学校の屋上で、カザミドリが右回りしたかと思えば、左回りしていた。
今日は、風が強く吹いていた。
遠くで、飛行機が雲を作らずに低空飛行していた。彼女を見ていると心が洗われるようだ。教室の席に座り、窓際に座る彼女をいつも見ていた。登校してすぐワイヤレスイヤホンを外して机に置いた瞬間、部屋の空気が変わった。
「雪菜、昨日のドラマ見た? 最後、あんな感じで終わるなんて寂しかった。ライバルの幼馴染と結ばれると
思ったのに!」
高橋緋奈子が登校してすぐの雪菜に声をかける。横にいた酒本美花や、伊藤あゆみの雪菜の周りには、2人の友達が集まっていた。
「えー、私は、あのままの彼氏で良かったと思ったよ。主人公はあの人と結ばれたいんだってわかったもん」
「とか、言って? リアルで、雪菜は幼馴染いるじゃん。雅俊くん」
「幼馴染だからって必ずしも恋愛対象にはならないもの。今、実際付き合ってないし」
「確かに……。そういや、聞いた? 昨日、フラッシュモブみたいに雅俊くん、2年の女子に大人数の前で告白されてたみたいだよ。
なんだっけ。雅俊くんファンクラブに選ばれた人って言ってたよ」
「うっそぉ。それは知らなかった。それ、どうなったの?」
幼馴染でも、告白はどうなったか気になる雪菜。
「なんか、返事はOK出したらしいけど」
「へぇ、そうなんだ。それは、ようござんした」
「えー、雪菜それ何語? うけるー」
「それはよかったねって意味だよ。知らない?」
「知らないよぉ」
いつも、雪菜の周りはにぎわっていた。それを凛汰郎は、遠くから見ていてほほえましかった。まるで保護者目線のよう。
「あ、そうだ」
雪菜はバックを机の脇にかけると、凛汰郎の前に歩き進めた。昨日のことはなかったように話しかける。
「凛汰郎くん、おはよう。弓道部の引退セレモニーのことしっかり聞いてなかったんだけど、いけるの?」
「……行かない。塾あるから」
「……あ、そっか。んじゃ、紗矢ちゃんに伝えておくね」
あっさり食い下がる雪菜がいつもらしくないなと思い、凛汰郎は、声を発した。
「あ、あのさ」
立ち去ろうとする雪菜に手をのばす。
「え、あー、もしかして昨日のこと?」
「え?」
「昨日、一緒に帰るとかって言ってなかった? 私の聞き間違いだったかな」
「……言ってないし」
目を合わせることなくいう。
「そうだっけ。ごめん、聞き間違いで。んじゃ、席、戻るね」
チャイムが鳴り、授業が始まろうとしていた。凛汰郎は、思いと反対なことをいう。
恥ずかしいやプライドが邪魔して話すことができなかった。
誰とも付き合ったことのない凛汰郎にとってハードルが高かった。交際ってなんだろう。
もう部活は引退してしまったし、会うことも授業の教室以外ない。
いつも花がある彼女の斜め後ろから眺めては、微笑んで、アイドルを見ているかのように片思いのまま
動くことができない。雪菜もどうしたらよいかわかなぬまま、毎日を過ごしていた。
◇◇◇
夕日が沈み、真っ暗になった夜、家族団らんで夕食を食べ、お風呂も入り、まったり部屋で休憩していた雪菜は、椅子によりかかってのけぞった。隣の部屋では、いつものように弟の徹平がオンラインゲームを楽しんでいた。耳を澄ますとまさかの雅俊の声もする。聞き耳を立てて、ずっと聞いていると、ゲームをしながら雅俊がものすごい話をして戦っている。
「ちょ、そこのハンドルネーム『よわいですよ』さん、名前と行動が合ってないですよ!」
『うっさいんですけど……。及川、さっきから話してる人どうにかして』
『先輩、本名やめてもらえます? 一応俺にも<ゼウス>っていうハンドルネームあるんですから。な、雅俊。』
『なんでギリシャ神話のゼウスなのかよくわからないんだが……』
「浩平、先輩ってどういうこと? 学校のリアル先輩なの?」
