちたその瞬間をクラス全員が、ソレを心の底から享受《きょうじゅ》するコトが出来、皆一丸と成ってお互いの健闘を称《たた》え合っていた♪

 そして体育祭が終わり、皆は教室へと帰って行く。

 オレとリサは実行委員な為、テントを閉まったり障害物競走に使った道具を運んだり、机や椅子を特別棟に返したりなどして、実行委員会の委員長からの締めの言葉を聞いて解散するまで、色々と後片付けをしていて、ソレが終わった頃には、日も暮れ始め、全部が終わった後、クラスに帰ったときには既に皆は下校した後だった……。

 でも、その教室にカバンを取りに戻った、リサとオレはクラスメート全員からのステキなプレゼントを眼にするコトが出来ていた……、ソレは……。

「クラス優勝やったぜ! リサちゃん! ナオトくん! 今日1日ありがとう!の大きな文字とその周《まわ》りを埋めるかのように、小さく一杯書き込まれているクラスメート一人一人からの今日1日の感激の気持ちがこもったたくさんのメッセージ、その皆の喜びの声に埋め尽くされたカラフルに彩《いろど》られた黒板」が、ソコにあった……。

「…………」
 ソレを観て、感激の気持ちに包まれて、暫く声を失うリサとオレ……。

「みんな……、今日……本当に、楽しんでくれたんだね……♪」
「あァ……、全部オマエのおかげだよ……、今年、たまたま一緒に成ったクラスメート……、でも、今日からオレ達はただのクラスメートじゃない……、みんな一人一人がかけがえの無い……、大事な友人に成るコトが出来たんだ……、リサ……本当にお疲れ様……♪」

 そのオレの言葉を言い終わるか終わらないウチに、大粒の涙を流して、声に成らない声で一生懸命「みんなの方こそアリガトウ……」と、声を振り絞っている、「喜びと感激の大きさ」を全身に感じ涙を抑えるコトが出来ず、今日という1日を振り返り、その高揚感《こうようかん》に包み込まれて泣いているリサの姿がソコにあった……。

 この娘……、本当にイイ娘だなァ……、オレにはレミという彼女が居るワケだが……。
 今このオレの目の前に居て、クラスメート達の「喜びの声」に感涙の涙を抑えられないで居るリサの姿は……、とても胸を打つモノがあった……、レミの言う「あの娘には気をつけて……」と、いうその言葉が気に成らなくは無いと言えば、無くは無かったのだが……、こうやって皆の気持ちを受け止めて「嬉し涙」をこぼしている、純真で、普段はおしとやかなのに、そのウチにはとても「強い情熱」のような気持ちを秘めている、この「可憐な女の子」に対し……、何処か、いとおしく、いつまでも、この娘の「ステキな想い」を守ってやりたい……、そんな気持ちがオレの中に芽生えて来てしまっている、と、いうコトは……、正直……隠しようが無い……事実だった……。

   【 第十九章 】

 体育祭の一件以来……のコト。
 いつものように、ワイリー・フラウに汚染された人達との戦闘を終え、少し一息付いているときのコト……。

「ナオトくん……」
「ん?」
「ナオトくん……、アタシとのコト……、んと……」
「な、なんだよ? ハッキリ言ってくれよ」
 と、言葉に詰まったレミを促《うなが》すオレ……。

「前に……、言ったよね?」
「ん? なにがだ?」
「リサちゃん、の、コト……」
「あ、ああ……」
「ナオトくん……、リサちゃんのコト……、どう想っているの?」
 ズバリ、ツッコまれた、そういう風に感じたオレが居た……。

「いやっ、あのっ、どっ、どう想っているかってっ、あのっ、そんなっ!?」
「ウフフフフフ♪」
「なっ、なんだよ……、なんでソコで笑うんだよ……」
「ぅぅぅん、やっぱりな?って想って…」
「やっ、ぱり……?」
「うん……」
 少し寂しげな表情でレミはそう言った……。

「体育祭のときの、ナオトくんとレミちゃんを観てたら……、なんとなく……ね……」
「…………」
 女の子って本当に鋭いな? そう想ったオレが居た……。

「でも、しょうがないよね? コレばっかりは……」
「…………」

「リサちゃんの心の中にあった「黒い壁」が何を意味しているかは、アタシには結局ワカラなかった……、でも、あの娘、イイ娘だよね……、体育祭のときもそうだったけど……、普段観ててそう想うように成った……、だから…、ナオトくんが……、リサちゃんのコトを……」
「ちょっ、チョット待ってくれっ!」
 慌てて、ソコでレミの言葉を遮《さえぎ》った、ひょっとしてコレ「別れ話」か? そんな風に感じて焦ったからだった……。

「イイの♪ こうやって夢の中でナオトくんと過ごすように成ってもう半年……、毎晩一緒に居るから、ナオトくんが、リサちゃんのコトを考えているのは、何ていうかすぐワカッちゃうっていうか……」
 少し苦笑しながら、そう言っている。
「ナオトくん、素直だから……」
「ゴ……、ゴメン……」

「…………」
「正直、リサのコトが気に掛かっているっていうのは、ある……、でも、ソレでオレとオマエが……」
「アタシ……ね?」
 オレの言葉を遮《さえぎ》るようにレミは話を続けた。

「うん……」
「浮気されるのはイヤなの……」
 ハッキリと、そう言ってきた……。

「ソレに、アタシ達はドリーム・ウォーカー同士、お互いが深層心理でどんなコトを想っているかなんて隠しようが無いから……」
「そっか……」
 そういえば、そうだったな……、だから、オレが今リサのコトが気に掛かっているのなんて、レミには痛いほどハッキリバレちまってるっていうワケなんだな……、オレは少し「諦めに似た気持ち」を感じていた……。

「でもね? アタシは、ナオトくんのコトが好き」
「…………っ」
「引き篭もっている状態から、復帰出来たのはナオトくんに出逢えたからだから……」
「そ、そっか……」
「だけど、夢の中の世界は所詮夢の中……、現実世界でナオトくんに好きな人が出来ちゃったんなら……、アタシにはソレを止める力は無いよね……」
「…………」
「だから……、待ってる……ね?」
「レ、レミ……」
 何て言ったらイイのか、ワカラなかった……。

「でっ、でもよ! オレ、あのクリスマスの日! レミに逢ってっ! 想ったんだっ! 世の中捨てたモンじゃないかも!?ってっ、ソレがどんなにオレにとって「元気の源」に成っているかっ! しかも、その娘とこうして恋人同士になんて! 今でも信じられない位、そのコトがオレの中で自信に成っているんだよ!」
「うん……、アリガト……、そう言ってくれるだけで、嬉しい……、ナオトくん優し過ぎるよ……」
 レミは尚も悲しげな感じでそう言った……。

「でも、もう……、一旦、別れるっていうように……、オマエは決めてしまった、の、か……?」
「…………うん……、ナオトくんのリサちゃんへの気持ち……、ソレがワカッちゃうから……」
「…………」
 潜在意識がバレてしまうっていうのは……、正直こういうときって、どうにも成らないのか……、オレは……、諦めるしかない、そう想ってしまっていた……。

「でもね? 何度も言うけど……」
「うん……」
「アタシは今でもナオトくんが好き……、でもそのナオトくんの中に他の人への気持ちがあるのなら……、ソコはソレで大事にして欲しいの……」
「…………、別れるって、コトか……」
「…………うん……」
「…………」
 この今のレミへの気持ち……、ソレに反して日々大きく成って来ているリサへの気持ち……、ソレがある以上は……、コレ以上何を言っても……、正直、そんな気持ちに成っていた……。

「わかった……、でも……、でもよ? こうしネェか?」
「ん、なに?」
「オマエ……、まだこの後も、ワイリーの連中と戦っていくつもりなんだろ?」
「うん……、ソレは続けるつもり……」

「だからっ、ソレはオレも続けさせてくれ」
「……っ」

「でっ、こんなコトは言いたくは無いんだけど……」
「うん……」
「現実世界……、いや一応、恋人同士っていう関係は……、一回……」
「うん……」
「ココで終わる……としても……、だけど……、オマエ一人が戦っていくなんて、そんなのを放って置ける程、オレ簡単にオマエのコト忘れたりは出来ネェよ!」

「ありがと……、本当にナオトくん……優し過ぎるよ……」
 そう言って、少し寂しげに微笑むレミ、そしてこう言ってくれた……。

「じゃあナオトくんがソレでイイって、言ってくれるなら……、ソレは……今後も、お願いしちゃおっかな……」
「おう、オマエ一人だけに、世の中の辛い部分を背負わせておくなんて出来ネェよ! だから、オレもコレからもワイリーとの戦いを……続けさせてくれ」
「うん……ありがと……♪」

 こうして……、リサへの気持ちが日々大きく成ってしまったオレは……、レミと……、一旦、別れる、というコトに成った……、でも、ワイリー・フラウとの戦闘は続けて行けるコトに成ったようだ……、そうするコトで、レミとも夢の中ではまた会うコトが出来る……、一度、深い仲に成った人と……、簡単に断ち切れに成ってしまう……、ソレだけは避けたい、そんな気持ちもあったからでもあるのだが……、だけど、とりあえず……レミとは恋人同士という関係では無く、戦いをする為にパーティを組んでいる仲間……、そういう風にして接して行くというコトに、そう決まってしまったようだった……。

   【 第二十章 】

 夏休みを越え2学期が始まり、はや文化祭の季節が訪れる……。

 ウチのクラスの出し物は、と、いうと……、よりにもよって「ジェット・コースター」

 体育祭のときの実績が買われ、文化祭実行委員にも選ばれていたリサとオレ、オレは猛烈に反対したのだが、工作部の坂本がどうしても「作りたい」という熱意に押され、その熱意に同調したクラス全員の勢いも手伝って、結局ウチのクラスは「ジェット・コースター」に決まってしまっていた……。

 狭い教室で一体どれだけのモンが出来るっていうんだ……、と、オレは半信半疑というか、かなりネガティブな気持ちでその決定を受け入れたのだが、いざ出来てみると、あの「やる気」に満ちていた坂本のズバ抜けた工作力が功を奏し、教室の入り口から始まり2回大きなカーブを描いた後、出口付近で静かに停まる、という、かなりシッカリとしたモノが完成し、テスト走行で100kgのモノを載せて走行させても、ブレるコトなく滑降する見事なモノが完成してしまっていた。

