大騒ぎしている宴席を抜け出し、ボクは独り中庭へと降りた。

外の空気が吸いたい。
どんちゃん騒ぎは懲り懲りだ。

 打って変わって静かな中庭では、真っ赤に色付いたナナカマドが、夜風に揺れて、静かに葉を散らしていた。

 ヒンヤリと秋の夜露が降りて来る。
酒気と熱気に当てられて、ほんのり汗ばんだ額を、冷たい秋風が心地好く撫でた。

…見れば。
此方の中庭にも、古い数寄屋がある。

甲本家のそれよりは小さいけれど、風情ある立派な建物だ。興味本位で近付けば、其所には既に先客がいた。

「…隆臣さん?」

 小さく声を掛けると、数寄屋の前に立つ人影が、ゆっくりと振り返る。月明かりを背にした長身のシルエットが、一歩だけ、こちらに近付いた。

「これは首座さま──。如何なさいました?此方で、何を?」

 …先に言われてしまった…それは此方の台詞なのに。

向坂隆臣。
新生《土の星》の北天を相承《そうしょう》した人。底知れぬ力の、降伏の行者。

 返答に困って立ち尽くしていると、隆臣は直ぐ目の前まで歩み寄った。圧倒的な身長差に、思わず上目遣いになる。

 隆臣は、ボクを見るなりフワリと表情を和らげた。

「夜気は、お体に良くありません。首座さまは着任式を控えておいでなのだから。」

そう云うと。
隆臣は、自分の羽織を脱いでボクに着せ掛けた。

「では…御前、失礼致します。」

 そのまま小さく一礼して立ち去ろうとする。
その時。屋敷の方から此方に向かって歩いて来る、紫の姿が見えた。

擦れ違いざま、隆臣は一度足を止め、新当主に何やら耳打ちする。それに小さく頷くと、紫は、ゆっくり顔を巡らせてボクを見た。

 何を…話していたのだろう?

思わずパチクリと瞬きをする。