「カトリーヌばかりに気をとられてんじゃないわよっ!」
そこにいたのはさっきまで紐で縛られていたフローラ姫だった。フローラ姫が男の胸に足蹴りしたのだ。
「それにこの剣は、我が家の家宝なの。あんたみたいなこそ泥連中に渡すわけにはいかないわ」
フローラ姫は床に転がった剣を、大切そうに拾った。
「ふっ、よそ見してたのは、確かに不覚だったなあ。だがしかし、おまえが剣を手にしたところで、結果は見えてるがな」
そう言いながら、男は剣を再び構えた。そしてフローラ姫も剣を構えた。
二人は睨み合いながら、相手との間合いをとりつつ、そろりそろりと足を動かしていった。辺りは先程とは違った緊張感がとり巻き、息をするのもはばかられた。カトリーヌは、フローラ姫の戦いの邪魔にならないように、そっと後ろへと下がった。下がるとすぐ側にタムがいた。タムもまた険しい表情を浮かべながら、二人の戦いの行く末を見守ろうとしていた。
フローラ姫は、突如声をあげた。
「やっ!」
金の剣を片手で軽々と持ち上げ、鋭い剣の切っ先を相手の男の胸元に斬り込んだ。すぐさま男は反応し、フローラ姫の剣をはねのけた。はねのけられたフローラ姫は瞬時にもう一度剣を叩き込んだ。すると男の服の一部がすーっと裂け、慌てて相手の男は飛び退いた。
「次は腕を斬るわよ! 降参するなら今のうちよ」
「なっ、何言ってやがる。勝負はこれからだ」
男は言うが早いが、大振りの剣を振り上げ、真っ向から襲いかかってきた。
「ガンッ!」
フローラ姫は相手の剣を受け止め、刀身をねじ伏せた。思わず男はよろめいたが、すぐに反撃した。彼は持てる力全てを剣に込め、フローラ姫の隙を突こうと、右に左に剣を振りかざした。一方フローラ姫は、まるで踊っているかのように滑らかに動き、男の剣をなんなくかわしていった。男も負けてなるものかと、必死に食らいついていき、フローラ姫のスタナミが切れるのを待った。しかしフローラ姫はそう簡単にはくたばらなかったので、逆に男の息があがっていき、へとへとになっていった。そうして、男がどうにもこうにも、腕があがらなくなった頃に、フローラ姫は、男の剣を強く払いのけた。彼の剣は男の手から離れ宙を舞ったかと思うと、床に叩きつけられた。男が剣を取り戻そうとしないように、カトリーヌはとっさにその剣を拾い、握りしめた。それと同時にタムが丸腰になった男に飛びかかり、彼は一瞬にして床に倒れ込み、タムに喉元を押さえつけられた。
フローラ姫は男に剣を向けたまま、こう言った。
「女子供だと思って油断するからいけないのよ!」
それから三人は、男をフローラ姫の時と同じように体を紐で縛りつけ、口を布で塞いだ。
「ふうっ、これでようやく一段落ね」
さすがにくたびれた様子のフローラ姫が呟いた。
「それにしても、フローラ姫。そんなに剣が立つのになぜ捕まったんだ」
腑に落ちなそうにタムが訊くと、フローラ姫は言い訳し出した。
「今は男が一人だけだけど、大の男が、五、六人いたのよ。最初はそりゃあもう、親切だったのよ。私が道に迷った話をしたら、城まで連れて行ってくれるって話だったのよ。だから私もおとなしくついて行ったのよ。けど途中で道的に変だと思ったの。かといって武器もないし、男が五、六人じゃあどうにもならなくて、捕まっちゃったのよ!」
「なるほど。それなら早いところ、ここから抜け出して方がいいな。その五、六人が戻って来たら、歯が立たないというなら」
タムは抜け目ない口調で、二人にそう言った。
「それはそうね。早く出た方がいいわね」
フローラ姫も相槌を打つと金色の剣を改めて手に取った。
「あの、その剣、家宝と言っていましたが……」
おずおずとカトリーヌが口を開くと、フローラ姫は少し不思議そうな表情を浮かべた。
「これは間違いなく王家に伝わっている秘宝の剣よ。それがどうしてここにあるのかよくわからないけれど……」
「それについては、歩きながらしゃべります。ともかくここを出ましょう」
