キーンコーンカーンコーン…。
ここは…。
ざわざわと騒ぎ始めた教室内は、どこか懐かしさを感じさせられる場所だった。
「中学校だ…。」
そうだ…。私が通っていた、3年B組の教室。
あれ…そう言えば…
私、中学3年の2学期辺りからの記憶が無いかもしれない。
「なんで…だ…。」
『桜!一緒に帰ろ!』
「っ!」
聞き覚えのある声に顔を上げれば、目の前には見覚えのある女の子が立っていた。
あれ…この子誰だっけ…。
と言うか…私のこと見えてるの?!
なんて声を返せば…
『うん!行こう!』
今度は、真後ろから聞こえた声に息をのんだ。
この声は…
スッと、目の前の女の子は私をすり抜けると、恐らく後ろに立つ“私”のもとへ駆け寄った。
クルッと振り返れば、やはりそこには、まだ少し幼い“私”がセーラー服を身にまとって立っていた。
やっぱりこれは…
中学校の時の私の記憶だ…。
『あ!明日どうする?私いていいの?せっかくの翔(かける)くんとのデートなんでしょ?』
『いいの!桜とも遊びたいから。それに、拓真(たくま)くんもいるから4人だよ!』
『拓真くんもいるんだ…。まぁ…、静香(しずか)が良いならいいけど…。』
静香…。
目の前の私が呟いた名前に、私はその隣にいる彼女の名前を思い出した。
「そうだ…柊(ひいらぎ)…静香だ…。」
小さい頃から1番仲が良かった友達。
あれ…でもなんで、小さい頃から一緒なのに、覚えてなかったの?
そういえば高校はどうだったんだっけ…?
確か同じとこ行こうって約束して…。
あれ…?
そう言えば…
「中学校3年以降の記憶が曖昧だ…」
どうして…?
夢の中だから…?
必死に思い出そうとしても、分かるのは自分が今17歳ということだけ。
それでも確かに高校に通っていた記憶はあるのに、そこに誰がいたのか、どんなことがあったのか…
思い出そうとしても思い出せなかった。
『桜こっち!』
ハッと我に返った時だった。
「ここって…」
目の前にそびえ立つ遊園地と思わしき建物に、私は眉をひそめた。
『おはよう!静香。』
『緊張するね…。』
先程とは違う景色と、2人の私服姿に、場面が変わったのだとわかった。
恐らく、今日は先程言っていたデートいう日だ。
目の前の2人の様子を見ていて、なんだか頭の奥がズキズキと痛み始めるのを感じた。
覚えていたはずなのに…思い出せない…。
この光景を知っているのに…知らない…。
分からない。
だけどこの日は……
私が今までで、一番後悔した日なのかもしれない…。
『あ、来た。翔くん!拓真くん!こっち!』
静香の目線の方向に目を向ければ、見覚えのある男の子が2人。
『静香。お待たせ。今日はダブルデートだな。』
ニコッと笑みをこぼしながら、翔くんは嬉しそうに拓真くんの方へと目線を向けた。
『そうだな。じゃあ、中に入ろう。』
スッと4人が入場ゲートへと歩みを進めた。
静香と翔くん。
“私”と拓真くん。
自然と2人ペアで歩き始めた背中に、私は気が付けば手を伸ばしていた。
「行ってはいけない…。」
え…?
自分が呟いた言葉に、思考が停止した。
どうして?なんで?
そんなことを思いながらも、遠ざかっていく背中を、私はただボーッと見つめることしかできなかった。