平和で豊かなこの大国に突如として“ダンジョン”が現れたのはもう100年以上も前の話。
現在ではこのダンジョン攻略を生業とする冒険者《ハンター》が当たり前のように存在し、彼らは天を貫く程巨大に聳える1本の樹――通称ダンジョンを攻略しようと100年以上も歴史を築いてきた。
アーサーもそんなハンターの1人。
しかし彼は『召喚士』というハズレスキルによって最弱無能のレッテルを貼られていた。
だが。
――シュバ。
『グルッ!?』
「ハァ……ハァ……危ない……ッ! マジで死ぬところだった」
眼前にまで迫っていたモンスターの屈強な牙。
しかし、突如奏でられた無機質なアナウンスによって、完全に心が折れていたアーサーの体が本能的にモンスターの攻撃を躱していた。
「なんだ? 一体何が……?」
反射的に逃げたアーサーは咄嗟に自分の腕に付けてある“ウォッチ”を確認した。
ウォッチは腕時計のようなサイズと形をしている、ハンターのステータスなどを確認するアイテムの1つ。これは他のハンターとの通話のやり取りや様々な機能が備わっている為、全ハンター御用達の必須アイテム。
突如奏でられた無機質なアナウンスもまたこのウォッチからであった。
「今新たなスキルがどうとか聞こえたような……」
『グルルル!』
アーサーが想定外の出来事に困惑していると、再び彼に狙いを定めたモンスターが勢いよく突進していく。
「ヤバいヤバいヤバい……!」
全力の横っ飛びでなんとかモンスターの攻撃を躱したアーサーはそのまま岩陰へと身を隠す。そして改めてウォッチで自分のステータスを確認した。
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(E): Lv9
・アーティファクト召喚(9/10)
・“ランクアップ召喚”(1/1)
・スキルP:100
【装備アーティファクト】
・スロット1:『普通の剣(E):Lv1』
・スロット2:空き
・スロット3:空き
・スロット4:空き
・スロット5:空き
【能力値】
・ATK:15『+10』
・DEF:18『+0』
・SPD:21『+0』
・MP:25『+0』
====================
「聞き間違いじゃない……。本当に新しくランクアップ召喚?が増えてる」
突然の事で理解が追い付かないアーサーだが、そのままもう1回ランクアップ召喚の詳細を確認した。
「これってもしかして、アーティファクトの“ランクを上げられる”って事か……?」
そう自分で口に出した瞬間、胸の奥でドクンと強く脈打つのが分かった。
もしアーサーのこの推測が正しければとんでもない事態だ。
これまで最も弱いEランクアーティファクトしか召喚出来なかったアーサーにとって天地がひっくり変える事態である。
「幾ら考えたところで答えは出ない。ダメ元でコレに賭けるしかない……。召喚、召喚、召喚――!」
開き直ったアーサー。
彼は慣れた様子で次々に『普通の剣(E):Lv1』を召喚していく。
アーティファクトは“同じものが2つ揃う”と融合してレベルが上がる為、連続で同じ『普通の剣(E):Lv1』を8回召喚したアーサーは1つの『普通の剣(E):Lv9』を作る事に成功した。
「よし、出来た。後はこれを……」
アーサーは1日に召喚を使える回数が決まっている。今日はもう9回使用したから残り1回。
(ランクアップ召喚の横に表示された1/1という数字は、恐らく普通の召喚と同じ回数を現したもの。そうなるとこのランクアップ召喚とやらは1回しか使えない。本当にアーティファクトのランクが上げられるのなら)
アーティファクトは全てにおいて『Lv9』が上限となっている。
そして。
「頼む――」
レベルが最大となったアーティファクトを更に融合すると……。
『ランクアップ召喚を使用しました。『普通の剣(E):Lv9』が『良質な剣(D):Lv1』にランクアップしました』
「――!」
アーサーの全員を震えが襲う。
「本当になった……」
これまで最弱のEランクアーティファクトしか召喚出来なかったアーサー。まともに1人で戦えずに稼ぎも少なかったせいで、Eランク以上のアーティファクトを装備する事も初めてだ。
目の前で起きている事にまるで現実味がない。
それでもアーサーは無意識に人生で初めてとなるDランクアーティファクトを装備する。
====================
アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(E): Lv9
・アーティファクト召喚(0/10)
・“ランクアップ召喚”(0/1)
・スキルP:100
【装備アーティファクト】
・スロット1:『良質な剣(D):Lv1』
・スロット2:空き
・スロット3:空き
・スロット4:空き
・スロット5:空き
【能力値】
・ATK:15『+70』
・DEF:18『+0』
・SPD:21『+0』
・MP:25『+0』
====================
「凄い。ATK値がこんなに……」
一般的なハンターから見れば大した事ない変化。寧ろ変化にも入らない程の小さな出来事だろう。
しかしアーサーにとっては違う。この些細で僅かな小さな1つの変化が、完全に折れていた彼の心を元に戻していた。
『グルルル』
