デートを楽しんで帰宅したアリーナはブルーノの衣装が気になっていた。
「お母様、ブルーノの衣装は決まった?」
「まだよ。とりあえずカタログを見てるの。」
「どれどれ、どんなのがあるの?」カタログを覗き込む。
「ブルーノは僕とお揃いは嫌だって言うんだよ。」とディビッドがアリーナに訴える。
「嫌がってるなら仕方ないわ。諦めなさい。」とアリーナが答える。
「お揃いだってかっこいいのに…。」どうやらディビッドは諦めきれない様子だ。
「そういえばブルーノ、礼儀作法とか大丈夫?」とアリーナはブルーノにきいた。
「全くわからんにゃ。」
「王宮からの招待なのにどうするの?」
「僕が教えるよ。ご挨拶とか歩き方とかでしょ?あと、ちゃんとフォークとナイフ使える?それと、話し方。自己紹介出来る?」デイビッドは口をはさむ。
「行くだけだから喋らなくてもいいんじゃないかにゃ?」
「ご馳走が沢山あるんだよ。フォークとナイフは使えないとダメだよ。」
「ご馳走が出るのかにゃ?」
「そうだよ。」
「じゃあ、お持ち帰りして食べるにゃ。」
「そうはいかないわ。お母様がちゃんとマナーを教えます。デイビッドも一緒に特訓ですよ。」と母が2人に言う。
「はーい。」
「はいにゃ。」
デイビッドとブルーノは母に返事した。
アリーナは「せめて野良と間違われないようにしてね。」とブルーノに言った。
ブルーノは「大丈夫だにゃ。」少し目を逸らしながら答えた。

「ところでお母様とお父様の衣装はどうするの?」
「私の分はお父様がプレゼントしてくれるみたいなのよ。だからまぁいいとしてーお父様のはどうしましょうねぇ。」
「作らないの?」
「お父様には一応制服があるからねぇ。それを着るのはちょっと今回はどうかしらねぇ。」
「お父様って制服なんてあるの?」
「まぁ、一応役人だから?あるけどねぇ…。あれはちょっとねぇ。」と歯切れの悪い感じで母が言う。
「わかった!その制服ってすっごくカッコ悪いんでしょ?」
「そういうわけじゃないのよ。とってもかっこいいのよ。でもねぇ…。」
「本人に聞いてみたらいいにゃ。」とブルーノが言った。
「そうね帰って来たらきいてみましょう。」
アリーナは父の制服?見た事あったっけ?と思った。

アリーナの父が帰って来た。
アリーナは
「お父様、舞踏会の衣装はどうするの?お母様がどうしようかなーって言っていたわ。」と聞いてみた。
父は
「私のはお母様のドレスと一緒に作ったよ。」と言った。
「もしかして、お揃い?」
「まぁな。お母様には内緒だよ。」とイタズラっぽく笑った。

こっちはお揃いだった。


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夜、アリーナはリリーに手紙を書いた。
怪我は良くなっただろうか。
マークの事で心に傷を負ってないだろうか。
デビュタントはどうするのか。
とにかく心配していると伝えたかった。
そして会って話しをしたいと。
それをしたためて封をしてブルーノに飛ばしてもらった。

翌日、リリーから返事が届いた。
久しぶりに会いたいう事だった。
アリーナはリリーの家に行く事にした。

リリーの家は大きなお屋敷で庭園には花が咲いてとても綺麗だった。
テラスに案内されてリリーを待つ。
久しぶりに会ったリリーは変わらず可愛いかった。
「久しぶり、元気だった?心配していたんだよ。」
「ごめんね心配かけて。もう大丈夫だよ。」
「そう、よかったわ。」

リリーは怪我した後、学校を休んでいた。怪我はそんなに酷いものでもなくすぐに治った。
しかし、マークとの事で心が傷つき引きこもっていた。

アリーナはマークについて父にきいていた。
自宅謹慎をしていたが、魅了で操られていた事がわかり停学にはならなかった。
今は正気に戻っているらしい。魅了で操られていた時の記憶はないそうだ。
リリーに暴言を吐いたりマークがアリーナを突き飛ばそうとして庇ったリリーが怪我をしたことを聞いて反省しているときいている。
リリーの心の傷は完全には癒えていないよう思えた。

