十二月に入ると急にせわしくなる。
 年末の休みを見据えていろいろな仕事を前倒ししないといけない。
 焦った千与加のミスが増え、紗都がその都度フォローしていた。

 忘年会はクリスマスの二日前の土曜日になったとお知らせがあった。その日しか予約がとれなかったらしい。名目上は自由参加だが、あとあとを考えると参加しないわけにはいかない。

「忘年会かあ」
 思わずつぶやくと、隣の席の千与加が振り向いた。
「服装自由、だって。那賀野さん着物で来てくださいよ」
「さすがにそれは」
 紗都が苦笑したときだった。

「那賀野さん、着物着れるの?」
 通りがかった同僚の男性が言った。
 その言葉にメガネの女性が反応して振り向く。

「いいじゃん、大和なでしこ、着物女子!」
「趣味でときどき着る程度なんですよ」
 慌てて言い繕うが、
「忘年会、ぜひ着物で」
「着物姿見たーい!」
 千与加の言葉にメガネの女性がのっかる。

「着物、そそるよなあ」
 紗都は眉をひそめた。同僚の男性はきっとほめているのだろうけど、なんだか違う気がする。