1 Sランクパーティ



「おい、アルス! 俺たちの装備と荷物のチェックをやっとけって言っただろうが! いつになったらやるんだよ!」
「ご、ごめん。今やるよ」

 ブレッドに怒鳴られ、俺は慌てて立ち上がった。

 さっきは『チェックは後でいい』って言ってたじゃないか……。

 不満に思いつつも、口には出せなかった。
 理不尽に怒られるのは、いつものことだ。

 明日はクエスト決行の予定である。
 その緊張感が宿の部屋中に漂っていた。

 次期勇者候補とまで言われる、聖騎士ラスター。
 その恋人で一流の女盗賊であるメアリ。
 オーガをも凌ぐ腕力を持つと言われる、重戦士ブレッド。
 天才魔法使い少女のシンシア。

 そして俺──補助魔法を得意とする魔法使いのアルス。

 以上が、ラスターの率いるSランクパーティ『祝福の翼』である。

 ただし、Sランクといっても今は降格の危機にあった。

 ここらで大きな実績を上げないと、次回のギルド査定でAランクへの降格の可能性があった。
 というか、おそらく降格する。

 つまり今回のクエストの成否が、Sランクに残留できるかどうかを決めるのだ。

「ぼーっとしてんじゃねーよ!」

 そんなことを考えて、つい立ち止まってしまった俺を、ブレッドが殴った。

「ぐっ……」

 頬に熱い衝撃が走り、俺は部屋の端まで吹っ飛ばされる。
 魔法使いの俺と戦士のブレッドじゃ、体力や筋力が違いすぎる。

「悪かった……今からやるから……」

 消え入りそうな声で謝罪することしかできなかった。

 悔しい。
 だけど、仕方がない。

 何せ他のメンバーは冒険者としての個人ランクがSやA。
 俺だけがBである。

 俺だけが、二流なんだ。

 なぜ、俺が彼らのパーティに入れてもらえるのかといえば、リーダーのラスターが駆け出しだったころ、俺と一緒のパーティにいたからだ。
 当時は俺の方がランクが上だったけど,半年もしないうちに追い抜かれてしまった。

 そして今では、ラスターはSランク。
 俺の方は当時と同じBランクのまま。

 ただ、そのときの縁で彼は俺をこのパーティに置いてくれていた。
 だから、ラスターにはすごく感謝している。
 俺より五つも年下だけど尊敬しているし、憧れている。

 そんなラスターのパーティで、俺も貢献したい。

 といっても、戦闘能力ではあまり役に立てない。
 ただし、探知や索敵など、補助的な魔法はそれなりに得意だ。
 そっち方面でパーティに貢献してきたつもりだった。

 さらに、裏方としての仕事も率先してやった。
 雑用やギルドとの折衝や事務仕事全般などを──。

 だけど、やっぱり他のメンバーからは不満が大きいようだ。

「痛そう……大丈夫だった?」

 と、一人の女の子が俺に歩み寄る。

 金色の髪を長く伸ばした、可憐な美少女だ。
 頭頂部近くでぴょこんと動く猫耳がまた可愛らしい。

 名前はティア。
 シンシアの使い魔である。

「ありがとう。ティアはいつも優しいな」

 実際、パーティの誰よりもティアが一番俺に対して優しい。
 彼女と話していると心が癒される。

「ブレッドがひどすぎるのよ。アルスがかわいそう……」
「しょうがないよ。俺はあいつらの不満のはけ口だ……みんな、Sランク降格の瀬戸際でストレスがたまってるからな……」
「だからって、アルスに八つ当たりしていいってことにはならないわよ」
「しょうがないんだ……俺はこういう役回りだから……」

 二十六年間の人生で、いつも。

 俺は自嘲気味に笑った。



 そして、翌日。
 俺たちはクエストを決行することになった。

「今回は強敵だ。しかも失敗すれば降格ラインに引っかかってくる。絶対に成功させるぞ」

 ラスターがみんなに向かって言った。

「そうね」
「ああ、どんな手を使ってもな」

 うなずくメアリとブレッド。

「たとえば……役に立たない者を囮にするとか」

 シンシアが冗談めかして笑いつつ、俺をチラッと見た。

 ……いや、その冗談はあんまり笑えないんだけど。
 さすがに憮然とする。

 シンシアの目は笑っていなかった。

 異様に冷たい目で、俺を見つめていた──。
.2 最下層の戦い


 俺たちはダンジョンを進んでいた。

 このダンジョンは全部で七階層。
 最下層にいるという『ゴールデンリビングメイル』を討伐することがクエスト内容だ。

『ゴールデンリビングメイル』はBランクのモンスター。
 ただ、ダンジョン内では、アンデッド系のモンスターが強化される魔力補正を受けるらしく、実質B+ランクに近い強さのようだ。

