一か月が経った。
部室の机にはたくさんのアイテムが積み重なっていた。これは昨日みんなで『JAMJAM』に行って買ってきた鉄道模型制作のためのアイテムたちである。
一昨日の土曜日にバイトが期限となって終了し、そのお金はすぐに約束通り金谷先生へ預けた。予定よりも多い週3日で入ることができたから目標を上回る額が手に入った。そしてその資金で店員さんにアドバイスをもらいながら買ってきた。
「やっとスタートだね」
「はい。ここに立つのに随分時間かかりました」
そのほとんどはバイトで全員揃わなかったことも原因だけど、だからと言って何もしなかったわけじゃない。部室で動画を見て鉄道模型の作り方を勉強したり、工具の使い方を技術の先生から教わったりして準備をしてきた。試験の日以外はちゃんと時間を無駄にせずできることを進めていた成果がここにあり、これから出す時に来たんだ。
「じゃあ始めましょうか」
「まずは何するの?」
「土台に設計図を写すところから始めましょう」
一番最初は基盤だ。まずレイアウトボードの縁を角材をくっつける。これで下に空間ができて家や街灯の配線を通すことができる。
次に青い発泡スチロールの板を2枚重ねて置いた後、設計図通りに線路を置いた。そのとおりに油性ペンで記入する。それから山や川、建物の位置をペンで記入していく。設計図をもう一度書き直すような感じだ。
青い発泡スチロールの板に設計図と同じ図面が書き写せたらいよいよ工作に入る。
動画や本を見ると盆地や川の部分を切り取るところから始めている。なのでまず町が収まる盆地を作るために「山」の部分に挟まれた「集落部分」と書いた部分を切り取る。大きいのと初めてやる作業なので、俺が切って瀬戸さんと先輩に板を押さえてもらいながら作業した。
けど、正直不安がある。技術の先生にもカッターで小さいものを切り出す練習をしていた時「お前不器用だあ」と呆れられたほど思うように形を作れなかった。けど今回は大きいし線に沿ってカッターを入れればいいだけ。二人に見られながらの作業ではあるけど、何も緊張する要素はない。思い切って行こうと気を持ち直して作業に入った。
まずは奥側の山と集落の境界を切る。直線はほぼないけど、線に沿ってゆっくり、ゆっくりと腕が震えないよう気を付けて刃を入れて行った。
『あ!』
……けど終わりが見えた時に油断してしまい思いっきり「山」の部分にカッターの刃が入ってしまった。
「ご、ごめん!」
すぐに謝って切ってしまったところを見る。
「だ、大丈夫。削れてはいないから」
「ボンドでつけておきますね」
瀬戸さんが慎重に切れてしまった面にボンドを塗ろうとしたら、今度はパキっと音がしてカッターの刃が入ったとこの根本から折れてしまった。
「……ごめんなさい」
身体が動かず顔だけを俺たちに向けて一言謝罪の言葉を発した。
「う、うん、大丈夫。むしろ接着しやすくなったんじゃない。ほら貸して」
先輩が瀬戸さんから壊れた発泡スチロールを受け取り、ボンドをつけて接着した。手慣れたものであっという間に元通りのようにピタッとくっついた。
「「すごい」」
先輩の器用さに思わず言葉がこぼれてしまった。職人の手捌きって感じの動きに思え、
「フッフッフッ。私の特技だよ。いたずらグッズを自作するのって結構細かい作業があるからね」
けど悪い意味で先輩は期待を裏切らなかった。俺の感動を返せと言いたいしそれなら手先が器用な理由はできれば知りたくなかった。そのいたずらグッズを作ったとしても未使用で被害者がいないことを願う。
「先輩、台無しです」
瀬戸さんも同じことを思っていたようだった。
「まあでも本田さんのおかげで修理できたし、最悪また買えばいいからね。お金はまだ十分あるから、失敗を恐れずに頑張って」
「……はい」
先生はああ言ったけど一度失敗すると余計緊張してしまい、何か所もラインオーバーを起こしてしまった。そのたびに接着し、乾かしてからまた作業になって余計に時間がかかってしまった。
「「本当にごめんなさい」」
下校時刻の15分前に俺と瀬戸さんは二人で先輩に頭を下げていた。結局何をするにしても手が滑ったり、震えたりして思い通りのことが出来ず、壊したところを直す作業を何か所も入れてしまった。
「まあ……そんなこともあるって」
フォローしてくれているけど、先輩の顔はいつもの天真爛漫なものではなく作り笑顔だったのを見逃さなかった。
まさかこんなに不器用だった自分に落胆し、焦りを覚える。なにしろこれから先細かい作業が増える。それを全部器用な先輩にやらせるわけにはいかない。
「だ、大丈夫。私もいたずらグッズを作る前は不器用だったよ。やっていくうちに出来るようになるよ。私が保証する。だってここに成功例があるからね」
下を向いた俺たちを見て慌てたのかまくしたてるように励ましてくれた。でも保証できる理由がどうしても納得いかないんだよなぁ。けど、嬉しかった。
「明日は練習の日にしましょう。時間はまだありますから。焦らず、コツコツとですよ」
それから金谷先生はバイト期間中の練習に使った材料をもう一度使えるよう話しをつけると言った。
先生の言う通り、急いで失敗しては元も子もない。少なくともどんな材料も狙った形にできるようになるまでは練習したほうがいいな。
初日はさんざんで幸先悪いものになったけど、完成のためにまた停滞することを選んで部室を後にした。
