「そうです、そうです。そうでした。肝心なことを忘れてました。明日ドナパール国の王子が、フローラ姫に会いに来るそうです」
「えっ?! 明日ですって。そんな話聞いてないわよ。いったいどういうこと」
 思わずフローラ姫はカトリーヌに詰め寄った。そこでカトリーヌは、パーリヤに言われたことを簡単に話した。
「確かにドナパール国とは、あまりいい関係ではないわ。ドナバール国の王子はともかく、王であるダルロードは、あっちこっちで戦いの火蓋を切っているわ。西部の地にあったアラレント国はダルロードに攻められ、国が滅ぼされたし、南部の地にあるデューラン国とも今戦争中だと聞いてるわ。ドナパール国の強さを考えると、私達の国が切れるカードは政略結婚ぐらいしかない……。私だって考えてないわけじゃないけれど、でもやっぱり納得いかないわ。一度も会ったこともない人と結婚するなんて」
 フローラ姫は困った表情を浮かべながら、ぶつぶつと文句を言った。
「そうなんですね……」
国の実状を聞き、フローラ姫以上に難しそうな表情を浮かべた。今まで国の情勢など考えたことなどなかったカトリーヌは、そんな大きな事柄に巻き込まれているフローラ姫が不憫に思えた。なんとかできないだろうか。国と国との結婚。歴史書を読めば、そんな話はたくさん書かれてあったが、これは昔の話ではなく今の話なのだ。今こうして生きているフローラ姫と接して本音を聞いていると、それはないと思わざるを得なかった。
「とりあえず一度会ってみて実はいい人だったらどうします?」
「いい人だったら?」
 フローラ姫は鸚鵡返しに繰り返した。それから彼女はふんと鼻で笑った。
「だったら問題ないかもね」
「それでしたらそれに賭けてみましょう。もし、とても嫌な奴だったら結婚しないようがんばりましょう」
「がんばりましょうって、どうやってがんばるのよ」
 フローラ姫はふっと笑った。
「まあ、いいわ。ともかく一度ぐらいは会わないといけないみたいだし」
「とにかく城に急ぎましょう」
「そうね。王が心配のあまりパーリヤの言いなりになってしまうかもしれないし。そうなる前に行かないと」
「そうですね。パーリヤさんに見つかる前に城にたどり着かないとまずいですね」
「さあさあ、しゃべってないで、二人とももっと足を動かせ。そろそろ夜が明けそうだぞ」