塩となった二人目の転移者、塩とはつまり肉を持たず、肉体の枷をかけられていないということ。肉体はいわば生命体としての限界点、それを越える為に魔法で枷を緩め、枷でもある器が壊れないよう維持しながら限界を超えさせる。身体強化魔法はいわば枷を緩めながら器を強化していることだ。だか枷が元よりないのならいくらでも強化できる。それこそ魂が許す限り上限無く強くなれるはず。
正直今の私は武器も技術も戦闘技術も不足しすぎている。兄の戦いをみて、多くの点で不足している事が良く分かった。今までは暴走させるだけでも転生者に勝てると思っていたが、一人目と二人目を見る限りそう甘いことは言っていられないと感じている。暴走させる事しかできない力を制御できるようにしなければ、本来の力を発揮する事などできない。ほんの僅かでも制御するきっかけさえ掴めば少しずつどうにか出来るのだが、その為には開放した状態で一定時間力を使い続けることで慣れなければならない。つまり力の完全な制御を出来るようになる為に、力を使った状態で何かと戦わなければならないということだ。だが兄は立場上不可能、その他の誰かに知られるわけにもいかず何かしら方法を考えないといけない。
やるべき事が多いが、順調なのは治癒の魔剣を常時帯剣していることで、魔剣への魔力の流しかたや制御方法は慣れ始めているただそれだけだ。そして治癒術についても兄の治癒速度と比較して現状は遅すぎる。いくら魔剣を使ったとしても、私自身の治癒術に関しての知識が浅過ぎて力を使いこなせていない。治癒術を向上させる必要性を感じたのだが、知っているのは自己治癒系か、反動覚悟でラクシャを治療した神聖系治癒術のみとなる。一度しっかりと知識と技術を磨いた方がよさそうだ。
「別に構わないよ。ナルタには色々教えたいからね」
二週間ほど技術を学び直したいと二人に伝えると、酒と鍛錬、そしてダンジョンでナルタと共に狩りに行くとラクシャ達は了解してくれた。ラクシャとしても最下層のアースドラゴンを狙う事を考え、30層まで降りてレッサードラゴンとオーガ相手に腕を磨いてるそうだ。アースドラゴンから取れる素材は高値で売れるし、アースドラゴンそのものを素材として使った武具もいいかも知れない。下位に属するとはいえ竜種、その柔軟性と強度は鋼鉄と革で作られた防具より遥かに優れている。一方でレッサードラゴンは竜種ではあるが最下位に属し、強さこそ上回るものの素材としての価値は最上位のリザードマン種に劣る。翌日から学ぶため養成学園に在る蔵書保管室を訪れた。
王都戦士養成学園・蔵書保管室------------
蔵書数 数万を誇る王都でもっとも大きな書庫。貴族や騎士、そして養成学校に所属するものなら誰でも保証金を支払う事で閲覧する事が出来る。
禁術や禁本などに関わるものは閲覧することはもちろん出来ないが。
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治癒術に関する棚を見かけ、何冊か分厚い魔道書を調べてみれば神聖術でなくとも治癒効果の高い魔法はいくらでもあるようだ。著者の欄には魔法ギルドの印と見知らぬ名前が書かれている。魔法に関する研究は魔法ギルドによって行われ、新しい本には所々に兄セズの名が見える辺り、随分と研究成果をあげているようだ。だが問題は、どれだけ読めば終わるか分からないほど陳列された本が並ぶ棚だ。だが知識を得るには理解できずともまずは読んで置かない事には話しにならない。深くため息をつくと肩に乗っているリーアナに話しかける。
「・・・リーアナ、すまないが頼みがある」
一緒についてきたのはリーアナだけでジノとエルは部屋で寝ているし、ラクシャとリヒトはナルタをつれてダンジョンに潜っている。
「なんでしょうか」
「魔法を使って意識を速読と理解に優先する。影響で反応が鈍くなるからサポートを頼みたい。いいかな」
「わかりました。お任せください」
