ヘンリックの訓練は順調に進んでいた。
「次は青魔力を出して下さい。そうです。上手になりましたね。」
ヘンリックの手に青い光が出ている。
「青ですから水か氷のイメージで形を作って下さい。」
ヘンリックの手の上で丸い水の玉ができる。
「それに魔力を込めて下さい。」
丸い水はだんだんと大きくなり膨らんでいく。
「それを遠くに飛ばす感じで…。」
ヘンリックは手を上げホイッと投げる。すると300メートルほど先に勢いよく飛んで水の玉が弾けた。弾けた水はヘンリックやクラークの所まで飛んで来て2人はずぶ濡れになった。
「あっすみません。」
「大丈夫です。こんなに威力があれば山火事なんかすぐに消せますね。」
「そうですね。」
「では、次は氷をイメージしてみて下さい。」
ヘンリックは青の光を出し氷の固まりを作り上げた。魔力を込めて大きくする。
「今度は転がしてみましょうか?」
ヘンリックはエイッと投げた。投げてころがった後には氷が出来る。固まりは500メートルぐらいまで転がり弾けた。
ドッゴーン!!
細かい氷の破片が飛んできた。
「あっぶねぇ。」ビルバーグはびっくりした。
「あんまり魔力込めるとこうなります。」
「いえ、そんなに込めたつもりはないんですが……。」
「!!」
「!!」
2人は絶句した。
「では、氷で壁を作ってみましょう。」
ヘンリックは魔力を手の平に集め前に出した。
「壁のイメージで。」
するとヘンリックの前に氷の壁が出来上がった。ただ、大き過ぎた。高さは50メートル横は100メートルほどの壁で厚さは5メートルもあるだろうか?
「イヤイヤーデカ過ぎだろこれ?」
「そうですねぇ。軽い攻撃は防げますね。では、この氷の壁を火を使って溶かしてみましょう。」
ヘンリックは炎をイメージし手を当てる。すると氷は溶けて水になり蒸発して無くなった。
「よろしいですね。」
「スッゲェー」
「では、今日はこのぐらいにして明日は白魔力の訓練をしましょう。」
ヘンリックは初めの頃は魔力を使うととても疲れていたが今は疲れを知らない。
魔力を使い慣れてきているからである。
本人にも自覚があった。
「クラーク殿、浮遊魔法とか転移魔法はどのようして使えるのですか?」
「そうですねぇ。どちらもできないこともないと思います。まぁ、イメージをして念じる?感じですかね?」
「鍛錬すればできますかね?」
「そうですね。ヘンリック殿は魔力が十分あるのでできると思いますよ。あとー魔力を発動する時にイメージの詠唱するのもいいかもしれませんね。」
「訓練場じゃなくても鍛錬は出来ますね?」
「危なくはないですけど落ちても痛くない所ならいいでしょう。」
「わかりました。」
さぁ、後は白魔力だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日の朝、ビルバーグは朝食を作りながら考えているいた。
ヘンリックはすごいなぁ。俺より遥かに強い魔力を持ってる。やっぱ外交官にしておくのは勿体無いな。今からでも魔法騎士団に入ればいいのに。
さて、ご飯ご飯。
「おそらく今日で訓練は終わりです。あとは自分で鍛錬をして魔力を使いこなして下さい。」
「わかりました。」
「さあ、食べよう。ヘンリック、たくさん食べて頑張るんだぞ。」
「うん。」
まるでお母さんのような兄である。
訓練が始まる。
「今日は白魔力です。攻撃魔法ではありません。浄化、回復、再生が出来ます。私はこの魔力はありませんが、イメージが大切だと思っています。」
「わかりました。やってみます。」
「まずは昨日までにこの訓練場にたくさん穴を開けましたね?それを元に戻す回復をやってみて下さい。」
ヘンリックは手に白い光を出す。
それからど魔力を込めて大きくする。そして昨日開けた穴に向かって光を放つ。
すると光が穴の周りをまわって大きな光になり穴を塞ぎもとの平らな地面になった。成功だ。
「もう一度、今度は範囲を広げてやって下さい。」
手に白い光を出し魔力を込めて大きくする。先ほどのものより大きくする。そして広範囲に光を放つ。
すると辺りが光で覆われてあちこちに開いた穴が平らな地面になり元通りになっていく。
「うおおっ!!俺の弟サイコー!!」ビルバーグが叫ぶ。
クラークも目を見開き辺りを確かめる。
「できましたね。凄いです。感動ですね。」
ヘンリックはほっとした。そして嬉しく思った。
「では、次は再生です。回復と同じ感じですがもっと時間を遡っていく感じですかね?かつての姿にしていく?そんな感じで。」
また、手に光を出し大きくしていくどんどん大きくしてかつての姿をイメージしそれを地面に置く。
すると砂利を敷き詰めた地面から草や木が生えて来て大きくなっていく。
花が咲き、木々は葉を伸ばしてどんどん大きくなり辺りは森のようになった。
「ホェーッ!!訓練場が森になった!!」
「素晴らしい。ヘンリック殿すごいです!!」
「ありがとうございます。」
「人体に施す場合にも同じく行えば怪我の治療もできるはずです。」
「万能ですね。白魔力は!!ヘンリック凄いよ。やっぱり天才だよー」ビルバーグは感動しヘンリックに抱きついた。
「ありがとう。2人のおかげだよ。」
「ヘンリック殿が頑張ったからですよ。」
「頑張ったなー偉いぞー。」
「次は浄化です。これはここではできませんね。どうしますかね?」
「はい。クラーク殿。この鉱山の中に泉があるんですがいつからか濁ってしまって飲む水にならないのですが浄化でなんとかなりますか?」とビルバーグはきいた。
「試しにやってみますか?」
3人は鉱山の中に入っていった。
「もう少し先です。」
かなり奥の方へやって来た。
明かりをビルバーグは魔力で灯しながら案内をする。
「ここです。」
そこは大きな濁った池のようなところだった。
「かつてここは飲み水を汲んでいた泉だときいています。この水を浄化できればまた飲み水として使えないでしょうか?」
「さて?これは、水の浄化だけではだめですね。浄化、再生、回復を全て使わないといけないのではないでしょうか?」クラークは答えた。
「うっわぁそうかー。」ビルバーグは頭を抱えて膝を折った。
ヘンリックは「やってみるよ。」と言って手を出した。
手の平に光を出し大きくしながらイメージする。そして手の平を濁った水に伸ばし光を流していく。すると濁った泉から光が溢れてきた。鉱山の中が光で照らされる。
3人が目を開けられないほどの光だった。
やがて光が収まって消えた。
目の前にはかつての姿の泉が現れた。
水は澄み、水路を通り流れて行く。
「おおぉーっ!!」ビルバーグは大声で叫んだ。
「おお凄い。」クラークは感動した。
「へぇー凄いなぁ。」ヘンリックは目を細めて笑った。
「できたじゃないかーヘンリックは天才だー。」
「そうですね天才ですね。」
「へへっ」
「それではこれで訓練は終わりです。あとは自分で鍛練をして下さい。」
「クラーク先生、ありがとうございました。」
「それでは帰りましょう。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「俺たちしばらく風呂に入ってないだろ?臭くなってないかな?そうだ、ヘンリックの浄化でパッパッと綺麗にできないかなー?」
「えーできるかな?やってみるよ。」
ピッカッー!!
