**
~ダンジョン・メインフロア~
「あら、お帰りアーサー君。今日は私を困らせなかったわね。偉いわ、ご褒美よ」
「わッ! リ、リリアさん!?」
――むぎゅ。
受付に戻った瞬間、アーサー少年はリリアの大谷間へ吸い込まれた。勿論突然の事に焦ったアーサー少年であったが、彼はどこか懐かしさを感じるその感触に、自然と身も心もリリアに委ねたのだった。
(うっそ、なにこれ。アーサー君可愛すぎるんだけど~。お姉さん興奮しちゃうじゃなぁい)
そう。
アーサー少年はまだ知る由もない。
彼女リリア・エロイムが無類の“可愛いもの好き”だという事を。そして彼女が根っからの“チェリーボーイキラー”だという事を。アーサー少年はまだ知る由もなかったのだ――。
「あぁぁ、このまま食べちゃいたい……」
「リリアさん! そろそろ離してもらいたいんですけど! (正直永久にこのままでも構わないんだが、なんか周りから突き刺さる様な視線が……)」
「え? あ、あらヤダ。ごめんなさい、私ったら」
理性を抑えられずに手を出しそうになってしまったリリア。思わず心の声が漏れたが、幸い周りの視線に気を取られていたアーサー少年には聞こえなかった様だ。
「いえいえ。それよりリリアさん、今日の収穫分を換金してもらいたいんですけど」
「ええ、分かったわ。今日は何個魔鉱石取れたのかしら?」
そう言われたアーサーは少しバツが悪そうに『ゴブリンの帽子(D):Lv1』を取り出す。
(もう1回だけ……。今まで苦労してきた分、これでもう1回だけエレインと美味い飯を食べたい)
アーサーは慣れた手つきで魔鉱石を受付のカウンターに置く。更に自然に『ゴブリンの帽子』も。
「凄いじゃないアーサー君、今日はこんなに魔鉱石取れ……ッ!?!?」
次の瞬間、この場に存在する事があり得ないアーティファクト『ゴブリンの帽子』を見たリリアは目を見開き言葉を失う。
そして。
ダンジョン中に響き渡る大発狂を奏でたのだった。
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
「ちょ、ちょっとリリアさん!」
リリアの凄い発狂で周りの者達の視線が自ずと彼らに集中した。ハッと我に返ったリリアは適当に愛想笑いで誤魔化し、周囲の視線をなんとか散らせた。
「ア、アーサー君! これどうしたの! 何で貴方がこんな物持っているの!?」
驚きを隠せないリリアは小声ながらもアーサーを問い詰める。まるで「盗んだ訳じゃないわよね?」とでも言いたそうな懐疑な視線を向けていた。この緊迫する中ですら彼女にエロさを感じてしまっているアーサーは一旦置いておこう。
「あの、先に言っておきますけど僕は絶対盗んだりしていませんからね! 絶対にしませんよそんな事!」
「いや……。まぁアーサー君ならそんな事しないなぁと思ってはいるけど、じゃあコレ一体どうしたのよ? Dランクの、しかもモンスターネームのアーティファクトなんて“フロア20以上”じゃないと手に入らないわ」
そう。これはまさしくリリアの言う通り。
Dランクアーティファクトである『ゴブリンの帽子』はアーサーが周回しているフロアでは絶対に手にする事が出来ない代物。しかもアーサーの実力までしかと把握していた彼女が疑ってしまうのも無理はなかった。アーサーはそんな疑いを解消しようとリリアに事の経緯を伝えたのだった。
「リリアさん。これ言っていいのか分からないんですけど……実は――」
**
アーサーの説明で納得したリリアは大きく頷いた。
「成程、そう言う事ね。分かったわ。でも……本当にそんな事が出来るなんて驚きね。受付の私達には色んな情報が集まるけど、アーサー君みたいなスキルは聞いた事がないわ」
「僕も正直あまり実感がないと言いますか、まだ手探りの状態なので今以上の事は分からないんですけどね」
そこまで話すと、リリアは急に口角を上げてアーサーの腕に絡みつく。
「え、リリアさん……!?」
「アーサー君。今の話は一先ず私と貴方だけの秘密にしておかない?」
「秘密にですか?」
「そうよ。だってこんな話を皆にしたら絶対に狙われちゃうわ。危ないハンターとか怪しい裏稼業をしている連中にね。折角アーサー君が自分で稼げるようになったのに、そんな目に遭ってもいいのかしら」
これまたリリアの言う通り。
確かにアーサーのスキルは他に全く情報が無い上に、聞く人が聞けば強引にでも奪う者達がいてもおかしくない。
