後ろを気にせずにペデストリアンデッキを歩いて行く。

目的地の雑貨屋デパートの入口に着いてもなお、後ろを向かずにさっさと、エスカレーターを登っていく。
声をかけてとめようとするが、雪菜はあきらめて、そのまま一人歩いて行く。

ハッと後ろを振り向いた凛汰郎は、雪菜がいないことに気づく。
まったく知らない女性が下の段のエスカレーターに乗っていた。
小さなため息をついて、3階の踊り場で待っていた。

雪菜は、下を向いたまま、3階におりる。
声をかけるのも恥ずかしさがあった。

「……悪かった」

顔を横にして、雪菜はふくれっ面になっていた。

「迷子になったら困るから、こうしておこう」

 凛汰郎は、雪菜の右手を自分の左手でつかんで、さらに上の5階フロアに向かった。この瞬間が初めて手をつなぐのが
 初めてだった。無意識に手をつないでる。凛汰郎は雪菜を子どもかのように保護者目線で対応をしていた。
 
 雪菜はそんなふうに思われているなんて思いもしていない。
 でも、目的地って一体どこだったのか。

 頭が働かなくなっていた。

 つないだ手が想像よりも骨骨していて、細い指ひとつひとつが暖かいことになんだか、胸がどきどきと気持ちもホクホクしていた。手汗がかいてないかも気になる。

 「あのさ、ここでいい? ついでに見ていきたいんだけど」

 凛汰郎は、音楽フロアコーナーを指さした。せっかく手をつないでいたのが急に離れて寂しくなった。

「……あ、えっと、うん。あれ、そういや、なんでここに来たんだっけ」
「これ」

 凛汰郎は、自分の耳を指さして、アピールする。

「あ!! ワイヤレスイヤホンだよね。その節は、本当にごめんなさい」

 何度も謝る雪菜は、申し訳なさそうに顔を上げてとジェスチャーする。

「選ぶから、見てよ」
「うん。わかった」

 2人は、縦並びに店の中に入って行った。イヤホンコーナーでは、ワイヤレスイヤホンとコード付きイヤホンといろんな種類のものがあった。

「これいいかもなぁ……」

 商品を手に取り、雪菜に見せる。

「え?!! それはちょっと……。いくら弁償するって言っても高すぎるよ……」

 凛汰郎は反応を見たかったようで、わざとお高いワイヤレスイヤホンを出して見せた。金額は10950円と書かれている。

「嘘に決まってるだろ」
「え……」

 舌をペロッと出す。

「これで勘弁してやる」

 高いイヤホンの隣にあった3000円相当のワイヤレスイヤホンをぽいっと雪菜の両手に渡した。
 ほっと一安心した半面、凛汰郎にこんな茶目っ気あったかなと信じられなかった。

 いつも部活では終始真面目な様子で、違ったいじわるのされ方していたのに、前と違う性格にどぎまぎしていた。

「ちなみにこれより安い商品は、コードつきイヤホンだよね」
「一番安くてその金額が相場だよ。俺が前買ったワイヤレスイヤホンはそれくらいの値段」
「そうなんだね。私が壊してしまったんだから、仕方ない。しっかりと弁償させていだたきます」
「ああ」

 腕を組んでうなずいた。雪菜は凛汰郎から渡された商品をレジカウンターに持って行った。
 本当は壊したものを買ってもらうつもりなんてさらさらなかった。会う口実ができていたため、本来の思いと違う行動をしていた。私服姿で雪菜に会うことは今までなかったため、興味本位もある。

 申し訳ない気持ちを解消するために凛汰郎は何かを企んでいた。

「こちらをお受け取りください」
「あ、どうも」

 無事、雪菜が買ったイヤホンは、凛汰郎の手に渡った。

「これで任務完了だね。よかった」

 雪菜は胸をなでおろした。

「これで許したとは言ってないけどな」
「え?どういうこと」

 目を丸くする雪菜。

「ちょっと、来てほしいんだけど」

 また迷子になると心配した凛汰郎は自然に手をつないでいた。拒否する理由も見つからない雪菜は言う通りに着いて行った。