異世界ハードモード!〜持ってるチートスキルが使えなくても強くなれる剣士として努力を続けようと思います!〜

 牢にぶち込まれてから一体どれ程の時間が経っただろうか......ここに来たのは昼過ぎで、天井付近に僅かだが空いている鉄格子の窓から月明かりが差し込んでいるから多分夜なのだろう。

「ぐおー......ジュパパパパプピー......」

 牢屋のど真ん中でロージーはいびきをかきながら爆睡している。てかなんでこの状況で寝れるんだ? 

 俺はここに来て直ぐ気が付いた事がある。なんと今の俺、武器を取り上げられていないのだ!

 オマケに監視の看守の一人もいない! これはもうガバを通り越してバカだろ!!
 牢の鉄格子と結界魔法はスパンと一刀両断出来そうだし、これは脱獄のチャンスなのでは!? 

『いや、明らかに罠でしょ。どう考えても』

 もし罠なら罠で蹴散らせばいいだけ! そうだろ?

『はぁ......私しーらない』

 若干ナマコ神様に呆れられた気もするけど、今はここから出る事を優先しなければ!

 いざ娑婆へ!!

 両断された鉄格子がガラガラと音を立てて崩れる。結界魔法と言っても物理に抵抗を示す物では無かったらしく、力を入れた割にすんなりと斬れ、一先ず牢屋の外へと出る事には成功した。

「そこそこデカ目の音が鳴ったと思うけど誰も来ないのな......」

 大丈夫かこの国の警備? 罪人(無実だけどね!)の立場から見ても心配になってくる。

 出口までは一本道だったので迷う心配も無かったのだが、最後の最後で大きな問題に直面してしまった......

「音声認識でしか開かない出口の扉......斬り壊して出ようと思ったけど流石にこっちは対物理も万全か......」

 大金庫レベルで重厚な扉。その横には音声入力式の魔道具があり、そこに特定の音声を入力すると扉が開くようだ。

『扉のカギになるのはこのクイズ!! ぱぱっと解いて、自由の翼を手にしよう!!』

 やけに陽気だな音声入力......よし、簡単な問題こい! 出来れば俺の浅い異世界知識でも解けるような簡単な問題こい!

『という事で問題!! ノヴァーリス第三聖騎士長“ガブリエーラ・トクソーン”が婚期を逃し続け結婚できない理由はなーんだ!』

「分かるかいそないなもん!!!!」

 いかん! 極限の声量でツッコんでしまった!! これは......実に不味いのでは!?

『ベッベー! ハズレ~! 脱獄囚だよー!!!! であえであえー!!!!』

 音声入力魔道具の陽気な声が響くと同時に、俺の目の前の扉が轟音を立てて斜めに斬れて崩れた。

「な! 俺の言った通りだろ? 武器渡しておけば絶対出ようとするって!! 賭けは俺の勝ちだな」

「うーん物分り良さそうな良い子だと思ったんだけどなー......ってそれより! なんで私の婚期が鍵になってる訳!? まだエルフの中では若い方なんですけど!?」

「うるせぇ長命種。寿命に甘えんな......」

「なにを~!?」

 絶妙に緊張感の無い言い争いをしながら俺の前に立っているのは、2m程の身長と、それと同等の大剣を担ぐ頭に鈍い金色の角の生えた赤髪の大男。そして左手に掌サイズの匣を持った、金の長髪と長い耳が特徴的なエルフであった。

 剣を振るう鬼......婚期の話をするエルフ......音声入力魔道具の出した問題......総合的に考えなくてもこの二人は!!

「ノヴァーリス聖騎士長......!」

「当たりー! で? このまま『はいそうですか』って外に出す訳には行かないから、俺達と戦うか、大人しく牢に戻るか、選んでくれ」

 ニヤニヤと笑いながら男の方がそう告げる。

「だったら戦うに決まってるだろうが!」

 怯んじゃ駄目だ! 虚勢を張れ!!

「オーケイ脱獄少年! 命日が一日早まるだけだが、相手をしてやろう!」

 聖騎士長二人と俺。二対一の圧倒的に不利な戦闘が始まろうとしていた。
「じゃあ俺から行くぞォ!! 一撃で終わったりしないでくれよぉぉぉ!!!!」

 先に動いたのは鬼の男だった。
 その長さや厚みからから大剣と言うよりは鋼鉄の板と言った方が正しい気もする得物を軽々と俺に振り下ろして来る。

「ぐぉぉぉぉ!!!! 重い重い重い!!」

 真上から俺を両断せんと振り下ろされた大剣を刀身で受けたは良いもののその衝撃が全身を駆け巡る。

 骨の軋む音が、床がひび割れる音が酷く耳に響く。

 受け止めるのが精一杯!! 受け流して反撃と思ったけどそれを許さない圧倒的な重量!! 

