君と二度目の恋をする  あやかし屋敷

「うふふ。怖い顔ね」

おかしそうに少女が笑った。

「でも、ここを通すわけにはいかないの」

少女は黒い霧を手に集めた。

「あれって…」

「邪気か?」

それはやがて杭のような形になって宙に浮いた。

紫音と花蓮に狙いを定めて飛んで来た。

二人は慌てて避けた。

「やっぱり一つじゃ当たらないわよね。でも、これならどう?」

今度はたくさんの杭が飛んで来た。

そのうちの一つが紫音の服をかすめた。

「…!!」

「紫音!」

花蓮は弓矢を出して少女に向かって矢を放った。

しかし、少女は軽々と避けて涼しげな表情をしている。

「ねぇ、それって巫女の道具の一つだよね。そんなのが使えるってことは、それなりの霊力はあるんでしょ?」

再び杭が飛んで来た。

紫音も刀を出して、叩き落とした。

「あはは!すごい。二人とも巫女の道具を持ってるなんて。じゃあ、私も本気で相手してあげる」



要と隼人は長い廊下を歩いていた。

「何でいきなりこんなところに落ちてきたんだ?」

要が腰を抑えながら立ち上がった。

「多分、みんな別々の場所にいるはずだ」

「あらあら、人間がいるじゃない」

声が聞こえて、二人は足を止めた。

目の前に女が現れた。

「あなたたち、迷ったの?」

どこか怪しげな雰囲気があった。

「いえ…別に」

要が一歩後ろに下がった。

「もし迷っているのなら、案内してあげましょうか?」

女がすーっと近づいてきた。

その様子から、とても人間には見えなかった。

「おい、逃げるぞ」

要が隣にいる隼人に言った。

「ダメよ。逃さないわ」

低い声で女が言った。

女は一枚の葉っぱを取り出して口に当てた。

草笛だ。

不気味な低い音が響いた。

その音色に引き寄せられるように、邪気が集まって来た。

「おい…どうするんだ」

要が札を取り出した。

「とにかく浄化を…」

要が札を投げつけた。

だが、跳ね返されてしまった。

「私の草笛で霊力を増した邪気は簡単には祓えないわよ」


真白は、どこかの部屋にいた。

「私どうしたんだっけ?確か鏡に引きづり込まれて…」

強い力で掴まれたので、腕には手の跡が残っていた。

「とにかく、ここから出ないと」

真白は出口を探すために部屋を出た。

廊下は、真っ暗な闇が続いていた。

床はところどころ抜けており、蜘蛛の巣が天井に張っていた。

(あれ?なんか、前に見た夢と似てる…?)

そのとき、黒い霧が現れて真白を飲み込もうとした。

(嘘でしょ⁈)

黒い霧が出てくるところまで同じだった。

もうだめだ、と思い目をつぶった。

シャリン−

鈴の音が聞こえた。

「大丈夫か?」

若い女性の声が聞こえて、真白は目を開けた。
真白の目の前にいたのは、若くて綺麗な女性だった。

「大丈夫です」

あの黒い霧は跡形もなく消えていた。

(この人、誰かに似てるような…)

「行くぞ」

女性が優しく声をかけてくれた。

「はい」

真白は返事をして、女性の後をついていった。

真白は女性の後を黙ってついていった。

「あの、お名前を伺ってもいいですか?」

女性がくるりと振り向いた。

「ん?私は…」

女性が言いかけたとき、近くで爆発音がした。

「何⁈」

真白は驚いて耳を塞いだ。

「向こうからだ!」

二人は急いで爆発音が聞こえた方向に向かった。

そこでは要と隼人が女と戦っている最中だった。

「要!隼人!」

真白が近づこうとしたとき、女性が止めた。

「危険だ!君は下がっていろ!」

「でもっ!」

要と隼人は邪気に囲まれていた。

「私がやろう」

女性は、さっきの鈴を鳴らした。

すると、邪気が一瞬で消えた。

「え?」

突然のことに要と隼人は戸惑っていた。

「邪気が!どうして!」

要と隼人を攻撃していた女は、混乱しているようだった。

「お前だな。屋敷を邪気で溢れ返させていたのは」

「な、何よ?あなた!」

鈴だけで一瞬にして多くの邪気を消し去ってしまったことに女は取り乱していた。

「私は退魔師。桜咲(なぎさ)。お前を祓いに来たものだ」


(えっ桜咲⁈)

