冒険者の始まりの街でキャンプギアを売ってスローライフ〜アウトドアショップin異世界店、本日オープン!〜

「ふう~なんとか無事に交渉が終わって良かったよ」

「お疲れさまだな。無事に契約がまとまったようでよかったぞ」

 王都の冒険者ギルドをあとにする。ルハイルさんと今後のことについて話し合い、契約が無事に結ばれた。

「さすがにテツヤの商品を置かないはずがない」

「ええ。あれだけおいしい携帯食なら、冒険者だけでなく、他の商人でも欲しがることは間違いありませんわ!」

 方位磁石の件だけでなく、他の携帯食などの商品も王都の冒険者ギルドに置いてもらえるかを確認するために味を見てもらったが、ルハイルさんは二つ返事で了承してくれた。

 特に保存パックに入れたようかんとチョコレートバーにはものすごく反応してくれていたな。やはりベルナさんとフェリーさんと同様に、王都でもこれほど甘いお菓子はそこまで味わえないようだ。……本来は栄養補給をするための携帯食なんだけれどな。

 3人ともルハイルさんとの交渉がうまくいかないという考えはなかったらしい。正直なところ、俺もみんなの反応を見てたぶん大丈夫だと思っていたけれどな。

「予定通り例の件は今回の方位磁石のルハイルさんの対応を見てから決めるということにしよう」

 今回は方位磁石の件について交渉しただけで、俺のアウトドアショップの能力によって出した地図や図鑑についてはまだルハイルさんに話してはいない。さすがに初めて出会った段階で、こちらの手札すべてを晒すようなことはしない。

 とはいえ、今のところルハイルさんのこちらに対する対応はまったくもって問題なさそうだ。しっかりとこちらに対する配慮もあるし、ちゃんと商店や商業ギルドなどへの配慮もあった。……本当に同じパーティにいたとはいえ、ライザックさんとはタイプが違うな。

 アレフレアの街に戻ったら、パトリスさんに相談するとしよう。

「そうだな、ルハイル殿の対応なら大丈夫だとは思うが、一応アレフレアの街にいるパトリス殿の意見は聞いた方がいいだろうな」

 ……あとライザックさんの意見もだね。俺もちょっと忘れかけていたけれど。

「あんなことを言っておりましたが、ギルドマスターも十分素晴らしいギルドマスターだと思いますわ。女性で王都の冒険者ギルドマスターになるのは生半可な実力では無理ですからね」

「私も一対一なら多分勝てない」

 確かに女性ながらにして王都の冒険者ギルドマスターになるのはよほどの実力がなければ難しいだろう。というかあれだけの強大な魔法や召喚魔法を使えるフェリーさんでも勝てないのか……

「とりあえず、これで王都へやってきた一番の目的は達成したからほっとしたよ。今日と明日はみんなでゆっくりと王都を回ろう」

「ああ、私も王都に来たのは本当に久しぶりだ。いろいろと変わっているようだし楽しみだぞ!」

 無事に王都の冒険者ギルドへの挨拶は終わった。これで王都へやってきた一番の目的は果たしたこととなる。今日の午後と明日はゆっくりと王都を観光して、明後日の朝にアレフレアの街へ向けて出発する予定だ。

「さあ、まずは宿に寄ってみんなと合流しよう」

 と言いながら宿へ戻っている最中なのだが、まずは宿にいるみんなと早く合流したい。

 ……というのも先ほどから大勢の視線を一身に浴びているのだ。それもそのはず、ベルナさんとフェリーさんは王都では有名な冒険者でアイドルのような存在だ。冒険者ギルドでもそうだったが、冒険者ギルドを出てからも街の人たちの視線がものすごい……

 しかもさらに今日は綺麗な女性であるリリアもいるわけだから、目立ってしょうがない。先ほどから美女たちに囲まれている唯一の男である俺に対しての視線の数が本気でヤバい……いや、もはや視線というよりも殺気だな、これは。

