【 第十二章 】
ある日の晩、いつものようにワイリー・フラウに汚染された人を探して、夢の世界を移動していたときのコト……、と、ある人の夢の中に入ったオレ達。
「どうも、コンバンハ、ちゃきちゃきの江戸っ子です!」
と、言うその夢の主。
「なんか、自分で言ってるぞ?」
「そういうのは、何か言われてから言い返すときに言うコトなような気がするんだけど……」
「そんなコト無いですよ、ワタシはちゃきちゃきの江戸っ子よ」
と、再びその夢の主。
「なんなんだ? コイツは……」
「さァ……、まァ夢の中だからこういう人も居ると言えば居るのかもしれないけれど…」
と、レミ。
「ソレはイイとして、オマエ悪いヤツなのか?」
「はい、ワタシは悪いヤツです」
そう即答している。
「なんか、あんまりそんな感じがしないんだが……」
「そうね、この人からは悪いオーラが感じられないわね?」
「そんなコト無いですよ、ワタシはモノ凄い悪いヤツですよ」
「だから、そういうのもあんまり自分で言うコトでは無い気がするんだが……、おい、この人を早くスキャンしてくれよ」
「うん……、チョット、待って」
と、言ってハンディ・スキャナーをその夢の主にかざすレミ。
ビ――――。
軽い起動音がして、スキャンが終わる。
「どうなんだ?」
「カラー・グリーンだわ」
「ってっ、オマエ違うじゃネェか?」
「何が?」
「普通にいいヤツじゃネェかよ」
「そんなコト無いわよ、アタシは悪いヤツよ」
何でか知らないがそう言い張っている。
「何でそんな悪いヤツぶりたがるのよ……」
レミは、この人のキャラが可笑しくなって笑い始めている。
「ソレに、最初の江戸っ子っていう「言い張り」は何だったんだよ?」
っと、ツッコまずには居られずそう言うオレ。
「ちゃきちゃきの江戸っ子なのよ、このアタシは」
っと、何処までも強情なその夢の主。
「そんなに言うなら何か、その江戸っ子エピソードを聞かせてみろよ」
「ワカッタわよ、聞いたらビックリするわよ?」
「なに、ビックリするって?」
なんなの? と、いった感じでチョット笑いをこらえている様子のレミ。
「アンタ達が、アタシがどれだけ江戸っ子かっていうのでビックリするって言っているのよ」
「何だよソレ……、なんだビックリする江戸っ子っていうのは……、そんなに言うなら聞かせてみろよ、ソレを……」
「アンタ達が想像しているより遥かにアタシは江戸っ子なのよ」
「ワカッタから早く聞かせてみろよ、そのビックリする江戸っ子ぶりってぇのを……」
「いいわよ、ビックリするんじゃないわよ?」
と、その夢の主。
「おい、この会話要るか?」
「何が?」
と、笑いながら答えているレミ。
「コレ本編と関係あるのか? こいつグリーンなんだろ?」
「うん」
「じゃ、もうとっとと次に行こうぜ?」
「まァ、そうなんだけど……」
そう言いながら、レミはまだ可笑しそうに笑っている。
「ビックリするって言っているじゃないのよ、何よ、聞いてきたのはアンタ達でしょ? だったら、ちゃんと最後まできちんと聞いて行きなさいよ」
「ワカッタよ、そんなに言うなら聞いてやるから、早くオレ達をビックリさせてみろよ」
何なんだコイツは…、とかチョット思いながらそう言うオレ。
「イイわよ……、このアタシはネェ」
「うん」
「お祭りが好きよ」
「……」
「……で?」
「ちゃきちゃきでしょ?」
「おい、この人とコレ以上関わる必要があるのか? ページ数を無駄にしていないか? なんか……」
「いゃまァ、そうなんだけど…、なんか可笑しいんだもん、この人♪」
そう言ってレミはさっきからずっと笑っている。
「いゃまァ、オレも決して嫌いなタイプでは無いとは想うんだが、要るか? このやりとり……」
「正直、必要無いかも……」
と、言いながら可笑しそうに笑っているレミ。
「驚いたでしょ?」
「なにがだよ」
「アタシが凄いちゃきちゃきだって」
「全然そんなんじゃ驚かネェよ、江戸っ子がお祭り好きってのは当たり前じゃネェかよ……」
「……」
ツッコまれて閉口している夢の主。
「おい、もう行こうぜ? この人グリーンなんだろ? このまま好きにさせて早く次に行こうぜ?」
「うん……、まァそうなんだけど、何か面白い、この人……♪」
レミはこの人がツボに入ったようだ。
「ちゃきちゃきよ」
「ちゃきちゃきなのはイイよ、でも全然驚かネェし、オマエいいヤツじゃネェかよ」
「アタシは悪いヤツよ」
ああ言えば、こう言うっていう感じの対応を繰り返す夢の主。
「ったく…、なんか無駄に天邪鬼なヤツだな……」
「なんでアナタ、アタシ達に江戸っ子って想って貰いたいの?」
「ちゃきちゃきだからよ」
まだ、そんなコトを言っている。
「おぃもう行こうぜ? なんか話が進まネェよ、この人……」
「そうね? まァ夢の中だし会話が成立しないのもしょうがないわ、多分、江戸っ子って言われたいって心のどっかで想っているのよ、この人はきっと」
そう言いながらまだレミは可笑しくて堪《たま》らない様子だ。
「うん」
と、うなづくその夢の主。
「やっと、マトモにうなづいてくれたぞ……」
「そうみたいね、とりあえず言っておくけどアナタは悪い人じゃないわよ?」
「そんなコト無いわよ、アタシは悪いヤツよ」
何処までも一歩も引かないでいる。
「おぃ、もう行こうぜ? 本当に……、なんか、とにかく、話が進まネェよ、この人……」
「そうね♪」
ようやく満足してくれたのか、次の人の夢へと移動するのを承諾したレミ、そしてオレ達はまたワイリー・フラウに汚染された人を見つけに他の人の夢へと移って行った……。
「ったく、今のヤツは、なんていうかこう、身に成らないっていうか、なんか無駄に時間食っただけのヤツだったな……」
「まァ……そうかもしれないけど、アタシ的にはチョットツボに入った……、あの人……♪」
そんな感じで、レミは今の人をチョット気に入った様子だったが……、一応、睡眠時間を削っているというワケでは無く、オレも今、眠っている状態だから別に構わないと言えば構わないのかもしれないのだが……、どうせならもうチョット「有効な夢」を観ている人の中に入りたい……、そんな風に想ったその日の夜だった……。
【 第十三章 】
「ステッパー?」
レミの言う聞き慣れない言葉に、何だ? ソレは、と、いった感じの反応を返すオレ。
「そう、アナタの中にある簡単に言うと、アナタがアナタの周囲の人達に対する影響力に当たる部分」
「ソレもまた、無意識下に備わっている力とかなんかそんなヤツなのか?」
「うん……、誰もが持っている力なんだけど……、アナタのステッパー領域は普通の人より遥かに強くて大きい部分を占めているの……」
小難しい話を極力「平易《へいい》」な言葉で説明するレミ。
「オレに……、そんな力があるなんて……」
「アナタは気付いて居ないだけ……、前にも言ったけど、ほとんどの人はその力に気付かずに一生を終えるコトが多いの」
「ソレが……、夢の中を渡り歩く力に成るっていうのか?」
「うん……、幸運にもというか、アタシにもそういう力があるって気付いたのは小学生の頃……」
「随分、早い段階でそんなのに気付いたんだな?」
「うん……最初は良くワカラなかったけど、あるとき気付いたの……、自分とは余りにも掛け離れた内容の夢……、そういうのをときどき観るコトがあったから……」
少し、その頃のコトを想い返すように静かにそう説明しているレミ。
「で、ソレが、自分のでは無く、他の人の夢の中だって気付いたのか……」
「そう……、ソレで、身近な人から始めて……、その内に段々とその距離を広げて行くみたいな感じで……」
「ちなみに、今はどの位、遠い人の中に入り込めるように成ったんだ?」
話が核心に近づいているコトを感じ、思い切ってそう質問してみた。
「ほとんど世界中、夢の中だから意識疎通みたいなのは出来るんだけど、全く知らない文化圏・言葉……、そういう人達の夢の中も何度か観るコトが出来たから……、おそらくもう……、世界中の人の夢の中に入れるんじゃないかな?って、今はそう想っている……」
すぐには信じられないような話だが……、とにかく、そういうコト何だろうな?と、思い聞いていた……。
「で、ドリーム・ウォーカーだってワカッタ訳だ……」
「そう……、明らかにアタシが知るはずも無いような夢を良く観るように成っていたから……」
その頃のコトを思い出しているのか、どうかはワカラナイが……、チョット物憂げな表情でそう語るレミ……。
「あんまり、嬉しく無さそうだな?」
「……」
オレには想像も付かないような「夢の中」を、その眼にして来たのか……、観たくは無かった夢も観なくては成らなかったと、そういったコトがあったのか……、少しの間、押し黙るレミ……、そうして少ししてから、また重い口を開くかのように話し始める……。
「うん……、人の深層心理って……、結局は、どんな人も最終的には、自分のコトばかり……、世の中ってこんなに「自己中心的」な人で占められた世界なのか?っていうのが段々とワカッテ来るにつれて……、まだ子供だったアタシには……、どうしてイイのかワカラなく成っていたの……」
そう寂しげに語っている。
まァな? 高校生に成った今……、オレもそんな風に感じているコトが多々ある……、純粋無垢だった子供の頃には起こり得なかったような「いさかい」が日常あちこちで起こっているし……テレビのニュースの内容を理解出来るように成った今……、どのチャンネルを観ても、何ていうかそのほとんどは「暗い内容」を伝えるニュースばかりだ……、この世の中に「叶う夢」なんてのを信じているのは、ほんの一握りの「能天気な性格の持ち主」か若くして「自分の才覚」に目覚めたごく稀な人物にとってのみが持ち得る「明るい展望」で……、一般のごく普通の凡人にとっては「夢」なんてぇのは、ソレこそ本当にただの「夢物語」で終わってしまうモノ……よくそんな風に想っているオレが居るのは確かだから……。
「で? オマエは……、その、人の夢の中を渡り歩くっていうのを、何で続けたんだ? どこ見ても「自己中な人」ばかりでイヤな気持ちに成って居たんだろ?」
「うん……、そうなんだけど……」
ソコで、またレミは何かを思い返すように口を閉ざした……。
子供の段階で世の中に幻滅するような、世界中の「人の深層心理」を垣間見てしまったんだ……、ショックを感じても不思議じゃない……、今のオレにとっても、世の中で起こっているコトのほとんどは……、何ていうか「関わりたくない」、そう感じてしまうコトの方が多いから……。
「だけど、こう考えるように成って行ったの……」
レミは、思い返していた記憶を頼りにするかのように……、打ち明けるようにその言葉を口にした……。