要と隼人も驚いた顔をしている。

「私を祓いに?」

「だってお前はあやかしだろう?それとも誰かの式神か?」

「私は、綾女(あやめ)様の式神だ」

「他にも式神がいるようだな。前から邪気が多いと聞いてはいたが、これほどとは…湊を呼んで正解だったな」

(やっぱりこの人、生徒会長のこと知ってるんだ)

何か関わりがあるのだろうか?

同じ苗字だから親戚かもしれないと真白は思った。

「その綾女と言うのはどこにいる?会わせろ」

渚が鋭い目つきで睨んだ。

「綾女様はおまえごときが話せる相手じゃないのよ!」

黒い邪気が渚に向かって飛んで来た。

それも鈴で浄化した。

「次はお前だ」

渚は女に鈴を向けた。


慧と千輝は、春香と真白を探して屋敷の中を歩いていた。

「無駄に広いな。これじゃあ、時間がかかってしょうがない」

慧は、紙に何か書いて上に投げた。

それが一人で動き出した。

「あれを追うぞ」

「はい」

そのまま追っていくと春香が倒れていた。

慧と千輝は駆け寄った。

「おい!本条!しっかりしろ!」

慧が体を揺さぶると春香は目を開けた。

「ここは?そうだ私、真白を探して…」

「どうやってここに来たの?」

千輝がしゃがんで聞いた。
「床に落ちていた化粧道具を開けたら、鏡が光出して…」

「もしかして、これ?」

千輝が落ちていた化粧道具を拾った。

「それです!」

開けて見てみたが何も起こらない。

「何ともないな…」

「とりあえず、ここを出よう」

三人は、部屋を出た。

「次は柏木だ。行くぞ」



湊は鵺とともに青年と戦っていた。

「さすがは鵺。位の高いあやかしなだけある。だが、人間であるお前がなぜあやかしを呼び出せる?」

「貴様に教える義理はない」

鵺は、槍のようなものを取り出して、青年に突きつけた。

「くっ!」

槍を向けられた青年を壁に追い詰めた。

湊は鈴を取り出した。

「お前、邪気から作られたあやかしだな?主は誰だ?」

「答えるつもりはない」

「そうか。わかった」

湊が鈴を鳴らすと、青年は消えていった。

「なぜ主を聞き出さなかった?」

「あいつの手の甲に模様があったんだ。誰かの式神でそいつが命令してたのかもしれない」



「あはは!体中穴だらけだね」

紫音は、肩から血が滲んでいた。

「巫女の道具持ってるから少しは強いのか思ったけど、まだ上手く使いこなせてないね!」

花蓮が弓矢を放った。

「なっ…」

少女が油断していたところを狙った。

矢は少女の胸に刺さった。

少女の体から白い光の粒が出て消えていった。

「消えた…」

花蓮かホッとしたとき、紫音が膝をついた。

「紫音!」

花蓮は紫音に駆け寄った。

肩だけではなく他のところにも傷があった。

花蓮が肩に触れると、手に血がついた。

「あ…」

そのとき、花蓮の脳裏に幼馴染と飼い猫を失った時の記憶が蘇った。

花蓮の手が震えた。

「大丈夫だ」

花蓮の震える手を、紫音が握った。

「紫音…」

「早くみんなと合流するぞ」

花蓮と紫音は立ち上がった。



結奈と天音は、青年との戦っている最中だった。

「さっきまでの勢いはどうしたの?」

青年が嘲笑ってきた。

霊力をかなり消耗していた。

「結奈、次で終わらせてないと体力が持たなくなる。私の合図に合わせてくれる?」

「うん。わかった」

天音が結奈を見て言った。

結奈は息を切らしながら頷いた。

天音と結奈が構えた。

結奈が笛を吹いて、天音が扇子を広げた。

すると周りには、青白い玉が浮かんだ。

「何だ?これは…」

青年がそれに触れると、体から白い光が出てきた。

「しまった!」
そのまま、青年は消えていった。

結奈と天音は、床にへたり込んだ。

「はぁ…はぁ…」

大きく息をして、呼吸を整えた。

「早く…みんなのところに行かないと」

二人はフラフラと立ち上がって、歩き出した。

「全員、やられたか…」

鏡で女が様子を見ていた。


真白たちは、他にはぐれた仲間を探していた。

「君たちは湊と同じ学校なのか」

「はい」

真白が答えた。

「私は湊の姉だ。年は二つ離れている。今までは京都に修行に来ていてあまり会っていなかったな」

「修行?」

真白は疑問に思って尋ねた。

「京都に仲のいい術師の家があって、そこで巫女の力を引き出せる修行をしていたんだ」

(そんなことができる場所があるんだ)

