今回の標的は15層の主要モンスター リザードマン。Dクラス冒険者一人ならまず逃げだすのだが、討伐対象としては中々割りの良い相手だ。

 リザードマン----------------------------------------------
 水性系の人型の魔物。体長約2メートル。王都のダンジョンでは15層から20層程度に存在しているが、魔素が濃い湿地エリアなら地上でも住み着いている事もある。
 強靭な鱗は刃を通しにくく、槍を武器として持っていることが多いため非常に厄介。
 素材としては鱗も魔石も高値売れる上に肉質も良いことからリザード種と異なり、リザードマンの買い取り価格は一体辺り10000フリスから16000フリスほどとなる。
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 15層に到着するまでの道中、現れた敵はリヒトが流れ作業のように倒していくのだが、見向きもしないため売れる素材はまるごと亜空間倉庫に放り込んである。元々Bランクだけあって獲物としてすら認識していないようだ。15階層に下りてすぐに単独行動しているリザードマンが視界に入った。

「テストを兼ねて一人でやる」

 ここまで戦う必要もなかったのでブレーカーガントレットのテストが終わっていない。ラクシャもリヒトも頷くと他の獲物を求め移動し、すでにジノは近くには居ない。心配する必要がないのは分かっているのだが、倒したリザードマンをどうやって引き摺ってくるのかだけが気がかりだ。

「さて、それじゃこちらも始めるか」

 リザードマンに数歩近付くとこちらに気付き、槍を振り上げ迫ってくる姿に身構える。突き出された槍を避けながらブレーカーガントレット軽く動かしてみるがどうも関節部の動きが鈍く、改良の余地有りと言ったところか。反動を抑えつつ爆発の衝撃から守るためとはいえ、右手から肩まで全体を覆っている事から全体的に動きが悪く思ったよりも戦闘レベルで動き回るには完成度が低い。
 考えながらも槍を避けながら執拗に手を狙い打撃を見舞っていると、イラついてきたのか大きく槍を横薙ぎに振る。身を屈めながら大きく踏み込み、槍を避けてリザードマンの胴体に杭を押し付け魔石の力を解放、下級爆発魔法のフレイムを使ったような音が鳴り響く同時に爆発の衝撃が肩まで走る。
 痛みはない程度だが身体強化魔法を使えないとしたら腕を痛め、後方に数歩下がってしまっていただろう。衝撃で吹き飛ばされたリザードマンを確認してみると、撃ち当てた場所から胴体の反対方向に向って肉が引き裂け胴体に風穴が開き絶命している。

「・・・・・・これじゃやりすぎだな」

「買い取り価格は半分ってとこじゃないか?」

 いつの間にか1体のリザードマンを倒し、引き摺って戻ってきていたリヒトの言うとおりだ。これでは 倒す ことは出来ても採取する 狩り には向かない。それに火の魔石に込められていた魔力が全て尽きてしまっている。威力を下げて数回使える機構と一撃に全て消費する二構成が必要だろう。

「俺は次の狩りに行くが、こいつの魔石は取り出すか?」

「いや、全部そのままにしてギルドで手数料を払う形にしておこう」

 ギルドでは手数料を支払えば解体屋が素材の分別処理をし、部位ごとの買取もしてくれる。

「それなら加減せずに狩りにいける。こいつは任せるよ」

 その言葉に振り向くと3匹のリザードマンを引き摺っているラクシャが居た。義手になったばかりなのだがどうやらリザードマン程度ではなんら問題はないようだ。

 ダンジョンに潜り10日、手当たり次第にリザードマン等を狩っては亜空間倉庫に放り込んできたが食料が尽きてきてしまった。

「いい加減武器が欲しくなってきたし、一旦戻らないか」

 ラクシャとリヒトはリザードマンが持っていた武器を奪って使うつもりだったのだが、数回の使用で武器が壊れてしまうため結局素手で殴り倒すか首をへし折って倒してしまっている。素材としてはその方が高値で売れる状態だが、無理をさせてしまっている感じだ。
 ダンジョンを出てギルドに入ると買い取り窓口に移動、事情を話して解体場に案内され大量のリザードマンの素材買取を依頼。100体を超える数に担当者は驚いていたが、仲間にドゥーガ姉弟が居る事がわかると納得したように計算を始めた。やはりBランクが居ると言うだけで素性を隠すには都合が良い。