「アタシは人の夢の中を観るコトが出来る……、だとしたら、その夢に対して何らかの影響を与えるコトが出来るんじゃないか?って、そうしたら、少しずつかもしれないけど……、暗い気持ちで覆われている人の心を「明るい気持ち」に変えて行くコトも……、もしかしたら可能なのかな?って……」
随分と大胆な話だ……、とも、思ったが……、小学生にしては大分思い切った考えに行き着いたモノだな、と、チョット感心するような気持ちでその話を聞いていた……。
「ソレで……、人の中にある「悪い部分・暗い部分」に眼を背けないで、そういう夢も正視していくようにしていくウチに……、共通するキーワードみたいなモノが、色んな人の中に根付いているのがワカッテ来たの……」
「キーワード?」
「そう……、表向き明るい夢を観ている人でも、深層心理では闇を抱えていたり、そういう人って良く居るでしょ?」
「うん……」
「その人達は、自分でそう成ったんじゃなくて……、誰かワカラナイけど、とにかく外部の力で、そういう部分を増幅させられている……、そういうのが見えて来た……」
「ソレが……?」
オレは、一生懸命語り続けるレミに一歩踏み込むように、そう聞いてみていた……。
「そう……、オブストラクト・ワイリー・フラウ……、何かに悲しんだり、色んなコトに躓《つまづ》いていたり……、世の中に対してネガティブな想いを抱いている人の潜在意識には決まって、その言葉が刻まれていた……」
聞いていて、理解に苦しまないワケでは無かったが……、大体言わんとしているコトはワカル気がしていた……。
「要は、潜在意識に入り込んで、そのワイリーなんとかっていうのが……」
「そう……、暗躍しているっていうのが……ワタシにはワカッテ来たの」
少し悲しそうに、ただハッキリとレミはそう言った……。
「どの世界にもそんなのがよく、後ろで糸を引いているって聞くが……」
「うん……、何ていうか……、インターネットにもウィルスをばらまく人が居るように……、夢の世界でも、そういうコトをしている人が、一人か二人か、ソレか組織的にかまではワカラナイけど…、とにかくそういう動きがあるコトがワカッテ来た……、だから……」
「オマエはそういう連中を……」
「うん……、誰かが、ソレを食い止めて行かなくちゃって……、そう、想ったの……」
レミとはコレまで色々な話をして来たが……、正直、言葉に成らなかった……、子供の頃からどうやらレミは、夢の世界にはびこっているウィルスみたいなのをバラ撒いてる連中に……、たった一人…「宣戦布告」を始めた、と、いうワケだ……、信じ難い位に正義感に満ち溢《あふ》れた行動だとは想うが…、随分と大胆な決心をしたモノだと……、そのときのオレはそう……感じるのが精一杯だったが……。
その後も、毎晩のようにレミと話をしているウチに……、少しずつでもレミの手助けに成れるコトが無いか?と、いったコトを想うように成り……、気が付けばオレも……、夢の中でのレミとワイリー・フラウ達の戦いへと、その身を……投じて行くコトに成っていったのだった……。
そんなやりとりがあった後《あと》、と、ある日の夜の夢の中……。
「この人が、その……」
「そう、ワイリー・フラウに汚染されている人……、チョット突つくと、その正体を現すわ」
「んで、その連中と……」
「うん、ワタシは闘って居る……、ナオト君程のまぶしい光の力を持った人が力を貸してくれれば、こんなに心強い味方は居ないわ?」
「ワカッタよ……、そうまで言われちゃ黙って居られネェ」
「来るっ!」
その夢の主の姿が一人の魔物の姿へと変貌する。
「行くわよっ!!」
「おぅっ!!」
その日から、オレはレミと連れ立ってワイリー・フラウとの戦闘に身を投じて行ったのだった。
【 第十四章 】
晴れてカップルと成ったオレとレミ、それから少し経った頃のコト、レミがこんな提案をしてきた。
「どっかに遊びに行こ―っ♪」
と、いうワケで放課後の二人…。
「さて、何処に行くか? 正直、デートってしたコトネェからよ? 何すりゃイイんだ?って感じなんだが……」
と、少しコンプレックスを隠すようにして、改めてそう口にするオレ、夢の中では毎晩色んなコトをして遊んだりはしているモノの、この現実世界でレミとどっかに出掛けるっていうのはコレが初めてのコトだったからだ。
「遊園地行こっか?♪」
と、上機嫌な様子のレミ。
「遊園地か……、ま、ソレはイイとして、オマエ、その様子だと期末テストの出来が良かったみたいだな?」
チョット、突っ掛かるようにそう言うオレ。
「うん♪ 狙ったトコばっちりだったっていう感じ」
「オマエ、まさか夢の中でテスト作ってる先生の頭の中を覗いたりしたんじゃ無いだろうな?」
「ぉう、その手がありやしたか♪」
と、ケタケタと笑っているレミ、ま、さすがにそんなコトまではしないか。
「卑怯なり」と、冗談っぽくツッコんでみるオレ。
「してないってば、そんなコト……、実力よ、じ・つ・りょく♪」
偉く、上機嫌だな? ソレに比べてオレは、と、いうと……、いつものごとく……、来週返却されるであろうテストの点数を想像して、どうにも浮かれた気持ちには成れないで居るのが正直なトコロだ……。
「ね♪ そんなコトよりさ、つまんないコトは忘れて、パァ~っと行こうよ、パァ~っと♪」
「おう」
ま、イイ提案ではあるな? そう想い、テストの点数のコトはひととき忘れて、レミとの、と、いうか、初めての「デート」ってぇのに、いそしんでみようと気持ちを切り替えた。
「んで、なんだ? 遊園地でイイのか?」と、オレ。
「うん、ライドパーク行ってみたくて」
そっか……、レミは、3年間引き篭もって居たんだもんな? きっと、こういうのも久しぶりのコトなんだろう?とか、チョットそんなコトを思ったりした。
「あっ、今、アタシが引き篭もりだった、とか、そんなコトを考えてたでしょ?」
うっ、鋭いツッコミ……。
「ぇっ、いやっあのっ!」
動揺を隠せず、思わずそのままの態度が出てしまう。
「うん、もぅ……、ま、でも本当のコトだからしょうがないか」
「久しぶりなのか?」
「うん……、小学校のとき行って以来」
「そっか、じゃ、なんていうか、今日は思う存分楽しむかっ!」
「お――――う♪」
と、いうコトで「ライドパーク遊園」にやってきたオレ達。
色々とアトラクションはあるようだったが、やはり「遊園地」の定番と言えば「ジェット・コースター」まずは景気付けにと、いった感じでそのジェット・コースターから乗るコトにした。
「オレも久しぶりだぜ? 家族に連れられて小学校のときに来て以来だからな?」
「なんだ、じゃあアタシと一緒じゃん、思いっきり楽しもうね? 今日は♪」
「おう!」
とか、何とかそんなやりとりをしているウチに、動き出すコースター、ガンガンガンガンガン……、と、いう音を立てて、段々と上へ上へと登っていく……、いやがうえにも緊張と期待感が高まる……。
「ひょえ~~、高ぇなァ? コレこんな高いトコまで上がってたっけ?」
「アタシも驚いている、小学校のときは、もっと簡単な感じだったような憶えが……」
「ひょっとして、チョット観ない間に改良されてパワー・アップされてんじゃネェだろうな?」
「そうかもね?♪」
などと、言ってカラカラといつもの極上スマイルでオレの隣で笑っているレミ、その笑顔はいつもながらにステキで良かったのだが、その笑顔の向こうに広がっていく水平線やら何やら、どんどん見えてくる遠い景色……、正直、その「高さ」に、何ていうか底知れぬ「恐怖感」のようなモノが次第に膨れ上がってきているオレが居た……。
「お、お、おぃ……、なんかコレ、スッゲェ高くネェか……?」
「みたいだね♪」
レミは至って、平気の様子だ……、に、比べてオレはと、いうと……「やべぇ……、まだ走り出してもいないのに、既に心臓が口から飛び出して来そうだぜ……」とか、そんな焦燥感に包まれていた……、そして……。
「あっ、頂上に着いたよ? そろそろだね♪」
「ぉ、ぉぉっぉおう……」
声に成らない声を発し、コレから始まるであろう、ジェット・コースターの疾走に備えるオレ……、ガガン……、少しそんな音がしてから、オレ達の載っているコースターは……、奈落の底へと落ちて行くような感じで急角度の線路の下へと加速しながら滑り落ちて行った……。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
思わず、そんな叫び声をアゲてしまっているオレが居た……。
「キャァアアアアアアアアア!♪」
とか、言いながらも、何処か楽しげな音色を含んでいるレミの声、正直、オレには、そんなレミのコトを気に掛ける余裕など何処にも無かった。
ガ――――――――ッ! と、モノ凄い勢いで走っていくコースター、右へ左へと急角度に曲がり、その度に振り落とされるように成る程、身体にGが掛かる。
「たぁああすけてくれええええええええええええ!」
「アハハッハハハ♪」
そのオレの様子を観て、横でケタケタと笑っているレミ、「なっ、なんてヤツだ、コイツは……」こんな、生と死の紙一重みたいな状況でケタケタと笑っていやがる……、ガガン、ガン、ガガ――ン! そんな音を立てながら上へ下へとフルスピードで駆け抜けて行くジェット・コースター、正直、眼を開けているコトすら出来なかったのだが……、終盤に差し掛かり少し落ち着きを取り戻しつつあったオレは薄目《うすめ》でその先を見て驚愕した……。
「おぉぉっぉ、おぃ! なんか、輪っかを描いているのが見えるぞ、まさかアソコにツッコむんじゃないだろうなァっ!?」
「わっかんなああああああああい!♪ ワッハ――♪」
何処までも上機嫌のレミ、勘弁してくれ――、ココまででも充分、振り落とされるような恐怖で、心拍数が上がるとかいうレベルでは表現出来ない程の、まるで生と死の境をさまよっているようなそんな地獄を、この身体に重くのしかかる、右に左へと揺れるコースターのGから肌に感じている状態だっていうのに……、まさか、とは、思うが……、観る限り、オレ達を載せているジェット・コースターは、その宙返りを繰り返すような線路に向かって、一部の迷いも見せず突き進んで行くようだった。
「たぁあああああああすけてくれええええええっ!!!!」
思わず、そう叫ばずには居られないオレが居た……っ!
「大丈夫だよ――――ぉ!♪ ワッキャ――――ッ!♪」
コースターのスリルを存分に楽しんでノリノリのレミ、ちきしょー、何でこんなのが平気なんだ? コイツには「三半規管」ってモンが存在していないのか?とか、そんなコトを想いつつ恨めしげな眼で、そのコースターがツッコんでいく先を見る、どう観ても回転しているよな? アレ――っ! そして、間もなくそのコースターは、円を描いている線路の部分へと飛び込んでいった!
