由紀ちゃんから、土曜日の夕食をご馳走すると部屋に招待された。

献立はメールで知らされていて、ステーキ、グラタン、ポタージュスープ、サラダとパンだとか、楽しみだ。

二子玉川のスーパーで赤ワインとアイスクリームを買って、梶ヶ谷のアパートへ向かう。

駅からの地図を貰っていたので、簡単にたどり着くことができた。

聞いていた通りのプレハブの2階建てアパートで2階は女性ばかりが住んでいるとのことだ。由紀ちゃんの部屋は2階の右端だ。

丁度6時に部屋をノックすると、奥から由紀ちゃんのはずんだ声がする。

すぐにドアを開けてくれた。可愛い部屋着の由紀ちゃんがいた。メガネはかけていない。

「お待ちしていました。こんなところですが、ゆっくりして行って下さい」

「駅から近くて便利なところじゃないか」

「古いアパートなのでお家賃が安いのがとりえのところです。お掃除はしていますので、見た目よりもきれいですよ」

「今日は招待してくれてありがとう、楽しみにしてきたよ」

「ご期待に沿えないかもしれませんが、ゆっくりしていってください。料理はほとんど出来上がっています。あと最後の調理だけです。温かいもの食べてもらいたくて」

すでにテーブルにはサラダが並んでいる。グラタンがオーブンにはいっているからすぐにできるという。そしてステーキを焼き始めた。

僕は持ってきたアイスクリームを冷凍庫にいれて、グラスのあり場所を聞いて持ってきた赤ワインを飲む準備をする。

ステーキを由紀ちゃんが運んでくる。ポタージュスープをスープ皿に入れてくれる。それからグラタンをオーブンから出して夕食が整った。

「いただきます」

「お味はいかがですか」

「このステーキおいしいね」

「焼き具合どうですか」

「丁度いい。毎日こんな夕食が食べられると幸せだろうなあ」

由紀ちゃんの顔がみるみる赤くなってくる。

しばらくは、出された料理の味を確かめるように黙々と食べる。

「ワインの味はどう?」

「とってもおいしいです。飲み過ぎないようにしないと」

「酔っ払っても、ここは君の家だから大丈夫だ。僕が介抱するし、後片付けもしてあげるから、ゆっくり飲もう」

「はい、お願いします。もう少し酔ってきたみたいです」

「グラタンもとってもおいしいね」

「はじめて作ってみたのがグラタンでした。料理の本から仕入れて来て作りました。父がおいしいと言ってくれましたので、それから何度もつくりました」

「ほかに得意な料理はあるの?」

「得意と言うほどではありませんが、ほとんど何でもできます、和食でも、中華でも」

「レパートリーが広いんだ。今度は中華を食べてみたいな」

「次はそうします。おいしいと食べてもらえてほっとしました」

「本当においしい。中学生の時から料理していただけあって上手だね」

話が弾んで、赤ワイン1本を2人で空けてしまった。

僕が半分以上は飲んだみたいだけど、由紀ちゃんも1/3位は飲んでいたはずだ。

意外とお酒には強いみたいだ。いやそうじゃなかった。

ようやくすべて食べ終えた。おいしかったので残さずに食べた。由紀ちゃんはそれをみてとても喜んでいた。

後片付けに立とうとした由紀ちゃんがよろけた。少し酔ったみたいだった。

「由紀ちゃんは休んでいて、僕が後片付けをしてあげるから」

「いいえ、私がやります」

立ち上がろうとするがやはりよろめく。

「すみません。お願いできますか? 飲み過ぎたみたいです。ごめんなさい」

「こっちこそ、ごめん、ワインを飲ませ過ぎたみたいで」

「おいしいから油断しました。外ではこういうことはないのですが、自宅なのでやはり油断してしまいました。ごめんなさい」

「そういうところが由紀ちゃんの可愛いところだ。隙があって、かばってやりたくなる」

「それならいいんですけど、どうかバカな私を嫌いにならないでください」

「嫌いになんかならないさ、ますます愛しくなった」

「そういってもらえてうれしいです。少し休んでから後片付けをします」

「いいよ、御礼に僕がしておくから、休んでいて」

由紀ちゃんは、よろけながら部屋の隅にあるベッドに腰かけた。

それを見届けると、後片付けを始める。二人分の食器なんてすぐに洗って片付けた。研究所勤務の時は毎日実験器具を大量に洗っていた。

由紀ちゃんを見るとベッドに横になって眠っているみたいだった。料理造りで疲れてもいたんだろう。本当に可愛い娘だ。

近づいて寝顔を覗き込む。思わず口づけしたくなるような可愛い寝顔だ。しばらくはこうしておこう。

主が寝ている間に部屋の中を見まわす。

