.1 ダンジョン到着
王国南端にある古代遺跡。
七層にわたるダンジョンになっているその最下層に、伝説の魔獣グルモリアが封印されているという──。
「まずはそいつらを突破し、封印場所までたどり着く」
『赤い三連兵』のリーダー、ライアさんが説明した。
トッシュさん、エルテガさんともに、細長い直刀を装備している。
「それから封印を強制解除する」
「強制解除、ですか?」
たずねる俺。
「ああ、どのみち封印は数日中には破れてしまう。なら、こちらの攻撃態勢を整え、奴が出てくると同時に最大火力の攻撃を叩きこみ、一気に大ダメージを与える」
「後は総攻撃。完全に力押しだが、小細工を弄するよりも勝率はずっと高いと思う」
「……不意打ち程度で優位に立てるほど甘い相手ではありませんよ」
サンドラが言った。
「グルモリアに対しては、用心してもしすぎることはないでしょう」
「悪いが、俺たちには幾多のモンスターを討伐し、Sランクまで上がってきた実績がある」
「あんたは魔法使いといっても、冒険者ではないんだろう」
「ここは俺たちの立案した作戦に従ってもらいたい」
と、ライアさんたち。
「まったく……後で痛い目に遭っても知りませんよ」
サンドラは呆れた顔をした。
まあ、太古から生きている古の賢者、って言ってもなかなか信用してもらえないか。
俺だってティアたちがいなかったら、古の賢者の実在なんてとても信じられなかった。
「……サンドラはどう思ったんだ? 今の作戦」
ライアさんたちに角が立たないよう、小声でこっそりたずねる。
「正直、彼らが考えているようには上手くいかないでしょうね」
サンドラが答えた。
「ただ、現戦力でとれる作戦としては悪くはありません。もっと大きな戦力で当たるべきですが、現状では他に強者を連れてこられないのでしょう。それにグルモリアの復活は間近……ならば、力押しでも行くしかありません」
「なるほど……」
「それに彼らも冒険者として上位の者たちでしょうし、ある程度の戦力にはなってくれるでしょう」
ある程度どころか、冒険者としては最高ランクの人たちなんだけどな……。
古の賢者から見れば、それでも不足ということなのか。
それだけ──グルモリアは強敵だということか。
「前衛は俺たちが務める。アルスとサンドラ、それに使い魔たちは後衛を頼む」
ライアさんが言った。
戦士系が前衛、魔法使い系が後衛──オーソドックスな陣形だ。
俺はティア、キシャル、エアの三人とも連れてきている。
……エアは例によって『めんどくさい』と渋ったのだが、なんとか説得できた。
「じゃあ、行くか。全員で必ず無事に戻ってこよう!」
ライアさんの号令とともに、俺たちはダンジョンに入った。
.2 ダンジョン進行
俺たちは薄暗いダンジョン内を進んでいく。
ダンジョンは明らかに人工的なものだった。
石造りの壁でできていて、入り組んだ構造が迷宮を作り出している。
すでに安全なルートを調べてあるらしく、先を行くライアさんたちの足取りに迷いはなかった。
「きゃっ……」
ふいにティアがふらつき、俺にもたれかかった。
柔らかな体の感触にドキッとなる。
「ティア……?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとバランス崩しちゃって」
恥ずかしそうに謝るティア。
その顔色が少し青ざめていた。
「どうした? 気分でも悪いのか」
心配になってたずねる。
「このダンジョン、すごく濃い魔力が満ちていて……息が詰まっちゃう」
ティアが軽く顔をしかめた。
「私、ちょっと苦手ですの……」
「頭がくらくらする……うー……」
キシャルとエアも、ティア同様に気分が悪そうだ。
「大丈夫か、みんな」
「なんとか……ね。私たちは魔力の影響を受けやすいから、ここに満ちた魔力は正直、あんまり気分がよくない……」
と、ティア。
「たぶん、魔獣グルモリアが垂れ流す魔力だから、かな」
「グルモリアの魔力……か」
「では、わたくしが中和しましょう」
サンドラが言った。
「え、できるのか、そんなこと?」
「ダンジョン中の魔力に作用するのは無理ですが、ティアさんたちが苦しまない程度に魔力の簡易障壁を作って、ダンジョン内の魔力を弾くことなら可能です」
言って、サンドラは右手を軽く振った。
「【バリアシート】」
「っ!? あ、すごい。一気に気分が楽になった!」
ティアが叫んだ。
「私もですの」
「らくらく……感謝」
キシャルとエアも顔を輝かせる。
「ありがとう、サンドラ」
俺は彼女に礼を言った。
「ふふ、彼女たちは大事な戦力ですし、それに何よりも……あなたにとって大切な仲間なのでしょう?」
サンドラが微笑む。
「『魔導公女』と同じですね。あなたも、自分の魔導書たちをとても大切にしている……」
そう言って、懐かしげに目を細めた。
ヴヴヴヴヴヴ……!