グァ――――――――ッ! コレまで以上のGが掛かり、天と地がひっくり返る……。
「死ぬ! 死ぬ! 死ぬ――――――――っ!!!!」
「キャ――――――――ッ! サイコ――――――――ッ!!♪」
レミにとっては、この上下さかさまに成って疾走していくという、通常世界ではあり得ないようなそのときの感覚が楽しくて楽しくてしょうがない、という状態らしかった、信じられん……っ、ガガガガ――――ッ! ガアア――――! 尚も疾走するコースター。
「はっ、早く終わってくれ……、頼むから早く……っ!」
そんな聞き取るコトが出来ないような声で懇願するように、そう天に向かってつぶやいているオレ……。
ガガガ――、ガ――――ン、ピ――――――――ッ! 再び停留所と成っている、スタート地点に無事停車したコースター。
「ふっ、ふ……っ、ふ――――っ…………」
ど、どうやら、ようやく……、終わってくれた……ようだな…………。
「アハハハハハハハハハハ♪」
観ると、オレの方を見ながら大爆笑しているレミが居る。
「なっ、なんだよっ!」
と、いまだフラフラする身体をやっとの想いで律しながらそう返すオレ。
「ナオトくん……♪ メッチャメチャ恐がってるんだもん……っ♪ おっかしくておかしくて♪」
「おかしかネェっ!!!! 死ぬかと想ったんだぞっ!」
「アッハハッハハッハハ♪」
まだ、大爆笑しているレミ、ったく、コイツ、意外とSなトコロがあるんだな? そんな風に想ったオレが居る。
「大丈夫に決まっているのに、あんなに恐がってるんだもん♪ もう……、ジェット・コースターも良かったけど♪ ナオトくんが悲鳴をアゲているのが横から聞えて来てオカシくてオカシくてしょうがなかった……、ハァ~~、もぅ最高っ♪」
腹を抱えてまだ笑っているレミ。
「なんだよ、オマエったくよぉ、人が恐がるの観て何が楽しいんだよ……っ、んとによ……」
「もぅ、怒んないでよ♪ だって、メチャメチャ恐がってるんだもん、も、オっカシくてしょうがなかったァ……♪」
ったくコイツ……、二度とコイツとは一緒にジェット・コースターには乗らん、そう心に誓った、そのときのオレ……。
「ハァ~もぅ♪ こんなに楽しいのに、なんで、あんなに……、途中眼ぇつぶってたでしょ? もぅ…、本当に超~~恐がってる~~とか想って面白くてしょうがなかった……っ♪」
と、今さっきのオレの恐がっていた様子を想い出し、ソレが改めてツボに入っているらしく、尚も笑い捲くっているレミ。
「もぅ! イイ加減にしろっ! 本当に恐かったんだよっ! ゼッテェもう二度とオマエとはジェット・コースターには乗らネェからなァっ!!」
「ワカッタよ、もぅ……♪ でも、本当…、あんなに恐がる人なんて初めて見たかも、アハハッハハ……っ♪」
そう言って、まだ笑うのを堪《こら》えられないで居るレミ、ゼッタイに乗らん、ゼッタイに二度とコイツとは一緒にジェット・コースターには乗らん、いやもう「遊園地」すら来るべきじゃないのかもしれん? チラッとそんなコトを頭に想い描いている、そのときのオレだった……。
【 第十五章 】
3学期を終え、春休みと過ぎて、晴れて2年生に成ったオレ達。
レミはオレと同じクラス、ついでに箕屋本《みやもと》もまた、一緒のクラスに成っていた、例のごとくというか、レミはクラスの振り分けに対し夢の中で少し細工をしたとのコト……、まァ、イイんだか悪いんだかワカラナイが……、おかげで、引き続きこの3人は今年も一年を共に過ごすとあいなったワケだった……、あと1年のときレミとクラスの男子からの人気を2分していたリサも同じクラスに成っていた、ソレについてはレミは何も細工はしていなかったというコトで……、どうやらたまたま? 一緒のクラスに成ったというコトらしかった。
他の面子に関しては良く知らない人達との新しい生活であり、新しく友人なんかが出来るのかワカラなかったが、帰宅部のオレに積極的に仲良く成ろうというような「奇特な存在」はやはり多くなく、オレは1年のときからつるんでいる箕屋本《みやもと》と行動を共にするコトが多かった……。
そんな風にして過ぎていった、オレの新2年時の毎日……、ウチの学校は体育祭が5月にあり、ソレに向けてとり行われる種目やクラス単位での演目、実行委員の決定など、そんなコトを取り決めする学級会が開かれていた……、割と部活に入っている人が多い、この新しい2年のクラス、必然的に役員と成る生徒は、放課後ヒマをしているオレのような帰宅部に打診されるというのが流れであり、黒板を見ると、ソコにはオレの名前がしっかりと記されていた。
「では、委員を決定します、各自、この人がイイというトコロで挙手願います」
そんなようにして学級委員が会議を進め、結果として、同じくして帰宅部だったオレとリサが体育祭実行委員に選ばれてしまったのだった……。
「あァ…、なんかかったるいモンを押し付けられてしまった感じだ……」そんなコトを思っている部分はあったのだが、一緒に選ばれた女子の役員は、今年に入ってからもレミとクラスの男子からの視線を一身に浴びている、あのおとなしく可愛らしく、何処か愛嬌があり、誰からも好かれている存在の美少女……リサだった、と、いうのは、不幸中の幸いとでもいえようか…、もしレミにこのときのオレの気持ちを見透かされていたら、おそらく怒りを買うだろう、というコトは想像に難くなく……、今夜の夢の中でその部分を見透かされやしないか?と、オレは、なんかそんなようなコトをヒヤヒヤしながら考えつつ、決定してしまった、その体育祭実行委員とやらを引き受けるコトにした。
「ま、実際、帰宅部のオレは放課後ヒマしているワケだし、バイトはいつも 18時から……支障をきたすようなコトな何も無いだろう」と、そのときはそんなような考えで、何となくあっけらかんと、コレから始まるであろうアレやコレやと、やらないとイケなく成るコトがどんなコトなのか、と、いうのをボンヤリと想像していた。
学級会が終わり、休み時間、先ほど決定した、と、いうコトもあり、リサがオレのトコロにやってきていた。
「なんか……、選ばれちゃったね?」
と、リサ。
「うん……、ま、何ていうか、こんな頼りないオレで何処まで、実行委員なんていう責務を全う出来るかどうかワカラナイけど、なんつぅか、とにかくヨロシク……」
と、そんなようなコトを言って置いた。
「うん、二人でイイ体育祭に出来るように頑張ろうね?」
「ぉ、ぉう」
少し照れ気味のオレ……、レミの笑顔も半端無いモノがあるが……、そのレミと男子からの人気を2分しているこのリサ……、近くで観るとソレがよくワカル感じだ、澄んだ瞳、健康的な張りのある白い肌、肩くらいまである黒髪はツヤツヤとしていて、そして何より笑顔がカワイイ、この娘が微笑んだだけで、一瞬世界が輝きまばゆくようなそんな高揚感《こうようかん》を与えてくれる……、そんな感じのステキな娘だ……、将来アイドルか何かにでも成った方がイイんじゃないだろうか? チラッとそんなコトを想ったオレが居る程だ……。
「でも……、何したらイイか、まだ良くワカラナイから、ナオトくん、至らないトコロもたくさんあるかもしれないけど、コレから是非ヨロシクお願いします♪」
そう言って、ペコリと軽く会釈するリサ、そのときのそのリサの仕草と言ったら、なんとまァ、可愛いコトこの上無い……見るからに性格が良く、おとなしくて清楚で可憐で……、正直「萌える」っていうのは、こういうコトなんだろうな?と、いうのを全身に感じているオレが居た、「おぉぉっぉぉ、レミに今のオレの気持ちを知られたらと想うと恐ろしくて、そんなコトはゼッタイに考えたくない、とは、想ったのだが……」正直言ってそのときのオレはこう想っていた……「体育祭実行委員の間、こんな可愛い娘と一緒に色々と時間を過ごせるのかァ……、コリャ案外ラッキーだったのかもしれないな?」と……、とにかくこの気持ちがレミに知られたらとんでもないコトに成ると想うので、どうか読者の諸君このコトはココだけのヒミツにして置いて欲しい……。
っと、その日の夜のコト、夢の中でいつものようにワイリー・フラウに汚染されている連中とのバトルを終え、一息ついてレミとお喋りに花を咲かせる時間を迎えた……「ふぅ……、毎晩のコトだが……、この瞬間は何にも代え難い至福の時間だ……」そんな気持ちに浸っている頃、レミが何かを考える様子でオレにこう言った。
「ナオトくん……、リサちゃんのコト……、どう想っているの?」
ヤバイっ、イキナリ見透かされたのか?と、思い動揺をしてしまうオレ……、その様子を見たからかどうかはワカラナイが、レミはそんなオレにこう言っていた。
「あの娘には……、気を付けて……」
ん? どういうコトなんだ? ひょっとしてやきもちでも妬いてくれているのか?
「きっ、気を付けてっていうのは?」
そのオレの問いに対して、レミは少し押し黙るようにしてから、言いたくは無いんだけど、と、いった感じで口を開く。
「1年生のとき、アタシ達……、一緒のクラスだったでしょ?」
「うん、レミも箕屋本《みやもと》もリサも一緒だったな?」
「ソレで……ね?」
「うん、なんだよ」
ソコからまた少し黙りこくってしまうレミ……、何か想うトコロでもあるのだろうか……。
「ナオトくん、アタシのコト嫌いに成らないで欲しいんだけど……」
嫌いに? なんだ? なんか、しちゃイケないようなコトでもしたってのか?