 驚くべきことにその視線は男性だけでなく、女性からの視線もすごい……王都ではアイドル並みに人気があるとは聞いていたが、ちょっとなめていたな……



「テツヤさん、お帰りなさい」

「テツヤお兄ちゃん、お帰り!」

「アンジュ、フィアちゃん、ただいま」

 宿へ戻るとみんなが待っていてくれた。ようやく周りの人からの視線を感じなくなって一息つけたよ。

「テツヤさん、お帰り。王都の冒険者ギルドとの交渉は大丈夫だったか?」

「ドルファ、ただいま。うん、無事に交渉が終わったよ。とりあえず予定通り、方位磁石が作れないかこっちで試してもらうことになったね。他の商品も王都の冒険者ギルドに卸してもらえることになったよ」

「おっ、それはよかったな!」

 みんなに王都の冒険者ギルドとの交渉の結果を伝えると、みんなほっとした様子だった。どうやらみんなも王都の冒険者ギルドと交渉するとあって、いろいろと心配してくれていたみたいだ。

「無事に交渉できてよかったよ! テツヤ、そういえば冒険者ギルドマスターのルハイルさんはどんな女性だったの?」

 そう聞いてくるのはランジェさんだ。ランジェさんも冒険者ギルドまで一緒についてきたがっていたもんな……

「……ええ~と、若い女性なのに、すごく仕事ができる女性のイメージだったね。ただ俺だとどれくらい強いかまではわからなかったな」

「なるほど、今度王都に来るときは僕もぜひ会わせてほしいね!」

「……そうだね、考えておくよ」

 胸がものすごく大きいという情報は必要ないよね、うん……教えるにしても夜に男だけの部屋で教えるとしよう。

「それじゃあみんなで王都を観光しようか」
「はあ~街並みも家の造りもアレフレアの街のものとは全然違うんだな」

「そりゃ当然だよ。ここ王都にはありとあらゆるものが集まってくるからね。もちろん建築技術や加工技術なんかもアレフレアの街のものとは比べ物にならないほど進んでいるんだよ」

 さっそく従業員のみんなと一緒に王都の街を観光している。

 王都の大きな通りを歩いているのだが、ランジェさんの解説の通り、アレフレアの街の建物よりもだいぶ進んでいるというか、建物のクオリティがとても高いように思われた。

 まあ、駆け出し冒険者の集まる街であるアレフレアの街からいろんな村や街をすっ飛ばして王都まで来たのだから、建築様式なんかが一気に進んでいるように見えるのも当然といったところか。

「ふふっ、確かに初めて王都に来られた時は皆さん驚きますね」

「昨日泊まっていた宿も、とっても大きくて綺麗だったもんね。それに高い建物ばっかりですごい!」

「ええ。昨日の宿もそうでしたが、王都には大きくて高い建物がとても多いですね。本当に街を歩いているだけでも楽しいです!」

 ベルナさんとフィアちゃんやアンジュの言う通り、あの高級な宿も大きくて豪華でとんでもなかったもんなあ。俺は元の世界で高いビルなんかをたくさん見てきたけれど、アレフレアの街は高くても3階建てくらいだったし、みんなにはこの王都の光景はとんでもなくすごく見えるのかもしれない。

「この通りは王都でも一番大きな通り。たくさんの馬車が行き交うからこれだけ広くなってる。このまま進むと王都で一番大きな市場がある」

「これだけ立派な通りを見たのは初めてだ。本当に王都はすごい街なんだな」

「いろんな街を見てきたけれど、さすが王都って感じだよね。これだけ広い道もなかなかないよ」

 フェリーさんの説明にドルファとランジェさんも頷く。なるほど、確かに大きな馬車もたくさん通っているが、それでも余裕があるほど広い道だ。こうしてアレフレアの街とは違った街並みを歩いているだけでも本当に楽しいな。

 ……それにしても、すれ違う人たちからものすごく見られている。もちろんベルナさんとフェリーさんがこの王都では有名なAランク冒険者ということもあるけれど、うちの店の従業員たちも2人に負けないくらい美形だもんなあ……

 ランジェさんはイケメンのエルフだし、リリアはアレフレアの街では有名なBランク冒険者の綺麗な女性で、ドルファとアンジュは美形で顔立ちの似た兄妹、フィアちゃんは可愛らしい獣人の女の子……うん、普通なのは俺だけということは十分に自覚しているよ。

 たぶんすれ違う人たちはあの男だけなんか違うなあとか思っているんだろうなあ……まあいい、こういうのは気にしたら負けだ! 他人の視線は気にせず、王都の街並みを楽しむとしよう!



