アレがなんなのか分かってるの? と聞かれたところで、アレはモンスターですよーとしか答えられない。
 むしろそれ以外になんかあるのー? と言いたい気持ちで、僕はレリエさんに向け、戸惑いながらも質問に答えた。
 
「ええとー、あれってモンスターのこと、だよねー?」
「ええ。アレがどういう性質のものなのか、どこから来たなんなのかとか……現代ではどのくらいまで研究できてるの?」
「さ、さあ……? どこの迷宮にも出てくる、冒険者の獲物で飯の種ってくらいしか、僕には分かんないけどー」
 
 大変ざっくりした説明で申しわけないけどー、実際僕っていうか冒険者目線だとこう言うしかないんだよねー。
 モンスターがどこから来て何をしにどこへ向かうのかー、とかどうでもいいしねー。迷宮をうろついていて僕らの邪魔をする、場合によってはお金になったりご飯になったりする化物達。そのくらいの認識しかないしねー。
 
 逆にレリエさんは何を御存知なんだろう? ていうかモンスターって超古代文明からすでにいるものなんだ? すごいねー。
 尋ねてみると彼女は難しい顔をして、けれどゆっくりと頭を振った。話せることは少ないと、口を開く。
 
「……記憶が虫食い状態だからなんとも言えないわ。ただ、アレはかつて私達を滅ぼしたモノ達の末裔であるのは間違いないわね」
「…………モンスターによって滅ぼされたの? 超古代文明って!」
「モンスター、なんて呼び方でさえ当時はされてなかった覚えはあるんだけれどね……怪物か。皮肉な名称だこと」
 
 鼻で笑い──馬鹿にするよりかはむしろ哀しげな、自嘲するような笑みだ──レリエさんは遠くにいるモンスターを見る。
 超古代文明がモンスターによって滅ぼされたっていう衝撃の事実は僕もビックリだけど、それはそれとしてあんまりここでアンニュイされてても困るんだけどねー。なんたって地下86階層の地獄ですしー。
 
 とにかく外に出なくちゃと、彼女を連れてショートカットの出入り口へと向かう。いつも使ってる、この階層へと直通している穴だねー。
 物思いに耽るのは地上に出てからでも全然遅くない。むしろこんなところでやってることこそ手遅れになりかねない。そう言って彼女を慎重に導く僕だ。
 
 道中出てくるモンスターは倒す。ひたすら倒す。
 ゴールドドラゴンみたいなデカブツは避けつつ、小型から中型くらいのやつが出てきたら即座に杭打ちくんで殴り飛ばし、杭でぶち抜いていくよー。
 
「──!!」
「ぐぎぎゃああああああっ!?」
「え、すご……」
 
 地中から出てくるミミズ、正式名称はなんだっけウワバミズチ? とかだった気がする。そいつの頭部を杭でぶち抜いて遠くに放り投げると、レリエさんの賞賛が耳に入って僕は鼻息を荒くした。
 むふー、もっと褒めて褒めて! そーだよ僕はかっこいいんだよー? 今すぐにモテモテになってもおかしくないんだよー!
 
 めっちゃテンションの上がる僕。そうだよ、一度振られたからって諦めることないんだ。こうやっていいところを見せていって、いつかは高嶺の花にも手を届かせるんだよー!
 塵も積もれば山となるー! 千里の道も一歩からー! と格言を内心で繰り返しつつ、ふんすふんすと杭打ちくんを振るう。震えば振るうだけモンスターがぶち抜かれて息絶えていく、モノ言わぬナニカに変わっていくのを見て、レリエさんは改めて言うのだった。
 
「いやこっわ……現代ってこんな子供がここまでやれちゃうんだー……本当に数万年も時代が移っちゃってるのねえ……」
「ドン引きー!?」
 
 しまったやりすぎたー!?
 僕を見る彼女の目は控えめに言っても引きまくっている。現れるモンスターを片っ端から杭打ちしていく僕に、割と本気で怯えてるみたい。
 やらかしちゃったよー!!
 
 とはいえこの場で手加減なんてするわけにもいかない。まごついてたら何かの拍子にレリエさんにまで害が及ぶかもしれないからねー。
 っていうかヤミくんとヒカリちゃん、あとマーテルさんもか。彼ら彼女らだけでよく迷宮内をうろつけたもんだねーと不思議に思う。どんな階層であれ確実にモンスターは現れるわけなので、彷徨ってるだけでも命の危機だったろうに。
 
 ちょっぴり奇跡を感じながらも無事、出入り口の穴へ。ここからしばらく登っていかなきゃいけないわけだけど、僕がいるなら話は早いよー。
 レリエさんに問いかける。
 
「着いたー。この穴を登っていかなきゃいけないんだけど、普通に行くと一時間くらいかかるよー」
「えっ……そんなに? 途中で落ちたりしないのそれ」
「落ちるほどの傾斜はないからそこは安心だよー。でも今回は僕がいるから、1分くらいで着くよー。失礼しまーす」
「へ?」
 
 そう言って彼女の手を取る。やわらかーいあったかーい。
 と、痴漢みたいな考えはこの際抜きだよ、僕は迷宮攻略法を発動した。
 重力制御。僕や僕の身の回りの重力を自在に操作する技法である。