「オレにヒミツにしたいコトでもあるのか?」
一応、そんな風にしてレミが話しやすく成るようにと、水を向けてみた。
「本当に! 本当に! 嫌いに成らないで欲しいんだけどっ」
「わっ、ワカッタよ……、オマエ、何かしでかしたのか? 例え、そうだったとしても……、コレまでオレはオマエと一緒に夢の中でとはいえ、腐る程たくさんの時間を共にして来て、たくさんの悪い夢の因子を植えつけられたヤツラと一緒に戦って来たんだ、いわばオマエはオレの戦友で……、その大事な戦友が考えて想ったコト、行動したコトっていうんなら、イキナリ突き放すようなコトはゼッタイにしないから、何ていうか信用してくれ」
正直な気持ちだった……、レミとは今付き合っているが……、正直、数々の戦いを一緒に潜《くぐ》り抜けて来た仲である、ただの恋人なんかとは比較に成らない程、強い絆を感じているのが実際のトコロであり……少々のコトでは驚かないそんな確信にも似た気持ちがオレの中にあった。
「…………、あの……ね?」
「うん……、なんだよ?」
そうして、ようやくレミは重い口を開くようにしてこう言った……。
「クラスで……、男子の人達がアタシとリサちゃんのコト……、凄く何ていうか好意を寄せてくれて居たでしょ?」
「まァな? オマエとリサは間違いなくツートップで、何ていうかダントツだったからな」
「ぅ、うん……、ソレは……、その……」
まだ、何かコレから言おうとしているコトにためらいを感じているようだ……。
「いいよ、もっと気楽にしてくれよ、どっちにしろ、今は夢の中なんだ、オマエが何を言ったってオレは驚かネェよ」
「ぅ、うん……アリガト……、じゃ、じゃァ、思い切って言うね?」
「おぅ、ドンと来いってんだよ」
と、胸を張ってそう言い切るオレ。
「少し気に成ったの」
「ん? リサのコト……か?」
「そう……、この人、どんな人なんだろう?って……、やっぱり、あぁいう状況だと……、何ていうか女のプライド……っていうか…、そういうのが出てきちゃって……」
「あァ……、何かワカル気がするな?」
もしも、オレがレミの立場でクラスで人気を2分するようなヤツが居たら、いやがおうにもソイツがどんなヤツなのか?ってのは、気にしたくなくても気に成ってしまうだろう、と、そう思った。
「んで? アレか? リサの心を読み取ってみよう、と、そんなような行動に出たワケか」
「ぅ、うん……、そうなの……、わ、ワカッちゃうかな? やっぱり……」
「いゃ、ソレはワカル、言ったらオマエとリサはライバルだったワケだ、そのライバルがどんなヤツなのか?っていうか気に掛かるってぇのは、ごくごく自然な感情だと思うぜ」
なんとなく頭で、そんな状況に自分が成ったら?と、いうのを想像しながらそう話を向けてみた。
「そうなの……、やっぱりどっか意識しちゃう部分があって……、ソレで……ね?」
「うん……」
「あるとき、リサちゃんの夢の中に入ってみたの……」
話が核心に迫って来たな……、結果がどう成ったのか凄く気に成っているオレが居た。
「で、で、どんな感じだったんだ? 本当はどんなヤツだったんだ? アイツは」
「うん……、ソコなんだけど……」
少し重苦しい面持《おもも》ちで暫く黙ってしまうレミ、こりゃ、あんまりイイ結果では無かったっていうようなコトなのかもしれないな? 表向きには清楚で可憐でおとなしくて可愛らしい女の子、でもその実、心の中では……、何てのは、良くある話だからな……。
「で、どんなヤツだったんだ? アイツは」
暫くして、ようやくというかその重い口を思い切ったように開いて、レミは話し出した……。
「入れなかったの……」
「はぁ?」
「どうしても、入れなかったの……、リサちゃんの夢の中に……」
正直、そんなコトが?と、いう感じだった、レミと毎晩のように色々な人の夢の中を渡り歩くように成って段々とそのコツがつかめて来ていたオレ……、今までに入れない夢なんてのを観ている人はお目に掛かったコトが無かったし、何より何年も前から一人、ワイリー・フラウと戦い続け、いまだこうして頑張っている、獅子奮迅のつわものに成っているレミに……、突破出来ない夢があるなんて……、驚きを隠せないオレが居た……。
「入れなかった? そっ、ソレって、どういうコトなんだ?」
「真っ黒な壁があって……、どうしてもその先に行けないの」
「真っ黒な壁……?」
なんか、とにかく……、一筋縄では行かないとかいうより……、どうやら、余りイイ感じの心の持ち主では無いコトだけは確かなようだな? そう感じたオレが居た。
「コレまでにも、そういう人は居るには居たの……、アタシが入ろうとしたとき、壁がある人……、でもそういう人達の壁は……、とてももろくて、ほころびていて……、凄く……悲しみに満ちていた……、心に深い傷を負って周《まわ》りに一線を引いてしまっているんだな?って、そう想った……」
「うん……、その気持ちは…、凄くよくワカル、ような気がする……、こんなオレでもな……」
「そう……、凄く傷ついて……、心を閉ざしてしまっている人……、とても可哀想な気がして……、そういう人の夢には入らないようにしていたの、ソッとして、いつかワイリー・フラウをやっつけて、そういう人達が心から明るく楽しめる夢の世界を作りたいって、そう願って立ち去るようにしていた……」
レミらしいな?って、想った……、コイツって本当に人の気持ちの痛みがワカル、ステキな娘なんだなって改めて想った……。
「でも……、でもね……?」
「うん……」
「リサちゃんのは……」
「リサのは?」
「そういうのとは、全く別のモノだった……」
正直、ソレをオレがこの眼で見たワケでは無いから、今レミが話している黒い強固な壁というのがどんなモノなのかはワカラなかったが……、何となくイイ印象は受けないな?と、そう感じていた……。
「ガッチリとガードされていて、世間と隔絶しているっていう感じか」
と、その様子を想像しながら言うオレ。
「うん、そう……、ソレに…………」
そしてまた、少し押し黙ってしまう様子のレミ。
「ソレに……?」
「その黒くて厚い壁は……、コレまでどれだけ汚染されていた人のソレより……遥かに、暗くて冷たくて……、ソレだけじゃなくて……何かに向けられた強い反発心と強い気持ちに満ちて居たの……」
「強い……気持ちに……?」
オレは、恐る恐るそう聞いてみた……、あの大人しくて可憐で優しい雰囲気に包まれたリサにそんな部分があったなんて、と、思うと、にわかには信じ難かったが……。
「ソレで、その壁を壊して中を……、とも想ったんだけど、何処にも隙《すき》が無くて……、ヒビ一つ入っていないなくて、中の様子は全くワカラなかった……」
「どうやら、相当な闇を抱えていそうだな?」
「うん……、正直、そうとしか想えなかった……、ソレで思い切ってその壁に触れてみたの……」
レミはそのときのコトを想い出して少し強張《こわば》った表情でそう言った。
「で、どう成ったんだ? そのとき……」
「…………」
余程のコトがあったのか、暫く沈黙してしまうレミ、ソレから少ししてこう話始めた……。
「その壁に触った瞬間にね?」
「うん……」
「モノ凄い衝撃が走って跳ね飛ばされて、一つの声が聞えたの……」
「衝撃?」
「そう、どんなモノも弾き返してしまうようなモノ凄い衝撃……、勿論、夢の中だからケガとかはしなかったんだけど……」
信じられない……、あの小柄でおとなしいリサがそんな鉄の意志みたいなのを心に包含していたなんて……。
「で? 何て言っていたんだ、そのときアイツは……」
そして、レミは少し呼吸を整えてから、意を決したように、そのとき聞いたという「声」を口にした……。
「二度とこの地へ歩みを進めるコトはあいならぬ……、安易《あんい》にその心触れるモノに対し、我の鉄槌は汝を、いついかなるときも許しはしない……」
なっ、なんだソレは……、正直、中二病の連中が言いそうなセリフまわしだな? とも感じたが……、とにかく驚きを隠せなかった……、何度も言うが、あのリサの心が……、そんななんか「ドス黒い世界観」に染まっていた、というのが、どうにも信じられないでいた……。
「リサはワイリー・フラウの連中に染められてそう成ったのか?」
「ぅぅぅん、何処にもその刻印は無かった……、だから……、そういうのとはもっと違う別次元の闇を背負っているのか……、ソレか……」
ソコでレミは……、再び口を閉ざしてしまっていた……。
【 第十六章 】
「おぃおぃ、聞いたぞ?」
と、飯を食いながらぶしつけに言ってくる箕屋本《みやもと》。
「なにをだよ?」
「オマエとレミちゃん、ついに出来ちまったらしいな!?」
少々興奮気味にそんなコトを言っている。
「子供が出来た、みたいな言い方をするな」
「いやいやいや、そうは言ってもよ? クラスの男子の間ではその話で持ち切りだぜ?」
まァな……、何にせよ、レミとリサちゃんは、名実共に誰もが認めるウチのクラスのツートップ、その一人と曲がりなりにもくっついちまったってんだから、そりゃ話題に成っちまうのもワカル気がする、と、いうか、仕方無いか……、と、いうのが正直なトコロだ。
「でもオマエな?」と、オレ。
「なんだよ」
「イイことばっかりってワケでも無いんだぞ?」
「何がだよ、あのエンジェルスマイルのレミちゃんだぞ? その娘と付き合えて何が不服だってんだよっ!」
気持ちはワカルような気がしたが…、こないだあったコトを言ってみる。
「ジェット・コースターに乗るだろ?」
「うん」
「笑われんだぜ?」
「なんだ、ソレは」
「笑われんだよ」
「なんだ、オマエらもう遊園地でデートなんかしているのか!?」
なんとも、けしからん、と、いった様子の箕屋本《みやもと》。
「おうよ、その遊園地だよ、笑われんだよ」
「なんだ、その笑われるってのは」
「笑われんだよ」
「何があったか知らネェが、イイじゃネェか!? レミちゃんとデート! クラスの男子みんなが垂涎《すいぜん》モノだぜ」
「まァな?」
「ったくよぉ、羨ましいったら無いぜ」
と、何ともやり切れないと、いった顔付きの箕屋本《みやもと》、確かに言いたいコトはワカルのだが……、毎晩夢の中でずっとやりとりして来たオレにとっては、今更、というのが、正直な感じだ……、ソコで、というか、こんなコトを言って置いた。
「箕屋本《みやもと》……」
と、ミートボールを箸でつまみ口に運びながら改まって箕屋本《みやもと》の方を見るオレ。
「なんだよ……」
「オレだって、信じられネェんだよ」
「やっぱ、そういうモンか?」
「そりゃあ、そうだろ? 今の今まで、オレは彼女居ない暦=年齢だったんだぜ?」
「うん……」
「だからよ、何ていうか祝福してくれよ」
モグモグとミートボールを食べながら、そう言うオレ。
「とは、言ってもよ~~、オマエはクラスの男子の夢を奪ったんだ、その責任をどう取ってくれる」
「なんだソレは……」
「みんながどれだけ悔しがっているか、その気持ちがワカルか?」