 Sランクパーティといえども、ここは敵のホームグラウンド。
 どれくらいの数がいるのかも分からない。
 決して油断できる状況じゃなかった。

「遅れているわよ、アルス! さっさと来てよ!」
「ったく、ノロマが!」
「言っては悪いのですが、足手まといです……」

 メンバーの罵声が容赦なく浴びせられる。
 普段はここまで言われないんだが、やはりみんなピリピリしているんだな。

 ちなみに俺が遅れているのは、索敵や罠の探知、マッピングなど細かな仕事をすべて押し付けられているからだ。

 並のダンジョンならともかく、このクラスの難関ダンジョンともなれば、あらゆる場所に注意を向けなければならない。
 当然、神経のすり減り具合も半端じゃない。

 今のところ、ほとんど戦闘らしい戦闘もなく、ただ歩いているだけのラスターたちについていくのはなかなか大変だった。

「遅いって言ってんだろうが!」
「ぐっ……」

 ブレッドに殴られた。
 吹っ飛ばされる俺だが、他のメンバーは冷ややかだ。

「何も殴ることはないじゃない!」

 ティアがたまりかねたように叫んだ。

 使い魔は、魔法使いの召喚によってこの世界に出現する。
 いつもなら強敵との戦闘など限られた局面でのみ、異界から召喚されるティアだが、今回はシンシアが最初から召喚し、俺たちについてきていた。

 身に着けているペンダントとイヤリングが明りに反射して淡くきらめいていた。
 綺麗だ、と場違いな感嘆を覚えてしまう。

「ティア、そんな奴は放っておけばいいでしょう」

 シンシアが冷たく言い放った。

「今のは、足手まといに鉄拳制裁を食らわせただけです。ブレッドは悪くありません」
「そういうことだ。気合いが足りねーんだよ、アルスは」
「今回は特に厳しいクエストだ。しっかりしてもらわないと困るよ、アルス」

 リーダーのラスターまでが苦言を呈した。

「……悪い」

 俺は謝るしかない。

 理不尽でも、なんでも……俺の立場では反論なんてできなかった。



 下の階層に行くにつれ、モンスターの数は増えていく。

 ただ、ラスターたちは、それらをことごとく撃退。
 今のところは順調な進行だ。

 さすがはSランクパーティだった。

 俺も補助魔法や回復魔法などで、多少は貢献できただろうか……。

 やがて、最下層にたどり着いた。

「情報通り『ゴールデンリビングメイル』がいるな……」

 俺は前方にいるモンスター群を見据えた。

 金色に輝く騎士のような姿のモンスター。
 アンデッド系で防御力や再生力が非常に高い強敵である。

 しかも、それが五体。

「やるしかない……全員、散開!」

 ラスターが叫んだ。

 ──激しい戦いになった。

 前衛のラスターとブレッドが敵を引き付け、盾になる。
 後衛のシンシアが攻撃魔法を放つ。
 同じく後衛のメアリは気配を消して、敵の死角から攻撃。
 俺は、みんなの攻撃や防御の補助魔法をひたすら唱え続けた。