「た、高すぎる……」

「そう? この辺りは比較的に安めの店が並んでいる」

「奥の方の高級店などは質が良い分、このお店よりも高価な商品が置かれておりますわ」

 oh……どうやらフェリーさんとベルナさんとは文字通り住む世界が違うようだ。

 現在は王都の大きな通りを抜けて、大きな市場へとやってきてた。みんなでゆっくりと比較的安いはずの露店や屋台などのお店を回っているのだが、それでもアレフレアの街の大きな商店で販売している物よりも値段が高い。

 王都の物価はアレフレアの街よりも高いと聞いていたが、まさか2倍~3倍近くの値段になっているとは思ってもいなかった。

 以前方位磁石のお礼として王都の冒険者ギルドから大金をもらったが、王都の物価とかを考えたら、俺が思っているよりも大金ではなかったのかもしれない。

「お、王都の商品はどれもこんなに高いのですね……」

「王都の人間は本当にこの物価で生活できるのか……」

 アンジュとドルファも同意見らしい。おそらく食費や家賃なんかも同様なのだろうな。

「その分冒険者ギルドでもらえる報酬なんかも多くもらえるんだ。この辺りには強い魔物も多いぶん、その素材は高く売れるからいい稼ぎにもなるんだぞ」

 そういえばリリアも王都にしばらくはいたと言っていたな。物価が高いということは、そのぶん収入がいいというわけでもあるから、景気自体は多分良いのだろう。

 確かにこの金額が余裕で払えるようになったら、とてもいい気分になれるのだろうな。それにアレフレアの街では見たことがない食材や高級な食材なんかもたくさんあった。確かにこの王都で生活することがひとつのステータスとなるというのはよく分かる。

「なるほどね……それにしてもいろんな食材や調味料も売っていて見ているだけでも楽しいね。さて、食材と調味料はあとでゆっくりと周りながら見るから、先にみんなで昼食にしよう。ベルナさん、フェリーさん、もしおすすめのお店があったら教えてくれませんか?」

 まだまだ露店や屋台で見たいものはたくさんあるが、そろそろお腹がすいてきた。屋台で買い食いも一度はしてみたいが、せっかくならここは普段王都で生活している2人のおすすめのお店を案内してもらうとしよう。

 ……さすがにおひとり様金貨100枚とか言われるような超高級店ではないと信じたい。
「さすが王都の高級店だったね。本当に珍しくておいしい料理ばかりだったよ」

 ベルナさんとフェリーさんが案内してくれたレストランはとても大きくて豪勢なレストランだった。屋台などで出しているような簡単な料理ではなく、様々な工夫を加えて、香辛料をたっぷりと使った素晴らしい料理の数々だった。

 それに加えてアレフレアの街では見たことがない食材を使った料理が次々と運ばれてきた。魔物の魔力や強さが関係あるのかは分からないが、その食材自体の味が、アレフレアの街付近で取れる食材よりも美味なものが多かったな。

 そして当然のことながら、そのお値段もかなりのもので、お会計は一人あたりなんと金貨5枚を超えていた。王都の物価がものすごく高いこともあるが、それにしても高すぎるだろ……

 王都では収入も多くなるのだろうけれど、それでも王都で生活していくのが大変だということがよく分かったよ。

「ああ。あれほど高級な料理を食べたのは初めてだ。さすが王都の高級料理店だな」

「ええ、とってもおいしかったです。テツヤさん、本当にご馳走さまでした」

「テツヤお兄ちゃん、とってもおいしかったよ!」

 今回の食事代はすべて俺が支払った。ベルナさんとフェリーさんたちは自分たちで出すと言ってくれたのだが、王都の案内までしてもらっているからな。まあ、Aランク冒険者の二人にとっては大したお金ではないとは思うのだが、そこは男の意地ということで。

「王都に来られたのも、みんながアレフレアの街で頑張って働いてくれたおかげだからね。たまにはこういったご褒美がなくちゃな」

 それに方位磁石の作り方を教えたことにより、また大金を得たのでこれくらいの支払いなら問題ない。とはいえ、ベルナさんとフェリーさんが言うには、このお店以上の高級店も王都には存在するらしい。