「全部で242万1473フリスとなります。高額ですがお持ちになりますか? ギルドで保管とすることも可能ですが」

 ギルド側で保管してもらえれば盗まれる事もないし、優遇もつくのだが今回は使う為に稼いだので預ける事はしない。全て受け取るとそのままラクシャとリヒトに分配分を渡す。

「武器はこちらで用意するからこれで防具を調達してくれ。 自分は行く先があるから戻っていてくれて構わない」

 その足で学園に戻ると総合受付で鍛冶の受講を申請し、担当している教官の下に移動する。学園内に設置されている鍛冶場は騎士団に納品したり外部の商店に卸しているため、何人もの鍛冶師や見習い達によって昼夜問わず鋳造が行われていた。

「それで、魔法鍛冶を学びたいってのは正気か?」

 他の生徒ならともかく、特待生の大部分が主戦力であってサポート側ではない。受講することについて正気を疑うのも当然か。

「自分が使っている武器がどのように作られているか興味があるんですよ」

 少々怪訝な目をして納得はしてくれなかったようだが、受講申請を出している以上講義はしてもらえるようだ。

「まぁいい。それでは始めるから教本を開きながら手順を覚えるように」

 教官は元となる鉱石等を空中に浮かせ結界に閉じ込める。鍛冶魔法によって溶解・整形・調質・圧縮・火入れ・冷却を延々と繰り返し剣の形に仕上げていく。時間が経つにつれ徐々に剣の形になっていく様は見事なものだ。

「2時間ほど掛かるが基本はこんなもんだな。後は職人の出番ってわけだ」

 この時点でも並の鍛冶屋で売られている剣よりよっぽど出来が良い代物なのだが、それでもまだ未完成。騎士団やB級冒険者向けに武具を作っているだけあって武具の品質は非常に良い。鍛冶教官は鍛冶魔法を解除すると出来上がった剣を手に取り、手で砥石にかけたり直接触れて魔力調質を行い始める。手を掛けるたびに剣は完成度を高め、目に見えて質が向上し鍛冶教官の腕のよさがよくわかる。

「これで仕上がりだ。良くもまぁ飽きもせず5時間も見ていられるもんだな」

 教官は感心したような呆れたような表情を浮べると剣をテーブルの上に置いた。僅かにミスリル化しているのか薄青く輝く刀身からは僅かながら魔力を感じる。じっくり見ていたおかげで色々思い出すことが出来たが、前世よりも幾らか劣っていたり違いがあるようで基本的なところは共通しているようだ。

「ドワーフ達には鉄の声を聞けって言葉もあるらしいが、俺にはわからん」

 ドワーフ、この世界にも居る鍛冶技術の匠。他にも蒸気や火気を使った機構にも優れているのだが、自分達の国から出る事はあまり無いため、多種族の鍛冶士は変わり者で国を出たドワーフに学んだり、直接ドワーフの国に出向いて学んでいる。

「何を造りたいのかを明確にし、何をすれば造れるのか、どの手順を抑えればいいのか。造れなかったら何が足りなかったのか、何がよくなかったのか。所詮はそんだけの事だ。結局何本も武器を作ってみなけりゃわからん。何本も造ってみることだ」

「ありがとうございます。参考になりました」

「武器が出来上がったら見せに来い。難癖の一つでもつけてやる」

 職人は気に入った相手に対しては面倒見が良いのはどこの世界も一緒らしい。後はひたすら繰り返すことでより記憶と体が一致していくはず。購買部で鉱石類を買った後自室に戻ると、すでに酒を飲んでラクシャとリヒトが眠っていた。