「どうせ1度死んだ身……当たって砕けろだ。どの道この状況を打破しないと逃げ切る事も出来ない」
これまでとは一転、目に生気が戻ったアーサーは今手に入れたばかりの剣をグッと強く握締めて岩陰から飛び出る。そしてアーサーはそのまま坂になっている崖を勢いよく登って行く。
(あのモンスターの弱点は眉間。そこに的確に一撃入れられれば……)
崖を登り切ったところで急停止。そこで更にアーサーは視線を下に落とす。するとアーサーがいる崖の真下に丁度モンスターの姿が確認出来た。
『グルルル!』
己の頭上にアーサーがいる事に気が付いたモンスター。激しい咆哮を上げながら威嚇しているようだ。
――ゴクン。
静かに生唾を飲みこんだアーサー。
その刹那。
――フワッ……。
躊躇なく崖から飛び降りたアーサーは、真下にいるモンスター目掛けて剣を構えていた。
「うおぉぉぉぉぉッ!」
10m以上上から一直線に降下したアーサーが一瞬でモンスターとの距離を詰める。そして降下のスピード、体重、新たに手にしたDランクアーティファクトの全てを掛け合わせた一撃がモンスターに直撃。
アーサーの構えた剣の切っ先は、モンスターの弱点である眉間にピンポイントで突き刺さった。
『グガァァァァッ……!』
「やった……!」
一か八かの賭けに勝ったアーサーは見事モンスターを撃破。絶体絶命のピンチを潜り抜けたのだった。
「ハァ……ハァ……良かった……上手くいった」
波乱万丈の1日。ハンターになってからまだ1年程度しか経っていないアーサーであったが、間違いなく今日の出来事はハンター人生で最も危険であり、最も奇跡的な1日であった。
だがアーサーのそんな奇跡的な1日はまだ終わらない。改めて自分のステータスを見るアーサー。
「マジでDランクアーティファクトを装備しちゃってるよ……。しかも今ので“スキルP”も一気に貯まったみたいだな」
スキルP――それはモンスターを倒す事で得られるポイント。このスキルPは自身のスキルのレベルを上げる事ができ、レベルを上げると能力値の上昇や新スキルの習得など様々な恩恵がある。
しかし最弱無能と謳われるアーサーの『召喚士』はそこでも無能さを発揮。彼は頑張ってスキルレベルを上げていたが、残念な事に一切の変化がなかった。これも通常のハンターではあり得ない事だった。
「ひとまず命があってなにより……。どうせ意味ないけど、一応スキルPを使っておくか」
モンスターを討伐し、緊張の糸が切れたアーサーはその場に座り込んだままステータス画面を操作してスキルPを使用。
すると次の瞬間――。
現在ではこのダンジョン攻略を生業とする冒険者《ハンター》が当たり前のように存在し、彼らは天を貫く程巨大に聳える1本の樹――通称ダンジョンを攻略しようと100年以上も歴史を築いてきた。
アーサーもそんなハンターの1人。
しかし彼は『召喚士』というハズレスキルによって最弱無能のレッテルを貼られていた。
だが。
――シュバ。
『グルッ!?』
「ハァ……ハァ……危ない……ッ! マジで死ぬところだった」
眼前にまで迫っていたモンスターの屈強な牙。
しかし、突如奏でられた無機質なアナウンスによって、完全に心が折れていたアーサーの体が本能的にモンスターの攻撃を躱していた。
「なんだ? 一体何が……?」
反射的に逃げたアーサーは咄嗟に自分の腕に付けてある“ウォッチ”を確認した。
ウォッチは腕時計のようなサイズと形をしている、ハンターのステータスなどを確認するアイテムの1つ。これは他のハンターとの通話のやり取りや様々な機能が備わっている為、全ハンター御用達の必須アイテム。
突如奏でられた無機質なアナウンスもまたこのウォッチからであった。
「今新たなスキルがどうとか聞こえたような……」
『グルルル!』
アーサーが想定外の出来事に困惑していると、再び彼に狙いを定めたモンスターが勢いよく突進していく。
「ヤバいヤバいヤバい……!」
全力の横っ飛びでなんとかモンスターの攻撃を躱したアーサーはそのまま岩陰へと身を隠す。そして改めてウォッチで自分のステータスを確認した。
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アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(E): Lv9
・アーティファクト召喚(9/10)
・“ランクアップ召喚”(1/1)
・スキルP:100
【装備アーティファクト】
・スロット1:『普通の剣(E):Lv1』
・スロット2:空き
・スロット3:空き
・スロット4:空き
・スロット5:空き
【能力値】
・ATK:15『+10』
・DEF:18『+0』
・SPD:21『+0』
・MP:25『+0』
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「聞き間違いじゃない……。本当に新しくランクアップ召喚?が増えてる」
突然の事で理解が追い付かないアーサーだが、そのままもう1回ランクアップ召喚の詳細を確認した。
「これってもしかして、アーティファクトの“ランクを上げられる”って事か……?」
そう自分で口に出した瞬間、胸の奥でドクンと強く脈打つのが分かった。
もしアーサーのこの推測が正しければとんでもない事態だ。
