【 第十五章 】

 3学期を終え、春休みと過ぎて、晴れて2年生に成ったオレ達。

 レミはオレと同じクラス、ついでに箕屋本《みやもと》もまた、一緒のクラスに成っていた、例のごとくというか、レミはクラスの振り分けに対し夢の中で少し細工をしたとのコト……、まァ、イイんだか悪いんだかワカラナイが……、おかげで、引き続きこの3人は今年も一年を共に過ごすとあいなったワケだった……、あと1年のときレミとクラスの男子からの人気を2分していたリサも同じクラスに成っていた、ソレについてはレミは何も細工はしていなかったというコトで……、どうやらたまたま? 一緒のクラスに成ったというコトらしかった。

 他の面子に関しては良く知らない人達との新しい生活であり、新しく友人なんかが出来るのかワカラなかったが、帰宅部のオレに積極的に仲良く成ろうというような「奇特な存在」はやはり多くなく、オレは1年のときからつるんでいる箕屋本《みやもと》と行動を共にするコトが多かった……。

 そんな風にして過ぎていった、オレの新2年時の毎日……、ウチの学校は体育祭が5月にあり、ソレに向けてとり行われる種目やクラス単位での演目、実行委員の決定など、そんなコトを取り決めする学級会が開かれていた……、割と部活に入っている人が多い、この新しい2年のクラス、必然的に役員と成る生徒は、放課後ヒマをしているオレのような帰宅部に打診されるというのが流れであり、黒板を見ると、ソコにはオレの名前がしっかりと記されていた。

「では、委員を決定します、各自、この人がイイというトコロで挙手願います」
 そんなようにして学級委員が会議を進め、結果として、同じくして帰宅部だったオレとリサが体育祭実行委員に選ばれてしまったのだった……。

「あァ…、なんかかったるいモンを押し付けられてしまった感じだ……」そんなコトを思っている部分はあったのだが、一緒に選ばれた女子の役員は、今年に入ってからもレミとクラスの男子からの視線を一身に浴びている、あのおとなしく可愛らしく、何処か愛嬌があり、誰からも好かれている存在の美少女……リサだった、と、いうのは、不幸中の幸いとでもいえようか…、もしレミにこのときのオレの気持ちを見透かされていたら、おそらく怒りを買うだろう、というコトは想像に難くなく……、今夜の夢の中でその部分を見透かされやしないか?と、オレは、なんかそんなようなコトをヒヤヒヤしながら考えつつ、決定してしまった、その体育祭実行委員とやらを引き受けるコトにした。

「ま、実際、帰宅部のオレは放課後ヒマしているワケだし、バイトはいつも 18時から……支障をきたすようなコトな何も無いだろう」と、そのときはそんなような考えで、何となくあっけらかんと、コレから始まるであろうアレやコレやと、やらないとイケなく成るコトがどんなコトなのか、と、いうのをボンヤリと想像していた。

 学級会が終わり、休み時間、先ほど決定した、と、いうコトもあり、リサがオレのトコロにやってきていた。

「なんか……、選ばれちゃったね?」
 と、リサ。
「うん……、ま、何ていうか、こんな頼りないオレで何処まで、実行委員なんていう責務を全う出来るかどうかワカラナイけど、なんつぅか、とにかくヨロシク……」
 と、そんなようなコトを言って置いた。
「うん、二人でイイ体育祭に出来るように頑張ろうね?」
「ぉ、ぉう」
 少し照れ気味のオレ……、レミの笑顔も半端無いモノがあるが……、そのレミと男子からの人気を2分しているこのリサ……、近くで観るとソレがよくワカル感じだ、澄んだ瞳、健康的な張りのある白い肌、肩くらいまである黒髪はツヤツヤとしていて、そして何より笑顔がカワイイ、この娘が微笑んだだけで、一瞬世界が輝きまばゆくようなそんな高揚感《こうようかん》を与えてくれる……、そんな感じのステキな娘だ……、将来アイドルか何かにでも成った方がイイんじゃないだろうか? チラッとそんなコトを想ったオレが居る程だ……。

「でも……、何したらイイか、まだ良くワカラナイから、ナオトくん、至らないトコロもたくさんあるかもしれないけど、コレから是非ヨロシクお願いします♪」
 そう言って、ペコリと軽く会釈するリサ、そのときのそのリサの仕草と言ったら、なんとまァ、可愛いコトこの上無い……見るからに性格が良く、おとなしくて清楚で可憐で……、正直「萌える」っていうのは、こういうコトなんだろうな?と、いうのを全身に感じているオレが居た、「おぉぉっぉぉ、レミに今のオレの気持ちを知られたらと想うと恐ろしくて、そんなコトはゼッタイに考えたくない、とは、想ったのだが……」正直言ってそのときのオレはこう想っていた……「体育祭実行委員の間、こんな可愛い娘と一緒に色々と時間を過ごせるのかァ……、コリャ案外ラッキーだったのかもしれないな?」と……、とにかくこの気持ちがレミに知られたらとんでもないコトに成ると想うので、どうか読者の諸君このコトはココだけのヒミツにして置いて欲しい……。

