窓から廊下へ日差しが差し込む。東の空ではからすが飛び立っていく。
「ここで話す」
凛汰郎は、緊張しながら、息を吐いた。
雪菜は首をかしげて、凛汰郎を見つめる。
「俺、前から白狼のこと好きだから。それだけ伝えたかった。……まぁ、欲を言えば、付き合えれば良いかなと思ったり……」
口を両手でふさいで、息をのんだ。
「嘘だ。前、嫌いじゃないって、好きでもないって意味だと思ってて」
目から涙が無意識に溢れ出てくる。
そっと凛汰郎が近づいて、人差し指で頬に伝う雪菜の涙をぬぐった。
「白狼の気持ち、聞かせて」
「私も凛汰郎くんが好きです。その言葉だけで終わりにしたくないけど……」
雪菜は、前髪で顔を隠した。恥ずかしすぎて、顔をあげられなかった。さっと、凛汰郎は、手をのばした。
「んじゃ、これからもよろしく」
「う、うん」
「それは、付き合うってことでいいの?」
「え、あ……。どうしよう。恥ずかしすぎて、わからない」
両手で顔を覆った。気持ちを紛らわせようとバックで揺れていた狼のぬいぐるみを手でつかんでみた。
「大事に使ってくれてるんだな」
「え、あ、うん。そう。クマのぬいぐるみと一緒。これ、実際に一緒にいたら、狼に食べられそうだけど……」
少し気持ちが和らいだようで笑みがこぼれた。
「そうだな」
口角を上げて、えくぼを出した。
「……私、もっと凛汰郎くんのこと知りたいな」
「あぁ、俺も白狼のことまだわからないこと多いから」
「お互い初心者ってことだね」
見つめ合って笑い合った。
そのまま2人は昇降口までゆっくりと歩いていた。誰もいない放課後は静かだった。ラウンジのそばの壁によりかかって、まちぶせしていたのは雅俊だった。弓道部の引退セレモニーが化学室で行われることを事前に知っていて、凛汰郎と雪菜が2人きりになることがあることも知っていた。心中穏やかではなかった雅俊は、こちらを気づくことなく、昇降口に向かっている2人を後ろから気づかれないように尾行した。
何があったかは分からないまま、2人はさりげなく手をつないでることを見た雅俊は、ぐっと下唇をかんだ。曲がり角を抜けるまで、何も言葉を発することのない2人。空気感なのか。雰囲気なんか。自然と安らぐ空間を作っているようでとてもじゃないが、その間には入れなかった。雪菜は、凛汰郎と別れを告げた。雅俊と帰る方向が同じになるそのタイミングで、あえて雪菜に声をかけずに追い越して、通行人のように通り過ぎてみた。
はっと気が付いた雪菜は、変な空気を発する雅俊に声を発することができなかった。ごくりとつばを飲み込んだ。これはよろしくないと空気を変えて、振り向き様に雪菜に声をかける。
「どんな顔してるんだよ?」
いつもと違う態度をとられて、ショックだった雪菜は、寂しそうな顔をしていた。
「……」
「何、泣いてるんだよ?」
「だって、雅俊、違う人みたいだった」
「ごめんって。悪かったって。俺がすっごい悪い人になっちゃうから、泣きやめ、な?」
雅俊が突然、泣きじゃくる雪菜の顔をぎゅっとハグした。いつもと違う態度の雅俊にかなりショックを受けたらしい。
体から発する冷たいオーラ。天真爛漫でニコニコする雅俊からは考えられない空気感に耐えられなかった。
「ごめん、マジでごめん。俺、雪菜がほかの別な人にとられるの見たくなくて……。変な態度とった」
「え?」
顔をあげて、雅俊を見た。
「俺、雪菜が好きだから。他と誰かと付き合ってるのとかマジありえないし、むしろ付き合うなら俺とって思ってるし」
「は? 雅俊、彼女いるでしょう」
正気に戻ってきた雪菜。雅俊の告白をさらりとかわそうとする。本人は本気で言ってるつもりだった。
「彼女とは別れた、昨日」
「いや、昨日別れたから、はい、次いいですよじゃないよ?」
「え、いいじゃん。きちんと清算してるんだから」
「そういう意味じゃない。雅俊は今も昔もずっと幼馴染だよ。それ以上でもそれ以下でもない。悪いけど。ごめん」
立ち去ろうとする雪菜の腕をつかんだ。
「んじゃ、さっきの涙はなんだよ? 俺に嫌な態度取られて嫌だったじゃないのか?」
「怖かっただけ。あと、目にゴミ入ったの」
「……目にゴミだ?! そんなの嘘だろ。わけわからねぇな」
そう言いながら、腕を引っ張り、無理やり口づけした。突然のことで状況が読み取れない。雪菜は、袖でぬぐう。
「な?!」
顔を耳まで真っ赤にさせる。バックで雅俊の体をたたいた。
「最低!!!」
雪菜は、口を腕でおさえてイラ立ちを隠せずにその場から足早に立ち去った。雅俊は、腕にバックが当たり、その拍子でバックについていたキーホルダーのぬいぐるみが、側溝に落ちていくのが見えた。泥の中に白い狼のぬいぐるみが入って、かなり汚れていた。雅俊は、雪菜の大事なものだろうと自分のバックの中に入っていた手提げのビニール袋に大切に入れて持ち帰った。
