ハーコムレイが、俺を睨んでくる。
睨まれるようなことは・・・・。沢山しているけど・・・。心当たりが有りすぎて、どれに該当しているのか解らない。
ひとまず、立ち上がったが、ハーコムレイの前に座りなおす。
「マガラ渓谷を越えた場所には、王家が管理している場所がある」
「はぁ・・・」
そりゃぁ他に用意できる権限を持つ者は居ないだろう?
「だが、運営を行う事も、村を作る事も、王家やミヤナック家が行うことはできない」
何を言いたいのか解ってきた。
確かに、マガラ渓谷を越えた場所は、王家の直轄領はあるが、街はもちろんだが、村と呼べる場所も存在していない。中央の湖と街道の間にあり、全体が森になっている場所だ。森に生えている草木は貴重な物ではない。湖にアクセスするにも断崖絶壁で漁は不可能だ。それに、それほど強くはないが、魔物が居る。数が多いのか、討伐の旨味も少なく、準魔境設定されている。
「そうでしょうね。アゾレムだけじゃなくて、マガラ渓谷を越えた場所を領有している貴族が何か言ってくるでしょう。王家なら解らないけど、ミヤナック家なら武力行使に出る愚か者が出て来る可能性もある」
武力行使の時には、貴族家は全面には出ないだろう。
盗賊の集団が襲ったことになるのだろう。そのあとで、アゾレム辺りが武力で盗賊を討伐して、開拓された村を実効支配する。
「そうだ」
詳しくは知らないけど、マガラ渓谷を越えた先にある貴族家は、男爵や準男爵や騎士爵しか居なかったはずだ。それも、全部が宰相派閥に属していて、王家派閥とは距離を置いてあるはずだ。
そんな場所に、王家やミヤナック家が村や街を築いたら・・・。
「気が付いたようだな。リン=フリークス。貴様には、報酬を渡していなかったな」
そんな面倒な場所・・・。入口を作る事を考えたら確かに有効だけど、それなら俺じゃなくて、ギルドに貸し与えてもいいだろう?
「謹んで辞退」「できると思うか?」
ダメだな。ハーコムレイの雰囲気から、拒否できるとは考えられない。ローザスがニヤニヤしているのが気に入らない。元々、俺に渡すつもりで居たのだろう。あの場所がこれからの試金石になるか、捨て石になるのか、俺の力を見るのにも丁度いいと判断したのだな。
メリットとデメリットを考えてみよう。
メリットは、神殿の出口が設置できる。村の規模でも、街の規模でも、構築が可能だ。森の魔物に関しては、眷属が駆逐できるだろう。魔物はデメリットにならない。森を神殿の領域に組込めれば、魔物からも魔力が取得できる可能性がある。関所を越えた先との交易も可能になる。ポルタ村は実質的に俺が支配している。街道の安全は、俺が握ることになる。
デメリットは、アゾレムや宰相派閥の横やりが発生するくらいだな。これは、敵対している相手だから、問題はない。ギルドと俺の結びつきから、立花たちにリン=フリークスが神崎凛だと知られてしまう可能性があるが、これも今更な話だ。すでに、敵対している。
「わかった。でも、俺が治めるだけでは、奴らが納得しないのでは?」
「それは、大丈夫だ。貴様に貸し与えるだけだ」
「賃借契約?」
「そうだ。しかも、その書類は、ローザスが保持して、関係機関に提出するのを忘れる。しかし、王家の一員が保持しているから、効力を発揮する」
「・・・」
ローザスを見ると、頷いているから了承済みなのだろう。
賃借と言われると、話が変わってくる・・・。こともないのか?俺が貰ったとして、爵位もない、村出身の人間が持っている場所で、マガラ渓谷をスキップできる方法を持っている場所?
「あぁリン=フリークス。この契約は、残念なことに、お前ではない。18年前に、ニノサ=フリークスが立てた功績に寄るものだ。ニノサの死亡が確認された今、貴様が継承することを、王家とミヤナック家とコンラート家が追認する物だ。だから、リン=フリークスには元々拒否する権利はない」
やられた。
元々、ニノサの持ち物だったという事にするのだな。俺には、この世界で、”遺産の放棄”を宣言できるとは思えない。
ちょっと待て、これは俺にはメリットが少ないが、王家は置いておくとして、ミヤナック家にはメリットがあるのか?
「リン=フリークス。考えている所、悪いが、決定事項だ。貴様が、開拓に成功したら、賃借契約ではなく、領地として与えてもいい。と、王家は言っている。爵位は、騎士爵だ」
広さで言えば、騎士爵ではなく、男爵か悪くても、準男爵だろう。
そうか、そういうことか・・・。
アゾレムと宰相派閥との全面対決を考えているのだな。
「そうだ!リン君は、”フリークス村長”を名乗ってよ。僕も遊びに行けるように!」
「黙れ!」
ローザスが、訳が解らないことを口走った瞬間に、ハーコムレイがローザスを黙らせる。主従がよくわからない二人だが、周りに居る者たちが何も言わないので、問題ではないのだろう。
村長?村を作るのは確定なのか?
「リン=フリークス。ローザスが言ったことは気にしなくていい。あの森は、貴様が好きに使え。どうせ、王家でも持て余している」
「ん?持て余している?」
「そうだ。領地の大きさで言えば、小さめの子爵家ほどだが、資源がない上に、魔物も多い。湖に出られる場所があれば、多少は違うが、それも無理だ。貴重な薬草や鉱石で有れば話は違うが、見つけられていない。交通の要所でもない。だが」
俺には、関係がない。
マガラ渓谷の変わりだ。アロイの変わりになるようにすればいい。ん?違うな。それでは、俺はおいしくない。村の体裁を作ればいいのか?
俺に貸し出される場所で、将来は俺が領主になる。しかし、今は王家が管理している場所だ。書類は作成されているけど、実際に提出はされていない。対外的に見れば、俺は勝手に王家の土地を開拓して、占有している者だ。
「わかった。俺は、あの場所に防御機能を持った”拠点”を作ればいいのだな?」
ハーコムレイは、肯定も否定もしないが、表情から間違っていないと判断できる。
元々、誰かに実行させようとしていた作戦なのだろう。神殿の話が無ければ、ハーコムレイや派閥の人間たちが協力して、森に村を作って、そこを囮にしてアゾレムや宰相派閥の暴発を待つつもりだったのだろう。
そこに、神殿の話が加わって、より挑発的に運ぶことができる。アロイとメロナの価値が殆ど無くしてしまう。特に、アロイ側で”安全”に渓谷を越える為に払っている”税”は必要なくなる。
「ミヤナック様。アロイ側は、それでいいとしてもメロナ側はどうする?ミヤナック家や王家の屋敷と考えていたが、あまりにも・・・」
「そうだ。リン=フリークスに頼み事をするはずだった事に関係している」
「え?」
「ニノサは、メロナに屋敷を持っている」
「はぁ?」
「ニノサは、功績を持って、王家所有の屋敷を下賜されている。場所は、メロナから少しだけ離れた森の中にある。知らないのか?」
「知っていたら、こんな頼み事はしていない」
「そうだろうな。権利書は、サビナーニ様が、従者の一人に託していたケースの中に入っていた」
「ん?」
「従者は、アッシュ=グローズ。王都で、奴隷商を営んでいる男だ」
「奴隷商?」
「その話は、”今”は、関係がない」
「わかった。それで?」
「権利書は、有効な物だ。リン=フリークスに、継承が行われる。だから、メロナにある屋敷は、リン=フリークス。貴様が所有者だ」
「?」
「それで、頼み事は、その屋敷を、ギルドに貸し出してもらえないか?」
「わかった。手続きは解らないから、任せていいよな?」
「もちろんだ。ギルドに手続きを行わせる。リン=フリークスには、書類へのサインだけでいい。それで、貸出料だが」
「森の賃借と相殺でいい」
「わかった。ローザスに書類を持たせる」
これで、神殿への出入口の問題は解決したのか?
まだ確認をしなければならないことが多いけど、すっきりとした。ハーコムレイが敵か味方か解らないけど、ルナが居れば、いきなり裏切るようなことはないだろう。王家も、宰相派閥に対抗する手駒が欲しいだろう。
マガラ渓谷を潰せる手駒で、アゾレムに対する防波堤にもなりえる。
もしかしたら、それ以上を狙っているのかもしれないが、今は解らない。政治が絡む駆け引きがあるのかもしれないが、経験不足だ。
今後、俺がアゾレムや宰相派閥だけではなく、教会の奴らと戦うのなら、ブレーンが必要になる。
俺を裏切らないブレーンが・・・。
貴族の機微が解らないと、足下から崩される可能性がある。
でも、俺が今から貴族を知るのは難しい。いや、不可能だ。神殿の運営は、知識があるロルフが居る。眷属たちは、ブロッホが居れば統率は大丈夫だろう。ロルフも、眷属との調整はできる(はずだ)。しかし、貴族家や教会とのやり取りには俺では知識が不足している。知識だけなら詰め込めばいいのだが、経験が圧倒的に足りていない。
「・・・。ークス。リン=フリークス!」
「・・・。へ?」
「”へ”ではない。貴様、話を聞いていなかったのか?」
「もうしわけない。聞いていません」
「ふぅ・・・。まぁいい。メロナの屋敷の運営に当たって、貴様と連絡を取る方法を確立したい」
「??」
「どうせ、貴様もニノサと同じで、フラフラと出歩くのだろう?」
「え?そんな・・・」
「妹だけじゃなく、私も、貴様を探した。”ふらふら”していないなどと、言わないよな?」
「あっ・・・」
思い当たることが多すぎる。
でも、ニノサと一緒にされると少しだけ・・・。違うな、かなり・・・。不本意だ。あそこまで、”酷い”とは・・・。
「今、ニノサよりは”まし”だと考えたな」
「え?」
「その反応だけで十分だ。ルナ。こいつは、貴族の相手は無理だ」
俺の反応?
