雪菜は、学校の荷物が散らかった部屋の中で、椅子に座り、真っ白な天井を見上げた。ヘッドホンで好きな曲を流すが頭に入ってこない。シャープペンを回して、考える。思ってたより宿題が捗らない。机の上に腕を組んで、顔を埋めた。ドアをノックする音が響く。
「雪菜? 入っていい?」
母の菜穂が、トレイに飲み物を乗せて、やってきた。女子じゃないとわからないだろうと言うことで、気分転換にバタフライピーの紅茶を入れてくれた。丸いテーブルに、猫の模様が描かれたラグマットの上に2人は座った。
「宿題、終わった?」
「ううん。まだ、終わってない」
「あとどれくらいで終わりそうなの?」
「20分あれば、できるかも」
「そっか。んじゃ、先に話そうか」
菜穂は、おしゃれな急須から紅茶をティーカップに注ぎ入れた。
小皿には小さくカットされたレモンがあった。レモン絞り器も置いてある。
「あ、あれ、これ。私好きなやつ」
菜穂は、雪菜に元気出してもらおうと、祖母からよく貰うご当地のお菓子の
ダックワーズを持って来ていた。
「そう、またおばあちゃんが買ってきてくれたから。雪菜が好きだって言ったら、時々くれるのよ」
「嬉しい。食べていい?」
「どうぞ」
雪菜は封を開けて、パクッと食べた。
「美味しい」
「よかったね。さて、何があったのかな」
「うん。そうだね。改まると話すの恥ずかしいよ」
「……そう? 別に誰かに言う訳じゃないんだから言ってみなよ」
「えっと、私、今、部活で部長やってるんだけどさ、1年の時から一緒の平澤凛汰郎くんが3年になって副部長なのね。それで、最近、凛汰郎くんに私には、部長には向いてないって言われてさ。あまり話したことなかったから、そう言われるとグサッと言うか。辛いというか……。でも関われたことが嬉しいんだけど」
雪菜はいろんな表情を浮かべながら、菜穂に話した。気がつくと、嫌なことや辛いことがあると
友達と同じくらい母に話してすっきりさせることがある。
「ふーん。なるほど……。雪菜、その凛汰郎くんとはどうなりたいの?」
「……えー、えっと。仲良くなりたいけど、嫌われてるみたいでさ。私が的に当たるたびに嫌な顔されるしむしろ当てない方が笑顔で……」
「それって、ただの嫉妬でしょう。凛汰郎くんの的はどうなの?」
「あまり当たったところ見たことない。まぐれでど真ん中に行く時あるけど」
「子どもね、その子。自分のことに集中すればいいんだろうけど、雪菜の的がど真ん中になってることに
僻んでるんだね。気にすることないわ」
「でもね、そうなのかなって思い始めてから真ん中に当たらなくなっちゃったんだ。当たらない方が、凛汰郎くんの笑顔見えるし、
何だか、気合いが入らなくて、このまま当たらない方がいいのかなとも思ったり……」
「話さなくても表情で確認して、喜んでるのね、雪菜。寂しくないの?」
紅茶を飲み干した。
「だってさ、弓道って、声出さないで、集中して、やる競技でしょう。もう、話すなんてしなくても
仕草とかじゃん。それだけで十分って感じな部分あるんだよ」
「雪菜、その子のこと好きじゃないの?」
「好きだけど、嫌われてるし……」
「思いこみじゃないの? 話してる訳じゃないから相手の胸の内なんて、わからないでしょう」
「無理、無理無理。絶対無理。」
「最初から無理って決めつけなくてもいいじゃないの?」
ラグマットに置いていたハリネズミのクッションを抱っこした。
「だって、傷つきたくないもん」
「何か行動しないと何も始まらないんだけどなぁ」
2人が話してる途中にドアをノックの音がした。
「雪菜? いろはから電話来たんだけど、代わってって言われたぞ」
父の龍弥だった。龍弥のスマホにいろはが電話していたようだ。
「え、先生? おばちゃんだけど。代わるよ」
『雪菜? 今、お兄に言ったんだけど、ちゃんと朝起こしてあげてって伝えたから。分かった? 朝練習、しっかり来なさいよ、待ってるから』
「あ、はい。わかりました。気をつけます」
念押しで電話が来たらしい。
「何、いろはちゃん? 雪菜の顧問の先生だっけ。いろはちゃんも弓道やってたんだもんね。雪菜、朝起きられないのは、誰に似たのかしら……」
「菜穂だろ」
「いや、お父さんでしょう」
「目覚まし時計、何度もとめて、二度寝してるじゃん」
「どっちでもいいよ!! とにかく、私を起こすのをお願いします!!」
「……仕方ないわね。お父さん、よろしくね」
「なんで、俺が」
「起きられるんでしょう」
「あー、俺も、起きられないから起こしてもらわないとなぁ」
頭に腕を組んで立ち去っていく。
「都合いいんだから、全く。んじゃ、雪菜、行動あるのみだよ? 私、そろそろ皿洗いしないと
いけないから」
「うん。そうだね。行動はすぐできないけど」
結局のところ、悩みは解決されぬまま不満を残し、話を終えた。カーテンを開けて、外を覗くと夜空に煌々と上弦の月が輝いていた。ふーっとため息をつく。月が弓に見える。矢はどっちの方向に打てるのかなと考えた。明日の朝練習では上手く打てるといいなと
