昇降口では人だかりができていた。みな、早く帰りたい一心で、靴箱が行列になっている。

「雪菜、今日は何か予定ある?」
「え、緋奈子は明日のために勉強しないの? 明日もテストだよ?」
「……そんなの、知ってるよ。お昼ごはん食べるだけならいいかなと思って誘ってみたんだよ。嫌ならいいけど」
「……そっか。どうしようかな」
「え。なになに。ランチタイム? 俺も仲間に入れてよ」

 後ろから、のぞき込んで入ってきたのは雅俊だった。

「雅俊は、勉強を最優先した方いいんじゃない?」
「それ、どういう意味? 俺にバカって言ってる?」

 雪菜は、緋奈子の腕をつかんでアピールする。

「女子トークにまざってこないでってこと。それくらい読みなさいよ、バカ!!」
「えー-、やっぱりバカって言った」

 後ろから凛汰郎が、雅俊の肩をポンとたたいた。

「なぐさめられたくない!! 平澤先輩にはなぐさめられるの嫌!!」

 ご不満があるようで、文句を言っていた。凛汰郎は笑って、靴を履き替えていた。

「今日もやるんだろ? 徹平が言ってたぞ」
「あ。それはやるけども……」

 なんだかんだ言いつつもスマホのオンラインゲームは雪菜の弟もまざっては一緒に楽しんでいた。

「そしたら、次やるときはてっぺんとるんで頼みますよ?」

「いつも1位取ってるし。足引っ張ってるのはお前だろ?」
「す、すいません」

 ゲームのことになると凛汰郎に頭が上がらない雅俊だった。数時間後、結局は、雪菜は緋奈子と一緒にファミレスで一緒にご飯を食べていた。話す内容は恋バナだったが、まだ進展もないことを言って傷つくのが怖かった。

 うんうんと緋奈子の話だけ聞いていた。緋奈子は満足そうに帰って行った。

 家に着いて、自分の部屋の中、ぼんやりとぐるぐると回るいすに座っていた。

 サンキャッチャーが天井からつるしていて、ゆらゆらと揺れていた。ポロンとライン通知が鳴った。

 凛汰郎から机の上に映ったワイヤレスイヤホンの写真だけを送られてきた。

 きっとお礼を言いたいのだろうと雪菜は、その返事に「どういたしまして」のかわいいスタンプを送った。ただそれだけで元気になれた。
 
 もっと何か送られてくるのかなと思ったら何もないことに少し残念になった。

 
 そうかと思ったら、隣でまたゲームをする声が聞こえてくる。

 最近、徹平がハマっているゲームに凛汰郎が参加していることを知った雪菜は、ゲーム中に話すのを控えた。姉弟の喧嘩する声を凛汰郎に聞かせたくなかった。
 
 隣の部屋でも、声は響く。ヘッドホンをして静かにテスト勉強に集中していた。話しながらやってるなと気づいていながらも目の前のことに集中する。

 ガチャとノックもなしに徹平は入ってくる。

「姉ちゃん!! 平澤先輩すごいだぞ。いつも俺らのチームが第1位にさせてくれんだ。神だ」
『ちょ、徹平、近くに雪菜いるのか?』
 
 雅俊がオンラインの中で話してる。

「いるよ」
『別にアピールしなくても……』
 
 凛汰郎はボソッとつぶやく。

「……」

 雪菜は何も言わずに英語の教科書を読み返している。

「ちぇ、何も反応しないじゃん。戻ろうっと」

『雪菜、何してるん?』
「勉強……。いつもしないのに」
「してるわよ!!」
「うわ、それだけには反応するんだ」
『えらいな。テスト勉強するのか。齋藤、きちんと見習えよ?』
『わかってますよーだ』

 その声を聞きながら、雪菜は勉強を続けた。徹平は自分の部屋に戻っていく。本当は近くにいるみたいで
 ものすごくドキドキしていた。いつ、ボロが出るかそんな不安を抱えていた。

 凛汰郎も本当は、ゲームなんてしないで、電話とかライン、すればよかったのかと少し後悔した。別に付き合っているなんて宣言は
 していないが、近いようで遠い。なんとなく、お互いに心寂しかった。