 冗談で考えていたのだが、本当に一人あたり金貨100枚を超える店があってもおかしくはなさそうだ……

「満足してくださったようでよかったですわ。それでもあちらのお店の料理と比較しても、テツヤさんが作ってくれたカレーやラーメンという料理は本当においしいです。王都のどんなお店でも味わえない料理ですからね!」

「それにチョコバーとようかんみたいな甘いお菓子もないから、テツヤの能力は偉大」

 2人ともよほどアウトドアショップで購入した商品を気に入ってくれたみたいだ。確かにこのレストランで食べた料理はどれも素晴らしかったが、レトルトカレーや棒状ラーメンは文字通り違う世界の料理だし。

「それほど気に入ってくれたならよかったよ。それじゃあ午後は二手に分かれて王都を見て回ろうか」



 午後からは王都の観光を中心に回る組と、先ほど回ってきた市場を中心に回る2組に分かれた。どちらにも興味のあるところだが、やはりここは王都の市場をじっくりと回ってみたかったので、俺は市場を回ることにした。

 俺と一緒に市場を回るのはリリアとフェリーさんの3人だ。やはり観光の方が人気あるようで、他の5人は王都の有名な場所を観光してくる。ベルナさんとフェリーさんは基本的には王都を拠点にしているから、二手に分かれて案内してくれることになった。

 今日の夜も昨日泊まった高級宿に泊まるので、夕方までに宿に集合という流れだ。

「この辺りが食材の売っているお店」

「確かに見たことがない食材がいっぱいだね!」

「ああ。アレフレアの市場とは規模も売っているものも全然違うようだな」

 3人で午前中に一度訪れた王都で一番大きな市場へとやってきて、フェリーさんに案内をしてもらった。

「フェリーさんたちは普段もここで買い物をしているの?」

「ベルナと私は普段料理をしないから、このあたりのお店には来ない」

「2人は料理が全然できないものな」

 ……そうだった。そういえば2人は冒険者だけれど、自分たちで料理を作らないんだったな。まあフェリーさんの大きな収納魔法があればそれでもなんとかなるのかな。

「それじゃあさっそく見て回ろうか」



「ほら、そこのお兄ちゃん、見ていってくれよ!」

「そこの綺麗なお姉さん、ちょっくら見ていってくださいな!」

 王都の市場はとても盛況なようで、お客さんがとても多く、お店の人たちも必死でお客さんを呼び込んでいる。お客さんが多い分、お店も多いわけだから、お店同士でお客さんの奪い合いがとても激しいんだろうな。

 確かに王都の方で商売がうまくいけば、かなりのお金持ちになれるかもしれないが、その分大変なのは間違いないだろう。やはり俺は駆け出し冒険者の街であるアレフレアの街でまったりと商売している方があっているよ。

「おっ、そこのお兄ちゃん! 綺麗どころを2人もつれて羨ましい限りだぜ! ……って、蒼翠嵐のフェリー様じゃないですか!」

「………………」

 とあるお店の前で、40代くらいのおっちゃんに呼び止められる。それにしてもフェリーさんって本当に有名なんだな。声をかけられたフェリーさんは特に返事をしない。そういえばフェリーさんは少し人見知りするんだったっけ。

「こりゃ驚いた。こんな店にようこそ、いらっしゃいました。ささ、なんでも見ていってください!」

 どうやらこのお店は香辛料なんかを中心に販売しているようだ。ちょうどそのあたりは見ておきたかったところだし、何があるのか見せてもらうことにしよう。
「あれ、この香辛料と調味料はアレフレアの街のものと比べても意外と安いな」

 王都の物価は基本的にはアレフレアの街の2~3倍くらいする。さらには香辛料や調味料なんかの嗜好品にかんする物はさらに高いと思っていたのだが、実際にアレフレアの街の香辛料や調味料の1.5倍くらいに収まっている。

 これはどういうことなんだ?