「俺だって伊達に鍛えてねぇんだよ!!!!」

 ようやっと押し戻す事に成功した。

「やっぱりそう来なくちゃな!! 俺達のいる牢から逃げ出そうってんだ。これくらいで潰れてくれちゃ困る!」

 その言葉が俺の耳に入ると同時、「さっきはまじで力抜いてたよ」と言わんばかりの大剣の連撃が襲い掛かる。

 てか大剣の連撃って何? 一撃必殺の重みが魅力なのにその武器の特性(アイデンティティ)を失った必殺の連撃叩き込んで来ないで?

「ぐわぁぁぁぁッ!!!! 死ぬッ!! 死んじゃうッ!!」

「本当に死にそうな奴は『死ぬ』なんて言葉に出さないよなァ!? もっと強く! 速くやっても大丈夫って事だよなァ!?」

 振り下ろすスピードが更に早くなった!! 
 くっそぉ~! まだ秘密にしておきたかったけど使うしかない!!

【我流“防御剣術”流静(ながし)颯免(そうめん)

 俺は考えた。やっぱり目に見える攻撃位は全部捌きたいと。

 だから指を鍛えた。細かな刀の動きを実現出来るように。

 だから眼を鍛えた。どんな攻撃も視えるように。

「何!? さっきまで避けるのが精一杯だったろ? なんで急に全て弾けてるんだ!?」

 全ての一撃を弾かれるとは予想外だったのか鬼も一度剣を構え直す。

「お前の攻撃が“視えた”。だから全部弾いた。それだけだ」

「そんな技術あるなら最初から使えよ......」

「悪いな。俺の親父ならこんな技使わなくても全部弾けるから、俺も試してみたくなったんだ。それよりそっちも、二人でかかって来なくて良いのか?」

 エルフの女の方は動いている様子が無い......まだ婚期の話に怒ってるんだろうか?

「あら、私の事は心配しないで? もう動いているから」

「なに――――」

 その瞬間、壁から出現した無数の光の矢が俺の全身を貫く。
 
「ガッ―――!!」

 エルフの持っていた匣はいつの間にか巨大な弓に変化していた。

「そんな大きな弓......持ってたらいくらなんでも気付くわ俺でも......」

 そう、彼女はなにも持っていなかった。俺は鬼の攻撃を避けつつもエルフの行動に気を配っていたが、一度もそんな大弓を出す素振りなど見せていなかった。

「あぁ、この匣が弓なんだけど、大きさは自在なのよ。だからさっきまでは爪先サイズで壁に光の矢を仕込んでたの。で、今は見せたいから大きくしてるだけ! 簡単でしょ?」

 全身に穴が空き立ち上がれない俺に近付いてエルフの女が流暢に語る。

 反則だろそんなの......
 
「終わりだな。こんな形で終わるのは俺としても不本意だが......お前が望んだ道だ。恨まないでくれよ」

 動けない俺の頭をかち割ろうと大剣が振り上げられる。

 しかし、その大剣が俺に振り下ろされる事は無かった。

「ッなんだ!? 俺の剣が急に重く......!」

「私の弓も!! なんで!?」

 二人は使い慣れているだろう己の武器を持ち上げる事すら出来なくなっていたのだ。

「――――マツル君酷いよ~。逃げるなら僕も一緒に連れて行って欲しかったなー!」

 後ろを振り向くとそこにいたのは寝起きで寝癖がこれでもかと付いたロージーだった。

「これで僕達は二対二......さぁ、条件共有の時間だ!!」
「これで僕達は二対二......さぁ、条件共有の時間だ!!」

「ハァ......お前がロージーだな? 多少俺の剣を重くした所で、持てなくなるようなヤワな鍛え方してねぇんだよォ!!」

 嘘だろ!? あの鬼持ち上げやがった!! マズイ! 一回持ち上げられたらその重さも威力に掛け算された一撃が来る!!

「あれ? やっぱり軽いかもしれないな!」

「うぉぉぉ!? 急に軽くッ――――!?」

 振り上げた超重量の大剣の重さがいきなりゼロになる。勢い余った鬼の身体はそのまま後ろへ倒れ込んでしまった。

 これがロージーの......サラバンドギルドマスターの戦い方......

「マツル君、少し動けるなら俺の身体......腕とか足が良いかな。を斬ってくれ!」

「えぇ!? どうしたんですか急に」

 俺は言われるがままにロージーの右腕を薄く斬った。

「ぐおッ!!」

「いったぁ......」

 すると鬼とエルフの右腕の同じ位置に全く同じ傷ができたのだった。

「ギルドマスター......何したんですか?」

「簡単だよ~! 僕の傷を、ユニークスキルで【共有】しただけ! これ自分もめちゃくちゃ痛いからあんまりやりたくないんだよね」

 俺はロージーが相手の武器を重くしたり軽くしたりしている隙に、ロージーの身体を斬り続けた。その度に、相手の身体に傷も増えていく。

 そうだった。ロージーは今回戦犯なだけで基本強いんだった。

 聖騎士長二人相手に押してる感あるし、これ行けるんじゃね!?

