「あ、春樹起きた?」
(あれ?九条がいる。確か前にもこんなことあったな)
ぼんやりとした意識の中でゆっくりと目の前に広がるのは見慣れない天井。上半身を起こして周りを見回し、ベッドから降りた。
(そうだ、ここは九条の部屋だ。一緒にチョコ作りをして、後片付けは九条がしてくれて俺は部屋で休んでたんだっけ)
九条の部屋は一般的な男子高校生の部屋という感じで、ウォールナットの机やラックが並んでいて落ち着いた雰囲気だ。本棚には有名な海賊のマンガやバレボール部のマンガなどが並んでいる。俺はその中の一冊を手に取りベッドに座って読んでいたんだけど、いつの間にか寝てしまったらしい。
「無防備すぎない? 2回目だよ、寝ちゃうの」
「むぼーび? え? 友達の部屋で寝ちゃうとか普通じゃない?」
「トモダチ…そっか~トモダチだもんね」
小さくため息をつくと、ローテーブルに置かれているさっき作ったチョコをポイッと口に放り込んだ。
(あぁ~そうだ、すきって言われたんだよ。九条は俺のこと友達だと思ってないんだよな?)
「あのさ、聞いてもいい?」
「ん?」
「なんで俺のことすきなの?」
九条はぱちくりと瞬きしたあと口の中でコロコロとチョコを転がし困り顔で「ん~」と唸っている。
「それ聞いちゃう?」
「そりゃ聞くだろ。こっちは言い逃げされてずっとモヤモヤしてんだよ」
「いや~俺も言い逃げするつもりじゃなかったんだけどね…」
ローテーブルの下から黄色い箱を取り出した。鮮やかなオレンジ色のリボンできれいにラッピングしてある。
「今日はね、本当はこれをわたしたかったんだ」
開けてみて? と促されてそっとリボンを解いて箱を開ける。中にはチョコのケーキが入っていた。上には粉糖がまぶしてあって、雪化粧したみたいにキレイでおいしそうだ。
「めっちゃうまそう。いつの間に作ったの?」
「春樹が来る前にね。食べてみて」
「え? 今? 食っていいの?」
「あ、やっぱり帰ってからゆっくり食べて。いや、でも、やっぱり今食べて! 食べてるとこみたい」
「どっちだよ」
皿とフォークを持ってくると言う九条を制して、ケーキを手に持ちかぶりついた。口になかにチョコの甘さがひろがって幸せがやってくる。
「うんま…なにこれ。ちょーうまい」
俺がもぐもぐと口を動かしている間、九条はニコニコ笑って俺をみている。みられていると少し食べにくいけど、とても幸せそうに笑うからみるなとは言えなかった。
「ごちそうさまでした。うまかった」
「よかった~。あ、口ついてるよ」
おもむろに手が伸びてスッと唇に触れた。その指を自分の口元にもっていきペロッと舐める。あまりにも自然な所作に見惚れてしまい、理解するのに時間がかかった。
「…お前さ」
徐々に顔が熱くなる。気まずくて目を合わせられず下を向いた。
「ん? あ、間接チューしちゃった…」
九条も自分がしたことをやっと理解して顔を赤くしてもじもじしている。
(無意識かよ…こわい)
「…で?」
「え?」
「さっきの、なんで俺のことすきなのっていう話の続き」
「あ、そうそう。そうだった」
ゴホンと咳払いして正座をする九条。俺もつられて背筋を伸ばす。
「…去年の夏休み明けに春樹をみたときに衝撃を受けてさ。今までべつになんとも思ってなかったのに金髪の春樹がかっこよすぎて、この辺がぎゅうって苦しくなって、死ぬかと思った。それからすぐに黒髪に戻っちゃって残念だなって思ってたんだけど、なんかずっと目で追っちゃうんだよね。たぶんこれはすきなんだろうなって…でも俺には美紀がいたから、どうしようって半年くらい悩んで……」
