「……っ…」

スッと力が抜けて、私はその場に崩れ落ちた。

「ごめん…ごめんなさい…!ごめんなさい…!」

頬を何度も伝う涙が真っ暗な世界の中に消えていく。

最後に流れた記憶は、私が本当に心から消して欲しかった記憶だ。

泣き崩れる私のそばに近付くと、翼はそっと呟いた。

「……最後に、聞きましょうか…。あなたは、誰を殺しましたか…。」

その問い掛けに、私はゆっくりと顔を上げた。
涙で濡れる視界の中で、翼と目が合うのがわかった。

私が…私があの時殺したのは……


「お腹の中にいた…赤ちゃんだ…!」

シーンと静寂の中に、私の声だけが響き渡る。

何の感情もない瞳で私を見つめる翼は、しばらくしてゆっくりと口を開いて、


「正解です。」

そう呟いたのだった。

「思い出したいと、思ってくれたんですね。」

そう言って、今までで1番優しい笑みを浮かべていた。

「うん…。」

「でも…」

スッと、先程の笑みを消し去ると、今度は悲しそうに笑って続けた。

「あなたは生きたいですか…?死にたいですか…?例え殺す前に戻っても、今までの事は変わらない。
あなたが関わってきた人たちの関係はそのまま。
味方などいない世界で、あなたはもう一度やり直せますか?」

そんな翼の言葉に、私はゴシゴシと目元を擦ると、自分なりに優しく笑って見せた。

「…今さら、なに言ってるの?生きてほしいって言ったのは、翼じゃない。
私、自分しか生き残らなかったあと、後悔した。私は誰からも必要とされなかったかもしれないけど、私はあの子を必要としてたんだって。
たくさん辛いことあって、酷いこといっぱいされたけど、1番酷いことをしたのは私なんだって…」

「………。」

「私、前に進めてるよね?」

私がそう問い掛ければ、翼は唇を噛み締めて頷いた。

「良かった。でも、翼の言葉があったから、そう思えるんだ。
翼が生きてほしいって言ってくれたから…。
私は生きたいって思ったんだよ。」

「…心から、そう思ってる…。」

そう言って笑う翼の顔は、どこか誰かの笑顔と重なった。

そこでハッとする。

「……翼って…」

「東條桜さん。」

私の言葉を遮るように、翼が私の名を口にした。

「このゲーム、あなたの勝ちです。約束通り、あなたがその人を殺す前の時間に戻します。」

その言葉と共に、パアッと私の体が光に包まれていく。

「っ!」

「どうかこれからは、自分を大切にしてください。」

ニッコリと微笑む翼の姿が光に覆われ見えなくなっていく。

「ま、待って!私あなたに聞きたいことが…」

そう叫んだ時だった。



「僕を存在させてくれてありがとう。お母さん。」

「っ!」

その言葉を最後に、私は意識を手放したのだった。