 最初は互角の戦いだったが、徐々に俺たちが押していく。

「あと一息!」

 ラスターが叫ぶ。

 そして、長い戦いの末にどうにか五体の『ゴールデンリビングメイル』を倒すことができた。

 こっちも少なからずダメージを受けている。
 特にラスターは立ち上がれないほどだ。

「今、回復する」

 俺は治癒呪文を唱えた。

「言われなくても、すぐにやれ!」

 ラスターに怒鳴られた。

 さすがにムッとしつつも、俺は言われたとおりに呪文を唱える。
 ラスターは全快とはいかないまでも、七割がた回復したようだ。

 対して、俺は魔力がほとんど底をついてしまった。
 まあ、敵は片づけたし、出口までの安全なルートも確保してあるから、なんとかなるだろう。



 ぐおおおおおおおおんっ。



 咆哮が、聞こえた。

「えっ……!?」

 前方から何かが近づいてくる。

「おいおい、まだ敵がいるのか……?」
「まさか──」

 嫌な予感がした。

 さっきまで戦っていた『ゴールデンリビングメイル』が最下層の番人なのかと思っていた。
 だが、本当の番人は──。

 やがて現れたのは、輝く装甲に覆われた巨人。

「『オリハルコンゴーレム』……!」

『ゴールデンリビングメイル』がBランクなら、こいつはAランク──。

 はるかに格上の、魔物だ。
.3 パーティ追放


「『オリハルコンゴーレム』がまだ控えていたのか……」

 俺は呆然となった。

 だけど、相手は一体。
 こっちも疲弊しているとはいえ、まだ多少の力は残っている。

 全員で連携すればきっと勝てるはずだ──。

「いくぞ! みんな、最後の力を振り絞れ!」

 ラスターが叫ぶ。

 メンバー全員が配置につき、『オリハルコンゴーレム』を迎撃した。
 ラスターの剣が、ブレッドの斧が、メアリのナイフが、シンシアの攻撃魔法が──。
 次々と『オリハルコンゴーレム』に叩きこまれる。

 だが、物理攻撃でも魔法攻撃でも傷一つ付けられない。

「さすがに防御が硬いか……!」

 俺はうめいた。

『オリハルコンゴーレム』は今から数万年前──古代魔法文明時代に生み出された最上級ゴーレムである。
 その構成物質は現在では製造不可能となった魔導金属『オリハルコン』。
 ほとんどの物理、魔法攻撃を寄せつけない無敵の金属だ。

 みんなが攻めあぐねていると、



 ぐおおおおおおおんっ!
 ぐおおおおおおおおっ!



 複数の咆哮が響いた。
 まさか──。

「『オリハルコンゴーレム』が……まだいる……!?」

 部屋の奥……暗がりになった部分から、さらに複数のシルエットが現れる。
 いずれも『オリハルコンゴーレム』だった。
 そして、その数は──。

「ぜ、全部で九体……!?」

 最初の奴と合わせ、合計で十体の『オリハルコンゴーレム』が俺たちの前に立つ。
 いくらSランクパーティの俺たちでも、Aランクモンスターを十体同時に相手にするのは──不可能だ。

「正面から戦えば、確実に全滅する……」

 俺は乾いた声でつぶやいた。

「む、無理だ……」

 ラスターが震える声でつぶやいた。

「た、助けてぇ……」

 こいつのこんな悲鳴を初めて聞いた。

「な、なんだよ、聞いてねーぞ、こんなの……」
「ふ、ふざけないでよ! 情報と全然違うじゃない──うううう」
「ひいいい……嫌です、こんな……こ、殺される殺される殺されるぅぅぅ……」

 見れば、ブレッドは真っ青な顔だし、メアリは震えて立ちすくみ、シンシアは泣きながら失禁していた。
 全員、完全に戦意喪失している。

「みんな、気をしっかり! 諦めずに全員で生き残れる方法を探そうよ!」

 そんな中、ティアだけが気丈だった。

「まともに戦っても、さすがに勝てないな……」

 俺は恐怖を押し殺し、状況を分析する。
 生き残る手立てを考える。

「ここは逃げの一手か……」

 すぐに結論は出た。

 奴らに囲まれる前に、ここから全速力で逃げる──。

「ぐっ!?」

 そう考えた瞬間、いきなり背中に衝撃を受けて、俺は吹っ飛ばされていた。
『オリハルコンゴーレム』たちの前に放り出される。

「えっ……?」

 俺は呆然と振り返った。

 ラスターが冷ややかな表情で俺を見ていた。

「悪いな。俺たちが逃げる間、時間稼ぎをしていてくれ」
「後ろから攻撃されちゃたまらないからな。せいぜいそいつらを引きつけろよ」
「ごめんね。あんたの犠牲は無駄にしないから」
「さようなら、アルス。さあ、行きましょう、ティア」

 言うなり、ラスターたちは逃げ出した。

「あいつら、俺を犠牲にして……っ!?」

 怒りで頭が沸騰しそうだ。
 一番近くにいた『オリハルコンゴーレム』が俺に蹴りを放つ。

「くっ、『護りの盾』!」

 俺は慌てて防御呪文を唱えた。

 パリィィンッ!