まァ、ワカラなくは無いんだが……、さっきも言った通り、レミとオレは毎晩のように夢の中でやりとりをしていた……、その結果付き合う、っていうか、薄ぼんやりとだが、夢の中でお互いに「告白」のようなコトをしたっていうのを憶えているっていう感じで、イマイチ実感が無い、というか……、あんだけ喋っていれば、付き合いに発展してもオカシく無いだろう?と、いうような気持ちがあるため、今更、ソレについてツッコまれても……、と、いうのがオレの正直な感想だった。
「色々あったんだよ、コレでも色々とよ……」
「色々ってなんだよ? いつの間に、オマエらそんなトコまで仲が進展したんだよ? そりゃ1年のときは席が隣だったけどよ、2年に成ってからはただのクラスメートって感じだったじゃネェかよ」
だから、ソレは現実世界の中のコトであって、夢の中で毎晩のように顔を付き合わせていたと、何度言えばって、まァ言ってはいないんだけど、ソレにこんな話、例え言ったとしても信じて貰え無いだろうからなァ……。
「箕屋本《みやもと》……」
ミートボールを飲み込みながら、米をかきこみつつ、改めて箕屋本《みやもと》の方を向くオレ。
「なんだよ……」
「オレにとっても、降って沸いたような出来事なんだ、だからよ?」
「だから?」
「オマエにも、そういう可能性がゼロでは無いっていうワケだ」
「そ、そう成るのかな……」
少し明るい顔つきに成る箕屋本《みやもと》。
「そうだよ、オレに何か取り柄みたいなモンがあるか? 目立っていたり、イケメンだったり、勉強が出来たり、運動神経が群を抜いていたりみたいな……」
「いや、正直悪いがそんなのは何も見当たらないな?」
チョット、申し訳なさげな様子ながらも、ハッキリとそう言う箕屋本《みやもと》。
「だろ? でも、そんなオレにもチョットした切っ掛けで、彼女が曲がりなりにも出来たってぇワケだ、だから祝ってくれって言ってんだよ」
「ぉ、ぉう……、まァ一応、おめでとうと言っておくよ、オマエは貴重な友人だからな?」
「ありがとよ、オレにとってもオマエは貴重な友人なんだ、なんたって1年のとき同じクラスで喋っていたヤツが居てくれているってだけで、2年に成ってすんなりとクラスに溶け込めたのは、本当にオマエのお陰って感じだからな?」
「そっか……」
「だからよ?」
「なんだよ」
「こんな、何の取り柄も無い、その上、人見知りと来てるオレに仮にも彼女が出来たと、いうコトはだ……」
「ぉ、ぉう」
「チョットした切っ掛けなんだよ、こういうのは……、だからその切っ掛けを逃すな」
「ぉ、ぉぉう」
「オレから言えるのはそんな感じだ」
とりあえず、夢の中の話はしても意味が無いだろうと想い、この場はそう言って置いた。
「そんなモノか」
「そんなモノだ」
完全に納得してくれた、と、いうワケでも無いようだが、何となく自分にも……、と、そんなコトを思い巡らせている様子の箕屋本《みやもと》だったが。
「にしても、オマエはラッキーなヤツだぜ」
まだ、羨ましいという気持ちを抑えられない様子だ……。
「まァな? ソレについては否定はしないが……」
たまたま、ドリーム・ウォーカーだったっていうコトが幸いしてレミと毎晩夢の中でやりとりするように成れたっていうのは、普通に考えればあり得ない話であって……、ソレは本当幸運の他、なんでもない、というコトについては異論を挟む余地は無いな?と、オレ自身も感じているコトなのだが。
「今度レミちゃんとどっか遊びに行くときオレも混ぜてくれよ?」
「バカ、オマエそういうのは彼女作ってからにしろよ、ダブル・デートってんならワカルけど、オレとレミがデートしてるトコにくっついて来たって、オマエきっとそんなに楽しめ無いんじゃないのか?」
「んなコトネェよ、貴重な友人としてのメリットをオレにも分けてくれっつってんだよ」
ったく、しょうがネェなァ……、と、思ったが……、って、果たしてこういうのは「何デート」っていうんだろうか? そんなコトをチラリと考えているオレが居た。
「考えておくけど、やっぱオマエも頑張って彼女を作れ、結局リサちゃんに告白すらしていネェんだろ? オマエ」
「そっ、そりゃそうだけどよ……」
「高校生活なんてアッという間に終わっちゃうぞ? 1年アッという間だっただろ?」
「うん……」
「んで、オレ達はもう2年生なんだ、オマエあのリサちゃんと2年間連続で同じクラスなんだぞ? その「地の利」を活かさないでどうするよ、そのデートにくっついて来るってのもイイが、とりあえず、何か行動を起こしてからにしろ、ソレでダメだったら、オレとレミでオマエの残念会くらいやってやるよ」
「おぉぉぉぉぉお、マジか!?」
「うん」
とりあえず貴重な友人だからな? ソレ位のコトならイイか、と、想わなくも無いのでそう言って置いた。
「じゃ、お、オレ、リサちゃんと!」
「そうだ、その意気だっ」
と、そのときは、励ましてはいたのだが……、後々、チョット、そんなコトを言ってられないようなコトに成っていく、と、いうのを、このときはオレも箕屋本《みやもと》も全くワカッテは居なかった……。
「でもよ、とにかくよ」
「うん、なんだよ?」
「何にせよ遊園地には、もうゼッタイに行かないからな?」
「なんなんだよ、ソレさっきから……」
「笑われんだよ」
「何があったんだよ、だからソレ……」
「いんだよ、とにかくアイツと遊園地に行くとよ……?」
「うん……」
「笑われんだよ……」
【 第十七章 】
体育祭実行委員の会議が引けて、教室に戻っていたリサとオレ……。
「「実行委員」っていうのは、何だかんだと、やるコトが多くて大変だな?」
と、オレ。
「ウフフフ♪ そうだね」
と、チョット楽しげに笑っているリサ。
「リサって、こういうの何か得意そうだよな?」
「そう? なんで?」
「何ていうかさ、作業とか仕事とかがテキパキとしている、と、いうか……、書類書くのとか全部やっちゃってくれているしさ?」
「ぁ、ハハハ、ゴメン……、仕事全部取っちゃってるかな? アタシ……」
「ハハハ、いゃ、嫌味で言っているワケじゃなくて、本心からなんだよ」
と、笑いながら返すオレ。
「アタシ……、他に取り柄って呼べるようなモノが無いから……」
「そうか? クラスの男子から人気があって、誰からも頼られていて、勉強も出来て……、仕事も早くて……、何ていうか取り柄だらけって感じがするけどな?」
と、素直にそう想ったコトを話してみる。
「そ、そうかな……、す、素直に喜んでいいのかな? ソレって…」
「おうよ」
「アハハハハ♪ ありがと……、アタシ……、部活もやって居ないし……、短い高校生活でしょ? だから、何か出来るコトがあったら、出来るだけ頑張ってそういうのをこなして行きたいって、そう想っているの……」
「へぇ~~~~」
正直、感心した、と、いうのがそのときのオレの素直な心境だ。
「ナオトくんこそ、凄いよ」
「ん? そうか?」
「うん♪ こういう言い方すると変かもしれないけど……」
「おう、なんだ? どんなコトだ?」
「アタシにはゼッタイ真似が出来ない……」
少し、寂しげな表情のリサ。
「真似、出来ない……、ソレ言ったらコッチのセリフだぜ? 何でも如才《じょさい》なくこなして、その上こんなに可愛くて、男子達が夢中に成るのもワカリ過ぎる程、ワカルっていう気がするぜ」
「ウフフフ♪ ありがと……、でもね?」
「うん……」
「ソレって、アタシの見た目だけのコトだと想うの……」
見た目……、そうか……、まァ、ソレでもこんだけ可愛ければ充分だな?とは、想わなくは無かったが……。
「人の……、本心って……、ワカラナイことだらけ……」
何かを思い巡らせるようにそう言っている。
「確かにな? そういう部分はオレも腐るほど見て来たぜ……」
「うん……、でしょ? アタシ……中学のときにね?」
「うん」
「付き合っている人が居たの……」
まァ、こんだけ可愛ければ彼氏の一人や二人居てもオカシク無いよな? そう想い聞いていた。
「だけど……、結局、その人は……、最終的には、他の人を選んでその人の方に行っちゃったの……、アタシはただなす術も無く一方的にフラレちゃったっていう感じで……」
なっ、何て不届きな、こんな健気《けなげ》でマジメで可愛い娘にそんなコトをするヤツが居るとは、けっ、けしからん……、世の中ヒドイやつも居るもんだ、と、改めてそう思っていた。
「信じられネェな? リサみたいに可愛くてイイ娘……、何が不満だったんだろうな?」
「ソレは、ワカラナイの……、別れちゃった後、距離置かれちゃって、その人とはもう喋れなかったから……」
可哀想に……、そんな風に感じたオレが居た、レミと付き合うように成るまで、年齢=彼女居ない暦だった、このオレの乏《とぼ》しい「恋愛経験」では、全く想像が付かず、こういうとき何て言ったらイイのかワカラなくて、正直チョット戸惑いながら話を聞いていた……。
「ゴメンね? 何か暗い話しちゃって…」
「いや、いいよ、こうして一緒の委員会に成ったワケだし、ソレに」
「ソレに?」
「オレとしては、1年のときクラス一緒だったろ? でも、全然喋って無かったじゃん? オレ達って……、せっかく、1年、2年と同じクラスに成ったってのも何かの縁だと想うから、その人がどういうコト考えているかとか、どういう風にコレまで生きて来たとか、そういうのって何ていうか、スッゲェ興味あるから」
「ウフフフ♪ 興味本位かな?♪」
と、チョットイタズラっぽく笑うリサ、かっ、可愛い……。
ったく、こんな可愛い娘を振るヤツが居るなんて、どんだけソイツは女の子に苦労して居なかったんだろうか? そんなコトを想いチョット恨めしく感じているオレが居ながら話を続けた。
「あっ、いや、あの……、何ていうかとにかく、こういう何か一緒にやるコトが出来たんだから、せっかくだし、仲良く成れたらイイな?って想って……、ソレにオマエ……本当可愛いしさ」
「アリガト♪ でも、大体の人はそうなの……、可愛いって言ってくれるのは嬉しくなくは無いんだけど……」
「うん……」
ヤベッ、なんか余計なコト言っちまったか? 一瞬 焦ったオレ。
「いや、あの、本当にそういう風に言って貰えるのは嬉しいんだよ……?♪」
「そっか、良かった、オレ何か余計なコト言っちゃったかと、想って……」
「ウフフフ♪ ナオトくんって、素直だよね?」
どうやら、地雷を踏んでは居なかったようで少し安心したオレ。
「そ、そうか? そう言って貰えると……、っていうか、でも、全部顔に出ちゃうっていう感じで、正直、世渡りとか全く上手くなくていつも失敗ばっかなんだよオレ……」
「ウフフフフ♪ でも、アタシは表面で考えているコトと、心の中で考えているコトが正反対の表向きだけイイ顔している人の方が嫌い、モノっ凄く嫌いなの、アタシそういう人」
「へぇ~~~~」
正直、少しビックリした気持ちだった……、リサってもっと大人しい控え目な娘だと想っていたが……、話してみると、案外……、想ったコトを包み隠さないというか……、ハッキリとモノを言う娘なんだな?っていうのに、少し驚きを隠せないオレが居た……。
「オレも大の苦手、そういうタイプのヤツ」
「そっか、良かった♪ だから、アタシ……」
「ん?」
