「……そういえば……その日は……宗正君も休みですね……」

お礼を言って早々に立ち去りたいのに、止まらない呪詛のような言葉に反応して背中がぴくんと揺れた。

「……いいんですよ、別に……。
……ええ……ええ……かまいませんとも……。
……仕事にさえ……支障をきたさなければ……」

これは暗に私と宗正さんの関係を責めているのだろうか。
そのあたりの小さなごたごたは耐えないだけに、いつもは影の薄い本多課長にぞっとした。

とにかく職場で休みは取れたので派遣会社の担当の、早津さんに連絡を入れる。

【羽坂さん、有給使えますけどどうしますか?】

返信のメッセージに思わずかくんと首が横に傾いた。
マルタカに来てようやく四ヶ月に入ったところだから、有給無いと思うんだけど……?

その旨返信し、少しして早津さんからの回答があった。
前の建築会社からマルタカへ契約の途切れなく働いているから、有給が付いているらしい。
知らなかった。

有給があるなら使うに越したことはない。
それに有給だったら大河が私を雇うなんて変なことはしないでいいし。
どういう仕組みになっているのか知らないけど、私が大河と同じ日に休みを取ったって、あっという間に広まった。

「これ。
値札はずし、お願いできる?」

ドン! と空いている隣の机に布浦さんが置いたパッキンからはベルトがはみ出ている。

「今日中に返さなきゃいけないんだけど、私、得意先と約束があるの。
じゃ、お願いね」

「……はい」

椅子に座る私をなにか言いたげに布浦さんは見下ろしていたが、すぐにふん、と顔を背け、かつかつとヒールの音も荒く去っていった。

……前回のことはもう忘れたのかな?

前もこうやって私に仕事を押しつけ、大河にさりげなーく釘を刺されたのに。
でもこうやって、誰かを好きだって気持ちを素直にアピールできる布浦さんが少し羨ましくもある。

……さっさと事務処理終わらせて、これ、片づけないとね。

月末月初の忙しいときじゃなくて、それだけが救いだと思う。
あと、大河が外回りに出ていていないっていうのも。


「羽坂、手伝うか」

もくもくとひとり、ベルトの札はずしをしていたら、隣に誰かが座った。
視線を向けた先ではいつものように、椅子に後ろ向きで池松さんが座っている。

「いいんですか?」

「手伝わないとそれ、終わんねーだろうが」

くいっと曲げた人差し指で眼鏡をあげ、池松さんは私と一緒に札はずしをはじめた。

「その、最近はどうだ?」

「最近、ですか?」

話しながらも手は休みなく動かしていく。