「お前使えないからもうクビな。追放――」
たった今、アーサー・リルガーデンは追放された。
「え?」
気怠そうに彼に追放勧告を言い渡したのは、ギルド『黒の終焉』のマスターであるバット・エディング。
周りにいた他のメンバー達もパッと会話や動く手を止めていた。
「え?……じゃねぇよボケカス。お前は役立たずの無能だからもう要らないって言ってんだよ!」
場に生まれていた静寂を破るようにバットの声だけが響き、自然と皆の視線はアーサーとバットに注がれる。
「じょ、冗談だよな? そんな急に……し、しかも今はダンジョンのッ「冗談な訳ねぇだろ! いいか、Eランクなんて“最弱のアーティファクトしか出せない”お前には当然の結果だ! このクソ召喚士が! 寧ろこの半年間、俺のギルドに入れていただけ感謝しろッ!」
バットの正論に言葉を失うしかないアーサー。確かに彼の言う通りであった。自分には実力も無ければスキルが特別強い訳でもない。寧ろ何も出来ない。だから無能の役立たずと言われても仕方なく、アーサーは否定する事も出来なかった。
ただそれでも、アーサー側も簡単に退けない。こんな無能な自分が今バット達に見捨てられてしまったらそれこそ本当の終わりだという事を、アーサー自身が誰よりも理解しているから。
「た、頼むよバット……! 確かに僕は使えないかもしれない、でも何でもするから追放だけは止めてくれ! それに僕には稼ぎも必要なんだッ!」
アーサーは膝をつきながら必死にバットに縋る。
「そんな事知らねぇよ、離れろや鬱陶しい!」
「がッ!?」
振り下ろされたバットの右拳がアーサーの顔面を襲い、彼は勢いそのままに床に打ちつけられた。鼻からは血が流れ、突如殴られた事に動揺を隠し切れていない。
「じゃあなアーサー。お前はここに置いて行く。あ、お前ら。コイツのアーティファクトだけ全部回収しろ」
「なッ……!? 置いて行くだって? ふ、ふざけるなよ、それにこのアーティファクトは僕の物ッ『――ドガッ』
アーサーが皆まで言いかけた瞬間、バットがアーサーに蹴りを入れた。痛みで蹲るアーサーに更に蹴りを入れ続けるバット。彼のその表情は心底怒っている様子。
「いつまでもふざけた事言ってんじゃねぇぞカス! 使えないゴミは捨てられて当然! それにこのアーティファクトだって俺のギルドにいたから手に入れられた物だろうが! あたかも自分の力で手に入れたみたいな言い方しやがって。ほんとどこまで図々しんだよお前はよ!」
「ぐッ……や、やめろ。返せ……」
蹴られた痛みで思うように体が動かないアーサー。そのアーサーからメンバー達が強引にアーティファクトを剥ぎ取っていく。彼らにも必死に抵抗するアーサーであったが、バットから放たれた強い蹴りによって、アーサーの顔面から血が舞った。
「ハァ……ハァ……。た、頼む……せめて、せめてアーティファクトだけは……返してくれ……」
バットのスキルは『騎士』であり、彼が装備するアーティファクトは全て“Cランク”の代物。一方のアーサーは自他共に認める『召喚士』という、ハンターの中で最弱無能のハズレスキル。その上アーサーが装備するアーティファクトは1番低ランクの“Eランク”である。
スキル、アーティファクト、ステータス。
どれを取ってもバットはアーサーの上をいく完全なる上位互換。
往生際の抵抗も虚しく、全てを奪われたアーサーは地面を這う事もままならなかった。
「あばよアーサー。無能にハンターは絶対に務まらねぇ。気持ちだけじゃどうしようも出来ないんだよ。現実見ろ馬鹿が。最後は潔くモンスターにでも食われて死んでくれや。ハーハッハッハッ!」
倒れるアーサーを横目に、高笑いでこの場を去って行くバットとメンバー達。
無能にハンターは務まらない――。
そんな事はとっくにアーサー自身も気付いていた。
数あるスキルの中でも『召喚士』は基本能力値が低い挙句、レベルが上がっても強くなる事はない。せめて強力なモンスターを召喚出来るのならばまだ話は違っただろう。しかし、アーサーは強力なモンスターどころか、全モンスターで最も弱いとされるスライムすら1体も召喚出来なかった。
召喚士としての実力もなければそれカバー出来る強いアーティファクトも持っていない。毎度毎度何の役にも立たないパーティのお荷物なのだから、追放されるのも仕方がないのだろう。
アーサー本人も重々自覚している。
だが自覚がありながらも、それでも自分の不甲斐なさに悔し涙が溢れ出す。
『グルルルッ――』
絶望に落とされたアーサーを更に絶望に落とすと言わんばかりに出現したモンスター。ハンター、そしてこのダンジョンは至極シンプルな“弱肉強食”の世界。実力のない者はハンターだろうがモンスターだろうが食われるだけ。
「くそ……ッ! こんな死に方ありかよ……」
自分では到底敵わないモンスター。今すぐにでも逃げ出したいが、痛む体が動きを鈍くしている。いや、今のアーサーは肉体的な問題よりも“精神的”な問題の方が大きいのかもしれない。
逃げる事も戦う事も出来ず、完全に心が折れてしまっていた。
同じハンターをしていた父は既に他界。
母は重度の病気となり入院し、一向に目を覚まさない状態。その為病院の治療費、そして自分と妹の生活費を稼ぐ為に身を粉にしてアーサーは頑張ってきたがそれもここでまで。
『グルルル』
「僕も1人でコイツを倒せる力があれば……」
死を前にしても出て来るのは後悔と未練のたらればばかり。
ハンターになったばかりの頃は心を躍らせた。最弱の『召喚士』となって確かに残念であったが、それでも必死にモンスターに食らいつき、皆に食らいつき、明らかに自分より強いモンスターと遭遇してもがむしゃらに生き延びた。
今は弱くても、いつかきっと強くなれる。アーサーはそう信じ続けながら自分の為、そして母親と妹の為に頑張った。
そして。
今、彼のそんな努力と希望は全て終わりを告げた――。
「ごめん母さん……エレイン……。生きて帰れそうにないや……」
『グルルルッ!』
アーサーの様子を伺っていたモンスターが遂に動き出した。もう死にかけているアーサーを仕留めにいくモンスター。
「畜生……最後にめちゃくちゃ怖いじゃんかよ……」
逃げたい。戦いたい。生きたい。無事に帰りたい。
一瞬にして様々な感情が芽生えるも、アーサーの体は既に虚無感に支配され動けない。それでも……。
「“召喚”――」
アーサーは無意識に『召喚士』のスキルである“アーティファクト召喚”を使った。
古今東西、数多くいるハンターの中でも“アーティファクト”を召喚出来るのはアーサーのみ。アーティファクトはハンターにとっても最も重要な武器であり、人間がモンスターに対抗出来る唯一の力だ。
アーティファクト召喚――その響きだけを聞くと凄まじい可能性に満ち溢れているように感じるが、実際は全く違う。本当にそれだけの可能性を秘めたスキルならアーサーは今こんな状況になっていない。無能と蔑まれる事もなく、追放だってされていない。モンスターに殺されかけそうにもならない。
何故こんな事になってしまったのだろうか?