非常に難しい兄セズの魔法学についていけないこともあり、そのために態々兄が製作した強制勉学魔法。異常なまでに集中力を発揮させ理解力を引き出すのだが、反動として効力が切れた後は酷い倦怠感に襲われるため出来れば使いたくはなかった。食事を取る事さえ億劫になり眠っても夢はその内容ばかり、これは思ったよりも精神的苦痛が酷い代物だ。
それから毎日朝から晩までひたすら書を読み漁り、やつれた顔をしながら寮に戻り寝るだけの日々を過ごした。そして16日間休むことなく連日通い詰め、治癒術に関しては読み終えることは出来た。治癒魔法そのものよりも、魔法ギルドによって考案された魔法の理論や魔方式による効果の向上や消費魔力の減少などが殆どであり、幼い頃習った単純なヒールでさえ2~3割程度、私が知る物より効果を上げつつ魔力消費量を1割程度下げられるようだ。
一方で治癒術の影の部分、死霊術及び人体の構造について詳細に記載されており、ゾンビの作り方などが記載されていた。生死は表裏一体、治癒術の反術である死霊術を詳しく知る事もまた治癒術の向上に繋がる。
「死霊戦士の作成・・・・・・か」
魔剣の中にはそういった技術に極めて長けるモノがある。多くの戦士の死体を組み合わせ、最強の死霊戦士を造ろうとした最高峰の死霊術師、神殿からは下種だとか屑だとか言われていたが、死の神への信仰を熱心に捧げ、知性さえ失った怨霊の魂に理性を与え、家族に最後の言葉を伝える。殺され恨みによって亡霊の話を聞き、動くだけのゾンビやスケルトン、そういった魂を静める知性人でもあった。
この世界も知識や技術の蓄積によって徐々にだが着実に魔法は進化している。それを伝達する方法が学園という枠のみなだけで、恐らくドワーフの蒸気機構学も転生者や転移者が居なくても発展していくだろう。それ故になおさら考えてしまう。何を焦って外部のモノを引き込み急速に発展させようとしているのかと。考えても仕方ない。最低限気になっていた治癒術の知識の再確認はできたし、今は寮に戻り次の転生もしくは転移者を探す為の手段を考えなければならない。一番有力なのはブレーカーガントレッドを製作したモノだが、技術を広めている様子も無くこれもさほど問題になるとは思えず、やはり大事を起こしてどこかに隠れているモノを引っ張り出すしかないのだろうか。
正直今の私は武器も技術も戦闘技術も不足しすぎている。兄の戦いをみて、多くの点で不足している事が良く分かった。今までは暴走させるだけでも転生者に勝てると思っていたが、一人目と二人目を見る限りそう甘いことは言っていられないと感じている。暴走させる事しかできない力を制御できるようにしなければ、本来の力を発揮する事などできない。ほんの僅かでも制御するきっかけさえ掴めば少しずつどうにか出来るのだが、その為には開放した状態で一定時間力を使い続けることで慣れなければならない。つまり力の完全な制御を出来るようになる為に、力を使った状態で何かと戦わなければならないということだ。だが兄は立場上不可能、その他の誰かに知られるわけにもいかず何かしら方法を考えないといけない。
やるべき事が多いが、順調なのは治癒の魔剣を常時帯剣していることで、魔剣への魔力の流しかたや制御方法は慣れ始めているただそれだけだ。そして治癒術についても兄の治癒速度と比較して現状は遅すぎる。いくら魔剣を使ったとしても、私自身の治癒術に関しての知識が浅過ぎて力を使いこなせていない。治癒術を向上させる必要性を感じたのだが、知っているのは自己治癒系か、反動覚悟でラクシャを治療した神聖系治癒術のみとなる。一度しっかりと知識と技術を磨いた方がよさそうだ。
「別に構わないよ。ナルタには色々教えたいからね」
二週間ほど技術を学び直したいと二人に伝えると、酒と鍛錬、そしてダンジョンでナルタと共に狩りに行くとラクシャ達は了解してくれた。ラクシャとしても最下層のアースドラゴンを狙う事を考え、30層まで降りてレッサードラゴンとオーガ相手に腕を磨いてるそうだ。アースドラゴンから取れる素材は高値で売れるし、アースドラゴンそのものを素材として使った武具もいいかも知れない。下位に属するとはいえ竜種、その柔軟性と強度は鋼鉄と革で作られた防具より遥かに優れている。一方でレッサードラゴンは竜種ではあるが最下位に属し、強さこそ上回るものの素材としての価値は最上位のリザードマン種に劣る。翌日から学ぶため養成学園に在る蔵書保管室を訪れた。
