「ねぇ瑞樹」

名前を呼んで肩に触れてみた。

手には何となくぼんやりと瑞樹の感触が伝わってくる。

空気を固くしたような弾力のある感触。

「今、岬さんが弾いている曲なんていうの?」

「トロイメライ」

「素敵な曲だね」

「そうだね」

わたしはしばらくその手に瑞樹を感じていた。

 岬さんの演奏が終わると瑞樹は小さく拍手をしながら「ねぇ真琴」と呼ぶと、

拍手する手を止めわたしを見た。

「明日の夜、僕の部屋に来ない?

去年のコンクールで演奏したバイオリンの録画があるから、良かったら」

断る理由はどこにもない。

でも……。

「観たい!けど瑞樹の部屋に入るのちひろから禁止されている……」

「それは僕がいいよって言っても駄目なのかな」

「あっ」

わたし達は顔を見合わせると笑った。