その答え至って簡単。
『召喚士』というスキルにそんな可能性は秘められていなかったから。
『グルルアッ!』
モンスターが鋭い牙の生えた口を大きく開いてアーサー目掛けて一気に突撃。
対するアーサーはなけなしで出したEランクアーティストの剣を握締めるだけで精一杯。
(ヤバい。死ぬ――)
人生の最後はスローモーションに見える。アーサーには今まさにその現象が起きていた。それも1つの彩りもない……全てが荒でいるかの如き灰色の世界が広がっていた――。
自分も直ぐにこの荒んだ灰色の世界に仲間入り。アーサーはとてもゆっくりだが確実に自分を飲み込もうとするモンスターの喉奥を見つめながら、そんな事を思っていた。
これがアーサーの最後の思考。
……かに思えたが。
『召喚スキルの使用回数が“3,000”回を超えました。新たに“ランクアップ召喚”スキルが使えるようになります――』
『ランクアップ召喚:アーティファクトのランクをアップさせる事ができる』
突如アーサーに響いた無機質な祝福。
「これは――?」
この突如起きた些細で小さな変化が、アーサー・リルガーデンという1人の男の運命を大きく変える。無能な彼のハンター人生を。無能だと馬鹿にされた人生を。スキルとアーティファクトが全てのこのダンジョンで、アーサー・リルガーデンは己だけが扱える最強のスキルを目覚めさせた。
世界で唯一、スキルで自分のアーティファクトを召喚し、ランクアップする事が出来る『アーティファクト召喚士』は無能でもハズレスキルでもない。
前代未聞。
この世界のパワーバランスを覆す程の“最強スキル”であり、希望すら失いかけていた彼の灰色の世界にささやかな彩り――そしてその彩りが波紋の様に広がっていく奇跡の力であった。
平和で豊かなこの大国に突如として“ダンジョン”が現れたのはもう100年以上も前の話。
現在ではこのダンジョン攻略を生業とする冒険者《ハンター》が当たり前のように存在し、彼らは天を貫く程巨大に聳える1本の樹――通称ダンジョンを攻略しようと100年以上も歴史を築いてきた。
アーサーもそんなハンターの1人。
しかし彼は『召喚士』というハズレスキルによって最弱無能のレッテルを貼られていた。
だが。
――シュバ。
『グルッ!?』
「ハァ……ハァ……危ない……ッ! マジで死ぬところだった」
眼前にまで迫っていたモンスターの屈強な牙。
しかし、突如奏でられた無機質なアナウンスによって、完全に心が折れていたアーサーの体が本能的にモンスターの攻撃を躱していた。
「なんだ? 一体何が……?」
反射的に逃げたアーサーは咄嗟に自分の腕に付けてある“ウォッチ”を確認した。
ウォッチは腕時計のようなサイズと形をしている、ハンターのステータスなどを確認するアイテムの1つ。これは他のハンターとの通話のやり取りや様々な機能が備わっている為、全ハンター御用達の必須アイテム。
突如奏でられた無機質なアナウンスもまたこのウォッチからであった。
「今新たなスキルがどうとか聞こえたような……」
『グルルル!』
アーサーが想定外の出来事に困惑していると、再び彼に狙いを定めたモンスターが勢いよく突進していく。
「ヤバいヤバいヤバい……!」
全力の横っ飛びでなんとかモンスターの攻撃を躱したアーサーはそのまま岩陰へと身を隠す。そして改めてウォッチで自分のステータスを確認した。
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(E): Lv9
・アーティファクト召喚(9/10)
・“ランクアップ召喚”(1/1)
・スキルP:100
【装備アーティファクト】
・スロット1:『普通の剣(E):Lv1』
・スロット2:空き
・スロット3:空き
・スロット4:空き
・スロット5:空き
【能力値】
・ATK:15『+10』
・DEF:18『+0』
・SPD:21『+0』
・MP:25『+0』
====================
「聞き間違いじゃない……。本当に新しくランクアップ召喚?が増えてる」
突然の事で理解が追い付かないアーサーだが、そのままもう1回ランクアップ召喚の詳細を確認した。
「これってもしかして、アーティファクトの“ランクを上げられる”って事か……?」
そう自分で口に出した瞬間、胸の奥でドクンと強く脈打つのが分かった。
もしアーサーのこの推測が正しければとんでもない事態だ。
これまで最も弱いEランクアーティファクトしか召喚出来なかったアーサーにとって天地がひっくり変える事態である。
「幾ら考えたところで答えは出ない。ダメ元でコレに賭けるしかない……。召喚、召喚、召喚――!」
開き直ったアーサー。
彼は慣れた様子で次々に『普通の剣(E):Lv1』を召喚していく。
アーティファクトは“同じものが2つ揃う”と融合してレベルが上がる為、連続で同じ『普通の剣(E):Lv1』を8回召喚したアーサーは1つの『普通の剣(E):Lv9』を作る事に成功した。
「よし、出来た。後はこれを……」
アーサーは1日に召喚を使える回数が決まっている。今日はもう9回使用したから残り1回。
(ランクアップ召喚の横に表示された1/1という数字は、恐らく普通の召喚と同じ回数を現したもの。そうなるとこのランクアップ召喚とやらは1回しか使えない。本当にアーティファクトのランクが上げられるのなら)
アーティファクトは全てにおいて『Lv9』が上限となっている。
そして。
「頼む――」
レベルが最大となったアーティファクトを更に融合すると……。
『ランクアップ召喚を使用しました。『普通の剣(E):Lv9』が『良質な剣(D):Lv1』にランクアップしました』
「――!」
アーサーの全員を震えが襲う。
「本当になった……」
これまで最弱のEランクアーティファクトしか召喚出来なかったアーサー。まともに1人で戦えずに稼ぎも少なかったせいで、Eランク以上のアーティファクトを装備する事も初めてだ。
目の前で起きている事にまるで現実味がない。
それでもアーサーは無意識に人生で初めてとなるDランクアーティファクトを装備する。
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(E): Lv9
・アーティファクト召喚(0/10)
・“ランクアップ召喚”(0/1)
・スキルP:100
【装備アーティファクト】
・スロット1:『良質な剣(D):Lv1』
・スロット2:空き
・スロット3:空き
・スロット4:空き
・スロット5:空き
【能力値】
・ATK:15『+70』
・DEF:18『+0』
・SPD:21『+0』
・MP:25『+0』
====================
「凄い。ATK値がこんなに……」
一般的なハンターから見れば大した事ない変化。寧ろ変化にも入らない程の小さな出来事だろう。
しかしアーサーにとっては違う。この些細で僅かな小さな1つの変化が、完全に折れていた彼の心を元に戻していた。
『グルルル』
「どうせ1度死んだ身……当たって砕けろだ。どの道この状況を打破しないと逃げ切る事も出来ない」
これまでとは一転、目に生気が戻ったアーサーは今手に入れたばかりの剣をグッと強く握締めて岩陰から飛び出る。そしてアーサーはそのまま坂になっている崖を勢いよく登って行く。
(あのモンスターの弱点は眉間。そこに的確に一撃入れられれば……)
崖を登り切ったところで急停止。そこで更にアーサーは視線を下に落とす。するとアーサーがいる崖の真下に丁度モンスターの姿が確認出来た。
『グルルル!』
己の頭上にアーサーがいる事に気が付いたモンスター。激しい咆哮を上げながら威嚇しているようだ。
――ゴクン。
静かに生唾を飲みこんだアーサー。
その刹那。
――フワッ……。
躊躇なく崖から飛び降りたアーサーは、真下にいるモンスター目掛けて剣を構えていた。
