「……あ、ご、ごめん。」

「ううん、僕の方こそ無神経なこと聞いてごめんね。」

僕がそう言うと、ゆかりさんは束の間黙り込んで、そしてぼそっと呟いた。



「……あんた、あたいがかっぱでも全然差別しないんだな。」

「え…この世界では、誰も差別なんてしないんじゃ……」

「そんなことあるか!
……あたいはかっぱだぞ。
それに、有害種ややさぐれのせいで、ヨウカイ自体を嫌う人間も根強くいる。
ヨウカイは泊めないとかいう宿屋や、ヨウカイには食わせないっていう食堂だって、今でもたまにあったりするんだ。
それにヨウカイの数自体が最近少しずつ少なくなってきてる…そうは思わないか?」

「そ、そういえば確かにそんな感じも……」

僕にはよくわからないから、適当にそんなことを言って誤魔化した。



「あんたの町だってそうなってるはずだ。
ヨウカイ達の中には人間との暮らしがいやになり、山の中に移り住む者が多くなってる。
……そういうヨウカイが増えたら困るのは人間の方なんだけどな。」

「そうなの?」

「そりゃあ、そうじゃないか。
たとえば、この部屋の壁には、ヨウカイあつさむの汗が混ぜ込んである。
だから、外が寒い時には暖かく、熱い時には涼しくなるんだ。」

「そうなんだ!
なんだかこの部屋、暖かいなぁって思ってたんだ。
そういうことだったのか。」

「あんた、本当になにも知らないんだなぁ…
灯りだってそうだし、急ぎの用がある時も、人間の籠じゃヨウカイの籠みたいに速くは着けないし、力仕事をする時だって、ヨウカイの中には人間とは比べ物にならないほどの怪力がたくさんいるからそれで助かってるんじゃないか。
そんなことも忘れて、人間は……」



僕らの住んでる世界よりはずっとのどかで平和そうに思えるこの世界にも、いろいろと問題があるみたいだ。