「今日は、何だー」

もうこのセリフもだいぶお決まりに、なってきている。

何が起こるかわからない、こんな日々が楽しい。
素直にそう感じていた。

「今日はねー!!神社に行きます!」「神社、?」

彼女の衝撃的な発言にびっくりだ。理由はなんといっても、彼女が神社に行くような人だと思わないからだ。今までの様子を見ると、賑やかなところが好きなイメージがある。

「そう神社だよー!私がずっっと涼太を連れていきたかったとこ!」
「俺を連れていきたい、?なんて言う神社なのか?」「それは、行ってからの秘密!」

とりあえず、彼女の言うとおりについて行くことにした。何駅も乗り継いで着いたのは、のどかな風景が見られる場所だった。

「ここは恋愛の神様の神社なの!涼太が好きな人いるっていたからさ!その人の恋を私が応援してあげようと思って!」
「いや好きっていうか、、」
「もう、ごちゃごちゃ言ってないで行くよ!」

風鈴が階段を上りだす。俺も、置いていかれないようにと急いでついて行く。彼女が言っていたように、恋愛の神様がいることもあってかハートの装飾が施されている。辺りにはカップルや女子高生がチラホラ見受けられる。まずは参拝をすることにする。

ご縁があるようにと五円玉を投げ入れる。二礼二拍手をし、願い事を心の中で、伝える。俺は、自分の恋なんかより伝えたいことがあった。恋愛の神様に伝えるのは、とてもおかしいと思ったが俺の願いはこれしかなかった。

「彼女が、幸せに生きられますように。」と。

その後俺らは、一礼をし、参拝を終えた。

「ねーなんてお願いしたの?」
「それは教えられないよ。教えたら叶わないらしいからな。願い事。」
「えっーケチー」「それより、おみくじ引こうぜ」
「えっ絶対引くー!」

俺らはそれぞれ1つずつおみくじを購入し、一緒に開くことにした。

「じゃあいくよー。いっせーのーで」

紙を開くと赤文字で大吉と書かれていた。
「やったー!大吉だー!」
あれ?彼女の様子がおかしい。

「風鈴は、どうだったのか?」
横を見ると、黒文字で大きく、凶と書かれていた。
「えっ凶!?あはははは笑」

笑っていると彼女は拗ねた声で言った。

「もう、いいし!もう1回引く!」「はっ!?おみくじ何回も引くバカいるかよ。」「そんなの知りません。」
彼女は、むきになってそれから、5回引いたが、どれも凶やら吉やら散々な結果になり、結局諦めていた。

「あー、私どうしよう。5回も引いて、あんな結果は
やばいって、」

帰り道。彼女は、落ち込みながら話し出す。
俺は、ポケットを探り出し、神社で買ったものを彼女の前に差し出した。

「これあげるから、元気出せよ。」「えっ!?何これ」ハートの形の陶器のお守り。色がパステルでとてもお守りには見えないぐらい可愛い。日頃の感謝プラス彼女の期限を治すために購入したのだ。

「さっきの神社で買ったお守り。これ持っとけば、
大丈夫だろ。」

彼女は、そっぽを向く。
「おいなんだよ!」
「ふっふん。やりますな。ありがとう!」

彼女のほっぺたは、夏の暑さで赤らんでいた。
まるでさくらんぼのように。そんなふうに、ゆっくり歩いて帰っていたそんな時だった。

ザーーー

「えっ何この雨!!」
「なんだこれ。とりあえずそこのバス停に行こう。」

俺らは、手で頭を覆いながら走っていく。

「何だこの大雨は。天気雨か。」
「涼太。やばいかも。うちら今日帰れないかも。」
「えっなんでだよ」「電車が運休した。」

まさかの出来事に頭は混乱だらけだ。電車が止まり、他に交通手段と言えば、タクシーぐらいだ。でも、この距離だとタクシー代は凄いことになるだろう。なら、宿をとる方がいいのだが、こんなにのどかなところに来ていることもあって、宿はどうも見当たらない。
どうしよう。そう戸惑っているときだった。