「できたじゃん!!」
「じゃあまとめてやってみるよ。」
ピッカッー!!ピッカッー!!
「おぉ素晴らしい。」
「凄いなぁ。ヘンリック。」
「へへっ。」
ビルバーグは父に訓練終了の手紙を送った。
それには訓練場が森になった事や鉱山の泉が復活した事がしたためられたが父は大袈裟に言ってるのだろうと思っていた。
しばらくして、父が廃鉱山へ鍛練に行ったときにそれを見て大袈裟でない事を知る。
教会でアンダーソン公爵夫婦とホワイティス伯爵家族は訓練場に行った3人の帰りを待った。
今日はブルーノもいる。
そこに、ブリーズ国の魔法師3人も加わった。
教会にある少し大き目の部屋でみんなが座り黙って待っていた。
そこに、神官長が入って来た。
手にあの石の入った箱を持っている。
「3人が来るまでに少しお話をします。
これから来る3人のうちの1人が、この石の呪いを解く白魔力を持っています。その者がこれからも普通の生活が出来るように白魔力の事は口外しないと誓って下さい。お願いします。」
皆が一斉に頷く。そこへ神官がやって来て「到着されました。」と声をかけた。
そしてヘンリックたち3人は部屋に通される。
家族や仲間たちに迎えられて少し照れたような顔をしている。
ヘンリックは真っ先にアリーナの元に行き「ただいま。」「お帰りなさい。」と挨拶をする。
ヘンリックの両親はこっちは後かーと少しだけ落ち込んだが、ビルバーグが「父上、母上ただいま。」と抱きついた。
挨拶が終わり、いよいよ石の浄化をはじめる。
広い部屋の真ん中に赤い石を置きヘンリックが浄化をかける。すると赤い石が光に包まれだんだんと人の形になり赤い瞳の青年になった。
髪は金髪で端正な顔つき。細身で長身。
白い正装で金色の豪華な刺繍が施されている。
「アレン王子!」クラークが叫ぶ。
「おお、戻ったぞ!!」
「やっとお会い出来ました。」
「クラーク苦労かけたな。」
「いえいえ、ヘンリック殿のおかげです。」
「ヘンリック、良くやってくれた。感謝する。」
「いえ皆さんが頑張ったおかげです。」
さて、次は黄色い石だ。
ヘンリックが浄化をかける。すると石が光に包まれだんだんと人の形になり金の瞳の女性の姿になった。長い黒髪で目は大きく睫毛は長い。
とても綺麗な人だ。豪華な赤いドレスを着て
金色のネックレスを付けている。
「ナターシャ!!」
「アレク様!!」2人は抱き合った。
「あぁまたお会いできるとは……。」涙を流しながらアレク王子と喜び合う。
そしてヘンリックは次々と浄化をかけていく。そして、8個の石は浄化され8人になった。
よく見れば石の色はその人の瞳の色だとわかった。
「ヘンリック殿。ありがとうございました。この御恩は一生忘れません!!」
クラークやアレン王子達が感謝を述べる。
「いえいえ、僕だけの力ではありません。みんなで頑張ったおかげですよ。」
神官長は「よかったですね。これで完全に呪いは解けました。それからみなさん、先程のお話を忘れないで下さいね。」
ビルバーグは「先ほどの話って何?」と父に聞いた。
「ヘンリックが白魔力を持っている事を口外しないという事だ。」
「えっ!弟の自慢出来ないって事?」
「そうだ。わかったな。」
「はーいわかりましたぁ。」と元気無く返事をした。
ブルーノはヘンリックに
「随分と魔力が強くなったにゃ。必ず白魔力は隠すんだにゃ。自分のためだにゃ。あとアリーナのためでもあるにゃ。」
「そうだね。ブルーノは僕がいない間アリーナを守ってくれたんだって?ありがとう。これからもよろしくお願いします。」
「まかせろにゃ。」
そんなやり取りをアリーナは見ていた。
そして、少し離れた所でアンダーソン公爵はブルーノを見ていた。
「アレが野良ねぇ。野良。プッハハハッ。」
公爵は笑い上戸であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、公爵と伯爵と魔術師団長のクラークは
マリンについて話し合った。
マリンについて魔女と断定ができていない。
アレン王子達を証人になってもらえばマリンを魔女とだと断定が出来る。そこで、アレン王子達を王宮の地下牢でマリンと対面をしてもらう事になった。
地下牢でアレン王子を見たマリンは蒼白になった。
まさかあの呪いをといたの?
マリンに会ったアレン王子は
「その女はあの魔女に間違いありません。」と言った。
第二王子もまた「魔女に間違いない。」と言った。
マリンは第二王子に「あの時はフードを被っていたから顔なんか見てないでしょ。」そう言った。
「あの時とは?いつのこのかな?」伯爵が聞いた。マリンは「………。」悔しそうにして黙ってしまった。
「これで、逃亡中の魔女だと断定できましたね。」とクラークに言った。
「はい。ありがとうございます。」
「それでは身柄はブリーズ国に送ります。よろしいですね。」
「はい。ありがとうございました。」
こうして魔女はブリーズ国に送られ厳しく取り調べが行われた。
アレン王子にかけた魅了は自分の黒魔力で作った魔道具を使った。しかしあまり出来が良くなかったために見破られてしまった。
また、石の呪いは闇ギルドから入手した呪いのスクロールに自分の魔力を足して作った物だった。マリンは解除の方法を知らなかった。そして、ピナ国からどうやって魔道具を盗んだのか。それは、封印を解く鍵を持つピナ国の管理官を言葉巧みに騙して盗んだ。その管理官はその後亡くなっていて、マリンが手を掛けたとされた。
国家反逆、窃盗、殺人、禁忌の魔道具使用などの罪が明らかにされた。
極刑は免れないだろう。
その後、アレン王子達とクラークと魔法師団員は無事にブリーズ国に帰って行った。
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ヘンリックとアリーナは2人で1ヶ月後のデビュタントの衣装合わせに街にやって来た。
「ここのお店はとても評判がいいんだって。」
「高そうだね?」
「これくらい大丈夫だよ。さぁ入ろう。」
2人はあれやこれやと見てお互いに似合う衣装を選んだ。選び終えるとにこやかに店を後にした。とても満足した買い物だった。
仕上がりが楽しみだ。
帰りにカフェに寄ってお茶やケーキで休暇をした。
「王宮の舞踏会でデビュタントでしょ。そこに一家全員招待されたの。ブルーノもなんだよ。」
「ブルーノは猫のままで行くの?」
「ううん。人型で行くよ。だって猫はマズイでょ?第一王子がいるし。」
「そうだねぇ。衣装は決まってるの?」
「お母様が用意するみたい。」
「それはちょっと楽しみだね。」
「ふふっそうね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、アリーナの家ではお母さんがブルーノの採寸をしていた。
ブルーノは人型になるとシルバーで所々に青が混じった髪になり瞳は金色だ。
背は高くて肌は白く整った顔をしているが八重歯が少し尖っている。
それを休暇で帰っているデイビッドは見ている。
「お母さん、オレ人型あんまり得意じゃないんだよ。」
「少し我慢してね。すぐに終わるから。」
「服なんて窮屈だよ。」
「でもね服は着ないとねぇ。裸では行けないわ。」
「そうだにゃぁ。どうせ作るならカッコいいやつがいいな。」
「そうねぇ。カッコよくて上品な感じにしましょうね。」
「ねぇ僕とお揃いのはダメ?」
「ディビットとお揃いは嫌だにゃ。」
「兄弟みたいでいいじゃないか?」
「兄弟だったらオレはデイビッドのお兄ちゃんになるな。背も高いし。」
「えー!」
「オレの方が歳上だ。お前みたいな子供と同じなんて嫌だにゃ。」
「そんなー。」
「はいはい。2人とも喧嘩しないの。」
「はーい。」
「お母さん。オレはデイビッドとお揃いは嫌だからにゃ。」
「ハイハイわかりましたよ。次はデイビッドの番よ。」
「はーい。」
人型になると普通に喋ったりそうでなかったりのブルーノだった。
そして、息子が2人いて嬉しいお母さんだった。
ブルーノは第一王子に会うためにちょくちょく学校へ行っていた。
もちろん、美味しいお肉とお菓子が目当てだ。
今日のお菓子はなにかなー?