ふいに、羽虫のような音が鳴った。
「これは……!?」
「空間震動……? 何者かが空間を超えて、ここに現れようとしています」
サンドラが言った。
声音ににじむ警告の色。
「みなさん、備えてください──来ます!」
前方の空間が歪み、巨大なシルエットが出現する。
牛の頭に人の体──ミノタウロスだ。
その全身が紫色の甲冑に覆われていた。
「濃度の高い魔力を注入され、改造された特別製ですね」
サンドラが告げる。
「おそらくは──魔獣グルモリアの配下です。ただのミノタウロスとは戦闘能力の桁が違いますよ。お気を付けを」
.3 ミノタウロス・カスタム
ミノタウロス。
Sランクのモンスターであり、不死身とも称される耐久力と圧倒的な近接戦闘能力を備えた強敵である。
Aランク以下のパーティでは歯が立たないだろう。
とはいえ、こっちにはSランクパーティのライアさんたちがいるし、俺もいる。
通常のミノタウロスであれば、連携してあたれば十分に倒せる敵だ。
「問題は、あいつが通常のミノタウロスとどれくらい違うのか──だな」
「魔導改造を施されて強化されたミノタウロス──ミノタウロス・カスタムといったところですね」
解説するサンドラ。
「おそらく封印が緩んだことで、魔獣の配下が外に漏れ出てきたのでしょう」
「グルモリアの配下、か」
「わたくしはグルモリア戦までできるだけ魔力を温存したいと思います。ここはあなたたちでお願いします」
いきなり丸投げされた!
いや、まあサンドラを温存するのは戦略的に正しいんだろうけど……。
「問題ない。俺たちが処理する」
「たとえ改造されていようと、ミノタウロスなど『赤い三連兵』の敵じゃない」
「あんたたちは見ていてくれ」
ライアさんたちが前に出た。
Sランクパーティならではの強者のオーラがにじみ出ている。
頼もしい。
「トッシュ、エルテガ、あれを仕掛けるぞ!」
「了解だ!」
「派手にいこうぜ!」
三人は直刀を手に、飛び出した。
「【サンダーボム】!」
まずエルテガさんが雷撃魔法を放つ。
ぐおうっ!
吠えて、それを右手で叩き落とすミノタウロス。
「【唐竹割り】!」
その隙に接近したトッシュさんが剣術スキルを叩きこむ。
これも手にした斧で防ぐミノタウロス。
「終わりだ──【ルーンスラッシュ】!」
剣に魔力をまとわせたライアさんがジャンプ一番、強烈な一撃を食らわせた。
魔力攻撃と斬撃の合わせ技──いわゆる魔法剣である。
ミノタウロスは首を刎ね飛ばされ、鮮血を吹き出しながら倒れた。
いくら不死身の異名を持つミノタウロスとはいえ、首を刎ねられれば、さすがに生きていることはできない。
『赤い三連兵』の圧勝だった。
「見たか、これが俺たちの三位一体攻撃──『レッドストリームアタック』だ」
三人が勝ち誇った。
中距離からの魔法、近距離からの斬撃、そして止めの魔法剣という三連攻撃。
さすがはSランクパーティだけあって、見事な連携だった。
ぐおおおおおううっ!
「えっ……?」
首を失ったミノタウロスが平然と起き上がる。
「【ハイエンド・リペア】」
首の断面から新たな顔が出現した。
「超高速再生魔法──だと!?」
ライアさんがうめく。
ぐおおんっ!
「ぐあっ……」
一閃した斧がライアさんたちを吹き飛ばす。
なんか、さっきより元気になってないか……?
