「そうよ! 今私が歌ってあげるわよ」
「えっ、歌えるんですか」
「そりゃそうよ。王女のたしなみでもあるのよ」
 彼女は得意そうに言うと、姿勢を正して歌い出した。それは、この国に伝わる古くからの歌だった。フローラ姫は、軽やかな声で、歌い出した。

いつかたどりし まだ見ぬ大きなる大地
海の向こうに 何があろうとも
おお 懐かしき 故郷よ
父よ母よ いつかまた
我戻るその日を信じ 
勲をあげよう 青き竜を追う
羽ばたく翼 赤き炎
地に落ちながらも
我が心 いざ行かむ
おお 懐かしき 故郷よ
月が沈み 悲しみに覆われても
我が心は 安らかに眠る

フローラ姫の透き通った声は、カトリーヌの心の中に響き渡った。昔どこかで聴いたようなフレーズは、懐かしさを感じずにはいられなかった。急にカトリーヌの目には涙が溢れ、見たこともない父と母のことを想わずにはいられなかった。そんなカトリーヌの様子にフローラ姫は思わず微笑んだが、伸びやかなる声でそのまま歌い続け、最後まで歌い切った。
カトリーヌは感動のあまり彼女に飛びついた。
 その時だった。赤いドアが、カチャリと音を立てた。それから風もないのに、ドアが勝手にきしみながら、ひとりでに開いていった。三人はびっくりして体の動きを止め、その成り行きを見つめていた。ドアが奥の奥まで開いて止まると、三人は互いに顔を見合せながら、そっとドアの中の部屋をのぞいた。部屋の中は真っ暗で何も見えなかった。
「あ、開いたわね」
 開口一番、フローラ姫は驚きの声をあげた。
「そ、そうですね」
 カトリーヌもびっくりした様子で言った。
「どうやらこのドアは歌を歌うと、開くようだな」
 タムがそう言うと、フローラ姫は大きく頷いた。
「そうねえ、そういうことよね」
 カトリーヌは今聴いた歌の余韻が収まらず頬を赤く染め、興奮気味にしゃべった。
「あの、歌って素敵ですね。こんなに素敵なものが世の中にあるなんて嬉しいです」
「私の歌が、そんなに気に入ってもらえるなんて感激だわ。でも世の中には、もっと素敵なものがあるのよ。あなたはもっとそれを知らなくちゃいけないわ。それにはまず、パーリヤの弱みをつかまなくちゃね」