リリーと話をしている時に庭の方からマークが花束を持ってやって来た。
「やぁ、リリー今日も来たよ。アリーナも来ていたんだね。」マークを見てリリーは少し俯いた。
マークは元気そうだ。でもなんか?
「今日の花はリリーが好きな黄色の花にしてみたんだ。どうだい?」リリーの顔をじっと見ている。
「もう花はいらないって言ったじゃない。花瓶がなくなるわ。」
「そうか、じゃあ今度は別の物を持ってくるよ」
「何もいらないわ。」目も合わせずに素っ気なく言う。
「今度は街で評判のお菓子を持って来るよ。」
「お菓子は太るわ。」
「大丈夫だよ。太ったってリリーはリリーだから。」
「……」下を向いたままリリーの顔が赤くなった。
「今日はアリーナもいることだからこれで。じゃあね。」と言うと帰って行った。


リリーはマークについて話した。
マークは正気に戻りリリーに酷いことをしたと親に聞かされてひどく落ち込んだ。
記憶が戻ってマークは最初リリーに会い土下座をして謝った。それから毎日リリーに会いに来ている。どうしてもリリーとの婚約を破棄したくないと言っている
原因が魅了ということで婚約はそのままになっている。
リリーの両親は「リリーが思うようにしていい。私達はリリーの考えを尊重する。」と言ってくれている。

アリーナは「愛だわ。」と呟いた。
リリーは「愛かしら?」と返した。
「リリーはマークに愛されてるのね。」
「そうかしら?婚約に執着しているだけかもしれないし。きっとマークは私のことを好きとか愛してるなんて思ってないわよ。」
「ふーん。そうかなー?」
それからデビュタントの話。
マークにエスコートをして貰うのを躊躇っているようだった。最悪、父や兄でいいやなんて言っていた。
それから、しばらく話してから帰ることした。
「休暇中にまたお茶しましょうね。」
「そうだね。それではごきげんよう。」

挨拶をして屋敷の門を出たところにマークが立っていた。門を出たところを待ち伏せされるのはあの事を思い出して少し怖かった。

「アリーナ、ちょっといい?。」そう言ってこちらに来た。
「僕、アリーナにも酷いこと言ったんでょ?本当に申し訳ない。ごめんなさい。」と頭を下げた。
「もう、大丈夫だよ。終わったことだし。」
「……。」
「……。」
「それで少しアリーナに相談したいんだけど。いい?」
「なに?」
「まだ、リリーとの婚約は継続しているんだけど、僕リリーに怪我させてしまって…嫌われてて…婚約破棄されそうなんだ。」と項垂れている。さっきより随分元気がない様子だ。
「リリーにきちんと謝ったんでしょ?」
「うん。謝ったんだけど…許してないみたいなんだよね。」
「そう?」
「以前と違って花を贈っても素っ気なくて目も合わせてくれなくて…僕のこと嫌ってると思う。」
「ひとつ聞きたいんだけど、マークは婚約者だからリリーに嫌われたくないの?」
「ちがうよ。リリーだから婚約したんだ。僕はリリーが好きなんだ。ずっと一緒にいたいんだ。だけどリリーは僕のことが嫌いで…。」
「ねぇマーク。私だったら嫌いな人から花を贈られても受け取らないし会わないわ。リリーはマークのこと嫌いじゃないと思うの。」
「そうかなぁ……。」
「それにずっと仲良かったじゃない。あんなことがあっても急に嫌いにはならないと思うの。」
「……」
「そうねぇ…今までマークはリリーにちゃんと想いを伝えていたかしら?さっき言ったみたいに、言葉に出して好きとか愛してるとか。あと可愛いとか?」
「……それは…ないかも…。」
「花もいいけど、言葉も大切よ。さっきみたいにちゃんと言葉で伝えてみたら?」
「……わかった…頑張って言葉で伝えてみるよ」
「ちゃんと伝わるといいね。」そう言ってアリーナは帰った。
それからすぐにマークは拳を握りしめ「よしっ」と気合いを入れた。
そして、リリーの家へ走って行った。

その後、リリーから手紙が届いた。
やっぱりマークのことが好き。だから許してあげた。
婚約はこのまま続行する。
そんな内容だった。

マークよかったね。