 「ジェット・コースター」が苦手なオレにとって、ソレは見ているだけで「憂鬱な気持ち」に成るモノであり、当日の当番に成るコトは断固拒否、テスト走行での試乗も断固拒否し何とか難をまぬがれた、と、いった感じであったので、おかげで当日は何もやるコトが無くなってしまい、体育祭の一件以来、雰囲気が明るく成っていたウチのクラスでは当日、係りをやりたいという人数も充分足りていた為、午前中、お客さんの列を裁き、滑らせたコースターを元に戻しソレをまた滑降させるという一連の流れが滞《とどこお》り無く行われているコトを確認したオレは、オレとは同じく実行委員として係りに成っていないリサとクラスを離れ一緒に文化祭をノンビリと楽しんで周《まわ》るコトにした。

 中学までの「付け焼刃」で出来たようなアトラクションなんかで一杯の文化祭とは違い「メイド喫茶」や「牛丼屋」「忍者屋敷」に「占いの部屋」など、ソレなりに内装まで工夫を凝らしたしっかりとした「出し物」の多さに感心しながら、色々と校内を周《まわ》り、飲み物を買って中庭で一休みするコトにした。

「結構、盛り上がっているね?♪」と、リサ。
「まァな? やっぱ高校の文化祭とも成ると何ていうかクォリティが高いクラスが多いな?」
「うん、忍者屋敷面白かった♪」
 と、くったくの無い笑顔をしているリサ、レミも可愛かったが、さすがはクラス、ツートップと言われるだけあって、このリサの楽しげな表情は見るモノを引き込むには充分過ぎる程のまぶしさを醸し出している「こんな可愛い娘と文化祭を一緒に周《まわ》れるなんて、オレも随分とツキが周《まわ》って来たようだな? 生きて居ればイイこともある、と、いうが、本当にそんな気持ちだぜ」と、オッサンめいた感慨に耽《ふけ》りながら、屋台で買ったドリンクで喉を潤していた。

「ウチのクラスのも、スゴイちゃんとしたのが出来上がっちゃったね? ビックリしちゃった」
「そうだなァ? ジェット・コースターなんて、狭い教室ん中でどうやって造るのか、と、想っていたけど、相当シッカリしたモンに仕上がってたな?」
「坂本くん、頑張っていたから……」

 本当にそう言うリサの言う通りで、工作部部長である坂本の頑張りでウチのクラスのジェット・コースターはかなりの盛況と成っていた、お祭り好きの女子生徒が遊園地風のコスプレをして受付をし、体力に自信のある男子が滑り降りたコースターを元に戻す仕事をし、坂本自身がお客さんを乗せて安全ベルトを締め、事故が起きないようにと、細心の注意を払いながら運営されており、たくさんのお客さんを滞《とどこお》り無く裁いて、何ていうか非常に盛り上がっていた。

「なんか、まとまりあるよね? ウチのクラスって」
 と、顔をほころばせながら嬉しそうにそう言っているリサ。
「うん……、でも、ソレって、きっと……」
「なに?」
「リサが体育祭のときに頑張ったのが切っ掛けだったんじゃないかな? なんかそんな気がする」
「そ、そう……?」
「うん……、ウチのクラスって何ていうか女子が元気だろ?」
「うん」
「ソレって、やっぱ中心に居るオマエとかが、いつも楽しいコトを考えていて、ソレで男女の隔《へだ》たりみたいなのが少ないっていうのがスゲェいい雰囲気を作っていると思うんだよ」
 素直に想っているコトを話してみた。

「うん……、本当にいいクラス……、アタシこのクラスに成れて良かったな?って想う……」
「オレもだ……、チョットジェット・コースターには参ったけどな?」
「ウフフフフフ♪」
 と、楽しげに笑っているリサ。

「オマエ、笑うなよソコで……」と、オレ。
「だって、スッゴイ恐がっているんだもん、なんかおっかしくてその様子が♪」
「バカ、オマエ、人には苦手なモンが必ず一つか二つかあってだな? その一つがオレにとっては、たまたまジェット・コースターだったっていうだけの話なんだよ」
「本当に、一つか二つだけなの?♪」
 まだ、楽しげにそう言っている。
「お、おう……、そんだけだよ、他には恐いモンなんてネェよ」
「本当かなァ……?♪ 本気でイヤがってたもんね? テスト走行のとき♪」
 想い出してカラカラと笑い声を上げている。

「笑うなって言っているだろ!? たまたまだよ、たまたまオレは……、あァいうのが、チョット……、ほんのチョットだけダメっていうだけなんだよ!」
「全然、ほんのチョットって感じじゃ無かったんだけど♪」
 と、楽しげにツッコむリサ。
「バカ、オマエ! イイんだよ、オレはもう大人なんだよ、だからジェット・コースターなんて、あんなその、あんなのはな?」
「ウフフフフフ♪ すっごい言い訳してる」
 と、焦っているオレを見ながら笑いを堪《こら》えられないでいるリサ。
「オマエ……、そんなに笑うなよっ、アレだけだって、他には恐いモンなんてネェよ!」
「本当に……? なんか高いトコロとかもダメそう♪」
「たっ、高いっ、高いっ、あのっ、だ、だっ、その」
「アハハハハハハ♪ ダメなんだ」
「ダメじゃネェよ! ダメとは言ってネェよ!」
「もう~~、じゃ、遊園地とかはゼッタイダメだね? ナオトくん♪」
 と、オレの顔を覗き込むようにイタズラっぽくそう言っているリサ、チキショー、可愛いから何か許してしまうオレが居るのは内緒のハナシだ。

「だっ、だから! 大人なんだよオレは! もうそういうのはな!」
「そういうのは?」
「卒業したんだよ」
「アハハハハハハハ♪ もう~~ナオトくん、ワカリやす過ぎ♪」
 尚も笑っているリサ。

「ったくよ……、人のそういうのをつついてだな、あのな? とにかく、そんなに笑うなよな……っ」
「ゴメンなさい♪」
 とか言いつつ、まだ笑いを堪《こら》えられないでいる。
「ったく……」
「冗談♪ だから、怒んないで?」
 とか、言いながらまだ笑っているリサ。

「全然、謝ってネェじゃネェかよ、オマエ……」
「ゴメンなちゃい♪」
「ったく、本当に女ってのは……っ」
「アハハハハハハ♪」

 結局、大笑いしているリサ……、でもチョット意外だな?って想った、もっとオトナしい娘かと思って居たんだが、体育祭実行委員をやったり文化祭実行委員で一緒に色々として来て打ち解けてくれたのかもしれないが……、こうして喋っているとごく普通の女の子っていうのが段々とワカッてくる気がしていた……。

「ふぅ~、もぅ……、なんかナオトくんと居ると、楽しいコトばっかり♪」
「そうかァ? 特に何の変哲も無い、ソコら辺に幾《いく》らでも居る野郎と一緒だろ? オレなんて」
「う~~ん、普通と言えば普通なんだけど……、なんだろう……、何か楽しい♪」
 まァ、そう言ってくれる分には悪い気はしないが……、何故か褒められているような気持ちに成れないのは気のせいだろうか……。

「アタシ……、ナオトくんともっと早くこうして、お喋り出来る仲に成ってたら良かったのになって……、最近良くそんなようなコト想ってるの……」
「まァな? 1年のとき全然喋んなかったモンな?」
「うん……」
「何ていうかさ、オマエもうチョット美人系キャラっていうか、お高く止まってて今みたいに砕けた会話をしてくれる人じゃ無いっていう気がしていたから…」
「なんでぇ? アタシそんなに冷たい感じだった?」
「いや、実際喋ったワケじゃないけど、なんか近寄りがたい感じだったからさ」
「……そっか……」
「だから、体育祭のときはスッゴイなんか嬉しかったんだよ」
「嬉しかったの? なんで?」
「いやオマエ、聞いてはいると思うけど、レミとオマエってウチのクラスの美人の二強だろ?」
「うん……、まァ……、何となくそんな風に言われているっていうのは……知ってはいたけど……」
「その美人さんが、だ、率先してクラスを盛り上げる為に頑張ってくれちゃうようなコトをしてくれるとは思って居なかったからさ」
「確かに1年生の頃、アタシ……大人しかったよね……」
「おう、そうだよ、オマエ、こんななんか喋りやすいヤツなんて全然わかんなかったんだよ」
「そっか……、なんかそう聞くと勿体無いコトしちゃってたかな?って……想っちゃう……」
 チョット残念そうな様子のリサ。

「確かに1-Aの連中は、みんなチョット自分を隠してたよな……、オレも少しソレには息苦しさを感じて無くは無かったよ」
「うん……、1年生のあのクラス……、正直チョット堅かったよね?」
「うん……、今年はなんか変なヤツ多いもんな?」
「ウフフフフフ♪ 変なヤツが多いって……、そんな言い方したらダメだよ♪」
「ハハハハハ♪ まァな?」

「でも、ナオトくん、今とあんまり変わらない感じだったって……、そんな感じがするけど……」
「そうか? 結構、気ぃ遣《つか》ってたぞ? 1年の頃は…」
「そうなの? 全然そんな感じはしなかったけど…♪」
「失礼な、オレだってなァ? 一応色々と考えてだなァ」
「はいはい、ワカリました♪」
「オマエ! 本当にっ! オレだって色々と考えるコトがあってだなっ」
「ウフフフフフ♪ ワカリました、ナオトくんは大人です♪」
「オマエ、バカにしてるだろ、オレを!」
「どうでしょ?♪」
「ったくよぉ……」
「怒んないでよ……♪」
「苦労は買ってでもする、ソレがオレの座右の銘なんだぞ?」
「本当に?♪ 全然そういう風に見えないんだけど」
「なんだよ、チョット大人ぶったコト言ったんだから、見直してくれよオレを……っ」
「アハハハハハハ♪ もう本当ナオトくんと居ると楽しい♪」
「まァ、そう言ってくれんのはイイけどよ……」
「ウフフフフ♪」

 そうして、ひとしきりの会話が終わり、少しの間ユックリとジュースを飲むオレ達……。

「ふぅ~~……、結構喋ったな?」
「うん……そうだネェ……、う~ん……」
「ん? どうした?」
 少し押し黙っている感じのリサ。

「そろそろ……、イイかなァ~~って想って」
「そろそろ? んじゃ、教室戻るか?」
「あっ、いや、あの……、その、そうじゃなくて……」
「ん? なんだ? 急に改まって」
 少し考えている様子のリサ……、そして決意をしたかのようにユックリと口を開く……。