「うおぉぉぉぉぉッ!」
10m以上上から一直線に降下したアーサーが一瞬でモンスターとの距離を詰める。そして降下のスピード、体重、新たに手にしたDランクアーティファクトの全てを掛け合わせた一撃がモンスターに直撃。
アーサーの構えた剣の切っ先は、モンスターの弱点である眉間にピンポイントで突き刺さった。
『グガァァァァッ……!』
「やった……!」
一か八かの賭けに勝ったアーサーは見事モンスターを撃破。絶体絶命のピンチを潜り抜けたのだった。
「ハァ……ハァ……良かった……上手くいった」
波乱万丈の1日。ハンターになってからまだ1年程度しか経っていないアーサーであったが、間違いなく今日の出来事はハンター人生で最も危険であり、最も奇跡的な1日であった。
だがアーサーのそんな奇跡的な1日はまだ終わらない。改めて自分のステータスを見るアーサー。
「マジでDランクアーティファクトを装備しちゃってるよ……。しかも今ので“スキルP”も一気に貯まったみたいだな」
スキルP――それはモンスターを倒す事で得られるポイント。このスキルPは自身のスキルのレベルを上げる事ができ、レベルを上げると能力値の上昇や新スキルの習得など様々な恩恵がある。
しかし最弱無能と謳われるアーサーの『召喚士』はそこでも無能さを発揮。彼は頑張ってスキルレベルを上げていたが、残念な事に一切の変化がなかった。これも通常のハンターではあり得ない事だった。
「ひとまず命があってなにより……。どうせ意味ないけど、一応スキルPを使っておくか」
モンスターを討伐し、緊張の糸が切れたアーサーはその場に座り込んだままステータス画面を操作してスキルPを使用。
すると次の瞬間――。
♢♦♢
時は遡る事、アーサーがバットから追放される約半年前――。
「お兄ちゃんッ、お母さんが……!」
「ッ!?」
アーサーの元に突如入った妹からの連絡。
呼吸が荒くなる妹のエレインを落ち着かせながら、2人は母親が倒れて運ばれた病院へと向かった。
そして医師から告げられた母親の診断結果は『悪性魔力欠乏症』
体に流れる魔力がどんどん失われ、最終的に体の自由や命までをも失ってしまう病気だ。この病気はダンジョンが現れた100年前から存在する病であり、未だに完全な治療法が見つかっていない不治の病である。
一説によると、ダンジョンの影響でなったこの病を治す手掛かりはダンジョンにのみ存在するとかしないとか――。
アーサーとエレインの父親は元ハンターであったが、アーサーが生まれて直ぐにダンジョンで命を落としてしまった。その為彼らの母親は女手一つで懸命に2人を育てたのだ。
アーサーとエレインが何度思い返しても、母親は1度たりとも辛い所を見せた事がない明るく強い母親だった。ひとまず命があって何より。
アーサーとエレインは母親の治療費の為に節約し、洋服や家具を売っては生活を切り詰め、まだ17歳でアカデミーに通っていたアーサーは妹との生活の為に早朝と夜に働いた。しかし若干17歳のアーサーが稼げる金額では、母親の膨大な治療費や生活費を稼ぎ切る事は困難であった。
他に頼れる家族や知り合いはいない。
アカデミーに通いながら必死に働く日々の中、アーサーとエレインは2人で暮らすには到底広いとは言えない、すきま風が吹く小さくてボロボロな家に暮らすようになっていた。
互いの部屋など存在しない。2人で寝るのがやっとの1つの部屋。それでも互いに文句を言う事は絶対にない。入院している母親も含め、世界で唯一の家族だから――。
**
「兄ちゃんな、アカデミー辞めるよ」
アーサーが妹のエレインにそう告げたのは、彼らの母親が倒れて丁度1年が経った頃ぐらいだった。
この国では6歳~18歳まで、魔法や知識を学ぶ“魔導アカデミー”という学院に通うのが至極一般的であり、アーサーもエレインもアカデミーに通うごく普通の学院生。もうすぐ新学期を迎えて1つ上の学年となる。
しかし、ここ1年間寝る間も惜しんで働いていたアーサーは学業が疎かになってしまっていたのだ。そこで彼は気持ちは固めていた。このままアカデミーに通うよりも、これからの生活がアーサーのとっては大事だと。
自分の事は別にどうでもいい。それよりも妹のエレインに苦労を掛けたくないとアーサーは常々思っていたから。
出来の悪い自分とは違って妹にはまだ希望がある。
成績優秀で容姿も端麗なエレインは、アーサーにとって最も誇れる自慢の妹でもあった。無能で追放されてしまう自分とは違って、エレインの存在はアーサーにとって救いでもあった。
だから生活費は自分が稼ぐと決めた。
エレインだけはしっかりとアカデミーを卒業して自分の可能性を広げてほしい。
そんなアーサーが自分の思いの丈をエレインに伝えたのが今日の朝の事――。
だが……。
それを聞いたエレインは怒りを露に。
「だったら私も稼ぐ! そうすればお兄ちゃんもアカデミー辞めなくていいでしょ。2人で助け合えば負担は減って稼ぎは増えるじゃん!」
アーサーはエレインの強さと優しさに涙が零れそうになる。
エレインの決意を汲み取ったアーサーは今回だけは妹の言葉に甘える事にした。
しかし。
この決断がやはり間違いであったとアーサーは直ぐに現実を突きつけられた――。
**
「エレイン!」
「お、お兄ちゃん……!」
エレインは決して悪くない。ただ少し考えが甘かった。
彼女も懸命に生活費を稼ごうと最初は飯屋や宿屋で雑用の仕事をしていたのだが、何時からかエレインはモンスターから取れる魔鉱石やアーティファクトを違法に取引する、野良ハンター達の“闇仕事”に手を出してしまっていたのだ。
勿論エレイン本人にそんな自覚はなかった。
アーサーも稼ぐ為にハンターをやるようになってから、そういう連中が裏で悪事を働かせていると初めて知った。自分も気を付けようと。
アーサーにとっては想定外。まさかハンターでもない自分の妹が関わってしまうとは思いもしていなかった。でもこれはアーサー達と同じ年頃の子供達に被害が多く、暫し国でも問題になっている事だった。
野良ハンター達は何も知らない無知な子供を狙っている。ただ子供の純粋な気持ちを利用して――。
アーサーがエレインのそれに気が付いたのは偶然。
何気ない会話から違和感を覚えたアーサーがエレインの後をつけて今回の事態が発覚したのだ。しかも今回はあろう事か“エレイン本人”の身に危険が迫った。
綺麗に靡く長い髪と端正な顔立ち。
年頃になり体つきもより女性らしくなってきたエレインは、今まで以上に自然と皆の注目が集まる美少女になっていた。そしてそんな容姿端麗さが今回は運の悪い方向へと流されてしまったのだ。
「ゔゔッ、怖かったよ……お兄ちゃん……!」
「もう大丈夫だ。兄ちゃんがいる。だから落ち着け」
エレインはいつも通りに仕事を行っていた最中、突然野良ハンターの男2人組に捕まり強引に押し倒された。更に男達はエレインの服を脱がせ、卑劣な笑みを浮かべながら彼女の上に跨る。
恐怖で震えるエレイン。
女1人の力では当然男達の力に対抗する事も出来ず、ただただ震えて涙を流す事しか出来ない。
もうダメだ……。と諦めかけた瞬間、物凄い鬼の形相をしたアーサーが縦横無尽に剣を振るい勢いよく男達へ突撃して行った。そのお陰で男達は逃げ、エレインは間一髪の所で助かったのだった。
**
落ち着いた2人は小さな家に帰る。
疲れたエレインは倒れる様にそのまま眠りについた。
(ごめんなエレイン。本当にごめん。こんな怖い思いをさせて……)
帰る道中、アーサーは家に着くまでずっと自分の服を掴んでいた妹の姿を見て決意していた。自分への不甲斐なさと妹への罪悪感。情けない自分に涙が零れそうになったアーサーはグッと堪えて上を向く。
(このままではダメだ。僕はもっと強いハンターになってお金を稼がないと。
そうすればエレインを二度とこんな目にも遭わせないし、生活も楽になる。それにアカデミー辞めるのも止めだ!)
