木の上で鳩が休んでいた。鳩の鳴き声が学校の中庭で響いていた。木で作られていた渡り廊下を弓道部の数名の生徒たちがキャッキャと騒ぎながら歩いていた。やっとケガが治って学校が解禁となった雪菜が部活に来るというを聞いていた後輩たちは喜んでいた。
部長がいないと部活動自体が成り立たないということがわかる。部長の雪菜がいない間はどうしていたかと言うと、代わりに凛汰郎が副部長として担っていたが、役割は果たしていなかった。部活に来ては、お辞儀をして挨拶したかと思ったら、すぐに矢を引きに行き、部員たちは基本放置して、それぞれやってくれというような雰囲気。3人同時に矢を引く射場があるのだが、凛汰郎はずっと端っこで独占して稽古していた。残りの部員たちは2箇所の射場を交代で稽古していた。凛汰郎はすべて黙ってこなしていくため、部員たちからクレームが上がっていた。
コミニュケーションがとにかく苦手の凛汰郎は行動や仕草を見せればすぐわかるだろうと浅はかな考えでいた。それはよろしくないと2年の菊地紗矢は、顧問の白狼いろはに相談した。職員室にて、いろはと紗矢は話していた。
「菊地、ごめんね。すぐに部活に顔出せればいいんだけど、こっちの業務も残ってて、どうした?」
「実は、雪菜先輩がお休みになってから部活の雰囲気が最悪なんです。先生、どうにかしてもらえます?」
「え、なんだって。もしかして、副部長の平澤の影響?」
「そうです。あんなに雪菜先輩に部長かわるかとか言ってる割に全然部活のこと考えていないんですよ、平澤先輩。自分だけずっと稽古して、ずるいんです。1人で何本矢を使う気なんだか……」
腕組みして、ため息をつく。
「えっと、ちょっと待って、一応は部活の決まりで1日何射までって決めてなかったかな。それ以上1人で練習してるの?」
「雪菜先輩休みになって、いなくなってからずっと、独占して同じ場所で黙々と……。後輩はどうするかとか考えてくれてないんです」
「コミニュケーションは苦手だろうなっていうのは知ってたけど、それほどまでに……。副部長にしたのは、3年が雪菜と平澤しかいないからなんだけどなぁ。よし、今日はこっちの仕事諦めて、部活に行くから。菊地は先に行っててくれない? 追いかけるから」
いろはは、席を立ち、引き出しに入れておいた帽子を頭に被った。
「わかりました。よろしくお願いします」
***
凛汰郎は、相変わらず、ずっと1人で矢を引いていた。数なんて数えずにとにかく、的を中央に射ることだけ考えて、目を酷使しながら、やり続けていると、校舎側から顧問のいろはと、菊地紗矢が弓道場に入った。殺気立っていたため、恐れていた後輩たちは端っこの方で見学をしていた。
「みんなお疲れ様〜。ちょっと話あるから、集合してもらえる?」
いろはのかけ声で、凛汰郎はハッと気づき、集合と叫んだ。弓道着を着てた部員たちが、いろはを中心に集まってきた。
「よろしくお願いします」
と副部長の凛汰郎が声掛けすると、みんなも続けて挨拶した。
「今、部長の雪菜がけがで休んでる訳だけど、代わりに副部長である平澤に役割を頼んでる訳なのね。ちょっと、相談受けたんだけど、部活動としてはよろしくない雰囲気だと聞いたけど、平澤何かある?」
「あー、すいません。稽古中、ずっと1人独占で矢を引いてました。納得のいく矢を引けば、参考にしてもらえると思いまして……」
「あー、ごめん。平澤、そのことを部員たちに説明してたのかな」
「……いえ。何も言ってません」
「そっか、何も言ってないのね。それでみんな誤解してるのよ。きちんと会話しよう。雪菜と平澤のやり方が違うのはわかるけど、混乱を招くからわからないことあったら、すぐに私に聞きに来て」
「そうですそうです!! しかも、平澤先輩ずっと同じ場所で、私たちばかり2つの射場をローテーションしてたので練習量が足りません。もうすぐ、新人戦あるのに……」
1年の楠木彩絵が叫んだ。鬱憤がたまっていたようだ。
