幻の記憶ー忘れ去られた陰陽師ー

水波(みずは)が、死んだ。

その事実が、私に重く重くのしかかってくる。

私のせいだ。

私が、うまく感情ををコントロールできなかったから。

私が、霊力が少くても満足していたから。

私が、陰陽師になんてなったから。

私が、変な正義感なんて持ったから。

私が、あの時言うことを聞かなかったから。

私は、今まで何人を殺した?

水波、お父さん、お母さん…未熟だったから、救助が遅れた人たち。

思い出しながら、ふと思った。

私の手は、汚れている。

生きている資格なんてない。

強く、強く思った。

そろそろ、家についたかな。

そう思って前を見ると、そこは学校のプールだった。

鍵もかかっているはずなのに…。

無意識のうちに、外していたの?

そんなに、死にたいのね。

笑いが溢れてくる。

ごめんね。

私の身体(うつわ)に謝る。

(なかみ)が未熟だったから、あなたも滅ばなくちゃいけないなんて。

今は10月。

室内プールだから、既に水はない。

水の霊符を取り出して、額にかざしながら呪文を唱える。

水波能売命(ミヅハノメ)様…どうかその御力をお貸しください。」

(はら)(たま)い、清め(たま)え、(かむ)ながら守り(たま)い、(さきわ)(たま)え。』

霊力を霊符に込めると、プールの中に貼り付ける。

すると、たちまち水が湧いてきて、すぐに一杯になった。

「さよなら。」

そう小さく呟いて、プールに身を投げる。

水が冷たい。

息ができない。

意識が遠のく。

身体が凍える。

水を吸った服が重い。

でも、不思議と心は軽い。

肺に水が貯まる。

苦しい、苦しい。

でも、救われる。

そう思っていたのに。

私の身体がふわっと浮いた。

優しく、プールサイドに置かれる。

勢いよく咳き込む。

どうして?

どうして、死なせてくれないの?

どうして、殺してくれないの?

もう一度プールに入ろうとすると、制服のスカートに入った何かが邪魔をしてくる。

急いで取り出して中身を確認すると、それは魔眼晶(まがんしょう)だった。

お父さんと、お母さんを生きたまま食べた穢を生け捕りにした水晶…の欠片。

もう、何もする気が起きなかった。

このまま、霊力枯渇で死んだほうが楽かもしれない。

そう思って、転移術を使って部屋に戻った。

濡れた制服を脱いで、楽な服を着る。

ただそれだけのことが、とても面倒くさかった。

そのままベッドに倒れ込む。

何も考えたくない。

私は深い眠りの中へ潜っていった。

あわよくばこのまま死んでいけたら。

なんてことも思っていた。

何かが、私の元を離れた。

追いかける気にはならなかった。

この世界での私は、そのまま終わりを告げた。