試合会場はざわついていた。とうに試合が終わった男子団体メンバーは観客席に移動していた。
電子掲示板に第1射場の女子団体の文字が書かれている。始めという合図とともにアナウンスの声が響いた。
「女子団体 第1射場 T高校
大前 白狼 雪菜 選手
弐的 菊地 紗矢 選手
中 楠木 彩絵 選手
落ち前 大岡 美咲 選手
落 日下 真緒 選手」
それぞれの射場で順番に弓に矢を固定していく。会場全体は、とても静かになっていて、息をのむ瞬間だった。雪菜から、まずは第1射放たれた。的に中った瞬間に「やー」と言ったかけ声が響く。中らなければずっと静かになる。競技する時間はみな、終始緊張していた。
龍弥と菜穂は、ルールを理解していてもやーと言うかけ声をすることはせず、ただただ見守っていた。
大前 4中/4射
弐的 3中/4射
中 3中/4射
落ち前 3中/4射
落ち 2中/4射
女子団体の結果は15中/20射でなかなかの好成績だった。
雪菜はすべて的中していて満足そうな顔をしていた。
団体試合を終えて、これから個人戦の準備という中、観客席で水分補給をする凛汰郎を見つけ雪菜は、駆け寄った。
「お疲れ様。男子団体、残念だったね。でも、午後の個人戦は、凛汰郎くんがきっと勝ち進むね。昨年は、準優勝まで行けたから今年はきっと……」
胸元でガッツポーズをして、話していると急に凛汰郎は、雪菜の顔に手を伸ばした。何も言わずに近づいてくるので、ドキッとした。
「髪、食ってる」
頬に伸びていたおくれ毛が口もとに来ていたらしく、手でよけてくれた。
「あ、ごめん。ありがとう。全然、気づかなかった」
恥ずかしすぎて、目も合わせられない。凛汰郎はなんてことない顔をしている。
「女子団体は、惜しかったな。第4位ってさっき聞いた。S高校は今年も強かったみたいだな」
はっと気持ちを切り替えて、いつもの顔に戻る。
「無理無理。あそこ、パーフェクトだったみたいだからいくら好成績でも太刀打ちできないよ。1年生も足並み揃えて試合に出てくれただけでも助かるよ。良い経験だった」
「雪菜先輩! 個人戦の会場に行きますよぉ」
階段の踊り場近くで叫ぶ紗矢がいた。雪菜は振り向いて、手を振った。
「ごめん! 今、行く。んじゃ、凛汰郎くん、頑張ってね」
「ああ」
凛汰郎も荷物を持ち、試合会場へ移動した。個人戦は、男子女子のそれぞれの会場に移動して、一人8射を競い合う。10名ほど1列に並んで次々に矢を引いていく。的に中るたびに「やー」と声が上がる。
凛汰郎は8射のすべての矢が中り、上位決定戦の試合までこぎつけた。
同校の他の男子部員は、2年の及川浩平8射をすべて的に中てられた。他の部員は何射かをミスをしてしまい、脱落していた。上位決定戦は、同じ高校の対決になってしまった。
上位3名の決定戦は、3年 平澤凛汰郎と2年 及川浩平とS高校の3年 斎藤陸翔《さいとうりくと》との勝負だった。この試合では、1人4射放つ。感情を押し殺し、目の前の的だけに集中して、1つ1つの矢を引いた。静けさを増す。
平澤 凛汰郎 ○○○○ 4中/4射
及川 浩平 ○○×× 2中/4射
斎藤 陸翔 ○○○× 3中/4射
結果として、男子個人戦は凛汰郎が優勝した。会場で拍手が沸き起こっていた。続いて、女子の個人戦が行われた。T高校の女子が並び、S高校の女子も横に並んでいた。雪菜は一番端で準備していた。
龍弥と菜穂は息をのんで、動画を撮り続けていた。深呼吸してから、1本1本の矢に気持ちを込めた。矢を引いた瞬間にビュンと風が吹いた。8射をすべて、いつも通りに邪念を消して、ど真ん中に打つことができていた。
観客席から、手すりに手をつけて、凛汰郎も真剣に雪菜の競技を見つめた。
上位3位決定戦では、全部が他校で、残念なことに後輩たちは、すべて中てることができなかった。今度は強豪校のS高校が2人も参戦していた。
S高校 2年 中川 桜 ○○×× 2中/4射
S高校 3年 庄司 優月 ○○○○ 2中/4射