「兄ちゃんはアレフレアの街から来たのか?」

「ああ、王都の物価はかなり高いけれど、香辛料や調味料やそこまで高くないと思ってさ」

「ほう、あの駆け出し冒険者の街から遠路はるばる王都まで大変だっただろうな」

 実際にはフェリーさんの召喚したスレイプニルのスレプのおかげで、普通の馬車の数倍の速さによってこの王都までたった1週間で来ることができたんだけれどな。

「実は少し前に特殊な魔法を利用した香辛料の栽培方法が考案されてな。最近になってようやくその栽培方法によって育てられた香辛料が収穫され始めたんだ。その影響で一部の香辛料や香辛料を使用した調味料なんかの価格が以前の半分近くまで下がったんだよ」

「へえ~そんなことがあったんだ」

 そう言えば以前にそんな話をどこかで聞いたことがあったな。そうか、ついに香辛料や調味料の値段が下がり始めてくれたのか。

「今はまだ王都だけだが、すぐに別の街の香辛料や調味料なんかも価格が下がり始めるだろうな。まあ、うちの店としちゃあ、仕入れ値が以前の半分になっても売値も以前の半分になるから大損なんだが、将来的には他の多くの種類の香辛料や調味料が新しくできるだろうし、普通の家庭にも普及し始めるだろうから今は我慢だぜ……」

 なるほど、確かに価格が下がりすぎると、店の方は大変そうだ。とはいえ、安くなった分需要は格段に増えていくだろう。少なくとも俺たち消費者側にとってありがたいことは間違いないな。

「テツヤ、そうなったら例のアウトドアスパイスも店で売れるんじゃないか?」

「そうだね。リリアの言う通り、香辛料が普及してきたらアウトドアスパイスも販売してよさそうだな」

 今まで香辛料は高価なもので、利権を求めた商人たちが怖くて販売を控えていたが、これなら販売を開始しても大丈夫そうだ。

「あれは焼いた肉にかけるだけでも塩だけとは全然違った味になる。冒険者ならみんな買うと思う」

「なるほど」

 フェリーさんからのお墨付きもいただいた。確かにアウトドアスパイスのクオリティはめちゃくちゃ高いからな。アレフレアの街に戻ったら、販売を考えてみるとしよう。

「なんだい、同業者さんだったのかい」

「いや、そういうわけじゃないんだけれどな。でも香辛料や調味料が安くなって普及するのはいいことだ。おっちゃん、いろいろと買っていくから、おすすめの商品を教えてくれないか」

「おう、そういうことなら大歓迎だぜ!」



「いやあ~いい買い物ができたな!」

 そのあとおっちゃんのお店で大量の香辛料と調味料を購入した。実際のところ、王都のお店の香辛料と調味料の種類はアレフレアの街のものの比ではなかった。

 まあ、様々な街からいろいろな物が集まる王都だから、駆け出し冒険者の街であるアレフレアの街とは比べ物にならないのは当然と言えば当然である。

 フェリーさんの収納魔法のおかげで、たくさんの香辛料と調味料を購入したにもかかわらず、手ぶらで街を歩けている。

「こんなにたくさん買えたのもフェリーさんのおかげだよ。本当にありがとう」

「テツヤの役に立てたならよかった」

 そう言いながら、少し照れた顔ではにかむフェリーさん。フェリーさんのこういった照れた姿を見るのは珍しいな。

「しかし、ずいぶんといろいろな種類の香辛料と調味料を購入したようだな」

「うん、思ったよりも珍しい物が多かったからね! これで日々の料理もいろいろと改良することができるよ。例のタレもいろいろとパワーアップできそうだな」

 今回購入したのは辛い唐辛子のような赤い香辛料、山椒のようなピリリとする香辛料、甘く爽やかな香りのするシナモンのような香辛料などなど。

 そしてなんと、原料は大豆かは不明だが、豆を使った醤油もどきと味噌もどきの調味料を手に入れることができた。これらの調味料は例の魔法栽培で安くなってはいなかったが、お金には余裕があるので、迷わず購入した。

 いやあ、まさか醤油と味噌が手に入るとはな! これだけで王都まで足を延ばした甲斐があるというものだ。というか、ぶっちゃけ王都の冒険者ギルドでの商談がまとまったことよりも、醤油と味噌を手に入れることができたことの方が嬉しかったりする。