何か吹っ切った様子のアーサーはこれまで抱えていた体の奥底の感情を沸々と煮えたぎらせる。
自分は最弱無能のハンター。
でもアーサーはやはり全てを手に入れたいと思ってしまった。
ハンターの世界は常に弱肉強食。だからこそ強くなれば望む物全てが手に入る。
生活に困らない程の金を稼ぎ、至極平凡な幸せを手に入れる。
そんな自分勝手で高望みな強情な夢を夢で終わらせない唯一の方法。
アーサー・リルガーデンの欲望を叶えられる唯一の道。
「必ず僕の手で全てを掴んでやる――!」
彼はこの日強く決心した。そしてこの半年後、強い決心とは裏腹に何も変わらなかった現実。強くなるどころか遂には見限られて追放。ダンジョンに置き去りにされ、自分では勝てないモンスターとの遭遇に生きる事すら諦めてしまった。
アーサーは1度死んでいたかもしれない。
しかし、本当の絶望に落ちた彼に遂に“奇跡”が舞い降りた。
1度は生きる事を諦めて心が折れたが、今度こそ決意を固めたアーサー。
彼のどん底からの這い上がりはここから始まる――。
♢♦♢
時は戻って現在――。
「ひとまず命があってなにより……。どうせ意味ないけど、一応スキルPを使っておくか
アーサーは1人でそう呟くと、今の戦闘で貯まったスキルPを使用してレベルを上げる。
『スキルPを500使用。召喚士Lv10になりました』
(やっぱり何も変化なしか)
本来であればどのスキルでもレベルを上げると能力値も上がる。しかし最弱無能のアーサーの『召喚士』スキルは今回も何変化しない。そう思われたが──。
『召喚士Lv10になった事によりランクが上がります。ランクアップ召喚の上限回数が上がります』
「え?」
再び耳を疑うアーサー。だがそれはやはり聞き間違えでも見間違えでもない。彼のウォッチに映るステータスは確かに変化を見せていた。
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(D): Lv10
・アーティファクト召喚(10/10)
・ランクアップ召喚(3/3)
・スキルP:0
【装備アーティファクト】
・スロット1:『良質な剣(D):Lv1』
・スロット2:空き
・スロット3:空き
・スロット4:空き
・スロット5:空き
【能力値】
・ATK:15『+70』
・DEF:18『+0』
・SPD:21『+0』
・MP:25『+0』
====================
「うわ……召喚士のランクがEからDに上がってる。ランクアップ召喚の上限回数も。でも能力値は何も変化なしか……」
変化しないと分かってはいても、いざ本当に能力値の変化がない事にアーサーは毎度ガックリしていた。だが今回は違う。確かに能力値自体の変化は見られなかったが、彼のそのスキルは大きく進化した。
「未だに何が起こったのかよく分からないけど、僕はEランクのアーティファクトをDランクに上げられるようになった……って事だよな? 実感ないけど実際に『良質な剣(D):Lv1』を持ってるし」
アーサーは手にする『良質な剣(D):Lv1』をまじまじと見つめながら独り言を零す。そしてふと我に返るアーサー。
「ランクが上がったせいかな? 1日の上限回数もリセットされてる」
今まではレベルを上げてもその日の回数がリセットされる事はなかった。数分前の“死の瀬戸際”からまさかの展開が続くアーサー。彼はここである1つの事を考え付く。
「EランクをDランクにランクアップさせられたって事は……もしかしてDランクを更に上の“Cランク”にする事も――」
アーサーはそんな自分の憶測に思わず鳥肌が立つ。もしそれが可能であるならば、彼は文字通り“最強”のアーティファクト召喚士として瞬く間にトップレベルのハンターとなりうる。
「これはヤバいぞ。試さずにはいられない」
思い立ったアーサーは今しがた死にかけていた事も忘れ、手に入れたばかりの『良質な剣(D):Lv1』を8回連続で召喚。『良質な剣(D):Lv1』は一切の不都合なく『良質な剣(D):Lv9』までレベルアップしたのだった。
(拝啓母さん、それにエレイン……。兄ちゃんは今信じられないブツを手にしています――)
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(D): Lv10
・アーティファクト召喚(2/10)
・ランクアップ召喚(3/3)
・スキルP:0
【装備アーティファクト】
・スロット1:『良質な剣(D):Lv9』
・スロット2:空き
・スロット3:空き
・スロット4:空き
・スロット5:空き
【能力値】
・ATK:15『+150』
・DEF:18『+0』
・SPD:21『+0』
・MP:25『+0』
====================
ひたすら目を見開き、開いた口が塞がらないアーサーはもうこれ以上震えられない程驚きで全身が震えている。何故ならそれはアーサーが自分の人生とは無縁だと思っていたEランク以上のアーティファクトを手にしてしまったから。
更にDランクアーティファクトをレベルMAXにまでした事で、その“取引価格”もEランクとは比べものにならないぐらい跳ね上がるからだ――。
「一体これは“何G(ギル)”で売れるんだろうか……」
貧しい生活を送っているアーサーが真っ先に思い浮かんだ言葉がそれ。
“G(ギル)”はこの世界の通貨である。
アーティファクトはダンジョンでしか入手できない為市場でも大変価値があり、世界中で高額取引されている。アーティファクトを専門に扱う商会まで当たり前に存在する程にである。
だが最低ランクのEランクアーティファクトは珍しくなく数も多い為、取引価格が著しく低い。そのせいで唯一アーティファクトを召喚出来るアーサーでさえも日の稼ぎは雀の涙程度であったが、Dランクとなれば話は大きく変わる。
市場での取引はDランクから値段が一気に上がり、桁が増えるのが相場。
ハンターが装備出来るアーティファクトは“5つまで”と決まっており、もし全てをDランクアーティファクトで一式揃えるとなると単純に数百万はするだろう。
今アーサーが手にしている『良質な剣(D):Lv9』1つでも優に200,000Gはする代物であった――。
「待て待て待て、焦るな僕。Dランクアーティファクトは逃げたりしない。貧乏なウチにとってはこれ1つでも確かに超大金だけど、僕達の生活を……母さんの治療費を稼ぐにはもっとお金が必要だ」
アーサーは焦る気持ちを懸命に抑える。そして興奮が収まらぬまま再びランクアップ召喚を使用。
すると。
――ブー。
『召喚士スキルのランクが低い為、これ以上のランクアップは出来ません』
「へ……?」
興奮が一気に冷めたアーサー。これまで祝福続きであった無機質なアナウンスが過去最高に冷たく聞こえた。
だが。
『Dランクアーティファクトをランクアップするには召喚士スキルを“Cランク”に上げて下さい』
祝福が終わった訳ではない。
アーサーの耳には更なる新しい希望が響いた。
