「健吾(けんご)は21歳でも、わたしは25歳なんだ。結婚してる友達だっている。結婚してもおかしくない歳だっつーの!!!」

 でも、こうして叫びながら気づいたことがある。
 わたしは彼のことを好きじゃなかったのかもしれない。悲しいのではなく、悔しさから涙がにじむ。
 脳裏には、30分前に別れたばかりの、整った顔が思い浮んだ。

 ゆるいパーマをくしゃくしゃにセットした、少し長めの茶髪、二重の大きな瞳、きりりとした眉、すっと通った鼻筋、薄い唇で、いわゆる、イケメンの彼氏だった。
 今思えば、彼、健吾のことをわたしは見た目で選んだんだ。
 自己中で、わたしのことなんて考えてくれない。だけど、ときどきは振り返って待ってくれる。
 そんなところがあるから「付き合おう」って言われて、頷いてしまった。

 彼だって、きっと、わたしが好きなわけはなかったと思う。
 付き合ってから、わたしよりも可愛い女の子と歩いてるところを見たこともあった。浮気しても文句を言わない彼女が欲しかっただけなのかもしれない。

 わたしも、ただ温もりが欲しかっただけなんだ。あの人のことだけを悪く言えた立場じゃない。
 でも、荒れた気持ちはそう簡単におさまりそうもなく、最後にもうひと怒鳴りした。

「絶対にもっといい彼氏を見つけるんだからー!!」

 そうして、包みを掴んでいた手を離そうとした。
 しかし、その前に、どこからかパチパチと拍手の音が聞こえてきた。

「え?」

 一瞬、自分の耳が変になったかと思った。
 なんで、拍手?
 音の発生源を探そうと、振り返る。それは私の真後ろにあった。
 少し離れた位置に立っている長身の男性だ。わたしと目が合うと、関西かどこかの独特のイントネーションで話しかけてくる。

「えらい意気込やね。思わず、応援したくなるやん」

 声は低く、それでいてどこか甘い。ずっと聞いていたくなるような不思議な声の持ち主だ。自分が声フェチだなんて思ったことないんだけど、こういうのを美声って言うんだろうか。

 男はグレーのジャンパーに、黒のパンツ、黒の靴という装いで、髪は短い黒だ。
 ニッと笑いながら、近づいてくる。

「ところでさ、それ、捨てるん?」