「ナオトくんみたいな素直な人と一緒に、こうやって何か出来るの……、何ていうか……、凄く楽しみにしているの……、アハハ、ブッちゃけ過ぎちゃったかな?♪」
と、言って、ニッコリと笑っているリサ……、う~~ん、可愛いなんてモノじゃない……、眼が三日月状に弓なりを描いて、上気したほんのりと赤みを帯びた頬、そして、何より満面のスマイル……、破壊力あり過ぎるだろ……、コレで好きに成らない方がどうかしてるぜ……、そんな風にそのとき想ったオレが居た。
「で、結局アレか?」
「ん? なに?」
「オマエのルックスに惹かれる人ってのは大勢居るようだし……、実際、告られたりとか、ラブレター貰ったりとか、って、やっぱ多いのか?」
「……、うん……」
チョット照れくさそうに、コクリとうなづくリサ、いちいち可愛いなァ本当にとか、そんなコトを想っていた。
「んでだ、でも……、結局はソレはリサの表面だけを見ているのであって、本当の意味で自分を好きに成って欲しいっていうので……、今その、色々と頑張っているっていう感じか」
「っ!?」
少し驚いた様子のリサ。
「なっ、なんで? そ、そんなコトまでワカッちゃう?」
驚きを隠せず思わず、そんなコトを言っている。
「うん、話聞いててそう想った、中学のときの付き合ってたヤツのコトとか、ココ最近の色んなコトに対して前向きに頑張っている、リサの姿を見ていると……」
「そっか……」
気持ちを察しられたのを嬉しく捉《とら》えてくれたのか、少し嬉しそうな表情のリサ。
「でもよ」
「うん、なに?」
「ソレって、オレ一番イイことだと想うな?」
「本当に? そう想ってくれる?」
「おうよ……、見た目がイイから彼女に成って欲しいって言って来られてもな? 内面を好きに成ってくれなきゃ、ただのソイツん中だけの自慢みたいなモンだもんな? そんなのは「恋愛」とは呼べないって想うよ」
「うん、アリガト……、なんかナオトくんってスゴイね?」
「そっ、そうか?」
「ナオトくんは、勉強とかは……、その……そんなに……って感じでしょ?」
「アハハハ、ハッキリ言うな?」
と、笑いながら答えるオレ。
「ゴ、ゴメン、悪い意味じゃないの……、ソレに部活動とかをしているっていうワケでも無い……」
「まァな?」
「でも、ソレなのに、何かアタシなんかには想像が付かないくらい、色んなコトを知っててワカってて、大人の人って感じがする……」
「ハハハハハ、そりゃ褒め過ぎだ♪」
言われて、悪い気はしなかったが、このオレが大人……? 無い無い……、そんな風に想って思わずチョット苦笑してしまっているオレが居た。
「とにかく、良かった……」
「そっか」
「うん……アタシ……、アタシ、ナオトくんと、もっと仲良く成りたい……」
「ぉおぉぉっぉぉぉ、そ、そうか、そりゃ大歓迎だよ」
「うん♪ そう言ってくれると本当に嬉しい」
そう言って上気した頬を赤らめて、嬉しそうな、さっきも言ったが弓なりに三日月状に成った明るさに満ちた瞳でオレを見つめるリサ……、何度も言うようだが、相当な破壊力のある、キュートなスマイルだ……。
「んじゃ、コレから改めてヨロシクな?」
「はい、こちらこそ、ふつつかモノですが、ヨロシクお願いします♪」
と、言ってペコリと頭を下げるリサ。
何て、イイ娘なんだ……、そう想わざるを得なかった……、やっぱりレミが言っていた、リサの夢の中の話……、黒い壁に閉ざされている、っていうのは……、コレまでに、色々と想い悩んで来たコトが重なって……、世の中に対して、警戒心を抱かずには居られないような苦悩を抱え込んでしまっているってコトなのかな?って想った、こんなに素直で明るくて健気《けなげ》でマジメで頑張っている娘……、ゼッタイに「悲しい想い」はさせたくない、だから、今リサが抱えているのかもしれない、そんな「苦悩」があるのなら、ソレを少しでも、少しずつでもイイから、取り除いて行ってアゲたい……、そんな風に想った、そのときのオレだった……。
【 第十八章 】
そうして迎えた体育祭。
ウチのクラスは一致団結の気持ちを高めようと、リサが中心に成って、クラスの女子数人で全員分の鉢巻《はちまき》を用意してくれていた、ソレも、タダの鉢巻では無く、よくリレーのアンカーなんかが付けている思いっきり長くて走っていると、後ろにおっきくたなびくカッコイイヤツだ……。
思えば、小学校、中学校と、クラスの中で一番、足が速いヤツだけが着けられる、その長い鉢巻、その「一番足が速い人」っていうのがありありと伺《うかが》える、ソレに対して、どっか「羨ましい」っていう気持ちがあったそのステータスの証であった長い鉢巻をリサは。
「運動神経なんて関係無いの、要はやる気の問題、誰もがクラスの気持ちを一心に背負って競技に臨《のぞ》めるように……」
その為にクラスの全員がアンカーと同じように、皆の気持ちを込めて1日頑張れるように、と、いう、そのカッコイイ長い鉢巻を作ってくれていたのだった……。
当日、皆にそのオレンジ色の少し光沢のある鉢巻が配られる……、コレまでゼッタイにそんなカッコイイ鉢巻に縁の無かったオレなんかも含めて、他の男子達も喜んでソレを頭に巻いていた……、ソレもただの薄っぺらい布切れでは無く、シルクでスベスベしていて光を反射する、とても出来の良い鉢巻だ……、着けているだけで気持ちが昂《たか》ぶって来るモノがあった……。
「今日はみんな頑張ろうね?」そのリサの言葉に反応するかのように、みんながそのカッコイイ鉢巻を締めているという連帯感ともあいまって、いやが上にも士気が上がっているウチのクラスメート達……。
競技は「出場したい人」全てが出ていいルールに成っており、他のクラスのようにただ惰性で臨《のぞ》んでいる連中とは違い、せっかく女子達が作ってくれた鉢巻の想いを無駄にしたくないと、ウチのクラスからは各競技への参加者がかなりの人数に上っていた、その為、競技が始まるに連れ、上位に入った人から加算される点数がどんどんと増えて行き、午後の昼食の時間を迎える頃には、ウチのクラスがダントツの1位の座に就いていた。
そんな中、オレとリサは実行委員の為、障害物競走の準備やテープカット、上位入賞者を1位、2位、3位のフラッグの後ろに案内したり、やるコトも多く、必然的にリサとオレは行動を共にするコトが多い中……、応援席の方では出場していないクラスメート達が飲み物が入っていた紙コップの底をくりぬいて作った即席のメガホンで一生懸命熱の帯びた声援を送ってくれていた。
「うわァ……、なんかイイなァ……、こういうみんなが一つの気持ちに成って、何かに臨《のぞ》めるのって……、青春って感じがして、熱い気持ちが幾《いく》らでもフツフツと沸き出でてくるようだ……」
オレはそんなコトを想い、長い鉢巻をたなびかせながら上位に向けて頑張って走ってくるウチのクラスの男女達を誇らしげに入賞者の列に案内していた。そういうような感じで、見事1位でゴールしてきたウチのクラスの橋本をテープカットで出迎えたときも。
「やった! 橋本マジ頑張ったじゃん!?♪」
「おう、クラスの女子達にイイとこ見せたくってよ? フルパワー出しちまったぜ、今日のオレは、いつもの「明日から頑張る」じゃなくて「今日頑張る」の本気のオレだぜ、この後もガンガン色んなのに出場して黄色い声援浴び捲くってやるからなっ!?♪」
と、上機嫌でゴールして来たりしていた、そんなような感じで、リサがテープカットをしているとき等には上位入賞したウチの男子達のテンションの上がり方が半端無く。
「見ていてくれた!? リサちゃん! オレ、クラスのポイントに貢献したぜ!?♪」
上気した頬を浮かべ、そんなコトをクラスのツートップであるリサに得意気に興奮気味に喋っている選手も良く見掛けた、そんな風にして応援にも出場する選手達も士気が高く、午後に向けてウチのクラスはいやが上にも盛り上がっていた。そして、皆に弁当とお茶を配っているリサとオレ、リサはクラスメート一人一人に声を掛けながら弁当を配っている。
「みんなのおかげだよ?♪」
そんな風に言って、午前中頑張ったウチのクラスの出場選手達をねぎらっている、そのリサの気持ちに、嬉しさを隠すコト無くあらわにしている午前中頑張ったクラスメート達、その相乗効果からか、両隣のクラスとは全く違う熱気に満ちながら昼食を取っているウチのクラスの男女達の面々がソコにあった。
「この調子で行ったら優勝間違い無し! 後は最後のリレーまで気を抜かずにゼッタイ勝とうねっ!?」
そう言って、更にみんなの気持ちに一致団結の想いを高めて行くリサ。
この娘、本当にイイ娘だなァ……、そんな風に感じた……、短い高校生活……、クラスが一丸と成って出来るコトと行ったら、後は「文化祭」くらいだ、修学旅行もあるにはあるが、アレは「班分け」がされるし、みんなで一つの想い出にって成るっていうのとは少し違う想い出として残るはず……、と、成ると、このクラス全員での「共通の想い出」にするコトが出来る、この体育祭は、年に2回あるそんな想い出を残せる貴重なチャンスのウチの一回であり、他のやる気の余り感じられないテンションが低いクラスとは違って、少しでも皆で一緒に頑張れるように、一生懸命皆に声を掛けて周《まわ》っているリサの姿は、本当に何て言うか言葉では言い表せない位ステキな姿としてオレの眼に映っていた……。
そして、最後のリレー、そのリレーには、クラス選抜の本気で「足の速い4人」が決まり競技に臨《のぞ》んだ、固唾を呑んでその光景に見入るオレ達2-Bの生徒達。
ダ――――ン!
スタートの号令が掛かり、各クラスの選手達が一斉にスタート、スタートダッシュに成功したウチのクラスの宮川、のっけから1位の状態に成っている、ソレを見て応援に熱が入って行くクラスメート達、更に2人目、3人目と、少し2位のクラスの生徒に距離を縮められるもなんとか1位をキープしている……、「このまま行ってくれ――!」誰もがそんな想いでトラックを見つめ声を張り上げる!「ガンバレー!」「頑張ってぇ! あと少し――っ!!!!」「お願い、勝ってぇ~~!」そんな皆の心の底からの声援が湧き上がっている、今日1日、皆で少しずつ積み上げて稼いできた点数、既にウチのクラスはトップに躍り出ていたが、最後のリレー、体育祭の締めくくりソコで、どうしても「優勝」という栄冠を手にしたい、皆が心一つにそんなコトを願い声を張り上げていた。
そしてバトンはついに最後のアンカー、ウチのクラスでダントツに運動神経のイイ、長崎に手渡される、ソコからの長崎は本当に凄かった、2位との差をドンドンと突き放し、200m周《まわ》ったトコロでほぼウチのクラスが優勝するのは目に見えていた、その光景を前にがぜん、盛り上がるクラスメート達! 「いっけええええええええええ!」「長崎ぃぃいいいいいいいい!」「このままブッちぎれええええっ!」、最終種目であるクラス対抗リレーでの優勝、そのゴールが迫っていく緊張感が皆の気持ちを一気に高めて行く、そしてっ!
パ――――ン!
1位の選手がテープカットをして、その砲声がトラックに鳴り響く、長崎の走りは半端無く、2位のE組にほぼ半周差を付けて、ダントツの1位だった!