「おい、そこのお嬢ちゃんと少年。ちょっと手伝ってくれないか?」「どうしたんですか?」

彼女がそう聞くと、50代前半らしきおじさんは車庫のシャッターが閉まらなくて困っていると伝えてきた。そのぐらいの手伝いなら、容易い事だ。すぐに、おじさんの家の前まで行き、車庫のシャッターを閉めた。

「本当に助かったよ。こんな年になると、筋力も落ちてしまらなくてよー。」
「いや大丈夫ですよ。全然。じゃあ失礼します。」
「いやいや、暇なんだったら大したもんじゃないがお茶でも飲んでけ。」「いやいや、そこまでは、、」
さすがに気の毒だと思っている矢先に、。

「えっ!ありがとうございます。もう外寒くて、助かります。」
「おい何言ってんだよ。遠慮というのは、お前は知らないのかよ。」

おじさんは声を上げ笑って、「遠慮などいらん。とりあえず上がってけ。」と言ってくれた。

俺と風鈴は、おじさんのご行為に感謝し、
上がらせてもらうことにした。

「きよー。お茶を入れてくれ。」
「あらどうしたんですか?」

家におじゃますると、おじさんの奥さんらしき、
きよさんという人が出てきた。

「この少年とお嬢ちゃんがよ。シャッター閉めるの手伝ってくれて。とりあえず店に案内すっから。お茶入れてくれ。」
「まぁ、すみませんね。ありがとうございます。すぐ入れますね。」

そう言うと、きよさんはすぐにキッチンに入っていった。

「じゃあちょっと着いてこい。」
玄関から入ってまっすぐ進むと、違う場所が見えてきた。「よし。ここに入れ。」「すみませんお邪魔します。」「お邪魔しますー!」

中に入ると、カウンター席が並んでおり、調理器具やら、刺身が入ったショーケースがあった。

「おじさん。寿司屋やられてるんですか?」

「うんそうだ。まぁ今は、こんな老いてしまったしな。予約でって感じだが。」

「えっ凄すぎます!涼太、シェフになりたいって言ってて!ねっ!」

「そうなのか?」

「あっはい。俺の父親も昔やってて。それで憧れてみたいな感じで。」

「ほんとか!!じゃあ少し後で握らせてやんよ。」

「えっ申し訳ないですよ。」

「涼太って言うのか?お前謙虚で良い奴だな。でもこういう時には、大人に甘えとけ。」

「そうだよー!やってみなよ!」

「えっ、。ありがとうございます。」

俺は深くお辞儀をした。なかなか、普通は、修行もせずには、立たせて貰えないだろう。こんないい機会はめったにない。感謝でいっぱいだ。

「すみませんー。遅くなって。お茶です。」
「ありがとうございます。」

俺たちは、2人でお礼を伝えた。

「ところで、なんであんなとこにいたのか?家に帰らないと雨やばいぞ。」
「実は、私たち遠くから来てて。電車で。でも、帰りの電車が全部運休になってて。」

彼女の話を聞きながら、焦りが走る。どうしよう。
今でも、考えている。

「そんなことなら泊まっていかれたらどうですか?布団もあるし。こんな田舎なら泊まるとこなんてないでしょう。」「いやーそれは」

そう言いかけたが、さっきのおじさんの言葉が頭をよぎった。それに、本当に泊まるところは見当たらなさそうだ。

「本当にいいんですか?」

そう言うときよさんは、ニコッと笑って、
「全然大丈夫ですよ。こんなに賑やかなのは久しぶりで私も嬉しいです。」「そうだな。泊まってけ!泊まってけ!」ときよさんもおじさんも言ってくれた。本当に、暖かい人でありがたすぎる。

「本当にありがとうございます!!」彼女は飛び跳ねながら感謝を伝えている。

「じゃあまずはお風呂に入ってきてください。寒いでしょうに。」ということでお風呂に行くことにした。
俺らは、順番でお風呂を借り、パジャマまで貸してもらった。本当にいたりつくせりだ。