N高校 3年 白狼 雪菜 ○○○× 3中/4射
というような試合結果になり、惜しくも雪菜は、準優勝となった。
男子個人でトロフィと賞状を獲得し、雪菜は賞状を獲得できた。
試合を団体戦と個人戦、結果発表とすべて、終えて、部員たちが出入り口付近で荷物をまとめていると、雪菜の両親が声をかけた。
「雪菜、試合、お疲れさま。頑張ったわね」
「よく頑張ったな」
「お父さん、お母さん。見てたんだね。うん。賞状もらったから、最後の試合に満足してるよ」
3人で話していると、横から顧問のいろはが声をかけた。
「お兄、来てたんね」
「おう。お疲れ」
「いろはちゃん。お疲れ様。元気にしてた?」
菜穂は、久しぶりに会ういろはを見て背中をポンっとさすった。
「菜穂ちゃん。元気よ。試合、雪菜、参加できて本当よかったね。事故に遭ったときはどうしようと思ったよ。3年生だし、これ出なかったら絶対悔い残るって思ってたから」
腰に両手をあてて、安心するいろは。
「おかげさまで、先生の励ましがあったから試合に出れました。ありがとうございます。悔いはないです」
「先輩? 先生と雪菜先輩のお父さんってご兄妹なの?」
紗矢は横から雪菜に話しかけた。
「紗矢ちゃん。そうなの。お父さんと先生は実の兄妹なの。ごめんね、親戚絡みで」
「白狼、バスの発車時間過ぎてるぞ?」
凛汰郎が雪菜に声をかけた。
「え、うそ、それは大変だ。んじゃ、お父さんたちあとでね」
「車乗ってってもいいだぞ」
「だめ、わたし、部長だから!!」
慌てて、部員たちとともにバスに乗り込んでいく。責任感強いんだなと感心する龍弥だった。試合でかなり疲れたらしく、凛汰郎の左肩をいつの間にか借りいて、頭をのせて寝ていた。
凛汰郎は、雪菜の頭を調整しながら、緊張しすぎて、眠りにつくのは不可能だった。
目のやり場にも困りながら、学校に着くのはいつだろうと考えた。
もう少し時間が止まってくれたらいいのにと願った。
空はオレンジ色の夕日に照れされて、カラスが鳴き続けていた。
電子掲示板に第1射場の女子団体の文字が書かれている。始めという合図とともにアナウンスの声が響いた。
「女子団体 第1射場 T高校
大前 白狼 雪菜 選手
弐的 菊地 紗矢 選手
中 楠木 彩絵 選手
落ち前 大岡 美咲 選手
落 日下 真緒 選手」
それぞれの射場で順番に弓に矢を固定していく。会場全体は、とても静かになっていて、息をのむ瞬間だった。雪菜から、まずは第1射放たれた。的に中った瞬間に「やー」と言ったかけ声が響く。中らなければずっと静かになる。競技する時間はみな、終始緊張していた。
龍弥と菜穂は、ルールを理解していてもやーと言うかけ声をすることはせず、ただただ見守っていた。
大前 4中/4射
弐的 3中/4射
中 3中/4射
落ち前 3中/4射
落ち 2中/4射
女子団体の結果は15中/20射でなかなかの好成績だった。
雪菜はすべて的中していて満足そうな顔をしていた。
団体試合を終えて、これから個人戦の準備という中、観客席で水分補給をする凛汰郎を見つけ雪菜は、駆け寄った。
「お疲れ様。男子団体、残念だったね。でも、午後の個人戦は、凛汰郎くんがきっと勝ち進むね。昨年は、準優勝まで行けたから今年はきっと……」
胸元でガッツポーズをして、話していると急に凛汰郎は、雪菜の顔に手を伸ばした。何も言わずに近づいてくるので、ドキッとした。
「髪、食ってる」
頬に伸びていたおくれ毛が口もとに来ていたらしく、手でよけてくれた。
「あ、ごめん。ありがとう。全然、気づかなかった」
恥ずかしすぎて、目も合わせられない。凛汰郎はなんてことない顔をしている。
「女子団体は、惜しかったな。第4位ってさっき聞いた。S高校は今年も強かったみたいだな」
はっと気持ちを切り替えて、いつもの顔に戻る。
「無理無理。あそこ、パーフェクトだったみたいだからいくら好成績でも太刀打ちできないよ。1年生も足並み揃えて試合に出てくれただけでも助かるよ。良い経験だった」