「ランクアップ出来なかった……けど今言ったよな? ランクアップするにはCランクにって……って事は僕のこのスキルはまだ“成長”する――」
冷めた興奮がまた全身を包み込むアーサー。
「待て待て、だから焦るな僕。確かにDランクをCランクに上げる事は“今は”出来ない。でもEランクは確実にDランクに上げる事が出来る……!」
既に気持ちを切り替えていたアーサーは残り2回となったアーティファクト召喚を使用する。
「アーティファクト召喚は“一度装備した事があるアーティファクト”を召喚出来る。バットに身ぐるみ剥がされたけど、僕のこのスキルなら――」
アーサーはいつからか自分のスキルに負い目を感じていた。周りから嘲笑されるだけの使えない自分のスキルを。だが彼は初めて自分のスキルに可能性を見出している。
『アーティファクト召喚を使用。『スライムの防具(E):Lv9』を召喚しました』
「よし!」
アーティファクト召喚で出された『スライムの防具(E):Lv9』は確かに弱いアーティファクト。だがEランクアーティファクトの中では最上物となる“スライムコース”の1つでもある。
アーティファクトの種類は実に数千種類。その強さはランクによって表されているが、例えば同じEランクアーティファクトの中でも更に能力値や性能によって強さの順位が代わり、どのランクにおいてもアーティファクトの名前にモンスターの名が入った“モンスターネーム”のアーティファクトはそのランクの最上物として認知されている。
つまり、アーサーがランクアップする前に召喚した『普通の剣(E):Lv1』よりも“スライム”というモンスターの名が入った『スライムの防具(E):Lv1』の方が性能が高い。これはEランクアーティファクトの中だと微々たる変化だが、高いランクになればなるほどその性能や能力値に大きな差が生まれるのだ。
Eランクの最上物はスライム……そこからDランクの“ゴブリン”、Cランクの”オーガ”、Bランクの“エルフ”、そして最高ランクと言われるAランクには“ドラゴン”の名がそれぞれ入っている。
「さっきの『普通の剣』は『良質な剣』に変化したけど、この『スライムの防具(E):Lv9』は何に変化するんだろう……?」
期待と少しの不安が入り混じる中、アーサーは『スライムの防具』にランクアップ召喚を使用。
『ランクアップ召喚を使用しました。『スライムの防具(E):Lv9』が『ゴブリンアーマー(D):Lv1』にランクアップしました』
「ゴブリンキターーーーーッ!!」
静かなフロアに響き渡ったアーサーの大歓喜。
「どうするよこれ! 普通のDランクアーティファクトでも奇跡的なのにモンスターネームが入った最上物だ。どうしようどうしようッ……。これマジで全部の装備Dランクアーティファクトで揃えられるじゃん――」
周りに人もモンスターもいない状況でひたすら興奮を覚えるアーサー。
最弱無能のレッテルを貼られていた1人の男が青年が奇跡を生み出す。
アーティファクトが物を言うハンターの世界で、唯一アーティファクトを召喚――それも1人で召喚からランクアップまでが可能という未曽有のスキルを覚醒させた。
世界中の者達はまだ誰1人として知らない。
最弱無能のハンターが“最強”の領域に足を踏み入れた事を。
まだ誰も知る由がなかった――。
「とにかく家に帰る……! 後の事は後で考えよう。その前に先ず“今”出来る事を!」
何かを思い立った様子のアーサーは勢いよく走り出した。
そして彼は興奮しながらも冷静に、もうモンスターと遭遇しないようにと身を隠しながら素早く無事にダンジョンから帰還するのであった――。
**
~ダンジョン・メインフロア~
ダンジョンのフロアの出入口に設置されている転送サークル。これに乗ると一瞬でダンジョン内を移動をする事が出来る。
取り残されたフロアから無事に戻ったアーサーは、彼にとってはもうお馴染みのダンジョン“受付嬢”である「リリア」と言葉を交わす。
「お帰りなさい。アーサー君」
「あ、リリアさん! お疲れ様です。(相変わらず強力な“アーティファクト”を装備しているな……)」
ほぼ毎日のように彼女と顔を合わしているアーサーであったが、何度会っても彼はリリアのそのはち切れそうな豊満な“胸”に毎度必ず視線を奪われていた。
ダンジョンの最も下のフロア――。
ここはハンターがダンジョンに挑む為の全員の出入口であり、そんなハンター達が自由に休息や交流を行える場ともなっている。
メインフロアの中央には新規のハンター登録やダンジョンで手に入れた魔鉱石やアーティファクトなどの換金といった全ての窓口となる“受付”があり、他にも簡単な飯屋や武器屋などの商会も完備されている場所。
「どうしたのかしら、アーサー君。なんだかいつもより元気そうに見えるけど。いい事でもあった?」
アーサーに色っぽい声で話し掛けたのはここの受付嬢の1人でもある“リリア・エロイム”。
長い髪を束ねている彼女は抜群のスタイルを強調するそのタイトな服装と目元のほくろが妖艶な大人の女の魅力をこれでもかと放ち、アーサーを含めた多くの男達の視線を日々奪っている。
「え、そうですか?」
「あら。もしかして女でも出来たのかしら」
「いやいや、いませんよそんな人……! 僕をからかうのは止めて下さいリリアさん」
リリアは悪戯っぽい笑みを浮かべてアーサーをからかう。これもいつも通りだ。少し体を動かしただけで暴れる彼女の巨乳は、女性経験の無いアーサーにとっては毎回刺激が強すぎる。
「フフフ。やっぱり可愛いわねアーサー君は。っていうか、今日は君1人なの?」
アーサーの事をよく知るリリアは直ぐにその変化に気付く。
「あ、実はですね――」
上手く嘘も付けないアーサーはリリアを心配させてしまうと分かっていながらも、バットに裏切られた事の経緯を簡潔に説明した。するとリリアは予想通りバット達への怒りを露に。
「ちょっとあり得ないわねそれ。私が“上”に報告してあげるわ」
「い、いやッ、それは止めて下さいリリアさん! 僕もこうして無事に戻れたわけですし……!」
「そういう問題じゃないわ。一歩間違えれば死んでいたのかもしれないのよ? そんんなの絶対に許さないわ。しかも“私のアーサー君”にそんな仕打ちを」
怒りが収まらない様子のリリア。一瞬“私のアーサー君”という言葉に引っ掛かったアーサーであったが、これ以上周りのハンター達から注目を集めたくない為必死にリリアをなだめる。
「本当に大丈夫ですからリリアさん! お気持ちは嬉しいですが、そんな事をしてまた逆恨みでもされたら面倒くさいので……」
アーサーの言葉で徐々に冷静になっていくリリア。まだ不満そうな表情であったが、彼女はアーサーの気持ちを尊重するのだった。
「そう。まぁアーサー君が言うならそうね。私が出しゃばる事じゃないわ。でもまた何かあったら直ぐに教えてね。本当にアーサー君の事心配してるんだから」
そう言いながら真剣な表情でグッとアーサーを見るリリア。
(いつもいつも、仕草や表情がいちいち“エロい”な――)