「あの……、ね……?」
「うん……なんだよ……」
「レミちゃんの……コト……」
「っ?」
 不意を突かれ、一瞬ドキッとしたオレ……。

「レミ……、の、コトが……、どうか、したの、か……?」
「うん…………」
 そして、また少し考えている様子のリサ……。

「そろそろ、イイかなァ?って、想って……」
「そろそろ、イイかなって…、え? どういうコトだ?」

 意を決したように話し始めるリサ。

「ナオトくんの中で……、レミちゃんのコト……もう、そろそろ……」
「あ……、あ、うん……」
 何となく言わんとしているコトがワカルような気がしていた……。

「もう4ヶ月くらい……経《た》つでしょ? 別れて……から……」
「あ……、うん……、そういえば、もう、ソレくらいに成る、か……」

「アタシの……、入り込む余地……、あるかなァって……、想って……」
 その言葉に焦ったオレが居た…、えっ!? ひょっとしてコレってのはっ!? そんな気持ちだった……っ。

「ナオトくん……、今……、好きな人……居る?」

 直球で来たな……、そう想った……。

 好きな人……か……、レミと別れてから、そんなコト全然考えて無かったな……? コレって、今……フラグが立っている状態なんだろうか……、何となくそんなコトをボンヤリと考えていた……。

「居る、と、言えば……、居る……よ」
 ソレがオレの答えだった……。

「アタシ……」
「ちょっ、チョット待ってくれっ!」
 慌ててリサの発言を制したオレ……、こういうのは……やっぱり自分から言うべきだと想った……。

「意識、している人は居る……、んで、もし、その人が、オレのコトを……、そういう眼で見てくれている、ってそういうコトだとしたら……、オレは……っ」
「オレは……?」
「全力でソレに応《こた》えたいって想ってる……」
 オレなりにとっさに考えて、そう言っていた……。

「じゃあ……、アタシ……」
「うん……」
「立候補しても……イイのかな……」
「…………、うん……オレの方こそ……、イイのかな……?っていう感じ……だよ……」
「ウフフフフ♪ じゃあ、何ていうか…」
「うん……」
「ふつつか者ですけど……、ヨロシクお願いします……」
「お、オレの方こそ……、よっ、ヨロシク……」

 少しの間、沈黙しているオレ達……、そして暫くしてから、リサが口を開く……。

「良かった…………」
 その眼には少し涙が浮かんでいる。
「バっ、オマエ、何泣いてんだよ……」
「だっ、だって……、ずっとずっと……」
「う、うん……」
「ナオトくんには、ずっとレミちゃんが居たから……、アタシなんかが、本当に……イイのかな?って想って……っ」
 見ると眼に涙を一杯に浮かべてしまっているリサ……。

「バっ、オマエ泣くなって言ってんだろうがよっ、きっ、気持ちは嬉しいけどさ……」
「ゴメン……、……なんで泣いてんだろ、アタシ……グスングスン……」
「イイんだよ、こういうときは……、しょっ、しょうがネェヤツだな……」

 と、嬉し涙が溢れるのを止められないでいるリサを優しく抱きしめるオレ……。

「うわ~~~~ん……っ、らって、らって……、ドキドキしたんだもん、一杯ドキドキしたんだから……うわ~~ん……っ」
「しょっ、しょうがネェヤツだな……、いいよ、もぅ……、止まるまで、好きなだけ一杯泣いちまえよ……、全くもう……」
 と、言いながらしっかりとリサを抱き寄せる。

「うわ~~~~~~ん……」
 その後、暫くリサは泣き止まなかった……。

 賑やかな文化祭の片隅で……、お互いの気持ちを確認し合うように、リサが泣き止むまでの間、オレ達は静かにソコで寄り添い合って居たのだった……。

   【 第二十一章 】

「おぃおぃ、オマエよ?」
 いつものようにぶしつけにそう話し掛けてくる箕屋本《みやもと》。
「なんだよ、イキナリ……」
 いつものようにミートボールを口に運びながら、モグモグと咀嚼《そしゃく》して、ソレに答えているオレ。

「オマエ、遂《つい》にリサちゃんとまで、ゴールインしたらしいな?」
 少々不満げな表情でそう言っている。
「あァ、いや、まァ、うん……」
「本当にオマエはラッキーなヤツだぜ!?」
 まァな? 確かに……、今年に入って「彼女」と、呼べる存在が曲がりなりにも「2人目」だ……、以前のオレからすれば、ソレは天文学的数字とも呼べるかもしれない……。

「ったくよぉ? 結局、クラスツートップ、全部オマエに持っていかれちまったってワケじゃネェか」
 持っていかれちまったって、そんな人聞きの悪い……、とも想ったが、確かに……結果として、そんな感じに成ってしまった……、なんで、そんな美味しい展開に成っているのか自分でもいまだ実感が無い感じだ……。

「オマエは確実にクラス、いやソレに飽き足らずウチの学年の男子生徒達を「敵に回した」と、言っても過言では無いだろう」
 言わんとしているコトはワカラなくは無いが、当のオレ本人としては、アレやコレやと画策《かくさく》をした憶えは無い……、だから、その点については「無罪」を主張させて貰いたいのだが……。
「オマエ、モテモテだな? どうやったら、そんなに簡単に彼女なんてモノが出来るんだっ?」

 はて……、何かしただろうか……、正直、オレから何かを仕掛けた、と、いうのは一切無い気がする……、ソレにも関わらず、クラス、ツートップの二人と付き合えたなんて……、まるで、マンガかアニメの話のようだ……。

「ったくよぉ、本当に羨ましいヤツだぜ……」
 少々ヤケっぱちの様子で白飯をかきこんでいる箕屋本《みやもと》。

「箕屋本《みやもと》……」
 静かにオレが言う。
「なっ、なんだよイキナリ改まって?」
「オレ、こう想うんだよ……」
「ん? なんだ?」
「恋愛って実は、意外とソコら中にあるモノなんじゃないか?ってな…」
「ふん、簡単に行ってくれるぜ、だとしたら今のオレに彼女が居ないのは、どう説明出来るんだ?」
 更に、ヤケっぱちな様子で、ハンバーグと白飯をかきこんでいる箕屋本《みやもと》。
「いゃ、まァ、ソレに関してなんだけどな? 一番大事なのはさ」
「うん……」
「そういった、恋のトキメキみたいなモンをいつも感じる、もしくは感じようとしているか?ってコトが大事なんじゃないかって想うんだよ」
 オレなりに想うコトを、そうハッキリと言ってみた。

「トキメキをって……、オレ達が日々レミちゃんのエンジェル・スマイル、ソレにリサちゃんの可愛らしい雰囲気に、どれだけ萌え撒くって、そしてキュンキュン来ていると思ってるんだよっ!」
 少々興奮気味に、そう言っている箕屋本《みやもと》。
「そっ、そっか…、ソレは……、そうだよな……?」
「そうだよ、オマエだって日々癒されているんだろ? 今はリサちゃんに」
「うん……、ソレは全く否定しないが」
「ソレと同様にオレ達が、どんだけあの二人にドキドキしているか、何かの数値ではゼッタイに表わせないっていうくらい凄まじいコトに成っているぜ?」
「そっか……」
 じゃァ、一体何なんだろうか……、男と女が結びつく理由……、一応考えては見たが、すぐには思い浮かばなかった……。

「ったくよぉ、何でもイイ、オマエは今モテ捲くっている、そのコツとか秘訣とかを少しは伝授してくれよ?」
 飯をかきこみ、お茶をグビグビと飲み干しつつ、そんなコトを言っている箕屋本《みやもと》。
「コツネェ~~……」、正直、全く想い付かないオレが居る……、レミとは互いがドリーム・ウォーカーだったっていう特殊な共通点があったコト……、リサとは……「体育祭と文化祭実行委員」で、二人きりで色々とやるコトが多い時間を持つコトが出来た……、どっちも偶然そう成ったコトであり……、オレが意図して仕掛けたモノじゃない……、だから「秘訣」を、と、聞かれても、言葉に窮《きゅう》してしまっているオレが居たんだが……。

「ふん、まァ、何でもいいよ、とにかくオメデトな? 一応、友人としての立場からすれば、オレはオマエ達二人のコトを温かく見守ってやるぜ」
「お、ぉぉぉおぉ、どうした箕屋本《みやもと》? 随分と殊勝《しゅしょう》なコトを言ってくれるじゃないか」
「おうよ、人のコト、やっかんだり羨《うらや》んだりばっかしていたらよ? ソレこそ何か幸せが遠のいて行くような感じがするからさ、こう成ったら、徹底的に友達想いのイイヤツっていう路線でオレは行くぜ? ソレにオマエとリサちゃんが付き合ってるっていうコトで、オレ的にはリサちゃんと話す機会が増えそうだしよ?♪ そういうのをアピール出来るイイ機会なんじゃないか?とか、チョット想ってんだよ」
 と、臆面も無くそう言ってのけた箕屋本《みやもと》。

「なんだよ、結局下心あり捲くりじゃネェか……」
 オレも飯をかきこみ終え、お茶を飲みながらそんな風にツッコんでみる。
「おうよ、オマエさっき言ってただろ? 恋に大事なのは「トキメク気持ち」をいつも持っていろって」
「ま、まァな?」
「だからっていうワケでも無いけどよ!? オレのレミちゃんとリサちゃんへの想いは以前にも増して強く成っているっていうワケだ」
 またしてもハッキリと、そんなコトを言っている、本当に裏表の無いヤツだな? コイツは……、そんな風に思いながら話を聞いていた。

「この「トキメキ」を忘れずに何処までも突っ走って行くつもりだぜ」
「お、おう……、じゃ、オレもソレについては……、お、応援させて貰うよ……」
「さっすが、やっぱツートップをモノにした男だけはあるな? 何ていうか今の言葉、忘れないでくれよな?」
 わずかな希望にすがる想いからか、少し眼を輝かせながらそんなコトを言っている。
「ワカった……、ま、コチラからも、ソレについては、改めてヨロシク……な」

「おう、でもよ、オマエは今、ウチのクラスの男子、ソレにとどまらず学校中から羨望のまなざしで羨《うらや》ましがられているワケだ……、だから何かあったら言えよな? 中にはチョッカイ仕掛けて来るようなヤツが現れるかもしれないからよ、そういうのには気を付けろよな」
 箕屋本《みやもと》らしい言葉だ……、そんな風にチョット想ったオレが居た……。

