話を進めるほどに、ルートガーの表情が変わる。
「それで?お前の考えは?」
実際に発生した事案としての話を終えた。
もちろん、俺の考察は出来るだけ省いた。ルートガーの意見を聞きたいだけだ。
「先に、ルートの考えを聞きたい。俺の話だけだから、誘導してしまったかもしれないけど・・・。感想でいいから、聞きたい。考えの補填に使いたい」
俺の主観での説明だから、俺が導き出した結論がベースになっている。
ルートガーの見解が同じになってもしょうがないと思う。
話はできるだけ、贅肉をそぎ落として実際に発生していることだけを語ったが・・・。
「そうだな。まず、新種が進化体だというのは納得ができる。幸いなことに、俺は新種や”できそこない”に遭遇したことがない」
これは、安心材料だ。
ルートガーが、”遭遇したことがない”というのは、チアル大陸では、新種が産まれる土壌がないということになる。
「それで?」
「お前の考えは解らないが、魔物同士で戦えば・・・。進化が発生しても不思議ではない・・・」
ルートガーは、俺の足下にいる”進化に成功した事例”を見ている。
他にも、俺のホームには”進化に成功した”者たちがいる。実際には、俺もシロも”進化”が発生している。
ルートガーは、言葉を区切ってから、新しく入れなおした飲み物を口に含んだ。
そこから、考えをまとめるように、目を瞑った。
急かしてもまとまらないだろう。
ルートガーの考えがまとまるまでゆっくりと待つ。
湯気が出ているカップを持ち上げる。
チアル大陸で作っている”紅茶”だ。商人たちに、製法を伝えているし、勝手に作って売っていいと言ってある。出来るだけ、レシピは公開しておきたい。
美味い物が食べられるようになれば、多くの問題が解決する。
それは、歴史では証明できないが、美味い物が少ない場所や、国民や民に質素倹約を強要する権力者は滅んでしまえばいい。権力者は、権力行使が目的にしか思えないような事をおこなうようになったら終わりだ。身を引いたほうがいい。派閥や権力闘争。権力者にしか解らない悩みや辛さがあるのだろう。しかし、全てを飲み込んで権力構造のトップを目指したのだ。何のための権力で、誰のための権力なのか、立ち止まって考えるべきだ。
「カズト」
ルートガーが珍しく俺の名前を呼んだ。本当に珍しい。年単位で記憶にない。
「ん?あぁ悪い。考えは、まとまったのか?」
「質問していいか?」
「あぁ俺が覚えている範囲なら答える。あっ場所を見たいとかはダメだぞ」
「それで十分だ。まず、スキルカードは、1か2が殆どだと言ったな」
「そうだな。レベル3が混じっている感じで、殆どがレベル1とレベル2だ」
「そのスキルは、使えたのか?」
「ん?試していない。試してみるか?」
「あぁ頼む」
解りやすいスキルの方がいいだろう。
レベル1は、発光
レベル2は、水
レベル3は、氷
を、取り出す。
俺が発動しても良いが、ルートガーに渡した方がいいだろう。
一応、全て2枚ずつ取り出す。
ルートガーにカードを渡すと、ルートガーはカードを発動する。
「問題はないな?」
「そうだな。違和感もない。やはり、進化してもドロップは変わらないのだな」
「ん?ルート。すまん。意味が解らない?」
「あぁ悪い。進化したカードが手に入るのかと思っただけだ」
「進化したカード?」
「そうだ。同じ”発光”でも、お前が発見した理論を使わなければ、光る時間や明るさは一定だ。それが違う可能性を考えた」
そうか、カードの進化か・・・。
考えていなかった。
レベル1はレベル1だと思っていた。俺が提唱したことになっているカードの使い方をしなければ、確かにスキルの効果は一定になる。
スキルの効果が同じになるという感覚が俺にはないので、解らないが、ルートガーには同じ結果に思えたのだろう。
「同じだよな?」
自信がない。
そもそも、スキルカードの有効時間は、込める力で違ってくる。
そして、詠唱を排除すれば、発光だけでも攻撃が出来てしまう。
「あぁ同じだ。正確には、専門家に調べてもらうとして、今は同じだと思って話を進めるぞ?」
カードの専門家?