「なぁガブリー......これは本気でいっといた方が良いかもな......」

「えぇー......“アレ”やるの疲れるから嫌なんだけどなー......仕方がないか!」

 アレってなんだ......? 
 武器を地面に突き立てた二人が両手を前に突き出し叫ぶ。

「最後に名前を教えてやろう!! “クーガ・クロシェール”だ!」

「ガブリエーラ・トクソーンよ!」

 二人が名前を叫んだ瞬間、とてつもない重圧が俺達を襲う。

 地下牢の天井からパラパラと石の粉が落ちてきて、今にも崩れそうな程空間が震えている。

「「今こそ真の力を示せ!! 神機解ほ――――」」

「全員そこまで!!!!」

 俺達とクーガとの間にフリージアさんが割って入って来た。
 
「そこの聖騎士長二人......あんた達ソレを二人同時に!! こんな狭い所で使って、城ごと崩れたらどうしちゃうつもりだった訳!?」

「すまねぇマスター殿。こいつらが余りにも手強かったもんでつい......」

 幼女に詰められてタジタジの大男。初めてみるな......

「大体なんであんた達は脱獄なんて下らない真似しようとしちゃったの......まだ有罪が確定した訳じゃないんだからどう弁解するか二人で考えちゃったりすればよかったじゃないのよ......」

 今度はこちらに矛先が向いたが、ごもっともすぎる意見だ。

 ぐうの音も出ないのは悔しいので、ぐうの音位は出しておこう。

「ぐう......」

「ほら、それが分かったらみんなさっさと寝ちゃう! 裁判は明日の正午からだからね! 寝坊しないように!!」

 オーバーサイトマスターの一喝により、夜中の戦闘は幕を閉じた。


◇◇◇◇

「――――ではこれより、国際条約違反についての裁判を始める。被告人は前へ」

「はい」

 翌日の正午、ついに裁判が始まった。
「――――ではこれより、国際条約違反についての裁判を始める。被告人は前へ」

「はい」

 遂に裁判が始まった。
 この世界の裁判は元の世界の物とは大きく違う。

 まず弁護士がいないので、自分達でなんとかしなければならない。

 そして魔法なんて言う超便利アイテムがあるので的中率100パーセントの嘘発見器が存在する。

 魔法で過去なり見たらええやんと思ったが、なんかそれすると次元がナンタラとナマコ神様に説明されたがよく分からなかった。

 この条件の元、俺とロージーは無罪を勝ち取らなければならない。

 ます傍聴席や裁判官に向かって、詳しい状況説明が行われた。

 サラバンド防衛戦にて俺が超魔導兵器を使用した疑いがある事。

 ギルドマスターからの報告が無かったのは兵器使用を隠す為であるという事。

 この二つが今回の争点となる。

 つまり、「俺の魔法で勝った事」と「ギルドマスターの討伐要因の報告漏れは故意では無い事」を証明出来れば無罪という訳だ。

 もし出来なかった場合は死刑みたいだけど。

「――――説明は以上です。被告人、何か反論がある場合は、魔道具【真偽の聖鐘_(ライブラ・ベル)】に手を当てながら話して下さい。嘘を吐けば荒く、真実を話せば柔らかな音が鳴ります」

 俺は裁判官に促されるまま、魔道具に手を当てて反論を始める。

「サラバンド防衛戦で100万の魔獣の大群を消滅させたのは、他でもない私の魔法です! 私のユニークスキルは魔法の威力を無限に上げられます! それで一撃で勝利したのです! 決して国際条約に違反などしていません!」

 どうだライブラ・ベル!? 俺は本当の事を言っている!! 柔らかい音が――――

 ベルは一切の反応を示さなかった。どちらの音が鳴るでもなく無反応なのだ。
 
「なんで!?」

「被告人は異世界人だと言うでは無いか。なら魔力が無いのが普通。魔力がないならベルは反応しないし魔法も使えない。その時に魔法が使えたという証拠も無いのだから無実の立証は不可能だな」

 はっ......ハメられたァァァァ!? 非常にいけない状況だッ!! 

 一度俺達に不利なように思われたらそこの争点での挽回は難しい! あとはロージーの討伐要因の報告漏れが故意じゃなかったという事を証明出来るかで全てが変わる!

「――――では次は被告人、ロージーに聞こう。あなたは《《本当》》に報告に隠し事をしていなかったのですか? 何かやましい事があって、報告してない事があったのではないですか?」

 俺と同じように魔道具に手を置いたロージーが口を開く。
 ロージーには魔力があるからちゃんと音は鳴るはずだ。

「僕は何もやましい事なんて隠してません! 報告漏れは本当に忘れていただけなんです!!」

ギャリリリリリリリリリ!!!!!!

 ベルはけたたましく鳴り始めた。

「やはり嘘なのではないか!!」

 なんでぇぇぇぇ!? 本当の事言ってたじゃん!!
 いや......今の発言の中に嘘があったと言う事は確定なのか......「報告はし忘れていただけ」の部分は本当だとするなら嘘になるのは「やましい事を隠していない」という所......