「半年?!」
「悩みすぎだよね…半年経ってもやっぱり春樹のことがずっと気になってたから、とりあえず行動しなきゃと思って、髪をオレンジにして美紀とわかれて春樹に近づいた」
「そこで髪オレンジにする発想がすごいわ」
「へへっ、少しでも春樹に近づきたくて、注目してほしくて」
「いやでも、俺も二度見したから、作戦成功なんじゃない? 九条がイケメンでびっくりしたわ」
「イケメンかな? 春樹の方がずっとかっこいいけど」
「いやまあ、うん…それは置いといて」
「ははっ、照れてる~かわいい~」
「話を戻せ」
ゴホンとまた咳払いしてふぅ~と息を吐く。俺も熱くなる顔を手で仰いで小さくため息をついた。
「…それで、春樹と仲良くなっていくうちに春樹のことたくさん知ってどんどんすきになって…今この状態です」
「そっか…」
「こんなに人をすきになったの初めてなんだ」
「桜庭さんは?」
「美紀のことはすきだったけど全部受け身だった。告白してくれたのも、デートの計画を立ててくれるのも、美紀がしてくれてた」
ゆっくりと九条の手が伸びて、ローテーブルに置いている俺の手と重なる。
「自分からすきになったのは春樹が初めてだよ」
九条の手から、ドキドキと心臓の音が伝わる。それに重なるように俺の心臓もうるさくどくどく鳴っている。
「でも大丈夫。安心して。すきになってくださいとか付き合ってくださいとか言わないから」
静かに九条の手が離れていった。笑っているけどやっぱりどこか寂しそうだ。
「九条はどうしたいの?」
「へ?」
「言わないだけで、本当は俺と付き合いたい、すきになってほしいって思ってんだろ? じゃなきゃ、髪染めたり、桜庭さんとわかれたりしないよな」
「…それは、そうだけど、でも春樹を困らせたくないし」
「誰が困ってるって言った?」
申し訳なさそうにうつむいてしまった九条を真っすぐに見据えると、九条はゆっくりと顔を上げた。
「こんな真剣に想ってくれてるんだから俺もちゃんと、本気で九条と向き合うよ。だから少し考える時間がほしい」
「…うん、わかった」
「なんで泣きそうになってんだよ」
「だって、こんな風に言ってもらえるとおもってなかったから…」
手を伸ばしてオレンジ髪を撫でてやると「ありがとう」と一粒だけ涙を流した。すごくキレイで、ずっと眺めていたいと思った。
(あれ?九条がいる。確か前にもこんなことあったな)
ぼんやりとした意識の中でゆっくりと目の前に広がるのは見慣れない天井。上半身を起こして周りを見回し、ベッドから降りた。
(そうだ、ここは九条の部屋だ。一緒にチョコ作りをして、後片付けは九条がしてくれて俺は部屋で休んでたんだっけ)
九条の部屋は一般的な男子高校生の部屋という感じで、ウォールナットの机やラックが並んでいて落ち着いた雰囲気だ。本棚には有名な海賊のマンガやバレボール部のマンガなどが並んでいる。俺はその中の一冊を手に取りベッドに座って読んでいたんだけど、いつの間にか寝てしまったらしい。
「無防備すぎない? 2回目だよ、寝ちゃうの」
「むぼーび? え? 友達の部屋で寝ちゃうとか普通じゃない?」
「トモダチ…そっか~トモダチだもんね」
小さくため息をつくと、ローテーブルに置かれているさっき作ったチョコをポイッと口に放り込んだ。
(あぁ~そうだ、すきって言われたんだよ。九条は俺のこと友達だと思ってないんだよな?)
