一週間が経ち、マーク達を迎えに行くことにした。
ボルンの街に着いてみたのはいいが、待ちあわせ場所を決めていなかったことに気づいた。
やってしまったー。
頭を抱えるも、後の祭りである。
ひとまずは聞き込むしかない。
まずは街の入口の警備兵に尋ねてみた。
「マークとランドを探していいるのですが、どこにいるかご存じですか?」
「どうかな、実家にいるんじゃないかな?」
「実家ですか、場所は分かりますか?」
「ああ、それなら・・・」
マークとランドの実家の場所を教えて貰った。
俺とギルは聞いた通りに街を進んでいく。
改めてボルンの街を見てみた。
活気にあふれたいい街だと感じる。
種族は人間と獣人が多い、たまにエルフを見かけるぐらいか。
俺にとっては、日本を感じる気持ちの良い街だ。
宮造りの家は見ているだけでも、心が落ち着く。
「パパ、ランドール様が居るよ」
ギルに教えられた方向をみると、ランドール様がエルフの女性をナンパしていた。
「ギル、見なかったことにしよう」
「そうだね」
俺とギルは、知らぬ振りをして、通りすがった。
真昼間から何やってんだか・・・パイセン!
ギルも呆れた顔をしていた。
教えられたマークの家に着いた。
マークの実家も宮造りで、立派な門構えの家だった。
こちらの世界の玄関での取り扱いは、分からないが、ノックでいいだろう。
コンコン!
奥から声がする。
男性の声だ。
足音が近づいてきた。
引き戸の扉が開かれる。
出て来たのは、マークによく似た、細身の初老の男性だった。
「突然すいません、島野と申しますが、マークはいますか?」
男性が目を見開いた。
「あ、あなたが、島野さんですか!マークがお世話になってます!さあ中にどうぞ、どうぞ!」
いきなり熱烈な歓迎をされてしまった。
「あの、マークはいますか?・・・」
「ああ、すいません、すいません、奥におります、いやー、マークから聞いてますよ、命を救って頂いただけでなく、とても良くして貰っていると、ささ中にどうぞ」
こうなってしまっては、入らざる負えないな。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「遠慮なくどうぞ、今お茶を準備させますので」
俺とギルは、家の中に入ることにした。
なんだかな・・・
ドタドタと音をさせながらマークが現れた。
「島野さん、なんかすいません」
「いやいいんだ、待ち合わせ場所を指定しなかった俺が悪い、気にしないでくれ」
「俺も別れてから気づいたんですよ」
すまなそうに頭を下げるマーク。
「今のはマークの親父さんか?」
「ええ、そうです。なんだか浮足立ってしまっているようで、申し訳ないです」
「お前、俺のことをなんて話してるんだ?熱烈に歓迎されてるじゃないか?」
「いや、そのまんまですよ、ありのままです」
「ありのままって・・・まあいいや、でランドはどうしてる?」
「あいつも実家に居るはずです、呼んできましょうか?」
「いや、それは止めてくれ」
マークの親父さんの相手を俺がすることになるじゃないか!
あの勢いで来られたら敵わんぞ。
「で、状況はどうなっている?」
「ええ、何とかなりそうです、ただもう少し宮大工の技術を取得したいですね」
「そうなのか?」
「はい、実はランドール様に製図を作って貰ったんです」
「本当か?お礼しないとな」
「いや、それは良いと思います。島野さんと出会えて良かった、能力の開発という新境地を教えて貰ったと、恩に感じているようですから」
「そういう訳にもいかんだろう」
まあ、あのナンパしてる姿を見ると、それでもいいかと思ってしまうが・・・こういう事はちゃんとしないとな。
お礼は何にしようか?
等と考えていると、マークの親父さんがお茶を持って現れた。
「いやあ、家の息子が大変お世話になっている方にお会いできるとは、思ってもいませんでしたよ、ハハハ」
頭を掻くしかなかった。
「しかし、実際会ってみるとマークが言う通り、ただのお兄ちゃんにしか見えないですね」
だたのお兄ちゃんって、なんだよ!
「お兄ちゃんですか・・・ハハハ」
マークのやつ何を話したってんだよ!
正直この先の会話が怖い。
「こいつが言うには、島野さんは創造神様の再来かもしれないって、いう話じゃないですか。それに滅茶苦茶強いって」
ああ、今すぐ頭を抱えたい・・・それに帰りたい。
マークめ!あっ!こいつ目線を反らしやがったな。
「いえいえ、そんなことは・・・」
「それに、随分と稼がせて頂いているようで、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ、マークは頼りにさせて貰ってますので」
「ほう、こいつが頼りに、いやー嬉しいことです。今後とも愚息をよろしくお願いいたします」
「そんな愚息だなんて、ほんとマークは頼りにしてるんですから」
「いやいや、そんなそんな」
「せっかくですので、お茶を頂かせていただきます」
なんだろう・・・俺は家庭訪問をしているのか?
中学校の教師の気分だな、多分・・・
早く次に行きたいんだが・・・
お茶を啜った。
少し熱いな。
すると救いの手が現れた。
玄関から声がする。
「マーク、いるか!」
ランドの声だ。
「ああ、こっちだ上がって来いよ」
「ちょっと待った!そろそろ時間じゃないか?マーク?」
意味深にマークを見つめる。
「そ、そうですね。じゃあいきましょうか?」
伝わったようだ、よかった。
「ああ、そうしよう」
「えっ!島野さんもう行かれるので?」
「すいません、先を急いでますので」
嘘である、急いでなんかいない、早くこの場から離れたいだけです。
「そうですか残念です、いろいろお話をお聞きしたかったのですが・・・」
「まあ、またということで・・・」
申し訳ないとは思うが、早くここから立ち去りたいんですよ、ごめんなさいね。
「じゃあ、またお会いしましょう」
と言って、右手を差し出した。
思った以上に強く握り返された。
「ではまた、お茶美味しかったです、それでは」
そそくさとマークの実家から離れていった。
なんだか一気に疲れてしまった。
横にマークがいた。
マークの脇腹に軽く肘鉄を当ててやった。
「う!」
俺は目線も合わせずに歩きだした。
あー、すっきりした。
打ち合わせに茶屋に入ることにした。
メニュー表を眺める。
お茶と茶菓子しかなかった。
「じゃあ、お茶をください」
「「「俺も」」」
はあ、一息着こう。
さて、気分を変えないとな。
「で、状況を教えてくれ」
「はい、大工道具はこの街でしか手に入れない物は、大体確保できました」
マークが答える。
「後は、やはり鍛冶の街で揃えたいのがいくつかありますね」
今度はランドが答えた。
「そうか、資金は足りたか?」
「ええ、充分に足りてます」
「で、どうする?直ぐにでも鍛冶の街に向かうか?」
「そうですね、俺は構いませんが、お前はどうだ?マーク」
ランドが答える。
「構わない」
「島野さん、あともう一週間修業させてください」
ランドはまだ修行がしたいようだ。
「いいぞ、じゃあ一度ランドール様にお礼を言ってから向かおうか」
「そうですね」
ここでちょうどお茶が運ばれてきた。
直ぐにお茶を飲んで、会計を済ませて店を出た。
ランドール様のところに向かった。
ランドール様は普通に、仕事モードで俺達を迎えてくれた。
「ランドール様、製図を作製いただいたようで、ありがとうございます」
「なにそれしきのこと、君に貰ったアドバイスの方が私にとっては大きな物だよ、気にしないでくれ」
「いえいえ、そうはいきません」
と言って、俺は『収納』からトウモロコシ酒を差し出した。
「こ、これは一体なんだね?」
「トウモロコシ酒です、かなり酒精が強いので薄めて飲んでください」
ランドール様の目が輝いている。
どうせなら、落ちるところまで落ちてしまえ、このイケメンめ!
ランドール様の顔が、下卑たにやけ顔になっていた。
それをギルがジト目で見ている。
それを感じ取ったのか、真面目な顔になったランドール様。
もう遅いって・・・欲望が駄々洩れなんですって。
「ああ、ありがとう、薄めて頂くことにするよ」
と言ってトウモロコシ酒を受け取っていた。
今回は弟子には渡さず大事に抱えていた。
この人は・・・まあ何とも・・・好きに生きてくれい!
