雪菜が入院して、1ヶ月が過ぎた。
理学療法士のリハビリの指導を
熱心に受け続け、どうにか松葉杖を
使って歩けるようになった。
無事、退院もできて、久しぶりの自宅に帰ることができた。玄関のドアを開けて、両手を広げた。
「ただいまぁ〜。我が家」
後ろから父の龍弥が大きな荷物を抱えて、中に入る。ドサっと荷物を置いた。
「はいはい。おかえりなさい。雪菜、まだ誰も帰ってないよ?」
「え、そうなの?」
「今日、徹平は部活で遅くなるっていうし、母さんは残業だってさ」
「えーー、そうなんだ。でも、よく休み取れたね。お父さん」
「2週間前から、無理言って、有給消化させてもらったんだよ。娘が退院するからって!」
雪菜の頭を軽くポンポンとたたいた。
「あ、ありがとう」
「まぁ、親の役目ですからぁ? いいんだけどね。ほら、リビングに行ったら?」
「あ、うん」
雪菜は靴を脱いだあと、まだ慣れない松葉杖を使って歩いた。
「やっぱり、我が家は1番だよね。私がいない間、みんな寂しかったんじゃないの?」
「いや、あんまり変わりないよ? 徹平はヘッドホン無しでゲームし放題だって喜んでたし、母さんは何も言ってなかったけどな。
俺は、いつも通り仕事だしなぁ」
「え、ええええー。そこ本当のこと言っちゃうの?」
「あ、すまん。何も無くて……」
「お父さん、そうじゃなくてぇ。私がいないと何とかって……」
「あ、そうだなぁ。雪菜がいないと花が無いな。あと、締まりが無いっていうか。いつも徹平にツッコミするだろ。それが無くて、母さんに怒られて嫌な雰囲気になることはしばしばあったかな?」
「そうそう、そういうの聞きたかった」
「……はいはい。それは良かったですね」
龍弥は、ビニール袋から買い出ししてきた今日の夕ご飯用の食材を台所に出し始めた。
「ご飯だけど、適当にチャーハンとか餃子で良いか? 母さん、今日帰りで遅いって言うからさ」
「うん。なんでもいいよ。食べられるなら。お父さん、作れる?」
「おう。それくらいなら作れるさ。ほれ、お茶でも飲んで休んでおけ」
ペットボトルの緑茶を食卓に出す。雪菜は、ありがたく受け取って飲み始めた。フライパンのジューと音が聞こえてくる。
「ねぇ、お父さん。私、いつから学校通うんだっけ」
「今日が金曜日だから、来週の月曜日でいいんじゃないか? 杉本先生に連絡して聞いてたから大丈夫だ。しばらくは車で送迎するし、授業は受けておかないと単位取れなくなるしな」
包丁がトントンと軽快に聞こえてきた。手際よく料理始めた。冷蔵庫の中にあったしらすとキャベツを切って醤油などの調味料を入れて炒飯を作った。生姜ニンニクたっぷり入った挽肉を合わせ調味料で絡めたものを丸い餃子の皮にささっと包んでいく。フライパンに少量のお湯を入れて、餃子を蒸しながら火を通していく。
「よしこんなものかな。中華メニュー完成ね。さてと、雪菜の荷物片付けておくわ。母さんと徹平があと少しで帰ってくるからな、みんなで一緒に食べるか」
「そうだね。んじゃ、ゆっくりさせてもらうよ」
そう言ったが先か、玄関が大きな音を立てて開いた。
「こんばんはーーー。雪菜っちいますか??」
隣の家に住んでいる齋藤雅俊がやってきた。
「おお、なんだ。雅俊か。どうした? 雪菜、今日退院したところだぞ」
「おじさん。こんばんは。知ってて、来ちゃいましたよん。入っていいっすか?」
「どーぞ」
龍弥は別室で雪菜の洗濯物などの片付けに追われていた。雅俊はささっとリビングに入っていく。
「お邪魔しまーす」
「げっ!? 雅俊? 何しに来てるの?」
「げって、何さ。失礼だなぁ。退院祝いに、シャインマスカット届けに来たんだよぉ。あと、もう一つ、オーロラブラックっていう高級な品種も入ってるよん」
「あ、あー、わざわざありがとう。ブドウ類は好きだから嬉しいかなぁ。って、なんで、私が退院するって知ってるのよ」
「……ふふふ。なぜでしょう?」
「えー」
「教えてあげないよ。でも、雪菜の元気そうな顔見れたから元気出たわ」
雅俊はひらひらと手を振って、部屋を出ようとすると、母の菜穂が帰ってきた。
「ただいまぁ。あれ、雅俊くん、久しぶりね。雪菜に会いに来たのね。今日退院だから喜んでたんじゃない?」
「お母さん、ちょっとそれは語弊があるわ。喜ばないよ、別に私」
松葉杖をついて玄関まで歩いてきた。
「なんだ、雪菜、いたんじゃない。おかえり。何よ、小学生の頃、雅俊くん来ただけですごく喜んでたくせに、今は全然なの?」
「ちょっと待って、いつの話? 今、私、高校生だよ? そんな喜ぶわけないじゃない。犬じゃないんだから」