ぎろり、とミノタウロスが俺たちをにらんだ。
「ちっ、もう一回『レッドストリームアタック』を仕掛けるぞ!」
ライアさんたちはふたたび三連攻撃を放つ。
が、ミノタウロスは斧をめちゃくちゃに振り回し、ライアさんたちを近づけさせない。
「なんだ、こいつ──さっきとはパワーが違う!?」
まさか、と思った。
「一度『死んだ』ことで、あいつは強化されて復活した……?」
「そのようですね」
サンドラが言った。
「殺されるたびに強化されて復活する──なかなか厄介な改造を施されているようです。もはやライアさんたちでは勝てないでしょう」
「なら、俺が出る」
進み出る俺。
「選手交代です、ライアさん、トッシュさん、エルテガさん」
ちょうどいい機会だ。
この一か月でパワーアップした俺の力を見せてやる──。
.4 今の実力
「いくぞ、ティア、キシャル。エアは戦闘終了後に一仕事頼む」
「りょーかい」
「ですの」
「ん……」
俺の言葉にうなずく三人。
「【魔力無限成長】【自動魔法結界】起動」
俺はティアとキシャルが変じた魔導書を両手でつかみ、告げる。
ミノタウロスが斧を手に突進してきた。
「【スロウ】」
まずは対象の動きを鈍らせる呪文。
ぐおおんっ……!?
戸惑ったような声とともに、ミノタウロスの動きが遅くなる。
魔法使いにとって、呪文を発動するまでのタイムラグは泣き所だ。
その間に近接戦闘タイプに距離を詰められると、こっちが魔法を発動する前に肉弾攻撃を食らってしまう。
この魔法はそんな魔法使いの弱点をカバーするのにうってつけだった。
相手が距離を詰めてくる時間を大幅に遅らせることができる。
そうやって稼いだ時間で、俺は次の呪文を唱えた。
「魔族固有魔法──【影の雷】!」
この一か月で討伐した二体目の中級魔族から会得した魔法である。
名前の通り、【影の炎】の雷撃バージョン。
そして威力も同等を誇る。
俺が放った雷はミノタウロスを黒焦げにした。
倒れるモンスター。
「【ハイエンド・リペア】」
が、その肉体が、ぴく、ぴく、と痙攣し、黒焦げになった肌がみるみる再生していく。
さっきの戦いでも見せた超高速回復魔法か。
「さすがに回復能力が高いな」
普通に戦ったら、とても勝てない。
ほとんど反則級の回復速度だった。
「じゃあ、お前の回復が追いつかない速度で叩きこむか」
俺は両手を前に突き出す。
ミノタウロスはまだ回復途中のうえ、【スロウ】の効果で動きが鈍い。
今なら大技を当て放題だ。
「魔族固有魔法【影の炎】!」
右手から飛び出す魔力の火炎。
さらに、
「【ルーンジャミング】!」
もう一つの呪文を唱える。
複数魔法同時並行発動。
サンドラとの戦いで会得した、俺の能力。
通常なら一つずつしか唱えられない魔法を、俺は二つまで同時に操ることができる。
さらに習熟すれば、三つ、四つと増やせるらしいが……今はまだ、その域には至っていない。
ともあれ、俺が二つ目に唱えたのは、相手の魔法効果を妨害する呪文だ。
これによってミノタウロスの超高速回復を妨害し、【影の炎】で肉体を塵一つ残さず、消滅させてやる──。
ごうんっ!
一瞬の後、爆炎とともにミノタウロスの肉体は消し飛んだ。
相手にまったく攻撃させず、完勝である。
.5 最下層を目指して
「改造ミノタウロスをこんなにあっさり倒すだと……!」
「あんた、一体──」
「いやいや、噂よりもさらにとんでもない強さだな」
ライアさんたちは目を丸くして驚いていた。
「二つの呪文の同時発動──完全に会得したようですね」
サンドラが微笑む。
「強力な呪文も増えているし、魔力自体も随分と底上げされている……すでにこの時代の魔法使いの中では上位の実力といえるでしょう」
え、そこまで強くなってるのか、俺は?