ランドール様の所を後にした。
鍛冶の街には空路で東に二日だが、ここでも俺達はズルをした。
半日も掛からなかった。
ランドとマークはまた転移酔いになり、何度か休憩を挟みながらの移動になった。
鍛冶の街はフランというようで、山を切り崩して造った、街のようだった。
標高はそれなりに高く、俺にはちょっと肌寒かった。
『収納』から上着を取り出して、ジャケットを羽織る。
街の城門は重厚な扉に阻まれており、タイロンの城壁よりも高い城壁がこの街を覆っていた。
外から見る景色としては、工業都市といったら分かり易いであろうか、至る所に煙と円筒が見える。
その城門で俺達はチェックを受けている。
入場は速やかに行われた。
街の中に入って眺めてみる。
ちょっと薄暗い印象を受ける。
城壁の高さがそうさせるのか、石造りの街がその印象を強くさせるのか、どちらなのかは分からない。
でも、街は活気に溢れており、決して印象は悪くない。
それにしてもドワーフが多い、たまに獣人や人間を見かけるが、ドワーフの国と言ってもいいほどに、ドワーフに満ち溢れていた。
「まずは何処かで昼飯にするか?」
「そうですね、そうしましょう」
マークが答える。
「もう転送酔いは大丈夫なのか?」
「ええ、だいぶ落ち着いてきました」
お店はどこがいいだろうか?
適当に選ぶしかないか。
「マークとランドはこの街には来た事はあるのか?」
「ええ、ありますよ」
ランドも頷いている。
「お勧めの飯屋とかないのか?」
「そうですね、上手い肉料理を出す店がありますね」
「じゃあそこに行ってみよう」
「では、付いて来てください」
マークに付いていった。
賑やかなお店だった。
テーブルの数も一五台あり、全てが四人掛けだ。
八割近くの席が埋まっている。
客のほとんどがドワーフで、昼間から酒を飲んで大騒ぎしている集団もあった。
「賑やかな店だな」
俺の呟きにランドが答える。
「ええそうですね、この街の飲食店は、だいたいこんな感じですよ」
「そうなのか?まあ嫌いじゃないがね、注文は任せてもいいか?」
「分かりました、任せてください」
ランドがウエイトレスさんに手を挙げた。
こちらに気づきウエイトレスさんがやってきた。
「注文していいですか?」
「ブルのステーキを四人分と、パンを四人分、あとお勧めのスープを四人前お願いします」
ウエイトレスさんが立ち去っていった。
「この先の予定だが、できればこの街の神様に会いたいな、その後で大工道具を買いにいこう」
「そうですね、鍛冶の神様の居所は道すがら聞いてみましょう」
「そうだな、そうしよう」
それにしても賑やかだな、昼間から酒飲んで騒いでって、体に良くないぞ。
まあ俺も似たようなもんか、朝からサウナに行って、帰ってからビール飲んで昼寝して、夕方にまた風呂に入って仕切り直して、また晩飯と共にビールを飲む。やってることは一緒だな。
鍛冶の神様か、どんな物を造っているんだろうか?
もしかして刀とか売ってたりして、刀があったら一本買っておくか?
いや使い道は無いし、贅沢品だよな。
ハンター達は防具とか盾とかいろいろ買う物があるんだろうな。
マーク達は大工道具以外は、欲しくないのかな?
「マークにランド、大工道具以外でも欲しい物があったら言ってくれよ」
「大工道具以外ですか?」
マークが答える。
「ああ、防具とか盾とか、剣とかさ」
「いやー、今の俺達はハンターを引退してますので、特に欲しいとは思わないですね」
「ええ、俺も特にはないですね」
「お前達はハンターには戻らないのか?」
ランドとマークが顔を見合わせている。
「ハハハ!島野さんなんの冗談ですか?戻る必要なんてないですよ、なあランド」
「ええ、俺は全く未練はありませんよ、それどころか本音を言えば戻りたくないですよ」
「そうなのか?」
「そうですよ、サウナ島での暮らしは快適だし、ハンターの様に危険はありませんし、給料だって充分に貰ってます」
「そうですよ、今となってはサウナ島を離れるなんて選択肢はありませんよ」
「そうか、そう言って貰えると助かるな、でもサウナ島でも獣はいるから、狩りがしたいとか思わないのか?」
「それは時々ありますけど、ノンが居ますし、俺達ではついていけませんよ」
「ええ、一度ノンの狩りに同行したことがありますが、ノンはかなり速いですし、獣の弱点を知っているのか、ほとんど一撃で倒しますからね」
「へえ、そうなんだ」
最近あいつに、あまり構わなくなったから知らなかったが、強くなってるみたいだな。
そろそろまた稽古でもつけてやろうかな?
逆に負かされちゃったりして。
気が付くと、ウエイトレスさんが食事を運んできた。
「じゃあ、飯にするか」
「「いただきます!」」
ブルのステーキは食べ応えがある、なかなかのボリュームだ。
味付けはシンプルに塩とこれはハーブ類の何か、食欲をそそるいい匂いがする。
パンは固めだ、顎が痛くなりそうだ。
スープはトマトスープだ、なかなかコクがあっていい味だ。
何かの出汁が入っているな、何だろう?
いかんいかん、純粋に食事を楽しもう。
パンはスープに浸して食べることにした。
お腹一杯になった。
ギルはブルのステーキを五回お替りしていた。
この体のいったいどこに入るのだろうか?
決してお腹は出ていない。
毎度毎度よく食うことで。
たんとお食べ。
「さて、行くか」
「「御馳走様でした!」」
お店を出て、街の散策がてら神様の所在を尋ねた。
マークが女性のドワーフに話し掛けている。
「すいません、この街の神様にはどこに行けば会えますでしょうか?」
「神様?ゴンガス様のことかい?」
「ええそうです」
とマークは、同意する。
ゴンガス様か、不思議な響きの名前だな。
「ゴンガス様なら『鍛冶工房ゴンガス』にいるよ」
鍛冶工房の場所を聞いて、ドワーフの女性にお礼を言った。
俺達は鍛冶工房を目指した。
鍛冶工房は大きな倉庫の様な造りをしており、天井には大きな煙突がある。
建物は石造りであった。
鍛冶に火を使う為、木製という訳にはいかないのだろう。
倉庫の前でも熱を感じた。現在釜の使用中といったところか。
入り口は二つあり、作業場とお店を兼ねているようだ。
お店の方に尋ねてみることにした。
お店の中は広く、様々な防具や、剣、鎧などが展示されており、全ての商品がピカピカに磨きあげられていた。
その奥に向かうと、大工道具や、調理器具等が展示されていた。
ここで目を引く一品があった。
包丁だ、これは業物だ。
刃の部分が光を反射して光って見えた。
値段を見て見ると、金貨五枚となっていた。
ちょっと、手を出しづらいな。
包丁に五万円は、流石に止めておこう。
受付の女性に声をかけることにした。
「鍛冶の神様に会いたいんですけど、いらっしゃいますか?」
「いますけど、今は作業中ですので難しいですね。作業中は声を掛けると怒られてしまいますから」
受付の女性は肩をすぼめている。
「そうですか、それは残念です」
「多分、まだまだ掛かると思いますよ」
また後で顔を出すとするか。
ひとまずお土産だけでも渡しておこう。
『収納』からワインを三本取り出した。
ワインを受付の女性に渡す。
「また後で伺います、これはお土産ですので、鍛冶の神様に渡しておいてください」
「まあ、これは美味しそうなワインですね、あなたのお名前は?」
「島野といいます」
「島野さんね、分かりました、渡しておきます」
「よろしくお願いします」
俺達は工房を後にした。
「しょうがないな、先に買い物をすませようか?」
「そうしましょう」
お店を見て周ることにした。
どこの店でもハンター用の防具などが展示してあり、その脇で大工道具などが展示されていた。
マークとランドは積極的に、大工道具を見て周っていた。
どうやらハンターには本当に未練が無いようだ。防具や武器等には全く目を向けていなかった。
逆に武器等に俺は興味を覚えた。
本当にいろいろな武器がある、剣、大剣、細身の剣、槍、弓、小刀、こん棒、等様々だ。
防具は皮で出来たものが多く、胸当てや籠手などが中心だ。
鉄の鎧もあったが、これを着るのは大変そうだ、とても重そうに見える。
兜はほとんど見かけなかった。
対人戦闘を考慮していない、ということなんだろうか?または、獣は飛び道具を使わないからか?