「えーー、喜んでもいいんだよ? 犬みたいじゃん、俺。ワンっ!」
雅俊は犬の鳴き真似をしてみせた。
「はいはい。そういうの良いから」
「おばさん、すいません。退院祝いに果物のブドウを持ってきましたんで、みなさんで召し上がってくださいね」
リビングの方を指さして、雅俊は玄関のドアを開けた。すると同時に徹平が帰ってきた。
「ただいまー。あれ、まーくん、来てたのね。久しぶりぃ〜。」
2人はグータッチで再会を喜んだ。
「てっちゃん、お久しぃ。今度、オンラインゲームしようぜ」
「マジで?! いや、あとででもいいよ。ちょっとゲームのIDとか教えてくんねぇ? ちょっと待ってスマホ今出すから」
徹平は慌てて、ズボンのポケットからスマホを取り出した。
「嘘、てっちゃんもゲームしてたん? 俺、ナイズドアクトって言うのやってるんだけど、知ってる?」
「マジで? 俺もやってたよ。テンション上がる!! ID送るから、ちょっとフルフルしてよ」
「おぅ。今、出すわ。ほい、まずはライン交換っと……」
「……ちょ、ちょっと2人で何盛り上がってるの?」
横から雪菜が声をかける。ゲームの話に2人は盛り上がっていた。話を全然聞いていない。
「今、ID送ったから、検索にかけてね」
「了解っす。んじゃ、22時くらいによろしくっす」
「うっしゃ、よろしく。んじゃ、またな。それじゃ、雪菜、お大事に。来週、学校でな」
敬礼するように挨拶すると立ち去る雅俊。帰ってきたばかりの徹平はスマホを見ながら、鼻息を荒くして興奮していた。
「何やってるんだ?」
龍弥が後ろから徹平のスマホの画面を覗く。
「まーくんも、このオンラインバトルロワイヤルのゲームやってるって言うからさ、今、ID教えてもらったんだよ。すっげ、楽しみぃ」
「あー、バトロワね、今流行りの。俺はやってないけど、生徒たちが言ってるの聞いたことあるわ。」
「ゲームやるの良いけど、夜更かししすぎないでよ?」
菜穂は徹平に注意する。退院の日だと言うのに、話題の中心が雅俊やゲームの中心の話になって、
何だか面白くない雪菜。頬を膨らまして、夕食はご不満の雰囲気に終わった。
それでも、雅俊の退院祝いのブドウは悔しいくらい甘くてすごくおいしかった。
理学療法士のリハビリの指導を
熱心に受け続け、どうにか松葉杖を
使って歩けるようになった。
無事、退院もできて、久しぶりの自宅に帰ることができた。玄関のドアを開けて、両手を広げた。
「ただいまぁ〜。我が家」
後ろから父の龍弥が大きな荷物を抱えて、中に入る。ドサっと荷物を置いた。
「はいはい。おかえりなさい。雪菜、まだ誰も帰ってないよ?」
「え、そうなの?」
「今日、徹平は部活で遅くなるっていうし、母さんは残業だってさ」
「えーー、そうなんだ。でも、よく休み取れたね。お父さん」
「2週間前から、無理言って、有給消化させてもらったんだよ。娘が退院するからって!」
雪菜の頭を軽くポンポンとたたいた。
「あ、ありがとう」
「まぁ、親の役目ですからぁ? いいんだけどね。ほら、リビングに行ったら?」
「あ、うん」
雪菜は靴を脱いだあと、まだ慣れない松葉杖を使って歩いた。
「やっぱり、我が家は1番だよね。私がいない間、みんな寂しかったんじゃないの?」
「いや、あんまり変わりないよ? 徹平はヘッドホン無しでゲームし放題だって喜んでたし、母さんは何も言ってなかったけどな。
俺は、いつも通り仕事だしなぁ」
「え、ええええー。そこ本当のこと言っちゃうの?」
「あ、すまん。何も無くて……」
「お父さん、そうじゃなくてぇ。私がいないと何とかって……」
「あ、そうだなぁ。雪菜がいないと花が無いな。あと、締まりが無いっていうか。いつも徹平にツッコミするだろ。それが無くて、母さんに怒られて嫌な雰囲気になることはしばしばあったかな?」
「そうそう、そういうの聞きたかった」
「……はいはい。それは良かったですね」
龍弥は、ビニール袋から買い出ししてきた今日の夕ご飯用の食材を台所に出し始めた。
「ご飯だけど、適当にチャーハンとか餃子で良いか? 母さん、今日帰りで遅いって言うからさ」
「うん。なんでもいいよ。食べられるなら。お父さん、作れる?」
「おう。それくらいなら作れるさ。ほれ、お茶でも飲んで休んでおけ」
ペットボトルの緑茶を食卓に出す。雪菜は、ありがたく受け取って飲み始めた。フライパンのジューと音が聞こえてくる。
「ねぇ、お父さん。私、いつから学校通うんだっけ」