曲がり角で誰かとぶつかった。

「紫音!花蓮!」

二人とも傷だらけだ。

「どうしたんだ?その傷」

「この屋敷にいたやつにやられた。なんとか浄化できたけどな」

紫音が苦しそうに息をしながら言った。

「早く治療しなければ。だいぶ弱っているな。私はこの子達を連れて一旦屋敷を出る。君、手を貸してくれるか?」

渚は隼人に言った。

「でも、どうやって出るんですか?」

「来た道は覚えている。君たち二人も一緒にくるか?」

聞かれた真白と要は首を振った。

「私たちはまだここに残ります。天音と紫音を連れて、戻ってください」

「わかった。気をつけろ」

「早くみんなを見つけなきゃ」

真白と要は再び歩き始めた。

すると、前方から誰か歩いてくるのが見えた。

春香と慧と千輝だ。

「春香!」

真白は春香に呼びかけた。

「真白⁈」

こちらに気づいて駆け寄ってくる。

「よかった。あとは結奈と天音だけですね」

要が安心したように言った。

『それなら、またこいつで探すか」

慧が人型の紙を取り出して、結奈と天音の名前を書いた。

「これであの二人の居場所がわかる」

人型の紙は宙に浮いて、前に進んだ。

「追いかけるぞ」

紙を追っていくと、廊下にうずくまっている結奈と天音がいた。

「結奈!天音!」

真白が呼びかけると、二人は顔を上げた。

その顔は真っ青だった。

「霊力の使いすぎで、体に力が入らなくて…」

結奈がか細い声で言った。

二人は慧と千輝がおぶった。

「紫音と花蓮はどこにいるんだ?」

慧が言った。

「その二人なら、渚さんと隼人が連れて行ってくれました」

真白が説明した。

「渚…?あぁ、あいつか」

「高嶺先生、知ってるんですか?」

要が聞いた。

「子供の頃に会ってるんだ。そのあとすぐに渚は京都に修行に行ったけどな。最近結婚したみたいで、そのままこっちに住んでいるとは聞いていたが…」

「あ、よかった。みんないたんですね」

湊が歩いてきた。

「湊、屋敷の出口まで案内してくれないか?結奈と天音が辛そうなんだ」

湊はおぶられている二人を見て深刻な顔をした。

「…これは、早く休ませないといけないですね」

真白たちは、湊に案内されて、屋敷の外に出た。

真白は屋敷から出る直前、何かが背中に触れた気がした。

「ん?」

背中に触れたが特に変な感じはしなかった。

「真白、急いで」

要に言われ、走り出した。

屋敷から出てすぐに湊のスマホが鳴った。

「姉さん?」

通話ボタンを押して、電話に出た。

「もしもし姉さん?え?家に?…うん。わかった。すぐ行くよ」

湊が電話を切った。

「えっと、隼人たちのことを俺の姉さんが家に連れてったみたいだから、ついてきてくれますか?」

真白たちはそのまま湊のあとをついていった。


旅館がある場所から遠く離れた場所に来た。

そこには立派な屋敷があった。

見た感じは洋風だ。

「湊!」

「姉さん、天音と結奈を寝かせてあげて」

渚はちらっと天音と結奈を見た。

「わかった。こっちだ」

慧と千輝は渚のあとをついていった。

「みんなも疲れたでしょ?中に入ろう」
真白たちは屋敷に足を踏み入れた。

「あ!お客さん?こんにちは!」

尻尾が二つに分かれた猫が話しかけてきた。

「え⁉︎」

真白と春香は驚いた。

「あぁこれは猫又だよ。猫の妖怪だ」

すると今度は着物姿の女の子がいた。

「いらっしゃい…」

小さく言うと、すぐに逃げていってしまった。

「あれは座敷童子だね。この屋敷に住みついてるんだ」

湊が真白たちに説明した。

「この屋敷にはいろんなあやかしが住み着いているんだよ」