靴はブーツがほとんどで、中に鉄板を仕込んである物もあった。
安全靴といったところなんだろう。
一つ変わった剣を見つけた。
持ち手の所に丸い穴が開いてる。
「ランド、これはなんでここに穴が開いてるんだ?指を引っかけるとかするのか?」
「これは多分魔法剣ですね、この穴に魔石を嵌めて使うんだと思います。俺は使ったことはないですが」
「なるほど、魔石を嵌め込んで剣に魔法を付加する訳か、さすが魔法のある世界だな」
「ただ、剣を使う職業の者が、攻撃魔法を使えることは稀ですので、ほとんど出回ってませんがね」
「そうか、魔法剣士は滅多にいないってことだな」
「その通りです」
確かにマークも、ランドも攻撃魔法は取得して無かったな。
ノンならどうだろう?人型で狩りをしているのだろうか?
まあでも、ノンが剣を振り回す姿は創造しづらい。
結局五軒梯子をし、大工道具もほとんどが手に入ったようだ。
お店を出ると、既に夕方を迎えていた。
「島野さん、これで大体は揃いました、もう大丈夫です」
ランドが笑顔で言った。
「そうか、じゃあもう夕方だし帰るか?」
「一応、ゴンガス様の所を見に行ったほうが良くないですか?」
「ああそうだったな、買い物に気を取られていて、忘れていたよ」
「じゃあゴンガス工房に向かいましょう」
「そうだな」
再びゴンガス工房を目指した。
中に入り、受付の女性に声を掛けた。
「あらさっきの、居ますよ」
と言うと、何故だかニヤリと笑っていた。
受付の女性は、受付の裏に入っていった、どうやら神様を呼びに行ってくれたようだ。
すると、ドタバタと音がしたと思ったら、ドワーフが飛び出してきた。
「お前さんか?!」
ぼさぼさ髪の、長い髭を蓄えたドワーフだ。
身長は百四十センチぐらいしかないが、がっちりマッチョの体形をしている。
「はい?」
「このワインを造ったのは、お前さんか?」
お土産に渡したワインボトルを片手に挙げ、興奮気味に聞かれた。
「ええ、そうですが・・・」
「そうか!そうか!無茶苦茶上手かったぞ、もう全部飲んでしまったわい、ガハハハ!」
豪快に笑っている。
急に素に戻ると
「もう無いのか?」
と尋ねられた。
「ワインのことですか?」
「ああ、そうだ買ってもいいぞ」
どうしたもんか?デジャブだな、ゴンズ様の時もこんな感じじゃなかったか?
でも断れんよな?
「ええいいですけど、何本要りますか?ちなみにワイン一本銀貨三十枚です」
「銀貨三十枚か?」
髭に手をやり、考え込んでいるようだ。
「そうだな、ひとまず十本だな」
「ひとまずで十本ですか?」
「ああ足りんぐらいだ、こいつも気に入ったようだからな」
と言って受付の女性を見ていた。
はあ?仕事中に飲んだのか?
ドワーフ遅るべし。
『収納』からワインを十本取り出した。
「金貨三枚になります」
ゴンガス様から金貨三枚を受け取った。
毎度あり!
でいいんだよね?・・・
「ちなみにもっと酒精の強い酒は無いのか?儂はもっと酒精が強いのが好みでのう」
「そうですね、トウモロコシ酒があります」
「トウモロコシ酒?聞いたことが無いな」
『収納』からトウモロコシ酒を取り出して、ゴンガス様に手渡した。
「どれどれ」
と言うと、蓋を開けてグビグビと飲みだした。
豪快にもほどがあるでしょうが、喉が焼けるぞ。
「プハー!、これは良い、これぐらいなくちゃあな!喉が焼けるのが心地いい」
心地いい?嘘でしょ?
「おお悪いことをした、いくらだ?」
「いや、いいです。差し上げますよ」
「そうか、ありがたい、では遠慮なく貰っておく」
「どうぞ・・・」
「ここじゃあなんだ、奥で話を聞こうか?」
「えっ!よろしいので?」
「ああこれほどの酒を作れる奴に、悪い者なんかいないからのう、遠慮するな、中に入ってこい」
「では、遠慮なく」
俺達は奥に通された。
ダイニングといった所だろうか、机に椅子が八脚あり、食事中だったのか、食事と空になったワインボトルが転がっていた。
「適当に座ってくれ」
俺はゴンガス様の正面に座り、俺の隣にギルが座った。
マークとランドは、ゴンガス様の両隣に腰かけた。
「まずは自己紹介させてください、俺は島野といいます」
「僕はギルです」
「俺はマークです」
「ランドです」
「そうか儂はゴンガスだ、でどういった用件なんだ?ああ、お前さん達も飲むか?」
「いや、止めときます」
手を出して制した。
「そうか」
「まずはギルなんですが、今は人化してますが、ドラゴンなんです」
ゴンガス様は眉を潜めた。
「ドラゴン?・・・エリスの息子か?」
「エリス?」
「違うのか?」
「あ、いや」
エリスって誰?
「エリスって誰でしょうか?」
「儂の知るドラゴンは、エリスしかおらん、だから聞いてみたんだ」
「エリスというドラゴンがいるんですね?」
「ああ、だかもうかれこれ二百年近く、会ってないがな」
「そうなんですか・・・」
ギルを見ると、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
「他にもドラゴンはいるんでしょうか?」
「いるんだろうが儂は知らんな、竜族は少ないと思うが、その存在自体が貴重だからな」
「貴重ですか?」
「ああ、竜族は世界に平和を与える種族と言われておる、何処だかは忘れたが、竜族を祭る村が確かあったはずだ」
「竜族を祭る村ですか・・・」
「それに竜族は生まれながらにして神の力を宿しておるし、魔法も使える、奴らは神獣だからな」
「そうですね、それは知ってます」
「エリスはたまたまこの街にやってきてな、儂とも気があって何度か酒を酌み交わした仲だ、何処でどうしておるのやら」
「ゴンガス様、そのエリスって人はどういう人なんですか?」
ギルが尋ねた。
エリスが気になるのだろう。
「エリスは儂と一緒で大酒飲みでな、腕力も強く豪快なやつだったな。明るい性格で、皆から好かれておったよ」
「そうなんですね」
ギルの目が輝いている。
どうやら嬉しいようだ。
「それでもって人情に厚く、よく人助けをしていたな、ただ放浪癖があって、いきなり現れたと思ったら、直ぐにどっかに行ってしまう。落ち着きが無いと言ったほうがいいかもしれんな」
「へえー」
「まあ今はどうしておるかは知んが、で、どうしてドラゴンがお前さんと一緒におるんだ?おまえさんは人間だろ?」
「ええ、実はギルは俺達が住んでいる島に居まして、最初は卵だったんですが、俺が孵化させたんですよ」
「はあ、おまえさんも神なのか?」
「厳密には人間ですが、神の能力を使えます」
「神の能力を使えるって、それはもう神だろ?」
「ステータスを見ると人間なんですよ」
「ほう、変わった存在だな。儂も神になって三百年近くになるが、そんな話は聞いたことがないのう」
「それで、ギルは俺の息子なんです」
「なるほどな」
「神様に会って、いろいろと勉強させて頂ければと思いまして、神様を尋ねているんです」
「神様行脚してるってことか?」
「はい、そうです」
「それで、何か学べたのか?」
「いえ、まだまだ分からないことだらけです」
「そうか儂もドラゴンのことは、エリスのことぐらいしか知らんな、悪いなギル」
「いえ、僕以外にもドラゴンが居るって、分かっただけでも嬉しいです」
ギルがニコニコしていた。
「儂もお前さんに聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「儂は好きが高じて、鍛冶の能力だけでなく酒を作る能力も持っておる、ここ最近では、酒の神なんて言われることもある。この酒だが、そうとうに美味い、どんな原料から作っておる?よほどいい野菜から作っているだろ?」
ああ、答えないといけないかな?