「あ、ああ……、うん……、アリガト……とりあえず、気を付けとくわ……」

 正直、今のこんなシチュエーションに成るなんて全く考えたコトは無かった……、何ていうか、このオレはそのいつも妬《ねた》んでいる側の人間だったからなァ? ソレを想うと……、確かに敵対心むきだしで何かしてくるヤツが現れてもオカシくはないかもな?と、何となくそう想っていた……。

   【 第二十二章 】

 文化祭での告白、アレから少ししてのコト、そうこうして訪れたリサとオレとの初デートの日。14時駅前だったな? 行って見ると既にリサが待っててくれていた……。

「ゴメン、待たせちゃったかな?」
「ぅぅぅん、イイの、アタシがチョット早く来過ぎただけだから♪」
 そう言って嬉しそうに微笑んでいるリサ……、可愛過ぎるだろ……、箕屋本《みやもと》達が熱を上げるのがワカル気がするぜ……。

「どうしよっか? とりあえず、何しようか?」
「考えててくれてなかったの?」
 と、む~っと口をとがらせて、少し不満げのリサ、ったく……、いちいち可愛くてしょうがない……、屈託が無くてあどけなく、何かの小動物のように愛らしいその様子にキュンキュン来捲くっているオレが居た……。

「あ、いや、なんていうか……、街ブラして、どっかで飯食って、んで、公園か何かに行ってノンビリ出来ればイイかな? くらいの漠然としたプランは考えては居るんだけど……」
「あっ、えっと……、うん、ソレでいい♪」
 と、上気してほころんだ表情のリサ……、ったく……本当に、とにかく可愛過ぎるからと、何度言えば……。

「どっか行きたいトコとかあるか?」
 一応、リクエストがあるか確認する。
「う~~んと、ね……」
「うん、なんだ?」
「水族館、行きたい♪」
 ニコッと笑って、右横から微笑んでいる、いちいち可愛いなァ、もう本当に……。

「そっか、じゃ、水族館行って、その後どっか景色のイイとこか何かで飯食ってって、そんな感じで行くか」
「うん♪ ネェ」
「ん? なに?」
 と、観ると、オレの服の腕の部分をチョットだけつまんでいるリサ。

「腕、組んで歩いても……、イイ?」
 少し控え目な面持《おもも》ちでそう聞いてくるリサ、ったく本当に……、ただでさえ可愛い娘に……、そんなコトを言って貰えてソレを拒む男が何処に居るのか? いやそんな「奇特なヤツ」はこの世には居ないんじゃないか?とか、そんな風に想っていた。

「いゃ、あの、い、いいよ? リサがイヤじゃ無かったら……」
 ドギマギしている気持ちを抑えるようにして、そう伝えるのが精一杯だった……。
「うん♪ じゃ、行こう♪」
 と、行ってオレの右腕にギュッとくっついてくれるリサ……、はァ……幸せ、っていうのは、こういうコトを言うんだろうか……? チラッとそんなコトを想ったオレが居た……。

「水族館……、この辺だと、臨海公園か」
「うん、ソコがイイ♪」
「行ったコトあるの?」
「ぅぅぅん、初めて、すっごい楽しみ♪」
 そう言って、いつもの三日月状に弓なりに成った眼でオレを見つめながら、ニッコリと微笑んでいる……、かっ、可愛い……、このほころんだ笑顔に見つめられて恋に堕ちないヤツなんてきっと居ないだろうな……? そんなコトを考えながら電車に乗った……、車内は空いていて、「おぅおぅお二人さん見せ付けてくれるじゃネェか?」と、いった因縁《いんねん》を付けて来そうな柄の悪い人なども居ない様子、ソレを確認してから、ギュッとくっついてくれているリサをいとおしく想いながら、ノンビリと走る午後の電車に揺られていた……、少し走って行くと、窓から遠くに水平線が観えて来る……、海が近い証拠だ……。

「キレイだね……♪」
 その目の前に広がっていく水平線を眺めながら、ポツリとそう言っているリサ。
「うん……」
 何ていうか、言葉に成らないような幸せな気持ちが自然と沸いて来ているオレが居た……。
 そして駅に着き、臨海公園へと入っていくオレ達、何でもサッカー場12面分モノ広さがあるらしい。
「こりゃ、この時間からだと、1日じゃ周《まわ》れそうに無いなァ?」
「そうだね……、こんなおっきぃトコロだなんて知らなかった……」
「とりあえず、めぼしいトコに狙いを付けて、一気に周《まわ》るか」
「うん♪ 全部観れなくても……、そしたら、また今度来ればイイし、デートの予定が1個増えるから、アタシ的には……、ソレはソレで……、何ていうか……、嬉しいし♪」
 そんな風に言ってくれている……。

 この娘は一体ナニモノなんだろうか? こうまで人を幸せな気持ちにさせてくれる存在が世の中に居るか? いや今、そんな天使のような娘が目の前に実在している、チョットやそっとじゃ信じられん……、と、なんか、そんな心境に成っていた……。

 そして入り口を通り、薄暗い水族館に入っていくオレ達……、最初は小さな水槽が並んでいて、珍しい海生生物達がたくさん陳列されていた……。

「わっ、観てぇ? なんか変なのが一杯…♪」
 普段、オトナしい感じの娘であるリサだったが、意外とそういった変テコな感じの生き物に結構ご執心な様子だ。

「こういうの平気なんだ?」
「うん……、なんか面白い……、ソレにこのちっちゃい仔、可愛い~♪」
「ラ・ドゥニア…、何かの深海魚だな?」
「変な形してるけど、面白い♪」
 すっかりその「深海魚」が気に入った様子のリサ。
 他にも、いろいろな「変わった感じの生き物」が居て、横に書いてある「説明」などを読まなくてもかなり楽しめた……、時間があればジックリと1個1個の「説明」も読んで行きたかったが……、おそらくソレは「男子的好奇心の満たし方」であり、女の子と一緒に「水族館」を周《まわ》っているときは、ソレはしない方が良さそうだな?とか、そんなコトを想っていた……。
 そして、更に進んで行くと少し大きな水槽が並び始める……、タカアシガニやらクモガニなんかがウジャウジャ居る水槽が並んでいた……、コレは結構エグイなァ……とか、思っていたがリサはそういうのも「大丈夫」なようで。

「カニさん達が一杯~~♪」
 と、夢中でソレらを眺めて居た……。
 普段、オトナしくて全然そんな様子は見えないが、実は結構、恋愛にも積極的で「好奇心も旺盛」で……、と、いった意外と「アクティブな娘」なんだな?っていうのが段々とワカッテ来た感じだった……。
 と、ソコから先は、海の中を再現したような大きな水槽が並び始め、ウミガメやブリ、アジといった魚が泳いでいるのが見えた、ソレら大きな生き物に隠れるようにしてタツノオトシゴやらクマノミなんかも見られて段々と賑やかな水槽が並ぶように成って来ていた。

「キレイ……」
 その再現された海中の様子に見入っているリサ……。

 ベタなコトを言わせて貰うとしたら、その見入って眼を輝かせている君の方が「もっとキレイだよ」……、とか、チョットそんな「キザなセリフ」が一瞬頭を過《よ》ぎったが、ベタ過ぎるので言うのはヤメテ置いた……。

「ふぅ……、大分歩いたね?」
「そうだな? チョット座るか」
「うん……」
 ジュースを買ってきて、ベンチが置いてあるトコロで少し休憩を取る。

「本当に広いネェ? ネェこの地図で見ると、まだ3分の1も来てないよ?」
「広過ぎだろ、ココ……、こりゃ到底、1日じゃ観られないなァ?」
「そうだね、また時間あるときユックリ観に来ようね?」
「おう、そうだな、んじゃ、次のデートプランの予定がとりあえず1個出来たな」
「うん♪」
 そう言って嬉しげな表情を浮かべているリサ、何度も言うが可愛過ぎる……、オレとの時間を楽しんでくれているようで何よりだが……、今のこの時間は本当に現実世界のコトなのか?と、いうような気がしていた……、女の子ってスゴイなァ?と、正直、そんな風に想った……、こうやって一緒に傍《そば》に居てくれているだけで、何ていうか凄くドキドキした気持ちにさせてくれる……、まるで歩く遊園地というか、アトラクションと、いうか……、そういう力があるな?とか、そんな風に感じていた……。

 しばらく休憩を取り、チョットお喋りをしていると……、結構時間が経《た》ってしまっていた為、最後にこの水族館で一番大きな水槽を観て今回は帰ろうというコトにして、ソコへと向かった、何せ、サッカー場12面分もあるコトから大分歩いたが、ようやくその「大水槽」の前に辿り着いたオレ達……、ソコで観たモノは正直、言葉には出来ないようなキレイな光景が広がっていた……、たくさんの魚達が泳ぎまわり、熱帯魚やヒラメ、キレイな珊瑚に、アンコウやウツボといったチョット恐い感じの生き物、ソレにチョット大きなサメなんかも回遊している、イワシの大群なんかもおり、とてもじゃないが……「水槽?」とは想えないような青い幻想的な世界がソコに広がっていた……。

「うわァ~~♪」
 ソレにすっかり見とれているリサ、純粋無垢な子供のようなキラキラした眼で泳ぐ魚を一心に追っている……。
「スゲェなァ?」
「うん……♪」
「コレ、水槽ってコトは水入れ替えたり、掃除とかしたりしてんのかな? どっかで管理しているんだろ? コレ」
「うん……、そうだと想うけど……、せっかく何だからそういう現実的なコトを言わないの♪」
 と、言ってチョット笑っているリサ……、その青い光の中にキラキラとした眼で浮かび上がったリサの表情は……、言葉に出来ない程……幻想的で……、目の前に広がっている海の中を再現した光景とあいまって、まるで、この娘は人魚か何かでおとぎ話の世界からやってきた「妖精」なんじゃないか?と、いうような感じでオレの眼には映っていた……。

「はぁ……」
 ふと、ため息が漏れる……。
「どうしたの?」
「いや、なんか……、今この瞬間が……、幻想的過ぎて……」
「うん……、そうだね……♪」
「また……来ような……? ココ……」
「うん♪ また、ゼッタイ」
 相変わらずそのキラキラとした子供のような瞳でオレを見つめながら、そう言ってくれていた……。