そんなに解りやすいか?
周りを見ると、頷いている者が半数以上。残りは苦笑している。事前に打ち合わせでもしていたのか?
ローザスだけが、笑いを堪えている表情で気分が悪い。
表情筋が動くのなら、動かないようなスキルでも開発しようか?出来そうにないけど・・・。
「本当は、すごく、すごく、すごく、嫌ですけど、しょうがありません。お兄様のご提案を受け入れます」
「ルナ。まだ、そんな事を・・・」「お兄様!」
兄妹での喧嘩は止めて欲しい。まだ話が終わらないのか?
改めて、周りを見たら、皆が揃っている。居ないのは、ミルとミアとレオだけだ。
「ふぅ・・・。リン=フリークス」
「ん?」
「貴様。誰か、信頼できる人間は居るか?」
「信頼?」
「そうだ。メロナの屋敷を任せられるような人物だ」
「ナナは、ダメだな。新しい村?か神殿で宿屋をやってもらう・・・。信頼とは違うが、ここのメンバーくらいか?あとは、眷属だからな」
「眷属?」
あれ?
ローザスやハーコムレイには、眷属の話はしていなかった?
ん?
あぁそうか、メロナ側の出入口は二か所だ。ロルフに確認しなければならないが、メロナ側には3箇所の出入口を作ればいいのか?アロイ側には、2か所を追加する形だな。貴族とそれ以外の出入口を用意しなければならないのか?
「ルナ。イリメリ。俺のジョブは?」
二人は、首を横に振る。二人なら、俺の許可が合ってもジョブやステータスの話はしないだろう。
「わかった。ありがとう。ハーコムレイ。ローザス。ここで、スキルを使っていいか?」
「スキル?」
「あぁ俺のジョブに関連するスキルだ」
ローザスは、”是非”と訳の分からないことを言い出したが、ハーコムレイは苦虫を奥歯でかみしめたような表情をしているが、ルナやイリメリが大丈夫だという言葉を信じて、最終的には頷いてくれた。
「召喚”ブロッホ”。召喚”アウレイア”」
眷属の召喚を行う。俺が個体認識をしている者なら呼び出せることが解っている。もちろん、眷属側の許可が必要になるのだが、恥ずかしい状況にならなくてよかった。ブロッホとアウレイアからは、承諾の意思が伝わってきて、魔法陣が俺の両脇に生成される。召喚位置も俺が設定できる。ソファーの両枠に設定した。ブロッホは人型だが、アウレイアはフェンリルだ。ある程度の広さが必要になる。大きい魔法陣と人サイズの魔法陣が光りだして、ブロッホとアウレイアが召喚された。
「初代」「リン=フリークス!これは・・・。どういうことだ?」
先に、反応したのはローザスだ。
初代という言葉に、ハーコムレイの言葉が上書きされてしまったが、ヒューマの言っていた話か?あぁヒューマでもよかったのか・・・。まぁいい。
「詳しい話は、省略するけど、これが俺の眷属だ」
説明を端折りすぎたか?
アウレイアが、俺の前まで来て、寝そべる。ブロッホは、執事のように俺の横に立っている。
「リン=フリークス。聞きたいことは、山の様にあるが、まずは・・・。その足下で、寝ているのは・・・。神獣フェンリルなのか?」
「へ?神獣?フェンリルだけど・・・」
「主様。横から失礼いたします」
「ん?ブロッホ。どうしたの?」
「はい。アウレイア殿は、進化を重ねて、フェンリル種の頂点である。聖獣フェンリルになっております」
「へぇ。だって」
「だってではない!リン=フリークス!フェンリルだけでも・・・」「ハーコムレイ!落ち着け!」「ローザス。落ち着いてなど居られるか!バランスブレーカー」「だから落ち着け、リン君は、どの派閥にも属していない。そうだろう?それが、軍事的に脅威となったら、なんだ。僕たちの計画に、影響があるのか?」
立ち上がって、怒りを露わにしだしたハーコムレイだが、ローザスの指摘を受けて、落ち着いたのかソファーに座りなおす。
まだ、ハーコムレイは”ぶつぶつ”と、何かを言っている。ルナが、ハーコムレイに何か言っているが、気にしては居られない。
「リン君。僕には、その執事は・・・。人族には見えない、人族ではないよね?人族なら、”召喚”はできない。よね?」
ブロッホが俺を見ているので、うなずく。
「失礼」
「なっ!」「おぉぉぉ!!」「え?」「は?」「リン=フリークス!説明しろ!」
ブロッホが身体の一部を”竜化”した。やっぱり、黒竜はかっこいい。俺にも、翼が生えないかな?レッドブルでも作って飲めばいいのか?それとも、HONDAバイクでも作るか?
復活したハーコムレイが怒鳴っているが、無視するのがいいだろう。
「リン君。うるさいのはいるけど、僕も少しだけ説明をして欲しいかな?」
ブロッホを見ると、自分で説明をしてくれるようだ。
「皆さま。驚かせてしまって申し訳ない」
翼をしまって、手を元に戻す。元?違う。人間の腕に擬態をする。そういえば、服も自分で作っているとか言っていたな。
足下に寝ているアウレイアが、皆の声で頭を上げるが、”なんでもない”と知ると、”ふせ”の形に戻る。可愛いので、頭を撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らす。本当に、フェンリルか疑問だが、可愛いので許しておこう。
「皆さま。私は、アゼルに住んでいました。主様から、ブロッホという”名”を頂きました」
「ブロッホ殿。アゼルとは、アゼル霊山か?」
「そう呼ばれています。それから、私は、主様の眷属です。そして、忠実な執事でございます。私に、敬称は不要です」
「ブロッホさん。アゼル霊山から、どのようにして・・・」
「どのように?あぁ・・・。”古の約定”でご理解、頂けますか?」
「そう・・・。わかった。ハーコムレイ。あと、皆にも、この話は、ここまで。私が、”トリーアの名で預かる”ことを宣言する」
ローザスが王家っぽい話をするが、ハーコムレイが少しだけ驚いた表情をしただけで、浮かせていた腰を降ろしたので、本当に、終わりにするのだろう。
俺としては、王家と何か関係があるのなら、教えて欲しいとは思うけど、”藪をつついて蛇を出す”状態になっても困ってしまう。スルーが正しい対応なのだろう。
ブロッホが、俺を見ている。”話せることは話してよい”とだけ伝える。ブロッホなら、本当に隠さなければならないことは、話さないだろう。ローザスと復活したハーコムレイが、ブロッホに質問をしている。
一通りの質問を終えたハーコムレイとローザスは、視線をブロッホから俺に戻した。
「リン君。ハーコムレイが、まだ何か難しく考えているから、僕が率直に質問するね」
「わかった」
「君。貴族や商人の相手ができる?」
「え?貴族?商人?」
「そ!神殿というのは、ここに来て聞いた話だから、僕たちも影響がどこまであるか考えられないけど、アゾレムに対して有効な”いやがらせ”にはなる」
「そうだな」
「でも、そのために、出入口でしっかりとした対応をしなきゃだめだ」
「ん?」
「君の眷属は、聞いた話では、優秀だ。でも、素直だろう。君に忠実なのは当然だけど・・・。それだけだ。それは、いい意味で君の眷属なのだろう。でも、それだけでは、君を守れない。最後には、武力に訴えれば、負けることはないだろうけど・・・」
「あぁ」
「そこで、僕からの提案だ」
にっこりと笑うローザスの表情が気持ち悪い。なぜか、ルナが怒りの表情を浮かべている。
ローザスの目的は解らないが、確かに眷属は、”いい意味”で俺に従順だ。ロルフは違うが、ロルフはマヤに甘いだろう。
ブロッホは、苦言も呈してくれるが、俺以外への感心は薄い。眷属は、守るべき者たちだと認識しているが、他の”人”は、認識しているか怪しい。
いろいろな意味で、確かに、”人”が必要になってくる。
神殿に繋がる場所だと考えると、裏切る可能性がない者でないとダメだ。ブロッホでもいいが、ブロッホには神殿で、眷属のまとめ役を頼みたい。今後、眷属が増えるか解らないが、指示系統を考えると、移動速度と強さを兼ねたブロッホしかいない。他の者では、同種の統括にも影響が出てしまう可能性がある。
「リン君」
「ん?」
「君に、人材を紹介したい」
「人材?」
ローザスの笑顔が胡散臭い。
ハーコムレイは、いつもと変わらない。イリメリは、どこか諦めたような表情をしている。タシアナとルナがローザスを睨んでいる。機嫌が悪いようだけど、俺が原因ではなさそうだ。
「僕の・・・。正確には、ニノサと一緒に居た人間が、行っている商会だが、君にぴったりな人材が居る」
「ん?それなら、ギルドで雇えば?俺に、人なんて必要か?」
必要なのは解っているが、ローザスやハーコムレイとの距離を考えると、紹介される人物をそのまま信じることができない。人材は、喉から手が出るほど欲しいけど、紐付きでは”人材”とは言えない。
特に、俺のステータスを含めて、知られたくない事が多い。眷属の情報は、どこかで開示する必要はあるだろうけど、隠し通せるのなら、隠しておきたい。アドラが言っている”影響力”を考えれば、どこかで、戦闘は避けられない状況になるだろう。その時に・・・。
「そうよ!殿下。ギルドで、雇って・・・」「ルナ。俺も、その方法を考えた、でも、説明しただろう。リン=フリークスの特異性を考えれば、それでは弱い」
「ルアリーナ君。話しただろう?リン君は、僕たちを信頼していない。でも、リン君には人材は必要だ。そして、リン君をけして裏切らない人材が必要だと・・・」
ん?ルナが抵抗している?