この先は踏み込んではいけない気がするが・・・
答えるしかないか・・・
「俺達の島の野菜です」
「何?なんだと?」
喜々として見つめられている。
目線が痛いです。
やめて!
「島野だったな、その野菜売ってくれ」
ほうらきたよ、絶対この流れになると思ったよ。
あー、もうこれ以上畑を増やしたくないんですって。
でも、断れないよな・・・
「少しだけなら・・・」
「そんな連れないこと言うな」
ゴンガス様は懇願する表情になっていた。
「いや、本当に少しだけにしてください・・・」
ふうとゴンガス様はため息を吐いた。
「そうか・・・まあしょうがない、でどんな野菜があるんだ?」
「じゃあとりあえず、今私が持っているアルコール類を見せますね、そこから考えていってもらえませんか?」
「よっしゃ!」
おいおい、ゴンガス様興奮しすぎだって、落ち着いてよもう。
『収納』からビール、日本酒、ワイン(白と赤)、トウモロコシ酒、焼酎を取り出した。
「ほう、いろいろとあるな」
ゴンガス様は喜々としている。
「ゴンガス様はどんなアルコールを作っているんですか?」
「儂か?ちょと待ってろよ!」
と言うとどこかに行ってしまった。
少ししたらゴンガス様は瓶を片手に戻ってきた。
「飲んでみるか?」
「一口だけ」
アルコールをグラスに注いでいる。
ちょっと一口だって、そんな並々注がないでよ、人の話聞いてた?
「ほれ、飲んでみよ」
グラスを渡された。
アルコールはわずかに琥珀色をしている。
匂いを嗅いでみた。
うえ!なにこのアルコール臭!絶対強いやつじゃないか。
「では、いただきます」
俺は意を決して軽く一口飲んでみた。
んん!
喉が・・・焼ける・・・焼けるって!・・・きっつう!
グラスをマークに手渡した。
マークが明らかに嫌がっている。
俺だけこんな目に合うなんてひどい、こいつらも巻き込んでやる。
ハラスメントと言われてもいい。
俺はマークに目で飲めと訴えかけた。
マークは一瞬嫌な顔をしたが、直ぐに腹を決めたようだ。
ぐいっと一口飲むマーク。
マークの顔が歪む。
グラスはランドへと手渡された。
俺はランドに目で飲むように訴えかけた。
これまた一瞬嫌な顔をしたが、直ぐに腹を決め、くいっと一口飲んだ。
ランドの顔が歪んだ。
「ゴンガス様、これはきつ過ぎます!」
「何を言っておる、ガハハハ!これぐらい酒精が強くないと酒とは言えんぞ、ガハハハ!」
笑ってんじゃねえよ、この酒好きドワーフが!
あー、しんどい。
「ああ、これはきついです」
「ええ、きついです」
二人も参っているようだ。
君たちは私と運命共同体なのだよ・・・なんだかごめん。
「これの原料は何ですか?」
「これは、ライ麦とジャガイモをブレンドしたものだ」
くそう!
スピリタスじゃねえか、そんなもん飲ますなよ!
「それではこちらのも試してください、でもこんなにアルコール度の強いお酒はありませんよ」
「ああ、分かっておる」
俺達が飲んだグラスの残りを一口で飲んでから、空いたグラスに次々とアルコールを入れては、飲んでを繰り返していた。
「うん、それぞれ美味だな、だがやはり儂はこのトウモロコシ酒が一番いいのう」
「ではトウモロコシを少しお分けしますよ」
「だな、あとは順次だな?」
はあ?順次って何?
聞こえませんよ。
押し黙るしかなかった。
ふう、そろそろ本題に入るか。
「アルコールの話はこれぐらいにして、ゴンガス様にお会いした一番の理由を話してもいいですか?」
「一番の理由?」
「ええ、ここ数年神気が薄くなってると、感じてますか?」
ゴンガス様が急に真剣な顔付きになった。
「ああ感じておる、お前さん何でそんなことを知っておる?ああそうか、お前さんも能力を使えるんだったな」
「はい、この現象に何か心当たりは無いですか?」
眉間に皺を寄せている。
「無いな、正直儂は困っておる。最近では能力の使用を制限しておるぐらいだ」
能力の使用を制限している?そこまでなのか。
もしかして、神気を取り込める総量が少ないのか?
「実は少しでも神気不足を解消しようと活動していまして」
と言うと、俺は『収納』からお地蔵さんを取り出した。
「おお!これはなかなかの業物だな」
「これはお地蔵さんと言いまして、このお地蔵さんに祈りを捧げると、神気を放出するんです」
「何だと?本当か?」
「ええ『聖者の祈り』と言って、信心深い方が祈りを捧げると、たくさん神気を放出します」
「そうなのか、凄いじゃないか!」
「それでこの街の片隅や、街道筋に置かせていただけないかと思いまして、数体持参しています」
「ああ、有るだけくれ」
「有るだけですか?」
「多ければ、多いほどいいんじゃないのか?」
「それは分かりませんが、今までタイロンやメッサーラを始め、私とギルが訪れた街や村には置かせて頂いてます」
「そうか、じゃあお前さんのこれぐらいと思う数を貰っておく」
「分かりました、あとこの街には教会はありますか?」
「もちろんだ」
「いくつありますか?」
「二つだ」
「その教会の石像を改修させて頂いても、よろしいでしょうか?」
「ちょっと待て、その石像の改修はお前さんがやるのか?」
「はい俺がやります、このお地蔵さんも俺が造りました」
「お前さん、何者だ?」
「人間です」
ゴンガス様は一瞬固まって、そうだったと諦めた顔をした。
「だったな、お前さんは面白い奴だのう」
にやけ顔でこちらを見ている。
「そうですか?」
「ああかなり面白い、今後いい付き合いをしような」
と右手を差し出してきた。
右手を握り返した。
良い付き合いってのが気になるが・・・まあいいか。
この日は強いアルコールを飲まされたせいで、石像の改修が出来る訳も無く、明日出直すことになった。
マークとランドを大工の街ボルンに送り、俺とギルは島に帰った。
翌日、俺はギルを伴いゴンガス様のところにやってきた。
「トウモロコシを何本か持ってきましたが、どうしますか?」
「そうだな、ひとまず五十本ほど貰えるか」
「分かりました」
指示されたところにトウモロコシを五十本置いた。
「金貨一枚ですがいいですか?」
「ああ、随分安いな」
「そうですか?」
五郎さんのところと同じにしたけど、ここでは物価が違うのか?
金貨を一枚受け取った。
「じゃあ行きましょうか」
「ああ、そうしよう」
俺達は連れ立って教会に向かった。
教会はこれまで見て来た教会と、あまり変わり映えしなかった。
「じゃあ改修させて頂きますね」
『加工』で石像の改修を行う。
シスターやゴンガス様が、驚きの表情で改修された石像を見ていた。
シスターは泣き崩れ、ゴンガス様も改修された石像をまじまじと眺めている。
すると一人のシスターが石像に祈りを捧げた。
『聖者の祈り』が発動する。
空気中に神気が放出された。
「おお!」
ゴンガス様が声を漏らす。
「これが聖者の祈りか・・・」
「ええ、そうです」
「ありがたいな、儂達はこれがないとやっていけんからのう」
「そうですね」
「次に行きましょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
次の教会に向かった。
同じ様に石像を改修し教会を後にした。
結局お地蔵さんは六体寄贈し、設置場所はゴンガス様の判断に任せることにした。
これにて『鍛冶の街フラン』でのミッションは終了した。
それにしても神様って、酒好きが多すぎやしませんか?