部室の机にはたくさんのアイテムが積み重なっていた。これは昨日みんなで『JAMJAM』に行って買ってきた鉄道模型制作のためのアイテムたちである。
一昨日の土曜日にバイトが期限となって終了し、そのお金はすぐに約束通り金谷先生へ預けた。予定よりも多い週3日で入ることができたから目標を上回る額が手に入った。そしてその資金で店員さんにアドバイスをもらいながら買ってきた。
「やっとスタートだね」
「はい。ここに立つのに随分時間かかりました」
そのほとんどはバイトで全員揃わなかったことも原因だけど、だからと言って何もしなかったわけじゃない。部室で動画を見て鉄道模型の作り方を勉強したり、工具の使い方を技術の先生から教わったりして準備をしてきた。試験の日以外はちゃんと時間を無駄にせずできることを進めていた成果がここにあり、これから出す時に来たんだ。
「じゃあ始めましょうか」
「まずは何するの?」
「土台に設計図を写すところから始めましょう」
一番最初は基盤だ。まずレイアウトボードの縁を角材をくっつける。これで下に空間ができて家や街灯の配線を通すことができる。
次に青い発泡スチロールの板を2枚重ねて置いた後、設計図通りに線路を置いた。そのとおりに油性ペンで記入する。それから山や川、建物の位置をペンで記入していく。設計図をもう一度書き直すような感じだ。
青い発泡スチロールの板に設計図と同じ図面が書き写せたらいよいよ工作に入る。
動画や本を見ると盆地や川の部分を切り取るところから始めている。なのでまず町が収まる盆地を作るために「山」の部分に挟まれた「集落部分」と書いた部分を切り取る。大きいのと初めてやる作業なので、俺が切って瀬戸さんと先輩に板を押さえてもらいながら作業した。
けど、正直不安がある。技術の先生にもカッターで小さいものを切り出す練習をしていた時「お前不器用だあ」と呆れられたほど思うように形を作れなかった。けど今回は大きいし線に沿ってカッターを入れればいいだけ。二人に見られながらの作業ではあるけど、何も緊張する要素はない。思い切って行こうと気を持ち直して作業に入った。
まずは奥側の山と集落の境界を切る。直線はほぼないけど、線に沿ってゆっくり、ゆっくりと腕が震えないよう気を付けて刃を入れて行った。
『あ!』
……けど終わりが見えた時に油断してしまい思いっきり「山」の部分にカッターの刃が入ってしまった。
「ご、ごめん!」
すぐに謝って切ってしまったところを見る。
「だ、大丈夫。削れてはいないから」
「ボンドでつけておきますね」
瀬戸さんが慎重に切れてしまった面にボンドを塗ろうとしたら、今度はパキっと音がしてカッターの刃が入ったとこの根本から折れてしまった。
「……ごめんなさい」
身体が動かず顔だけを俺たちに向けて一言謝罪の言葉を発した。
「う、うん、大丈夫。むしろ接着しやすくなったんじゃない。ほら貸して」
先輩が瀬戸さんから壊れた発泡スチロールを受け取り、ボンドをつけて接着した。手慣れたものであっという間に元通りのようにピタッとくっついた。
「「すごい」」
先輩の器用さに思わず言葉がこぼれてしまった。職人の手捌きって感じの動きに思え、
「フッフッフッ。私の特技だよ。いたずらグッズを自作するのって結構細かい作業があるからね」
けど悪い意味で先輩は期待を裏切らなかった。俺の感動を返せと言いたいしそれなら手先が器用な理由はできれば知りたくなかった。そのいたずらグッズを作ったとしても未使用で被害者がいないことを願う。
「先輩、台無しです」
瀬戸さんも同じことを思っていたようだった。
「まあでも本田さんのおかげで修理できたし、最悪また買えばいいからね。お金はまだ十分あるから、失敗を恐れずに頑張って」
「……はい」
先生はああ言ったけど一度失敗すると余計緊張してしまい、何か所もラインオーバーを起こしてしまった。そのたびに接着し、乾かしてからまた作業になって余計に時間がかかってしまった。
「「本当にごめんなさい」」
下校時刻の15分前に俺と瀬戸さんは二人で先輩に頭を下げていた。結局何をするにしても手が滑ったり、震えたりして思い通りのことが出来ず、壊したところを直す作業を何か所も入れてしまった。
「まあ……そんなこともあるって」
フォローしてくれているけど、先輩の顔はいつもの天真爛漫なものではなく作り笑顔だったのを見逃さなかった。
まさかこんなに不器用だった自分に落胆し、焦りを覚える。なにしろこれから先細かい作業が増える。それを全部器用な先輩にやらせるわけにはいかない。
「だ、大丈夫。私もいたずらグッズを作る前は不器用だったよ。やっていくうちに出来るようになるよ。私が保証する。だってここに成功例があるからね」
下を向いた俺たちを見て慌てたのかまくしたてるように励ましてくれた。でも保証できる理由がどうしても納得いかないんだよなぁ。けど、嬉しかった。
「明日は練習の日にしましょう。時間はまだありますから。焦らず、コツコツとですよ」
それから金谷先生はバイト期間中の練習に使った材料をもう一度使えるよう話しをつけると言った。
先生の言う通り、急いで失敗しては元も子もない。少なくともどんな材料も狙った形にできるようになるまでは練習したほうがいいな。
初日はさんざんで幸先悪いものになったけど、完成のためにまた停滞することを選んで部室を後にした。