 そうして、ひとしきり水族館の「幻想的な世界」を味わったオレ達……、外に出てみると既に陽は沈み、すっかり夜に成っていた……。

「キレイだったネェ♪」
「うん……」
 また、繰り返すようだが……、「キミの瞳の方がもっとキレイだったよ」と、言いたかった気持ちをオレが一生懸命抑えていたのはヒミツにして置いて貰いたい……。

「なんだか、お腹一杯っていう感じ♪」
 と、言ってイタズラっぽく笑っているリサ。
「ハハハハ、まァな? なんていうか、中身が濃すぎてチョット疲れたな?」
「うん…、本当ココスゴイよね? アタシ……ね?」
「おう、なに?」
「デートで水族館来たのって初めてだったの」
「そ、そうか……」
「だから……、何ていうか……、ナオトくんと一緒に観た今日の光景……、ずっと忘れられないって想う……」
「…………」
 言葉に成らなかった……、こんなに嬉しい言葉を言って貰えるとは全く思って居なかったコトもあり、不意打ちを喰らった感じだ……。

「また、ユックリ時間あるときココに来ような」
「うん……」
「ソレと……、そうやって初めて一緒に出掛ける場所……、どんどん増やして、想い出一杯作ろうな?」
「……うん……♪」
 そう言ってうなづくリサ……、その眼には少し涙が滲んでいた……。

「どっ、どうしたんだよ、何、泣いてんだよ……」
「ぅぅぅん、何か……、すっごく嬉し過ぎちゃって……♪」
「そっ、そっか……、でも、ソレ聞いてオレも……」
「うん」
「嬉しいから……、また……一杯色んなトコロ行って一杯遊ぼう」
「うん♪」

 そうして、感涙を流してくれているリサが落ち着くのを待ってから、その幻想的だった水族館を後にし、その日は帰り掛けに、高台にあるチョット景色のいいファミレスで飯を食ってからオレ達はそれぞれの家路に着いたのだった……。

 ふぅ~~、何ていうかキュンキュンしっぱなしの1日だったなァ……、でも……女の子って本当にスゴイ……、横に居てくれてるっていうだけで……こんなにも人を幸せな気持ちにしてくれる存在……、オレはリサを……ずっとずっと大事にして行きたい……、そんなコトを少し願うような気持ちで想いながら、深い眠りに就いていったのだった……。

   【 第二十三章 】

 あの日……、そう、レミがワイリー・フラウの連中に連れ去られて以来……、レミは不登校に成っていた……、あれから3日が経《た》つ……。

「おぃ、レミちゃん今日も休みだな? 何かあったのか?」
 と、心配げな様子の箕屋本《みやもと》。
「…………」
「オマエ、何か見舞いに行ってやったりした方がイイんじゃないのか? 元彼氏だろ?」
「うん、まァ……、気には掛けてはいるよ、気には……」

 何処に連れ去られてしまったのか、ワカラナイが「夢の世界の中」でレミがどっかで捕《つか》まっているのは確かだ……、モバイルで連絡はして見るモノの……「既読」には成るが返信は無い……、とりあえず、ヒドイことをされて「昏睡状態」に陥っているというワケでは無さそうだった……。

「何とか成らネェのかよ、オレにとっては1日1回は、あのレミちゃんのスマイルに癒されるのが日課だったっていうのによ」
 なんだ、その身勝手な習慣は……とも、想ったが、一応コイツなりにレミの身を案じてくれているらしいコトは確かなようだ……。

「人には色々事情があるだろ? レミは今、人には言えないような「辛い想い」を抱え込んでしまっているんだよ、きっと……」
「オマエの連絡にも返事くれないのか?」
「うん……」

「よしじゃ、オレがオマエの代わりとして、連絡、ソレかお見舞いをしてレミちゃんを元気付けてやる、そしたらレミちゃんの中でのオレの株は上がるだろ? いやがおうにもよ」
 などと言っている箕屋本《みやもと》……、ったく能天気なヤツだ……、そんなんで「復帰」してくれるってんなら、とっくにレミは「復帰」しているよ……、アイツは今、学校どころの状態じゃない……、潜在意識をワイリーの連中にガッチリ抑えられていて、おそらく飯も喉を通らないような虚脱《きょだつ》してしまった、空っぽの人形のような状態に成ってしまっているんだろうなァ……?と、そんなコトを想い巡らせていた……。

 だが、箕屋本《みやもと》の言う通り、このまま放っておくワケには行かない……、助けに行かなくちゃ……でないと本当にレミは……、いつかきっと「廃人」にされてしまうかもしれない……。

「オマエの力が必要に成るときには、そう言うから、少しだけ時間をくれ……」
 と、箕屋本《みやもと》に告げるオレ。
「本当か? レミちゃん、このままずっと不登校なんてコトには成りはしないだろうな?」
 と、心配げな様子の箕屋本《みやもと》、レミに好意を寄せているというのもあるのかもしれないが……、一応、一クラスメートとして……本気でレミの身を案じているようだった……、何とかしないと……。

「まァ、やるだけやってみるよ、ソレで失敗するようなコトがあれば、ひょっとしたら……」
「ひょっとしたら? なんだよ」
 と、不安げにオレを見る箕屋本《みやもと》。
「このオレも……、不登校するように成ってしまうかもしれない……」
「なっ、なんだよソレ! オマエ達一体どう成っているんだっ!? 何かイヤなコトがあるんならよ、遠慮無く言ってくれよ、助けに成れるかまではワカラナイが、話を聞く位のコトは出来るんだぜ? 人に悩みを打ち明けるっていうのは、想った以上に気持ちを楽にする効果があるんだ、何でも言ってくれよな?」
 箕屋本《みやもと》……、いいヤツだな? オマエって本当に……、オマエがクラスメートに居てくれて本当に良かった……と、改めてそう感じているオレが居た……。

「ありがとよ、もし本当に辛いときは真っ先にオマエに相談させて貰うから、そのときは……、どうか一つ本当にヨロシクな?」
「おぅよ、貴重な友人の心の支えに成れるってんならよ? いつだって一肌でも二肌でも脱がせて貰うぜ、今すぐにオマエの前で服を脱いでやってもイイくらいだぜ?」
「何、変なコトを言ってんだよ……」
「いや、オマエが何か元気無いからよ? 少しでもって想って軽い冗談だよ、でもオレはスゴイぜ?」
「何がだよ」
「最近、腹筋始めてよ? 少しだけど、6つに割れて来てるんだぜ? 見るか?」
「いや、いいよ……、男の腹なんか見たかネェよ……」
「そうか、ま、とにかくよ? 何かあるんなら遠慮無く言って来てくれよな? オマエにはオレが付いているんだ、何ていうか安心しろ」
 そう、胸を張って言い切る箕屋本《みやもと》……、根拠も何も無いような自信に満ちた言葉だったが……、ソレでもこういう箕屋本《みやもと》のオレのコトを気遣ってくれる気持ちは嬉しかった……。

「うん、そのときは本当……、ヨロシクな?」
「おうよ」
 ドン、と、来いってんだ、と、いった表情の箕屋本《みやもと》……、コイツ本当にいいヤツだな? いいクラスメートを持ったモンだ……、だが……レミのコトは……、とにかくこのまま放って置くワケには行かない……。

 その夜……、オレはレミが連れ去られた現場である「眠り主」の夢の中にもう一度、行ってみようと決心した……、レミが今、何処に連れて行かれているのかはワカラナイが……、あの「眠り主」の夢がオブストラクトの本拠地と何らかの繋がりがあるのは確かなハズだ……、そして夜に成り、オレはレミと共に戦い続けた数々の戦闘を想い起こし、万全の用意を整えて……、例のブラック・アーマー達が溢れ返っている、あの「夢の中」へと……、もう一度、足を踏み入れて行くのだった……。

   【 第二十四章 】

 ズギュ―ン、ズギュ―ン、ズギュ―ン! 相も変わらず大量に現れる黒い兵士達を、貫通弾に切り替えた夢想ライフルで撃ち抜き前へ前へと一歩ずつ前進して行くオレ……、レミ、待っていろよ? 必ずオマエを、助け出してみせるからなァ!?

 ズギュ―ン、ズギュ―ン、ズギュ―ン! 銃弾をドテっ腹に喰らい消し飛んで行く黒い兵士達、ったく、この「眠り主」は本当一体どんなヤツなんだ!? どれだけやっつければ大人しく成ってくれるっていうんだ、この人は……っ! そんなオレの気持ちになど一切介するコトなく、ソコかしこから現れ、オレの方に群がってくるブラック・アーマー達。

「ちっ、コレじゃァ、いつまで経《た》っても埒《らち》があかネェっ!」

 オレは貫通弾からランチャーに切り替えて、敵が束に成っているトコロに向けて、ソレを何発も発射する、着弾し轟音を立てて火柱を上げるその迫撃砲、ちりぢり粉々に成って砕け散る黒い兵士達……、こんだけやっても、威勢が衰えない……、ったく、本当にこの「眠り主」一体どれだけワイリー・フラウの連中に汚染されているんだっ! そう想いながらも四方八方に向けて引き金を引き続けるオレ。

 ガガ――ン! ガガ――ン! ランチャーから放たれた砲弾が敵を粉々に砕け飛ばして行く……、少し収まって来たかっ!? あと、一息と、いうトコロかっ!? アレから、かなりの戦いを突破して、戦闘のレベルは格段に上達しているオレ、接近するアーマー達を一体残らず寄せ付けずソイツらを的確に弾け飛ばすように撃ち抜いていく……、そして、最後ようやく、数えるコトが出来る程に減った、ブラック・アーマーを一体残らず仕留め……、ふぅ~~っと一息付く……。

「はぁ……はぁ……はぁ……、コレ、で、全部……か……?」

 夢の中だから銃弾が尽きる、と、いうコトは無い……、しかし集中力には限界がある……、何とかソレが切れる前に……、一応、オレの前からオレに向かって襲い掛かってくるその黒い兵士達の姿は消えていた……。

「この先にきっと……、この先にきっと、レミは……囚《とら》われているはず……」
 そう想い足を進める……、そのときのコトだった……っ。

 ズガガガガガガ――っ! 見ると地面に数本の亀裂が走り、ソレが少し盛り上がった後、その亀裂を弾け飛ばすようにして、巨大なモンスターが地中から姿を現した……。
「く、くそぅ、まだ敵が居やがったのか……、いよいよ敵の親玉出現とでもいった感じか?」
 そんな考えが頭の中を過《よ》ぎる。