「ふふ、『魔導公女』の魔導書を三冊も保持しているのですもの。まだまだ強くなれますよ、アルスさんは」
サンドラの笑みが深くなった。
「後世に名を残す大魔法使いにだってなれるでしょう」
「なんか実感がわかないな」
俺は思わず苦笑した。
もちろんティアたちが魔導書として貸してくれる力はすごいけど──。
俺自身はまだまだ二流の魔法使いだったころの認識が残っている。
「まあ、強くなれば、それだけ『大賢者の洞窟』の攻略や、他の魔導書の入手にも近づくんだ。がんばって力を磨くよ」
「欲のないことですね」
「アルスはそうでなくちゃ」
魔導書から使い魔モードに戻ったティアが微笑んだ。
「ですの。アルスさんが突然『俺は英雄になる』とか言い出したら、そっちの方が驚きですの」
同じく使い魔モードに戻ったキシャルが言った。
「ん」
短くうなずくエア。
「頼もしいな。あらためて、よろしく頼むぞ、アルス・ヴァイセ」
ライアさんが俺に言った。
「俺たちも全力を尽くす。全員の力で魔獣を打ち破ろう」
「ですね」
俺たちはふたたび進み始めた。
その後の道中でも、何度かミノタウロス・カスタムに遭遇した。
いずれもグルモリアの配下だ。
「【スロウ】! 【闇の雷】! 【ルーンジャミング】!」
俺の方はすでに要領が分かっているから、まず動きを鈍らせ、それから攻撃魔法と妨害魔法の同時発動であっさりと片付ける。
特に苦戦することもなく、ほとんどフリーパス状態で進んでいく。
「す、すごいな……」
「改造ミノタウロスがただの雑魚モンスターのようだ」
「これほどの魔法使いが、今までBランクにとどまっていたとは……」
ライアさんたちは驚くことしきりといった様子だった。
──そして。
俺たちはダンジョン最下層にたどり着く。
この先に待つのは、伝説の魔獣グルモリア──。
【投稿いったんここまで!】
*****
【グラスト大賞用説明・今後のストーリーについて】
この後、主人公は残りの魔導書を巡って、さまざまな敵と戦いを繰り広げていきます。その中で新たな魔導書及びその魔導書が擬人化した美少女たちと出会います。
それぞれの美少女と絆を深めつつ、最強の魔術師である古代の賢者たちとの決戦を経て、主人公は世界を救い、そしてまた新たな冒険へと旅立っていきます。
基本的にハーレム&無双をひたすら繰り返していく感じです。
王国南端にある古代遺跡。
七層にわたるダンジョンになっているその最下層に、伝説の魔獣グルモリアが封印されているという──。
「まずはそいつらを突破し、封印場所までたどり着く」
『赤い三連兵』のリーダー、ライアさんが説明した。
トッシュさん、エルテガさんともに、細長い直刀を装備している。
「それから封印を強制解除する」
「強制解除、ですか?」
たずねる俺。
「ああ、どのみち封印は数日中には破れてしまう。なら、こちらの攻撃態勢を整え、奴が出てくると同時に最大火力の攻撃を叩きこみ、一気に大ダメージを与える」
「後は総攻撃。完全に力押しだが、小細工を弄するよりも勝率はずっと高いと思う」
「……不意打ち程度で優位に立てるほど甘い相手ではありませんよ」
サンドラが言った。
「グルモリアに対しては、用心してもしすぎることはないでしょう」
「悪いが、俺たちには幾多のモンスターを討伐し、Sランクまで上がってきた実績がある」
「あんたは魔法使いといっても、冒険者ではないんだろう」
「ここは俺たちの立案した作戦に従ってもらいたい」
と、ライアさんたち。
「まったく……後で痛い目に遭っても知りませんよ」
サンドラは呆れた顔をした。
まあ、太古から生きている古の賢者、って言ってもなかなか信用してもらえないか。
俺だってティアたちがいなかったら、古の賢者の実在なんてとても信じられなかった。
「……サンドラはどう思ったんだ? 今の作戦」
ライアさんたちに角が立たないよう、小声でこっそりたずねる。
「正直、彼らが考えているようには上手くいかないでしょうね」
サンドラが答えた。
「ただ、現戦力でとれる作戦としては悪くはありません。もっと大きな戦力で当たるべきですが、現状では他に強者を連れてこられないのでしょう。それにグルモリアの復活は間近……ならば、力押しでも行くしかありません」
「なるほど……」
「それに彼らも冒険者として上位の者たちでしょうし、ある程度の戦力にはなってくれるでしょう」
