「というわけで、祭りの日の写真と夜景の写真とかは手に入ったけど前原集落の基本的な情報は手に入りませんでした。すいません」
次の日の部活で正直に話して謝った。
「まあしょうがないよ。それに肝心の祭りと夜景の写真はあるんだから」
本当に不幸中の幸いなのはそれだ。もし祭りの写真、特に夜景は集落の人もあまり知られていない場所だからなかったら大変なことになっていた。
「そうね。前原集落の情報なら今の世の中便利だからすぐに手に入るわ」
金谷先生が俺の肩に手を置いて励ましの言葉をくれた。怒られるかと思っていたからみんなの対応はすごくありがたい。
「じゃあ今日は予定を変更して前原集落の資料探しを行いましょう」
すぐに全員で手分けして前原集落に関する情報を集めるためスマホや学校のパソコンを借りて資料を探す作業に入った。
写真自体はそこそこネットに転がっていたけど、全体写真や写っている範囲の広い写真は数枚しか見つからなかった。
「思ったより手強い」
あまり知られていない町と言ってもここまで写真が少ないとは思わなかった。全体写真は俺の夜景の写真のみでギリギリ稜線がわかるくらいで、建物なんかは当然わからない。
誰も声を発せず、緊張した空気になっていたけど突然先輩が立ち上がった。
「あ、そうだ!」
「どうしました?」
「うちのおばあちゃんだよ。おばあちゃんは前原集落の元住人だから、おばあちゃんに聞けば一発だよ」
「それだ!」
「なーんで忘れてたんだろう。おばあちゃんごめ~ん」
確か俺がダムを見て気分が落ちていた時にそんなことを言っていたのを思い出した。元住人なら生き証人だし、いろいろ知っている。これほど強い味方はない。
「じゃあ早速家に行こう」
動きやすいようにメモと筆記用具だけ持って学校を出た。先輩の家は学校から徒歩20分ほどにあり、俺の家とは反対側にあった。他の家と同じくらいの大きさの一軒家で、庭は他の家とは少し広いって感じだ。
その庭に一人のおばあさんがナスに水をあげていた。あの人が先輩のおばあちゃんかな?小さい頃の記憶も思い返してみるけど、わからなかった。
「おばあちゃん」
「あら実里おかえり。早かったわね。あれ?お友達連れて来たの?しかも男の子まで」
「うん。一緒の部活の仲間だよ」
「あら、じゃあ挨拶しなくちゃ。久しぶりに実里がお友達連れて来たんだから」
じょうろを地面に置いたと思ったらタッタッタッとすごい早さで俺たちの元へ歩いてきた。何歳なのかはわからないけど、すごい元気だなって思った。
「どうぞいらっしゃい。実里がお世話になっています」
「あ、いえ」
「初めまして。部活で本田先輩にお世話になっています」
「ささ、どうぞ上がって行ってください」
案内されてリビングへと通された。すぐに先輩のおばあさんがすごいペースでお茶を出してくれた
「ありがとうございます」
「ゆっくりしていってね。実里、また外にいるわね」
「あ、待っておばあちゃん。みんなおばあちゃんに用事があって来たの」
「あら、私に?」
「あの、あなたは前原集落に住んでいたとお聞きして」
前原集落の名前を出すと驚いたような顔をした。
「お若い方から前原集落の名前を聞くとは思わなかったわ。そうよ、嫁入りしてからずっと前原に住んでいたわ」
「それで一つお願いがありまして」
先輩のおばあちゃんに事情を説明し、そして今日なぜここを訪れたのかを話した。
「そう。前原集落の模型を。実里、あなたすごいことしてるのね」
「えへへ。だけど写真とかが少なくて、困ってたんだ。だからおばあちゃんに話を聞こうと思って」
「そういうことならいくらでも力になるわ。でも困ったわね」
「どうしたの?」
「あたしも年だし前原から離れて結構経つから説明するとなると地図とかが欲しいのよね。それがないとこれがなんだとか説明するのが難しいのよ。あれ、……でも確か、ちょっと待っててね」
先輩のおばあちゃんは部屋に行ってしまった。しばらくドタドタと音がし、確認のために先輩が部屋に入って行ったけど、すぐに戻って来た。
「ごめんね。やっぱり地図とかがないと多分あなたたちの期待に添える説明ができそうにないわ」
「そうですか……」
「本当にごめんね」
「いえ、でしたらどこかから地図や全体の写った写真とかを探してみます」
「ありがとうございました」
先輩の家を後にして学校に戻る。
「みんなごめんね」
先輩が初めて会ったときみたいにしおらしく謝って来た。
