そこへ、救急箱を片付けていた一慶が唐突に口を挟んだ。

「で?瑠威がひねくれた原因と、その出生の秘密とやらが、どう関わっているんだ?」

「それなんだが…」

 東吾は一瞬、言い難そうに言葉を濁した。…が、すぐに顔を上げ、重々しく語り始める。

「ある大物政治家のテコ入れで、瑠威と瑠佳を研究対象とする『遺伝子研究チーム』が立ち上げられたんだ。当時、権威と呼ばれた有識者らが、主要メンバーとして参加していた。当主は、我が子を研究対象に差し出す事に、強く反発したが…件の大物政治家が、一座の公的立場を盾に、圧力を掛けて来たらしい。」

「その大物政治家って、当時の厚生労働大臣だろう?」

 一慶の問いに、東吾は、曖昧な苦笑を返して言った。

「まぁ──そこは察してくれよ。」

「はいはい、これ以上は言及しないでおくよ。ともあれ、大体の事情は解った。一座の立場を考えると、右京さんも、無下には断れなかったんだろうな。」

「あぁ。結局、彼等に協力するしかなかったそうだ。」

「そんなの…!ただの脅しじゃないか!? ウチの親父は、何も言わなかったの?」

 思わず口を突いて出た言葉に、東吾は力無く首を横に振る。