確かに、ギルドからの人材では安心できない。でも、屋敷の管理をさせて、神殿への入口を管理させるくらいなら、大きな問題にはならない。
どうせ、中に入ってきても・・・。
そうか、ローザスやハーコムレイだけではなく、ギルドのメンバーにも神殿の出入口の説明をしていなかった。
「リン君。申し訳ない」
「いや、大丈夫だ。それで、人材は?」
「これから、行こう」
「これから?」
「そうだ。君に紹介したい会頭は、アッシュ=グローズ。奴隷商だ」
「奴隷?」
「そうだ。君には、ぴったりだろう?それに、君なら奴隷でも大事にするだろう?」
「奴隷を持ったことがないから解らない」
「その回答で十分だよ。それで、どうする?」
奴隷か・・・。
考えていなかったが、”有り”だな。
「わかった。でも、俺には」「資金なら大丈夫。僕たちが用意する」
「え?」
「リン=フリークス。いろいろな物への支払いが終わっていない。それだけではなく、ニノサが保留していた資金もある」
「はぁ」
まぁ気にしてもしょうがない。
ここは、ローザスとハーコムレイに頼ることにしよう。
「わかった。そのアッシュ=グローズの奴隷商に行けばいいのか?」
「今日、リン=フリークスが来ているとは知らなかったから、アッシュにはまだ連絡を入れていない。すぐに連絡を入れる。問題がなければ、このあと移動したいが大丈夫か?」
「あぁ。ミルとミアは、ギルドに居てもらおうかと思うが、大丈夫か?」
ギルドのメンバーがミルには説明をすると言ってくれた。すぐには戻ってこないが、戻ってくると解っていれば、待っていてくれる。
アッシュの奴隷商には、ハーコムレイの護衛が、先ぶれに出ている。
戻って来るまで、ローザスやハーコムレイから奴隷に関する基礎知識を叩きこまれた。
ギルドのメンバーは、話が終わったとばかりに、自分の用事を済ませて、俺が奴隷商から戻ってきてから、メロナに移動することにしたようだ。
待つこと、30分くらいか?
戻ってきた護衛から、アッシュは奴隷商に居て、すぐに要望の奴隷を用意すると言っているようだ。
”要望?”俺は、要望もなにも伝えていないのだが、ローザスが伝えていたようだ。
もしかして、最初から仕組まれていたのか?
そして、屋敷の話も嘘とは言わないが、ギルドとの関係を考えて、後付けの理由なのではないか?
まぁ考えても、答えが出てこないだろうし、誰も教えてくれるような事でもないだろう。
俺に、不都合があるわけでもないし、気にしないことにしておこう。
奴隷商には、ギルドから馬車で10分くらいだ。
店構えを見れば、俺なんかが入るような場所ではないのがよくわかる。
店の前では、紳士が一人で待っていた。年は、ニノサと同じくらいか?
「リン様」
「え?」
「サビナーニ様に、お世話になっておりました。アッシュ=グローズと言います。是非、アッシュとお呼びください。良かったです。ニノサに似ていなくて・・・」
あぁこの人も、ニノサに迷惑をかけられた人だな。
「わかった。アッシュさん」
アッシュ=グローズの案内で店の中に入っていく、奥まった部屋に案内された。
「リン様。サビナーニ様・・・。サビニ様でしたね。サビニ様のお話をお聞きしたいのですが、それは、別の機会にしましょう」
サビニの話は聞きたいのだな。
「わかった。ギルドに話を通して貰えれば、俺の居場所は解るようにしておく」
「そうでした。ローザス様。ハーコムレイ様。予定通りで大丈夫でしょうか?」
ん?
あぁ何かしらの約束事があるということだな。
二人が、頷いている。
「わかりました。それでは、我が奴隷商が、リン様におすすめする奴隷をご紹介します」
「あぁ」
ローザスとハーコムレイは、部屋から出ていく。ギルドに戻って、準備を行うようだ。
奴隷を購入する資金は、ミヤナック家が建て替えるから、必要な奴隷を揃えるように言ってから、ギルドに戻っていった。
アッシュは、ローザスとハーコムレイの見送りをしてから、俺に奴隷に関しての説明を始めた。
ローザスとハーコムレイから聞いていたが、もう一度アッシュからも説明を受けた。内容は、同じだったが、奴隷契約に関しては、より詳しく教えてもらえた。奴隷契約は、スキルで縛る方法と、首輪などの装具で行う方法があり、今回はスキルでの契約を進められた。金額も高くなるが、機密を守るためには、スキルの方が良いと言われた。
装具での奴隷契約は、簡単に言えば首輪で、命令に逆らった場合に、首が絞まるようになっていて、契約者(俺)が死ぬと首輪がしまって、奴隷も死ぬことになる。従って、主人の命を狙うのを躊躇させる物だ。しかし、秘密が多い場合などは、秘密の漏洩が可能なので、勧められない。
話を聞いた限りでは、スキルでの契約がいいだろう。
それでも、抜け道はいろいろあるので、最終的には人間関係で秘密の漏洩を防ぐ必要があるのだと、言われた。
人間関係が大事。
俺が苦手とする所だ。俺にできるだろうか?
「リン様」
「ん?」
「難しく考える必要はありません」
「え?」
「リン様は、まだパシリカを受けたばかりです」
「そうだが、奴隷の主になるのなら」
「ダメです」
「え?」
「奴隷の主は、”これが正しい”とか考えては、奴隷も主も幸せになれません」
「どういうこと?」
「はい。主と奴隷との関係は、違って当たり前です。それこそ、家族でも考え方が違うように、奴隷との接し方は、違うのです。ですので、リン様は、奴隷との接し方で悩まれる必要はないのです」
「しかし、それでは、”いい関係”が築けないのでは?」
「その考えは、間違っていませんが、正しくもありません。リン様と奴隷の関係は、リン様と奴隷にしか解らないのです。今、お悩みになっても、結局は、その時になってみないと解らない」
「それは、そうだろう・・・」
「まずは、私どもがお勧めいたします。人物を見てから判断してください。リン様との相性もあります。必ずしも、素晴らしいスキルと経験がある者が、リン様にとって”良い”人材である保証はありません」
アッシュの話を聞いて、納得したわけではないが、理解はできた。
確かに、考えても仕方がない事なのだろう。
ダメならメロナの屋敷だから、ダメなら最悪は放置でもいいのかもしれない。
アッシュ=グローズの話を聞いて、少しだけ考えてみた。
奴隷と考えるから、ダメなのだろう。
従業員だと考えれば・・・。働いたことがないけど、なんとなくイメージはできる。眷属たちは、家族という認識だが、奴隷は従業員だと考えれば、棲み分けが可能だ。
「リン様。奴隷の準備が出来ました」
「わかった。場所を移動するのか?」
「順番に連れて来ることも可能ですが?」
「まとまっているのか?」
「職制別にしております」
「わかった。移動しよう」
「ありがとうございます。執事候補だけは、一名ですので、連れてまいります」
「わかった」
アッシュが、俺に一礼してから部屋を出て行った。
執事?今、執事と言ったよな?
ハーコムレイの仕込みか?違うな。多分ローザスの仕込みなのだろう。
アッシュはすぐに戻ってきた。
年齢の・・・。そうだ、スキルを使えば、詳細に情報が見える。
「アッシュ。スキルを使っていいか?」
「スキルですか?」
「俺は、鑑定が使える」
「それは、素晴らしい。大丈夫です。攻性のスキルでなければ、大丈夫です」
アッシュは、男を俺の前まで移動させた。
男も、俺を観察するような目つきで見ている。そうか、これがアッシュの言っていたことだな。お互いを認めない限り、どちらかが不幸になる。
鑑定を発動する。
真命:セバスチャン・フォン・ベルティーニ
ジョブ:シーフ
体力:210
魔力:430
腕力:220
敏捷性:240
魅力:70
魔法:黒(2)
スキル:簡易鑑定 鍵開け 暗殺術
ユニークスキル:瞬間記憶
ん?
フォン?貴族なのか?ジョブが、シーフ?盗賊系?ステータスが高すぎる。初期のミルを越えている。それだけではない。瞬間記憶なんて、貴族家で必要なスキルだろう?
もしかして、他のスキルが酷いから奴隷になったのか?
年齢は、20代だろうか?詳細鑑定をすればわかるだろうけど・・・。それに、”ベルティーニ家”。俺でも知っている。侯爵家だ。なぜ、侯爵家の関係者が奴隷商に居る?俺は騙されているのか?
「セバスチャン。いくつか質問をしていいか?」
「もちろんでございます」
何を質問しよう?
質問の仕方がわからない。
「うーん。素直に聞く」
「はい」
「ジョブが、シーフで、スキルに鍵開けや暗殺術があるから、奴隷になってしまったのか?」
「そうとも言えますが、違うとも言えます」
「ん?」
「それは?」
「リン様。”ベルティーニ”という家名はご存じですか?」
記憶には自信がある。
ベルティーニ家が複数存在しているは思えないから、侯爵家だ。
「たしか、侯爵家だな?」
「ご存じでしたか?」
「あぁ」
「それでは、陛下の第三夫人は、ご存じですか?」
第三夫人?