 っと、その日の夜のコト、夢の中でいつものようにワイリー・フラウに汚染されている連中とのバトルを終え、一息ついてレミとお喋りに花を咲かせる時間を迎えた……「ふぅ……、毎晩のコトだが……、この瞬間は何にも代え難い至福の時間だ……」そんな気持ちに浸っている頃、レミが何かを考える様子でオレにこう言った。

「ナオトくん……、リサちゃんのコト……、どう想っているの?」
 ヤバイっ、イキナリ見透かされたのか?と、思い動揺をしてしまうオレ……、その様子を見たからかどうかはワカラナイが、レミはそんなオレにこう言っていた。

「あの娘には……、気を付けて……」
 ん? どういうコトなんだ? ひょっとしてやきもちでも妬いてくれているのか?

「きっ、気を付けてっていうのは?」
 そのオレの問いに対して、レミは少し押し黙るようにしてから、言いたくは無いんだけど、と、いった感じで口を開く。

「1年生のとき、アタシ達……、一緒のクラスだったでしょ?」
「うん、レミも箕屋本《みやもと》もリサも一緒だったな?」
「ソレで……ね?」
「うん、なんだよ」
 ソコからまた少し黙りこくってしまうレミ……、何か想うトコロでもあるのだろうか……。

「ナオトくん、アタシのコト嫌いに成らないで欲しいんだけど……」
 嫌いに? なんだ? なんか、しちゃイケないようなコトでもしたってのか?
「オレにヒミツにしたいコトでもあるのか?」
 一応、そんな風にしてレミが話しやすく成るようにと、水を向けてみた。

「本当に! 本当に! 嫌いに成らないで欲しいんだけどっ」
「わっ、ワカッタよ……、オマエ、何かしでかしたのか? 例え、そうだったとしても……、コレまでオレはオマエと一緒に夢の中でとはいえ、腐る程たくさんの時間を共にして来て、たくさんの悪い夢の因子を植えつけられたヤツラと一緒に戦って来たんだ、いわばオマエはオレの戦友で……、その大事な戦友が考えて想ったコト、行動したコトっていうんなら、イキナリ突き放すようなコトはゼッタイにしないから、何ていうか信用してくれ」

 正直な気持ちだった……、レミとは今付き合っているが……、正直、数々の戦いを一緒に潜《くぐ》り抜けて来た仲である、ただの恋人なんかとは比較に成らない程、強い絆を感じているのが実際のトコロであり……少々のコトでは驚かないそんな確信にも似た気持ちがオレの中にあった。

「…………、あの……ね?」
「うん……、なんだよ?」
 そうして、ようやくレミは重い口を開くようにしてこう言った……。

「クラスで……、男子の人達がアタシとリサちゃんのコト……、凄く何ていうか好意を寄せてくれて居たでしょ?」
「まァな? オマエとリサは間違いなくツートップで、何ていうかダントツだったからな」
「ぅ、うん……、ソレは……、その……」
 まだ、何かコレから言おうとしているコトにためらいを感じているようだ……。

「いいよ、もっと気楽にしてくれよ、どっちにしろ、今は夢の中なんだ、オマエが何を言ったってオレは驚かネェよ」
「ぅ、うん……アリガト……、じゃ、じゃァ、思い切って言うね?」
「おぅ、ドンと来いってんだよ」
 と、胸を張ってそう言い切るオレ。

「少し気に成ったの」
「ん? リサのコト……か?」
「そう……、この人、どんな人なんだろう?って……、やっぱり、あぁいう状況だと……、何ていうか女のプライド……っていうか…、そういうのが出てきちゃって……」
「あァ……、何かワカル気がするな?」
 もしも、オレがレミの立場でクラスで人気を2分するようなヤツが居たら、いやがおうにもソイツがどんなヤツなのか?ってのは、気にしたくなくても気に成ってしまうだろう、と、そう思った。

「んで? アレか? リサの心を読み取ってみよう、と、そんなような行動に出たワケか」
「ぅ、うん……、そうなの……、わ、ワカッちゃうかな? やっぱり……」
「いゃ、ソレはワカル、言ったらオマエとリサはライバルだったワケだ、そのライバルがどんなヤツなのか?っていうか気に掛かるってぇのは、ごくごく自然な感情だと思うぜ」
 なんとなく頭で、そんな状況に自分が成ったら?と、いうのを想像しながらそう話を向けてみた。

「そうなの……、やっぱりどっか意識しちゃう部分があって……、ソレで……ね?」
「うん……」
「あるとき、リサちゃんの夢の中に入ってみたの……」
 話が核心に迫って来たな……、結果がどう成ったのか凄く気に成っているオレが居た。

「で、で、どんな感じだったんだ? 本当はどんなヤツだったんだ? アイツは」
「うん……、ソコなんだけど……」
 少し重苦しい面持《おもも》ちで暫く黙ってしまうレミ、こりゃ、あんまりイイ結果では無かったっていうようなコトなのかもしれないな? 表向きには清楚で可憐でおとなしくて可愛らしい女の子、でもその実、心の中では……、何てのは、良くある話だからな……。