 ハッ!!!!

 確かロージーって宴の代金全額本部にツケてたよな......もしかしてやましい事ってそれか!?

 くっそぉぉぉやましいと思ってたならそんな馬鹿なことするなよぉぉぉぉ!!
 終わった。完全に終わった。

「この状況を覆す証拠も無し......では判決を言い渡――――」

「ちょっと待ったァァァァ!!!!」

 どこからともなく爆発したような声量が裁判所中に響き渡る。

 次の瞬間、裁判所の壁が急に円形に吹き飛んだ。

「その判決! 待った!」

 崩れた壁の土煙の中から登場したのはホノラ達であった。

「ホノラァァァァ!!!! メツセイぃぃぃぃ!!!! ウィールさんんんんんん!!!! 一馬鹿ァァァァ!!!!」

「ハッ!!!! 何故俺だけ名前じゃないのかは気になるがまぁいいだろう!」

「誰だお前達は!!!!」

「マツルの判決に納得がいかないから、待ったをかけに来たのよ」

「ならわざわざ壁を蹴破って来なくても良かったであろう!! 警報音が鳴り止まないでは無いか!!」

 壁を吹き飛ばしたせいなのか、街の至る所から警報音が鳴り響いている。にしてはちょっと異常じゃないか? このうるささは。

「いや......これはホノラちゃん達のせいじゃないね......何者かが魔力障壁を魔法で破ったんだ」

 さっきまで俺達の審議を必死に笑いを堪えながら見ていたフリージアが真面目なトーンで話し始めた。

「ホノラ......まさかお前......」

「マツル違う!! 私じゃない!! 第一魔力障壁なんて簡単に破れるわけがないでしょ!」

「でも現実に破壊されて警報がなっている......相当な緊急事態だね」

「――――ッ!! なんだ......このオーラは?」

 全員が、突如出現した圧倒的な存在感に気が付いた。裁判中だと言うのに、俺の体が走り出すのを、理性では止められなくなっていた。

「やっぱりマツルも気になるわよね。こんなに邪悪なオーラ!」

 ホノラも俺と同じみたいだ。

「あぁ......俺は今容疑者で、この国からしてみたら部外者だが、それは指くわえて逃げる理由にはならないよな!」

「あの.....あなたは容疑者なので一応ここにいて頂きたいのですが......」

 裁判長と警備員が俺を引き留めようと押さえつけるが、俺はその制止を気合で撥ね飛ばす。

「うるせぇクソ裁判長! 後でちゃんと戻って来るわ!」

 俺とホノラは、オーラが出現した方向へ全力で走った。 
「マツル遅い! 私先に行くわよ!!」

 ホノラ足クッソ速ぇ! 俺だって鍛えてたしこまで遅くはないと思うけど次元が違う! 

 ホノラは家屋を軽々飛び越え、一瞬で城門の外まで行ってしまった。

――――

「ハァ......ハァ......やっと着いた......」

 途中道なりに進もうとして大迷いをかまし、俺が到着したのはかなり時間が経ってからだった。

「んぉ......お前は確か......マツルとか言った野郎じゃねぇか」

「お前はゆうべの......」

 城門を出た所で聖騎士長、クーガが腕を組んで立っていた。そしてここから少し離れた辺りで凄まじい戦闘音が鳴り響いていた。

「クーガ......さん、一体何があったんですか?」

「呼び捨てで俺は構わん......それでだな、魔王ニシュラブの配下を名乗る上位魔人が城壁の魔力障壁を破壊した」

 まっ......魔王の配下!? 魔獣の大群から敵の強さがインフレしすぎじゃないですか!?

「――なんでも......『ワイヴァーナンチャラウルフ』っていうのが? 国にいるらしくて、要求を無視して突っ込んで行った俺の部下が三十人ほどやられた......」

 「ワイヴァーナンチャラウルフ」? どこかで聞いた事があるような......

「小僧、それは我の種族名であるぞ! それに、ニシュラブと言う名の魔王は先の魔獣の大群とこの我を操って、ついでに我を捨て駒にしようとしていたな!」

 俺の服の中に居た(いつから居たんだ?)モフローがひょっこり顔を出して答える。

 あ! そうだ!! モフロー呼びが定着し過ぎて忘れてたよ!

......じゃあ魔王の配下が来たの俺のせいじゃぁぁぁぁん!! 

「モフロー......お前がここに居るのは黙ってろ。な?」

 バレたら......バレたらマズイ!!

「どうしたマツル? なにをコソコソ喋ってるんだ?」

「あ! なんでもないよクーガ! それで......今戦ってるのは誰なんだ?」

 いや、聞かなくても大体予想はついている。てか俺より先に来て俺の視界にいないって事はそういう事だろ。

「確か......配下の方が名前を言おうとして......『私の名はバカ――――』って所まで言いかけた所で『バカは一人で十分よ!!』ってパツキンの女の子が上空から飛び蹴りしてきた。んで今その女の子がバカを一方的に殴ってる」

 ホノラ......モフローの件でちゃんと相手の名乗りは聞こうって俺と約束したじゃん......