「ここで話す」
凛汰郎は、緊張しながら、息を吐いた。
雪菜は首をかしげて、凛汰郎を見つめる。
「俺、前から白狼のこと好きだから。それだけ伝えたかった。……まぁ、欲を言えば、付き合えれば良いかなと思ったり……」
口を両手でふさいで、息をのんだ。
「嘘だ。前、嫌いじゃないって、好きでもないって意味だと思ってて」
目から涙が無意識に溢れ出てくる。
そっと凛汰郎が近づいて、人差し指で頬に伝う雪菜の涙をぬぐった。
「白狼の気持ち、聞かせて」
「私も凛汰郎くんが好きです。その言葉だけで終わりにしたくないけど……」
雪菜は、前髪で顔を隠した。恥ずかしすぎて、顔をあげられなかった。さっと、凛汰郎は、手をのばした。
「んじゃ、これからもよろしく」
「う、うん」
「それは、付き合うってことでいいの?」
「え、あ……。どうしよう。恥ずかしすぎて、わからない」
両手で顔を覆った。気持ちを紛らわせようとバックで揺れていた狼のぬいぐるみを手でつかんでみた。
「大事に使ってくれてるんだな」
「え、あ、うん。そう。クマのぬいぐるみと一緒。これ、実際に一緒にいたら、狼に食べられそうだけど……」
少し気持ちが和らいだようで笑みがこぼれた。
「そうだな」
口角を上げて、えくぼを出した。
「……私、もっと凛汰郎くんのこと知りたいな」
「あぁ、俺も白狼のことまだわからないこと多いから」
「お互い初心者ってことだね」
見つめ合って笑い合った。
そのまま2人は昇降口までゆっくりと歩いていた。誰もいない放課後は静かだった。ラウンジのそばの壁によりかかって、まちぶせしていたのは雅俊だった。弓道部の引退セレモニーが化学室で行われることを事前に知っていて、凛汰郎と雪菜が2人きりになることがあることも知っていた。心中穏やかではなかった雅俊は、こちらを気づくことなく、昇降口に向かっている2人を後ろから気づかれないように尾行した。
何があったかは分からないまま、2人はさりげなく手をつないでることを見た雅俊は、ぐっと下唇をかんだ。曲がり角を抜けるまで、何も言葉を発することのない2人。空気感なのか。雰囲気なんか。自然と安らぐ空間を作っているようでとてもじゃないが、その間には入れなかった。雪菜は、凛汰郎と別れを告げた。雅俊と帰る方向が同じになるそのタイミングで、あえて雪菜に声をかけずに追い越して、通行人のように通り過ぎてみた。
はっと気が付いた雪菜は、変な空気を発する雅俊に声を発することができなかった。ごくりとつばを飲み込んだ。これはよろしくないと空気を変えて、振り向き様に雪菜に声をかける。
「どんな顔してるんだよ?」
いつもと違う態度をとられて、ショックだった雪菜は、寂しそうな顔をしていた。
「……」
「何、泣いてるんだよ?」
「だって、雅俊、違う人みたいだった」
「ごめんって。悪かったって。俺がすっごい悪い人になっちゃうから、泣きやめ、な?」
雅俊が突然、泣きじゃくる雪菜の顔をぎゅっとハグした。いつもと違う態度の雅俊にかなりショックを受けたらしい。
体から発する冷たいオーラ。天真爛漫でニコニコする雅俊からは考えられない空気感に耐えられなかった。
「ごめん、マジでごめん。俺、雪菜がほかの別な人にとられるの見たくなくて……。変な態度とった」
「え?」
顔をあげて、雅俊を見た。
「俺、雪菜が好きだから。他と誰かと付き合ってるのとかマジありえないし、むしろ付き合うなら俺とって思ってるし」
「は? 雅俊、彼女いるでしょう」
正気に戻ってきた雪菜。雅俊の告白をさらりとかわそうとする。本人は本気で言ってるつもりだった。
「彼女とは別れた、昨日」
「いや、昨日別れたから、はい、次いいですよじゃないよ?」
「え、いいじゃん。きちんと清算してるんだから」
「そういう意味じゃない。雅俊は今も昔もずっと幼馴染だよ。それ以上でもそれ以下でもない。悪いけど。ごめん」
立ち去ろうとする雪菜の腕をつかんだ。
「んじゃ、さっきの涙はなんだよ? 俺に嫌な態度取られて嫌だったじゃないのか?」
「怖かっただけ。あと、目にゴミ入ったの」
「……目にゴミだ?! そんなの嘘だろ。わけわからねぇな」
そう言いながら、腕を引っ張り、無理やり口づけした。突然のことで状況が読み取れない。雪菜は、袖でぬぐう。
「な?!」
顔を耳まで真っ赤にさせる。バックで雅俊の体をたたいた。
「最低!!!」
雪菜は、口を腕でおさえてイラ立ちを隠せずにその場から足早に立ち去った。雅俊は、腕にバックが当たり、その拍子でバックについていたキーホルダーのぬいぐるみが、側溝に落ちていくのが見えた。泥の中に白い狼のぬいぐるみが入って、かなり汚れていた。雅俊は、雪菜の大事なものだろうと自分のバックの中に入っていた手提げのビニール袋に大切に入れて持ち帰った。