正妻の一人だったな?確か、現国王は3人の夫人が支えている。はずだ。
「いや、詳しいことは知らない」
「私の姉が、第三夫人です。姉の婚姻が決まった時に、私は自ら奴隷になることにしました」
「え?」
姉?
姉と言ったか?そうか・・・。確かに、弟のジョブが、シーフでは、でも政略結婚なら問題にはならない。ローザスに聞けば解るかもしれないけど、俺が聞いていいような話ではない。気になるが、スルーだな。
「リン様」
「ん?」
「リン様は、これから、どうなさりたいのでしょうか?」
「・・・。あっ・・・。アッシュ!」
「はい」
「セバスチャンを買う」
「ありがとうございます。早速、契約をいたしますか?」
「頼む。セバスチャンは、構わないのか?」
「はい」
「スキルでの契約を・・・。俺は望むぞ?」
「構いません」
「アッシュ。頼む」
「わかりました」
そうだ。
アロイの方は、ナナが居る。
しかし、両方とも・・・。貴族家への対応が絶対に必要になる。メロナ側は、上級貴族は、ミヤナック家側に対応を頼めるとしても、下級貴族やミヤナック家と距離を置いている貴族家は、俺が管理することになる屋敷から神殿に入る。
貴族への対応を任せられる人物が必要になってくる。
アロイ側とメロナ側の総括を、セバスチャンにやってもらえばいい。そのために、スキルで契約を行う。奴隷紋が刻まれない。鑑定が無ければ、奴隷だと気が付かれることはない。俺なら、鑑定結果を”ごまかせる”可能性がある。
「終わりました。ひとまずは、主の情報を他には漏らさないような契約を追加しました。他は、通常の奴隷契約です」
「わかった。それで十分だ」
奴隷契約の内容は、すでに聞いている。屋敷とアロイ側の管理を任せるのなら十分だ。
情報は、積極的には公表しないが、漏れてしまっても困らない。神殿の権能が解っても、実際に制御ができるのは、俺とマヤとロルフだ。それに、それぞれが、抑止できるようになっている。
「リン様。よろしくお願いいたします」
「セバスチャン。いろいろ教えて欲しい。俺は、貴族への接し方や対応が解らない」
「かしこまりました」
セバスチャンの略称は、セバス?セブ?個人的には、セブの方が呼びやすい。
「セブ。屋敷を管理運営するのに必要な人材を教えてくれ、それと屋敷の規模は・・・」
「資料は、ハーコムレイ様からお預かりしています」
アッシュを見ると、アッシュが封書を取り出した。俺に渡してきたので、受け取って、封を解除してから、セバスチャンに渡す。
「リン様」「資金は気にしなくてよい」
「そうだ。屋敷とは別に、もう一つ管理をしなければならない場所がある」
「それは?」
「そうだな。セブは、マガラ渓谷を知っているよな?」
「もちろんです」
「あの両端を、『まともに管理・運営する』と考えて欲しい」
「少しばかり、お時間を頂いてもよろしいですか?」
「構わない」
セバスチャンとアッシュが部屋から出る。予想よりも多くの奴隷が必要になるのか?それとも、別の理由なのか解らない。
気にしてもしょうがない。
テーブルの上で冷めてしまった珈琲もどきを飲む。冷えても飲める状態なのは嬉しい。アイスコーヒーだと言われたら、信じてしまいそうだ。もともと、ブラックで飲んでいたからなのか、甘味を感じて飲みやすい。
アッシュからなのか、メイドが変わりの飲み物とお菓子を持ってきた。
今度は、紅茶か?
10分くらいしてから、セバスチャンとアッシュが戻ってきた。
「リン様。いえ、旦那様」
「ん?」
「アッシュ殿と相談しましたが、マガラ渓谷を例に考えますと、警備隊が必要です。警備隊の構築ができるだけの人材が居ません。お屋敷の運営とマガラ渓谷の屯所で、手一杯です。もうしわけございません」
「そうか、警備隊も必要か・・・。それは、また後で考えればいい。まずは、体裁を整えよう」
「かしこまりました。アッシュ殿。先ほどの通りでお願いします」
席を外していた時に、セバスチャンとアッシュで話をしたのだろう。
「リン様。よろしいですか?」
アッシュが、書類の束を渡してきた。
どうやら、今回、俺が雇うことになる奴隷の一覧のようだ。
多いな。
それに、若いのが多い?
「セブ。若いのが多いように思えるのだが?」
「はい。主要な役職に関しては、経験者を配置しました。その下で働く者たちは、未経験者でもやる気のある者を優先しました」
「わかった。そのまま進めてくれ」
「ありがとうございます」
「アッシュ」
「はい。この奴隷商には、手足や身体の一部が欠損しているパシリカ前後の子供が居るよな?」「旦那様」
セバスチャンが何かを言いかけたが、態度で言葉を遮る。
リストには、確かに子供が載っていた。しかし、それだけで無いのは解っている。ローザスやハーコムレイが居るからなのか、”まとも”な奴隷しか出してきていない。アッシュが、真面目に営業を行っている奴隷商だということの証左だが、だから、他の違法な奴隷商で取り扱われた者たちが確保されているはずだ。
「・・・。はい」
少しだけ考えてから、アッシュは諦めたような声を出して、俺が言った者たちが居ることを認めた。
「何人だ?大人も居るのか?犯罪奴隷以外だ」
「大人を入れますと、23名です」
「パシリカ前の子供も居るのか?」
「はい」
「何名だ!」
「9名です」
「わかった。俺を連れていけ、確認したい」
セバスチャンとアッシュは、俺に深々と頭を下げるのだった。
アッシュに案内されて、奴隷商の中を歩く。建物は、大きく、掃除が行き届いている。しばらく、歩くと大きめの扉が付いた部屋に案内された。扉の方に向けて、大きめのソファーが置かれている。ソファーに勧められて腰を降ろすと、横にあるテーブルに飲み物が置かれた。
セバスチャンは、俺の横に居るようだ。
アッシュは、俺に少しだけ待って欲しいと言ってから、隣の部屋に移動した。
「セブ。子供たちを知っているのか?」
「はい。何度か、世話をしたことがありますが・・・」
「どうした?」
「この部屋は、もっと大口のそれこそ、2-30名の奴隷を見定める時に使われます」
周りを見ると、俺が座っているソファーの前には、広い空間がある。
セバスチャンが言っているように、9名程度の子供には広い場所に思える。それに、9名の子供なら、俺が足を運べば済む話ではないのか?
「セブ。俺が、子供たちが居る場所まで足を運べばいいのではないのか?」
「それは、お辞めいただきたい」
「なぜだ?」
「リン様。旦那様が、奴隷の前に出れば、奴隷たちが旦那様を甘く見ます」
「甘く?」
「はい。奴隷の所まで、足を運ぶのは、身分が下の者で、アッシュ様がお認めになっていない人だと判断されます」
よくわからない。
そもそも、俺は平民だ。この国では、辺境に位置する。村の、更に端に住んでいた。身分で言えば、底辺の底辺だぞ?
「セブ。俺は、田舎から出てきた平民だぞ?」
「存じております。しかし、お屋敷をお持ちになって・・・。マガラ渓谷を越えるための」
セバスチャンが言おうとしていることが解ったから、手で言葉を遮る。
王国の身分制度で言えば、平民だ。底辺の底辺で間違いはない。しかし、神殿の主・・・。ではないが、管理者で、眷属たちの主だ。
「セブ。ありがとう。自覚を持つよ」
「ありがとうございます」
セバスチャンが頭を下げたタイミングで、ドアがノックされた。
アッシュが、使用人?を連れて戻ってきた。
「リン様。準備が出来ました」
「わかった。そうだ。アッシュ。費用だけど、足りるか?」
神殿で得た、魔石を取り出す。本来なら、換金してからの方がいいのだろうけど、手持ちで価値がありそうなものは、魔石しかない。眷属たちが集めてくれた魔石だけど、死蔵しているよりはいいだろう。
「リン様」
「足りないのなら、まだあるから言ってくれ」
「違います。この大きさの魔石ですと、オークションに・・・。そうですか、いくつもお持ちなのですね」
「あぁ」
「ニノサ殿の血縁なのは、間違いではないようですね」
「そこで、ニノサが出てくるのは不本意だが・・・。まぁいい。ハーコムレイやローザスに借りを作ると、返すのが大変そうだから、魔石で支払いたい」
「わかりました」
アッシュが、セバスチャンを見る。セバスチャンが何も言ってこないところを見ると、間違っていないのだろう。
魔石を渡そうとしたが、やんわりと拒否された、購入する奴隷を見てからにして欲しいとのことだ。魔石は、セバスチャンに持っていてもらうことにした。今更、しまうのも面倒だし、支払いの時に取り出すのも面倒だ。
アッシュが手を叩くと、使用人がドアを開ける。
最初は、家族か?子供では無かったのか?セバスチャンをみても、納得しているようなので、何も言わないで流れを見極める。
一緒に入ってきた使用人が、セバスチャンに資料なのか、羊皮紙を手渡す。
セバスチャンが、俺に資料を手渡す。
俺には、鑑定があるから必要がない。鑑定で、見えた内容が書かれている。違うのは、奴隷になってしまった理由と値段が資料には書かれていることだ。
「セブ。どう思う?」
「はい。理由に関しては、アッシュ様が調べているので、書かれている内容に間違いはないと思われます。購入額も、妥当だと思います」
「わかった。セブ。渡した魔石5個の範囲で、購入を考えている。セブの判断で、越えそうなら言ってくれ」
「かしこまりました」
「それなら、資料は俺に見せなくていい。問題があるようなら、セブの判断で退室させてくれ」
俺の言葉に、セバスチャンは深々と頭を下げてから、渡してある魔石をまじまじと見つめてから、アッシュに頷いている。アッシュにも、俺とセバスチャンの会話が聞こえているのだろう。アッシュも、魔石を見てから、首を横に軽く振ってから、セバスチャンに向かって頷いている。
この家族の購入が決まった。
奴隷紋は、同じように魔法での契約を行う。
父親?を鑑定すると、俺の奴隷である証拠が刻まれている。
元々は、農家だったが、税が納められなくなり、一家離散ではなく、一家で奴隷になる道を選んだ。
「アッシュ。次」
「はい」
次も家族だ。夫婦か?宿屋をやっていた?