 恐る恐る近付いてみると、バカ(仮称)はホノラに仰向けに押さえつけられ、一方的に顔とボディを殴打されていた。

「――ホノラ落ち着け!! もうこのバカ意識無いって!!」

 一先ずホノラを羽交い締めにしてバカから引き剥がす。

「マツル見て見て!! あのバカ凄いの!! どんなに殴ってもすぐ傷が治るの!!」

 ホノラは眩い笑顔でえぐい事を言うなぁ......

「おのれ小娘......私の事を勝手にバカにしやがってぇ......大体私の名前は“バカラ”だ! あと一文字位頑張ってもらおう!」

 もう意識戻ってる! しかも傷も完治か......これ意外と厄介な相手なのでは?

「見てほらマツル! すぐ治っちゃうのよ! これは殴りごたえがあるわね!」

 良い感じのサンドバックってことかよ......サンドバック? アレ、確か俺にホノラがついてきた理由って殴打に耐えたからだったよな? 
 じゃあ多分だけど俺より耐久性の高いこのバカラとか言う野郎もサンドバックになったら俺はどうなるんだ?

 えーとつまり......つまりだけど......俺とコイツは恋敵(ライバル)!? ってコト!?

「おい......バカラとか言ったな......俺がテメェを殺す」

「男の方は一体何に“キレ”てんだ――――」

【我流“斬術”王虚(のうこ)霧冷(きりさめ)

 バカラの胴体が肩から脇腹にかけてジグザグに両断される。

「“斬れ”てんのはお前の方だよバーカ......」

 再生が難しくなるように刃をノコギリのようにして斬ってやった。俺のライバルになんてなるからじゃクソが。

「――――体が......上手く繋がらない!!」

 ほら見ろ。どうやら再生よりも傷の修復の方が近かったみたいだな。新しく部位を生やす事は出来ないのだろう。

「マツルもう倒しちゃったの!? 私もっと楽しみたかったのに!」

 わーおバイオレンス! って俺も人の事言えないか......

「凄いなマツル! 昨日ももっと本気でやってくれれば良かったものを!」

 大剣を担ぎながらえっほえっほとクーガが走ってくる。

「で、どうするバカラとやら。色々と情報を話してくれるなら命と安全な生活だけは保障して――――」

「黙れ!! 貴様ら私の事を愚弄しやがってぇ......!!」

 唇を血が出る程噛み、地面に拳を叩き付けながらバカラが唸る。

「どうみたってお前の負けだろ。それともアレか? トドメ刺して欲しいのか?」

 人に見た目が近しい生物を殺した事ないから気が引けるんだよなぁ......

「カアッ! その甘さが、後に後悔を生むことになるのだ!!」 

「何を――――」

 バカラは胸ポケットからビー玉サイズの黒い球体を取り出した。

 その球体はそこだけ空間を抜き取ったかのような漆黒で、それを飲み込んだバカラの身体から黒い煙が噴き出した。

「なんだ!?」

「身体が繋がって......!」

「マツルとそこの女の子! この煙はマズイ!! 身体に触れないうちに下がれ!」

 俺達はクーガに叫ばれるまま、煙に触れないように後ろへ下がった。

 膨大に流れ出た煙は一瞬で繋がったバカラの身体に吸収された。

「これがワタシの切り札!! これがワタシの闇の力!! アァ......最高にいい気分ダ!!」

 俺達の目の前に立っていたのは、身体から出た煙を纏ったバカラのような物であった。
「あの黒い煙......目無しの魔獣のヤツとそっくりだな」

「アレは煙じゃねぇ。闇だ。あのバカラとか言う魔人、“闇の欠片”を取り込みやがった!」

「闇の欠片? なんだよそれ」

「この世界の創造主である闇の欠片なの!」

「そのまんますぎて分かんねーよ!! もっと分かりやすく教えてくれ!」

「細かい事はどーだって良いのよ! 今度は私がぶん殴る!」

「待て突っ走るな!! えーと名前なんて言ったっけ......そうホノラ!! 絶対闇に触れるな!」

「ホウ......そこのデカい鬼の方はワタシの闇の恐ろしさが分かっているヨウだな......」

「――だがワタシを恐れるだけでハもう遅イ! ワタシは闇の力を我が物にして最強になっタ!!(※個人の感想です)もうこの世にワタシを止められる者ハ存在しない!!(※個人の感想です)」

 なんだろう......闇バカラのセリフの後に(※個人の感想です)って見えるのは気の所為だろうか?

「誰ダ!? ワタシのセリフの後に(※個人の感想です)と入れているのハ!?」

 気の所為じゃないとなると、こんなふざけた事が出来るのは一人しかいない!