 ズガガガガッ! ガガガガ――ン! 土煙を上げ激しく手足を振り上げながら、轟音を立て、その巨大な魔物の全体像が浮かび上がる。

「ちぃ、いよいよラスボスのお出ましってワケかっ!?」
「グハハハハハハハっ、貴様か!? 昨今《さっこん》、女王様の計画をチョコチョコと、かき乱していた、という、不逞《ふてい》の輩《やから》というのはァ!?」
 大音声を上げ、そう口にするそのモンスター。

「じょ、女王だと……?」
「あァ、そうだ、貴様が今倒した連中は……、女王様に使える親衛隊、アルトフラム黒の騎士団だ」
「アルトフラム……、し、親衛隊……?」
「そうだ……、ソレを全滅させるとは……、中々大したモノだ……、人間の中にもソレだけの「夢想力」を備えたヤツが存在するとはなァ? 一応、貴様という存在を、このワシも認めてやらなくては成らんようだ」
 少し苦々しげな表情で、ただ、しかし、コレから始まるであろう、最後の戦いに向けて高揚感《こうようかん》を感じているような楽しげな気持ちを含んだ声で、そう発するその巨大なモンスター。

「この連中は、その女王とやらの近衛兵だった、と、いうワケか……」
「そうだ……、一応我がワイリー・フラウの中では精鋭部隊と呼ばれていたのだがな……?」
 ソレを全滅させたオレに対し驚きを隠せないというような面持《おもも》ちでそう言っている。

「んで……、オマエは……、その近衛兵達の……、最後の砦《とりで》ってヤツか……」
「ハッハッハッハッハ、中々話が早いじゃないか?♪ その通りだ、アルトフラム師団長を務める、女王様よりその力を授《さず》かった、古《いにしえ》からの最後の生き残りとして魔族の長である……、クライアメル……、ソレがオレの名前だ……、コレから貴様ら人間どもにとっては幾人《いくにん》モノ悪夢に宿り、畏怖の対象として永く崇《あが》め奉《たてまつ》られる存在だ、しかと憶えておくが良い、この名前をなァっ!」
「ふん……、何だか知らネェが、どっちにしろ、その女王ってヤツの「使いっ走り」ってコトには変わりネェだろ、何が畏怖の対象だっ! 笑わせるなっ! ソレよりその女王ってのは何処に居るんだっ! オレはそいつに用があるんだ……っ、オマエなんかの相手をしているヒマは……ネェんだよっ!」
「へっ、中々口の減らネェガキじゃネェか、アルトフラムの連中をやっつけたってぇのも、満更偶然でも無いってぇワケだな? コレは少しは楽しめそうだ♪」
「ご託はもうイイ! 魔族の生き残りとか言っていたなァ!? ふん……、だったらテメェを倒してその魔族とやらの歴史に引導を渡してやるぜ! どっからでも掛かって来やがれ!」
「人間、というのはつくづく目先の効かぬヤツばかりだ……、貴様が今ワシに対し放った言葉……、ソレを思い切り後悔させてやるぞ……、ハ――ッハッハッハッハ♪」
 構えを見せ、戦闘の始まりを予感させるクライアメル。

「何でもイイ、オマエ何かには用は無ぇんだ……、ソコをどかネェってんなら……、貴様を倒して無理にでも踏み越えてやるまでだ、行くぜっ!!!!」
「フハハハハハハハ、何処までも口の減らネェガキだ、気に入ったが容赦はしない、覚悟しろっ!!」
「ふん、覚悟なんてモンはとっくに出来てらァっ! 喰らえっ! ストロムランド・アーリーレイドっ!!」
 そう叫ぶオレ、構えた夢想ライフルの先から強烈な光が発せられて、クライアメルに突き刺さる。
 バシ――――ッ!!!! 手応えはあったが、全くソレにひるむ様子が無いクライアメル。

「ハ――ハッハッハッハッハ、少しはやるようじゃないかァ、そうこなくっちゃァ、いけネェやっ!!!!」
 と、言うなりその巨体からは想像出来ないようなスピードで、ナオトに接近しその腕を大きく振り上げてから、ナオトに向かい勢い良く振り降ろす!
 ズガ――――――――ン! 辺りに砕けた地面が弾け飛び巨大な土煙が上がる。

「っ!?」
 クライアメルの腕が当たるより、一瞬早く「夢想防壁」を張り直撃を免《まぬが》れるナオト、しかしその力は半端無く、防壁ごと強烈な勢いで弾き飛ばされる。

「うっ、ぐ、ぐァ……っ、痛ぅ……っ!」
「ハ――ハッハッハッハ、貴様ら人間ごときの放つ「夢想砲撃」なぞ、この魔族の長たるクライアメル様にとっては痛くもかゆくも無いわっ!!♪」

「くぅ……、チキショ―、どうやら……、そういうコトみてぇだな?」
「フッフッフ、今更後悔しても遅いぞ? 小僧、このクライアメル様に戦いを挑んだコトをあの世に行って存分に悔やむがイイっ!!!!」
 再び俊敏な動きでナオトに襲い掛かるクライアメル。

 バシ――――――――ッ!
 再び、強烈な一打を喰らい弾け飛ばされるナオト。

「うっ、うぐっ! うぐァ――――っ!」
 と、苦痛に声が漏れるオレ……、チキショ―どうしたらイイ……、コイツマジに強ぇ……っ。

「ハ――ハッハッハッハッハ、貴様ら人間ごときがワシの相手など務まるハズが無かろう! とっとと諦めて、その運命を受け入れるが良い! コレから死ぬという、その運命をなァっ!!」

 再び突進してくるクライアメル。
 ダッ、ダメだ……、このままじゃやられる……、何とか何とか方法はっ、コイツを倒す方法は無いのかっ!?

 ガガ――――ン! クライアメルの攻撃により地面が弾け飛び、巨大な攻撃をなんとかかわしながら走り回るナオトの周《まわ》りに土煙が何本も上がっていく……。

 レミっ! どうしたらイイっ! コイツを倒すにはァっ…っ!

「ほらほら、どうしたァっ!? 貴様の攻撃はさっきのガキのオモチャみてぇなレーザー光線一発で終わりかァっ! そんなんじゃァ、このワシを倒すコトは出来んぞォっ! アルトフラムを全滅させた割には全く歯応えの無いヤツだァ――、その程度ではこのワシは満足せんぞ――ォ!」
 ズガ――――ン! ズガガガ――ン! 俊敏な動きでナオトの動きを封じ尚も強烈な一打を浴びせ突き飛ばし続けるクライアメル。

 ちっ、チキショ―、どうしたらイイっ!? このままじゃ、本当にコイツに殺られちまうっ! 考えろ! 考えるんだっ! レミはどう言っていたっ!? この夢想世界での戦いにっ!

 ズガ――ン! ズガガガ――ン! 夢想防壁を張りながら何とかクライアメルの攻撃を凌ぐのに精一杯のナオト。

「親衛隊を倒した貴様がこの程度では、女王様は満足せんぞォ! 見せてみろォ! キサマの本領を――ォっ!!」
 背中に付いた突起から光を放ちナオトを攻撃するクライアメル、その光線の威力は凄まじく、着弾した地面が大きく掘り返され爆風が吹き荒れる。
「ぐァ――――――――っ!!!!」

「ほらほらァ、もう後が無いぞ――ォ、どうするんだ? えぇ、小僧――っ!?♪」
 そして、もう一度突起をナオトに向け光線を放つ体勢に入るクライアメル。

 くぅ、ヤバイ! あんなのを喰らったらマジで堪《たま》ったモノじゃネェ! どうすんだ! どうすんだ! ナオト考えるんだ!

 そのとき一瞬、かつてレミが言っていた言葉が浮かんでいた……。

「此処《ココ》は夢の中なのよ? 現実世界とは全く違うの、想ったコトが何でもその通りに成る、最初はチョットコツがいるけどね?」
 その言葉が一瞬頭に過《よ》ぎる! そっ、そうだ! 此処《ココ》は夢の中なんだ、ってコトは、どんな武器でも想いのままのハズ! 今までで一番の武器は……っ! そうだ、あのとき、あのときっ!
 オレはかつてレミと戦った、モンド・ギリアスとの戦いを想い出していた。

「フフフフ、もう後が無いぞ? 小僧、コレでぇっ、デッドエンドだァ……っ♪」
 背中から伸び出た2本の突起、その先端からナオトに向け強烈なレーザー光を放つ体勢に入るクライアメル。

 あのとき! そうだっ! プラズマ・ガンデッド! アレで、あの強力な夢想巨大モンスターのモンド・ギリアスを一撃で仕留めたんだっ! アレなら! アレならきっとコイツにもダメージをっ!
 シュイイイイイイイイイイイイン……、クライアメルの2本の突起に光が集まっていく、最早ナオトに狙いを済ませたレーザー光は発射寸前と成っている。

 そのとき、オレは叫んだ!
「出でよ! プラズマ・ガンデッドっ!」
 そして、オレの手にあのとき、あのモンド・ギリアスを仕留めたフィーダー・デッドの必殺兵器が現れる。

「んあ?」
 その様子を観て苦笑するクライアメル。
「ふん、今更そんなオモチャみてぇな大砲でこのオレを倒せるとでもっ!?」
「やってみなけりゃあワカラナイさっ!!!!」
「だが、もう貴様は終わりだァ、喰らえっ!」
 クライアメルから2本の光線がナオトに向かって放たれる!
 ビシュ――――――――っ!!!!

 負けてたまるか! オレはこんなトコでやられるワケには行かネェんだ!
「オレはっ! オレはっ! ゼッタイにレミを助けるんだっ! そっちこそ喰らいやがれ! プラズマ・ガンデッド! いっけぇえええええええええっ!!!!」
 そしてその引き金を引くナオト、プラズマ・ガンデッドの強烈なレーザー光がその先端より発射される!
 バシ――――――――ッ! クライアメルの放った光線とプラズマ・ガンデッドの強烈な光線が空中で激突するっ!

「ぐぅうううううううううううううううううううううううう!」
「グァァアアアアアアアアアアアアアアア!」
 両者の声がその光線の衝突と共にその場に響き渡る。

「いっけええええええええええええええええええ!」
 叫ぶナオト、プラズマ・ガンデッドの強烈な光がついに、クライアメルの光線を弾け飛ばす!

「なっ、なにっ!?」
 ソレを見て、焦りと驚きを隠せないで居るクライアメル!