セバスチャンが下げさせない所を見ると、理由にも問題はないようだ。購入でいいだろう。神殿の中にある宿屋を営んでもらおう。
奴隷に問題がなくて、資金にも問題がなければ、購入してもいいだろう。人手は必要だ。
アッシュに奨められて、家族での奴隷を6組ほど見たが、アゾレムやそれに近い領からの奴隷が多い。違うな、全てが、アゾレムとアゾレムに近い領からだ。これは、アゾレムに問題があると言ってもいいのかもしれない。
4家族が農家。宿屋が1家族。もう1家族は、村の守衛をしていた。
「アッシュ」
「はい」
「家族で奴隷になってしまった者たちの資料を、セバスチャンに渡してくれ」
「かしこまりました」
使用人が、アッシュに資料の束を渡す。準備をしていたのはいいとしても、数が多くないか?10や20じゃ無いぞ?50家族はありそうだ。俺が言い出さなければ、順番に面談をしていたのか?
親は、ある程度、諦めの表情をしている。自業自得だとは思わないが、奴隷になるというのを理解している。問題は、子供だ。パシリカ前の子供は、親と一緒に奴隷になっている。目で、親と別れたくないと訴えるのは止めて欲しい。あれは、ずるいと思う。
セバスチャンが、書類を吟味している。
数を聞いたら、57家族もいるようだ。この場所に居なくて、系列店や地方の支所に居る奴隷家族も入っているようだ。
セバスチャンが資料を見ている間に、俺は出された珈琲もどきを飲んでいる。
「旦那様」
セバスチャンから渡された資料は、53家族分だ。4家族は、下級とはいえ爵位を持っていた家だ。家族ではなく、夫人と娘が奴隷落ちしている。確かに使い道が限られる。
「アッシュ。この爵位を持っていた者たちは、爵位を持たない。俺のような者に買われるのに抵抗はないのか?」
「確認しております」
「そうか、もう一つ重要な事だが・・・」「はい」
「この爵位を持つ者たちは、アゾレムや連なる貴族を恨んでいるのか?」
資料に目を通して、違和感があった。
貴族だと言いながら、理由が酷いものが多い。借金とかではない。
「宰相派閥を恨んでいると言ってもいいと思います」
「わかった。セブ。面倒をかけるが、全員を購入しよう。資金は」「大丈夫です」
全員が女性だ。子供と言われる年齢の女性は、メイド見習いができる。ギルドで受付でもいいだろう。希望を聞いて、判断すればいい。夫人は、下級貴族だけあって手に職ではないが、知識も技能もあるようだ。年長者には、メイド長を頼めそうだ。
俺の考えをセバスチャンに伝えて、”後はよろしく”で終わるのは嬉しい。
全部で、63家族。既に、ポルタ村の戸数を越えてしまっている。
一度、ここで休憩を挟んで、子供や成人している者たちで、問題が無い者たちを面談する。
パシリカ前の子供は、購入を決めている。
全部で、9名だ。屋敷に住まわせることにする。
パシリカ後の者たちも多く存在していた。
商隊の護衛をしていて、野党に襲われて、奴隷になった者や、貴族に捉えられそうになり自ら奴隷になったエルフ族の姉妹や、貴族からの無茶ぶりを無視し続けた鍛冶屋のドワーフ族。
この国は大丈夫か?貴族が腐りきっている。
セバスチャンを見ると、まだ大丈夫なようだ。本当に、大丈夫か?
手持ちの魔石はないけど、素材ならまだあるから、換金すればいい。ローザスやハーコムレイに借りを作るのは面白くない。でも、アッシュが紹介する奴隷は、奴隷に落ちた理由が貴族がらみの物が多い。本人に瑕疵が無い。アッシュも、奴隷を養っているだけで、赤字になるのに・・・。
「旦那様」
「足りないか?」
「いえ」
セバスチャンは、俺を見てから、アッシュの方を向いて、質問を始めた。
「アッシュ様。あの者が居ないのですが?」
セバスチャンが、アッシュに向かって”あの者”という言葉をつかって、リストに入っていない人物の事を問いただしている。
それだけ、有用な者なのか?
アッシュをみると、少しだけ先ほどの表情とは違って、何かを考える表情をしてから、俺を見ないままセバスチャンからの問に答える。
「あの者の取り扱いは・・・。王家から、注意が入っています」
王家?
それほどの者なのか?
他国の貴人とかだと、困ってしまう。扱いという面で・・・。
「注意?」
セバスチャンも、内容までは知らないようだ。
しばらく、二人のやり取りを聞いている。
注意は、”売るな”という事ではないようだ。
売り先を明確にして欲しいということだ。アッシュの所に預けられた経緯から、王家が絡んでいるようだが、教会も絡んでいるようだ。売り上げの中には、教会への賠償が含まれている。従って、同程度の奴隷よりも高く設定しなければならないようだ。
罰金が払えない状況での犯罪だから、犯罪奴隷として売られるようだ。
「はぁ・・・。名前は、『オイゲン=フンメル・エストタール』と言うのですが、パシリカで訳の分からないことを言って暴れたので、捉えられて、私の所に送られてきました」
そんな危険人物を、アッシュは抱えているのか?
それにしても、”なぜ”そんな面倒が列をなして、渋滞しているような者を、セバスチャンが気にする?
話を聞いているだけど、それほどの人物のことを話しているとは、とても思えない。
「彼は、他に何を言ったのですか?アッシュ様」
セバスチャンは、それほど”その彼”が気になるのか?
今まで見せてもらった奴隷から、アッシュが奴隷に無体なことをしていないのは理解ができる。多分だけど、村生活の者よりもいい物を着ていた。食事もしっかりと与えられているようだし、衰えていない所を見ると適度な運動もさせているのだろう。死んだ目をしている者がいなかった。
商品として価値を落さないようにしているだけの可能性もあるが・・・。
その”オイゲン”とか言うのは、流れから犯罪奴隷に該当するのだろう。住民には向かないと思う。
アッシュとセバスチャンがまだ何か言っている。
王家の話とか、俺にはどうでもいい話だけど、王家なら伝手がある。アッシュも解っているのだろう。教会筋にも、間を挟めば枢機卿まで繋がる。
「”ケモミミハーレム”などと言って、暴れて、神官に暴力を振るって、”エルフバクニュウミコ”は居ないのか?などと言って居ます」
ん?
”ケモミミハーレム”?
”エルフバクニュウミコ”?
確か、イリメリたちの話では、男子は判明している。女子も、全員がギルドに所属している。人数に、間違いは・・・。
そうか、お前か!