「じゃじゃーん! 僕でーす!!」

「兄ちゃん! 俺もいるぞ!」

「ハッ!!!! 俺もだ!!!!」

「マツルさーん、ホノラさーん、大丈夫ですかー?」

 遅れてロージー達の到着だ!

「どうする闇バカラ、こっちは一気に戦力大増強で超有利だぜ?」

「マサカ、頭数を揃えたからワタシに勝てルと思っているのカ? ナラ、それは間違イというモノダ【闇魔法 闇放射(ダーク・ラジエート)】」

「闇の散弾!?」

「ッッ!? 全員避けろぉぉぉぉ!!!! もう一度言う! 絶対に当たるんじゃないぞぉぉぉぉ!!」

 闇バカラの周りに出現した無数の闇の球が俺達に降り注ぐ。

 着弾した部分の地面はジュワジュワと音を立てて蒸発していた。

 危なかった。クーガの呼び掛けがなかったら誰か一発は食らっていたかもしれない。

 ナマコ神様、闇魔法ってなんだ?

『闇魔法って言うのはね、文字通り闇を扱う魔法で、闇の力を取り込んだ闇の眷属にしか使えないんだ。コントロールが難しい分超強力で、当たったら死ぬ』

 死ぬ!?!? なんだよそれ強過ぎだろチートじゃんチート!!

『ごめん、死ぬは言い過ぎた。死んだ方がマシになる位の激痛が全身を止めどなく襲い続けるよ』

 どっちもほぼ変わんねぇ......

 とりあえず誰も死んでないみたいで安心安心! あとは触れなくても遠距離からバカスカ撃てる魔法使いの皆さんに任せて――

「今度は私の番ね!! やっぱり我慢出来なかったパーンチ!!」

 いつの間に接近してんだホノラぁッ!? 思いっきり顔面殴ってるし! ガッツリ闇に触ってるし!? 

「グァッ......!! ワタシに一発入れた事ハ褒めてやるガ、ただの人間ガ闇に触れれバ残された道ハ死のみ!!」

「このモヤモヤ、触ってもなんともないじゃない」

 ええええええええええええ!? なんでぇ!?!?!?

「信じられねぇ......あの子、闇に触れてやがる......」

「なァギルマスよ......俺ァ初めて闇魔法なんて見たがよ、これは嬢ちゃんがおかしいんだよな?」

「これはホノラ君がおかしいね......普通、少し触っただけで死に至る代物なのに......」

 皆が口々に驚きの感想を示している。

 そしてその間にも、闇バカラはまたしてもホノラにボッコボコに殴られ続け、心が完全に折れかかっていたのだった。
「ヤベッ!! ヤベペッッ......ヤベペクバザイッッ......」

 ホノラの一方的な攻撃が10分程続き、闇バカラの命乞いが始まった。

「あら、もう終わり? なんだか拍子抜けね」

「助けテくれるのか......? ワタシを」

「助けるまでは行かなくても、特に私は恨みとか無いし、マツルどうする?」

 そうだな......俺もさっきは頭に血が上ってたけど、特段闇バカラをどうしたいって事は無いんだよなぁ......

「そうだな、あとは聖騎士の皆さんに色々お任せしよ――――」

 その時、俺は見てしまった。傷が完全回復し、ホノラの後ろに立つ闇バカラを。

「ホノラ! 後ろ!!」

「えっ――」

【闇魔法”闇牢(ダーク・ロウ)”】

 ホノラが後ろを振り向いたのは、既に闇で出来た球体に包まれた後だった。

「ハハハハハァッ!! 簡単に人の言う事を信じる馬鹿ハ騙しやスくて助かル!!!!」

「ちょっと!! 出しなさいよ!!」

 ホノラが内側から叩くが、闇はビクともしない。

「無駄ダ! 闇牢(ダーク・ロウ)ハ“通さない”事に特化したアらゆる攻撃に対シて無敵の耐性を持ツ脱出不可能の牢獄!! 人間は酸素を吸わないと生きてイケナイのだろう? ソの酸素も内部は有限!! 早くしなケればこのガキは死んじまうなァ!!」

「早くホノラを出せ......」

「出して欲しかったらワイヴァーグリッドウルフをこちらにヨコセぇ!!!! この国にいるのは分かってるんダ!!」

 それか......

「なぁ小僧よ。我が出ていけば、ホノラは助かるのか? なら――」

「絶対出るなモフロー。第一、お前があちらに行った所でホノラを出す事は絶対に無いだろ......だからこの条件を呑む必要は無い」

「ならどうするのだ!」

 俺は刀を抜き、刃先を闇バカラに向ける。

「テメェは俺が殺す。それで全員助ける」

――――

「脆弱ナ人間風情がワタシを殺す? 今のワタシは魔王にすら届ク究極の存在!!」

「兄ちゃん、俺達も一緒に戦ぞ!!」

「マツル、ここは俺の守る国だ。お前一人に背負わす訳にはいかん」

 前に躍り出るのはメツセイとクーガだ。

「ありがとう。メツセイ、クーガ。でも大丈夫だ......これは俺の喧嘩(タイマン)だから!」

「貴様......死んダゾ?」

「殺してみろや暗黒男――」

【闇魔法 暗黒魔震眼(ダークマシンガン)

 さっきより多い闇の球が俺に襲いかかる!