「じゃあ今日の夜ご飯は寿司にすっか。ちょっと涼太。握るの手伝ってくれ。」「はい。一郎さん。」

おじさんの名前を聞いてなかったので聞いたところ、柳 一郎さんという人とのことだった。名前がわからず困っていて、すぐさま聞いたのだ。

「じゃあまずはシャリを作る。これがなまた難しいと思うが見よう見まねでやってみろ!」

おじさんは、手に酢をつけ、寿司飯を15〜20gぐらい取って、わさびを魚の裏側につけて、酢飯を乗せ、縦を押さえて、上を押さえて、ひっくり返して握った。 さらに向きを変えて脇を抑えて握り返していた。なんでこんなにも分析できたのかはたぶん、父のおかげだろう。
幼少期に何回も見たこの景色。懐かしい。
俺は、おじさんがやったように寿司を握った。

「できました。」

一郎さんは、こちらを真剣な顔で見ている。それはそうだろう。一郎さんの寿司よりは、握るのが下手だ。そう自分で評価していた。そんな時だ。

「おい。涼太。お前才能あるぞ。初めてでこの出来は凄い。俺はお前を認める。立派な寿司職人になるだろう。」

「えっ、、本当ですか!?ありがとうございます。」

こんなに褒められて嬉しい気持ちが舞い上がる。

「凄い!涼太!やるじゃん!」

「凄いですね。涼太くん!」

風鈴ときよさんがカウンター越しにそう言ってくれた。プロがそう言ってくれたことで叶えれるかという不安のつぼみが花を咲き、叶える。そう変わっていた。

「じゃあいただきますー!」「いただきます。」

寿司を握り終え、頂くことにした。

「えっ美味しいよー!」「美味しいです。一郎さん。」「それは良かった。たくさん食べろよ。」

それから、たらふく寿司を堪能した。

「じゃあお座敷にお布団引いたんでどうぞ。」
きよさんがそう言ってくれて、お座敷に案内してもらった。きよさんと一郎さんにおやすみなさいの挨拶も告げ、俺らは、それぞれ布団に入ることにした。

「今日は、疲れたねー。でも、なんだかんだ楽しかったよね。」
「そうだな。俺の大吉と風鈴の凶がかけ合わさってたよ。」
「凶じゃないよー!」彼女は、まだ諦めてないらしい。「そろそろ諦めろよー。」
そう伝えたが、返事はかえってこない。

「おい寝たふりすんなよ。」静かにして彼女を見てみると、スースーと寝息が聞こえてきた。

「ぶっ なんだよ忙しいやつだな。」

どうやら彼女は疲れ果てて寝落ちしたらしく、思わず吹き出して笑ってしまった。
俺は彼女に「おやすみ」と伝え、目を閉じた。
虫の声が鳴り響く中で。

「おはようございます。」「おはようございますー!」
朝になり、布団を片付けキッチンに来た。
外を確認したが、昨日の雨が嘘だったかのような
快晴だ。

「おはようございます!朝ごはん作ったから良かったらどうぞ。」

「ありがとうございます。何から何まで。」

「うわー美味しそう!ありがとうございます!」

だし巻き玉子に、お味噌汁。炊きたてのご飯。どことなく母の手料理に似ていた。朝ごはんをたいらげ、一郎さんときよさんに別れを告げる時になった。

「本当にありがとうございました。」

「いや楽しかったよ!絶対にまた来いよ!」

「またおいでなさってください。」「来まーす!!」

彼女は、大きな声で笑いながら告げていた。
絶対に、二人でもう一度来たい。そう強く思った。
駅なら帰りと同じように電車に乗り、山江駅にたどり
着いた。

「うわー久々だー!」「いうほどだろ。」

声に出しては、そう言ったが、何故か久々感を感じる
自分もいた。

「ねー、花火しない?」

またかよーっとは思わなかった。何故なら、俺もそう思ったからだ。無言で彼女の目を見て、頷いた。

シャワーパチパチパチ この音を今年は何回聞くのだろうか。今まででたくさん花火をして、花火の良さをたくさん気づいてきてる。

「花火は自分たちでするのもなんかいいよな。」

「そうなんだよねーー!!」

暗闇の中。花火だけの光で照らされる彼女。
それを見て、何故か鼓動が高鳴る。なんなんだ。
この変な感覚は。

その日、見た空は、夏の大三角がとても綺麗に
光っていた。