ある程度どころか、冒険者としては最高ランクの人たちなんだけどな……。
古の賢者から見れば、それでも不足ということなのか。
それだけ──グルモリアは強敵だということか。
「前衛は俺たちが務める。アルスとサンドラ、それに使い魔たちは後衛を頼む」
ライアさんが言った。
戦士系が前衛、魔法使い系が後衛──オーソドックスな陣形だ。
俺はティア、キシャル、エアの三人とも連れてきている。
……エアは例によって『めんどくさい』と渋ったのだが、なんとか説得できた。
「じゃあ、行くか。全員で必ず無事に戻ってこよう!」
ライアさんの号令とともに、俺たちはダンジョンに入った。
.2 ダンジョン進行
俺たちは薄暗いダンジョン内を進んでいく。
ダンジョンは明らかに人工的なものだった。
石造りの壁でできていて、入り組んだ構造が迷宮を作り出している。
すでに安全なルートを調べてあるらしく、先を行くライアさんたちの足取りに迷いはなかった。
「きゃっ……」
ふいにティアがふらつき、俺にもたれかかった。
柔らかな体の感触にドキッとなる。
「ティア……?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとバランス崩しちゃって」
恥ずかしそうに謝るティア。
その顔色が少し青ざめていた。
「どうした? 気分でも悪いのか」
心配になってたずねる。
「このダンジョン、すごく濃い魔力が満ちていて……息が詰まっちゃう」
ティアが軽く顔をしかめた。
「私、ちょっと苦手ですの……」
「頭がくらくらする……うー……」
キシャルとエアも、ティア同様に気分が悪そうだ。
「大丈夫か、みんな」
「なんとか……ね。私たちは魔力の影響を受けやすいから、ここに満ちた魔力は正直、あんまり気分がよくない……」
と、ティア。
「たぶん、魔獣グルモリアが垂れ流す魔力だから、かな」
「グルモリアの魔力……か」
「では、わたくしが中和しましょう」
サンドラが言った。
「え、できるのか、そんなこと?」
「ダンジョン中の魔力に作用するのは無理ですが、ティアさんたちが苦しまない程度に魔力の簡易障壁を作って、ダンジョン内の魔力を弾くことなら可能です」
言って、サンドラは右手を軽く振った。
「【バリアシート】」
「っ!? あ、すごい。一気に気分が楽になった!」
ティアが叫んだ。
「私もですの」
「らくらく……感謝」
キシャルとエアも顔を輝かせる。
「ありがとう、サンドラ」
俺は彼女に礼を言った。
「ふふ、彼女たちは大事な戦力ですし、それに何よりも……あなたにとって大切な仲間なのでしょう?」
サンドラが微笑む。
「『魔導公女』と同じですね。あなたも、自分の魔導書たちをとても大切にしている……」
そう言って、懐かしげに目を細めた。
ヴヴヴヴヴヴ……!
ふいに、羽虫のような音が鳴った。
「これは……!?」
「空間震動……? 何者かが空間を超えて、ここに現れようとしています」
サンドラが言った。
声音ににじむ警告の色。
「みなさん、備えてください──来ます!」
前方の空間が歪み、巨大なシルエットが出現する。
牛の頭に人の体──ミノタウロスだ。
その全身が紫色の甲冑に覆われていた。
「濃度の高い魔力を注入され、改造された特別製ですね」
サンドラが告げる。
「おそらくは──魔獣グルモリアの配下です。ただのミノタウロスとは戦闘能力の桁が違いますよ。お気を付けを」
.3 ミノタウロス・カスタム
ミノタウロス。
Sランクのモンスターであり、不死身とも称される耐久力と圧倒的な近接戦闘能力を備えた強敵である。
Aランク以下のパーティでは歯が立たないだろう。
とはいえ、こっちにはSランクパーティのライアさんたちがいるし、俺もいる。
通常のミノタウロスであれば、連携してあたれば十分に倒せる敵だ。
「問題は、あいつが通常のミノタウロスとどれくらい違うのか──だな」
「魔導改造を施されて強化されたミノタウロス──ミノタウロス・カスタムといったところですね」
解説するサンドラ。
「おそらく封印が緩んだことで、魔獣の配下が外に漏れ出てきたのでしょう」
「グルモリアの配下、か」
「わたくしはグルモリア戦までできるだけ魔力を温存したいと思います。ここはあなたたちでお願いします」
いきなり丸投げされた!