こうして三人は男を教会の廃墟へと残し、本来の城へと続く道を急いだ。気がつけば、夜はずいぶんと更け、真上にあった月も徐々に下へと傾き始めていた。三人は森の中へと戻ると、兵士達の行った道を歩き始めた。
「それでどうやってこの剣を手に入れたの。まさか本当に盗んだんじゃないでしょうね」
少し非難めいた口調で、フローラ姫は怪訝そうにカトリーヌを見やった。
「盗んだわけではないんです。ただ一時お借りしただけです。使用後は戻すつもりでした」
「借りるってどうやって?」
びっくりした表情のフローラ姫にカトリーヌは小さな声で言った。
「魔法です。魔法で剣を取り出したんです」
「魔法で?!」
更に唖然とした表情で、フローラ姫は叫んだ。
「そうです」
カトリーヌは大きく頷くと説明した。
「魔法で取り出す場合、自分のいる場所から近い場所の剣だったりしますが、何より問題となってくるのは、私に協力してくれる剣であるかどうかです。剣というより、その持ち主自体ですが……」
「へえ、そうなのね……。読めたわ。あなたがなぜ王家の剣を取り出すことができたのか。それはやっぱりあなたが私と血のつながった姉妹だったからだわ。つまりは王家の血筋だったから。だから剣があなたを守ろうとしたのだわ」
納得したとばかりに、フローラ姫が頷くと、カトリーヌは呟いた。
「やはり本当なのですね。私が王家の出であるというのは……」
まだまだ半信半疑なカトリーヌは、目の前にその真実を改めて打ちつけられたような気がした。
「それにしても、せっかく剣があってもあんな剣の使い方じゃあ、意味がないわね」
「す、すみません」
カトリーヌが小さくなって言うと、フローラ姫は頭を振った。
「でも必死になって戦ってくれたのはわかったわ。助けに来てくれてありがとう。本当に助かったわ。私ひとりじゃあ、どうにもならなかったもん!」
そう言われてカトリーヌは、ほっとしたのと同時に心が温まるのを感じた。
『よかった、よかった! 本当によかった。あの時助けに行く勇気を出して本当によかった』
カトリーヌは自分で決めて行ったことが、こんなにもいい形になったのが嬉しかった。
「ところで、二人ともなぜ私を追ってきたの?」
フローラ姫にそう訊かれ、カトリーヌは、とたんに思い出した。
「そうです、そうです。そうでした。肝心なことを忘れてました。明日ドナパール国の王子が、フローラ姫に会いに来るそうです」
「えっ?! 明日ですって。そんな話聞いてないわよ。いったいどういうこと」
思わずフローラ姫はカトリーヌに詰め寄った。そこでカトリーヌは、パーリヤに言われたことを簡単に話した。
「確かにドナパール国とは、あまりいい関係ではないわ。ドナバール国の王子はともかく、王であるダルロードは、あっちこっちで戦いの火蓋を切っているわ。西部の地にあったアラレント国はダルロードに攻められ、国が滅ぼされたし、南部の地にあるデューラン国とも今戦争中だと聞いてるわ。ドナパール国の強さを考えると、私達の国が切れるカードは政略結婚ぐらいしかない……。私だって考えてないわけじゃないけれど、でもやっぱり納得いかないわ。一度も会ったこともない人と結婚するなんて」
フローラ姫は困った表情を浮かべながら、ぶつぶつと文句を言った。
「そうなんですね……」
国の実状を聞き、フローラ姫以上に難しそうな表情を浮かべた。今まで国の情勢など考えたことなどなかったカトリーヌは、そんな大きな事柄に巻き込まれているフローラ姫が不憫に思えた。なんとかできないだろうか。国と国との結婚。歴史書を読めば、そんな話はたくさん書かれてあったが、これは昔の話ではなく今の話なのだ。今こうして生きているフローラ姫と接して本音を聞いていると、それはないと思わざるを得なかった。
「とりあえず一度会ってみて実はいい人だったらどうします?」
「いい人だったら?」
フローラ姫は鸚鵡返しに繰り返した。それから彼女はふんと鼻で笑った。
「だったら問題ないかもね」
「それでしたらそれに賭けてみましょう。もし、とても嫌な奴だったら結婚しないようがんばりましょう」