 アレフレアの街では娯楽が少ないから、最近の俺は料理が趣味になっている。もちろん元の世界の漫画やアニメなんかは恋しいが、こちらの世界の食材などを使って、元の世界の料理を再現するのは結構面白いんだよね。

「テツヤがここまで喜んでいる姿を見るのは初めてのことかもしれないな」

「そうかな? やっぱり新しい場所に来るのって楽しいよね。アウトドアショップの経営も落ち着いてきたし、また定期的にいろんな街へ行くのも悪くないかな」

「ああ、新しい場所に行くのは楽しいものだ。王都の他にもたくさんの魅力的な街があるんだぞ!」

「それは楽しみだな。うん、例の地図や図鑑とかの件もあるし、またみんなでいろんな街へ行こう」
「それじゃあ、夕方にまた宿でね」

「ああ、ランジェ、ドルファ。テツヤを頼んだぞ」

「さすがにそこまで人通りの少ない場所にはいかないから大丈夫。リリアは少しテツヤのことを心配し過ぎだよ」

「そうだな。テツヤの護衛は任せておいてくれ。そっちは……まあ、心配する必要はないだろうな」

「はい、みなさんの護衛はお任せください」

「こっちは任せて」

 昨日は観光と市場へ行く組に分かれて王都を回ったが、今日は男女に分かれて王都を回る。ランジェさんはBランク冒険者だし、ドルファもCランク冒険者並みの戦闘力があることだし、護衛は2人がいれば大丈夫だ。

 さすがにまだ王都では俺の顔は知られていないだろうし、ランジェさんの言うように、人通りの少ない場所に行く予定もないからな。女性の組にかんしてはAランク冒険者の2人がいるし、元Bランク冒険者のリリアもいるから、尚のこと大丈夫だろう。



「さて、それじゃあまずはテツヤさんの()()の店に行ってみるとしようか」

「2人とも付き合ってもらっちゃって悪いね」

「なに、これくらい全然構わないさ。俺も協力したいし、テツヤさんにはいつも世話になっているからな。それにアンジュもたまには俺のいない方が羽を伸ばせるだろう」

 おおっ、あれほど妹のアンジュと離れたがらなかったあのドルファが……ドルファもほんの少しは妹離れができてきたのかもしれない。

「どちらにせよ夕方には会えるからな。ついでにアンジュへのプレゼントをたくさん買っていくとしよう」

「………………」

 やっぱりドルファはドルファだったか……

「僕も気にしてないよ。事情を知ったら協力しないわけにはいかないからね」

「ランジェさんもありがとうね。男同士でどうしても行きたい店があるなんて言いづらいことまで言ってくれて、本当に助かったよ」

 男女に分かれて王都を回るというのは俺のお願いなのだが、実際にみんなにその提案をしてくれたのはランジェさんだ。

 俺たちだけで行きたい場所があるなんて女性陣に言えば、良からぬことを考えていると思われてしまう可能性が高いのに、ランジェさんがその役を買って出てくれて、本当に感謝している。

 王都には有名な娼館や、そういった少しエロい物を売っている商店はあるのだが、もちろんそんなお店に行くつもりで男女に分かれて王都を回るようなつもりはない。

 俺の目的は別のお店にある。

「気にしなくていいよ。どちらにしろそういう店には僕一人でも行こうとしていたからね。テツヤの目的の店に寄ったあと、少しだけ2人にも付き合ってもらうよ」

「………………」

 どうやらランジェさんはそういった店へ寄るつもりだったらしい……

 さすがに俺の用事にだけ付き合ってもらうのも悪いから仕方がないな。うん、まったくもって興味はないけれど、仕方がない。とはいえ、さすがに娼館には行かないけれど。



「ここが例のお店かあ。本当にアレフレアの街にある高級店とはレベルが違うね……」

「王都で一番有名ということはこの国で一番有名なお店だからね。そりゃ駆け出し冒険者が集まる街の高級店とはレベルが違うよ」

 そう、ここが今回の俺の目的店である、王都で一番有名な魔道具店だ。建物の大きさ、独特な建築様式、技巧を凝らして作られた店の装飾、そのすべてのレベルがアレフレアにある高級店とはレベルが段違いだ。

