和人はカフェでコーヒーを片手に外を眺めていた。
街路樹の新緑は濃い緑に変わり、道行く人へ陰を落とし心ばかりの涼を提供している。
ぼんやり道行く人を見ていた和人はある一人の人物を見つけて思わず立ち上がった。
もう二度と視界に収めたくないと願っていた男。
店員に、知り合いがいたので連れて戻ってくる旨を伝えカフェを飛び出した。
願っていた思いとは裏腹に男の腕をつかんでいた。
「ちょ、何、なんですか」
相手は和人があの日の男とは分かっていないのか、怯えている。
「紗香さんと同じマンションにいた高橋だ。
紗香さんのことで聞きたいことがある」
あぁ、あの日の男。
そう記憶を手繰り寄せた様子が男の表情から見て取れた。
「ボクは何も……」
「いいから来てくれ」
半ば無理矢理、今までいたカフェに連れ込んで男を自分の向かいに座らせた。
「彼にコーヒーを」
店員へ声をかけると「ちょ、ちょっと!」と男は動揺している。
「なんだ」
和人がジロリと厳しい眼差しを向けると「ジ、ジンジャエールで」と小さく告げた。
大の大人の男がジンジャエールだって? と、心の中で失笑する。
こいつへ憂さ晴らしがしたいわけじゃない。
ただ自分の中の色々を整理したいだけだ。
そう自分に言い訳をして男を睨みつけるように観察した。