いや、まあサンドラを温存するのは戦略的に正しいんだろうけど……。
「問題ない。俺たちが処理する」
「たとえ改造されていようと、ミノタウロスなど『赤い三連兵』の敵じゃない」
「あんたたちは見ていてくれ」
ライアさんたちが前に出た。
Sランクパーティならではの強者のオーラがにじみ出ている。
頼もしい。
「トッシュ、エルテガ、あれを仕掛けるぞ!」
「了解だ!」
「派手にいこうぜ!」
三人は直刀を手に、飛び出した。
「【サンダーボム】!」
まずエルテガさんが雷撃魔法を放つ。
ぐおうっ!
吠えて、それを右手で叩き落とすミノタウロス。
「【唐竹割り】!」
その隙に接近したトッシュさんが剣術スキルを叩きこむ。
これも手にした斧で防ぐミノタウロス。
「終わりだ──【ルーンスラッシュ】!」
剣に魔力をまとわせたライアさんがジャンプ一番、強烈な一撃を食らわせた。
魔力攻撃と斬撃の合わせ技──いわゆる魔法剣である。
ミノタウロスは首を刎ね飛ばされ、鮮血を吹き出しながら倒れた。
いくら不死身の異名を持つミノタウロスとはいえ、首を刎ねられれば、さすがに生きていることはできない。
『赤い三連兵』の圧勝だった。
「見たか、これが俺たちの三位一体攻撃──『レッドストリームアタック』だ」
三人が勝ち誇った。
中距離からの魔法、近距離からの斬撃、そして止めの魔法剣という三連攻撃。
さすがはSランクパーティだけあって、見事な連携だった。
ぐおおおおおううっ!
「えっ……?」
首を失ったミノタウロスが平然と起き上がる。
「【ハイエンド・リペア】」
首の断面から新たな顔が出現した。
「超高速再生魔法──だと!?」
ライアさんがうめく。
ぐおおんっ!
「ぐあっ……」
一閃した斧がライアさんたちを吹き飛ばす。
なんか、さっきより元気になってないか……?
ぎろり、とミノタウロスが俺たちをにらんだ。
「ちっ、もう一回『レッドストリームアタック』を仕掛けるぞ!」
ライアさんたちはふたたび三連攻撃を放つ。
が、ミノタウロスは斧をめちゃくちゃに振り回し、ライアさんたちを近づけさせない。
「なんだ、こいつ──さっきとはパワーが違う!?」
まさか、と思った。
「一度『死んだ』ことで、あいつは強化されて復活した……?」
「そのようですね」
サンドラが言った。
「殺されるたびに強化されて復活する──なかなか厄介な改造を施されているようです。もはやライアさんたちでは勝てないでしょう」
「なら、俺が出る」
進み出る俺。
「選手交代です、ライアさん、トッシュさん、エルテガさん」
ちょうどいい機会だ。
この一か月でパワーアップした俺の力を見せてやる──。
.4 今の実力
「いくぞ、ティア、キシャル。エアは戦闘終了後に一仕事頼む」
「りょーかい」
「ですの」
「ん……」
俺の言葉にうなずく三人。
「【魔力無限成長】【自動魔法結界】起動」
俺はティアとキシャルが変じた魔導書を両手でつかみ、告げる。
ミノタウロスが斧を手に突進してきた。
「【スロウ】」
まずは対象の動きを鈍らせる呪文。
ぐおおんっ……!?
