芝生が広がる公園で、小さな子供たちが遊具やボール遊びに夢中になる。
砂場でお城やケーキと言って遊んでいる親子もいた。
もくもくと広がる雲を突き抜けて、飛行機が大きな音を立てて飛んでいく。
「雪菜ちゃん! みーつけた」
「えー、もう早いよぉ。次は私、鬼ね」
5歳の斎藤雅俊と白狼雪菜は、家から近い少し大きな公園でかくれんぼを楽しんでいた。
「雅俊くん、背、伸びましたね。雪菜はまだまだ小さくて、あまりご飯食べないから」
公園のベンチで、白狼雪菜の母の白狼菜穂と斎藤雅俊の母の斎藤実花《さいとうみか》が子供たちを見ながら、話しをしていた。
お互い、隣に住んでいることもあって仲が良かった。
「そんなことないですよぉ。男の子でも、まだまだ小さい方で。うちでも、全然食べないんですから。それより、雪菜ちゃんママ、最近できたショッピングモール行きました?」
「え、まだ行ってないの。どうだった?」
世間話で盛り上がっていた。
「雅俊くん!! かくれんぼって言ってるのになんで遊具で遊んでいるの?!」
「いいだろ。別に。雪菜ちゃんが遅いから。つまらないんだよぉ」
昔から好きな子にはいじわるをするのは、変わりない雅俊だった。雪菜はそのいじわるされるのが本当に嫌だった。
「もういい!! 遊びたくない」
いじわるも度を越えるといじめになる。雪菜は、いつも嫌になると、すぐむつけては、一人遊びをしていた。雪菜が、砂場で、おままごと遊びに夢中になっていると、雅俊は、遊具遊びをやめて、近づいてくる。静かに同じ砂場遊びをし始めるが、雪菜は機嫌を悪く、違う方向を向いて、遊びの続きをした。
「一緒に遊ぼうよぉ」
「やだ」
「いじわるしないから」
「やだって言ったら、やだ」
「むー--」
雅俊は、ご機嫌斜めの雪菜に喜んでもらおうと、砂をかき集めて、バケツに詰めてはひっくり返した。
「じゃじゃーん。ケーキのできあがり」
「……」
「ほら、一緒に食べよう」
近くに落ちていた小枝をスプーン代わりに食べるごっご遊びをする。
見たこともない笑顔で食べる雅俊を見て、本当においしそうと思った雪菜は、ふくれっ面をしぼませて、仕方なく、同じように小枝を持った。
「いただきます」
もちろん、ごっご遊びだ。
「どお?」
「おいしい」
「でしょう?」
満面の笑みで雅俊は歯を出して、ニカッと笑う。人を喜ばせることにたけていた。幼稚園に通う2人は、ほかのお友達を喜ばせている雅俊を見ていて、うらやましいと思っていた。実際にされて、胸のあたりがポカポカした。いじわるはされる分、よろこぶこともしてくる。幼いながらに複雑な気持ちになる雪菜だった。
小さいころ、引っ越してきたばかりで友達がいなくて、ひとりぼっちだった雪菜に最初に声をかけてくれたのは雅俊で、そこから隣に住んでいることがわかり、そこからずっと高校までずっと過ごしてきた。
恋人になったつもりはなく、空気のように身近に存在していた。確かに高校受験で大変なときもお互いに頑張ろうと徹夜で勉強していた時に窓からチョコレートを差し入れてくれたり、落ち込んでいるときに変顔して無理やりに笑顔にしてくれた時もあった。
どうして、近くにいるんだろうと不思議に思ったこともあったけれど、雅俊に初めての彼女ができたと思った瞬間からもう雪菜は近くにいる必要ないなっと距離を置いたこともあった。
◇◇◇
雪菜は、部屋でひとり、どさっとベッドの上に仰向けに寝ころんだ。下唇を右手の人差し指と親指でつまむ。なんであの時、キスされなくちゃいけないのか。もう、雅俊のことは、高校2年の時の彼女ができた時から終わってる。自分は女として見られていないとあきらめたはずなのに。せっかく、凛汰郎と両想いになって、これから幸せな高校生デートライフが楽しめると思っていた。
心の中のもやもやした気持ちがあふれて出て、無意識に涙が出た。凛汰郎が好きなはず。 この大きいぬいぐるみのうさぎを
UFOキャッチャーで取ってくれた人と付き合うんだと言い聞かせた。雪菜は、衝動的に片手にスマホを持って制服のまま、部屋を飛び出した。
近くの公園のブランコに乗った。電灯がぼんやりと光っている。もう、どっぷりと夜がふけていた。雪菜は、スマホにスワイプにして、電話をかけた。コールが鳴り続ける。まだ出ない。ブランコのギーギーという音が鳴る。
仕事帰りの近所の人の漕ぐ自転車が通り過ぎる。
遠くで救急車のサイレンが鳴っていた。東の夜空には満月が輝いていた。