「がんばりましょうって、どうやってがんばるのよ」
フローラ姫はふっと笑った。
「まあ、いいわ。ともかく一度ぐらいは会わないといけないみたいだし」
「とにかく城に急ぎましょう」
「そうね。王が心配のあまりパーリヤの言いなりになってしまうかもしれないし。そうなる前に行かないと」
「そうですね。パーリヤさんに見つかる前に城にたどり着かないとまずいですね」
「さあさあ、しゃべってないで、二人とももっと足を動かせ。そろそろ夜が明けそうだぞ」
タムが白み始めた空を見つめながら、忠告してきた。
「それじゃあ、もっと急ぐわよ」
三人は更に速度を増して歩いて行った。森を通り抜け、街道に出ると、もう日が昇り始めていた。途中城に荷物を届けに行くという商人と出会い、三人はその馬車に乗せてもらうことができた。ガタガタ馬車に揺られながら、街道を進むにつれ、大きな真っ白な城が見えてきた。初めて見る城の姿に、カトリーヌの心は高ぶった。両脇を守る優美な尖塔は、星を突きそうなほど鋭く、城の中央の三角の屋根は空色をしており、白い壁をいっそう際立だせた。それだけではなく、近くになればなるほど、壁のあちこちに見事な彫刻が施されているのが分かった。なんと美しい建物だろうか。カトリーヌは、うっとりせずにはいられなかった。一方フローラ姫の顔には、憂鬱そうな表情が浮かんでいた。彼女にとって城は堅固な牢獄にしか見えなかった。ここでは誰もが彼女の一挙一動を見つめていた。隙を与えるわけにはいかなかった。彼女は背筋を伸ばし、毅然とした態度で馬車に揺られていた。タムはそんな二人の様子を交互に見ながら、深いため息をついた。
三人は城の手前で下ろしてもらうと、商人に礼を言い、また歩き始めた。フローラ姫が先頭を歩き、二人を誘導した。彼女は城の門の中には入らず、城の裏手へと回った。
「どこへ行くんですか」
怪訝に思ったカトリーヌがフローラ姫に聞くと彼女は、にっと笑って答えた。
「私の部屋まで行く隠し通路があるの。まあ、見てなさい」
そう言うと、彼女は木々の生い茂るちょっとした林の中へと入っていった。カトリーヌとタムは顔を見合わせながらも、フローラ姫の跡について行った。その先には、蓋で塞がれた小さな井戸があった。フローラ姫は誰もいないことを確認すると二人に言った。
「この井戸の底に隠し通路があるの。ちょっと狭いけど我慢してね」
フローラ姫が蓋をはずすと、中には縄梯子がかかっていた。
「気をつけてね。ゆっくり降りるといいわ」
カトリーヌは慎重に縄梯子を使って下りて行った。
「タムはどう下ろそうかしら」
フローラ姫はちょっと困った表情を浮かべた。
「心配するな。これくらいの距離なら魔法で瞬間移動できる」
「えっ、瞬間移動?!」
彼女がびっくりしているうちに、タムの姿は一瞬にして消え、井戸の底から彼の声が聞こえた。驚いて井戸の底をのぞき込むと、井戸の中にはカトリーヌとタムの姿があった。
「いったいどうやったの?」
「だから魔法だ。さあ、フローラ姫、急ぐんだろう」
「分かったわ。今下に行くわ」
フローラ姫は、井戸の蓋をうまい具合に被せながら、下へと降りて行った。三人が井戸の底に集まると、フローラ姫は井戸の壁の一部をそっと押した。するとそれは小さなドアになっていて、そのドアを通り過ぎると、ずっとまっすぐ続く通路が続いてた。通路の合間合間には、ろうそくの火が灯っていた。
「ちょっと歩くけど気をつけてね」
フローラ姫がそう言うと、カトリーヌとタムはこくりと頷いた。三人は曲がりくねった隠し通路を、黙々と歩き、なんとか目的地であるフローラ姫の部屋へとたどり着いた。隠し通路の出口の場所はフローラ姫の部屋に備わっている大きな飾り棚だった。フローラ姫が飾り棚の後ろの板をはずそうとしてると、その飾り棚の向こう側から人の泣いている声が聞こえてきた。
「姫様、いったいどこへ行ってしまったの」