そんな者がいるのか?是非、話を聞きたい。今は・・・。ダメだろうな。後だ。後。
「頼む」
ルートガーの推測も、俺と同じような場所に帰着したようだ。
「ルートも、何者かの力が加わっていると思うのか?」
「自然に発生するにしては、不自然な感じが否めない。今回、お前が対処した場所だけなら、偶然で済ませられるとは思うが、エルフ大陸でも、俺が得ている情報では、ドワーフ大陸でも、他の大陸でも発生している。発生が確認されていないのは、アトフィア大陸とチアル大陸だけだ」
「ルートは、アトフィア教を疑っているのか?」
「微妙だな。奴らが、『”新種”の対応に困っている。助けてくれ』とは言わないだろう?」
「そうだな。新種の討伐に成功したら、大々的に宣伝はするだろうけど・・・。そういえば、討伐報告もないのか?」
「ない。だから、俺は、アトフィア大陸では”新種”は産まれていない。と、思っていた」
そうか、やはりルートガーはアトフィア教の連中が主導していると考えたようだ。
「ルート。別に、アトフィア教の連中の肩を持つつもりはないが、やつらが”新種”を作る動きをしているとは思えない。そこまでの、行動力も知恵もない。奴らは、自らの正義しか考えていない」
「・・・。あぁそうだ。だから、奴らの行いに起因して、新種が産まれたと考えている」
「ん?」
アトフィア教は、人種至上主義だ。
最近は、少しだけだが流れが変ってきているが、根本は変っていない。
魔物を邪悪な物と定めている。
邪悪だと決めつけている。
その為に、魔物の素材を使った者を扱い続けている俺たちチアル大陸を軽視し敵視している。
そうか、魔物か・・・。
「ルート。話を飛躍させるぞ」
「はい」
「新種が産まれるのは、自然の摂理だ。これはいいな」
「あぁお前の近くに実例がある。戦いを続ければ、いずれは進化する。進化の失敗は・・・」
「”できそこない”は、俺の考えでは、強制進化だと思っている」
「”強制進化”?」
「そうだ。ルート。お前が魔物の大群の中にクリスと二人だけで放り込まれたとしたら?数万とかではなく、数十万とかいう単位の魔物だ」
「・・・。そうか、俺はクリスを守るために・・・。進化を考えるだろう。そして、無理をしてでも、進化を・・・」
「そうだ。命の危険を感じて、進化という”未来”があるのなら掴もうとする。それに失敗した者が”できそこない”ではないのか?」
「・・・。”できそこない”は、わかった。お前の話で、理屈が通る。今は、可能性が高い仮説だ」
「そうだな。”仮説”だ。アトフィア教の奴らは、魔物を敵視している」
「あぁ。正確には、”人種”以外を敵視している」
「今は、魔物に限るぞ。俺は、別にアトフィア教の正義に興味はない」
「あぁ」
「敵視しているが、魔物は増える」
「そうだな」
「魔物を一か所に集める方法を見つけたのでは?新種を産み出す方法ではなく、魔物を集める方法なら、奴らでも見つけられると思う」
「・・・」
「奴らなのか解らないが、可能性が高いのがアトフィア教だ」
「あぁ。でも・・・。可能なのか?」
「ん?集めることか?」
「そうだ」
「やってみないと解らないが、可能だと思う。それに、アトフィア教には、シロたちが属していた部隊の様に、魔物と戦うことを専門とした者たちも居たはずだ。俺たちよりも長い時間をかけて魔物の特性を学習していても不思議ではない」
これが、俺の結論だ。
ルートガーはまた目を瞑って考え始めた。
”仮説”が実証された時には、アトフィア教と戦うのが正義なのか?
俺は、気に入らないから・・・。ただそれだけで、アトフィア教と戦う。しかし、チアル大陸で考えると、掲げる”正義”が必要になってしまう。