不測の事態の一報を聞いたリリアが本気で心配しているのもかかわらず、健全ないち男の子であるアーサーはリリアの言葉よりもまず“視覚”からの凄まじい攻撃を冷静に処理するので頭が一杯であった。
まぁアーサーがそうなるのも無理はない。
リリアは他のハンター……多くの男達をいとも簡単に魅了してしまう程に美人だからだ。しかもアーサーよりも7個年上であるリリアは現在24歳。
17歳のアーサー少年からすれば、リリアは男の子ならば誰もが1度は夢を見るであろう憧れの“綺麗な年上のお姉さん”なのだ。
ある程度の免疫があって女性に慣れている男であったとしても、リリアのこの色気を受けて正気を保てる者はごく僅かであろう。
「ちょっと、聞いてるアーサー君?」
「あ、はい……! しっかり気を付けます!」
リリアの何とも言えないボディに目を奪われていたアーサーは一瞬で我に返り、焦って返事を返した。
「何はともあれ、見た感じ傷はちょっと酷そうだけど、無事に帰って来てくれて良かったわ。でも万が一また今日みたいな事があった直ぐにウォッチで連絡を入れて。死にそうな時も直ぐに緊急連絡するのよ。分かった?」
「は、はい。分かりました!」
「それとこれも何度も言っているけど、絶対に無理して“上のフロア”にも挑んじゃダメよ。私との約束だけは守ってね」
リリアの圧に押されたアーサーは小さく頷く。
今回の事は然ることながら、「上のフロア」という件に関しては彼女が言っている事が正論だった。
ハンターはそれぞれの強さに応じて“ランク”が分かれており、ハンター達が挑むダンジョンにも同様のランクが指定されている。これは幾年もの長い歴史の中でハンター達が築き上げてきたものであり、何よりもまずハンター達の“命”を第一優先に考えられた絶対的な規則でもあった。
現在、ダンジョンは一番下のフロア1から上はフロア89まで攻略されており、ハンターは当たり前の如く上のフロアを目指す。ダンジョンは上に行くほど強くて危険なモンスターが出現するのと同時にランクの高いアーティファクトも入手出来る。
強いアーティファクトが手に入れば更に上へ。しかし上に行くにはそれ相応の命の危険がつきまとう。己の限界を見極め、命を懸けて道を切り開くのがハンターという職なのだ。
弱いハンターでは絶対に上には行けない。辿り着けない。
今のアーサーは最下層と呼ばれるフロア4をクリアするのがギリギリの実力。
ハンター1人1人の実力をしっかりと見定め、それ相応のダンジョンフロアにあてがうのもリリア達受付嬢の責任ある仕事でもあった。
だからこそリリアは母親のようにアーサーを気に掛けてくれているのだ。
「アーサー君、ちゃんと分かったのかしら? 返事は」
「わ、分かりました! 以後気を付けます! いつもありがとうございます!」
小さな頷きでは納得出来なかったのか、リリアはアーサーの顔を覗き込んでしっかりと言葉に出させた。
こんな状況でも不意に視界に入った鋭いリリアの表情と主張の強い胸に、アーサーが理性を飛ばされそうになったのは言うまでもない。
(わぁ……今の角度も激しいエロさだったなリリアさん。しかもめちゃくちゃいい匂いする……)
そんな事を思いながら、リリアに別れを告げたアーサーは全速力でダンジョンを出て家に向かって走った。
**
~家~
「ただいまー! エレイン、今日は久しぶりの外食に行くぞ!」
「お帰りお兄ちゃん。え、ガイ……ショク……? って、えぇぇッ!? それって家じゃなくて外に美味しものを食べに行くあの“外食”!?」
「勿論その外食だ。ついて来い妹よ!」
「嘘~! どこまでもお供します兄上!」
ダンジョンを出てから止まる事なく猛烈ダッシュで家に帰ったアーサー。細かい説明はとにかく後。彼は開口一番にエレインにそれ告げると、流石は兄妹といったところだろうか、エレインは一瞬兄の言動にクエスチョンマークが浮かんだが細かい説明よりも本能が彼女に訴えかけた。
“とにかくまず美味い飯だ”と――。
**
――ジュゥゥゥ。
「「お、美味しそう~」」
兎にも角にも家を飛び出したアーサーとエレイン。
普段の2人の生活はとても貧しい。まともに食料を買う事すらままならず、大半がアーサーが取ってくる食べれられる“草”の数々。
初めは食べられる草と食べられない草の区別も分からず知識もなかったが、今となっては何気ない散歩中にも食べられる草は見逃さなくなっている。アーサーを雑草博士と呼んでも過言ではないだろう。
アーサー達はタダで取れる食料でなんとか生活する事が出来ていた。
自然への尊敬と感謝を常に抱いているアーサーだが、それでも今日の様な特別な日にはやはり幾らか贅沢したい。
「それでそれで? なんで急にこんな美味しい夕飯に辿り着けたのよお兄ちゃん!」
「焦るなエレイン。今は兎に角目の前の“肉”に集中するんだ!」
「そ、それもそうね。理由はちゃんと後で説明してよ。私も6日ぶりのまともなご飯に集中するわ!」
近所のとある定食屋に赴いていたアーサー達。
2人のテーブルの前にはそれぞれ320Gのポークチキン定食が1つずつ。更に今日は300G追加でスープとデザートを付けた。更に今のリルガーデン家からは想像も出来なかった550Gの小さなステーキを2人で1つ注文していた。
2人で合計1,790G。
1日の食費の平均が約450Gのアーサーとエレインにとってはまさに破格の晩餐。草以外のおかずが食卓に並んだだけでも歓喜する彼らにとって、お肉……それも贅沢な外食は最早超お祭り状態。
十分な贅沢を噛み締めながら、アーサーとエレインは一心不乱に全ての料理を平らげたのだった。
**
「あ~、美味し過ぎた~。人生最後かも~」
「大袈裟だな。いや、それぐらい久々の外食だったから無理もないか」
美味しい夕飯を食べた2人は満たされた満腹中枢と余韻に浸る。
「さて。それじゃあ今度は本当に理由を聞こうかな。まさか人生投げやりになって強盗でもしたんじゃないよね?」
「自分の兄貴をそんな風に思っているのか君は」
「ハハハ、冗談に決まってるじゃん。それで何があったの?」
エレインに聞かれたアーサーはグイっと水を飲み干し、一呼吸の間を開けた後に唐突に言い放った。
「“体を売る”のは絶対に止めてくれ」
「ッ――!?」
兄からの思いがけない一言に、エレインは一瞬息の仕方を忘れた。
「な、何よ急に……!」
「確かに僕達はお金に余裕のない貧乏暮らしだ。でもエレインがそんな犠牲になることはない」
「え? ちょっとお兄ちゃん。さっきからどういう意味……?」
「実はな、兄ちゃんこの間お前が男の人と話しているのを聞いてしまったんだ――」
**
事の経緯は数日前。
アーサーがいつもの日課であるダンジョン周回を終えて家に帰宅した時、エレインはウォッチで誰かと話していた。盗み聞きをしたかった訳ではない。しかし部屋は当然の如く狭く、会話の邪魔をしてはいけないと思ったアーサーは少し玄関に座っていた。