「やあ、また来たのかい?」王子は嫌な顔もせずにブルーノを迎え入れる。
「今日はマドレーヌを用意していたよ。沢山あるからお食べ。」そう言いお菓子を出してくれた。
ブルーノの目が輝く。
そしていつものようにかぶりつく。
「ねぇ君、名前はあるのかい?そろそろ教えておくれよ。」
「嫌だにゃ。オレの名前があるとか無いとか教えにゃい。」
名前があることを知ったら誰かの使い魔だとバレてしまう。王子はそれを知っているんだ。
「そうかい?私は君を友達だと思ってるから名前が知りたかったんだ。呼ぶときに不自由だろう。」
「友達か、じゃあ白猫とでもよんだらいいにゃ。」
「白猫ね。わかった、これから白猫とよぼう。」
「これから学校が夏季休暇だからここに来ても私はしばらくいないよ。その間は王宮に来ればいるけど来るかい?」
「王宮かにゃ?オレが入れるのかにゃ?」
「普通は入れないけど抜け道を教えておくよ。」
「そんなもんオレに教えていいのかにゃ?」
「白猫は友達だからいいよ。」
「じゃあ行ってやるにゃ。オレはお前の友達だからにゃ。」
そして第一王子は抜け道と部屋を教えてくれた。
「誰にも言ってはいけないよ。」
「わかったにゃ。オレは口が硬いから大丈夫だにゃ。」
ブルーノはちょっと嘘をついた。
「ご馳走を用意してまってるからね。お腹が減ったらおいで。」
第一王子はやっぱり野良だと思ってるようだ。
「沢山用意して待ってろにゃ。」
「沢山だね?」
「そうにゃ。じゃーオレはもう行くにゃ。」
「待ってるよ。」
ブルーノは窓からサッと降りて学校を後にした。それをにこやかに第一王子は見送った。
王宮かぁ。どんなご馳走がでるのかな?
ブルーノは食べることばかり考えた。
そして、ちょくちょく王宮に通うようになる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ある日のこと。
ブルーノはまた性懲りも無く第一王子の所へ行こうと街を歩いていた。
今日は何かなー?楽しみだなー!
頭の中は食べることばかりだった。
ブルーノはご機嫌で建物の屋根の上を歩きながら王宮を目指していた。
すると裏路地の建物の間から声が聞こえた。
男が手に小さな生き物を持って
「せめて、芸でも出来ればまだ良かったのに。」
「この有様じゃもうダメだな。」ともう1人の男が言う。
「その辺に捨ててしまえ。」
「そうだな。」そう言っている。
男の手にいる生き物は小さくてボロボロに見えた。
ブルーノは昔人間に囚われて売られそうになったことがある。
きっとあの生き物もそうなのだと思った。
ブルーノはその男たちの後を付けて人気のない所まで行くと男たちからその生き物を奪った。
男たちは驚いたが「まあ、あれはいらないからちょうどいい。」そう言って何処かに行ってしまった。ブルーノは素早く屋根に登りくわえていたその生き物を下ろした。
真っ黒な毛でかすかに開いている目は金色だった。ご飯もまともに食べさせてもらえなかったのだろうガリガリだった。そしてあちこちに傷があり血が出ていた。声も出せないようだ。なんて、酷いことをするんだ。しかもこの子は聖獣だぞ。なんでこんな所にいるんだ?
まずは手当をしないとこの子は死んでしまう。
家に帰るより第一王子の所ならば近い。ブルーノは優しく口にくわえて王宮を目指した。
そして、ブルーノは第一王子の所へやって来た。
「どうしたんだい。その子は?」
「悪い奴から奪ってきたにゃ。とにかく手当をしてほしいにゃ。」
そう言うと第一王子にその子を差し出した。
第一王子はすぐに医者を呼んで手当てをした。
なんとか一命は取り留めたようだ。
そして、ブルーノはこの子を連れてきた経緯を第一王子に言った。
「この子は聖獣だね?どうしてそんな所にいたんだろう。」
「きっと人間に捕まって連れてこられたにゃ。あいつらをやっつけて凍らしてやりたかったにゃ。」
「そうなんだね?もっと取り締まりをしないといけないな。よし、私がなんとかしよう。白猫、この子は何処で見つけたんだい?」
「見つけた場所を教えるにゃ。」
そして第一王子は側近を呼んで、何やら話をしている。
ブルーノは子猫の様子を見ていた。
「もう大丈夫だにゃ。安心して寝るにゃ。」そう言って頭を舐めてあげた。
「みゅぅ…。」そう子猫が小さな声で鳴くとスヤスヤと寝てしまった。
「お前にこの子を頼んで大丈夫かにゃ?」
「ああ、私が責任を持って面倒をみよう。」
「さすが友達だにゃ。ありがとうにゃ。」
それからは前より頻繁に王宮に通うようになった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3週間ほど経った頃
ブルーノは第一王子の所にやって来た。
あの子は元気になったかなー?
