「もらいもんのキャベツで誤魔化してるからな。麺はこの前の余りだから少ねーぞ。貧乏学生だから、マメに買い足しとかできねぇんだよ」
「……いただきます」
「はいどーぞ」

 慣れない手で箸を持ち、口へと運ぶ。

 成程、確かに焼きそばというよりも焼きキャベツと呼んでもいいほどにキャベツが放り込まれていた。
 口の中の歯ごたえを楽しみながら、莉依子は壁時計を見遣る。長針と短針が両方とも上を指す時間から1周していた。

 ――あれ?

 箸を口に突っ込んだまま莉依子は眉間に皺を寄せた。
 龍は莉依子の様子に眉を顰め、自分の箸を止めて向かいに座る莉依子に手を伸ばす。

「おい莉依子、行儀が悪」
「なんで?」
「は? 何が」

 まるで子供の箸の持ち方を直すかのように莉依子の手を掴んだ龍は、いきなり不満げに睨んできた莉依子に驚いて固まる。
 莉依子は構わずに続けた。

「ねぇ龍ちゃん、お昼とっくにすぎてるんだけど」
「あ? ああ、過ぎてるな」
「ってことはこれ、お昼ごはんってことだよね」
「そりゃそうだろ。つか、は? なんだよいきなり」
「なんでもうこの時間? ていうか、あれ? 私いつ起きたんだっけ。龍が出てってー、寝ちゃって、それでなんで」
「あー……」

 バツが悪そうに右手で頭を掻いた龍は、莉依子の手を掴むために浮かしていた腰を元に戻すとコップに手を伸ばした。
 麦茶を一気に飲み干すと、机の上に肘を置きそのままポリポリと頬を掻く。莉依子の脳裏に『龍! 行儀悪い』と叱り飛ばす龍の母親の声がよぎった。