最初はアカデミーの友達と話しているんだろうと気にも留めていなかったアーサーだが、次の瞬間エレインから放たれた「体の関係は初めて」というワードに体がビクついた。
正確に聞き取れた訳ではないから聞き間違いかもしれない。
でもその後も話が気になったアーサーはいつの間にかエレインの会話に聞き耳を立てていた。
そして、エレインから聞き取れた“体の関係は初めて”、“手は繋ぐだけ”、“延長は追加”、“お金は前払い”というワードを収集したアーサーはここから1つの答えを導き出した。
妹が体を犠牲にしてお金を稼いでいると――。
「全ッッ然違います!」
「え!? そうなのか?」
しかし、アーサーの名推理はどうやら間違っていた模様。
「妹とはいえ女の会話を盗み聞くなんてお兄ちゃん最低!」
「い、いや、別に聞くつもりはなかったんだ……! その事は本当にごめん! でも僕は妹がまた危ない方向に進んでいるなら助けないとと思ってだな……」
「もう。勘違いだい逆よお兄ちゃん。アカデミーの子が私みたいに野良ハンターのヤバい仕事をしそうだからって、相談を聞いていただけなのよ」
思いがけない話の答えにアーサーは目を見開かせている。
自分の妹が体を犠牲にしている訳ではないと分かった安心感と、あの時の会話は何だったのかという疑問が諸に表情に出ていた。
それを見たエレインが補足するようにアーサーに告げる。
「あのねぇ、何をどう聞いたのか知らないけど、アカデミーの子が男の人と出掛けるだけでいっぱいお金を貰えるって言ってたから、友達がそれを聞いて不審に思って私に相談してきたのよ。
それでよくよく話を聞いてみれば、その子は男の人と出掛ける前に“男性経験はあるかないか”、“体の関係は初めてかそうじゃないか”、“どこまでの行動がOKか”……みたいなものを確認されたらしいの。
だからそんなの絶対危ないから止めた方がいいって言ってあげただけ。
どう? これで納得してもらえましたか? 盗み聞きの変態兄上よ――」
完全論破されたアーサーはぐうの音も出なかった。
ただただ申し訳なさそうにエレインを見つめている。
今の彼は入れる穴があったら速やかに入るだろう。
「おーい。聞こえてますかお兄ちゃん」
「ん……。あ、お、おうッ……! 勿論だ! 美味かったな、久々の肉は!」
「話を変えるな。もう絶対そんな事言い出さないでよね」
ギッと鋭い視線でエレインに念を押されたアーサーはおろおろと戸惑いながらも、この流れを一撃で逆転させる“本題”を思い出したのだった。
「そ、そうだエレインッ! 今日僕達がこうして肉を食べられたのは、他でもないこれのお陰である! とくと見よ!」
自信満々に言い放ったアーサーはその勢いのまま自分のウォッチをエレインに見せつける。だがハンターのステータスを全く見慣れていないエレインは、兄が成し遂げた偉大な功績になかなか気が付かない。
ウォッチのステータスを眺める事数十秒。
突如ハッと恐怖映像でも見たかの如く驚いたエレイン。彼女は驚きの余り目を見開き手を口に当てている。
「お、お兄ちゃん、それ……」
「フッフッフッフッ。遂に気が付いたか我が妹よ」
驚くエレインの反応を見たアーサーは何とも言えないドヤ顔を浮かべて勝ち誇る。まだ見ても良いぞと言わんばかりに、アーサーは更にエレインの顔にウォッチを近づけた。
「お兄ちゃん、めっちゃ能力値低くない? 激弱ステータスじゃん」
「ぐばふぉッ……!」
エレインのまさかの着地点に、アーサーは撃たれたようにテーブルに倒れ込んだ。
「違う! いや、正確には違わないけど、言いたいのはそこじゃない」
「え、違うの? 私アーティファクトの種類とかよく分からないんだけど」
アーサーとは対照的に、ハンターではない妹のエレインはそもそもハンター事情に疎い。ランクの高いアーティファクトがとても高価である事ぐらいしか知らないのだ。
「それもそうか。兄ちゃんが勝手に盛り上がってしまったな。だったらエレインにも分かるように伝えてあげよう。例えアーティファクトに詳しくなかったとしても、この『ゴブリンアーマー(D):Lv1』の価値は分かるだろう!」
そう言いながら、アーサーは自慢げにアーティファクトをエレインに見せつけた。
「ゴブリンアーマーって……テレビでも流れてるあの有名なやつ? モンスターネームだっけ……? って嘘、ちょっと待って。それって凄い高いんじゃないの!?」
アーティファクトに詳しくないエレインでもその名に聞き覚えがあった。その値段の高さも。モンスターの名が入った最上物であるモンスターネームは一般の人達にも多く知られている有名なアーティファクトだから。
「ああ。だから今日はこんなに奮発したのさ」
「凄ッ! え、待って待って待って。確かこのゴブリンアーティファクトって全部揃えたら数十万とかするやつだよね? って事は単純にこれ1つでも100,000G以上とかしちゃう訳!? やっば。これなら毎日このポークチキン定食が食べられるじゃん……。しかもスープとデザート付きで……」
最近の貧乏生活の反動だろうか。エレインはそう話しながら涎を垂らす。アーサーは今にもウォッチにかぶりつきそうな我が妹を何とか静止して話を続ける。
「お、落ち着けエレイン。兄ちゃんもまだ興奮してるが重要な話はここからだ。いいか? ひとまずこれで兄ちゃんはハンターとして突如お金を工面出来るようになったかもしれない。だから結果兄ちゃんの勘違いだったけど、今後絶対に怪しい仕事はしないでくれ。お前に心配掛けないぐらい僕が稼ぐから」
アーサーは何よりまず自分の思いを伝えると、それを聞いたエレインは頷いて「ありがとう、お兄ちゃん」と柔らかい笑顔で言った。
こうして、何十日かぶりにお腹も気持ちも満たされた2人は家に帰って眠りについたのだった――。
♢♦♢
~ダンジョン・メインフロア~
贅沢な晩餐から一夜明け、アカデミーが休みのアーサーは早朝からダンジョンに足を運んでいた。勿論ハンターとして、そして新たに覚醒した自分のスキルをもっとよく知り理解する為。そしてそして、最も重要な生活費を稼ぐ為だ。
「あら。おはようアーサー君。今日も可愛いお顔ね」
「リリアさん、おはようございます! (今日もセクシー全開だ)」
アーサーは挨拶がてら、流れるようにリリアの乳を見る。
「そっか。今日はアカデミー休みだからこんなに早いのね。いつもと同じフロアの周回でいいかしら?」
「はい。それでお願いします。今日は頑張って1日中周回しまくろうと思ってます!」
「分かったわ。元気なのはいいけど無理はしない様に。何かあったら直ぐに連絡ね」
リリアはウォッチを指差しながらアーサーに言った。昨日の事に念を押すかのように。
受付での手続きが終わったアーサーは、スタート地点となるフロア1へのサークルに入った。
~ダンジョン・フロア1~
現在、ダンジョンは数多のハンター達が何十年という歳月と労力を積み重ねた結果、人類はつい先日“フロア90”まで辿り着いたのだ。だがまだ誰にも知る由はない。この未知のダンジョンがどこまで続いているのかを。