その頃には食べ物より子猫が気になっていた。
第一王子は「来たのかい?」相変わらずニコニコしてブルーノを迎える。
「チビは元気になったかにゃ?」
「あぁ日に日に良くなってるよ。もう普通のご飯も食べられるようになったし傷も綺麗になったよ。」そう言いながら子猫が入った籠を見せた。
ブルーノは籠の中で寝ている子猫を見ながら
「よかったにゃ。」そう思った。
「白猫のおかげでこの子を捨てようとした者を捕まえたよ。サーカスで珍しい聖獣たちを見せ物にして芸をやらせていたんだ。そこにいた聖獣たちは酷い環境で飼われていたらしくてね。弱っていた子もいたみたいだ。もちろんちゃんと手当てをして元の場所に帰したよ。昨日、サーカスの聖獣入手先に調査を入れた所なんだよ。今回は君のおかげで沢山の聖獣が助かった。ありがとう。感謝する。」そう言ってブルーノに頭を下げた。
「王子様は頭を下げちゃだめにゃ。オレはあの子を助けただけにゃ。他の聖獣はお前が助けたんだにゃ。それこそ仲間を助けてくれてありがとうだにゃ。」
「白猫、これからも私と友達でいておくれ。」
「あったりまえだにゃ。」
「あの子猫の体力が戻ったら魔力も戻るにゃ。
そうしたら喋ることもできるにゃ。」
「そうなのかい?」
「あの子は南の火山のあたりに棲むファイヤーキャットだと思うにゃ。強い赤魔力を使う聖獣にゃ。」
「へぇ。喋れるようになるのが楽しみだ。」
「そうだにゃ。」
デートを楽しんで帰宅したアリーナはブルーノの衣装が気になっていた。
「お母様、ブルーノの衣装は決まった?」
「まだよ。とりあえずカタログを見てるの。」
「どれどれ、どんなのがあるの?」カタログを覗き込む。
「ブルーノは僕とお揃いは嫌だって言うんだよ。」とディビッドがアリーナに訴える。
「嫌がってるなら仕方ないわ。諦めなさい。」とアリーナが答える。
「お揃いだってかっこいいのに…。」どうやらディビッドは諦めきれない様子だ。
「そういえばブルーノ、礼儀作法とか大丈夫?」とアリーナはブルーノにきいた。
「全くわからんにゃ。」
「王宮からの招待なのにどうするの?」
「僕が教えるよ。ご挨拶とか歩き方とかでしょ?あと、ちゃんとフォークとナイフ使える?それと、話し方。自己紹介出来る?」デイビッドは口をはさむ。
「行くだけだから喋らなくてもいいんじゃないかにゃ?」
「ご馳走が沢山あるんだよ。フォークとナイフは使えないとダメだよ。」
「ご馳走が出るのかにゃ?」
「そうだよ。」
「じゃあ、お持ち帰りして食べるにゃ。」
「そうはいかないわ。お母様がちゃんとマナーを教えます。デイビッドも一緒に特訓ですよ。」と母が2人に言う。
「はーい。」
「はいにゃ。」
デイビッドとブルーノは母に返事した。
アリーナは「せめて野良と間違われないようにしてね。」とブルーノに言った。
ブルーノは「大丈夫だにゃ。」少し目を逸らしながら答えた。
「ところでお母様とお父様の衣装はどうするの?」
「私の分はお父様がプレゼントしてくれるみたいなのよ。だからまぁいいとしてーお父様のはどうしましょうねぇ。」
「作らないの?」
「お父様には一応制服があるからねぇ。それを着るのはちょっと今回はどうかしらねぇ。」
「お父様って制服なんてあるの?」
「まぁ、一応役人だから?あるけどねぇ…。あれはちょっとねぇ。」と歯切れの悪い感じで母が言う。
「わかった!その制服ってすっごくカッコ悪いんでしょ?」
「そういうわけじゃないのよ。とってもかっこいいのよ。でもねぇ…。」
「本人に聞いてみたらいいにゃ。」とブルーノが言った。
「そうね帰って来たらきいてみましょう。」
アリーナは父の制服?見た事あったっけ?と思った。
アリーナの父が帰って来た。
アリーナは
「お父様、舞踏会の衣装はどうするの?お母様がどうしようかなーって言っていたわ。」と聞いてみた。
父は
「私のはお母様のドレスと一緒に作ったよ。」と言った。
「もしかして、お揃い?」
「まぁな。お母様には内緒だよ。」とイタズラっぽく笑った。
こっちはお揃いだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜、アリーナはリリーに手紙を書いた。
怪我は良くなっただろうか。
マークの事で心に傷を負ってないだろうか。
デビュタントはどうするのか。
とにかく心配していると伝えたかった。
そして会って話しをしたいと。
それをしたためて封をしてブルーノに飛ばしてもらった。
翌日、リリーから返事が届いた。
久しぶりに会いたいう事だった。
アリーナはリリーの家に行く事にした。
リリーの家は大きなお屋敷で庭園には花が咲いてとても綺麗だった。
テラスに案内されてリリーを待つ。
久しぶりに会ったリリーは変わらず可愛いかった。
「久しぶり、元気だった?心配していたんだよ。」
「ごめんね心配かけて。もう大丈夫だよ。」
「そう、よかったわ。」
リリーは怪我した後、学校を休んでいた。怪我はそんなに酷いものでもなくすぐに治った。
しかし、マークとの事で心が傷つき引きこもっていた。
アリーナはマークについて父にきいていた。
自宅謹慎をしていたが、魅了で操られていた事がわかり停学にはならなかった。
今は正気に戻っているらしい。魅了で操られていた時の記憶はないそうだ。
リリーに暴言を吐いたりマークがアリーナを突き飛ばそうとして庇ったリリーが怪我をしたことを聞いて反省しているときいている。
リリーの心の傷は完全には癒えていないよう思えた。
リリーと話をしている時に庭の方からマークが花束を持ってやって来た。
「やぁ、リリー今日も来たよ。アリーナも来ていたんだね。」マークを見てリリーは少し俯いた。
マークは元気そうだ。でもなんか?
「今日の花はリリーが好きな黄色の花にしてみたんだ。どうだい?」リリーの顔をじっと見ている。
「もう花はいらないって言ったじゃない。花瓶がなくなるわ。」
「そうか、じゃあ今度は別の物を持ってくるよ」
「何もいらないわ。」目も合わせずに素っ気なく言う。
「今度は街で評判のお菓子を持って来るよ。」
「お菓子は太るわ。」
「大丈夫だよ。太ったってリリーはリリーだから。」
「……」下を向いたままリリーの顔が赤くなった。
「今日はアリーナもいることだからこれで。じゃあね。」と言うと帰って行った。
リリーはマークについて話した。
マークは正気に戻りリリーに酷いことをしたと親に聞かされてひどく落ち込んだ。
記憶が戻ってマークは最初リリーに会い土下座をして謝った。それから毎日リリーに会いに来ている。どうしてもリリーとの婚約を破棄したくないと言っている
原因が魅了ということで婚約はそのままになっている。
リリーの両親は「リリーが思うようにしていい。私達はリリーの考えを尊重する。」と言ってくれている。
アリーナは「愛だわ。」と呟いた。