もう付き合い切れませんがな・・・
あー、しんど。
ボルンの街に着いてみたのはいいが、待ちあわせ場所を決めていなかったことに気づいた。
やってしまったー。
頭を抱えるも、後の祭りである。
ひとまずは聞き込むしかない。
まずは街の入口の警備兵に尋ねてみた。
「マークとランドを探していいるのですが、どこにいるかご存じですか?」
「どうかな、実家にいるんじゃないかな?」
「実家ですか、場所は分かりますか?」
「ああ、それなら・・・」
マークとランドの実家の場所を教えて貰った。
俺とギルは聞いた通りに街を進んでいく。
改めてボルンの街を見てみた。
活気にあふれたいい街だと感じる。
種族は人間と獣人が多い、たまにエルフを見かけるぐらいか。
俺にとっては、日本を感じる気持ちの良い街だ。
宮造りの家は見ているだけでも、心が落ち着く。
「パパ、ランドール様が居るよ」
ギルに教えられた方向をみると、ランドール様がエルフの女性をナンパしていた。
「ギル、見なかったことにしよう」
「そうだね」
俺とギルは、知らぬ振りをして、通りすがった。
真昼間から何やってんだか・・・パイセン!
ギルも呆れた顔をしていた。
教えられたマークの家に着いた。
マークの実家も宮造りで、立派な門構えの家だった。
こちらの世界の玄関での取り扱いは、分からないが、ノックでいいだろう。
コンコン!
奥から声がする。
男性の声だ。
足音が近づいてきた。
引き戸の扉が開かれる。
出て来たのは、マークによく似た、細身の初老の男性だった。
「突然すいません、島野と申しますが、マークはいますか?」
男性が目を見開いた。
「あ、あなたが、島野さんですか!マークがお世話になってます!さあ中にどうぞ、どうぞ!」
いきなり熱烈な歓迎をされてしまった。
「あの、マークはいますか?・・・」
「ああ、すいません、すいません、奥におります、いやー、マークから聞いてますよ、命を救って頂いただけでなく、とても良くして貰っていると、ささ中にどうぞ」
こうなってしまっては、入らざる負えないな。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「遠慮なくどうぞ、今お茶を準備させますので」
俺とギルは、家の中に入ることにした。
なんだかな・・・
ドタドタと音をさせながらマークが現れた。
「島野さん、なんかすいません」
「いやいいんだ、待ち合わせ場所を指定しなかった俺が悪い、気にしないでくれ」
「俺も別れてから気づいたんですよ」
すまなそうに頭を下げるマーク。
「今のはマークの親父さんか?」
「ええ、そうです。なんだか浮足立ってしまっているようで、申し訳ないです」
「お前、俺のことをなんて話してるんだ?熱烈に歓迎されてるじゃないか?」
「いや、そのまんまですよ、ありのままです」
「ありのままって・・・まあいいや、でランドはどうしてる?」
「あいつも実家に居るはずです、呼んできましょうか?」
「いや、それは止めてくれ」
マークの親父さんの相手を俺がすることになるじゃないか!
あの勢いで来られたら敵わんぞ。
「で、状況はどうなっている?」
「ええ、何とかなりそうです、ただもう少し宮大工の技術を取得したいですね」
「そうなのか?」
「はい、実はランドール様に製図を作って貰ったんです」
「本当か?お礼しないとな」
「いや、それは良いと思います。島野さんと出会えて良かった、能力の開発という新境地を教えて貰ったと、恩に感じているようですから」
「そういう訳にもいかんだろう」
まあ、あのナンパしてる姿を見ると、それでもいいかと思ってしまうが・・・こういう事はちゃんとしないとな。
お礼は何にしようか?
等と考えていると、マークの親父さんがお茶を持って現れた。
「いやあ、家の息子が大変お世話になっている方にお会いできるとは、思ってもいませんでしたよ、ハハハ」
頭を掻くしかなかった。
「しかし、実際会ってみるとマークが言う通り、ただのお兄ちゃんにしか見えないですね」
だたのお兄ちゃんって、なんだよ!
「お兄ちゃんですか・・・ハハハ」
マークのやつ何を話したってんだよ!
正直この先の会話が怖い。
「こいつが言うには、島野さんは創造神様の再来かもしれないって、いう話じゃないですか。それに滅茶苦茶強いって」
ああ、今すぐ頭を抱えたい・・・それに帰りたい。
マークめ!あっ!こいつ目線を反らしやがったな。
「いえいえ、そんなことは・・・」
「それに、随分と稼がせて頂いているようで、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ、マークは頼りにさせて貰ってますので」
「ほう、こいつが頼りに、いやー嬉しいことです。今後とも愚息をよろしくお願いいたします」
「そんな愚息だなんて、ほんとマークは頼りにしてるんですから」
「いやいや、そんなそんな」
「せっかくですので、お茶を頂かせていただきます」
なんだろう・・・俺は家庭訪問をしているのか?
中学校の教師の気分だな、多分・・・
早く次に行きたいんだが・・・
お茶を啜った。
少し熱いな。
すると救いの手が現れた。
玄関から声がする。
「マーク、いるか!」
ランドの声だ。
「ああ、こっちだ上がって来いよ」
「ちょっと待った!そろそろ時間じゃないか?マーク?」
意味深にマークを見つめる。
「そ、そうですね。じゃあいきましょうか?」
伝わったようだ、よかった。
「ああ、そうしよう」
「えっ!島野さんもう行かれるので?」
「すいません、先を急いでますので」
嘘である、急いでなんかいない、早くこの場から離れたいだけです。
「そうですか残念です、いろいろお話をお聞きしたかったのですが・・・」
「まあ、またということで・・・」
申し訳ないとは思うが、早くここから立ち去りたいんですよ、ごめんなさいね。
「じゃあ、またお会いしましょう」
と言って、右手を差し出した。
思った以上に強く握り返された。
「ではまた、お茶美味しかったです、それでは」
そそくさとマークの実家から離れていった。
なんだか一気に疲れてしまった。
横にマークがいた。
マークの脇腹に軽く肘鉄を当ててやった。
「う!」
俺は目線も合わせずに歩きだした。
あー、すっきりした。
打ち合わせに茶屋に入ることにした。
メニュー表を眺める。
お茶と茶菓子しかなかった。
「じゃあ、お茶をください」
「「「俺も」」」
はあ、一息着こう。
さて、気分を変えないとな。
「で、状況を教えてくれ」
「はい、大工道具はこの街でしか手に入れない物は、大体確保できました」
マークが答える。
「後は、やはり鍛冶の街で揃えたいのがいくつかありますね」
今度はランドが答えた。
「そうか、資金は足りたか?」
「ええ、充分に足りてます」
「で、どうする?直ぐにでも鍛冶の街に向かうか?」
「そうですね、俺は構いませんが、お前はどうだ?マーク」
ランドが答える。
「構わない」
「島野さん、あともう一週間修業させてください」
ランドはまだ修行がしたいようだ。
「いいぞ、じゃあ一度ランドール様にお礼を言ってから向かおうか」
「そうですね」
ここでちょうどお茶が運ばれてきた。
直ぐにお茶を飲んで、会計を済ませて店を出た。
ランドール様のところに向かった。
ランドール様は普通に、仕事モードで俺達を迎えてくれた。
「ランドール様、製図を作製いただいたようで、ありがとうございます」
「なにそれしきのこと、君に貰ったアドバイスの方が私にとっては大きな物だよ、気にしないでくれ」
「いえいえ、そうはいきません」
と言って、俺は『収納』からトウモロコシ酒を差し出した。
「こ、これは一体なんだね?」
「トウモロコシ酒です、かなり酒精が強いので薄めて飲んでください」
ランドール様の目が輝いている。
どうせなら、落ちるところまで落ちてしまえ、このイケメンめ!
ランドール様の顔が、下卑たにやけ顔になっていた。
それをギルがジト目で見ている。
それを感じ取ったのか、真面目な顔になったランドール様。
もう遅いって・・・欲望が駄々洩れなんですって。
「ああ、ありがとう、薄めて頂くことにするよ」
と言ってトウモロコシ酒を受け取っていた。
今回は弟子には渡さず大事に抱えていた。
この人は・・・まあ何とも・・・好きに生きてくれい!