戸惑ったような声とともに、ミノタウロスの動きが遅くなる。
魔法使いにとって、呪文を発動するまでのタイムラグは泣き所だ。
その間に近接戦闘タイプに距離を詰められると、こっちが魔法を発動する前に肉弾攻撃を食らってしまう。
この魔法はそんな魔法使いの弱点をカバーするのにうってつけだった。
相手が距離を詰めてくる時間を大幅に遅らせることができる。
そうやって稼いだ時間で、俺は次の呪文を唱えた。
「魔族固有魔法──【影の雷】!」
この一か月で討伐した二体目の中級魔族から会得した魔法である。
名前の通り、【影の炎】の雷撃バージョン。
そして威力も同等を誇る。
俺が放った雷はミノタウロスを黒焦げにした。
倒れるモンスター。
「【ハイエンド・リペア】」
が、その肉体が、ぴく、ぴく、と痙攣し、黒焦げになった肌がみるみる再生していく。
さっきの戦いでも見せた超高速回復魔法か。
「さすがに回復能力が高いな」
普通に戦ったら、とても勝てない。
ほとんど反則級の回復速度だった。
「じゃあ、お前の回復が追いつかない速度で叩きこむか」
俺は両手を前に突き出す。
ミノタウロスはまだ回復途中のうえ、【スロウ】の効果で動きが鈍い。
今なら大技を当て放題だ。
「魔族固有魔法【影の炎】!」
右手から飛び出す魔力の火炎。
さらに、
「【ルーンジャミング】!」
もう一つの呪文を唱える。
複数魔法同時並行発動。
サンドラとの戦いで会得した、俺の能力。
通常なら一つずつしか唱えられない魔法を、俺は二つまで同時に操ることができる。
さらに習熟すれば、三つ、四つと増やせるらしいが……今はまだ、その域には至っていない。
ともあれ、俺が二つ目に唱えたのは、相手の魔法効果を妨害する呪文だ。
これによってミノタウロスの超高速回復を妨害し、【影の炎】で肉体を塵一つ残さず、消滅させてやる──。
ごうんっ!
一瞬の後、爆炎とともにミノタウロスの肉体は消し飛んだ。
相手にまったく攻撃させず、完勝である。
.5 最下層を目指して
「改造ミノタウロスをこんなにあっさり倒すだと……!」
「あんた、一体──」
「いやいや、噂よりもさらにとんでもない強さだな」
ライアさんたちは目を丸くして驚いていた。
「二つの呪文の同時発動──完全に会得したようですね」
サンドラが微笑む。
「強力な呪文も増えているし、魔力自体も随分と底上げされている……すでにこの時代の魔法使いの中では上位の実力といえるでしょう」
え、そこまで強くなってるのか、俺は?
「ふふ、『魔導公女』の魔導書を三冊も保持しているのですもの。まだまだ強くなれますよ、アルスさんは」
サンドラの笑みが深くなった。
「後世に名を残す大魔法使いにだってなれるでしょう」
「なんか実感がわかないな」
俺は思わず苦笑した。
もちろんティアたちが魔導書として貸してくれる力はすごいけど──。
俺自身はまだまだ二流の魔法使いだったころの認識が残っている。
「まあ、強くなれば、それだけ『大賢者の洞窟』の攻略や、他の魔導書の入手にも近づくんだ。がんばって力を磨くよ」
「欲のないことですね」
「アルスはそうでなくちゃ」
魔導書から使い魔モードに戻ったティアが微笑んだ。
「ですの。アルスさんが突然『俺は英雄になる』とか言い出したら、そっちの方が驚きですの」
同じく使い魔モードに戻ったキシャルが言った。
「ん」
短くうなずくエア。
「頼もしいな。あらためて、よろしく頼むぞ、アルス・ヴァイセ」
ライアさんが俺に言った。
「俺たちも全力を尽くす。全員の力で魔獣を打ち破ろう」
「ですね」
俺たちはふたたび進み始めた。
その後の道中でも、何度かミノタウロス・カスタムに遭遇した。
いずれもグルモリアの配下だ。
「【スロウ】! 【闇の雷】! 【ルーンジャミング】!」
俺の方はすでに要領が分かっているから、まず動きを鈍らせ、それから攻撃魔法と妨害魔法の同時発動であっさりと片付ける。
特に苦戦することもなく、ほとんどフリーパス状態で進んでいく。
「す、すごいな……」
「改造ミノタウロスがただの雑魚モンスターのようだ」
「これほどの魔法使いが、今までBランクにとどまっていたとは……」
ライアさんたちは驚くことしきりといった様子だった。
──そして。
俺たちはダンジョン最下層にたどり着く。
この先に待つのは、伝説の魔獣グルモリア──。
【投稿いったんここまで!】
*****
【グラスト大賞用説明・今後のストーリーについて】
この後、主人公は残りの魔導書を巡って、さまざまな敵と戦いを繰り広げていきます。その中で新たな魔導書及びその魔導書が擬人化した美少女たちと出会います。
それぞれの美少女と絆を深めつつ、最強の魔術師である古代の賢者たちとの決戦を経て、主人公は世界を救い、そしてまた新たな冒険へと旅立っていきます。
基本的にハーレム&無双をひたすら繰り返していく感じです。