リリアの助言で改めて身の危険を感じたアーサーは無駄に周りに伝えるのは良くないだろうと彼女の提案を受け入れる。寧ろ親切にしてくれる彼女に頭が上がらないアーサーだった。
(もぅ~。本当になんなのよこの子。ただ美味しそうなチェリーなだけじゃなく、そんな凄いスキルを持っていたなんて……。
これは絶対に他の女には奪わせない。アーサー君。貴方は必ず私が頂くわ)
アーサーは当然リリアの本性に気が付く訳がなかった。
彼はこの日、ある意味最も危険なハンターに完全にロックオンされたのかもしれない――。
「ありがとうございますリリアさん。それでこの『ゴブリンの帽子』はいくらになりそうですか?」
「ああ、そうだったわね。直ぐに調べるわ」
リリアは受付に設置されているモニターで換金の処理を行う。
「とりあえずこっちの魔鉱石が33個で9,900G。それでこっちのアーティファクトがえ~と……Lv1だから17,664Gよ。合計で27,564Gね。凄いじゃないアーサー君!」
金額を聞いたアーサーは耳を疑う。これまでの彼からすると大事件の金額だったから。
「嘘……2万越え? よっしゃぁぁ!」
アーサーはガッツポーズで喜びを露にする。昨日までの疑心が確信に変わったのだ。これまでの苦労がやっと報われる時が来た。これでやっとハンターとしてそれなりの稼ぎを得られる様になった。
「フフフ。良かったわねアーサー君。これが換金分のお金よ、どうぞ」
「よしよしよーし!
(やったぞエレイン。昨日の事は夢じゃなかった! これから兄ちゃんはもっと稼ぐ。だから今日だけ最後にもう1度美味しいものを食べに行こう!)」
アーサーは今日エレインと再び美味しい物を食べようと『ゴブリンの帽子』を持ち帰ったのだ。新たなスキルを習得したからといって浮かれている訳ではない。ただこれまで苦労した分、ほんの数回だけ妹と共に贅沢をしたかっただけ。
早くこの事をエレインに話そうと、カウンターにあるお金をしまうアーサー。だがそこである事に気が付く。
「あれ? 換金額って確か27,000Gぐらいでしたよね? なんか少し多い気が……」
「ああ、それは私からのご・ほ・う・び。 稼げるハンターになったお祝いよ」
「え! いいんですか!?」
「ええ。その代わり、これからも何かあったら先ずは私に相談してね」
「分かりました! ありがとうございますリリアさん!」
元気にそう返事を返したアーサーは、リリアからのお祝い金10,000Gを追加した37,564Gを受け取ってダンジョンを後にしたのだった。
(あぁ~堪らない。直ぐにでも食べたいぐらいそそられちゃう)
リリアの獲物を狙う視線に気が付く事もなく――。
♢♦♢
~近所の料理屋~
「ねぇ、嘘でしょお兄ちゃん……。本当にこれ全部食べていいの……?」
「ああ。勿論だ妹よ。好きなだけ食べるが良い」
口の中が唾液で溢れるアーサーとエレインの目の前には、様々な食べ物と飲み物がテーブル一杯に並んでいる。
「凄ーい! 私バイキングなんて初めて!」
「正確にはお父さんがまだ生きていた頃に1度だけ経験しているぞ。兄ちゃんもまだ小さかったから鮮明には覚えていないけど」
「信じられない。まさか2日連続でこんなご馳走を食せるなんて……。ひょっとして私もう死んでるとか? ここは夢の中? そうじゃなきゃあり得ないよこんなの!」
「大丈夫だ。お前はしっかり生きている。さぁ、死ぬほど食べるぞ!」
ハンターとして初めてまともに稼ぐことが出来たアーサー。その可能性はこれからもどんどん広がっていくだろう。贅沢するのも一旦今日で最後。ダンジョンでは僅かな油断が命取りになってしまうと身をもって理解しているアーサーには油断はない。
明日からまた気を引き締めてダンジョンに挑む為にも、今日のバイキングはアーサーにとっての特別な決意表明の意味もあった。
「「いただきまーす!!」」
幸せを噛み締めながら更に美味しい料理を噛み締めるアーサーとエレインは幸福の頂点に達するのだった。
そして。
一生分の幸福を得たであろう2人の前に、突如その者は現れた――。
「あれ。お前アーサーじゃねぇか」
突如聞こえた声に全身が反応する。
噓であってほしい。間違いであってほしい。アーサーの本能がそう訴えかけていた。
(何でよりによって今なんだ……)
バイキングの味を全て忘れてしまうぐらいの嫌悪感に襲われるアーサーはゆっくりと声のした方を向く。
するとそこにはアーサーにとって忘れる事など出来ない、ギルド『黒の終焉』のマスターであるバット・エディングがそこにいた――。
~ダンジョン・メインフロア~