「それで?王家が出て来る理由にはならないですよね?」
「どうやら、鑑定を持っていて、スキルも偽装しているようなのです。スキルを使って、牢から逃げ出したので、スキル封じの首輪をさせています。有用なスキルなら、奴隷として王家が保有することになるのですが・・・」
俺が、見つかっていないクラスメイトの顔を思い浮かべている間にも、話が進んでいる。
「セブ。アッシュと話をさせてくれ」
セバスチャンを制した。
アッシュは、俺を見て居る。少しだけ身構えたように見えたのは気のせいだろう。
これから、大事な交渉だ。
「なんでしょうか?」
アッシュは、セバスチャンに向けていた視線を俺に戻した。
「アッシュ。その”オイゲン”という男だが、パシリカ後に、捕まったのか?」
大事な事だ。
パシリカを受ける前だと、記憶が戻らない。
「はい。そのように聞いています」
「奴隷なのか?」
次に大事なのは、”奴隷”になっているのかだ。
奴隷なら、俺でも確保ができる。でも、よく、立花たちに見つからなかった。アイツらの中にも、大事なピースだと考えている者がいても不思議ではない。
「はい。犯罪奴隷ですが、スキルを偽装している上に、契約で縛れないので・・・」
犯罪奴隷か、解放が無いのだったな。それでは、説得が難しい。
その前に、”契約で縛れない”現象が鍵になってきそうだ。
もしかしたら、王家が出てきたのは、”契約で縛れない”が理由として考えられる。ローザスあたりに質問をしてもいいかもしれないが、藪蛇になりそうだ。ヒューマが言っていたことが関係している可能性も高い。初代国王。
いろいろ繋がっているように見えるけど、歴史は俺の専門ではない。まずは、勝負に勝たなければ、その後で考えればいいことだ。
「どういうことだ?契約で縛れない?」
「はい。奴隷契約には、いくつかの方法があります」
「聞いたから覚えている」
「犯罪奴隷には、奴隷紋を刻むことが必須です」
「そうなのか?」
セバスチャンを見ると頷いているので、これは”決まり事”なのだろう。
「はい。それで、奴隷紋を刻む時に、”真名”が必要です」
あぁそういうことか・・・。茂手木だとしたら、”真名”は読めないだろう。
読めたとして、漢字では刻むのが難しいのだろう。
それに、アイツの名前は少しだけ読みにくい。
「そうか・・・。読めなかったのだな」
「え?」「!!」
アッシュだけではなく、セバスチャンも驚いている雰囲気が伝わってくる。
「アッシュ。会えるか?俺に必要な最後のピースかもしれない。それと・・・」
茂手木を口説く為に必要な人材をアッシュに用意してもらう。
セバスチャンとアッシュにも確認をして、俺が行おうとしていることが可能か確認した。一般の借金奴隷では無理で、犯罪奴隷か戦争奴隷になってしまうと言われた。
アッシュには、犯罪奴隷や戦争奴隷から、俺の希望する奴隷を見繕ってもらう。
セバスチャンには、ギルドに俺が書いた物を持って行ってもらう。ローザスとハーコムレイに”貸しに対する”請求だ。教会は、アッシュとセバスチャンから賠償を行えば問題はないと言うので、同じくセバスチャンに賠償金を3倍にして持って行ってもらう。理由は、犯罪奴隷では都合が悪いので、”神のご慈悲”を頂きたいという内容だ。賠償金と同額の寄与も行う。相手は、フレットの父親にする。ギルドに、フレットが居れば、口添えが期待できる。
アッシュが連れてきた奴隷に理由を説明した。
アッシュの判断で、借金奴隷に変更ができることが条件だ。一人を除いてパシリカ前の見目麗しい女性だ。エルフ族は無理だったが、ハーフエルフが居た。年齢が少しだけ高いがハーフエルフでは少女と言われる年齢だ。獣人も、ある程度の種族を揃えた。猫族、犬族、羊族、兎族だ。違法奴隷から逃げ出して、犯罪奴隷となった者も居るが、訴えても犯罪奴隷のままなのを、解放が可能な借金奴隷に引き上げることになった。ハーフエルフは、エルフの王家に連なる血筋だが、政変で破れた。もともと、ハーフエルフは半端者だと言われて忌避されていた。
2時間後に、セバスチャンが戻ってきた。全ての処理が終了したと報告してくれた。優秀な執事だ。ギルドでは、不審に思われたらしいが、俺が書いた物を渡したら、すぐに対応が変わったと言われた。
そうだろう。表紙には、”茂手木”と漢字で書いた。セバスチャンも、不思議に思っているのだろうが、何も聞いてこなかった。
セバスチャンから報告を受けていると、アッシュが戻ってきた。
セバスチャンが持ってきた書類で、俺が実行しようとしていることが、可能だと言ってくれた。
あとは、奴隷の少女たちの了承だけど、アッシュが説得をしてくれたようだ。
ハーフエルフの少女を含めて、解放を望まないようだ。解放されても、帰る場所もなければ、頼れる者も居ない。それなら、ご主人様になる人物に尽くしたいと言ってくれている。
さて、茂手木の説得だけど、それほど難しいとは思っていない。
それにしても、こんな場所で最後のピースが見つかるとは思っていなかった。
やつには、神殿で活躍してもらおう。縛り付ける必要はない。依存してくれるような場所にすればいいだけだ。
まずは、伴侶候補としての少女たちを確認する。
猫族、犬族、羊族、兎族とハーフエルフだ。茂手木の好みは解らない。他の友達との話を聞いていると、胸よりは腰派だったはずだ。よくわからないが、茂手木が気に入らなくても、茂手木に押し付けるつもりだ。茂手木にやってもらうことを考えれば、手伝いは必要だろう。
美形が揃っている。ケモミミバンザイは口癖のような奴だ。ハーフだがエルフも居る。アッシュに確認したが、全員が処女だ。これなら、茂手木も文句は言わないだろう。伴侶候補としても十分だ。
呼び名は消されてしまっている。スキルも封印状態だと鑑定結果が出ている。パシリカを受けていないから、スキルが封印なのか?真名は見られる状態なのも不思議だ。解らないことを考えてもしょうがない。こういう仕組みだと覚えておけばいいだけだ。もしかしたら、パシリカは、スキルの解放が主目的なのか?それとも、俺の鑑定が特別なのか?
「アッシュ」
「なんでしょうか?」
「この子たちのスキルだけど・・・」
「こちらが、スキルの一覧です。奴隷紋は、真名が与えられていないので、刻めません。パシリカ後に、奴隷紋を希望される場合には刻みます」
パシリカ前でも、鑑定を行えば潜在的なスキルが見えるのか?
真名は見られない。ハーフエルフは、パシリカを受けているのだよな?それでも、封印になっているのは、何か理由があるのか?スキルを封印する方法があるのか?
アッシュから手渡された羊皮紙には、各人が持っているスキルが書かれている。
一人を除いて、間違っていない。掲載されていないスキルも気にするほどではない。”念話”スキルが隠蔽されている。なぜ隠しているのか?そもそも、誰が隠したのか解らない。
「アッシュ。この5人を買おう。ただ、俺の奴隷にするかは、少しだけ保留でも大丈夫か?」
「かまいません」
金額は書かれていないが、問題はないだろう。
問題が有れば、アッシュが何か言ってくるはずだ。茂手木に提示する金額は、ハーフエルフが金貨14枚。他が、金貨9枚。
女たちを、身ぎれいにしてくるように依頼する。ついでに、新しい服に着替えさせてから、俺が呼び込んだら、俺の後ろに並ぶように指示する。
さて、茂手木とのご対面といきますか・・・。
「アッシュ。オイゲンを連れてきてくれ」
「かしこまりました」
オイゲンの購入は決定している。
これからの行いは、パフォーマンスだ。アッシュには、ローザスとハーコムレイから書類が届いている。一つの問題を除いてクリアになっている。教会への賠償も終わらせている。金貨500枚。それに、心付けを加えて、金貨1000枚と貴重な素材を渡している。教会からは、ありがたいお礼状を貰った。お礼状は、ギルドの受付に飾るようにした方が良いだろうと言われた。アロイの屋敷だとお礼状の格が上なので好ましくないとの事だ。機微がわからないので、解っている者たちの指示に従うことにした。
ドアがノックされて、オイゲンが連れてこられた。
手錠をされて、首輪をされている。
かなりの美形だ。髭が少しだけ伸びている。それが美形を際立たせている。髪の毛は無造作に縛っている。
鑑定してみたが、間違いない。
茂手木だ。
「アッシュ。少しだけ、彼と二人だけにしてくれ」
「え?よろしいのですか?」
「大丈夫だ。ここでスキルを使っても大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
アッシュが大丈夫だというので、アイルの眷属を召喚する。横に控えさせる。少しだけ驚いた表情を見せたが、アッシュは俺に頭を下げてから、部屋から出て行った。
オイゲンをソファーに座らせてから、テーブルの上に50枚の金貨を取り出す。
「俺の名前は、リン=フリークス・マノーラ。オイゲン=フンメル・エストタール。いや、”茂手木義徳”と、呼んだ方がいいか?」
「は?え?リン?神崎か?でも、真名が違うぞ?なぜ?お前は、何者だ!」
「落ち着けよ。まずは、オイゲン。お前の立場をはっきりしよう」
「ん?神崎、何を?」
「お前は、パシリカで記憶が戻った瞬間に暴れた。教会の施設を破壊して捕まった。そのうえに、スキルを使って逃げ出そうとした。犯罪奴隷だ」
「ちが」「違わない。いいか、ここはリアルだ。実際に、俺は3回ほど死にかけた。2回は殺されそうになって、1回は魔物との戦闘だ」
「え?」
「茂手木義徳。いや、オイゲン=フンメル・エストタール。お前が、どんな環境で育ったのか解らないけど、俺のこっちの両親は殺されている。女子の中にも、両親を殺されて、孤児院で育った者も居る。いいか、間違えるな。オイゲン。ここはリアルだ。死があり、周りに居るのは、NPCじゃない。感情がある人間だ。ゲームの世界ではない。勇者が勝手に他人の家に入って箪笥を漁ってもいい世界ではない」
「・・・。でも」
「でもじゃない。お前がやったのは、身体測定で、少しだけいい結果が出て、喜んで暴れて、看護師や医者に怪我を負わせた。そして、駆けつけた警察に文句を言って暴れて機材を壊した。そのうえ、留置場から黙って抜け出して逃げようとした。違うか?」
「いや、俺には特別な」「特別な力があるから?それがどうした?残念だよ。この異世界をうまく渡れるのは、お前だと思っていたけど、俺の買いかぶりだったようだな」
立ち上がる素振りをする。
交渉が終わりだと思わせる。
「え?」
「お前なら、このくだらないゲームを勝ち抜けると思っていた」
あえて、ゲームという単語を使う。
表情から、いろいろと思い出したようだ。ソファーに座りなおして、オイゲンをまっすぐに見る。
「!?」
「提示されたルールは思えているよな?」
「白い部屋のルールか?」
「そうだ」
「もちろん。覚えている。でも、それがどうして、俺なら・・・。立花たちの方が・・・」