「やったァアアアアアアアアアアアっ!!!!」皆が誰彼無く抱き合って喜んでいる! そのとき、トラックの端で、走る選手たちの列への整頓をやっていたオレ、そのオレの眼には歓喜に沸いている応援席のクラスメート達の姿が観えていた……、その光景を少し離れたトコロから眼にしていたオレ、そんなオレも思わず「いゃったァ~!♪」と、叫んでしまい、応援席で喜んでいる皆の姿と、皆の気持ちが本当に一つに成ったそのときの瞬間の感激からチョット眼に涙が浮かんでしまっている程だった……。
各種目への参加人数が圧倒的に多かったウチのクラスは当然入賞者も多くダントツの1位、リサを始めクラスの女子達が皆の為にと作ってくれた長くオレンジで光沢のあるシルクの鉢巻に込められた想いは見事、今日この体育祭で身を結ぶコトが出来たのだった……。
表彰式が行われ、実行委員だったリサとオレがトロフィーと盾を受け取る、ソレを拍手喝采《はくしゅかっさい》で、盛り上がり迎えてくれるクラスメート達、まだこのクラスに成って、約1ヶ月しか経《た》って居ないが、率先して皆を率いていたリサの頑張りから始まって、最後の最後に感激に満ちたその瞬間をクラス全員が、ソレを心の底から享受《きょうじゅ》するコトが出来、皆一丸と成ってお互いの健闘を称《たた》え合っていた♪
そして体育祭が終わり、皆は教室へと帰って行く。
オレとリサは実行委員な為、テントを閉まったり障害物競走に使った道具を運んだり、机や椅子を特別棟に返したりなどして、実行委員会の委員長からの締めの言葉を聞いて解散するまで、色々と後片付けをしていて、ソレが終わった頃には、日も暮れ始め、全部が終わった後、クラスに帰ったときには既に皆は下校した後だった……。
でも、その教室にカバンを取りに戻った、リサとオレはクラスメート全員からのステキなプレゼントを眼にするコトが出来ていた……、ソレは……。
「クラス優勝やったぜ! リサちゃん! ナオトくん! 今日1日ありがとう!の大きな文字とその周《まわ》りを埋めるかのように、小さく一杯書き込まれているクラスメート一人一人からの今日1日の感激の気持ちがこもったたくさんのメッセージ、その皆の喜びの声に埋め尽くされたカラフルに彩《いろど》られた黒板」が、ソコにあった……。
「…………」
ソレを観て、感激の気持ちに包まれて、暫く声を失うリサとオレ……。
「みんな……、今日……本当に、楽しんでくれたんだね……♪」
「あァ……、全部オマエのおかげだよ……、今年、たまたま一緒に成ったクラスメート……、でも、今日からオレ達はただのクラスメートじゃない……、みんな一人一人がかけがえの無い……、大事な友人に成るコトが出来たんだ……、リサ……本当にお疲れ様……♪」
そのオレの言葉を言い終わるか終わらないウチに、大粒の涙を流して、声に成らない声で一生懸命「みんなの方こそアリガトウ……」と、声を振り絞っている、「喜びと感激の大きさ」を全身に感じ涙を抑えるコトが出来ず、今日という1日を振り返り、その高揚感《こうようかん》に包み込まれて泣いているリサの姿がソコにあった……。
この娘……、本当にイイ娘だなァ……、オレにはレミという彼女が居るワケだが……。
今このオレの目の前に居て、クラスメート達の「喜びの声」に感涙の涙を抑えられないで居るリサの姿は……、とても胸を打つモノがあった……、レミの言う「あの娘には気をつけて……」と、いうその言葉が気に成らなくは無いと言えば、無くは無かったのだが……、こうやって皆の気持ちを受け止めて「嬉し涙」をこぼしている、純真で、普段はおしとやかなのに、そのウチにはとても「強い情熱」のような気持ちを秘めている、この「可憐な女の子」に対し……、何処か、いとおしく、いつまでも、この娘の「ステキな想い」を守ってやりたい……、そんな気持ちがオレの中に芽生えて来てしまっている、と、いうコトは……、正直……隠しようが無い……事実だった……。
【 第十九章 】
体育祭の一件以来……のコト。
いつものように、ワイリー・フラウに汚染された人達との戦闘を終え、少し一息付いているときのコト……。
「ナオトくん……」
「ん?」
「ナオトくん……、アタシとのコト……、んと……」
「な、なんだよ? ハッキリ言ってくれよ」
と、言葉に詰まったレミを促《うなが》すオレ……。
「前に……、言ったよね?」
「ん? なにがだ?」
「リサちゃん、の、コト……」
「あ、ああ……」
「ナオトくん……、リサちゃんのコト……、どう想っているの?」
ズバリ、ツッコまれた、そういう風に感じたオレが居た……。
「いやっ、あのっ、どっ、どう想っているかってっ、あのっ、そんなっ!?」
「ウフフフフフ♪」
「なっ、なんだよ……、なんでソコで笑うんだよ……」
「ぅぅぅん、やっぱりな?って想って…」
「やっ、ぱり……?」
「うん……」
少し寂しげな表情でレミはそう言った……。
「体育祭のときの、ナオトくんとレミちゃんを観てたら……、なんとなく……ね……」
「…………」
女の子って本当に鋭いな? そう想ったオレが居た……。
「でも、しょうがないよね? コレばっかりは……」
「…………」
「リサちゃんの心の中にあった「黒い壁」が何を意味しているかは、アタシには結局ワカラなかった……、でも、あの娘、イイ娘だよね……、体育祭のときもそうだったけど……、普段観ててそう想うように成った……、だから…、ナオトくんが……、リサちゃんのコトを……」
「ちょっ、チョット待ってくれっ!」
慌てて、ソコでレミの言葉を遮《さえぎ》った、ひょっとしてコレ「別れ話」か? そんな風に感じて焦ったからだった……。
「イイの♪ こうやって夢の中でナオトくんと過ごすように成ってもう半年……、毎晩一緒に居るから、ナオトくんが、リサちゃんのコトを考えているのは、何ていうかすぐワカッちゃうっていうか……」
少し苦笑しながら、そう言っている。
「ナオトくん、素直だから……」
「ゴ……、ゴメン……」
「…………」
「正直、リサのコトが気に掛かっているっていうのは、ある……、でも、ソレでオレとオマエが……」
「アタシ……ね?」
オレの言葉を遮《さえぎ》るようにレミは話を続けた。
「うん……」
「浮気されるのはイヤなの……」
ハッキリと、そう言ってきた……。
「ソレに、アタシ達はドリーム・ウォーカー同士、お互いが深層心理でどんなコトを想っているかなんて隠しようが無いから……」
「そっか……」
そういえば、そうだったな……、だから、オレが今リサのコトが気に掛かっているのなんて、レミには痛いほどハッキリバレちまってるっていうワケなんだな……、オレは少し「諦めに似た気持ち」を感じていた……。
「でもね? アタシは、ナオトくんのコトが好き」
「…………っ」
「引き篭もっている状態から、復帰出来たのはナオトくんに出逢えたからだから……」
「そ、そっか……」
「だけど、夢の中の世界は所詮夢の中……、現実世界でナオトくんに好きな人が出来ちゃったんなら……、アタシにはソレを止める力は無いよね……」
「…………」
「だから……、待ってる……ね?」
「レ、レミ……」
何て言ったらイイのか、ワカラなかった……。
「でっ、でもよ! オレ、あのクリスマスの日! レミに逢ってっ! 想ったんだっ! 世の中捨てたモンじゃないかも!?ってっ、ソレがどんなにオレにとって「元気の源」に成っているかっ! しかも、その娘とこうして恋人同士になんて! 今でも信じられない位、そのコトがオレの中で自信に成っているんだよ!」
「うん……、アリガト……、そう言ってくれるだけで、嬉しい……、ナオトくん優し過ぎるよ……」
レミは尚も悲しげな感じでそう言った……。
「でも、もう……、一旦、別れるっていうように……、オマエは決めてしまった、の、か……?」
「…………うん……、ナオトくんのリサちゃんへの気持ち……、ソレがワカッちゃうから……」
「…………」
潜在意識がバレてしまうっていうのは……、正直こういうときって、どうにも成らないのか……、オレは……、諦めるしかない、そう想ってしまっていた……。
「でもね? 何度も言うけど……」
「うん……」
「アタシは今でもナオトくんが好き……、でもそのナオトくんの中に他の人への気持ちがあるのなら……、ソコはソレで大事にして欲しいの……」
「…………、別れるって、コトか……」
「…………うん……」
「…………」
この今のレミへの気持ち……、ソレに反して日々大きく成って来ているリサへの気持ち……、ソレがある以上は……、コレ以上何を言っても……、正直、そんな気持ちに成っていた……。
「わかった……、でも……、でもよ? こうしネェか?」
「ん、なに?」
「オマエ……、まだこの後も、ワイリーの連中と戦っていくつもりなんだろ?」
「うん……、ソレは続けるつもり……」
「だからっ、ソレはオレも続けさせてくれ」
「……っ」
「でっ、こんなコトは言いたくは無いんだけど……」
「うん……」
「現実世界……、いや一応、恋人同士っていう関係は……、一回……」
「うん……」
「ココで終わる……としても……、だけど……、オマエ一人が戦っていくなんて、そんなのを放って置ける程、オレ簡単にオマエのコト忘れたりは出来ネェよ!」
「ありがと……、本当にナオトくん……優し過ぎるよ……」
そう言って、少し寂しげに微笑むレミ、そしてこう言ってくれた……。
「じゃあナオトくんがソレでイイって、言ってくれるなら……、ソレは……今後も、お願いしちゃおっかな……」
「おう、オマエ一人だけに、世の中の辛い部分を背負わせておくなんて出来ネェよ! だから、オレもコレからもワイリーとの戦いを……続けさせてくれ」
「うん……ありがと……♪」
こうして……、リサへの気持ちが日々大きく成ってしまったオレは……、レミと……、一旦、別れる、というコトに成った……、でも、ワイリー・フラウとの戦闘は続けて行けるコトに成ったようだ……、そうするコトで、レミとも夢の中ではまた会うコトが出来る……、一度、深い仲に成った人と……、簡単に断ち切れに成ってしまう……、ソレだけは避けたい、そんな気持ちもあったからでもあるのだが……、だけど、とりあえず……レミとは恋人同士という関係では無く、戦いをする為にパーティを組んでいる仲間……、そういう風にして接して行くというコトに、そう決まってしまったようだった……。
【 第二十章 】
夏休みを越え2学期が始まり、はや文化祭の季節が訪れる……。
ウチのクラスの出し物は、と、いうと……、よりにもよって「ジェット・コースター」
体育祭のときの実績が買われ、文化祭実行委員にも選ばれていたリサとオレ、オレは猛烈に反対したのだが、工作部の坂本がどうしても「作りたい」という熱意に押され、その熱意に同調したクラス全員の勢いも手伝って、結局ウチのクラスは「ジェット・コースター」に決まってしまっていた……。
狭い教室で一体どれだけのモンが出来るっていうんだ……、と、オレは半信半疑というか、かなりネガティブな気持ちでその決定を受け入れたのだが、いざ出来てみると、あの「やる気」に満ちていた坂本のズバ抜けた工作力が功を奏し、教室の入り口から始まり2回大きなカーブを描いた後、出口付近で静かに停まる、という、かなりシッカリとしたモノが完成し、テスト走行で100kgのモノを載せて走行させても、ブレるコトなく滑降する見事なモノが完成してしまっていた。
「ジェット・コースター」が苦手なオレにとって、ソレは見ているだけで「憂鬱な気持ち」に成るモノであり、当日の当番に成るコトは断固拒否、テスト走行での試乗も断固拒否し何とか難をまぬがれた、と、いった感じであったので、おかげで当日は何もやるコトが無くなってしまい、体育祭の一件以来、雰囲気が明るく成っていたウチのクラスでは当日、係りをやりたいという人数も充分足りていた為、午前中、お客さんの列を裁き、滑らせたコースターを元に戻しソレをまた滑降させるという一連の流れが滞《とどこお》り無く行われているコトを確認したオレは、オレとは同じく実行委員として係りに成っていないリサとクラスを離れ一緒に文化祭をノンビリと楽しんで周《まわ》るコトにした。
中学までの「付け焼刃」で出来たようなアトラクションなんかで一杯の文化祭とは違い「メイド喫茶」や「牛丼屋」「忍者屋敷」に「占いの部屋」など、ソレなりに内装まで工夫を凝らしたしっかりとした「出し物」の多さに感心しながら、色々と校内を周《まわ》り、飲み物を買って中庭で一休みするコトにした。