「あら、お帰りアーサー君。今日は私を困らせなかったわね。偉いわ、ご褒美よ」
「わッ! リ、リリアさん!?」
――むぎゅ。
受付に戻った瞬間、アーサー少年はリリアの大谷間へ吸い込まれた。勿論突然の事に焦ったアーサー少年であったが、彼はどこか懐かしさを感じるその感触に、自然と身も心もリリアに委ねたのだった。
(うっそ、なにこれ。アーサー君可愛すぎるんだけど~。お姉さん興奮しちゃうじゃなぁい)
そう。
アーサー少年はまだ知る由もない。
彼女リリア・エロイムが無類の“可愛いもの好き”だという事を。そして彼女が根っからの“チェリーボーイキラー”だという事を。アーサー少年はまだ知る由もなかったのだ――。
「あぁぁ、このまま食べちゃいたい……」
「リリアさん! そろそろ離してもらいたいんですけど! (正直永久にこのままでも構わないんだが、なんか周りから突き刺さる様な視線が……)」
「え? あ、あらヤダ。ごめんなさい、私ったら」
理性を抑えられずに手を出しそうになってしまったリリア。思わず心の声が漏れたが、幸い周りの視線に気を取られていたアーサー少年には聞こえなかった様だ。
「いえいえ。それよりリリアさん、今日の収穫分を換金してもらいたいんですけど」
「ええ、分かったわ。今日は何個魔鉱石取れたのかしら?」
そう言われたアーサーは少しバツが悪そうに『ゴブリンの帽子(D):Lv1』を取り出す。
(もう1回だけ……。今まで苦労してきた分、これでもう1回だけエレインと美味い飯を食べたい)
アーサーは慣れた手つきで魔鉱石を受付のカウンターに置く。更に自然に『ゴブリンの帽子』も。
「凄いじゃないアーサー君、今日はこんなに魔鉱石取れ……ッ!?!?」
次の瞬間、この場に存在する事があり得ないアーティファクト『ゴブリンの帽子』を見たリリアは目を見開き言葉を失う。
そして。
ダンジョン中に響き渡る大発狂を奏でたのだった。
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
「ちょ、ちょっとリリアさん!」
リリアの凄い発狂で周りの者達の視線が自ずと彼らに集中した。ハッと我に返ったリリアは適当に愛想笑いで誤魔化し、周囲の視線をなんとか散らせた。
「ア、アーサー君! これどうしたの! 何で貴方がこんな物持っているの!?」
驚きを隠せないリリアは小声ながらもアーサーを問い詰める。まるで「盗んだ訳じゃないわよね?」とでも言いたそうな懐疑な視線を向けていた。この緊迫する中ですら彼女にエロさを感じてしまっているアーサーは一旦置いておこう。
「あの、先に言っておきますけど僕は絶対盗んだりしていませんからね! 絶対にしませんよそんな事!」
「いや……。まぁアーサー君ならそんな事しないなぁと思ってはいるけど、じゃあコレ一体どうしたのよ? Dランクの、しかもモンスターネームのアーティファクトなんて“フロア20以上”じゃないと手に入らないわ」
そう。これはまさしくリリアの言う通り。
Dランクアーティファクトである『ゴブリンの帽子』はアーサーが周回しているフロアでは絶対に手にする事が出来ない代物。しかもアーサーの実力までしかと把握していた彼女が疑ってしまうのも無理はなかった。アーサーはそんな疑いを解消しようとリリアに事の経緯を伝えたのだった。
「リリアさん。これ言っていいのか分からないんですけど……実は――」
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アーサーの説明で納得したリリアは大きく頷いた。
「成程、そう言う事ね。分かったわ。でも……本当にそんな事が出来るなんて驚きね。受付の私達には色んな情報が集まるけど、アーサー君みたいなスキルは聞いた事がないわ」
「僕も正直あまり実感がないと言いますか、まだ手探りの状態なので今以上の事は分からないんですけどね」
そこまで話すと、リリアは急に口角を上げてアーサーの腕に絡みつく。
「え、リリアさん……!?」
「アーサー君。今の話は一先ず私と貴方だけの秘密にしておかない?」
「秘密にですか?」
「そうよ。だってこんな話を皆にしたら絶対に狙われちゃうわ。危ないハンターとか怪しい裏稼業をしている連中にね。折角アーサー君が自分で稼げるようになったのに、そんな目に遭ってもいいのかしら」
これまたリリアの言う通り。
確かにアーサーのスキルは他に全く情報が無い上に、聞く人が聞けば強引にでも奪う者達がいてもおかしくない。