それは若い女性の声だった。その声に聞き覚えのあるフローラ姫は大急ぎで飾り棚の板をはずした。はずずと、朝の光がいっぱいに射し込んできた。三人はその日の光に思わず目をしばたたいた。それからゆっくり、飾り棚の中から出てくると、大理石の床につっぷして泣いている女性がいた。紺色のワンピースにエプロン姿の彼女はどうやら侍女のようだった。
「エミリー、何を泣いているの」
フローラ姫に、いきなり声をかけられ、目を真っ赤にした彼女は口をぱくぱくさせた。
「おっ、お姫様!!」
ようやく声が出ると、涙に濡れた頬を拭った。
「姫様、いったい今までどこに行かれてたんですか!隣国のトラヤヌス王子がもうすぐお越しになるとのお話です。それなのに姫様が行方不明で。王様はかんかんで、もし姫様が見つからなかった場合は、私を処刑すると言われたんです。私はもう駄目かもしれないと思ったんです」
「それはきっと王の命令じゃないわね。どうせパーリヤが進言したのよ!」
フローラ姫は、いらいらした様子でそう言った。
「パーリヤは城に来てるの?!」
「はい、お越しになってます……」
エミリーの言葉に、カトリーヌは固まった。
『私がいなくなって、ものすごく怒ってるんだわ、パーリヤさん。だからって、人を処刑させようとするなんて』
「許せない!」
カトリーヌが思った言葉をフローラ姫が怒って言った。
その時、フローラ姫の部屋の外から声がした。
「エミリー、そこにいるのだろ。残念ながら王がおまえの処刑を望んでいるんだ。出てきてくれるか」
「その声はウルバヌス大臣ね」
むっとした口調で、フローラ姫が言い放つと、外の声の主は慌ててドアを開け入ってきた。
「もしやその声は!」
入ってきたのはこの国に仕えるウルバヌス大臣だった。
「姫、いったい今までどこにおられたのだ」
「そんなことより、エミリーを処刑するなんて、私が許さない!」
「しかし、姫。実はトラヤヌス王子がお越しになられて、三十分待たせてしまったのです。それにより、トラヤヌス王子がご立腹なのです」
それを聞いて青ざめたのは、エミリーだった。
「まあ!! もうお越しになられてしまったのですね」
「そう……」
さすがにフローラ姫も気まずそうに唸った。思わぬ事態に、カトリーヌとタムも困った表情を浮かべた。
「さあ、姫。とにかくエミリーを連れて行きますぞ」
「それはまずいわ。いいわ、私がうまく言いくるめるわ。」
「しかし姫。相手はドナパール国の王子ですぞ」
「とにかく早急に宴の準備をして!」
「宴ですと?!」
「いいから! 私の言う通りにして」
「ですが」
「時間がないの早くして!」
「分かりました。しかしどうなっても知りませぬぞ」
ウルバヌス大臣は納得いかなそうな表情を浮かべながらも、急いでフローラ姫の部屋を出て行った。
「ほんとにいいのですか、姫様。私が処刑されて国が守れるのでしたら、それはそれでしかたないと思うのですが……」
不安な面持ちのエミリーに、フローラ姫はこう告げた。
「何を言ってるの。この国で血を出すことは許さないわ」
「でも姫様」
「そんなことより、エミリーもウルバヌス大臣のところへ行って、宴の準備を手伝ってきて。私がなんとかするから。宴の準備が整ったら知らせにきて」
「分かりました。姫様がそう言うなら」
そう言うと、エミリーもまたフローラ姫の部屋から出て行った。三人だけが部屋の中に残ると、今まで黙って事の仔細を見守っていたカトリーヌが口を開いた。
「フローラ姫、本当に大丈夫なんですか」
カトリーヌの言葉に、フローラ姫は一瞬ためらった。
「分からないわ、私にも。でも……」
「でも?」
「ここで弱音を吐いているわけにはいかないわ。そもそも、私が城を飛び出さなければ、こんなことにはならなかったわけだし、その責任はとらなくちゃ。それに一応一国の姫だしね」
ふっと笑うとフローラ姫は、肩をすくめ、カトリーヌを見つめた。その顔にはいつもの自信満々の様子は見られず、不安そうな表情が見え隠れしていた。カトリーヌは思った。もし自分が城で姫として育っていたら、この難しい立場にいたのは、自分であったかもしれないのだ。それを考えると他人事ではなく、そもそも本当の姉が今現在困っているのだ。何か力になることはできないのだろうか。こんな私でも……。