リリーは「愛かしら?」と返した。
「リリーはマークに愛されてるのね。」
「そうかしら?婚約に執着しているだけかもしれないし。きっとマークは私のことを好きとか愛してるなんて思ってないわよ。」
「ふーん。そうかなー?」
それからデビュタントの話。
マークにエスコートをして貰うのを躊躇っているようだった。最悪、父や兄でいいやなんて言っていた。
それから、しばらく話してから帰ることした。
「休暇中にまたお茶しましょうね。」
「そうだね。それではごきげんよう。」
挨拶をして屋敷の門を出たところにマークが立っていた。門を出たところを待ち伏せされるのはあの事を思い出して少し怖かった。
「アリーナ、ちょっといい?。」そう言ってこちらに来た。
「僕、アリーナにも酷いこと言ったんでょ?本当に申し訳ない。ごめんなさい。」と頭を下げた。
「もう、大丈夫だよ。終わったことだし。」
「……。」
「……。」
「それで少しアリーナに相談したいんだけど。いい?」
「なに?」
「まだ、リリーとの婚約は継続しているんだけど、僕リリーに怪我させてしまって…嫌われてて…婚約破棄されそうなんだ。」と項垂れている。さっきより随分元気がない様子だ。
「リリーにきちんと謝ったんでしょ?」
「うん。謝ったんだけど…許してないみたいなんだよね。」
「そう?」
「以前と違って花を贈っても素っ気なくて目も合わせてくれなくて…僕のこと嫌ってると思う。」
「ひとつ聞きたいんだけど、マークは婚約者だからリリーに嫌われたくないの?」
「ちがうよ。リリーだから婚約したんだ。僕はリリーが好きなんだ。ずっと一緒にいたいんだ。だけどリリーは僕のことが嫌いで…。」
「ねぇマーク。私だったら嫌いな人から花を贈られても受け取らないし会わないわ。リリーはマークのこと嫌いじゃないと思うの。」
「そうかなぁ……。」
「それにずっと仲良かったじゃない。あんなことがあっても急に嫌いにはならないと思うの。」
「……」
「そうねぇ…今までマークはリリーにちゃんと想いを伝えていたかしら?さっき言ったみたいに、言葉に出して好きとか愛してるとか。あと可愛いとか?」
「……それは…ないかも…。」
「花もいいけど、言葉も大切よ。さっきみたいにちゃんと言葉で伝えてみたら?」
「……わかった…頑張って言葉で伝えてみるよ」
「ちゃんと伝わるといいね。」そう言ってアリーナは帰った。
それからすぐにマークは拳を握りしめ「よしっ」と気合いを入れた。
そして、リリーの家へ走って行った。
その後、リリーから手紙が届いた。
やっぱりマークのことが好き。だから許してあげた。
婚約はこのまま続行する。
そんな内容だった。
マークよかったね。
今日は王宮の舞踏会。
アリーナのデビュタントの日だ。
アリーナは侍女に手伝ってもらい身支度をする。侍女たちは気合を入れて朝からお風呂、髪や肌のお手入れ、全身のマッサージと時間をかけてアリーナを磨いている。
その頃、ブルーノもお風呂に入れられて身体中を洗われた。
「いつも言ってるにゃー!濡れるのはやだにゃーっ!!離してにゃー!!」
「ダメだよブルーノ。お風呂は入らなきゃ。
綺麗にしないと。せっかくかっこいい衣装を着るんだからね。ちょっとだけ我慢だよ。」
「ヴヴッ…」少し涙目になっている。
お父さんに言われてブルーノは我慢をした。
お風呂の外でディビットが「クククッ」と笑っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、夕方になった。
アリーナはヘンリックから贈られたドレスを着て化粧を施され、オレンジの髪は豪華に結い上げられた。
ドレスはデビュタントらしく白で胸元にはレースがあしがわられていてスカート部分は金糸の刺繍が上品に施され大きく膨らんでいた。
そこに、ヘンリックがやって来た。
ドアをノックして「支度は出来たかい?」そう言って部屋のドアを開けた。
「あっ……。」
「あっ……。」
2人は言葉も無く顔を赤らめていた。
「あらあら、2人ともお似合いだわ。」そうアリーナの母が言った。
ヘンリックは気を取り直して
「綺麗な君にこれを。」そう言って青い宝石が入ったネックレスとイヤリングを渡した。
「まぁなんて綺麗なんでしょ。」横から母がそれを見た。
「せっかくだからヘンリック君、それをアリーナに着けてあげて。」
ヘンリックは黙って頷いた。
少し手が震えたがアリーナに着けてあげた。
2人とも益々顔が赤くなった。
「ヘンリック、ありがとう。」
「どういたしまして。こんなに綺麗なアリーナをエスコートできるなんで僕は幸せだ。」
「私も幸せよ。ヘンリックだってすごくかっこいいもの。」
2人は顔を見合わせて微笑みあった。
後から来た父はちょっと涙ぐんでいた。
「グスッ…。」
「あらあら、あなた。お嫁に行くわけでもないのに。しょうがない人ね。」
そう言いながら背中に手を当てて撫でた。
そこにディビットとブルーノがやって来た。
2人はお揃いではない衣装を身につけていた。
髪もセットしてどこから見ても貴公子のような出立だった。
「ディビットもブルーノもかっこいいね。」
「そう?ありがとう。」
「どうだ、オレかっこいいだろう?」ふふんとブルーノは胸を張った。
「さっきね、ブルーノはお風呂で大騒ぎだったんだよ。」とディビットが小さい声でヘンリックに言った。
「ふふっそうだよね。濡れるの嫌いだもんね。」とヘンリックは笑った。
「それでは、お前たちは先に行ってなさい。」父はそう言って馬車まで見送った。
「先に行ってるねー。」
「お先に失礼します。」
2人は馬車に乗り王宮に向かった。
残された家族も身支度の仕上げをして出かけた。
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先に出かけたアリーナとヘンリックは手を繋いでお互い顔を見ながら微笑んでいた。
「そういえばー私ディビットとブルーノとダンスの練習はしたけど上手く出来ないわ。どうしよう。」
「ブルーノも練習したの?気合い入ってるねー。アリーナは大丈夫だよ。僕には秘策があるからね。」
「そう?」
「僕に任せて。」
どんな秘策かな?
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後から出た馬車では
「ディビット、ブルーノ、お行儀よくしてね。」
「そうだぞ。上品にな。」
「ご馳走ある?」ブルーノは目が輝いた。
「沢山あるが食べ過ぎちゃダメだぞ。」
「わかったにゃ。」
「誰かついてないと心配だわ。」
「僕がついてるよ。」
「んー心配が2倍かー。アンダーソン公爵のとこのビルバーグ君にでも頼むしかないかな?」
「ビルバーグ君ね。それもすこーし心配だわ。」
「なんとかなるよ。僕に任せて。」とディビットが言った。
さて?どうなるかな?