「プラズマ・ガンデッドは正義のヒーローの武器なんだっ! ソレがっ! ソレがっ! オマエのような悪の手先なんかにはゼッタイにっ! ゼッタイに負けるハズはァ、ネェんだよぉお――――――――っ!」
「なっ、なっ、なんだとおおおおおおおおおっ!」
 クライアメルの光を突破した、プラズマ・ガンデッドの強烈なレーザー光がついにクライアメルに到達するっ!!!!

「そっ、そんなバカなっ!? こっ、この魔族の長たるこのワシがっ! 人間ごときにぃいいいいいいいい!」
「いっけええええええええええええええええええええええええっ!!!!」
「うっ、うぐっ、うぐぐっぐウゥゥグウアァアアアアアアアアアアアア!」
 ガンデッドのレーザー光がクライアメルの身体を真っ二つに切り裂くように強烈に撃ち抜く!

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 ガガガガガ――――――――ン!!!!
 断末魔をあげ、その身体《からだ》が弾け飛ぶクライアメル

「やったかっ!?」
 はぁはぁ……、息を整えながら、地に伏したクライアメルの元へ駆け寄るナオト。

「バッ、バカな……、このワシが……、にっ、人間ごと、きに……」
 力無く、最後の声を振り絞るように、そう話すクライアメル……。

 駆け寄ったナオトが語り掛ける。
「オマエ……、魔族の生き残りって言っていたな……、本当にオマエが最後なのか……?」
 ソレに対し弱々しく答えるクライアメル……。

「ぁ、ぁあぁ……、ワシが最後の生き残りだ……、ソレを、ソレを……」
「ソレを……、なんだ……?」
「女王様がワシの力を見込んで、近衛兵の司令官にしてくださったんだ……」
「…………」
「そっ、その期待に……応えられなかった……、オマエ……人間にしては……、大したヤツだ……、さっ、最後に名前を聞いても……、いいか……?」
 遠のく意識を必死に堪《こら》えるように、声を振り絞っているクライアメル……。

「ナオト……、嘉坐原《かざはら》……ナオト……、オマエの最後に戦った男、ソレがそのオレの名前だ……」
「そっ、そうか……、オマエみたいな強いヤツが居るってワカッテいたら……、オレは……、もっと別な方法で……、魔族を生き残らせるコトを……、かっ、考えていたかもしれない……な……」
「クライアメル……、オマエはオマエなりの方法で自分達のコトを考えていたんだな……」
「ハッハッハ……、ま……、でも、その夢も……、もう叶いそうには……無いけど、な……」
「今は科学が世の中を支配している、そんな中で……オマエ……、いやオマエ達は……何処にも居場所が無く成ってしまって居たんだな……、もっと早くオマエのようなヤツが居るっていうコトに気付いていられれば……」
「ハッハッハ……、このオレに情けを掛けるのか……? いらぬ同情というヤツだ……、戦って……死ねるコトは戦士の証だ……、最後に……オマエみたいな、強い……強い気持ちを持ったヤツに出会えて……、ワ、ワシは……良かったの、かも……しれん…………」
「…………、もし、次にオマエと出会えるコトがあるならば、もっと別な形で出会いたかったな……」
「フッフッフ……何処までも甘いヤツだ……、そんな考えでは……、まァいい、さらばだ…若き戦士よ……、ワシは魔族……行く先は地獄かもしれんがな……、ハッ、ハハハハ……」
「そんなコトは無い、オマエの弔《とむら》いはしてやる、必ず、きっと今度生まれ変わるときの為にしっかりと見送ってやる、だから、そんなコトを言うな……」
「……、あ……、アリガトよ……、オレは最後に…………、ようやく…、誰かを信じる、と、いう……、コトが……出来、たの、……かも……しれん……、さ、サラバだ……若き、戦士よ……」
「…………」

 その言葉を最後に、息絶えたクライアメルだった……。

   【 第二十五章 】

 オレは、木を積み上げソコに粉々に成ったクライアメルの身体を運ぶと、その閉じられた眼の上に1枚ずつ金貨を載せた……。

「三途の河の渡し賃だ……、受け取ってくれ……」

 そして……。
「ファイアー」
 積み上げられた木に火が灯され、クライアメルは荼毘《だび》に伏した……。

 最後まで「戦士としての誇り」を持って戦ったクライアメル、その亡骸《なきがら》にオレは言葉を掛けていた……。

「我が友よ、また逢おう……、でもそのときは……、出来るコトならば……敵味方の関係では無く……、良き友人として出逢おう……、クライアメル……あの世に行っても……元気でな……」
 そうして眼を閉じ、暫くの間、オレは……その冥福を祈っていた……。

 そのときのコト……、突然、バタバタバタとけたたましい音が聞え始め、その音の方を見ると、黒い大きなヘリコプターがコチラに向かい着陸して来ている様子が眼に入っていた、ヘリコプターの放つ風でクライアメルを覆《おお》う荼毘《だび》の火が大きく吹かれ揺れている……。
 そしてその黒いヘリからは、一人のローブをまとった人物が降りてくるのが見えていた……。

「あらあら……、随分と感動的な光景じゃない?……もしかしてお邪魔だったかしら?♪ 戦った相手に冥福の祈りを上げちゃうなんて、もぅ、サイコーに笑えちゃう……♪」

「てめぇ…………」
 その言葉に対し、明らかに敵意を感じているオレ、しかし、その声は何処かで聞き覚えのある声……、そんな気がしていた……、そうだ、あのとき……っ、あのとき、レミを連れ去ったときに一瞬聞えた声、ソレがコイツだ……、ってコトはコイツがレミをさらって行った首謀者か……っ。

「オマエが……、レミをさらった連中の親玉か……」
「ウフフフ♪ まァ、そういうコトに成るわね? アナタにとっては、許されざるにっくき相手っていうトコロかしらね?♪」

 そう言って不適な笑みを浮かべながら、ユックリとオレの方へとやってくる、その声の主……、どうやら、コイツが……、今までレミと共に散々戦って来た……、ワイリー・フラウを率いている首謀者だというコトに間違いは無いようだった……、いよいよ「おでまし」ってワケか……、そんな緊張感を、速く成って行く心臓の鼓動と共に感じているオレが居た。

 そうして現れた、オブストラクト・ワイリー・フラウの黒幕……、その姿を観てオレは……愕然《がくぜん》とした…………。


「リ……、サ………………?」


 そう……、ワイリー・フラウを統括している第一指揮官ソレは……、オレが心からその気持ちを奪われていた……、オレの……恋人……リサだった…………。

「何よ、その顔? そんなに驚くようなコトかしら……?」
「オマエ、何やっているんだ、そんなトコロでっ!」
「観ての通りよ♪ 人は夢を観る、何でかワカル?」
「何をだよ…………っ」
「潜在意識に、自分のイイ記憶を刷《す》り込んでいく、ソレがアナタ達が夜に観ているっていう夢……」
「何が、言いたい…………」

「まだ、ワカラナイの? 欲望の芽って何処から来るのかしら……、自分が欲しいモノ、誰が決めるの? 人は夜寝ている間に、自分の行動を知らず知らずのウチに、育《はぐく》んでいるの……、アナタもあるでしょ? 買いたいと思っていなかった品物を目の前にして、突然買って帰ってしまうコト……、なんでかワカル……?」
「ソレが……、寝ている間に人間が自分の心に刷《す》り込んでいっているコトだって言いたいのか……?」
「そう、話が早くて助かるわ? さすが、アタシが見込んだ男ね? そんなトコに居ないでコッチに来なさいよ、いいモノを観せてアゲるわ? 連れてきて」
 そう言って手下に合図を送るリサ、その合図を受けてヘリコプターの中から黒い兵士に囚《とら》われたレミが姿を現す。

「レミっ!!!!!!」
「何よソレ? アンタまだこんな年増女のコトを気にしていたワケ? 呆れちゃう」
「その娘を放せ!」
「…………」
「放せって言ってるんだっ!!!!!!!」

「ふん、そう簡単に自由にしてアゲるワケには行かないわね? ワカッテいるでしょ? アンタだって、もう子供じゃないんだから……」
「オマエ、自分が何をやっているかワカッテいるのかっ!? リサっ! どうしちまったんだよオマエはっ!!!!??」
「別れた女のコトなんてどうでもイイじゃない? ソレとも、まだ未練でもあったワケ? こんなオバンに」
「どうしちまったんだよ、オマエは……、オレと一緒に居たときのオマエは何処に行っちまったんだよっ! 素直で優しくて健気《けなげ》で誰からも愛されて……、周《まわ》りに居る人達をいつも気に掛けて先回りしてみんなを大事にしてくれる……、ソレがリサじゃ無かったのかよっ!?」
「ふん、バカバカしい……、そんなのにだまされるようだから、アンタはまだまだ子供なのよ、考えてもみなさいよ」
「何をだよ……っ」
「人の行動原理は潜在意識に支配されている、その潜在意識は夢の中で創《つく》られる、アタシや、ワイリー・フラウのメンバーはソレを操《あやつ》れるのよ? ソレがどういうコトかワカラナイの?」
「オマエ、まさか……っ」
「そう……、世界中のドリーム・ウォーカー達にアタシ達の因子を埋め込めば、世界中の人達をアタシの意のままに操《あやつ》れるっていうコトよ♪ そうしたら、どう? 欲しいモノなんて簡単に手に入る、世界一の大金持ちなんてケチなコトは言わないわ? 国ごと手に入れられる……、要は夢の世界を支配すれば、世の中全てを手に入れるコトが出来るのよ?♪」

「そんなの……、マトモな人間の考えるコトじゃない……、オマエどうしちまったんだよ、本当に……、あのとき…、あのとき……、オマエと一緒に成ると誓い合ったとき、流してくれた涙は何だったんだよっ!? 人を好きに成り、幸せの本当の意味を知っているからこそ、流してくれた涙じゃ無かったのかよっ!?」
 オレは悲しみと怒りと絶望のような気持ちからそう叫んでいた……。

「アハッハハハハハ、男って本当に……単純……、女が涙を流すの何てのが、心の底から嬉しくて流した涙だと本当に想っているワケ? あんなの「社交辞令」に決まっているじゃない、おめでたいにも程があるわ?」
「オマエ、本当に一体どうしちまったんだよ……っ、オレが好きに成ったリサは何処に行っちまったんだよっ!?」