これまで最も弱いEランクアーティファクトしか召喚出来なかったアーサーにとって天地がひっくり変える事態である。
「幾ら考えたところで答えは出ない。ダメ元でコレに賭けるしかない……。召喚、召喚、召喚――!」
開き直ったアーサー。
彼は慣れた様子で次々に『普通の剣(E):Lv1』を召喚していく。
アーティファクトは“同じものが2つ揃う”と融合してレベルが上がる為、連続で同じ『普通の剣(E):Lv1』を8回召喚したアーサーは1つの『普通の剣(E):Lv9』を作る事に成功した。
「よし、出来た。後はこれを……」
アーサーは1日に召喚を使える回数が決まっている。今日はもう9回使用したから残り1回。
(ランクアップ召喚の横に表示された1/1という数字は、恐らく普通の召喚と同じ回数を現したもの。そうなるとこのランクアップ召喚とやらは1回しか使えない。本当にアーティファクトのランクが上げられるのなら)
アーティファクトは全てにおいて『Lv9』が上限となっている。
そして。
「頼む――」
レベルが最大となったアーティファクトを更に融合すると……。
『ランクアップ召喚を使用しました。『普通の剣(E):Lv9』が『良質な剣(D):Lv1』にランクアップしました』
「――!」
アーサーの全員を震えが襲う。
「本当になった……」
これまで最弱のEランクアーティファクトしか召喚出来なかったアーサー。まともに1人で戦えずに稼ぎも少なかったせいで、Eランク以上のアーティファクトを装備する事も初めてだ。
目の前で起きている事にまるで現実味がない。
それでもアーサーは無意識に人生で初めてとなるDランクアーティファクトを装備する。
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アーサー・リルガーデン
【スキル】召喚士(E): Lv9
・アーティファクト召喚(0/10)
・“ランクアップ召喚”(0/1)
・スキルP:100
【装備アーティファクト】
・スロット1:『良質な剣(D):Lv1』
・スロット2:空き
・スロット3:空き
・スロット4:空き
・スロット5:空き
【能力値】
・ATK:15『+70』
・DEF:18『+0』
・SPD:21『+0』
・MP:25『+0』
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「凄い。ATK値がこんなに……」
一般的なハンターから見れば大した事ない変化。寧ろ変化にも入らない程の小さな出来事だろう。
しかしアーサーにとっては違う。この些細で僅かな小さな1つの変化が、完全に折れていた彼の心を元に戻していた。
『グルルル』
「どうせ1度死んだ身……当たって砕けろだ。どの道この状況を打破しないと逃げ切る事も出来ない」
これまでとは一転、目に生気が戻ったアーサーは今手に入れたばかりの剣をグッと強く握締めて岩陰から飛び出る。そしてアーサーはそのまま坂になっている崖を勢いよく登って行く。
(あのモンスターの弱点は眉間。そこに的確に一撃入れられれば……)
崖を登り切ったところで急停止。そこで更にアーサーは視線を下に落とす。するとアーサーがいる崖の真下に丁度モンスターの姿が確認出来た。
『グルルル!』
己の頭上にアーサーがいる事に気が付いたモンスター。激しい咆哮を上げながら威嚇しているようだ。
――ゴクン。
静かに生唾を飲みこんだアーサー。
その刹那。
――フワッ……。
躊躇なく崖から飛び降りたアーサーは、真下にいるモンスター目掛けて剣を構えていた。
「うおぉぉぉぉぉッ!」
10m以上上から一直線に降下したアーサーが一瞬でモンスターとの距離を詰める。そして降下のスピード、体重、新たに手にしたDランクアーティファクトの全てを掛け合わせた一撃がモンスターに直撃。
アーサーの構えた剣の切っ先は、モンスターの弱点である眉間にピンポイントで突き刺さった。
『グガァァァァッ……!』
「やった……!」
一か八かの賭けに勝ったアーサーは見事モンスターを撃破。絶体絶命のピンチを潜り抜けたのだった。
「ハァ……ハァ……良かった……上手くいった」
波乱万丈の1日。ハンターになってからまだ1年程度しか経っていないアーサーであったが、間違いなく今日の出来事はハンター人生で最も危険であり、最も奇跡的な1日であった。
だがアーサーのそんな奇跡的な1日はまだ終わらない。改めて自分のステータスを見るアーサー。
「マジでDランクアーティファクトを装備しちゃってるよ……。しかも今ので“スキルP”も一気に貯まったみたいだな」
スキルP――それはモンスターを倒す事で得られるポイント。このスキルPは自身のスキルのレベルを上げる事ができ、レベルを上げると能力値の上昇や新スキルの習得など様々な恩恵がある。
しかし最弱無能と謳われるアーサーの『召喚士』はそこでも無能さを発揮。彼は頑張ってスキルレベルを上げていたが、残念な事に一切の変化がなかった。これも通常のハンターではあり得ない事だった。
「ひとまず命があってなにより……。どうせ意味ないけど、一応スキルPを使っておくか」
モンスターを討伐し、緊張の糸が切れたアーサーはその場に座り込んだままステータス画面を操作してスキルPを使用。
すると次の瞬間――。