由紀ちゃんらしいさっぱりした部屋だ。テーブルと食器棚、小さな机と本箱、テレビ、ベッド、大きめの埋め込み型のクローゼット、一体型のバスルール。

トイレを使わせてもらったが、中はきれいに掃除されている。自分でも言っていたが確かにきれい好きだ。

由紀ちゃんは相変わらず小さな寝息を立てて寝ている。

どうしたものか、このまま帰るわけにもいかない。起きるまで待つしかないと思い、テレビをつけて音を控えめにする。

どういう訳か、結局僕も眠ってしまったようだ。確かにワインのボトルを半分以上飲んでいたのだから眠くなってもおかしくない。

誰かが揺り起こすので目が覚めた。揺り起こしていたのは由紀ちゃんだった。

「起きてください。ごめんなさい、私、眠ってしまったみたいで」

「ごめん、僕も眠ってしまったみたいだ。由紀ちゃんはもう大丈夫?」

「酔いが覚めました。仁さんはどうですか」

「テレビを見ていたら眠ったみたいだ。僕も飲み過ぎた」

二人でテーブルにもどると自然とお互いに見つめ合うが、なんとなく間が持たない。

「そうだ、買ってきたアイスクリームを食べよう」

「私が準備します」

二人でアイスクリームを食べる。冷たくておいしい。

「これを食べたら引き上げるよ」

「あのー、今夜泊まっていってもらえませんか、このままでは寂しくて」

「いいのかい」

「そうしてもらえると嬉しいのですが、ベッドが狭いですけど一緒に寝てもらっていいですか」

「抱き合って寝れば狭くないさ」

「落っこちないようにしっかり抱いて寝て下さい」

「望むところ、そうするよ」

それから、由紀ちゃんはお風呂を沸かしてくれた。先に僕が入って、その後に由紀ちゃんが入った。

明かりを落としてベッドに座って待っているとバスタオルで身体を巻いた由紀ちゃんが出てきて黙って隣に座った。

そっとキスをするとアイスクリームの甘い匂いがした。そのまま、狭いベッドから落ちないように愛し合う。

◆ ◆ ◆
布団の中で、僕は由紀ちゃんを後ろから抱き締めている。柔らかい肌が心地よい。

「こうして私のベッドで仁さんに抱かれているなんて夢みたいです」

「僕も由紀ちゃんとこんなことになるなんて初めて会った時は思ってもいなかった、でもこれで良かったと思っている」

「こうしていると本当に安らかな気持ちでいっぱいになります。このまま眠れたらどんなに幸せか?」

「ゆっくり眠ろう、明日はお休みだから、誰も邪魔しない」

「しっかり抱き締めていて下さい。おやすみなさい」

「ああ、ベッドから落とさないよ、おやすみ」

由紀ちゃんの髪の匂いがする。身体の温もりが伝わってくる。心地よい。好きな女の子を抱いて眠るって本当にいいもんだ。

朝、由紀ちゃんがしがみついて来るので目が覚めた。窓の外はまだ薄暗い。

布団がベッドから落ちそうだった。由紀ちゃんがしがみ付いてきたのは布団からはみ出して寒かったからだろうか? 

落ちそうになっている布団を二人の身体にかけ直す。

しがみ付かれるっていうのは悪くない。そっと抱き締めてやる。そしてまた寝入った。

由紀ちゃんがベッドから出て行きそうなのに気が付いた。

手をしっかりつかんで引き寄せて抱き締める。

「おトイレに行かせて下さい」

「ごめん」

「きれいにしてきますから、もう一度可愛がって下さい」

「いいよ。喜んで」

由紀ちゃんは裸でバスルームへ駈け込んでいった。

しばらくしてバスタオルを身体に巻いて恥ずかしそうに戻ってきた。

すぐにベッドに引き入れて、愛し合う。

朝は由紀ちゃんが積極的だった。愛し合うのに疲れて、また、二人とも眠った。

次に目が覚めたらもう10時を過ぎていた。今日は生憎の曇り空だから薄暗い朝だった。

今度は僕がトイレに立った。戻ってくると由紀ちゃんも目覚めていたので、抱き締める。

「もうできません。痛みなどはないのですが、腰がだるくてもうだめです。ごめんなさい」

「ごめん、大丈夫?」

「このまま、もうしばらく休ませて下さい。お昼になったら食事をつくりますから」

「せっかくだからお昼までもうひと眠りしよう。後ろから抱いてあげる」

心地よい朝寝坊だ。お互いに肌のぬくもりを感じてうとうとする。

お昼になったので、由紀ちゃんが起きてお昼ごはんを作ってくれた。昨晩は洋食だったので、あっさりしたお茶漬けがとてもおいしい。

お腹が落ち着いたところで、由紀ちゃんをもう一度抱きしめてから帰宅した。

今度の土曜日は僕の部屋へきて夕食に中華料理を作ってくれることになった。楽しみだ。