「結構、盛り上がっているね?♪」と、リサ。
「まァな? やっぱ高校の文化祭とも成ると何ていうかクォリティが高いクラスが多いな?」
「うん、忍者屋敷面白かった♪」
と、くったくの無い笑顔をしているリサ、レミも可愛かったが、さすがはクラス、ツートップと言われるだけあって、このリサの楽しげな表情は見るモノを引き込むには充分過ぎる程のまぶしさを醸し出している「こんな可愛い娘と文化祭を一緒に周《まわ》れるなんて、オレも随分とツキが周《まわ》って来たようだな? 生きて居ればイイこともある、と、いうが、本当にそんな気持ちだぜ」と、オッサンめいた感慨に耽《ふけ》りながら、屋台で買ったドリンクで喉を潤していた。
「ウチのクラスのも、スゴイちゃんとしたのが出来上がっちゃったね? ビックリしちゃった」
「そうだなァ? ジェット・コースターなんて、狭い教室ん中でどうやって造るのか、と、想っていたけど、相当シッカリしたモンに仕上がってたな?」
「坂本くん、頑張っていたから……」
本当にそう言うリサの言う通りで、工作部部長である坂本の頑張りでウチのクラスのジェット・コースターはかなりの盛況と成っていた、お祭り好きの女子生徒が遊園地風のコスプレをして受付をし、体力に自信のある男子が滑り降りたコースターを元に戻す仕事をし、坂本自身がお客さんを乗せて安全ベルトを締め、事故が起きないようにと、細心の注意を払いながら運営されており、たくさんのお客さんを滞《とどこお》り無く裁いて、何ていうか非常に盛り上がっていた。
「なんか、まとまりあるよね? ウチのクラスって」
と、顔をほころばせながら嬉しそうにそう言っているリサ。
「うん……、でも、ソレって、きっと……」
「なに?」
「リサが体育祭のときに頑張ったのが切っ掛けだったんじゃないかな? なんかそんな気がする」
「そ、そう……?」
「うん……、ウチのクラスって何ていうか女子が元気だろ?」
「うん」
「ソレって、やっぱ中心に居るオマエとかが、いつも楽しいコトを考えていて、ソレで男女の隔《へだ》たりみたいなのが少ないっていうのがスゲェいい雰囲気を作っていると思うんだよ」
素直に想っているコトを話してみた。
「うん……、本当にいいクラス……、アタシこのクラスに成れて良かったな?って想う……」
「オレもだ……、チョットジェット・コースターには参ったけどな?」
「ウフフフフフ♪」
と、楽しげに笑っているリサ。
「オマエ、笑うなよソコで……」と、オレ。
「だって、スッゴイ恐がっているんだもん、なんかおっかしくてその様子が♪」
「バカ、オマエ、人には苦手なモンが必ず一つか二つかあってだな? その一つがオレにとっては、たまたまジェット・コースターだったっていうだけの話なんだよ」
「本当に、一つか二つだけなの?♪」
まだ、楽しげにそう言っている。
「お、おう……、そんだけだよ、他には恐いモンなんてネェよ」
「本当かなァ……?♪ 本気でイヤがってたもんね? テスト走行のとき♪」
想い出してカラカラと笑い声を上げている。
「笑うなって言っているだろ!? たまたまだよ、たまたまオレは……、あァいうのが、チョット……、ほんのチョットだけダメっていうだけなんだよ!」
「全然、ほんのチョットって感じじゃ無かったんだけど♪」
と、楽しげにツッコむリサ。
「バカ、オマエ! イイんだよ、オレはもう大人なんだよ、だからジェット・コースターなんて、あんなその、あんなのはな?」
「ウフフフフフ♪ すっごい言い訳してる」
と、焦っているオレを見ながら笑いを堪《こら》えられないでいるリサ。
「オマエ……、そんなに笑うなよっ、アレだけだって、他には恐いモンなんてネェよ!」
「本当に……? なんか高いトコロとかもダメそう♪」
「たっ、高いっ、高いっ、あのっ、だ、だっ、その」
「アハハハハハハ♪ ダメなんだ」
「ダメじゃネェよ! ダメとは言ってネェよ!」
「もう~~、じゃ、遊園地とかはゼッタイダメだね? ナオトくん♪」
と、オレの顔を覗き込むようにイタズラっぽくそう言っているリサ、チキショー、可愛いから何か許してしまうオレが居るのは内緒のハナシだ。
「だっ、だから! 大人なんだよオレは! もうそういうのはな!」
「そういうのは?」
「卒業したんだよ」
「アハハハハハハハ♪ もう~~ナオトくん、ワカリやす過ぎ♪」
尚も笑っているリサ。
「ったくよ……、人のそういうのをつついてだな、あのな? とにかく、そんなに笑うなよな……っ」
「ゴメンなさい♪」
とか言いつつ、まだ笑いを堪《こら》えられないでいる。
「ったく……」
「冗談♪ だから、怒んないで?」
とか、言いながらまだ笑っているリサ。
「全然、謝ってネェじゃネェかよ、オマエ……」
「ゴメンなちゃい♪」
「ったく、本当に女ってのは……っ」
「アハハハハハハ♪」
結局、大笑いしているリサ……、でもチョット意外だな?って想った、もっとオトナしい娘かと思って居たんだが、体育祭実行委員をやったり文化祭実行委員で一緒に色々として来て打ち解けてくれたのかもしれないが……、こうして喋っているとごく普通の女の子っていうのが段々とワカッてくる気がしていた……。
「ふぅ~、もぅ……、なんかナオトくんと居ると、楽しいコトばっかり♪」
「そうかァ? 特に何の変哲も無い、ソコら辺に幾《いく》らでも居る野郎と一緒だろ? オレなんて」
「う~~ん、普通と言えば普通なんだけど……、なんだろう……、何か楽しい♪」
まァ、そう言ってくれる分には悪い気はしないが……、何故か褒められているような気持ちに成れないのは気のせいだろうか……。
「アタシ……、ナオトくんともっと早くこうして、お喋り出来る仲に成ってたら良かったのになって……、最近良くそんなようなコト想ってるの……」
「まァな? 1年のとき全然喋んなかったモンな?」
「うん……」
「何ていうかさ、オマエもうチョット美人系キャラっていうか、お高く止まってて今みたいに砕けた会話をしてくれる人じゃ無いっていう気がしていたから…」
「なんでぇ? アタシそんなに冷たい感じだった?」
「いや、実際喋ったワケじゃないけど、なんか近寄りがたい感じだったからさ」
「……そっか……」
「だから、体育祭のときはスッゴイなんか嬉しかったんだよ」
「嬉しかったの? なんで?」
「いやオマエ、聞いてはいると思うけど、レミとオマエってウチのクラスの美人の二強だろ?」
「うん……、まァ……、何となくそんな風に言われているっていうのは……知ってはいたけど……」
「その美人さんが、だ、率先してクラスを盛り上げる為に頑張ってくれちゃうようなコトをしてくれるとは思って居なかったからさ」
「確かに1年生の頃、アタシ……大人しかったよね……」
「おう、そうだよ、オマエ、こんななんか喋りやすいヤツなんて全然わかんなかったんだよ」
「そっか……、なんかそう聞くと勿体無いコトしちゃってたかな?って……想っちゃう……」
チョット残念そうな様子のリサ。
「確かに1-Aの連中は、みんなチョット自分を隠してたよな……、オレも少しソレには息苦しさを感じて無くは無かったよ」
「うん……、1年生のあのクラス……、正直チョット堅かったよね?」
「うん……、今年はなんか変なヤツ多いもんな?」
「ウフフフフフ♪ 変なヤツが多いって……、そんな言い方したらダメだよ♪」
「ハハハハハ♪ まァな?」
「でも、ナオトくん、今とあんまり変わらない感じだったって……、そんな感じがするけど……」
「そうか? 結構、気ぃ遣《つか》ってたぞ? 1年の頃は…」
「そうなの? 全然そんな感じはしなかったけど…♪」
「失礼な、オレだってなァ? 一応色々と考えてだなァ」
「はいはい、ワカリました♪」
「オマエ! 本当にっ! オレだって色々と考えるコトがあってだなっ」
「ウフフフフフ♪ ワカリました、ナオトくんは大人です♪」
「オマエ、バカにしてるだろ、オレを!」
「どうでしょ?♪」
「ったくよぉ……」
「怒んないでよ……♪」
「苦労は買ってでもする、ソレがオレの座右の銘なんだぞ?」
「本当に?♪ 全然そういう風に見えないんだけど」
「なんだよ、チョット大人ぶったコト言ったんだから、見直してくれよオレを……っ」
「アハハハハハハ♪ もう本当ナオトくんと居ると楽しい♪」
「まァ、そう言ってくれんのはイイけどよ……」
「ウフフフフ♪」
そうして、ひとしきりの会話が終わり、少しの間ユックリとジュースを飲むオレ達……。
「ふぅ~~……、結構喋ったな?」
「うん……そうだネェ……、う~ん……」
「ん? どうした?」
少し押し黙っている感じのリサ。
「そろそろ……、イイかなァ~~って想って」
「そろそろ? んじゃ、教室戻るか?」
「あっ、いや、あの……、その、そうじゃなくて……」
「ん? なんだ? 急に改まって」
少し考えている様子のリサ……、そして決意をしたかのようにユックリと口を開く……。
「あの……、ね……?」
「うん……なんだよ……」
「レミちゃんの……コト……」
「っ?」
不意を突かれ、一瞬ドキッとしたオレ……。
「レミ……、の、コトが……、どうか、したの、か……?」
「うん…………」
そして、また少し考えている様子のリサ……。
「そろそろ、イイかなァ?って、想って……」
「そろそろ、イイかなって…、え? どういうコトだ?」
意を決したように話し始めるリサ。
「ナオトくんの中で……、レミちゃんのコト……もう、そろそろ……」
「あ……、あ、うん……」
何となく言わんとしているコトがワカルような気がしていた……。
「もう4ヶ月くらい……経《た》つでしょ? 別れて……から……」
「あ……、うん……、そういえば、もう、ソレくらいに成る、か……」
「アタシの……、入り込む余地……、あるかなァって……、想って……」
その言葉に焦ったオレが居た…、えっ!? ひょっとしてコレってのはっ!? そんな気持ちだった……っ。
「ナオトくん……、今……、好きな人……居る?」
直球で来たな……、そう想った……。
好きな人……か……、レミと別れてから、そんなコト全然考えて無かったな……? コレって、今……フラグが立っている状態なんだろうか……、何となくそんなコトをボンヤリと考えていた……。
「居る、と、言えば……、居る……よ」
ソレがオレの答えだった……。
「アタシ……」
「ちょっ、チョット待ってくれっ!」
慌ててリサの発言を制したオレ……、こういうのは……やっぱり自分から言うべきだと想った……。
「意識、している人は居る……、んで、もし、その人が、オレのコトを……、そういう眼で見てくれている、ってそういうコトだとしたら……、オレは……っ」
「オレは……?」
「全力でソレに応《こた》えたいって想ってる……」
オレなりにとっさに考えて、そう言っていた……。
「じゃあ……、アタシ……」
「うん……」
「立候補しても……イイのかな……」
「…………、うん……オレの方こそ……、イイのかな……?っていう感じ……だよ……」
「ウフフフフ♪ じゃあ、何ていうか…」
「うん……」
「ふつつか者ですけど……、ヨロシクお願いします……」
「お、オレの方こそ……、よっ、ヨロシク……」
少しの間、沈黙しているオレ達……、そして暫くしてから、リサが口を開く……。
「良かった…………」
その眼には少し涙が浮かんでいる。
「バっ、オマエ、何泣いてんだよ……」
「だっ、だって……、ずっとずっと……」
「う、うん……」
「ナオトくんには、ずっとレミちゃんが居たから……、アタシなんかが、本当に……イイのかな?って想って……っ」
見ると眼に涙を一杯に浮かべてしまっているリサ……。
「バっ、オマエ泣くなって言ってんだろうがよっ、きっ、気持ちは嬉しいけどさ……」
「ゴメン……、……なんで泣いてんだろ、アタシ……グスングスン……」
「イイんだよ、こういうときは……、しょっ、しょうがネェヤツだな……」
と、嬉し涙が溢れるのを止められないでいるリサを優しく抱きしめるオレ……。
「うわ~~~~ん……っ、らって、らって……、ドキドキしたんだもん、一杯ドキドキしたんだから……うわ~~ん……っ」
「しょっ、しょうがネェヤツだな……、いいよ、もぅ……、止まるまで、好きなだけ一杯泣いちまえよ……、全くもう……」
と、言いながらしっかりとリサを抱き寄せる。
「うわ~~~~~~ん……」
その後、暫くリサは泣き止まなかった……。
賑やかな文化祭の片隅で……、お互いの気持ちを確認し合うように、リサが泣き止むまでの間、オレ達は静かにソコで寄り添い合って居たのだった……。