「店の前には屈強な護衛が何人もいるな……ひとりひとりが俺よりも強いかもしれない」

「う~ん、全員低く見積もってもCランク冒険者以上の力はありそうだね。本当に王都は人材も豊富なんだね」

「それはすごいな……」

 魔道具店の前には重装備をした護衛の人たちが5人も並んでいた。装備もかなり立派な物を身に付けているし、ドルファとランジェさんの見立てでは、その全員がかなりの実力者らしい。

 そしてその店に入る人たちは身なりの良い人ばかりだ。一応俺たちも多少は見栄えの良い服を着ているが、それでも少し浮いてしまいそうだな。

 というか貧乏人は入ってくるなオーラがすごい……

「いらっしゃいませ、誰かの紹介状はお持ちでしょうか?」

「あっ、はい。これをお願いします」

 事前に聞いていた通り、このお店は誰かの紹介状がなければ入ることもできないらしい。さすがこの国一有名な魔道具店だ。

 このお店を紹介してくれた冒険者ギルドマスターのルハイルさんに書いてもらった紹介状を店の入り口にいたピシッとした制服を着ている従業員さんへ手渡す。

 昨日冒険者ギルドで交渉を終えた後、少しだけ2人きりで話させてもらって、ルハイルさんにお願いしたところ、快く紹介状を書いてくれた。やはり持つべきものはコネである。

「テツヤ様、確認ができました。どうぞ中へお入りくださいませ」

「はい」

 一度店の中に入り、紹介状を確認していた30代の男性の店員さんの許可を得てお店に入れてもらう。

 ふう~店に入るまでで一苦労だぜ……



「これはすごいな」

「すごいね、僕もこんな高級なお店に入ったのは初めてだよ」

 店の中の内装も、俺が想像していた十倍くらい豪勢な内装だった。ルハイルさんの部屋に足を踏み入れた時も驚いたが、この店はそれ以上だ。

 広々とした店内、ところどころに置かれている派手な美術品、天井にはキラキラとしたシャンデリアなんかもあった。店の外だけでなく、店内にまで護衛がいるようだお。それぞれの商品も少量ずつ透明なケースの中に入れられている。正直に言ってうちの店とはレベルが違うな……

「こちらでございます」

 店員さんが紹介状に書いてもらった目的の商品にまで案内してくれる。どうやらこの店では一組のお客さんに対して一人の従業員が付いてくれるようだ。マジですげえな……

 そして店員さんの案内に従って、目的である商品の前までやってきた。

「こちらが当店自慢の商品でございます完全回復薬(フルポーション)となります」

 そう、これこそがこのお店に来た目的である完全回復薬だ。これさえあれば、リリアの失った右腕すらも元に戻すことができる。
 この国で一番有名な魔道具店の中でも一際目立った場所に置かれ、とてつもなく頑丈そうなケースにひとつだけ収められている一本の瓶に入った青色の液体。

 その徹底した厳重な管理から、この完全回復薬がどれだけ希少な物かは推察できる。

「これが伝説の完全回復薬か……」

「当然だけど、僕も初めて見る代物だよ」

 これこそが、今回わざわざ男女……いや、リリアと別れて見に来たかった完全回復薬である。どんな別れ方をすればリリアと別々に王都を回れるかを考えたところ、男女に分かれて回るのが一番確実な方法であった。

 リリアのことだから、俺がリリアの右腕を治そうとしていることを知れば、きっと止めてくるに違いない。リリアとは長い付き合いだし、それくらいのことは俺でも分かる。

 だからこそ、リリアには内緒でこの店に来るため、みんなに協力してもらったというわけだ。

「あの、値札がついていないんですけれど、一体これはいくらするんですか?」

 伝説級の代物とはいえ、店に置いている以上、売り物ではあるはずだ。

「こちらの完全回復薬の素材はどれも希少な物が使われておりまして、その素材を調合できる職人も非常に限られております。そのため、価格は常に時価となっているのです。こちらの完全回復薬は金貨10350枚となってございますね」