ランドール様の所を後にした。
鍛冶の街には空路で東に二日だが、ここでも俺達はズルをした。
半日も掛からなかった。
ランドとマークはまた転移酔いになり、何度か休憩を挟みながらの移動になった。
鍛冶の街はフランというようで、山を切り崩して造った、街のようだった。
標高はそれなりに高く、俺にはちょっと肌寒かった。
『収納』から上着を取り出して、ジャケットを羽織る。
街の城門は重厚な扉に阻まれており、タイロンの城壁よりも高い城壁がこの街を覆っていた。
外から見る景色としては、工業都市といったら分かり易いであろうか、至る所に煙と円筒が見える。
その城門で俺達はチェックを受けている。
入場は速やかに行われた。
街の中に入って眺めてみる。
ちょっと薄暗い印象を受ける。
城壁の高さがそうさせるのか、石造りの街がその印象を強くさせるのか、どちらなのかは分からない。
でも、街は活気に溢れており、決して印象は悪くない。
それにしてもドワーフが多い、たまに獣人や人間を見かけるが、ドワーフの国と言ってもいいほどに、ドワーフに満ち溢れていた。
「まずは何処かで昼飯にするか?」
「そうですね、そうしましょう」
マークが答える。
「もう転送酔いは大丈夫なのか?」
「ええ、だいぶ落ち着いてきました」
お店はどこがいいだろうか?
適当に選ぶしかないか。
「マークとランドはこの街には来た事はあるのか?」
「ええ、ありますよ」
ランドも頷いている。
「お勧めの飯屋とかないのか?」
「そうですね、上手い肉料理を出す店がありますね」
「じゃあそこに行ってみよう」
「では、付いて来てください」
マークに付いていった。
賑やかなお店だった。
テーブルの数も一五台あり、全てが四人掛けだ。
八割近くの席が埋まっている。
客のほとんどがドワーフで、昼間から酒を飲んで大騒ぎしている集団もあった。
「賑やかな店だな」
俺の呟きにランドが答える。
「ええそうですね、この街の飲食店は、だいたいこんな感じですよ」
「そうなのか?まあ嫌いじゃないがね、注文は任せてもいいか?」
「分かりました、任せてください」
ランドがウエイトレスさんに手を挙げた。
こちらに気づきウエイトレスさんがやってきた。
「注文していいですか?」
「ブルのステーキを四人分と、パンを四人分、あとお勧めのスープを四人前お願いします」
ウエイトレスさんが立ち去っていった。
「この先の予定だが、できればこの街の神様に会いたいな、その後で大工道具を買いにいこう」
「そうですね、鍛冶の神様の居所は道すがら聞いてみましょう」
「そうだな、そうしよう」
それにしても賑やかだな、昼間から酒飲んで騒いでって、体に良くないぞ。
まあ俺も似たようなもんか、朝からサウナに行って、帰ってからビール飲んで昼寝して、夕方にまた風呂に入って仕切り直して、また晩飯と共にビールを飲む。やってることは一緒だな。
鍛冶の神様か、どんな物を造っているんだろうか?
もしかして刀とか売ってたりして、刀があったら一本買っておくか?
いや使い道は無いし、贅沢品だよな。
ハンター達は防具とか盾とかいろいろ買う物があるんだろうな。
マーク達は大工道具以外は、欲しくないのかな?
「マークにランド、大工道具以外でも欲しい物があったら言ってくれよ」
「大工道具以外ですか?」
マークが答える。
「ああ、防具とか盾とか、剣とかさ」
「いやー、今の俺達はハンターを引退してますので、特に欲しいとは思わないですね」
「ええ、俺も特にはないですね」
「お前達はハンターには戻らないのか?」
ランドとマークが顔を見合わせている。
「ハハハ!島野さんなんの冗談ですか?戻る必要なんてないですよ、なあランド」
「ええ、俺は全く未練はありませんよ、それどころか本音を言えば戻りたくないですよ」
「そうなのか?」
「そうですよ、サウナ島での暮らしは快適だし、ハンターの様に危険はありませんし、給料だって充分に貰ってます」
「そうですよ、今となってはサウナ島を離れるなんて選択肢はありませんよ」
「そうか、そう言って貰えると助かるな、でもサウナ島でも獣はいるから、狩りがしたいとか思わないのか?」
「それは時々ありますけど、ノンが居ますし、俺達ではついていけませんよ」
「ええ、一度ノンの狩りに同行したことがありますが、ノンはかなり速いですし、獣の弱点を知っているのか、ほとんど一撃で倒しますからね」
「へえ、そうなんだ」
最近あいつに、あまり構わなくなったから知らなかったが、強くなってるみたいだな。
そろそろまた稽古でもつけてやろうかな?
逆に負かされちゃったりして。
気が付くと、ウエイトレスさんが食事を運んできた。
「じゃあ、飯にするか」
「「いただきます!」」
ブルのステーキは食べ応えがある、なかなかのボリュームだ。
味付けはシンプルに塩とこれはハーブ類の何か、食欲をそそるいい匂いがする。
パンは固めだ、顎が痛くなりそうだ。
スープはトマトスープだ、なかなかコクがあっていい味だ。
何かの出汁が入っているな、何だろう?
いかんいかん、純粋に食事を楽しもう。
パンはスープに浸して食べることにした。
お腹一杯になった。
ギルはブルのステーキを五回お替りしていた。
この体のいったいどこに入るのだろうか?
決してお腹は出ていない。
毎度毎度よく食うことで。
たんとお食べ。
「さて、行くか」
「「御馳走様でした!」」
お店を出て、街の散策がてら神様の所在を尋ねた。
マークが女性のドワーフに話し掛けている。
「すいません、この街の神様にはどこに行けば会えますでしょうか?」
「神様?ゴンガス様のことかい?」
「ええそうです」
とマークは、同意する。
ゴンガス様か、不思議な響きの名前だな。
「ゴンガス様なら『鍛冶工房ゴンガス』にいるよ」
鍛冶工房の場所を聞いて、ドワーフの女性にお礼を言った。
俺達は鍛冶工房を目指した。
鍛冶工房は大きな倉庫の様な造りをしており、天井には大きな煙突がある。
建物は石造りであった。
鍛冶に火を使う為、木製という訳にはいかないのだろう。
倉庫の前でも熱を感じた。現在釜の使用中といったところか。
入り口は二つあり、作業場とお店を兼ねているようだ。
お店の方に尋ねてみることにした。
お店の中は広く、様々な防具や、剣、鎧などが展示されており、全ての商品がピカピカに磨きあげられていた。
その奥に向かうと、大工道具や、調理器具等が展示されていた。
ここで目を引く一品があった。
包丁だ、これは業物だ。
刃の部分が光を反射して光って見えた。
値段を見て見ると、金貨五枚となっていた。
ちょっと、手を出しづらいな。
包丁に五万円は、流石に止めておこう。
受付の女性に声をかけることにした。
「鍛冶の神様に会いたいんですけど、いらっしゃいますか?」
「いますけど、今は作業中ですので難しいですね。作業中は声を掛けると怒られてしまいますから」
受付の女性は肩をすぼめている。
「そうですか、それは残念です」
「多分、まだまだ掛かると思いますよ」
また後で顔を出すとするか。
ひとまずお土産だけでも渡しておこう。
『収納』からワインを三本取り出した。
ワインを受付の女性に渡す。
「また後で伺います、これはお土産ですので、鍛冶の神様に渡しておいてください」
「まあ、これは美味しそうなワインですね、あなたのお名前は?」
「島野といいます」
「島野さんね、分かりました、渡しておきます」
「よろしくお願いします」
俺達は工房を後にした。
「しょうがないな、先に買い物をすませようか?」
「そうしましょう」
お店を見て周ることにした。
どこの店でもハンター用の防具などが展示してあり、その脇で大工道具などが展示されていた。
マークとランドは積極的に、大工道具を見て周っていた。
どうやらハンターには本当に未練が無いようだ。防具や武器等には全く目を向けていなかった。
逆に武器等に俺は興味を覚えた。
本当にいろいろな武器がある、剣、大剣、細身の剣、槍、弓、小刀、こん棒、等様々だ。
防具は皮で出来たものが多く、胸当てや籠手などが中心だ。
鉄の鎧もあったが、これを着るのは大変そうだ、とても重そうに見える。
兜はほとんど見かけなかった。
対人戦闘を考慮していない、ということなんだろうか?または、獣は飛び道具を使わないからか?