 魔力でできたシールドは、敵モンスターの一蹴りであっさり砕け散った。

「ぐあっ……」

 俺は衝撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
 どこかの骨が折れたのか、たった一撃で立ち上がれなくなっていた。

 蹴りを放った『オリハルコンゴーレム』は俺との距離を詰めると、拳を振り上げた。

「駄目だ、避けられない……!」

 頭の中が真っ白になる。

 あと一秒か二秒後には、俺は『オリハルコンゴーレム』の巨大な拳によってグチャグチャに潰されているだろう。
 こんなのが、俺の最期なのか──。

「『雷撃弾(らいげきだん)』!」

 突然、大爆発が起きて『オリハルコンゴーレム』がよろめいた。

 今の攻撃は──?

「ティア!?」

 振り返ると、そこには使い魔の猫耳少女が立っていた。

 他のメンバーの姿はない。
 まさか、ティア一人でここまで戻ってきたのか!?

「遅くなってごめんね。シンシアに無理やり連れて行かれそうになったけど、どうにか振り払ったの」

 微笑むティア。

「今助けるからね、アルス」
.4 力を得る


「ティア、どうして──」
「どうしても何も、仲間を見捨てられるわけないじゃない」

 にっこり微笑むティア。

「大丈夫だよ。私が、必ずあなたを守るから」
「ティア……」

 無理だ。

 ティアはAランクの強力な使い魔である。
 だけど、相手が悪すぎる。

 相手はダンジョンの魔力補正でSランク相当になっているはずの『オリハルコンゴーレム』。
 しかもそれが、全部で十体──。

 勇者や英雄クラスじゃなきゃ、とても対抗できないだろう。

「だって仲間でしょ?」

 ティアが微笑んだ。

「仲間……」
「さあ、いくよ──『炎の連弾』!」

 ティアが無数の火球を放った。
『オリハルコンゴーレム』たちの体に何発も直撃する。

「『水の連弾』!」

 今度は無数の水球だ。

 さっきの攻撃で熱された『オリハルコンゴーレム』が急速冷凍にさらされた。
 いくら『オリハルコン』とはいえ、金属には違いない。
 熱した後に、急激に冷やされればダメージを負うはず──。

 ぐおおおおおおんっ。

 が、奴らはまるで意に介さず、俺たちに向かってくる。

「やっぱ、これくらいじゃ駄目か……」

 ティアがため息をついた。

「だけど、私に注意を引きつけるくらいはできそうね。アルス、あなたは自分に治癒呪文をかけて。動けるようになったら、すぐ逃げて」
「逃げるって俺一人でか? そんなこと──」
「私ができるだけ『オリハルコンゴーレム』を引きつけて、注意を向けておくから」
「ティアを置いて逃げられるわけないだろ!」

 だが、ティアはそれ以上答えず、敵の下に走っていく。

「駄目だ、ティア! 戻れ! 戻ってくれ!」

 俺は必死で叫んだ。
 あいかわらず体に力が入らない。

「くそっ……動け、俺の体っ……!」

 俺は大急ぎで自分に治癒呪文をかける。

「『ヒール』!」

 動けるようになったら、すぐにティアを助けに行く。
 一人で逃げるつもりなんてない!

「だから、それまで死ぬな、ティア──」

 必死で、祈る。

 と、その眼前で──。

「あ……ぐ……ぅっ……」

『オリハルコンゴーレム』の拳がティアを吹き飛ばした。

「あっ……」

 俺は呆然とその光景を見つめる。

「ああ……あ……」

 どさりっ……!