「あ……」
やっと自分がやっていたことに気づいた凛汰郎は、居た堪れなくなった。
「そうだね。新人戦近いから、1年にたくさん練習させないと成績が上がらないね。んじゃ、ここから切り替えて、3つの射場でローテーションして、練習してもらっていいかな。あと、弓道は矢を的にあてることももちろん大事なんだけど、姿勢とか放つまでの工程とかが重要だからそこもしっかり練習してね。基本ルールの射法八節ね。忘れないように、ね! 平澤くん!」
いろはは、凛汰郎の肩を軽く叩いた。副部長として、役割を果たせないと感じた凛汰郎は、不機嫌になり、突然帰る支度を始めた。
「ちょ、ちょっと、平澤くん。何、帰ろうとしてるの?」
「俺、無理です。帰ります。新人戦の練習の邪魔しては悪いので、帰ります」
テキパキと荷物をまとめて、深々と姿勢良くお辞儀しては、更衣室の方へ行ってしまった。止める暇もなかった。
「先生、平澤先輩、帰ってしまいましたね」
「全く、これだから、雪菜いないと何もできないね。あの人は」
両手を腰にあてて、ため息をつく。
「え、そうなんですか? 平澤先輩が?」
「なんだかんだ言って、あの2人は、一緒にいて調和するっていうかバランス良いのよね。相性が良くないようにして、実は良かったりして? でも、みんな安心して。来週、雪菜が復活するから。まだ、弓道着は着れないけど、見学しながら、みんなの指導に入ってくれるから」
「本当ですか!? 楽しみです」
「それは嬉しいです」
他の部員たちも喜んでいた。一瞬空気がはなやいだ。
「もう、何だか今日は、しっくり来ないだろうからこれで終わりでいいよ。菊地、代わりに部員をまとめてくれる?」
「わかりました。それじゃ、後片付けしましょう!」
「はーい」
菊地に部長の仕事は任された。弓道場はさっきの殺気立った雰囲気から一気に柔らかくなった。部長が代わるだけでかなり空気感が違う。凛汰郎は想像以上に傷ついていた。役割を果たせなかったこととプライドがズタボロに崩れた。あんなに意気込んで雪菜に部長を代わると言ってた自分が情けなくなった。
部長がいないと部活動自体が成り立たないということがわかる。部長の雪菜がいない間はどうしていたかと言うと、代わりに凛汰郎が副部長として担っていたが、役割は果たしていなかった。部活に来ては、お辞儀をして挨拶したかと思ったら、すぐに矢を引きに行き、部員たちは基本放置して、それぞれやってくれというような雰囲気。3人同時に矢を引く射場があるのだが、凛汰郎はずっと端っこで独占して稽古していた。残りの部員たちは2箇所の射場を交代で稽古していた。凛汰郎はすべて黙ってこなしていくため、部員たちからクレームが上がっていた。
コミニュケーションがとにかく苦手の凛汰郎は行動や仕草を見せればすぐわかるだろうと浅はかな考えでいた。それはよろしくないと2年の菊地紗矢は、顧問の白狼いろはに相談した。職員室にて、いろはと紗矢は話していた。
「菊地、ごめんね。すぐに部活に顔出せればいいんだけど、こっちの業務も残ってて、どうした?」
「実は、雪菜先輩がお休みになってから部活の雰囲気が最悪なんです。先生、どうにかしてもらえます?」
「え、なんだって。もしかして、副部長の平澤の影響?」
「そうです。あんなに雪菜先輩に部長かわるかとか言ってる割に全然部活のこと考えていないんですよ、平澤先輩。自分だけずっと稽古して、ずるいんです。1人で何本矢を使う気なんだか……」
腕組みして、ため息をつく。
「えっと、ちょっと待って、一応は部活の決まりで1日何射までって決めてなかったかな。それ以上1人で練習してるの?」
「雪菜先輩休みになって、いなくなってからずっと、独占して同じ場所で黙々と……。後輩はどうするかとか考えてくれてないんです」
「コミニュケーションは苦手だろうなっていうのは知ってたけど、それほどまでに……。副部長にしたのは、3年が雪菜と平澤しかいないからなんだけどなぁ。よし、今日はこっちの仕事諦めて、部活に行くから。菊地は先に行っててくれない? 追いかけるから」