カトリーヌは意を決すると、フローラ姫に伝えた。
「私にできることありませんか。何か手伝えることがあったら言ってください」
フローラ姫は静かに微笑んだ。
「ありがとう」
二人を側から見つめていたタムも言った。
「少しぐらいの魔法なら俺も使える。何か魔法が必要な時は言ってくれ」
「そうね。二人には私の側にいてもらった方がいいかもしれないわね」
カトリーヌとタムは異存はないと、深く頷いた。それからフローラ姫はカトリーヌの顔をまじまじと見つめた。
「私達、やっぱり顔がそっくりね。とりあえず、今はカトリーヌの素性がわからない方がいいいわね」
「この城にはフード付きのローブはないのか」
「あるわよ」
「フードを目深に被れば、顔はそんなに見えずに済むだろう」
「そうね、それがいいわね」
フローラ姫は頷くと、二人に言った。
「とりえあえず、私もこの格好では宴には出られないから、衣裳部屋へ行って着替えてくるわ」
「それでは、タムと私はここで待っています」
「何言ってるのよ。カトリーヌも一緒に着替えるのよ」
フローラ姫は笑って答えた。
「私もですか?」
「そうよ。今思いついたわ。カトリーヌには、私の専属のお抱え魔法使い役をやってもらうわ」
「私が専属魔法使いですか」
戸惑った様子のカトリーヌの肩をぽんと叩くと、フローラ姫は言った。
「じゃあ、私達は衣裳部屋に行ってくるから、タムはここで待っててね」
「うむ、分かった」
二人は部屋にタムを残し、衣裳部屋へと向かった。衣裳部屋は、フローラ姫の部屋から出て、まっすぐ行った突き辺りの部屋だった。
「さあ、ここよ。入って」
言われるままに部屋の中へと入ったカトリーヌは目を見開いた。白、赤、ピンク、水色、黄色、緑、紫……。贅を尽くした様々な色合いのドレスが、押し合い圧し合いしながら、ハンガーに吊るされ、並べられていた。こんなに服があったら、いったいどうやって選ぶのだろうか。そんな疑問を持ちながらも、カトリーヌは側にあった真っ青なドレスに目を通した。サテン生地のそのドレスは、つやつやと光り輝き、とても滑らかな手触りだった。まるで水のようだわ。驚きとともに、そのドレスをまじまじと見つめていると
「はい、これ!」
と、フローラ姫は紺色のフード付きのローブをカトリーヌに手渡した。それは厚手の生地で織られ、フードの縁には金色の糸で文様が編み込まれていた。ドレスとは違って、ローブはずっしりと重く厳かな雰囲気を醸し出していた。羽織ってみると、まるでカトリーヌが元々の持ち主であったかのように、ちょうどいい大きさだった。
「サイズ的にぴったりです」
びっくりした様子で言うカトリーヌに、フローラ姫は声を潜めてこう告げた。
「聞いた話によると、そのローブには魔法がかかっているそうよ。なんでも着た人に合わせて変幻自在に変わるそうよ」
「ほんとですか?」
「カトリーヌが着て、大きさが合うっていうのは、そういうことかもしれないわね」
フローラ姫は、考え深げにそう答えた。
「まさに専属魔法使いにはぴったしのローブだと思うわ」
「そうですか。そんな貴重なローブを着させてもらって、ありがとうございます」
フローラ姫も、うんうん頷きながら、
「ローブはそれでいいとして、中に着るワンピースは、これでいいかしら」
「ワンピースも着替えるのですか?」
腑に落ちなそうなカトリーヌに、フローラ姫は言った。
「カトリーヌがいつも着ているワンピースじゃあ、パーリヤに出くわした時、すぐばれちゃうでしょ」
「それはそうですね」
合点がいったように、カトリーヌは頷いた。
「はい、じゃあこれね」
手渡されたのは、真っ白なふんわりとしたワンピースだった。触ってみると、雲で編んだかのように軽かった。
「軽いでしょ」
「はい」
目を丸くしているカトリーヌにフローラ姫は笑って言った。