靴はブーツがほとんどで、中に鉄板を仕込んである物もあった。
安全靴といったところなんだろう。
一つ変わった剣を見つけた。
持ち手の所に丸い穴が開いてる。
「ランド、これはなんでここに穴が開いてるんだ?指を引っかけるとかするのか?」
「これは多分魔法剣ですね、この穴に魔石を嵌めて使うんだと思います。俺は使ったことはないですが」
「なるほど、魔石を嵌め込んで剣に魔法を付加する訳か、さすが魔法のある世界だな」
「ただ、剣を使う職業の者が、攻撃魔法を使えることは稀ですので、ほとんど出回ってませんがね」
「そうか、魔法剣士は滅多にいないってことだな」
「その通りです」
確かにマークも、ランドも攻撃魔法は取得して無かったな。
ノンならどうだろう?人型で狩りをしているのだろうか?
まあでも、ノンが剣を振り回す姿は創造しづらい。
結局五軒梯子をし、大工道具もほとんどが手に入ったようだ。
お店を出ると、既に夕方を迎えていた。
「島野さん、これで大体は揃いました、もう大丈夫です」
ランドが笑顔で言った。
「そうか、じゃあもう夕方だし帰るか?」
「一応、ゴンガス様の所を見に行ったほうが良くないですか?」
「ああそうだったな、買い物に気を取られていて、忘れていたよ」
「じゃあゴンガス工房に向かいましょう」
「そうだな」
再びゴンガス工房を目指した。
中に入り、受付の女性に声を掛けた。
「あらさっきの、居ますよ」
と言うと、何故だかニヤリと笑っていた。
受付の女性は、受付の裏に入っていった、どうやら神様を呼びに行ってくれたようだ。
すると、ドタバタと音がしたと思ったら、ドワーフが飛び出してきた。
「お前さんか?!」
ぼさぼさ髪の、長い髭を蓄えたドワーフだ。
身長は百四十センチぐらいしかないが、がっちりマッチョの体形をしている。
「はい?」
「このワインを造ったのは、お前さんか?」
お土産に渡したワインボトルを片手に挙げ、興奮気味に聞かれた。
「ええ、そうですが・・・」
「そうか!そうか!無茶苦茶上手かったぞ、もう全部飲んでしまったわい、ガハハハ!」
豪快に笑っている。
急に素に戻ると
「もう無いのか?」
と尋ねられた。
「ワインのことですか?」
「ああ、そうだ買ってもいいぞ」
どうしたもんか?デジャブだな、ゴンズ様の時もこんな感じじゃなかったか?
でも断れんよな?
「ええいいですけど、何本要りますか?ちなみにワイン一本銀貨三十枚です」
「銀貨三十枚か?」
髭に手をやり、考え込んでいるようだ。
「そうだな、ひとまず十本だな」
「ひとまずで十本ですか?」
「ああ足りんぐらいだ、こいつも気に入ったようだからな」
と言って受付の女性を見ていた。
はあ?仕事中に飲んだのか?
ドワーフ遅るべし。
『収納』からワインを十本取り出した。
「金貨三枚になります」
ゴンガス様から金貨三枚を受け取った。
毎度あり!
でいいんだよね?・・・
「ちなみにもっと酒精の強い酒は無いのか?儂はもっと酒精が強いのが好みでのう」
「そうですね、トウモロコシ酒があります」
「トウモロコシ酒?聞いたことが無いな」
『収納』からトウモロコシ酒を取り出して、ゴンガス様に手渡した。
「どれどれ」
と言うと、蓋を開けてグビグビと飲みだした。
豪快にもほどがあるでしょうが、喉が焼けるぞ。
「プハー!、これは良い、これぐらいなくちゃあな!喉が焼けるのが心地いい」
心地いい?嘘でしょ?
「おお悪いことをした、いくらだ?」
「いや、いいです。差し上げますよ」
「そうか、ありがたい、では遠慮なく貰っておく」
「どうぞ・・・」
「ここじゃあなんだ、奥で話を聞こうか?」
「えっ!よろしいので?」
「ああこれほどの酒を作れる奴に、悪い者なんかいないからのう、遠慮するな、中に入ってこい」
「では、遠慮なく」
俺達は奥に通された。
ダイニングといった所だろうか、机に椅子が八脚あり、食事中だったのか、食事と空になったワインボトルが転がっていた。
「適当に座ってくれ」
俺はゴンガス様の正面に座り、俺の隣にギルが座った。
マークとランドは、ゴンガス様の両隣に腰かけた。
「まずは自己紹介させてください、俺は島野といいます」
「僕はギルです」
「俺はマークです」
「ランドです」
「そうか儂はゴンガスだ、でどういった用件なんだ?ああ、お前さん達も飲むか?」
「いや、止めときます」
手を出して制した。
「そうか」
「まずはギルなんですが、今は人化してますが、ドラゴンなんです」
ゴンガス様は眉を潜めた。
「ドラゴン?・・・エリスの息子か?」
「エリス?」
「違うのか?」
「あ、いや」
エリスって誰?
「エリスって誰でしょうか?」
「儂の知るドラゴンは、エリスしかおらん、だから聞いてみたんだ」
「エリスというドラゴンがいるんですね?」
「ああ、だかもうかれこれ二百年近く、会ってないがな」
「そうなんですか・・・」
ギルを見ると、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
「他にもドラゴンはいるんでしょうか?」
「いるんだろうが儂は知らんな、竜族は少ないと思うが、その存在自体が貴重だからな」
「貴重ですか?」
「ああ、竜族は世界に平和を与える種族と言われておる、何処だかは忘れたが、竜族を祭る村が確かあったはずだ」
「竜族を祭る村ですか・・・」
「それに竜族は生まれながらにして神の力を宿しておるし、魔法も使える、奴らは神獣だからな」
「そうですね、それは知ってます」
「エリスはたまたまこの街にやってきてな、儂とも気があって何度か酒を酌み交わした仲だ、何処でどうしておるのやら」
「ゴンガス様、そのエリスって人はどういう人なんですか?」
ギルが尋ねた。
エリスが気になるのだろう。
「エリスは儂と一緒で大酒飲みでな、腕力も強く豪快なやつだったな。明るい性格で、皆から好かれておったよ」
「そうなんですね」
ギルの目が輝いている。
どうやら嬉しいようだ。
「それでもって人情に厚く、よく人助けをしていたな、ただ放浪癖があって、いきなり現れたと思ったら、直ぐにどっかに行ってしまう。落ち着きが無いと言ったほうがいいかもしれんな」
「へえー」
「まあ今はどうしておるかは知んが、で、どうしてドラゴンがお前さんと一緒におるんだ?おまえさんは人間だろ?」
「ええ、実はギルは俺達が住んでいる島に居まして、最初は卵だったんですが、俺が孵化させたんですよ」
「はあ、おまえさんも神なのか?」
「厳密には人間ですが、神の能力を使えます」
「神の能力を使えるって、それはもう神だろ?」
「ステータスを見ると人間なんですよ」
「ほう、変わった存在だな。儂も神になって三百年近くになるが、そんな話は聞いたことがないのう」
「それで、ギルは俺の息子なんです」
「なるほどな」
「神様に会って、いろいろと勉強させて頂ければと思いまして、神様を尋ねているんです」
「神様行脚してるってことか?」
「はい、そうです」
「それで、何か学べたのか?」
「いえ、まだまだ分からないことだらけです」
「そうか儂もドラゴンのことは、エリスのことぐらいしか知らんな、悪いなギル」
「いえ、僕以外にもドラゴンが居るって、分かっただけでも嬉しいです」
ギルがニコニコしていた。
「儂もお前さんに聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「儂は好きが高じて、鍛冶の能力だけでなく酒を作る能力も持っておる、ここ最近では、酒の神なんて言われることもある。この酒だが、そうとうに美味い、どんな原料から作っておる?よほどいい野菜から作っているだろ?」
ああ、答えないといけないかな?