「いっ、10350枚ですか!? それはまたなんとも……」

 以前リリアに聞いた時は金貨数千枚、下手をすれば1万枚を超えると言われていたが、まさか本当に1万枚を超えているとはな……

 元の世界のお金に換算すると1億円以上か。それにしても時価とか元の世界の高級な寿司屋くらいでしか見たことがないぞ。いや、見ただけで一度もそんな寿司屋で食べたことはないけれどな。

 ここまでくると、金貨350枚がものすごく少なく感じてきてしまうから不思議だ。

「当店の完全回復薬は高品質であることが保証されておりまして、その怪我が治らなかった場合にはその料金をすべて返金するといった保証もございます。稀に競りなどで完全回復薬が出品されることもございますが、偽物や粗悪品なども多いことが実情でございます。当店でしたら、そういった心配はございませんので、高額となってしまいます」

「なるほど……」

 それだけ高価な物ならば、当然偽物や粗悪品なんかも多いだろうな。その点、このお店ならば、多少割高であっても確実に怪我を治せる保証があるというわけか。

「さすがに今はまだ手が出ないか」

 一応ルハイルさんからすでに完全回復薬の相場は金貨1万枚に近いと聞いており、現状では購入することができないと分かっていたが、とりあえず実物を見たかったのだ。

 最近はいろいろな副収入があったり、今後は別の街や王都にも商品を卸すことになるから、お金は今まで以上に入ってくることになるが、さすがに今はお金が足りない。

 そしていよいよアウトドアショップの能力がもう少しでレベル5に上がるところまでやってきた。そこで出てくる商品次第なところもある。

 とりあえずこの店に来た一番の目的は果たしたので、他の商品も見せてもらってから店を出た。さすがに何か買った方がいいのかなとも思ったが、店員さんにその必要はないと言われた。

 もしかしたら冒険者ギルドマスターであるルハイルさんの紹介状のおかげかもしれない。後日改めてお礼を伝えるようにしておこう。



「それにしても、とんでもない値段だったね」

 魔道具屋を出て、いったんカフェのようなお店に入って飲み物を頼んで小休止している。

「完全回復薬だけでなく、他の魔道具も相当の価格だったぞ。さすがこの国で一番の魔道具店だな」

 他の魔道具も見せてもらったのだが、さすがに完全回復薬とまでいかないまでも、金貨100から1000枚くらいの商品はざらにあった。そりゃあれだけの護衛が必要になるわけだよ。

 とはいえ、魔道具の種類によっては、アウトドアショップで購入できるバーナーの方が便利だと思われるような魔道具もあった。王都では売ろうと思えば、アウトドアショップで購入した商品も高値で売れそうだな。

 お金を稼ぐ手段のひとつとして検討してみてもいいかもしれない。お金も日々の生活ができるくらいあればいいとは思っていたのだが、完全回復薬については別問題だ。

「でも一番の問題はリリアがこれを素直に受け取ってくれるかだと思うけれどね」

「確かに……リリアの性格を考えると、右腕はそのままでいいから、返品してきてくれなんて言いそうだな」

「それなんだよ!」

 ランジェさんとドルファの言う通り、リリアの性格上、そこまでのお金を払ってでも右腕を治したいかと聞かれたら、絶対に首を横に振りそうなんだよ!

「もしも完全回復薬を手に入れられたとしても、さすがにここまで高価な完全回復薬になると、気軽にプレゼントしても受け取ってくれないと思うんだよね……」

「リリアは真面目だからねえ……」

 さすがに金貨1万枚を超える代物をプレゼントしたとしても、普通の人の性格なら、そう簡単には受けて取れない。ランジェさんの言う通り、真面目な性格のリリアなら、なおのことだろう。

 それ以前にこうやって完全回復薬を手に入れようと行動していることも、善意の押し付けになっているのかもしれない。

 だけど俺はリリアが右腕がなくて苦労している姿を見るととても辛く思えるし、何とかしてあげたいと思う。リリアにはこの世界に来てから本当にお世話になった。今のお店が順調に言っているのも、リリアのおかげだと言っても過言ではない。リリアには俺のできる限りのことをしてあげたい、そう思える。

「……それだったら、リリアへプロポーズする際にプレゼントしてあげるとかはどうだ?」

「プ、プロポーズ!?」

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