 避けれる物は全て避けて接近しろ!! 
 
「避けタ!? ナラ避けル余白を無くセばいイ!!」

 どうしても避けれないタイミングでも......!

 俺には視える!

【我流“防御剣術”流静(ながし)颯免(そうめん)

「ナ―――ッッ!! 全てノ闇を斬っタ!?」

「ハッハァッ!! どうだ見たか!! これが異世界人の底力じゃァ!!」

 あと一撃! あと一撃斬れば勝てる!   

 どう考えても弱点な胸の黒い球! あれを壊せば勝てる!

「じゃあな闇バカラ! 弱点晒してんのが悪いんだよォ!!!!」

「マズイ――――!」

 俺の刃が闇バカラの胸の球に触れようとした瞬間、刀が砕けた。

「なっ――ッ!」

 それを見た闇バカラは勝利の怒号をあげる。

「ハハハハハハハァ! やはリ闇を斬ってそンな鉄切レが無事ナハズ無いのダ! ではなマツル。余裕を晒すのが悪いのダ」

【闇魔法 煉獄の闇極球(クリムゾン・ダークネス)

「マツル――――」

 極大の闇の球が俺に触れた瞬間、誰も目を開けて居られない程の閃光が周囲を包んだ。
「ハハッ......ハハハハハァ!!!! ワタシの!! ワタシの勝ちだァァァァ!!!!」

 闇バカラは己の勝ちを確信し勝利の雄叫びをあげた。

「マツルが......負けた......?」

 ホノラが声にすらならない程微かに呟く。

「ホノラとか言ったカ!? ワタシを散々殴りやがっテ!! その絶望ノ......恐怖に絶望したその震えタ瞳が見たかっタ!!!! まァ安心しロ......貴様も直二死ぬ。呼吸ガ出来なくなリ、涎・糞尿を無様にモ垂れ流しナガらな......地獄ではずっと一緒二いれルと良いなァ!!!!」

 でも残念。

「――――誰と誰が地獄行きだって? お前の話じゃねぇの?」

 俺はまだ生きてるんだよなぁ......

「ナゼ!? ナゼナゼナゼナゼナゼェ!?!?!?」

「マツル!! 俺の剣を使え!! 俺の剣は闇を斬り払える!!」

 クーガから匣になった大剣が投げて俺に渡される。

「クーガお前そんな便利な大剣だったなら最初から教えろよ!! あと俺大剣使えねーぞ!?」

「お前が喧嘩(タイマン)だっつったから手ぇ出せなかったんだろうが!! あと安心しろ! (ソレ)は使用者の思い描く剣に形を変える!! 握りしめて念じてみろ!!」

 取り敢えず刀の形状を手に持って考えてみる。
 すると本当に匣は刀へと形を変えた。

「――こりゃすげーわ......」

「認めン!! ワタシは認めなイ!! (たまたま)外れただけ......運が良かっただけ......もう一度撃テば確実二殺せる!! 【闇魔法 煉獄の闇極球(クリムゾン・ダークネス)】ッッッ!!!!」

「外れてなんかねーよ......正直死んだかと思った」

 身体が熱い......沸騰してるみたいで......左目が完全に見えないけど、それも精神を研ぎ澄ます良い材料になってる気がする。

 時間が俺を捉えられてないみたいに周囲がゆっくりと進む......蹴った地面がもうあんな遠くに、殺すべき敵がもうあんな近くに――――

 今なら......親父に教えて貰った剣術、完全に使いこなせる気がするよ......だからこの技を使う!

西宵(さいしょう)流“居合”四王裂き(しおうざき)

「――――? ァ......」

 俺の刃は極大の闇の魔法ごと闇バカラの身体を真っ二つに両断し、同時に胸の球も割れた。

「あーやっと出れた!! 新鮮な空気が生きてるって感じよね!」

 ホノラを捕らえていた闇魔法も解けたようで、これで安心だな!

「ナゼ......何故闇の上位魔法をくらって生きていたのだ......」

 真っ二つになったバカラの右半分は、正気に戻ったような顔で話し始めた。右半分でまだ喋れんの生命力凄いな。

「まぁ色々あってな......左目が完璧に見えなくなったけど、それで済んだんだわ」

「はは......私の渾身の闇魔法で持って行けたのが左目だけとは......私は鍛錬が足りなかったようだな......」

 バカラの身体が崩れ始めた。
 ナマコ神様に聞いた話だが、魔人というのは、死体が残る事は無く、世界を漂う魔の気に分解されてしまうのだそう。

 あれ......じゃあなんで喋らない左半身の方は崩れ始めてないんだ?