舞踏会の会場入り口までやって来たヘンリックとアリーナ。
ふたりは腕を組んで待っている。
「緊張してきた。」
「アリーナ深呼吸して。僕がついてるよ。」
名前を呼ばれる。
「ヘンリック・アンダーソン公爵令息とアリーナ・ホワイティス伯爵令嬢。」
「はひっ。」
「ふふっ大丈夫だよ。さあ、行くよ。」
ドアが開いて中に入る。
会場の天井には大きく豪華なシャンデリアが幾つもあった。たくさんの花が飾られて華やかな空間だ。楽器を演奏する人、料理や飲み物運ぶ人、多くの招待客がいた。
「わぁ…眩しいわ。」
「アリーナの方が眩しいよ。」
「そうかしら?」
「僕たちはそれぞれ家族で招待されてるから国王へ挨拶は別々になるかもしれないね。」
「離れたくないな。」
「それは、僕だって一緒だよ。」
「ヘンリックの家族は?」
「もう来てるはずだけど…。」辺りを見回す。
すると向こうの方から
「ヘンリックーこっちこっち。」と手を振る男の人が……。ビルバーグだ。
ビルバーグは弟が大好き。ブラコンのビルバーグにとってヘンリックを探すのは朝飯前だ。
「あっ兄さんだ。」
「ビルバーグ様、こんばんは。」
「こんばんは。アリーナ今日も綺麗だね?」
「ありがとうございます。」
「ヘンリック。今日は一段とかっこいいなぁ。アリーナもそう思うでしょ?」
「ふふっそうですね。」
そこに「こんばんは、アリーナ嬢。デビュタントおめでとう。」ヘンリックの父がアリーナに言った。
「本当に、おめでとう。お母様に似てとても綺麗だわ。」ヘンリックの母が微笑んだ。
「おじ様もおば様もありがとうございます。」はにかんで挨拶をした。
そこへ、ホワイティス一家がやって来た。
「アンダーソン公爵こんばんは。」
「おお、マーチス。こんばんは。」
「今日はめでたいなぁ。」
「そうですねぇ。」少し元気がない。
「もう、マーチスったらさっき、アリーナを見て泣いちゃったのよ。」
「ほう。マーチスがか?」
「だって俺の娘がこんなに大きくなったんだぞ。おまけに妻に似て綺麗だし。来年は嫁に出すなんて嫌だ。」
ヘンリックはギョッとして
「あのー僕とアリーナの結婚はだめでしょうか?」
「出来ればやりたくない。」
「それは困ります。」
「お父様困ります。」ヘンリックとアリーナは口を揃えてそう言った。
「あなた、2人のために我慢して下さいな。アリーナが行き遅れになったら困るでしょ。」そう言いながらアリーナの母は夫の背中を撫でてあげる。
「だって、だって」
「もう、仕方ない人ねぇ。よしよし。」そうなだめる。
「あらっブルーノ?背が伸びたのね。かっこいいわよ。」ヘンリックの母がブルーノに言った。
「ありがとうにゃ。オレはこの服とても気に入ってるにゃ。」
そこでヘンリックの父は下を向いて小さな声で
「野良にも衣装。プッ…クククッ。」と笑っていた。
そして、国王に挨拶をする順番がきた。今回はアンダーソン公爵一家とホワイティス伯爵一家が揃って挨拶をする。
国王と王妃、それに第一王子に第二王子か高いところで座っていた。
国王は「アンダーソン卿、ホワイティス卿。この度の事件解決に尽力をしてもらい感謝する。ブリーズ国王からも感謝の書簡とお礼が届いていおるぞ。」
「ありがたき幸せに存じます。」
「そしてアンダーソン卿の息子にもお礼が届いておるぞ。」
「ありがたき幸せに存じます。」
その間、第一王子はブルーノをじっと見ていた。
ブルーノも第一王子をじっと見た。しばらく、お互いに目を合わせていたがブルーノが先に目を逸らした。
そして「陛下少しよろしいでしょうか?」と第一王子が発言した。
「なんじゃ?」
「最近私に友達ができましてね。その友達にそこの使い魔ブルーノがとっても似ていましてね。」
とにこやかな笑みで言った。
ブルーノは冷や汗が出た。目線をどこに持っていけばいいのか?
マリーナは下を向いて顔を赤くしていた。
「ブルーノと話をしたいと思いますがいいでしょうか?」
「そうか、別室で話すといい。使い魔はとても珍しいからのう。」
「ありがとうございます。では、後ほど呼びにいかせることにします。いいね?ブルーノ?」
ブルーノはそれを聞いてピンッと耳を出してしまった。
アリーナは「ブルーノ、耳、耳」と小さな声でブルーノに言った。
ハッとしてブルーノは手で耳を押さえ下を向いて「はい。」と小さな声で答えた。
ホワイティス一家は苦笑いをしていた。
それをアンダーソン公爵は可笑しくてたまらなかったがなんとかポーカーフェイスん保ち堪えていた。腹の中では大笑いをしていた。
「それでは今宵の舞踏会を楽しんでくれ。」国王がそう言った。
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「ちょっとブルーノさん。どうするんですかー?」
アリーナがブルーノに冷たく言った。
「どうしよう。アリーナ。きっとバレたにゃ。」頭を抱えてる。
「耳が出ちゃうほど緊張したんだね?第一王子は怒ってないようだし大丈夫だよ。」
「ブルーノはねーご飯もらいに何回も第一王子のところに行ってたのよ。野良のフリして。私の使い魔だって知られたら恥ずかしいでしょ。」
「だって行くとご馳走だしてもらえるんだにゃ。当然行くにゃ。でも、オレは野良とも使い魔とも言わなかったにゃ。」
「へぇ野良のフリしてたの?」ディビットがアリーナにきく。
「そうよっ!そうよね?ブルーノさん!」
「アリーナ、あんまり怒ると美人さんが台無しだよ。ほらー機嫌なおして。」
「うん…。」
アリーナはヘンリックに宥められた。
ヘンリックの父とアリーナの父は
「やっぱりバレましたね。」
「そうだろうな。第一王子はカンがいいからなぁ。」
「まぁこの間のサーカスの件も第一王子とブルーノのおかげで摘発できましたからね。」
「そうだな。」
「これで野良扱いは終わりですね。」
「そうだな。プッ、クククッ。さっきの思い出しちゃったよ。アッハハハ。耳がぴょんって…プッククッ…」
爆笑だ。
公爵の笑い上戸は健在だった。
そして、ブルーノは別室に呼ばれた。
「アリーナ。どうしよう?」
「行くしかないでしょ。」
「……。」
「僕も一緒に行く?」ディビッドが心配そうにきく。
「今は行かない方がいいわ。後から迎えに行ってあげて。」
「うん。そうする。」
「ブルーノくれぐれも失礼のないようにね。お行儀よくしてね。」とお母さんが言った。
「はいにゃ…。」少しだけ元気のない返事をしてブルーノは別室にトボトボと向かった。
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別室では第一王子が待っていた。
「さあ、そこに座って。ブルーノ君。」
「はい。にゃ。」
「君は本当に僕の友達にそっくりなんだ。目の色もその髪の色もね。」
「こんな色はどこにでもあります。にゃ。」
「そうかい?感じる魔力もそっくりなんだけどねぇ?」第一王子は相変わらずにこやかだ。
ブルーノは下を向いて冷や汗を流した。
バレてる、完全にバレてる。
そこに、小さな女の子がトテトテとやって来た。おかっぱの黒い髪、金の瞳で可愛らしい子。
「白猫さん。」そう言ってブルーノのところへやって来た。
「お、オレはブルーノだ。白猫なんて知らないにゃ。」
「うそー白猫さんでしょう。私ね白猫さんにお礼がしたかったの。」
「お礼?」
「私を助けてくれたでしょ。ありがとうございます。にゃ。」
「お前!あのチビか?元気になったんだにゃ。人型にもなれたんだにゃ?よかったにゃー。」
「ねっ?白猫さん。」
「あっ!!ヤベッ!」
それを第一王子は目を細めて見ている。
「ふ〜ん。君はやっぱり白猫だったんだね?人型になると背も高いんだね。かっこよくて見違えたよ。」
「…ごめんなさいにゃ。言い出しづらかったにゃ。」
「どうしてだい?」