願った。
「雪菜? 入っていい?」
母の菜穂が、トレイに飲み物を乗せて、やってきた。女子じゃないとわからないだろうと言うことで、気分転換にバタフライピーの紅茶を入れてくれた。丸いテーブルに、猫の模様が描かれたラグマットの上に2人は座った。
「宿題、終わった?」
「ううん。まだ、終わってない」
「あとどれくらいで終わりそうなの?」
「20分あれば、できるかも」
「そっか。んじゃ、先に話そうか」
菜穂は、おしゃれな急須から紅茶をティーカップに注ぎ入れた。
小皿には小さくカットされたレモンがあった。レモン絞り器も置いてある。
「あ、あれ、これ。私好きなやつ」
菜穂は、雪菜に元気出してもらおうと、祖母からよく貰うご当地のお菓子の
ダックワーズを持って来ていた。
「そう、またおばあちゃんが買ってきてくれたから。雪菜が好きだって言ったら、時々くれるのよ」
「嬉しい。食べていい?」
「どうぞ」
雪菜は封を開けて、パクッと食べた。
「美味しい」
「よかったね。さて、何があったのかな」
「うん。そうだね。改まると話すの恥ずかしいよ」
「……そう? 別に誰かに言う訳じゃないんだから言ってみなよ」
「えっと、私、今、部活で部長やってるんだけどさ、1年の時から一緒の平澤凛汰郎くんが3年になって副部長なのね。それで、最近、凛汰郎くんに私には、部長には向いてないって言われてさ。あまり話したことなかったから、そう言われるとグサッと言うか。辛いというか……。でも関われたことが嬉しいんだけど」
雪菜はいろんな表情を浮かべながら、菜穂に話した。気がつくと、嫌なことや辛いことがあると
友達と同じくらい母に話してすっきりさせることがある。
「ふーん。なるほど……。雪菜、その凛汰郎くんとはどうなりたいの?」
「……えー、えっと。仲良くなりたいけど、嫌われてるみたいでさ。私が的に当たるたびに嫌な顔されるしむしろ当てない方が笑顔で……」
「それって、ただの嫉妬でしょう。凛汰郎くんの的はどうなの?」
「あまり当たったところ見たことない。まぐれでど真ん中に行く時あるけど」
「子どもね、その子。自分のことに集中すればいいんだろうけど、雪菜の的がど真ん中になってることに
僻んでるんだね。気にすることないわ」
「でもね、そうなのかなって思い始めてから真ん中に当たらなくなっちゃったんだ。当たらない方が、凛汰郎くんの笑顔見えるし、
何だか、気合いが入らなくて、このまま当たらない方がいいのかなとも思ったり……」
「話さなくても表情で確認して、喜んでるのね、雪菜。寂しくないの?」
紅茶を飲み干した。
「だってさ、弓道って、声出さないで、集中して、やる競技でしょう。もう、話すなんてしなくても
仕草とかじゃん。それだけで十分って感じな部分あるんだよ」
「雪菜、その子のこと好きじゃないの?」
「好きだけど、嫌われてるし……」
「思いこみじゃないの? 話してる訳じゃないから相手の胸の内なんて、わからないでしょう」
「無理、無理無理。絶対無理。」
「最初から無理って決めつけなくてもいいじゃないの?」
ラグマットに置いていたハリネズミのクッションを抱っこした。
「だって、傷つきたくないもん」
「何か行動しないと何も始まらないんだけどなぁ」
2人が話してる途中にドアをノックの音がした。
「雪菜? いろはから電話来たんだけど、代わってって言われたぞ」
父の龍弥だった。龍弥のスマホにいろはが電話していたようだ。
「え、先生? おばちゃんだけど。代わるよ」
『雪菜? 今、お兄に言ったんだけど、ちゃんと朝起こしてあげてって伝えたから。分かった? 朝練習、しっかり来なさいよ、待ってるから』
「あ、はい。わかりました。気をつけます」
念押しで電話が来たらしい。
「何、いろはちゃん? 雪菜の顧問の先生だっけ。いろはちゃんも弓道やってたんだもんね。雪菜、朝起きられないのは、誰に似たのかしら……」
「菜穂だろ」
「いや、お父さんでしょう」
「目覚まし時計、何度もとめて、二度寝してるじゃん」
「どっちでもいいよ!! とにかく、私を起こすのをお願いします!!」
「……仕方ないわね。お父さん、よろしくね」
「なんで、俺が」
「起きられるんでしょう」
「あー、俺も、起きられないから起こしてもらわないとなぁ」
頭に腕を組んで立ち去っていく。
「都合いいんだから、全く。んじゃ、雪菜、行動あるのみだよ? 私、そろそろ皿洗いしないと
いけないから」
「うん。そうだね。行動はすぐできないけど」
結局のところ、悩みは解決されぬまま不満を残し、話を終えた。カーテンを開けて、外を覗くと夜空に煌々と上弦の月が輝いていた。ふーっとため息をつく。月が弓に見える。矢はどっちの方向に打てるのかなと考えた。明日の朝練習では上手く打てるといいなと
願った。