リリアの助言で改めて身の危険を感じたアーサーは無駄に周りに伝えるのは良くないだろうと彼女の提案を受け入れる。寧ろ親切にしてくれる彼女に頭が上がらないアーサーだった。
(もぅ~。本当になんなのよこの子。ただ美味しそうなチェリーなだけじゃなく、そんな凄いスキルを持っていたなんて……。
これは絶対に他の女には奪わせない。アーサー君。貴方は必ず私が頂くわ)
アーサーは当然リリアの本性に気が付く訳がなかった。
彼はこの日、ある意味最も危険なハンターに完全にロックオンされたのかもしれない――。
「ありがとうございますリリアさん。それでこの『ゴブリンの帽子』はいくらになりそうですか?」
「ああ、そうだったわね。直ぐに調べるわ」
リリアは受付に設置されているモニターで換金の処理を行う。
「とりあえずこっちの魔鉱石が33個で9,900G。それでこっちのアーティファクトがえ~と……Lv1だから17,664Gよ。合計で27,564Gね。凄いじゃないアーサー君!」
金額を聞いたアーサーは耳を疑う。これまでの彼からすると大事件の金額だったから。
「嘘……2万越え? よっしゃぁぁ!」
アーサーはガッツポーズで喜びを露にする。昨日までの疑心が確信に変わったのだ。これまでの苦労がやっと報われる時が来た。これでやっとハンターとしてそれなりの稼ぎを得られる様になった。
「フフフ。良かったわねアーサー君。これが換金分のお金よ、どうぞ」
「よしよしよーし!
(やったぞエレイン。昨日の事は夢じゃなかった! これから兄ちゃんはもっと稼ぐ。だから今日だけ最後にもう1度美味しいものを食べに行こう!)」
アーサーは今日エレインと再び美味しい物を食べようと『ゴブリンの帽子』を持ち帰ったのだ。新たなスキルを習得したからといって浮かれている訳ではない。ただこれまで苦労した分、ほんの数回だけ妹と共に贅沢をしたかっただけ。
早くこの事をエレインに話そうと、カウンターにあるお金をしまうアーサー。だがそこである事に気が付く。
「あれ? 換金額って確か27,000Gぐらいでしたよね? なんか少し多い気が……」
「ああ、それは私からのご・ほ・う・び。 稼げるハンターになったお祝いよ」
「え! いいんですか!?」
「ええ。その代わり、これからも何かあったら先ずは私に相談してね」
「分かりました! ありがとうございますリリアさん!」
元気にそう返事を返したアーサーは、リリアからのお祝い金10,000Gを追加した37,564Gを受け取ってダンジョンを後にしたのだった。
(あぁ~堪らない。直ぐにでも食べたいぐらいそそられちゃう)
リリアの獲物を狙う視線に気が付く事もなく――。
♢♦♢
~近所の料理屋~
「ねぇ、嘘でしょお兄ちゃん……。本当にこれ全部食べていいの……?」
「ああ。勿論だ妹よ。好きなだけ食べるが良い」
口の中が唾液で溢れるアーサーとエレインの目の前には、様々な食べ物と飲み物がテーブル一杯に並んでいる。
「凄ーい! 私バイキングなんて初めて!」
「正確にはお父さんがまだ生きていた頃に1度だけ経験しているぞ。兄ちゃんもまだ小さかったから鮮明には覚えていないけど」
「信じられない。まさか2日連続でこんなご馳走を食せるなんて……。ひょっとして私もう死んでるとか? ここは夢の中? そうじゃなきゃあり得ないよこんなの!」
「大丈夫だ。お前はしっかり生きている。さぁ、死ぬほど食べるぞ!」
ハンターとして初めてまともに稼ぐことが出来たアーサー。その可能性はこれからもどんどん広がっていくだろう。贅沢するのも一旦今日で最後。ダンジョンでは僅かな油断が命取りになってしまうと身をもって理解しているアーサーには油断はない。
明日からまた気を引き締めてダンジョンに挑む為にも、今日のバイキングはアーサーにとっての特別な決意表明の意味もあった。
「「いただきまーす!!」」
幸せを噛み締めながら更に美味しい料理を噛み締めるアーサーとエレインは幸福の頂点に達するのだった。
そして。
一生分の幸福を得たであろう2人の前に、突如その者は現れた――。
「あれ。お前アーサーじゃねぇか」
突如聞こえた声に全身が反応する。
噓であってほしい。間違いであってほしい。アーサーの本能がそう訴えかけていた。
(何でよりによって今なんだ……)
バイキングの味を全て忘れてしまうぐらいの嫌悪感に襲われるアーサーはゆっくりと声のした方を向く。
するとそこにはアーサーにとって忘れる事など出来ない、ギルド『黒の終焉』のマスターであるバット・エディングがそこにいた――。