「だってお前はオレをずっと野良だと思っていただろう?」
「そうだねぇ。でも野良にしては君は綺麗だからねぇ。違うんじゃないかなーぐらいは思っていたよ。」
「そうなのかにゃ?」
「そうだよ。言ってくれたらよかったのに。」
「だってアリーナが使い魔だって言わないでっていうから……。」
「そうか、白猫はご主人の言うことをきいていたんだね?」
「そうにゃ。オレのご主人だからにゃ。」
「そうなんだね。白猫は偉いね。」
「……。」
「実はね君のお陰でサーカスの一味や聖獣の密猟者の摘発が出来たんだ。お礼がしたくてよんだんだよ。」
「お礼か?オレは別にお礼はいらないにゃ。」
「そうかい?それならご馳走するよ。また遊びに来てくれるかい?友達だろう。」
「それならいいにゃ。」
ブルーノの顔がパァと明るくなった。
「それとね、この子なんだけど私から離れなくてね。私が世話をすることにしたよ。まだ小さいから使い魔にするのは早いし今は黒猫と呼んでるんだよ。そこで白猫にお願いがあるんだ。」
「お願いかにゃ?」
「この黒猫に色々教えてほしいんだよ。狩りだってした事ないだろうし魔力の使い方とかも。」
「別にそれぐらいは教えてやってもいいにゃ。」
「そうか、よかったな。黒猫。」
「お願いしますにゃ。白猫さん。」
「おう、まかせとけ。」
「後から君のご主人にも伝えるからね。」
そしてブルーノは黒猫の先生になった。
「ご馳走を持って来させるから食べていきなさい。」
「ご馳走かにゃ?嬉しいにゃ。ちゃんとナイフとフォーク使えるにゃ。」
「器用なんだね。」
「お母さんと練習したんにゃ。」
「そうなんだね。」
そしてディビットが迎えに来るまでご馳走を食べていた。 第一王子は微笑みながらブルーノを見ていた。
ノックの音がして「ディビット・ホワイティスです。ブルーノを迎えに来ました。」と声がした。
「おや、お迎えが来たね。たくさん食べたかい?」
「食べたにゃー。」
「そろそろダンスの時間だよ。君もダンスをするかい?」
「オレ、アリーナとディビットと練習したにゃ。」
「それじゃホールに行ってダンスをしよう。」
「わかったにゃー。行くにゃー。」
ブルーノは黒猫を連れてホールに行った。
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ダンスが始まる。
アリーナにヘンリックが礼をし手を差し出す。
「アリーナ。踊っていただけますか?」
「はい喜んで。」とアリーナは手を取って踊り出す。
「ヘンリック。ステップがうまく出来ないわ。足を踏んだらどうしよう。」
「大丈夫だよ。僕に任せて。」そう言って手をアリーナの足元に向けた。
するとどうだろうアリーナの足がすぅーと浮き上がる。ドレスの裾があるので周りからは見えない。
「ねっ踊っているみたいでしょ?」
「わぁすごい。これならヘンリックの足を踏まないわ。」
2人は楽しそうにクルクル回りながら踊る。
ヘンリックの両親もアリーナの両親も楽しそうに踊る。
ブルーノは小さな黒猫を抱き上げて踊る。
第一王子とディビットはそれを見ている。
ビルバーグは相手がいないので見ていた。それでもヘンリックが踊っているのを見てるだけで嬉しかった。オレの弟は様になってるなー。かっこいい。
一曲目が終わり二曲目になった。
ヘンリックとアリーナはまだ踊る。
ブルーノは黒猫を第一王子に渡しディビットのところへやって来た。
「ブルーノ、大丈夫だったの?」
「うん。大丈夫だったにゃ。第一王子とオレは友達だからにゃ。」
「友達?」
「そうにゃ友達にゃ。」
アリーナは踊りながらまわりを見た。
リリーとマークが笑いながら踊っていた。
あれはーリリーとマークだわ。仲直りしたのね。よかった。
「アリーナ、よそ見しないで。」
「ごめんね。友達がいたから。」
「僕を見てよ。」
「わかったわ。」
2人は見つめ合って微笑んだ。
ダンスを続けて踊ったふたりは、
「喉乾いたねー」
「そうね。」
2人は飲み物をもらってバルコニーで休憩をした。
空には満天の星が出ていた。
「星が綺麗だね。」
「アリーナの方が綺麗だよ。」
そう言ってヘンリックはアリーナの頬にキスをした。
アリーナは顔も耳も赤くなった。でも、ちょっとだけ勇気を出して「お返しよ。」とヘンリックの頬にキスのお返しをした。
2人はおでこをくっつけて笑い合った。
「あらためて言うよ。アリーナ、僕と結婚して下さい。」
「ふふっ。はい。喜んで。」
2人は抱き合って唇にキスをした。
それを、星が見ていた。
今日はアリーナの卒業式。
両親やヘンリック、なぜかブルーノも来ている。
第一王子は卒業生代表として挨拶をした。
ブルーノは
「立派なアイツはオレの友達だにゃ。アイツの卒業式に来れて嬉しいにゃ。」と小さな声でヘンリックに言った。
「そうなんだね。素晴らしい友達だね。」そう笑って言った。
実はブルーノは第一王子に招待されていた。
卒業式が終わればパーティーが開かれる。
ブルーノにはそっちの方がメインだった。
卒業生は式が終わると各々着替えてパーティーに望む。
アリーナもドレスに着替えておめかしをする。
今回もヘンリックがアリーナにドレスを贈った。
「アリーナ。卒業おめでとう。よく似合ってるよ。綺麗だね。」
「ありがとう。ヘンリックも素敵よ。」少し赤くなってアリーナは答える。
両親もふたりを見ていたが、父の目には涙が溢れていた。母は父の背中を摩っている。
ブルーノはこれどっかで見たな?と思った。
第一王子の挨拶でパーティーが始まった。
音楽が流れダンスが始まる。
卒業生は婚約者がいれば一緒にダンスをする。
アリーナとヘンリックはもちろんあの秘策を使って踊る。
くるくるまわりそれはそれは楽しそうに。
その隙にブルーノはご馳走が並べてあるテーブルへ向かった。それを両親が慌てて追いかけて行く。
そんなブルーノに第一王子が声をかけた。
「やぁ、白猫。こっちにはお肉があるよ。」
「えっ肉?どこ?」
「こっちだよ。」と手招きをする。
「うわぁーすごい。よし、たくさん食べるにゃ。」
両親はそれを見て少し離れた。
第一王子は離れたところにいる父に声を掛けた。
「ホワイティス卿、来ていたのか?」
「これはこれは第一王子。うちのブルーノまで招待していただきありがとうございます。」
「私と白猫は友達だからな。」と笑った。
「そうにゃ。友達だもんにゃー。」とブルーノ。
「恐縮です。」そう父は言った。
「白猫にはいろいろと世話になってる。これからも遊びに来てほしいと思ってるんだよ。」
「まぁブルーノも役にたててよかったです。」
「白猫が連れて来てくれた聖獣がとても懐いてくれてね嬉しく思ってるんだ。」
「あーあの時のですね?」
「そう。あの聖獣に白猫はいろいろと教えてくれて、今は少し魔力を使えるようになったんだ。」
「使い魔にはされないのですか?」
「まだ子供だからしていないよ。そういうことは本人の意思も確認しないといけないだろう?」
「そうですね。それは大事なことです。第一王子のような方に世話になってその聖獣は幸せですね。」
「私もそう思って貰えるようにしたいものだな。」
そこに、
「なぁ、今度はお菓子が食べたいにゃ。どこにあるのかにゃ?」とブルーノは話に割り込んだ。
「お菓子はあっちの方にあるよ。一緒に行こうか?」と第一王子はブルーノに優しい。
「よし、行くにゃ。」
「では、卿もゆっくりしていくといい。」
第一王子はブルーノとお菓子を目指してあっちの方に行った。
両親は顔を見合わせてぽかんとしてしまった。
「あなた、アレいいんですか?」
「まぁ、アレでいいんだろうなぁ。アリーナには叱られるだろうけど。」
「そうですねぇ。」
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ところでマークとリリーはどうなったかって?