「で、どんなヤツだったんだ? アイツは」
 暫くして、ようやくというかその重い口を思い切ったように開いて、レミは話し出した……。

「入れなかったの……」
「はぁ?」
「どうしても、入れなかったの……、リサちゃんの夢の中に……」

 正直、そんなコトが?と、いう感じだった、レミと毎晩のように色々な人の夢の中を渡り歩くように成って段々とそのコツがつかめて来ていたオレ……、今までに入れない夢なんてのを観ている人はお目に掛かったコトが無かったし、何より何年も前から一人、ワイリー・フラウと戦い続け、いまだこうして頑張っている、獅子奮迅のつわものに成っているレミに……、突破出来ない夢があるなんて……、驚きを隠せないオレが居た……。

「入れなかった? そっ、ソレって、どういうコトなんだ?」
「真っ黒な壁があって……、どうしてもその先に行けないの」
「真っ黒な壁……?」
 なんか、とにかく……、一筋縄では行かないとかいうより……、どうやら、余りイイ感じの心の持ち主では無いコトだけは確かなようだな? そう感じたオレが居た。

「コレまでにも、そういう人は居るには居たの……、アタシが入ろうとしたとき、壁がある人……、でもそういう人達の壁は……、とてももろくて、ほころびていて……、凄く……悲しみに満ちていた……、心に深い傷を負って周《まわ》りに一線を引いてしまっているんだな?って、そう想った……」
「うん……、その気持ちは…、凄くよくワカル、ような気がする……、こんなオレでもな……」
「そう……、凄く傷ついて……、心を閉ざしてしまっている人……、とても可哀想な気がして……、そういう人の夢には入らないようにしていたの、ソッとして、いつかワイリー・フラウをやっつけて、そういう人達が心から明るく楽しめる夢の世界を作りたいって、そう願って立ち去るようにしていた……」
 レミらしいな?って、想った……、コイツって本当に人の気持ちの痛みがワカル、ステキな娘なんだなって改めて想った……。

「でも……、でもね……?」
「うん……」
「リサちゃんのは……」
「リサのは?」
「そういうのとは、全く別のモノだった……」
 正直、ソレをオレがこの眼で見たワケでは無いから、今レミが話している黒い強固な壁というのがどんなモノなのかはワカラなかったが……、何となくイイ印象は受けないな?と、そう感じていた……。

「ガッチリとガードされていて、世間と隔絶しているっていう感じか」
 と、その様子を想像しながら言うオレ。

「うん、そう……、ソレに…………」
 そしてまた、少し押し黙ってしまう様子のレミ。

「ソレに……?」
「その黒くて厚い壁は……、コレまでどれだけ汚染されていた人のソレより……遥かに、暗くて冷たくて……、ソレだけじゃなくて……何かに向けられた強い反発心と強い気持ちに満ちて居たの……」
「強い……気持ちに……?」

 オレは、恐る恐るそう聞いてみた……、あの大人しくて可憐で優しい雰囲気に包まれたリサにそんな部分があったなんて、と、思うと、にわかには信じ難かったが……。

「ソレで、その壁を壊して中を……、とも想ったんだけど、何処にも隙《すき》が無くて……、ヒビ一つ入っていないなくて、中の様子は全くワカラなかった……」
「どうやら、相当な闇を抱えていそうだな?」
「うん……、正直、そうとしか想えなかった……、ソレで思い切ってその壁に触れてみたの……」
 レミはそのときのコトを想い出して少し強張《こわば》った表情でそう言った。

「で、どう成ったんだ? そのとき……」
「…………」
 余程のコトがあったのか、暫く沈黙してしまうレミ、ソレから少ししてこう話始めた……。

「その壁に触った瞬間にね?」
「うん……」
「モノ凄い衝撃が走って跳ね飛ばされて、一つの声が聞えたの……」
「衝撃?」
「そう、どんなモノも弾き返してしまうようなモノ凄い衝撃……、勿論、夢の中だからケガとかはしなかったんだけど……」
 信じられない……、あの小柄でおとなしいリサがそんな鉄の意志みたいなのを心に包含していたなんて……。

「で? 何て言っていたんだ、そのときアイツは……」
 そして、レミは少し呼吸を整えてから、意を決したように、そのとき聞いたという「声」を口にした……。

「二度とこの地へ歩みを進めるコトはあいならぬ……、安易《あんい》にその心触れるモノに対し、我の鉄槌は汝を、いついかなるときも許しはしない……」

 なっ、なんだソレは……、正直、中二病の連中が言いそうなセリフまわしだな? とも感じたが……、とにかく驚きを隠せなかった……、何度も言うが、あのリサの心が……、そんななんか「ドス黒い世界観」に染まっていた、というのが、どうにも信じられないでいた……。

「リサはワイリー・フラウの連中に染められてそう成ったのか?」
「ぅぅぅん、何処にもその刻印は無かった……、だから……、そういうのとはもっと違う別次元の闇を背負っているのか……、ソレか……」

 ソコでレミは……、再び口を閉ざしてしまっていた……。