湊が真白たちに説明した。

「あ、湊くんひさしぶり」

若い男性が出てきた。

「お久しぶりです。(あきら)さん」

湊は頭を下げた。

「どうぞあがって」

「お邪魔します」

人の良さそうな感じの男性だった。

「君たちもどうぞ」

晶は真白たちを見て言った。

「お、お邪魔します」

真白たちは屋敷の中に入った。

「今は、百鬼夜行の祭りの準備をしてるから、屋敷はほとんど誰もいないんだ」

晶は、歩きながら説明した。

「ずいぶん早いんですね」

湊が言った。

「うん。来年の祭りは特別だからね。今から準備しておかないと間に合わないくらいなんだ」

そのまま空いている部屋に通された。

「今日は君たちが来るのを聞いてたから準備しておいたんだ。元々泊まってた旅館は、調査で宿泊できなくなっちゃったから」

「ありがとうございます」

「右が男子左が女子の部屋になってるから。あとさっき渚が連れてきた四人は手当もしたし、休めば元気になると思うよ」

「よかった…」

真白はホッと胸を撫で下ろした。

「じゃあ、僕は仕事があるから行くね。何かあったら、お手伝いさんがいるからその人に頼んで」

晶はそう言い残して歩いて行った。

「天音たち大丈夫かな」

四人ともかなり辛そうにしていた。

「大丈夫だよ。休めば回復するって言ってたでしょ?」

要が優しい声で言った。

「四人が回復するまでここにいることになるけど、大丈夫そう?俺もこんなことになるとは思ってなくて…」

湊が申し訳なさそうに言った。

本来なら、一泊で帰る予定だったのだ。

しかし、あの状態では何日後に回復するかはわからない。

「春香、大丈夫そう?」

真白が隣にいる春香に聞いた。

「うん。一応連絡は入れておく。冬だし、雪で帰れなくなったって言えば怪しまれないと思うけど…」

春香の母親は、少し春香に対して過保護なところがあった。

「私のお母さん、私に対して少し心配性なんだよね。真白のことも同じくらいに気にかけてほしかったんだけど…」
確かに真白は、春香の家で暮らしていた時は無関心でいられることの方が多かった。

でも、真白はあまり気にはしていなかった。

「…連絡してくるね」

「俺も 家に連絡しなきゃいけないから一緒に行くよ」

そう言って、二人は歩いて行った。

(春香、どうしたんだろう?)

「真白は、怪我とかしてない?」

要が話しかけてきた。

「うん。私は大丈夫」

「よかった。いなくなったって聞いた時は驚いたけど」

あのとき、鏡を見たらいきなり白い手が出てきたのだ。

まだ真白の腕には掴まれてできた手の跡が残っている。

「…最近、鏡を見ると歪んだり、女の人が見えたりするの」

「え?」

「これって、何でなのかな」

要は考え込んだ。

「たぶん、真白の霊力に引き寄せられているんだと思う。真白の霊力は彩葉と同じくらい強いから。霊とかも普通の人間として見えてることとかなかった?」

真白がまだ両親と暮らしていた時は、頻繁に霊を見ていた気がする。

幽霊とは気づかず、一緒に遊んでいたこともあったほどだ。

今はそういうものは少なくなった方だとは思う。

「小さい頃は頻繁に見てた気がする。今は見分けがわかるようになったから近づかないようにしてるけど」

「…そっか。でもその鏡に映る女性は何なんだろう?何かあったら言ってね」

「ありがとう」

要は優しい。

(なのになんでこんなに不安なのかな…)

あの時、よく考えずに返事をしたつもりはない。

「真白」

要が真白の頬を両手で包んだ。

「もしかして、俺と付き合ってるの、不安?」

「えっ」

(見抜かれてた…?)