雅俊がゲームをずっとやっていて今更ながら確認する。
『あれ、言ってなかったっけ。先輩は、弓道部の平澤凛汰郎先輩だよ。知らない?』
「げげ、マジで?」
『ちょっと、待て。及川、雅俊って、斎藤雅俊のことか?』
「呼び捨てっすか?」
「え、何、何? もしかして、2人知り合いですか?」
徹平が雅俊にさらりと聞く。
「知り合いも何も、雪菜が入ってた弓道部員だよ」
「へぇ、マジっすか」
『悪い、俺抜けるわ』
凛汰郎は、不機嫌になり、ゲームから回線落ちしようとした。
「ちょっと待ってください。《《平澤先輩》》」
急に丁寧に声をかける雅俊。
『待たないけど』
「せめて、この1ゲームの第1位取ってからにしましょう。
途中で抜けるとペナルティでランクも下がってしまいますよ」
『……わかった』
ランクが下がることはしたくなかった凛汰郎はゲームを続けた。他の2人もため息をついて、安心していた。
雪菜はその声を聴いて、徹平の部屋の扉を少しあけて、のぞき見していた。はっと気づく雅俊。
「徹平、お前の部屋に座敷童がいるぞ」
扉の近くにいる雪菜を指さした。
「うっわ、こわ。ちょっとねえちゃん。入ってくるなよ」
徹平はバタンと扉を閉めた。
「えー--。なんで見ちゃいけないのよ」
扉の向こうの方で雪菜が騒ぐ。
『白狼の声するな。』
「お? 気づきましたか。平澤先輩もといよわいですよさん。なんと、俺は、白狼家の弟の部屋でゲーム中です。いいだろう?」
『な、なに?! あいつに弟いたのか』
「なぁ、まーくん。いいだろうってなんの自慢してるん?」
「え、別に。気にすんなって」
スマホ越しになぜか殺意を感じる雅俊。悪寒がし始めた。
「なんか寒くない?」
「全然」
そのゲームでは、凛汰郎の脅威の殺意も込みで、見事に第1位を獲得した。雪菜は不満になりながら、徹平の部屋の扉の前でずっと話を聞いていた。夜は長く感じられた。
今日は、風が強く吹いていた。
遠くで、飛行機が雲を作らずに低空飛行していた。彼女を見ていると心が洗われるようだ。教室の席に座り、窓際に座る彼女をいつも見ていた。登校してすぐワイヤレスイヤホンを外して机に置いた瞬間、部屋の空気が変わった。
「雪菜、昨日のドラマ見た? 最後、あんな感じで終わるなんて寂しかった。ライバルの幼馴染と結ばれると
思ったのに!」
高橋緋奈子が登校してすぐの雪菜に声をかける。横にいた酒本美花や、伊藤あゆみの雪菜の周りには、2人の友達が集まっていた。
「えー、私は、あのままの彼氏で良かったと思ったよ。主人公はあの人と結ばれたいんだってわかったもん」
「とか、言って? リアルで、雪菜は幼馴染いるじゃん。雅俊くん」
「幼馴染だからって必ずしも恋愛対象にはならないもの。今、実際付き合ってないし」
「確かに……。そういや、聞いた? 昨日、フラッシュモブみたいに雅俊くん、2年の女子に大人数の前で告白されてたみたいだよ。
なんだっけ。雅俊くんファンクラブに選ばれた人って言ってたよ」
「うっそぉ。それは知らなかった。それ、どうなったの?」
幼馴染でも、告白はどうなったか気になる雪菜。
「なんか、返事はOK出したらしいけど」
「へぇ、そうなんだ。それは、ようござんした」
「えー、雪菜それ何語? うけるー」
「それはよかったねって意味だよ。知らない?」
「知らないよぉ」
いつも、雪菜の周りはにぎわっていた。それを凛汰郎は、遠くから見ていてほほえましかった。まるで保護者目線のよう。
「あ、そうだ」
雪菜はバックを机の脇にかけると、凛汰郎の前に歩き進めた。昨日のことはなかったように話しかける。
「凛汰郎くん、おはよう。弓道部の引退セレモニーのことしっかり聞いてなかったんだけど、いけるの?」
「……行かない。塾あるから」