「違う。お前だ!俺は、お前が勝ち抜くと考えていた。スキルのチートなんて、些細な力比べだ。実は、知識チートがこのゲームに勝ち抜くのに必要だ」
”影響”を与えればいい。
異世界で必要な知識を持っているのは、目の前に座っているオイゲンだ。サポートを女子に任せれば、立花たちにも負けない。武力が必要になったら、俺とミルが戦えばいい。
「・・・。神崎の言っていることはわかった。でも、俺は、今・・・」
首輪を持ち上げる。
自分が、奴隷だと思い知ったのだろう。言葉も、段々と弱くなってきて、いろいろ思い出したのだろう。異世界でテンションが爆上がりして、捕まったことで、テンションが下がって、俺を思い出してテンションが上がったけど、考えを否定されて、否定を覆すだけの情報がなくて、テンションが下がった所に、都合がいい分析を入れられて、自分を見直せたのだろう。
「そうだ。奴隷だ。それも、王家や教会に迷惑をかけた犯罪奴隷だ」
「俺は、知らなかった」
「もう理解しているのだろう。”知らなかった”は、通用しない」
「あぁ・・・。理解している。神崎。俺、どうしたらいい?俺、死にたくない。母ちゃんに・・・。神崎。俺・・・」
「・・・。わかった。教会と王家は、女子が伝手を持っている。教会に払う賠償金は、俺が準備する。王家との交渉も約束しよう」
「え?賠償金?」
「そうだ。金貨で1000枚」
「神崎。女子たちとは、その合流ができたのか?」
「あぁ。オイゲン。俺に協力してくれるのなら、賠償金を支払った上で、奴隷商からお前を買う。王家にも話を付けて、解放がない犯罪奴隷ではなく、借金奴隷にしてもらう」
「買う?俺は何をすればいい?」
「まずは、俺の事は、”リン”か”フリークス”と呼んでくれ」
「わかった。かんざ・・。リン。ん?リンは、本名なのか?」
「あぁ俺だけは、名前が変わっていない」
「そうか・・・。わかった。それで?」
「詳しい話は、現場で話した方がいいだろう。まずは、お前に金貨50枚を渡す」
「え?」
さて、見えない鎖は一本では弱い。
オイゲンが裏切っても問題がないようにしておきたい。
立ち上がって、ドアを開ける。
離れた場所にアッシュが立って待っていた。もちろん、奴隷の少女たちも一緒だ。粗末な服装ではなく、しっかりとした服装で湯あみもしてきたのだろう。綺麗になっている。
「アッシュ。頼む」
「かしこまりました」
ソファーに戻る。
アッシュが、部屋に入ってきて、女の子たちが俺の後ろに並ぶ。
オイゲンの視線は、女の子たちを見てから、俺に視線を合わせてきた。
ここが奴隷商だと思い出したのだろう。
口をパクパクしている。何を言いたいのか解る。解っているだけに、これからの交渉が成功すると確信できる。
アッシュから、奴隷を引き取る。
俺に、頭を下げてから、アッシュは部屋を出て行った。
オイゲンは、アッシュが奴隷商だと知っている。自分を買った者だから覚えていたのだろう。俺の横には、セバスチャンが立っている。
しかし、オイゲンの視線は、俺と奴隷の少女たちを行ったり来たりしている。
お気に入りは、ハーフエルフなのだろうと思うが、獣人も気になる様子だ。満遍なく見てから、俺に視線を移してから、またハーフエルフに視線を戻す。忙しく、視線を動かすだけではなく、ソファーから立ち上がりかけている。
「オイゲン。座れよ」
「あぁ・・・。リン」
ソファーに座って、俺の名前を呼ぶが、また視線は奴隷の少女たちに注がれている。
どれだけ気に入っているのか解らないが、これでは話が進まない。
「オイゲン!」
「あぁ。すまん。リン。それで、俺が支払わなければならない金額は理解した。それで、金貨50枚を、俺に渡すと言ったが?」
オイゲンも、大概だな。
俺と話をしながら、チラチラと少女たちを見ている。
「そうだ。賠償金の額に比べたら、金貨50枚なんて、大きな金額ではない」
「そうだな」
何かそわそわしている。期待しているのだろう。
「その金貨を元手に商売を始めてもいい」
「ん?でも、リンは俺にやらせたい事があるのだろう?そのために、賠償金を肩代わりしてのだと言っていたよな」
「そうだ。お前が拒否した時の保険だ」
「保険?」
「そうだ。オイゲン。その金貨50枚で、後ろの」「乗った!リン!」
喰い気味ではない。完全に、俺の話の途中で立ち上がって、大声を上げている。
「話を全部、聞けよ」
「おっそうだな。わかった」
視線は、既に少女たちに固定されている。
「ふぅ・・・。オイゲン。この少女たちは、俺の奴隷だ」
「え?俺に?」
「違う。違う。お前も奴隷だ。同僚とは違うな。お前に、この少女たちを、金貨50枚で貸し出す。それで、俺に協力してくれ」
「貸し出す?」
「そうだ。お前は、犯罪奴隷ではないが、奴隷だ。奴隷は、奴隷を持てない。わかるよな?」
渋々頷くが、これは不文律で決められている。
「だから、少女たちは俺が所有する。お前に、やってもらいたい事には、人手が必要だ。奴隷のお前では、人を集めるのも苦労するだろうから、俺が準備した」
「え?」
「お前が、この少女たちが欲しければ、俺から買い取ればいい」
「わかった。金額は?」
「全員で、金貨1万枚だ。まぁ少しだけ安くして、金貨9000枚にしてやる。お前の賠償金と合わせて、金貨1万枚を払えば、お前が主人になる。それまで、触れる事も許さない。俺の奴隷に傷を付けたら、買い取り価格は倍に増えていく。お前たちも、そのつもりでいろ」
絶望に染まるオイゲンの表情だが、少女たちは俺の説明で納得して頷いている。
「あと、オイゲン。少女たちも、自分で自分を買い取る権利を与えている」
「え?それは・・・」
「当然だろう?お前だけに、有利な契約なんてありえない。どうしても、少女たちが欲しければ、お前が誠意を見せながら、少女たちを引き止めなければ、お前の奴隷にならない」
「くっ。それは・・・。でも・・・」
「そうだ。お前が、仮の主人として、少女たちに誠意を見せつつ、しっかりと主人として振舞えば、少女たちはお前から離れない」
「わかった。リン。その話を受けよう」
オイゲンが話を受けてくれるようだ。
断らないとは思っていたけど、こんなに簡単に受けていいのか?何か、罠があると考えないのか?
俺としては、最後のピースとなる茂手木が、条件付きだけど仲間に迎えられた。これで、成功の可能性が上がった。
セバスチャンが羊皮紙を持ってきた。
今の内容が書かれている。スキルで縛らない契約だ。
オイゲンは、セバスチャンから羊皮紙を受け取り、契約書であると宣言されてから、内容の説明を受けた。
もちろん、質問をしないでサインをしていた。
軽率な行動で、現状になっていると思うと、オイゲンで大丈夫なのか考える必要があるが・・・。
他に手はない。ベストでない可能性はあるが、ベターだと思いたい。
セバスチャンが契約書を俺に手渡してきた。
内容は解っているので、サインをして返す。
セバスチャンは、契約書を持って部屋から出る。
5分ほど経過してから、アッシュが部屋に戻ってきた。
「リン様。契約書の通りで、問題はありませんか?」
契約書は、アッシュに預ける。
「アッシュ。頼む」
「かしこまりました」
まずは、オイゲンを俺の借金奴隷として登録する。
そして、少女たちをオイゲンの前で、俺の奴隷として登録する。奴隷としての制限は、通常の制限に合わせて、俺以外には”素肌を触らせてはならない”という制限を付ける。この制限を破った場合には、『触った者と話ができない』と『俺に報告をする』の条件を付与した。
少女たちは、この条件を受け入れて、俺の奴隷となった。
「それでは、今日から俺の奴隷だ。仕事は、そこのオイゲンと話し合って決めて欲しい」
「ご主人様」
「どうした?」
「仕事とおっしゃっていますが、私たちは、何をしたらいいのでしょうか?」
ハーフエルフの少女が、俺に質問をしてきた。
当然の疑問だ。ハーフエルフの少女が代表で訪ねてきた感じだ。全員が同じように思っていたようだ。
「今から移動する。移動した場所で説明する。最初は、ギルドと呼ばれる、最近できた組織だ。ギルドで、準備を整えたら王都を出る。最終的には・・・」
「最終的には?」
「マガラ渓谷が目的地だ」
「え?マガラ渓谷?メロナでも、アロイでもなく?」
「そうだ、まずは、メロナに移動する。道中で、いろいろ説明をする」
「わかりました」
ハーフエルフの少女に続いて、獣人の少女たちも、頭を下げる。
俺の事は、”ご主人様”呼びで、オイゲンは、オイゲン様としたようだ。主人ではないが、上位者だという理由だ。
「アッシュ。いろいろ世話になった」
「いえ、私も・・・。いえ、辞めておきます」
「そうだな。それから・・・。これを渡しておく」
魔石を詰め込んだ袋を取り出して、アッシュに渡す。
「これは?」
「これからも、奴隷市で、子供の奴隷が出るだろう?」
「・・・。はい」
「全て、買い取れ!足りなければ、追加で魔石を渡す。魔石が値崩れしたら、それも教えてくれ、数を用意する」
「わかりました。子供だけでよろしいのですか?」
「アッシュに任せる。生活に困窮した家族でも、アッシュが善性だと判断したら買ってくれ、あと・・・。いや、アッシュに全部任せる。どれだけでも、構わない。買えるだけ、買ってくれ!」
「わかりました。戦闘に使える奴隷は?」
「必要ない。弱い者や、誰かが手を差し出さなければ命の灯火が消えてしまうような者だ!怪我や病気でも構わない」
アッシュが、綺麗に立ってから、深々と頭を下げる。
「買えた奴隷は、わかるだろう?」
「はい。メロナの事は、聞いております。セバスチャンに連絡をして届けます」
「頼む」
アッシュに案内されて、奴隷商を出る。
オイゲンだけではなく、少女たちも眩しそうにしている。
俺たちを見ると、俺とセバスチャンが少女たちを連れて、奴隷となったオイゲンを買ったように見えるだろう。少女たちは、湯あみをして綺麗な服を来ているが、オイゲンはみすぼらしい姿だ。
そういえば、アッシュの奴。
オイゲンが奴隷になる時に、真名を見たはずだ。今度は、真名が読めたことなど、気にしないとばかりに、奴隷契約を行っていた。俺のスキルを何か解ったのかもしれないが・・・。気にしてもしょうがない。
それに、あまり信頼はできないが、ニノサやサビニの関係者なら、ナナと同程度の信用はできるだろう。
俺の秘密を知っても、吹聴しない程度はしてくれるだろう。ハーコムレイやローザスには報告が上がるだろうが・・・。
まぁ気が付かなかった俺が悪いのだし、それにオイゲンに奴隷契約を行うには、俺のスキルで真名を変えなければ、話が進まない。簡易的な契約で、俺のスキルや今日の取引は口外しないとしているから、大丈夫だ。と、思いたい。
俺とセバスチャンを先頭に、少女たちが続いて、最後にオイゲンが少女たちの後ろ姿を見ながらついて来ている。
ギルドの入口が見えてきた。
さて、次の修羅場は・・・。オイゲンをスケープゴートにすればいいだろう。
ギルドの入口が見えてきた。
しっかりと見張りが立っている。
知らない顔だ。
ハーコムレイかローザスが雇った護衛か?
