次の日、私は部屋の中のものをあらかたドアの前に持っていき、バリケードを作っておいた。これなら昨日みたいにピッキングされても部屋の中に入れないだろう。この状態で無理やり押し入ってくるつもりなら、お父さんに報告して帰ってもらうんだから。私が自分の作り上げたバリケードを見てほくそ笑んでいると後ろからガラガラ音がした。振り返ると何という事でしょう。ガラス窓を開け、カーテンをはぐっていつもの忍者が侵入してきているではありませんか。

「お邪魔するぞ」
「ぎゃあああああああ!」
「どうした落ち着け。不審者か?」
 お前じゃい!
「どうしてそんなところから入ってくるのよ!」
「なぜか扉が開かなかったからな。今日はこっちから入れってことかと」
「お客さんに窓から入らせるってどんなプレイよ!」
「俺はお客さんじゃなくてお前を外に出すために……」
「だからそうじゃなくて、あーもう!」
 その返しはお腹いっぱいだ。呆れて溜息をつくと、神本くんが懐からスケッチブックを取り出した。
「昨日言ったプレゼントを持って来てやったぞ」
「プレゼント……?」
「外に出たくなる童話を考えてきんだ。その名も『可哀想なブロッコリー』」
「可哀想なのは君の頭だよ」



「『昔々、あるところに元気なブロッコリーがいました』」
「ねえ! 前提条件が全力でおかしいんだけど!」
「『そのブロッコリーはカリフラワーと呼ばれていました』」
「ややこしいわね……」
「『彼女にはカリフラワーの友達が居ました』」
「おっと余計ややこしいのが出てきたわ」
「『そのカリフラワーはブロッコリーと呼ばれていました』」
「何その強引な叙述トリックみたいなネーミングセンス」
「『ある日ブロッコリーが死にました』」
「何事!? そしてどっち!?」
「『カリフラワーはブロッコリーという名のカリフラワーが死んだのを悲しみました』」
「どっちなの!? どっちがどっちなの!?」
「『ブロッコリーは葬式で彼女の名前を叫びました。「ブロッコリー! ブロッコリー! カリフラワー!!」』」
「あんた自分でどっちか分からなくなってるじゃないの!」
「『悲しみに暮れたブロフラワーは引きこもりました』」
「混ざってる混ざってる! 新種の野菜みたいになってる!!」
「『ブロッコリーはザリガニを飼い始めました』」
「もうブロッコリーが何なのか分からなくなってきた」
「『ブロッコリーはザリガニにブロッコリーという名前を付けました』」
「何で君は物語をブロッコリー色で塗り潰そうとするの?」
「『でもブロッコリーは牙を剥く。そう、狼のように』」
「狼みたいなブロッコリーって何!?」
「『そしてブロッコリーは死にました』」
「あんた絶対途中で面倒臭くなったでしょ!」
「『外に出たら助かったかもしれないのに……』」
「いや何の教訓にもなってないわよ!!」
「おいブロッコリー茜」
「誰がブロッコリーよ!! 何その売れない芸人みたいなの!!」
「外に出るぞ」
「絶対嫌!!」