マークはあの後、リリーにきちんと告白をした。そしてリリーはやっぱりマークが好きだったので許すことにした。
王宮の舞踏会でマークがリリーをエスコートして、ダンスを踊った。
アリーナがダンスの時に見たふたりは嬉しそうに踊っていた。
舞踏会の翌日にマークはリリーにあらためて結婚の申し込みをした。リリーはそれに「はい。」と答えた。
結婚式はマークの領地で行い次期は卒業して半年後にする。
それまではリリーはマークの領地で花嫁修行と結婚式の準備をすることになっている。
ちなみに、マークの領地はリリーの家の領地の隣にある。
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ヘンリックとアリーナは卒業後結婚をする事になっている。
こちらは、1年後。
アリーナの父が駄々を捏ねたので予定よりも遅くなった。
それまで、アリーナは今いる首都のタウンハウスで結婚式の準備をする。
ヘンリックは次男のため、本来は跡取りではないので公爵を継ぐことは無い。
しかし、功績が認められ伯爵の爵位を国王から叙爵されてブルーライト伯爵となり正式に外交官となった。
勤務先が王宮のため首都に新しい屋敷を構えることになっていた。準備はヘンリックが早くからしていたのでもう屋敷は出来上がっている。
結婚と同時にブルーノもその屋敷に移る。
結婚式は首都の教会で行われる。
そう、あの教会だ。
卒業式から1年後
今日はアリーナとヘンリックの結婚式。
空は晴れ渡りとてもいい天気だ。
あの、教会で行われる。
控え室ではアリーナが準備をしていた。
ウェディングドレスを着て化粧を施され
髪も結いあげられた。
そして白いレースのベールをかぶった。
ここで、時間になるのを待つ。
そこに両親、弟、ブルーノがやって来た。
正装の父はもう号泣だった。鼻水まで垂れていた。父以外みんな苦笑いをしている。
「あなた、アリーナのエスコートできますか?しゃんとして下さい。」母が父に言いながら涙をハンカチで拭ってあげている。
「うぇっううっ…ぐっ…うわぁん」返事も出来ない父。
「お父様、いい加減に泣き止んで下さい。エスコートを誰か別の人にしますよ。」
「それは…ヒック…やだ…私がする。」
「それじゃ、泣かないで下さいね。」
「うん……グズッ」
アリーナが
「ディビッドもブルーノもとてもかっこいいわね。」
「ありがとうございます。姉上もとても綺麗です。」
「そうだろう?オレかっこいいだろ?今日のアリーナはとても綺麗だにゃ。ヘンリックのヤツ、びっくりするんじゃないかにゃ。」
「そうかな。」アリーナは顔が赤くなった。
「ねぇ、ブルーノも姉上と一緒にいっちゃうんでしょ?僕ちょっと寂しいな。」
「そうかー?どうせすぐに会えると思うにゃ。首都にいるんだしにゃ。」
「そうだけどさー。」少し寂しそうに言った。
「そろそろお時間です。」そう声がかけられた。
父はビクッとした。
「あなた、頑張って。」妻にそう言われてうなずいた。
そして、父はアリーナをエスコートして向かう。
「お父様、今まで育ててくれて、そして愛情を注いでくれてありがとうございます。」そうアリーナに言われて父は
「うんうん」と頷くことしかできなかった。
やがて式場の扉の前まで来た。
アリーナと父はそこで深呼吸をして背筋をのばす。
扉が開いた。
赤い絨毯の先にヘンリックが立つ。
ヘンリックは目を大きく見開き手を口元にもっていった。なんて綺麗なんだ。
アリーナはヘンリックの正装姿を見て眩しいと思った。なんてかっこいいの。
ヘンリックに向かってふたりは歩いて行く。
一歩一歩ゆっくりと。
「アリーナ、君が私達のところへ来てくれて育てさせてくれてありがとう。幸せになってくれ。」そう父は言った。
「はい。」
ヘンリックのところへたどり着き
「ヘンリック君、アリーナをよろしくお願いします。」そう言ってアリーナの手をヘンリックに渡した。
ヘンリックは「はい。絶対に幸せにします。」そう言ってアリーナの手を取った。
アリーナとヘンリックは祭壇へと向かう。
それを父は泣きながら見ていた。
祭壇にはあの神官長が立っていた。
にっこりと微笑んで中央へふたりを促す。
「さあ、こちらへ。」
そして式が始まる。
「汝、ヘンリック・ブルーライトは病める時も健やかなるときもアリーナ・ホワイティスを生涯の伴侶とし愛することを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「汝アリーナ・ホワイティスは病める時も健やかなる時もヘンリック・ブルーライトを生涯の伴侶とし、愛することをちかいますか?」
「はい、誓います。」
「それでは指輪の交換です。」
アリーナは緊張で少し手が震えていた。
それでもなんとか指輪の交換ができた。
「それでは、誓いのキスをお願いします。」
ヘンリックはアリーナのベールをあげてとてもいい顔で微笑んだ。
「とても綺麗だ。」そう言ってアリーナの唇にキスをした。
アリーナは嬉しくて涙をポロッと落とした。
「これで神に誓いは届けられました。どうぞお幸せに。みなさん祝福を。」
ふたりは手を繋ぎ教会の絨毯を歩き出す。ふたりの両親、兄弟、ブルーノそして、招待客にブリーズ国のクラーク、アレン王子、リリー、マークなど、顔見知り達の笑顔があった。みんなの祝福の中を歩く。
教会の外に出てもたくさんの人がふたりを祝福していた。
ヘンリックは手を空にむけて魔力を使った。
空に虹が出て花や花びらが降ってきた。
そして小さな光もたくさん降ってきた。
それを見た人たちは一斉に歓声を上げた。
「どう、綺麗でしょ。アリーナには負けちゃうけど。」
「ううん。とても綺麗ね。ありがとう。」
ヘンリックはアリーナを抱き上げ
「しあわせになろうね。」
「うん、しあわせになろうね。」
ふたりは微笑み会ってキスをした。
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結婚式の後
泣き止まない夫に妻は優しく涙を拭いてあげていた。
ディビッドとブルーノはそれを苦笑いして見ていた。
公爵は
「マーチスが泣いてる。あのマーチスが……。鼻水まで垂らして…」その時は我慢をした。
が、あとになって思い出して大笑いをしていた。
ビルバーグは
「さすがオレの弟。すごいだろう?かっこいいだろう?」とみんなに自慢していた。
公爵夫人は
夫と長男はどうしてこうなったのかしら?と首を傾げていた。
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登場人物
アリーナ…この章の主人公、ヘンリックの妻
ブルーライト伯爵夫人
ヘンリック…アリーナの夫、外交官、ブルーライト伯爵、強い魔力の持ち主
ブルーノ…アリーナの使い魔、聖獣、第一王子の友達、食いしん坊
ホワイティス伯爵…アリーナの父、グラン国の役人?けっこう泣き虫
ホワイティス伯爵夫人…アリーナの母
ディビッド…アリーナの弟
アンダーソン公爵…ヘンリックの父、グラン国魔法騎士団長、笑い上戸
アンダーソン公爵夫人…ヘンリックの母
ビルバーグ…ヘンリックの兄、グラン国魔法騎士団第一部隊隊員、極度のブラコン
クラーク…ブリーズ国王宮専属魔法師団長、ヘンリックの魔法の先生
アレン王子…ブリーズ国第一王子
神官長…首都の教会の神官長
リリー…アリーナの友達、マークの妻
マーク…アリーナの学生時代の同級生、リリーの夫