このフロア90の到達は国中……いや、世界中で瞬く間にニュースとなり、アーサー自身もこの事実に胸を踊らせた。
だが、彼にとっては別次元のお話。
毎日命を落とさぬよう、地に足を着け、ギルドメンバーに迷惑を掛けないようにハンター活動をしていたアーサーにとってはフロア90など一生手が届かない。そもそも考えた事もなかった。
そう。昨日までは――。
「よし。今日は一番下のフロアを周回でもして“魔鉱石”を集めよう。ギルドを追放された今、僕は1人となってしまった……。いくら新しいスキルを手にしたからと言っても、上のフロア強いモンスターと遭遇したら絶対に死ぬ」
冷静にそう判断していたアーサーは早速魔鉱石を集める為にフロアを進んで行く。魔鉱石はモンスターから取れる素材であり、アーティファクト同様に取引が出来るのでお金に換金する事が出来る。
「1人だとめちゃくちゃ心細いな……。でもやるしかない。まずは召喚から。日付が変わってリセットされてるから、出来る所まで一気に召喚してみるか」
独り呟くアーサーは昨日と同じように召喚。ハンターが装備出来るアーティファクト数は全部で5つ。既に『良質な剣(D):Lv1』と『ゴブリンアーマー(D):Lv1』を装備していたアーサーは残りのスロットを埋める為に3回の召喚を使った。
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(D): Lv10
・アーティファクト召喚(7/10)
・ランクアップ召喚(3/3)
・スキルP:0
【装備アーティファクト】
・スロット1:『良質な剣(D):Lv9』
・スロット2:『スライムのヘアバンド(E):Lv9』
・スロット3:『ゴブリンアーマー(D):Lv1』
・スロット4:『スライムの手袋(E):Lv9』
・スロット5:『スライムの靴下(E):Lv9』
【能力値】
・ATK:15『+159』
・DEF:18『+70』
・SPD:21『+9』
・MP:25『+9』
====================
「やっぱDランクアーティファクトの能力値は凄いな。EランクのレベルMAXと比べても段違い」
改めてDランクアーティファクトの強さを実感するアーサー。そして……。
「さてと……。それじゃあやってみようか!」
気合いを入れたアーサー。
『スライムのヘアバンド(E):Lv9』『スライムの手袋(E):Lv9』『スライムの靴下(E):Lv9』の3つにそれぞれランクアップ召喚を使用する。
「ランクアップ召喚!」
『ランクアップ召喚を使用しました。『スライムのヘアバンド(E):Lv9』が『ゴブリンの帽子(D):Lv1』にランクアップしました』
『ランクアップ召喚を使用しました。『スライムの手袋(E):Lv9』が『ゴブリンのグローブ(D):Lv1』にランクアップしました』
『ランクアップ召喚を使用しました。『スライムの靴下(E):Lv9』が『ゴブリンの草履(D):Lv1』にランクアップしました』
静かに鳴り響いた無機質の祝福。
前代未聞の展開にアーサーが叫ぶ。
「よっしゃああああああ! 僕のスキル覚醒は夢じゃなかった! よしよしよーーーーしッ!」
全ての装備がDランクアーティファクト――それも最上物であるゴブリンのネームの入ったアーティファクトを召喚する事に成功したアーサーは何度もガッツポーズを繰り出す。
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(D): Lv10
・アーティファクト召喚(4/10)
・ランクアップ召喚(0/3)
・スキルP:0
【装備アーティファクト】
・スロット1:『良質な剣(D):Lv9』
・スロット2:『ゴブリンの帽子(D):Lv1』
・スロット3:『ゴブリンアーマー(D):Lv1』
・スロット4:『ゴブリンのグローブ(D):Lv1』
・スロット5:『ゴブリンの草履(D):Lv1』
【能力値】
・ATK:15『+220』
・DEF:18『+70』
・SPD:21『+70』
・MP:25『+70』
====================
「いける――! これなら1人でもダンジョンに挑めるぞ……!」
希望、そして新たな力を手に入れたアーサーは本格的に動き出した。
剣を構え、軽い足取りでフロアを突き進んで行く。
(体が軽い。これがDランクアーティファクトの力か)
まるで水を得た魚の如く生き生きとしているアーサーは早速モンスターと遭遇。
スライム、スライム、スライム、ゴブリン、スライム、ゴブリン、ゴブリン。
「はあッ!」
『グギャ!』
「凄過ぎるぞDランク! 自分じゃないみたいだ」
これまでは最弱ランクのスライムやゴブリンを倒すのにも傷だらけで苦戦をしていたアーサー。しかし、Dランクアーティファクトの力を手に入れた彼は苦戦するどころか早くも1人でフロア4まで到達していた。
それもまだまだ本気の力ではない。
その後も順調にフロアを登って行ったアーサーはこの日、自身最高記録である33個の魔鉱石を集めた。このフロアの魔鉱石は1個あたり300Gで換金される。つまり破格の9,900Gを稼ぎ出す事に成功したのだ。
初めに言っておくが、この稼ぎはハンターとしてあり得ない程に低い。だがアーサーにとって、それも1人で稼いだ事を踏まえると間違いなく破格の稼ぎであった。
「あり得ない事態だ。まさかこんなに稼げるなんて。しかもいつもは傷だらけなのに、ほぼダメージを受けていない。それに1人だし」
自分の体を確かめながら喜ぶアーサー。
早朝からダンジョンに籠り、快調にフロアを進んでいたが気が付けば時間はもう夕飯時。とりあえず今日はもう帰ろうと考えたアーサーは、最後に残りの召喚を使ってアーティファクトのレベル上げをしたのだった。
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(D): Lv10
・アーティファクト召喚(0/10)
・ランクアップ召喚(0/3)
・スキルP:0
【装備アーティファクト】
・スロット1:『良質な剣(D):Lv9』
・スロット2:『ゴブリンの帽子(D):Lv1』
・スロット3:『ゴブリンアーマー(D):Lv3』
・スロット4:『ゴブリンのグローブ(D):Lv2』
・スロット5:『ゴブリンの草履(D):Lv2』
【能力値】
・ATK:15『+230』
・DEF:18『+90』
・SPD:21『+80』
・MP:25『+70』
====================
「今日はこれで終わりだな」
1日の可能な召喚を全て使い切ったアーサーは更に能力値が上昇した。そしてアーサーは帰る為に転移サークルに乗ってメインフロアへと戻る。
(これからは1人でもハンターとしてやっていける。今まで散々我慢してきたんだ……もう1回ぐらい“贅沢”してもいいよね――?)
何かを思いついたのだろうか。
決意を固めた表情のアーサーはいつもの流れで、魔鉱石を換金してもらう為に受付嬢のリリアの元へと向かうのだった。