『急激な魔力の高まりだ!! 離れて!!』

 俺が疑問を抱くのとほぼ同時、バカラの左半身が膨張するのが見えた。

「おいバカラ右!! 崩れ始めの所申し訳ないがあれはなんだ!?」

「あぁ......私が負けた時の保険の自爆という訳か!! 魔王ニシュラブ......死んだ私をも使うつもりだったのか!!!!」

「事情はよく分からんが自爆なんだな!! 止める方法は!?」

「......無い」

「ない!? じゃあ被害を最小限に抑える方法とか......」

「恐らく何もしない状態で私の魔力が全て破壊エネルギーに変換されて爆発したらこの大陸が半分程消し飛ぶ......どんなに最小限に抑えてもこの国一帯は消滅するだろう......」

 終わりじゃねぇかそうなったら!! 

「マツルなんか膨れてるわよ!? どうするの!?」

 後ろから名前を呼ばれたので振り向いてみると、そこにはパンパンに膨れ上がったバカラ左を持ち上げるホノラがいた。

「何怪しい物に触ってんだホノラァ!!!! 爆発するかもしれないんだぞ!?」

「えー爆発!? どうしよう......」

「落ち着いて......そーっと地面に下ろした後こっちにゆっくり急いで走ってこい! な!?」

「――――ホノラ君!! 下ろさないで! 思いっきり上にぶん投げて!!」

「ギルドマスター!? 信じるわよ......えーぇぇい!!」

 バカラ左はホノラの剛腕で垂直にぶん投げられた。

 まさか空中で爆発させて被害を抑えるつもりなのか!?

「ありがとうホノラ君......ユニークスキル【共有】発動!!」

 爆発する瞬間、バカラ左は塵になって消えてしまった。そうか! ロージーが爆発しない世界を共有したのか!

「ロージーぃぃぃぃ!!!!」

「危なかった......ノヴァーリスの魔力障壁復旧させて戻って来たらなんか光ってるし......」

「はは......まさか被害が全く0とは。本当に凄いなぁ......そしてすまなかった......」

 俺が持ってきていたバカラ右も、ついに頭だけになってしまっていた。

「私は、自分が魔王ニシュラブを超えるという野望と復讐の為だけに君達に迷惑をかけてしまった......本当に申し訳ないと思っているよ」

「バカラ......」

「――――だからマツル......君に私の野望を託したい......魔王ニシュラブを殺して欲しい......フーゴ...ナベラ...やっとみんなの所へ行け......」

その言葉を最後に、バカラは完全に消滅してしまった。

 詳しい理由は俺には分からない。フーゴもナベラも俺からしたら他人だ。てか誰だよ。

 でもコイツは涙を流しながら俺に願いを託し死んでいった。それだけで理由は十分だ。

 魔王ニシュラブ......そいつを殺す。
「マツルーーーー!! おつかれ!!」

「兄ちゃんが......魔王の幹部に本当に勝っちまった......」

「ウチの聖騎士になって欲しい位だぞ!」

「メツセイ、クーガ、俺の我儘に付き合わせてすまなかっ―――グッ......!」

 見えなくなった左目が痛くなって来た......アドレナリンが落ち着いたからか目の奥を針でぐちゃぐちゃにされてるみたいな痛みが這い回っている!

「マツル目が!! さっきの魔法くらった時何があったの!?」

「あぁ......あの魔法が俺に触れる瞬間に食べて除去したんだ。左目が見えなくなったのは闇をその身に受けた代償って奴だな」

 実は少しだけ嘘が混ざっている。食べたのと左目の失明は本当だが、実際除去したのはナマコ神様である。

――――

『――死にたくなかったら食べなさい!』

「嫌だ!! 触っただけでめちゃくちゃ痛いんだろ!? そんなもん口に含んだら死ぬどころの話じゃ済まないだろ!?」

『安心したまえ! 口に入れた瞬間、私が神様パワーで99パーセントろ過してあげよう!!』

「その1パーセントのろ過出来てない部分が不安なんだよ!! どうなっちまうんだよ!」

『運が良かったら何も起こらない......運が悪かったら......まぁなんとかなるさ!!』

「チクショー!!!! 食えば良いんだろ食えば!!」

『あ、私の事絶対口外しないでね!!』

――――

 というやり取りがあの一瞬の中であったのだが......どうやら俺は運が悪かったらしい。いや、左目だけで済んでるという事は運が良かったのか?

「何はともあれお疲れ様! 目はなんとかなるわよ!」

 ホノラ、多分何とかはならないぞ? なんでそんなに笑顔なんだ?

「あの......裁判を再開したいのですが......」

 裁判官のおっさんが戦勝ムードの俺達を一気に現実に引き戻した。

「あの......救国の英雄として免罪とか......?」

「それとこれとは切り離して公平に判決を下します」

 コイツぅ! 裁判官の鑑!!

 こうして、ほぼ死刑確定の裁判が再開されるのだった。