王都戦士養成学園・蔵書保管室------------
蔵書数 数万を誇る王都でもっとも大きな書庫。貴族や騎士、そして養成学校に所属するものなら誰でも保証金を支払う事で閲覧する事が出来る。
禁術や禁本などに関わるものは閲覧することはもちろん出来ないが。
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治癒術に関する棚を見かけ、何冊か分厚い魔道書を調べてみれば神聖術でなくとも治癒効果の高い魔法はいくらでもあるようだ。著者の欄には魔法ギルドの印と見知らぬ名前が書かれている。魔法に関する研究は魔法ギルドによって行われ、新しい本には所々に兄セズの名が見える辺り、随分と研究成果をあげているようだ。だが問題は、どれだけ読めば終わるか分からないほど陳列された本が並ぶ棚だ。だが知識を得るには理解できずともまずは読んで置かない事には話しにならない。深くため息をつくと肩に乗っているリーアナに話しかける。
「・・・リーアナ、すまないが頼みがある」
一緒についてきたのはリーアナだけでジノとエルは部屋で寝ているし、ラクシャとリヒトはナルタをつれてダンジョンに潜っている。
「なんでしょうか」
「魔法を使って意識を速読と理解に優先する。影響で反応が鈍くなるからサポートを頼みたい。いいかな」
「わかりました。お任せください」
非常に難しい兄セズの魔法学についていけないこともあり、そのために態々兄が製作した強制勉学魔法。異常なまでに集中力を発揮させ理解力を引き出すのだが、反動として効力が切れた後は酷い倦怠感に襲われるため出来れば使いたくはなかった。食事を取る事さえ億劫になり眠っても夢はその内容ばかり、これは思ったよりも精神的苦痛が酷い代物だ。
それから毎日朝から晩までひたすら書を読み漁り、やつれた顔をしながら寮に戻り寝るだけの日々を過ごした。そして16日間休むことなく連日通い詰め、治癒術に関しては読み終えることは出来た。治癒魔法そのものよりも、魔法ギルドによって考案された魔法の理論や魔方式による効果の向上や消費魔力の減少などが殆どであり、幼い頃習った単純なヒールでさえ2~3割程度、私が知る物より効果を上げつつ魔力消費量を1割程度下げられるようだ。
一方で治癒術の影の部分、死霊術及び人体の構造について詳細に記載されており、ゾンビの作り方などが記載されていた。生死は表裏一体、治癒術の反術である死霊術を詳しく知る事もまた治癒術の向上に繋がる。
「死霊戦士の作成・・・・・・か」
魔剣の中にはそういった技術に極めて長けるモノがある。多くの戦士の死体を組み合わせ、最強の死霊戦士を造ろうとした最高峰の死霊術師、神殿からは下種だとか屑だとか言われていたが、死の神への信仰を熱心に捧げ、知性さえ失った怨霊の魂に理性を与え、家族に最後の言葉を伝える。殺され恨みによって亡霊の話を聞き、動くだけのゾンビやスケルトン、そういった魂を静める知性人でもあった。
この世界も知識や技術の蓄積によって徐々にだが着実に魔法は進化している。それを伝達する方法が学園という枠のみなだけで、恐らくドワーフの蒸気機構学も転生者や転移者が居なくても発展していくだろう。それ故になおさら考えてしまう。何を焦って外部のモノを引き込み急速に発展させようとしているのかと。考えても仕方ない。最低限気になっていた治癒術の知識の再確認はできたし、今は寮に戻り次の転生もしくは転移者を探す為の手段を考えなければならない。一番有力なのはブレーカーガントレッドを製作したモノだが、技術を広めている様子も無くこれもさほど問題になるとは思えず、やはり大事を起こしてどこかに隠れているモノを引っ張り出すしかないのだろうか。