いつも通りに戻った日々は黄色のテープさえも日常になりつつあった。
今晩も遅くなった帰宅に足取り重くマンションへと歩く。
曲がり角を行った先に紗香が歩いていた。
和人は歩を早めた。
しかし一向に距離は縮まらない。
かなりの早足、それはもうほぼ駆け足くらいになってようやく紗香へと追いついた。
「紗香さん」
「……ッ」
顔を引きつらせた紗香にこちらが驚いてしまった。
紗香は和人の顔を確認するとあからさまに安堵した。
「……なんだ。和人さん」
何に、怯えているというのか。
怪訝な表情が顔に表れていたようで謝られた。
「ごめんなさい。あの、別の人かと思って」
「別の、人って?」
視線を彷徨わせた紗香は言いにくそうに横髪に手を入れて顔を隠すように口を開いた。
「後、つけられてるんです」
「は?」
思わず体を強張らせ、辺りを警戒する。
遅い時間は人もまばらで皆、足早に歩いて行く。
こちらを伺っているような人影は見当たらない。