「なぁリン。大丈夫なんか?睨まれているぞ?」
「大丈夫だ。女子・・・。重久が中心になって作った組織だ。重久は、フェナサリム・ヴァーヴァンが名前だからな。間違えるなよ」
「おっおぉ」
「本当に、大丈夫か?」
「大丈夫だ。名前を覚えるのは得意だ」
まぁ困るのは、オイゲンだからいいけど・・・。
後ろを振り返ると、奴隷の少女たちが、俺とオイゲンの会話を聞いている。不思議な表情を浮かべている。
ハーフエルフの少女と視線が交差した。
「どうした?」
「いえ・・・」
「ん?何か、疑問が有れば、聞いてくれ、その方が、俺も嬉しい」
ハーフエルフの少女は、獣人の少女たちを見てから、立ち止まった。
俺とオイゲンも、少女たちに合わせて、立ち止まった。
「はい。あの・・・。ご主人様と、オイゲン様は、お知り合いなのですか?」
「難しい質問だ。詳しくは、オイゲンに聞いてくれ」
所謂、丸投げだ。
別に教えても良いとは思うが、オイゲンが奴隷の少女たちと心を通わせられなかったら、困ってしまう・・・。ことは、ないのか?
俺の奴隷なのは、確かな事実だ。その上で、オイゲンから離れたいと言い出したら、違う仕事を割り振ればいい。
「わかりました。オイゲン様」
「ん?何?」
オイゲンの声が上ずっている。
気にしないようにしているのだろうけど、気になってしまっているのだろう。
「私たちに、名前を頂けないでしょうか?」
「名前?」
「はい」
おかしな事は言っていない。
奴隷になってから、名前が消されている。真名はあるのだが、真名を呼ぶのは、控えた方がいい。奴隷を奪われてしまう。そのために、”呼び名”が必要だ。
「うーん。落ち着いてからでいいか?」
「はい。お願いいたします」
一応、オイゲンに釘を刺しておいた方がいいかもしれない。
何気なく、好きなアニメやマンガのキャラ名を付けそうで怖い。俺も、それほど詳しいわけではないが、ハーフエルフと獣人に、似たアニメキャラは存在するだろう。俺が、知らなくても、誰かが気が付いたら・・・。大丈夫だとは思うけど・・・。
「オイゲン。解っていると思うけど・・・」
「ん?」
「アニメやマンガのキャラ名はやめておけよ。似ている位ならいいけど・・・」
「・・・。ん?あっそうだな」
解っていなかった。
意味は解ってくれたようなので、大丈夫だろう。
先にギルドに行ってもらっていたセバスチャンが、俺を見つけてギルドから出てきた。
「セブ」
「ご主人様。皆さまには、簡単にご説明を致しました」
セバスチャンが、オイゲンと奴隷の少女たちを見ながら、自分の事や購入した奴隷は、簡単に説明をした。
そういえば、同じ神殿だけど、マガラ神殿で”パシリカ”が行えるのか?
ロルフに確認した方がいいよな。もし、マガラ神殿でも行えるのなら、奴隷の少女たちのパシリカが行える。それだけではなく、奴隷になってしまったから、パシリカが行えていない人たちが居ると聞いたことがある。できるのか、確認しなければならないけど、話を聞いていると、出来そうな雰囲気がある。
「ありがとう。後は、オイゲンの事だけ?」
「はい」
セバスチャンは、優雅に一礼してみせた。
面倒な説明が残ったという事だな。
「皆は?」
「ギルドでお待ちです」
やっぱり・・・。
待っているのか?
神殿に案内をすると約束しているから、待っていてもらわないと都合が悪いけど、オイゲンの事とか説明が少しだけ面倒だ。
面倒だと思っていても・・・。
オイゲンと奴隷の少女たちを連れて、ギルドに向かう。
やはり、入口で止められた。
奴隷の少女たちは、連れていかれた。
俺とオイゲンだけが残された。
戻ってきたのは、フェムだけだ。
「リン君?」
フェムは、部屋に入ってきて、オイゲンを無視して俺に話しかける。
俺は、関係ないよな?奴隷の少女たちは、オイゲンに任せたと説明している。ギルドのメンバーも納得している。
「え?俺?」
「話を聞けば、貴方が”主人”なのよね?」
確かに、名義は俺だが、主人はオイゲンだ。
「金を出したのは、俺だからな。でも、実質的な主人は、オイゲンだ」
「それは、いいの。彼女たちから事情を聞いている。オイゲン君を”主”だと認識していた」
オイゲンの事は、オイゲンとして認識することにしたようだ。
茂手木では話がややっこしくなってしまう。
「なら!」
「彼女たちの服装は何?狙っているの?あんな服装が、リン君の好みなの?」
「え?あっ!違う。あれは、オイゲンが気に入るように仕向けるために・・・」
「リン君が選んだのよね?」
ダメだ。
言い訳ができない。確かに、俺が選んだ。それは正しい。でも・・・。ダメだ。フェムの視線は、俺が認めるまで追及してくる視線だ。ここは、認めてしまったほうが、傷が浅くなる。
「はい。そうです」
「次、オイゲン君」
!
服装を問題ではないようだ。
フェムが何を確認したいのか解らない。
「え?俺?何?自己紹介もまだだけど?」
「自己紹介は、追々やっていけばいいでしょ?違う?」
「はい。間違っていません」
あぁ確かに、日本名での自己紹介はしていない。
フェムの言い方では、追々やっていくつもりなのだろう。それか、日本名の自己紹介をしないつもりか?
「フレットに聞いて、驚いた。君。パシリカで大騒ぎを起こしたらしいわね?馬鹿なの?」
「反省しています」
え?
「さて、リン君」
それだけ?
反省しているだけでいいの?
「何?」
「マガラ神殿の話は、大まかに聞いて納得している。でも、前に聞いた時には、オイゲン君は居なかったよね?オイゲン君に何をやらせたいの?」
「うーん。分類をすると、通路の運営はギルドに任せたい。オイゲンは、ギルドで活躍をする・・・。広告塔かな?」
簡単に説明はしているけど、オイゲンとギルドで話し合ってもらいたい。
俺が決めるのは、簡単な方針だけだ。
「広告塔?」
「あぁマガラ神殿には、訓練用のダンジョンがある。そこで、ギルドに来た依頼の素材を、オイゲンに取りに行かせる」
「え?リン君はやらないの?」
「俺は、別の事をしようと思う。それに、オイゲンならダンジョンの改善点とか、施設の改善点とか、出せるだろう?」
「ふぅ・・・。わかった。リン君の提案に、全面的に乗るか、話し合いをする時間を頂戴。オイゲン君の事を含めて・・・」
状況が変わったから、話し合いの必要性があると考えているようだ。
俺が、オイゲンを奴隷として連れてきてしまった。奴隷の少女だけではなく、セバスチャンや他の奴隷も居る。俺が、奴隷商に言っている最中に、ローザスやハーコムレイから話を聞いたのかもしれない。
「わかった。それで、ミルは?」
「ミアちゃんとレオちゃんを連れて、宿に移動したわよ。リン君が初めて、使った宿だから覚えている?」
「大丈夫だ。オイゲンは、置いていくから、好きにしてくれ」
「えぇ」
オイゲンが、俺を見て”なぜ?”という表情をしているけど、”連れて行く”と思っていたのか?
ギルドのメンバーに自己紹介をしてもらわないと困る。
それに、奴隷の少女たちの名前も考えていない。
修羅場は回避できたようだ。
ギルドの王都本部?から出ると、俺の考えが甘かったと思い知らされた。
そこには、豪華な馬車が止まっていた。
無視して通り過ぎるには、難しい視線を俺に投げかけている。
ローザスが、馬車から降りて、しっかりと俺を見定めて、手招きしている。
馬車の中には、ハーコムレイの姿が見えることから、逃げられそうにもない。セバスチャンも、すぐに理解したのだろう。ローザスに近づいて行って、話を聞いている。
「ご主人様。殿下が、”話を聞きたい”との事です」
そうだろうね。
雰囲気でわかった。セバスチャンに案内されるように、馬車に近づいた。
そのまま、ローザスが俺を馬車に案内する。
セバスチャンは、固辞したのだが、ローザスが半ば無理矢理に、セバスチャンを馬車に乗せた。今後の話もあるので、セバスチャンにも効かせた方がいいだろうと・・・。一応、理由を説明している。
そもそも、継承権を持つ者が、”気軽に平民に会いに来るな”と言いたい。