「雪菜先輩! 個人戦の会場に行きますよぉ」
階段の踊り場近くで叫ぶ紗矢がいた。雪菜は振り向いて、手を振った。
「ごめん! 今、行く。んじゃ、凛汰郎くん、頑張ってね」
「ああ」
凛汰郎も荷物を持ち、試合会場へ移動した。個人戦は、男子女子のそれぞれの会場に移動して、一人8射を競い合う。10名ほど1列に並んで次々に矢を引いていく。的に中るたびに「やー」と声が上がる。
凛汰郎は8射のすべての矢が中り、上位決定戦の試合までこぎつけた。
同校の他の男子部員は、2年の及川浩平8射をすべて的に中てられた。他の部員は何射かをミスをしてしまい、脱落していた。上位決定戦は、同じ高校の対決になってしまった。
上位3名の決定戦は、3年 平澤凛汰郎と2年 及川浩平とS高校の3年 斎藤陸翔《さいとうりくと》との勝負だった。この試合では、1人4射放つ。感情を押し殺し、目の前の的だけに集中して、1つ1つの矢を引いた。静けさを増す。
平澤 凛汰郎 ○○○○ 4中/4射
及川 浩平 ○○×× 2中/4射
斎藤 陸翔 ○○○× 3中/4射
結果として、男子個人戦は凛汰郎が優勝した。会場で拍手が沸き起こっていた。続いて、女子の個人戦が行われた。T高校の女子が並び、S高校の女子も横に並んでいた。雪菜は一番端で準備していた。
龍弥と菜穂は息をのんで、動画を撮り続けていた。深呼吸してから、1本1本の矢に気持ちを込めた。矢を引いた瞬間にビュンと風が吹いた。8射をすべて、いつも通りに邪念を消して、ど真ん中に打つことができていた。
観客席から、手すりに手をつけて、凛汰郎も真剣に雪菜の競技を見つめた。
上位3位決定戦では、全部が他校で、残念なことに後輩たちは、すべて中てることができなかった。今度は強豪校のS高校が2人も参戦していた。
S高校 2年 中川 桜 ○○×× 2中/4射
S高校 3年 庄司 優月 ○○○○ 2中/4射
N高校 3年 白狼 雪菜 ○○○× 3中/4射
というような試合結果になり、惜しくも雪菜は、準優勝となった。
男子個人でトロフィと賞状を獲得し、雪菜は賞状を獲得できた。
試合を団体戦と個人戦、結果発表とすべて、終えて、部員たちが出入り口付近で荷物をまとめていると、雪菜の両親が声をかけた。
「雪菜、試合、お疲れさま。頑張ったわね」
「よく頑張ったな」
「お父さん、お母さん。見てたんだね。うん。賞状もらったから、最後の試合に満足してるよ」
3人で話していると、横から顧問のいろはが声をかけた。
「お兄、来てたんね」
「おう。お疲れ」
「いろはちゃん。お疲れ様。元気にしてた?」
菜穂は、久しぶりに会ういろはを見て背中をポンっとさすった。
「菜穂ちゃん。元気よ。試合、雪菜、参加できて本当よかったね。事故に遭ったときはどうしようと思ったよ。3年生だし、これ出なかったら絶対悔い残るって思ってたから」
腰に両手をあてて、安心するいろは。
「おかげさまで、先生の励ましがあったから試合に出れました。ありがとうございます。悔いはないです」
「先輩? 先生と雪菜先輩のお父さんってご兄妹なの?」
紗矢は横から雪菜に話しかけた。
「紗矢ちゃん。そうなの。お父さんと先生は実の兄妹なの。ごめんね、親戚絡みで」
「白狼、バスの発車時間過ぎてるぞ?」
凛汰郎が雪菜に声をかけた。
「え、うそ、それは大変だ。んじゃ、お父さんたちあとでね」
「車乗ってってもいいだぞ」
「だめ、わたし、部長だから!!」
慌てて、部員たちとともにバスに乗り込んでいく。責任感強いんだなと感心する龍弥だった。試合でかなり疲れたらしく、凛汰郎の左肩をいつの間にか借りいて、頭をのせて寝ていた。
凛汰郎は、雪菜の頭を調整しながら、緊張しすぎて、眠りにつくのは不可能だった。
目のやり場にも困りながら、学校に着くのはいつだろうと考えた。
もう少し時間が止まってくれたらいいのにと願った。
空はオレンジ色の夕日に照れされて、カラスが鳴き続けていた。