 天井近くまで吹き飛ばされた彼女は、そのまま地面に叩きつけられた。

「う……う……」

 と、ティアがうめいた。
 なんとか生きているみたいだ。
 だけど、腕や足は明らかに折れているし、血まみれだ。

「今、そこに行くっ……!」

 俺は治癒呪文を中断した。
 全身に痛みはあるが、なんとか動けそうだ。

「私は……もう、助から……な……い……」

 彼女の声は弱々しい。

「駄目だ、死ぬな……っ」
「逃げ……て……」
「ティアも一緒だ! なんとか二人で──」
「あなただけ……だった……パーティで、私を仲間として……見てくれた……」

 彼女の声は、どんどんか細くなる。

「戦うための道具としてしか……扱われなかった……今も、昔も……でも、あなた……だけが……」

 ことり。

 彼女の手が力なく落ちる。

「ティア……?」

 俺は呆然と彼女を見つめた。

 もはやピクリとも動かない。
 死んでいるのは、明らかだった。

「なんで……俺を、かばって……」

 視界がにじむ。

 彼女が死んでしまったことが、悲しかった。
 自分の無力さが、悔しかった。
 何もできなかったことが、情けなかった。

「ううう……うっ……」



第一の魔導書(ティアマト)の封印解除処理を開始します』



 どこからともなく声が聞こえ、彼女の全身から輝きがあふれた。

 淡い金色の光。
 まるで太陽のような暖かい光。

 ティアの体が、無数の光の粒子に代わっていく。

 それらが、俺の下に降り注いだ。

「これ……は……」

 体中の血が、沸騰しそうなほど熱い。
 降り注ぐ光は、やがて俺の前方に収束していった。

 集まった光が、一つの形を作り出す。

『ティアマトを魔導書モードに復元しました』

 ふたたび響く声。

 輝く本が、俺の目の前に浮かんでいた。
.5 チート魔導書


『個体識別……名称「アルス・ヴァイセ」。魔導書の想念連結者(リンカー)と確認』
『あなたは魔導書の所有資格を満たしました』
『魔導書の所有権移行処理を開始します──終了』
『「アルス・ヴァイセ」を魔導書の新たな所有者として認定しました』
『第一の魔導書【魔力無限成長】──その力を行使することが可能です』
『力を行使しますか?』

 声が響く。

 な、なんなんだ、一体……?

「いや、待てよ」

 今の言葉を頭の中で繰り返す。

 目の前に浮いているのは『魔導書』らしい。
 そして俺はその所有者に認定された……のか?

 つまり、それは──。

 ぐおおおおおおおおんっ。

 突然の発光現象に戸惑っていたらしい『オリハルコンゴーレム』たちがいっせいに雄たけびを上げた。
 ふたたび俺に向かってくる。



「大丈夫だよ、アルス」



 魔導書から声が響いた。

「この声──ティア!?」
「うん、私。今から魔導書として、あなたに力を貸すね」
「えっ? 魔導書として……って」
「それがあなたの真の力。魔導書と心を通わせられる素質者。さあ、私を手に取って」

 ティアが語りかける。

「そうすれば──『オリハルコンゴーレム』なんてアルスの敵じゃない!」

 まだ、何が何だか分からないけど、やるしかない。

「分かったよ、ティア」

 俺は表紙に『1』と書かれたその魔導書を手に取った。

 ティア、俺に力を貸してくれ。
 念じると、

『「第一の魔導書(ティアマト)」を起動します。マスターに【魔力無限成長】が付与されました』

 ふたたび声が響いた。

『初回起動時、および戦闘終了時に、それぞれマスターの魔力が成長します』
「ううっ……!」

 同時に、体に電撃のようなショックが走り抜ける。

「魔力が……あふれる……!?」

 体の底から湧いてくる、膨大な『力』。

 俺は反射的に右手を突き出した。
 あふれる魔力は巨大な光球となり、手のひらから放たれる。

 ごうんっ!

 たったの、一撃。

 最前列にいた『オリハルコンゴーレム』が爆裂して吹っ飛ぶ。

「な、なんだ、この威力……!?」

 攻撃呪文ですらない。
 ただ、魔力を飛ばしただけ。

 今までの俺なら、木の板を割る程度の威力しか出せなかっただろう。

 それが──Sランク相当に強化されている『オリハルコンゴーレム』を一撃で破壊するほどとは。

「これなら、いけるか……!?」

 俺は同じ要領で次々に魔力弾を放つ。

 大爆発が次々に起きた。

 わずか数秒で、わずか数発で──。

 十体いた『オリハルコンゴーレム』はすべて爆破されていた。

『戦闘終了により【魔力無限成長】の効果が発動されます』

 戸惑う中、なおも声が響く。

「ううっ……!」

 同時に、体の中に熱い何かが流れこんできた。

 この感覚は、魔力だ。
 爆発的な魔力が俺の体内で荒れ狂っている──?

『「オリハルコンゴーレム」×10の残存魔力を吸収しました』
『マスターの魔力総量が上昇しました』
『マスターの魔法耐性が上昇しました』
『マスターの魔力収束速度が上昇しました』
『続いて──第三の魔導書(エア)の力を行使することが可能です』

 ん、第三の魔導書?