木曜日。

私は紅羽と一緒に学校へ登校していた。

「佐奈、学校嫌いを克服して大好きになれた?」

隣で歩いている紅羽が、にやにやしながら聞いてくる。

「そんな軽く言わないでよ紅羽、まだ学校に行くのは嫌だよ」

「学校が嫌なのは私も一緒だけどね、佐奈が小学生の時に体験したいじめが原因となり、学校嫌いをしているかどうかが気になるな」

「分からない。……でも多分いじめのトラウマは、少しはなくなっていると思うよ。学校も今はそこまで行きたくないわけじゃないし」

「ならよかった、……確かに今日の佐奈の表情は明るく見えるよ」

紅羽はホッとした表情で言う。

「そう?」

私はそういって紅羽に微笑む。紅羽も微笑み返してくれた。
 

私はふと思う。

世の中、全てが上手くいき、楽しくなることはないと。

悲しいことは、楽しい出来事よりも多い。

その悲しみに心が押し潰されそうになることは何度もあった。

だけど。

私は楽しいことだけを大事にしていきたい。

常に笑って生きていたい。

過去にとらわれるなんて、もったいない。

幸い、私はいい友達に恵まれている。

――その友達の名前は紅羽だ。


「……紅羽」

私は立ち止まって声を出す。

「ん? なに?」

紅羽は不思議そうに私を見る。

「色々とありがとね」

私はこれまでの感謝の気持ちを伝え、笑った。

「どういたしまして」

紅羽は穏やかな笑顔でそう言葉を返してくれた。