この先は踏み込んではいけない気がするが・・・
答えるしかないか・・・
「俺達の島の野菜です」
「何?なんだと?」
喜々として見つめられている。
目線が痛いです。
やめて!
「島野だったな、その野菜売ってくれ」
ほうらきたよ、絶対この流れになると思ったよ。
あー、もうこれ以上畑を増やしたくないんですって。
でも、断れないよな・・・
「少しだけなら・・・」
「そんな連れないこと言うな」
ゴンガス様は懇願する表情になっていた。
「いや、本当に少しだけにしてください・・・」
ふうとゴンガス様はため息を吐いた。
「そうか・・・まあしょうがない、でどんな野菜があるんだ?」
「じゃあとりあえず、今私が持っているアルコール類を見せますね、そこから考えていってもらえませんか?」
「よっしゃ!」
おいおい、ゴンガス様興奮しすぎだって、落ち着いてよもう。
『収納』からビール、日本酒、ワイン(白と赤)、トウモロコシ酒、焼酎を取り出した。
「ほう、いろいろとあるな」
ゴンガス様は喜々としている。
「ゴンガス様はどんなアルコールを作っているんですか?」
「儂か?ちょと待ってろよ!」
と言うとどこかに行ってしまった。
少ししたらゴンガス様は瓶を片手に戻ってきた。
「飲んでみるか?」
「一口だけ」
アルコールをグラスに注いでいる。
ちょっと一口だって、そんな並々注がないでよ、人の話聞いてた?
「ほれ、飲んでみよ」
グラスを渡された。
アルコールはわずかに琥珀色をしている。
匂いを嗅いでみた。
うえ!なにこのアルコール臭!絶対強いやつじゃないか。
「では、いただきます」
俺は意を決して軽く一口飲んでみた。
んん!
喉が・・・焼ける・・・焼けるって!・・・きっつう!
グラスをマークに手渡した。
マークが明らかに嫌がっている。
俺だけこんな目に合うなんてひどい、こいつらも巻き込んでやる。
ハラスメントと言われてもいい。
俺はマークに目で飲めと訴えかけた。
マークは一瞬嫌な顔をしたが、直ぐに腹を決めたようだ。
ぐいっと一口飲むマーク。
マークの顔が歪む。
グラスはランドへと手渡された。
俺はランドに目で飲むように訴えかけた。
これまた一瞬嫌な顔をしたが、直ぐに腹を決め、くいっと一口飲んだ。
ランドの顔が歪んだ。
「ゴンガス様、これはきつ過ぎます!」
「何を言っておる、ガハハハ!これぐらい酒精が強くないと酒とは言えんぞ、ガハハハ!」
笑ってんじゃねえよ、この酒好きドワーフが!
あー、しんどい。
「ああ、これはきついです」
「ええ、きついです」
二人も参っているようだ。
君たちは私と運命共同体なのだよ・・・なんだかごめん。
「これの原料は何ですか?」
「これは、ライ麦とジャガイモをブレンドしたものだ」
くそう!
スピリタスじゃねえか、そんなもん飲ますなよ!
「それではこちらのも試してください、でもこんなにアルコール度の強いお酒はありませんよ」
「ああ、分かっておる」
俺達が飲んだグラスの残りを一口で飲んでから、空いたグラスに次々とアルコールを入れては、飲んでを繰り返していた。
「うん、それぞれ美味だな、だがやはり儂はこのトウモロコシ酒が一番いいのう」
「ではトウモロコシを少しお分けしますよ」
「だな、あとは順次だな?」
はあ?順次って何?
聞こえませんよ。
押し黙るしかなかった。
ふう、そろそろ本題に入るか。
「アルコールの話はこれぐらいにして、ゴンガス様にお会いした一番の理由を話してもいいですか?」
「一番の理由?」
「ええ、ここ数年神気が薄くなってると、感じてますか?」
ゴンガス様が急に真剣な顔付きになった。
「ああ感じておる、お前さん何でそんなことを知っておる?ああそうか、お前さんも能力を使えるんだったな」
「はい、この現象に何か心当たりは無いですか?」
眉間に皺を寄せている。
「無いな、正直儂は困っておる。最近では能力の使用を制限しておるぐらいだ」
能力の使用を制限している?そこまでなのか。
もしかして、神気を取り込める総量が少ないのか?
「実は少しでも神気不足を解消しようと活動していまして」
と言うと、俺は『収納』からお地蔵さんを取り出した。
「おお!これはなかなかの業物だな」
「これはお地蔵さんと言いまして、このお地蔵さんに祈りを捧げると、神気を放出するんです」
「何だと?本当か?」
「ええ『聖者の祈り』と言って、信心深い方が祈りを捧げると、たくさん神気を放出します」
「そうなのか、凄いじゃないか!」
「それでこの街の片隅や、街道筋に置かせていただけないかと思いまして、数体持参しています」
「ああ、有るだけくれ」
「有るだけですか?」
「多ければ、多いほどいいんじゃないのか?」
「それは分かりませんが、今までタイロンやメッサーラを始め、私とギルが訪れた街や村には置かせて頂いてます」
「そうか、じゃあお前さんのこれぐらいと思う数を貰っておく」
「分かりました、あとこの街には教会はありますか?」
「もちろんだ」
「いくつありますか?」
「二つだ」
「その教会の石像を改修させて頂いても、よろしいでしょうか?」
「ちょっと待て、その石像の改修はお前さんがやるのか?」
「はい俺がやります、このお地蔵さんも俺が造りました」
「お前さん、何者だ?」
「人間です」
ゴンガス様は一瞬固まって、そうだったと諦めた顔をした。
「だったな、お前さんは面白い奴だのう」
にやけ顔でこちらを見ている。
「そうですか?」
「ああかなり面白い、今後いい付き合いをしような」
と右手を差し出してきた。
右手を握り返した。
良い付き合いってのが気になるが・・・まあいいか。
この日は強いアルコールを飲まされたせいで、石像の改修が出来る訳も無く、明日出直すことになった。
マークとランドを大工の街ボルンに送り、俺とギルは島に帰った。
翌日、俺はギルを伴いゴンガス様のところにやってきた。
「トウモロコシを何本か持ってきましたが、どうしますか?」
「そうだな、ひとまず五十本ほど貰えるか」
「分かりました」
指示されたところにトウモロコシを五十本置いた。
「金貨一枚ですがいいですか?」
「ああ、随分安いな」
「そうですか?」
五郎さんのところと同じにしたけど、ここでは物価が違うのか?
金貨を一枚受け取った。
「じゃあ行きましょうか」
「ああ、そうしよう」
俺達は連れ立って教会に向かった。
教会はこれまで見て来た教会と、あまり変わり映えしなかった。
「じゃあ改修させて頂きますね」
『加工』で石像の改修を行う。
シスターやゴンガス様が、驚きの表情で改修された石像を見ていた。
シスターは泣き崩れ、ゴンガス様も改修された石像をまじまじと眺めている。
すると一人のシスターが石像に祈りを捧げた。
『聖者の祈り』が発動する。
空気中に神気が放出された。
「おお!」
ゴンガス様が声を漏らす。
「これが聖者の祈りか・・・」
「ええ、そうです」
「ありがたいな、儂達はこれがないとやっていけんからのう」
「そうですね」
「次に行きましょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
次の教会に向かった。
同じ様に石像を改修し教会を後にした。
結局お地蔵さんは六体寄贈し、設置場所はゴンガス様の判断に任せることにした。
これにて『鍛冶の街フラン』でのミッションは終了した。
それにしても神様って、酒好きが多すぎやしませんか?
もう付き合い切れませんがな・・・
あー、しんど。