砂子坂観測所はドーム型屋根の四階建ての建物で、敷地内にある錆びたパラボラアンテナと同様にくたびれた雰囲気を漂わせて佇んでいた。
 とはいうものの、建設された当初は、家族連れや理系の学生などがよく天体観測に訪れていた。
 公共機関でありながら、観測所へ続く坂道の名を正式名称としたのも、多くの人に親しみを持ってもらいたいという意図があってのことだった。
 ところが、長い歳月が流れ、様々なことが季節と共に風化していくにつれて、その位置づけも変わっていった。
 人々の関心も、生活様式も、在り方も、時代の波に抗うことはできない。
 だから、いつしか訪問者はいなくなり、勤務する職員も去り、建物だけが風雪に耐え続けていた。
 使われなくなって久しいためか、今では外装の変色やほころびが至るところに見て取れた。
 また、建物内部も同様にいたみが目立った。
 所々剥がれている壁のクロス。
 むき出しのままになっている来客用の椅子のクッション。
 まだ夜が明けたばかりということもあってか、薄暗い玄関ロビーはどことなくカビ臭い。
 が、そんな物寂しさの中、一つだけ明かりのついている部屋があった。
 一階通路の突き当たりにある長官室だった。
 そして、その中では、佐山祐二郎が腕時計で時刻を確認していた。
 現在は午前六時二十八分。
 そろそろだな………。
 ソファから立ち上がった佐山は、カーテンをあけてしばし空を眺めた。
 すると、二つの月の上を過ぎっていくかのように、一筋の光が尾を引いて流れていた。
 さらに、光る粉のようなものもキラキラと降ってきているのが見える。
 まずは一つ目か………。
 佐山は複雑な表情で、しばしそれを眺め続けた。