「今日が金曜日だから、来週の月曜日でいいんじゃないか? 杉本先生に連絡して聞いてたから大丈夫だ。しばらくは車で送迎するし、授業は受けておかないと単位取れなくなるしな」
包丁がトントンと軽快に聞こえてきた。手際よく料理始めた。冷蔵庫の中にあったしらすとキャベツを切って醤油などの調味料を入れて炒飯を作った。生姜ニンニクたっぷり入った挽肉を合わせ調味料で絡めたものを丸い餃子の皮にささっと包んでいく。フライパンに少量のお湯を入れて、餃子を蒸しながら火を通していく。
「よしこんなものかな。中華メニュー完成ね。さてと、雪菜の荷物片付けておくわ。母さんと徹平があと少しで帰ってくるからな、みんなで一緒に食べるか」
「そうだね。んじゃ、ゆっくりさせてもらうよ」
そう言ったが先か、玄関が大きな音を立てて開いた。
「こんばんはーーー。雪菜っちいますか??」
隣の家に住んでいる齋藤雅俊がやってきた。
「おお、なんだ。雅俊か。どうした? 雪菜、今日退院したところだぞ」
「おじさん。こんばんは。知ってて、来ちゃいましたよん。入っていいっすか?」
「どーぞ」
龍弥は別室で雪菜の洗濯物などの片付けに追われていた。雅俊はささっとリビングに入っていく。
「お邪魔しまーす」
「げっ!? 雅俊? 何しに来てるの?」
「げって、何さ。失礼だなぁ。退院祝いに、シャインマスカット届けに来たんだよぉ。あと、もう一つ、オーロラブラックっていう高級な品種も入ってるよん」
「あ、あー、わざわざありがとう。ブドウ類は好きだから嬉しいかなぁ。って、なんで、私が退院するって知ってるのよ」
「……ふふふ。なぜでしょう?」
「えー」
「教えてあげないよ。でも、雪菜の元気そうな顔見れたから元気出たわ」
雅俊はひらひらと手を振って、部屋を出ようとすると、母の菜穂が帰ってきた。
「ただいまぁ。あれ、雅俊くん、久しぶりね。雪菜に会いに来たのね。今日退院だから喜んでたんじゃない?」
「お母さん、ちょっとそれは語弊があるわ。喜ばないよ、別に私」
松葉杖をついて玄関まで歩いてきた。
「なんだ、雪菜、いたんじゃない。おかえり。何よ、小学生の頃、雅俊くん来ただけですごく喜んでたくせに、今は全然なの?」
「ちょっと待って、いつの話? 今、私、高校生だよ? そんな喜ぶわけないじゃない。犬じゃないんだから」
「えーー、喜んでもいいんだよ? 犬みたいじゃん、俺。ワンっ!」
雅俊は犬の鳴き真似をしてみせた。
「はいはい。そういうの良いから」
「おばさん、すいません。退院祝いに果物のブドウを持ってきましたんで、みなさんで召し上がってくださいね」
リビングの方を指さして、雅俊は玄関のドアを開けた。すると同時に徹平が帰ってきた。
「ただいまー。あれ、まーくん、来てたのね。久しぶりぃ〜。」
2人はグータッチで再会を喜んだ。
「てっちゃん、お久しぃ。今度、オンラインゲームしようぜ」
「マジで?! いや、あとででもいいよ。ちょっとゲームのIDとか教えてくんねぇ? ちょっと待ってスマホ今出すから」
徹平は慌てて、ズボンのポケットからスマホを取り出した。
「嘘、てっちゃんもゲームしてたん? 俺、ナイズドアクトって言うのやってるんだけど、知ってる?」
「マジで? 俺もやってたよ。テンション上がる!! ID送るから、ちょっとフルフルしてよ」
「おぅ。今、出すわ。ほい、まずはライン交換っと……」
「……ちょ、ちょっと2人で何盛り上がってるの?」
横から雪菜が声をかける。ゲームの話に2人は盛り上がっていた。話を全然聞いていない。
「今、ID送ったから、検索にかけてね」
「了解っす。んじゃ、22時くらいによろしくっす」
「うっしゃ、よろしく。んじゃ、またな。それじゃ、雪菜、お大事に。来週、学校でな」
敬礼するように挨拶すると立ち去る雅俊。帰ってきたばかりの徹平はスマホを見ながら、鼻息を荒くして興奮していた。
「何やってるんだ?」
龍弥が後ろから徹平のスマホの画面を覗く。
「まーくんも、このオンラインバトルロワイヤルのゲームやってるって言うからさ、今、ID教えてもらったんだよ。すっげ、楽しみぃ」
「あー、バトロワね、今流行りの。俺はやってないけど、生徒たちが言ってるの聞いたことあるわ。」
「ゲームやるの良いけど、夜更かししすぎないでよ?」
菜穂は徹平に注意する。退院の日だと言うのに、話題の中心が雅俊やゲームの中心の話になって、
何だか面白くない雪菜。頬を膨らまして、夕食はご不満の雰囲気に終わった。
それでも、雅俊の退院祝いのブドウは悔しいくらい甘くてすごくおいしかった。