「そんなの、アンタとつるんでたソコの女と別れさせる為に決まっているじゃない、ソコの女はずっとアタシ達の邪魔をしてきた、だから一度こっぴどく痛い目に遭わせてやったのよ、なのにノコノコとまたしゃしゃり出てくるように成って、その根性には正直敬服しなくも無かったけれど、アタシは夢の世界を支配するつもりでいる、だから邪魔に成るモノは排除する、そんなの当たり前でしょ? 欲しいモノは手に入れる、その女を悲しませる為に、目障りだったから現実社会でも痛い目に遭わせてやったのよ、その為に、アンタとソコの女を別れさせた、面白いくらいに簡単だったけどね?♪」
「オマエの言いたいコトはワカッタ……、だが、レミを放せ、コレ以上オマエにっ、好き勝手なマネをさせるワケには行かネェ」

「あら……、ナカナカいい顔をするじゃない? アンタは黙ってアタシに着いてくればイイのよ、夢の中でも現実社会でも……、そうしたら、幾《いく》らでもコレから、好きなだけイイ想いをさせてアゲるわ? さっきも言ったでしょ? 人の潜在意識を支配すれば、何だって手に入るって……、アナタをこの星の王様にだって、このアタシはしてアゲられる、ワカル? たかが高校2年で世界を牛耳れるのよ? ソコの腐ったオバンなんかと一緒にちまちまとアタシ達の邪魔をして本当に世の中を変えられるとでも想っているの?」
「オマエの方こそ、世の中を甘く見過ぎているぞ……」
「何よソレ……、アタシに説教でもするつもり?」
「あァ……、一度は恋人に成ったよしみだっ! ゼッタイに忘れてはいけないコトを教えてやるっ!」
「なっ、何よ、偉そうに……、アタシはこの夢の世界を支配しているのよ? いずれ、現実社会もアタシ達の因子に染まっていく……、アンタや、そのアンタが言おうとしている何らかの力が、本当にソレを食い止められるのかしらね……」
「甘い考えは捨てろっ! 確かにオマエのやろうとしている方法で……、この世界を一度は支配するコトはもしかしたら可能かもしれない……、でも、ゼッタイにオマエの邪魔をするヤツは後を断《た》たない、今はイイかもしれない、オマエのその強大な権力をこの夢の世界で手に入れたトコまでは認めてやる……、でも、人が人を想う本当の気持ちはそんなには簡単にっ! 奪い去るコトなんて出来ネェんだよっ!!!!」
「…………」
「とにかく、レミを放せ……、コレ以上レミに何かをしようとするのなら……、オレは本当にオマエを許さない……っ! 何があっても……、どんなコトがあってもなっ!!!!」
 オレはリサの正体を知った絶望感を感じながらも、最後の力を振り絞ってそう叫んだ。

「ふん…………、惜しいコトをしたわね? せっかく……この歳で世界をその手に出来るっていうのに……、ソレに目もくれないなんて…………」
 少し残念そうな表情のリサ、そして……。
「その娘を放して」
「はっ!?」
 なっ、何を言っているのか?と、いった感じで、慌てているリサの手下達……。

「ふっ、ったく……男の子って何でこんなに頑固なのかしらね……、イイわ♪……アタシの負け……、現時点でこの世界ではアタシの方が完全に有利なはず……、いずれ実際にアタシはこの国どころか、世界をまるごと手に入れる……、ソレだけの条件付きでも目もくれないなんて……」
「じゃ、じゃあ……っ」
「ふん、勝手にしなさいよ、ワタシはワタシのやり方でやらせてもらう……、アンタはアンタのやり方で、そのアンタの言う幸せっていうのをつかみなさい……、ただし!」
「なっ、なんだよ……っ」
「次は無いと想いなさい、ウソっぱちの気持ちからだったとは言え、一度はアタシが恋人にした人……、ソレに免じて見逃してアゲる、その娘を……、レミを解放して」
「……っ!?」
 正直、レミを解放しろと命じたリサを、すぐには信じられないと、いった気持ちで見つめているオレ……。

「でもいいっ!?」
「なっ、なんだよ……っ」
「アタシにはアタシの想う幸せの形があるの……、ソレが残念ながら世の中の人達が想うようなのとは少し違っているだけ、結婚やら子育てやら、冗談じゃないわ? アタシは自分の人生を自分の持っている力を最大限に発揮して手に入れられるモノを全て手に入れたいの、ソレが……アタシの、現時点でのアタシの気持ち……」
「…………リサ……」
「もし、いつか気が変わって、アンタ達の言うようなごくごく平凡な♪ 凡人達の想うような幸せに少しでも魅力を感じてしまうような日が来るとしたら……、そのときは……、改めてお茶くらいは付き合ってよね」
「リサ…………っ!」
 その言葉を聞き、諦めたようにレミを解放する手下達……。

「ボ、ボス……本当に、イイんですか……?」
「…………、ワカラナイわ……、ただ……、なんとなくそうした方がイイような気がしただけ……ただ……、なんとなくよ…………」
「リサちゃん……」
 解放された後、少し後ろを振り返り一言そう言って、ナオトの元へ駆け寄るレミ……。

「別れるってのは、つらいわね……、ふん、せいぜい末永く、お幸せにね、じゃね♪」
 そう言ってヘリコプターに戻っていくリサ。

「リサッ!」
 オレはそう叫んでいた。
 その声をヘリのプロペラ音が掻き消す、でも構わずオレは叫んでいた……。

「世の中は簡単に行くコトばかりじゃないんだっ! だからっ、もし思い通りに成らなくなってどうしようもなくなったら、いつでもオレのトコへ来いよなっ! 待っているんだからなっ!!!!」
 声が届いたかワカラなかったが、飛び去って行くリサが載ったヘリコプターに向かいオレはそう叫んでいた……。

「ふん……、そんなコト位はワカッテいるわよ……、少なくともアタシの涙にすぐにその気に成っちゃうようなお人好しのアンタなんかよりずっとね♪」

 遠くへと飛んで行くヘリコプターを見つめるオレとレミ……、今起こったコトが正直、どう頭の中で整理すればイイのかわからず、暫く呆然としていた……、って、よくよく考えてみたら此処《ココ》は夢の中……、頭の中の整理が付かないのも無理はないのか?とか、チラッとそんなコトを思ったオレが居た……。

「リサちゃん……、行っちゃったね……」
 つぶやくようにレミが言う……。
「あァ……、って、オマエ大丈夫だったか!? ヒドイことされなかったかっ!?」
 レミが捕《つか》まっていたコトを想い出して慌ててそんなコトを聞いていた……。

「ぅぅぅん……、何処か場所はワカラなかったけど屋敷に閉じ込められて居ただけ……、何も……無かったよ……」
「そうか……」
 ただ、そう言うしか無かった……。

「オレがもっと早く本当のコトに気付いていられれば……、レミ……ゴメン……、オマエの言う通りだった……、なのにオレはリサと……」
「イイの……、囚《とら》われの身に成ったアタシを助けに来てくれた……、ソレだけで嬉しいから……」
「かっ、返す言葉が無いよ……、何て言ったらイイのか……」
「もう……、本当にナオトくんは優し過ぎるよ……、また甘えたく成っちゃうじゃない……」
「……っ!?」
 その言葉を聞いて何て答えたらイイのかワカラなかった……、リサとは別々な道を歩むコトはもう間違いない……、今、起きているコトを、朝眼が覚めたときに、どこまで憶えているかもワカラナイし……、ソレと……、おそらく、と、いうか……、リサとはコレっきりに成って、また一人に成る……、そう想うと、何ていうか手前勝手過ぎるとはワカッテはいるのだが……、またレミと…やり直したい……、そんな気持ちがうっすらと浮かんでいた……、多分、リサにはきっと、こんなオレの気持ちなんかもお見通しなんだろうな…? そんなコトを考えながら……。

「ゴメンね……」
 レミはそう言った……、全てのコトの発端は自分にあるという想いからだろうな? そんな考えが頭をかすめた……。
「レミが謝るコトじゃないよ……、レミのコトを好きに成ってノコノコ色々なトコロに着いていったっていうのが本当のトコロで……、正直 言って……正義感だけで着いて行ったワケじゃなくて……、レミの笑顔に癒されたくてずっと傍《そば》に居たかったっていうのが本当のトコロだから……」
「もう……、だから、そういうコトばっかり言っていると、また甘えたく成っちゃうじゃない……」
 少し嬉しげに笑顔でそういうレミ……。
「ナオトくんが助けに来てくれなかったら、アタシきっと……、あのまま幽閉されていたままで……、きっと起きてからも、何も出来ない毎日を送るコトに成っていたって想う……」
「そ、そっか……」
 チョット照れくさげにそう言うオレ……。

「リサちゃんと付き合って居たのに……、アタシのコト、助けに来てくれた……、正義感が無い人はそんなコトをしてくれないよ、ゼッタイ……」
 本当に嬉しいと想ってくれているのか…、レミの眼には少し涙が浮かんでいた……。
 って、待てよ、今さっきリサに……「そんなのは、ウソっぱちに決まっているじゃない」とか言われたトコロだったっけ……、って、でも……、レミの眼に浮かんだ涙……、オレにとっては、少なくともオレの中では……、とても嬉しく感じられる涙だった……。

「あ、今、リサちゃんのコト考えてたでしょ?」
「ぇっ!?」
 図星を突かれ焦るオレ……。
「もう、本当にワカリやすいな……」
 その様子を見て、またいつもの「天使のような笑顔」を浮かべるレミ……「やっぱ、可愛いんだよなァ、レミ……」って、オレ本当に、なんかいわゆる女の人にだまされやすいタイプなんだろうなァと、少し自分で自分がイヤに成るのを感じていた。

「色々あって疲れちゃった……、お腹一杯なんか食べたい気分♪」
 全く同感だと想ったオレが居る。
「うん……、ラーメンか牛丼かチャーハンかチンジャオロースか焼き鳥かお好み焼きかハンバーガーかフライドポテトかピザか何かが喰いてぇな?」

「食べたいモノあり過ぎ……♪」

 と、コロコロと可愛らしい表情で笑っているレミ……、何ていうか、いつものレミがようやく戻って来てくれたっていうような気がした……「明日から、オレ学校でリサと遭ったとき、どんな顔をすればいいのかワカラナイ」と、いうようなコトが少し頭に浮かびながらも……レミが明日から学校に復帰してくれそうな予感を感じられたのがチョット嬉しかった……「今日のトコはもうお役ゴメン」って感じかな? そんな風に想い、その日はまた深い眠りへと入って行ったのだった……。