「…うん」

真白はゆっくり頷いた。

「やっぱり。そうじゃないかと思ってたんだ。俺といるとき、居心地悪そうにしてた時があったから」

「えっと…ごめん」

「謝らなくていいんだよ。ゆっくりでいいから、俺のことを知っていってほしい」

その言葉に真白は少し胸が軽くなった。

「うん。ありがとう」


 

春香は母親に電話していた。

「だから、帰るのが遅くなりそうなの」

スマホから不機嫌な声が聞こえてきた。

『春香、最近出掛け過ぎじゃない?何してるの?』

「友達と旅行に…」

『それってどんな子達なの?』

「みんな優しいよ。だからそんなに心配しなくても大丈夫だから」

しばらく沈黙が流れた。

「お母さん?」
『…あの子もいるの?真白』

予想外のことに驚いた。

(お母さん、真白のこと気にしてるのかな…)

「いるよ」

「…そう」

再び沈黙が流れた。

「お母さん、何か伝えたいなら…」

春香の言葉を遮った。

「何も言うことなんてないわ。とにかく、なるべく早く帰ってくるのよ」

そう言い捨てて、電話が切られた。

春香はポケットにスマホをしまった。

(お母さんと真白に、ちゃんと話してほしい。私もお母さんに酷いこと言ったこと、ちゃんと謝りたい)

「本条さん、電話終わった?」
 
「はい」

「俺も今終わったんだ。戻ろう」

湊と春香は、長い廊下を歩いた。

「本当に広いですね。この家。術師がいる家系なんですよね」

「うん。退魔師とは少し違くて、除霊とかを専門にしてるんだ」

「それって霊とかですか?」

「霊もあるけど、生霊とかもいたね。退魔師と協力することもあるから、仲はいいんだ。姉さんは、三人兄弟の末っ子と結婚したんだよ」

元々その末っ子は、結婚したら別邸に住むように言われていたそうで、婿入りしたと言う。

なので苗字はそのままになった。

「本当は長男と結婚するはずだったんだけど、性格が合わなかったらしいんだ」

渚は昔から気が強かった。

同じく気が強い長男とは衝突が絶えなかった。

「でも、来年の百鬼夜行が終わるまでは、本家に行かないといけないから、姉さんも最近不機嫌だったんだよね。それに加えて、桜咲家の本家もあんな風になってたから俺に連絡してきたんだ。あの鏡のことも聞きたかったから引き受けたんだけど、危ない目にあわせてごめんね」

「いえ、私は危険な目にはあっていないので、大丈夫です」

「そっか。ならよかった」

湊はほっとした顔になった。

「ところで、いつもはもっと人がいるんですか?」

「人っていうよりあやかしが多い。人間は姉さんと旦那さんの晶さんだけだね」

「でもさっき、お手伝いさんがいるって…」

「それもあやかしだよ」

(まるであやかし屋敷だ…)

「クワッ」

庭にある池の方から声が聞こえた。

見ると、河童がじっと春香と湊を見ていた。

「え⁈」

「河童だ。あの子はまだ子供だね」

見慣れているのか、湊はニコニコ笑っている。

(河童なんてほんとにいるんだ…)

「今は寒いから、凍えないか心配だけど。そのあたりは平気なのかな」

湊が心配そうにしている。

河童は寒さなど気にしている様子もなく、池をスイスイ泳いでいる。

部屋に戻ると真白がベットに座っていた。

「あ、春香。おかえり」

真白は少し明るい表情になっていた。

「嬉しそうだね。何かあったの?」

「うん。悩み事が一つ解決したの」

「そうなんだ。よかったね」

真白は春香から見て、屋敷で暮らすようになってから少し明るくなった気がする。

(お母さんと話すのはもう少し後の方がいいかも…)

真白はまだ、春香に双子の妹がいたと言うことを知らない。

春香自身もまだわからないことの方が多い。

家に帰ったら、いろいろ調べてみることにした。