「……あ、そっか。んじゃ、紗矢ちゃんに伝えておくね」
あっさり食い下がる雪菜がいつもらしくないなと思い、凛汰郎は、声を発した。
「あ、あのさ」
立ち去ろうとする雪菜に手をのばす。
「え、あー、もしかして昨日のこと?」
「え?」
「昨日、一緒に帰るとかって言ってなかった? 私の聞き間違いだったかな」
「……言ってないし」
目を合わせることなくいう。
「そうだっけ。ごめん、聞き間違いで。んじゃ、席、戻るね」
チャイムが鳴り、授業が始まろうとしていた。凛汰郎は、思いと反対なことをいう。
恥ずかしいやプライドが邪魔して話すことができなかった。
誰とも付き合ったことのない凛汰郎にとってハードルが高かった。交際ってなんだろう。
もう部活は引退してしまったし、会うことも授業の教室以外ない。
いつも花がある彼女の斜め後ろから眺めては、微笑んで、アイドルを見ているかのように片思いのまま
動くことができない。雪菜もどうしたらよいかわかなぬまま、毎日を過ごしていた。
◇◇◇
夕日が沈み、真っ暗になった夜、家族団らんで夕食を食べ、お風呂も入り、まったり部屋で休憩していた雪菜は、椅子によりかかってのけぞった。隣の部屋では、いつものように弟の徹平がオンラインゲームを楽しんでいた。耳を澄ますとまさかの雅俊の声もする。聞き耳を立てて、ずっと聞いていると、ゲームをしながら雅俊がものすごい話をして戦っている。
「ちょ、そこのハンドルネーム『よわいですよ』さん、名前と行動が合ってないですよ!」
『うっさいんですけど……。及川、さっきから話してる人どうにかして』
『先輩、本名やめてもらえます? 一応俺にも<ゼウス>っていうハンドルネームあるんですから。な、雅俊。』
『なんでギリシャ神話のゼウスなのかよくわからないんだが……』
「浩平、先輩ってどういうこと? 学校のリアル先輩なの?」
雅俊がゲームをずっとやっていて今更ながら確認する。
『あれ、言ってなかったっけ。先輩は、弓道部の平澤凛汰郎先輩だよ。知らない?』
「げげ、マジで?」
『ちょっと、待て。及川、雅俊って、斎藤雅俊のことか?』
「呼び捨てっすか?」
「え、何、何? もしかして、2人知り合いですか?」
徹平が雅俊にさらりと聞く。
「知り合いも何も、雪菜が入ってた弓道部員だよ」
「へぇ、マジっすか」
『悪い、俺抜けるわ』
凛汰郎は、不機嫌になり、ゲームから回線落ちしようとした。
「ちょっと待ってください。《《平澤先輩》》」
急に丁寧に声をかける雅俊。
『待たないけど』
「せめて、この1ゲームの第1位取ってからにしましょう。
途中で抜けるとペナルティでランクも下がってしまいますよ」
『……わかった』
ランクが下がることはしたくなかった凛汰郎はゲームを続けた。他の2人もため息をついて、安心していた。
雪菜はその声を聴いて、徹平の部屋の扉を少しあけて、のぞき見していた。はっと気づく雅俊。
「徹平、お前の部屋に座敷童がいるぞ」
扉の近くにいる雪菜を指さした。
「うっわ、こわ。ちょっとねえちゃん。入ってくるなよ」
徹平はバタンと扉を閉めた。
「えー--。なんで見ちゃいけないのよ」
扉の向こうの方で雪菜が騒ぐ。
『白狼の声するな。』
「お? 気づきましたか。平澤先輩もといよわいですよさん。なんと、俺は、白狼家の弟の部屋でゲーム中です。いいだろう?」
『な、なに?! あいつに弟いたのか』
「なぁ、まーくん。いいだろうってなんの自慢してるん?」
「え、別に。気にすんなって」
スマホ越しになぜか殺意を感じる雅俊。悪寒がし始めた。
「なんか寒くない?」
「全然」
そのゲームでは、凛汰郎の脅威の殺意も込みで、見事に第1位を獲得した。雪菜は不満になりながら、徹平の部屋の扉の前でずっと話を聞いていた。夜は長く感じられた。