「いえ、大丈夫ですよ。それに、地図さえあれば説明できるって言ってたので、何としても全体のデータを手に入れましょう」
「……うん」
とりあえず目標は前原集落の全体の分かるものを手に入れることだ。だけどネット、それもダムマニアとか廃墟マニアみたいな人のやっている個人のブログまでも調べてみたけど全体を映している写真は見当たらなかった。そこをどう突破すればいいか、なかなかいい案が浮かばない。
それでも根気強く前原集落を検索に掛けてみる。上ではなく下の方にあるサイトや記事を一つ一つ開いていっていいものがないか確認する。
探したけれどもやっぱり見つからない。もうみんな上の空になっていた。
この状況はまずいな。
ここは一度角度を変えて『前原ダム』と打ち込んだ。ダム建設の前後の写真とかが出てくるかもしれないという賭けに近いものだが、やらないよりかはと思い検索した。結果はダメだった。けど面白いものを見つけた。
「前原ダム資料館?」
場所は前行ったときに降りたバス停からすぐ近くにある施設らしい。その施設を今度は検索してみる。
無料公開されている資料館でダムの歴史や工事の過程や苦労など、実物も展示しながら伝えている施設らしい。
ここならもしかしたら資料があるかもしれない。今すぐ行こうと思ったけど、下校時刻まであと一時間を切り、今からだと帰りのバスがなくなる可能性があったからやめた。けど明日は土曜日。朝から行けばゆっくり見られるし、バスの心配もない。それに前原ダムのアーチの近くだから実際の前原をダムとはいえ感じられるのはプラスだと思い提案してみることにした。
「みんな、ちょっといい?」
一斉に俺の方を向いた
「明日なんだけどさ、ここに行こうと思う」
俺のスマホの画面を全員が覗く。
「ダムの資料館?」
「はい」
俺は考えをみんなに伝える。前原ダムは計画自体は30年前からあったらしいから、その時からの資料があるならもしかしたら前原集落の写真とかもあるかもしれない。そう踏んだ。
「今はその賭けに乗るしかないな」
「手詰まりだったし、行ってみよう」
「だったら明日車を出すわ」
「いいんですか先生」
「もちろん」
「ありがとうございます」
なんとか行くことが決まり、明日は9時に駅前に集合することにして解散となった。
次の日の部活で正直に話して謝った。
「まあしょうがないよ。それに肝心の祭りと夜景の写真はあるんだから」
本当に不幸中の幸いなのはそれだ。もし祭りの写真、特に夜景は集落の人もあまり知られていない場所だからなかったら大変なことになっていた。
「そうね。前原集落の情報なら今の世の中便利だからすぐに手に入るわ」
金谷先生が俺の肩に手を置いて励ましの言葉をくれた。怒られるかと思っていたからみんなの対応はすごくありがたい。
「じゃあ今日は予定を変更して前原集落の資料探しを行いましょう」
すぐに全員で手分けして前原集落に関する情報を集めるためスマホや学校のパソコンを借りて資料を探す作業に入った。
写真自体はそこそこネットに転がっていたけど、全体写真や写っている範囲の広い写真は数枚しか見つからなかった。
「思ったより手強い」
あまり知られていない町と言ってもここまで写真が少ないとは思わなかった。全体写真は俺の夜景の写真のみでギリギリ稜線がわかるくらいで、建物なんかは当然わからない。
誰も声を発せず、緊張した空気になっていたけど突然先輩が立ち上がった。
「あ、そうだ!」
「どうしました?」
「うちのおばあちゃんだよ。おばあちゃんは前原集落の元住人だから、おばあちゃんに聞けば一発だよ」
「それだ!」
「なーんで忘れてたんだろう。おばあちゃんごめ~ん」
確か俺がダムを見て気分が落ちていた時にそんなことを言っていたのを思い出した。元住人なら生き証人だし、いろいろ知っている。これほど強い味方はない。
「じゃあ早速家に行こう」
動きやすいようにメモと筆記用具だけ持って学校を出た。先輩の家は学校から徒歩20分ほどにあり、俺の家とは反対側にあった。他の家と同じくらいの大きさの一軒家で、庭は他の家とは少し広いって感じだ。
その庭に一人のおばあさんがナスに水をあげていた。あの人が先輩のおばあちゃんかな?小さい頃の記憶も思い返してみるけど、わからなかった。
「おばあちゃん」
「あら実里おかえり。早かったわね。あれ?お友達連れて来たの?しかも男の子まで」
「うん。一緒の部活の仲間だよ」