「あのさ、聞いてもいい?」
「ん?」
「なんで俺のことすきなの?」
九条はぱちくりと瞬きしたあと口の中でコロコロとチョコを転がし困り顔で「ん~」と唸っている。
「それ聞いちゃう?」
「そりゃ聞くだろ。こっちは言い逃げされてずっとモヤモヤしてんだよ」
「いや~俺も言い逃げするつもりじゃなかったんだけどね…」
ローテーブルの下から黄色い箱を取り出した。鮮やかなオレンジ色のリボンできれいにラッピングしてある。
「今日はね、本当はこれをわたしたかったんだ」
開けてみて? と促されてそっとリボンを解いて箱を開ける。中にはチョコのケーキが入っていた。上には粉糖がまぶしてあって、雪化粧したみたいにキレイでおいしそうだ。
「めっちゃうまそう。いつの間に作ったの?」
「春樹が来る前にね。食べてみて」
「え? 今? 食っていいの?」
「あ、やっぱり帰ってからゆっくり食べて。いや、でも、やっぱり今食べて! 食べてるとこみたい」
「どっちだよ」
皿とフォークを持ってくると言う九条を制して、ケーキを手に持ちかぶりついた。口になかにチョコの甘さがひろがって幸せがやってくる。
「うんま…なにこれ。ちょーうまい」
俺がもぐもぐと口を動かしている間、九条はニコニコ笑って俺をみている。みられていると少し食べにくいけど、とても幸せそうに笑うからみるなとは言えなかった。
「ごちそうさまでした。うまかった」
「よかった~。あ、口ついてるよ」
おもむろに手が伸びてスッと唇に触れた。その指を自分の口元にもっていきペロッと舐める。あまりにも自然な所作に見惚れてしまい、理解するのに時間がかかった。
「…お前さ」
徐々に顔が熱くなる。気まずくて目を合わせられず下を向いた。
「ん? あ、間接チューしちゃった…」
九条も自分がしたことをやっと理解して顔を赤くしてもじもじしている。
(無意識かよ…こわい)
「…で?」
「え?」
「さっきの、なんで俺のことすきなのっていう話の続き」
「あ、そうそう。そうだった」
ゴホンと咳払いして正座をする九条。俺もつられて背筋を伸ばす。
「…去年の夏休み明けに春樹をみたときに衝撃を受けてさ。今までべつになんとも思ってなかったのに金髪の春樹がかっこよすぎて、この辺がぎゅうって苦しくなって、死ぬかと思った。それからすぐに黒髪に戻っちゃって残念だなって思ってたんだけど、なんかずっと目で追っちゃうんだよね。たぶんこれはすきなんだろうなって…でも俺には美紀がいたから、どうしようって半年くらい悩んで……」
「半年?!」
「悩みすぎだよね…半年経ってもやっぱり春樹のことがずっと気になってたから、とりあえず行動しなきゃと思って、髪をオレンジにして美紀とわかれて春樹に近づいた」
「そこで髪オレンジにする発想がすごいわ」
「へへっ、少しでも春樹に近づきたくて、注目してほしくて」
「いやでも、俺も二度見したから、作戦成功なんじゃない? 九条がイケメンでびっくりしたわ」
「イケメンかな? 春樹の方がずっとかっこいいけど」
「いやまあ、うん…それは置いといて」
「ははっ、照れてる~かわいい~」
「話を戻せ」
ゴホンとまた咳払いしてふぅ~と息を吐く。俺も熱くなる顔を手で仰いで小さくため息をついた。
「…それで、春樹と仲良くなっていくうちに春樹のことたくさん知ってどんどんすきになって…今この状態です」
「そっか…」
「こんなに人をすきになったの初めてなんだ」
「桜庭さんは?」
「美紀のことはすきだったけど全部受け身だった。告白してくれたのも、デートの計画を立ててくれるのも、美紀がしてくれてた」
ゆっくりと九条の手が伸びて、ローテーブルに置いている俺の手と重なる。
「自分からすきになったのは春樹が初めてだよ」
九条の手から、ドキドキと心臓の音が伝わる。それに重なるように俺の心臓もうるさくどくどく鳴っている。
「でも大丈夫。安心して。すきになってくださいとか付き合ってくださいとか言わないから」
静かに九条の手が離れていった。笑っているけどやっぱりどこか寂しそうだ。
「九条はどうしたいの?」
「へ?」
「言わないだけで、本当は俺と付き合いたい、すきになってほしいって思ってんだろ? じゃなきゃ、髪染めたり、桜庭さんとわかれたりしないよな」
「…それは、そうだけど、でも春樹を困らせたくないし」
「誰が困ってるって言った?」
申し訳なさそうにうつむいてしまった九条を真っすぐに見据えると、九条はゆっくりと顔を上げた。
「こんな真剣に想ってくれてるんだから俺もちゃんと、本気で九条と向き合うよ。だから少し考える時間がほしい」
「…うん、わかった」
「なんで泣きそうになってんだよ」
「だって、こんな風に言ってもらえるとおもってなかったから…」
手を伸ばしてオレンジ髪を撫でてやると「ありがとう」と一粒だけ涙を流した。すごくキレイで、ずっと眺めていたいと思った。