いろはは、席を立ち、引き出しに入れておいた帽子を頭に被った。
「わかりました。よろしくお願いします」
***
凛汰郎は、相変わらず、ずっと1人で矢を引いていた。数なんて数えずにとにかく、的を中央に射ることだけ考えて、目を酷使しながら、やり続けていると、校舎側から顧問のいろはと、菊地紗矢が弓道場に入った。殺気立っていたため、恐れていた後輩たちは端っこの方で見学をしていた。
「みんなお疲れ様〜。ちょっと話あるから、集合してもらえる?」
いろはのかけ声で、凛汰郎はハッと気づき、集合と叫んだ。弓道着を着てた部員たちが、いろはを中心に集まってきた。
「よろしくお願いします」
と副部長の凛汰郎が声掛けすると、みんなも続けて挨拶した。
「今、部長の雪菜がけがで休んでる訳だけど、代わりに副部長である平澤に役割を頼んでる訳なのね。ちょっと、相談受けたんだけど、部活動としてはよろしくない雰囲気だと聞いたけど、平澤何かある?」
「あー、すいません。稽古中、ずっと1人独占で矢を引いてました。納得のいく矢を引けば、参考にしてもらえると思いまして……」
「あー、ごめん。平澤、そのことを部員たちに説明してたのかな」
「……いえ。何も言ってません」
「そっか、何も言ってないのね。それでみんな誤解してるのよ。きちんと会話しよう。雪菜と平澤のやり方が違うのはわかるけど、混乱を招くからわからないことあったら、すぐに私に聞きに来て」
「そうですそうです!! しかも、平澤先輩ずっと同じ場所で、私たちばかり2つの射場をローテーションしてたので練習量が足りません。もうすぐ、新人戦あるのに……」
1年の楠木彩絵が叫んだ。鬱憤がたまっていたようだ。
「あ……」
やっと自分がやっていたことに気づいた凛汰郎は、居た堪れなくなった。
「そうだね。新人戦近いから、1年にたくさん練習させないと成績が上がらないね。んじゃ、ここから切り替えて、3つの射場でローテーションして、練習してもらっていいかな。あと、弓道は矢を的にあてることももちろん大事なんだけど、姿勢とか放つまでの工程とかが重要だからそこもしっかり練習してね。基本ルールの射法八節ね。忘れないように、ね! 平澤くん!」
いろはは、凛汰郎の肩を軽く叩いた。副部長として、役割を果たせないと感じた凛汰郎は、不機嫌になり、突然帰る支度を始めた。
「ちょ、ちょっと、平澤くん。何、帰ろうとしてるの?」
「俺、無理です。帰ります。新人戦の練習の邪魔しては悪いので、帰ります」
テキパキと荷物をまとめて、深々と姿勢良くお辞儀しては、更衣室の方へ行ってしまった。止める暇もなかった。
「先生、平澤先輩、帰ってしまいましたね」
「全く、これだから、雪菜いないと何もできないね。あの人は」
両手を腰にあてて、ため息をつく。
「え、そうなんですか? 平澤先輩が?」
「なんだかんだ言って、あの2人は、一緒にいて調和するっていうかバランス良いのよね。相性が良くないようにして、実は良かったりして? でも、みんな安心して。来週、雪菜が復活するから。まだ、弓道着は着れないけど、見学しながら、みんなの指導に入ってくれるから」
「本当ですか!? 楽しみです」
「それは嬉しいです」
他の部員たちも喜んでいた。一瞬空気がはなやいだ。
「もう、何だか今日は、しっくり来ないだろうからこれで終わりでいいよ。菊地、代わりに部員をまとめてくれる?」
「わかりました。それじゃ、後片付けしましょう!」
「はーい」
菊地に部長の仕事は任された。弓道場はさっきの殺気立った雰囲気から一気に柔らかくなった。部長が代わるだけでかなり空気感が違う。凛汰郎は想像以上に傷ついていた。役割を果たせなかったこととプライドがズタボロに崩れた。あんなに意気込んで雪菜に部長を代わると言ってた自分が情けなくなった。