「あら、じゃあ挨拶しなくちゃ。久しぶりに実里がお友達連れて来たんだから」
じょうろを地面に置いたと思ったらタッタッタッとすごい早さで俺たちの元へ歩いてきた。何歳なのかはわからないけど、すごい元気だなって思った。
「どうぞいらっしゃい。実里がお世話になっています」
「あ、いえ」
「初めまして。部活で本田先輩にお世話になっています」
「ささ、どうぞ上がって行ってください」
案内されてリビングへと通された。すぐに先輩のおばあさんがすごいペースでお茶を出してくれた
「ありがとうございます」
「ゆっくりしていってね。実里、また外にいるわね」
「あ、待っておばあちゃん。みんなおばあちゃんに用事があって来たの」
「あら、私に?」
「あの、あなたは前原集落に住んでいたとお聞きして」
前原集落の名前を出すと驚いたような顔をした。
「お若い方から前原集落の名前を聞くとは思わなかったわ。そうよ、嫁入りしてからずっと前原に住んでいたわ」
「それで一つお願いがありまして」
先輩のおばあちゃんに事情を説明し、そして今日なぜここを訪れたのかを話した。
「そう。前原集落の模型を。実里、あなたすごいことしてるのね」
「えへへ。だけど写真とかが少なくて、困ってたんだ。だからおばあちゃんに話を聞こうと思って」
「そういうことならいくらでも力になるわ。でも困ったわね」
「どうしたの?」
「あたしも年だし前原から離れて結構経つから説明するとなると地図とかが欲しいのよね。それがないとこれがなんだとか説明するのが難しいのよ。あれ、……でも確か、ちょっと待っててね」
先輩のおばあちゃんは部屋に行ってしまった。しばらくドタドタと音がし、確認のために先輩が部屋に入って行ったけど、すぐに戻って来た。
「ごめんね。やっぱり地図とかがないと多分あなたたちの期待に添える説明ができそうにないわ」
「そうですか……」
「本当にごめんね」
「いえ、でしたらどこかから地図や全体の写った写真とかを探してみます」
「ありがとうございました」
先輩の家を後にして学校に戻る。
「みんなごめんね」
先輩が初めて会ったときみたいにしおらしく謝って来た。
「いえ、大丈夫ですよ。それに、地図さえあれば説明できるって言ってたので、何としても全体のデータを手に入れましょう」
「……うん」
とりあえず目標は前原集落の全体の分かるものを手に入れることだ。だけどネット、それもダムマニアとか廃墟マニアみたいな人のやっている個人のブログまでも調べてみたけど全体を映している写真は見当たらなかった。そこをどう突破すればいいか、なかなかいい案が浮かばない。
それでも根気強く前原集落を検索に掛けてみる。上ではなく下の方にあるサイトや記事を一つ一つ開いていっていいものがないか確認する。
探したけれどもやっぱり見つからない。もうみんな上の空になっていた。
この状況はまずいな。
ここは一度角度を変えて『前原ダム』と打ち込んだ。ダム建設の前後の写真とかが出てくるかもしれないという賭けに近いものだが、やらないよりかはと思い検索した。結果はダメだった。けど面白いものを見つけた。
「前原ダム資料館?」
場所は前行ったときに降りたバス停からすぐ近くにある施設らしい。その施設を今度は検索してみる。
無料公開されている資料館でダムの歴史や工事の過程や苦労など、実物も展示しながら伝えている施設らしい。
ここならもしかしたら資料があるかもしれない。今すぐ行こうと思ったけど、下校時刻まであと一時間を切り、今からだと帰りのバスがなくなる可能性があったからやめた。けど明日は土曜日。朝から行けばゆっくり見られるし、バスの心配もない。それに前原ダムのアーチの近くだから実際の前原をダムとはいえ感じられるのはプラスだと思い提案してみることにした。
「みんな、ちょっといい?」
一斉に俺の方を向いた
「明日なんだけどさ、ここに行こうと思う」
俺のスマホの画面を全員が覗く。
「ダムの資料館?」
「はい」
俺は考えをみんなに伝える。前原ダムは計画自体は30年前からあったらしいから、その時からの資料があるならもしかしたら前原集落の写真とかもあるかもしれない。そう踏んだ。
「今はその賭けに乗るしかないな」
「手詰まりだったし、行ってみよう」
「だったら明日車を出すわ」
「いいんですか先生」
「もちろん」
「ありがとうございます」
なんとか行くことが決まり、明日は9時に駅前に集合することにして解散となった。