カロムは試験の内容を説明し始めた。
「私と一対一で対戦して頂きます。それと、三人ともに対戦方法や条件が異なる。という訳でベルベスクは、武器や魔法を使わないでください」
「ってことは、素手での対戦になるのか?』
そうベルベスクは言い真剣な表情になる。
「そうなります。その代わり私も素手で行いますので」
そう言いカロムはベルベスクをみた。
「なるほど、オレはそれで構わねぇぜ』
ベルベスクはそう言い、ニヤリと笑う。
「おい、ベルベスク! 大丈夫なのか?」
そうグレイフェズが不安な表情で問いかける。
「グレイ、心配ない」
そう言いながらムドルは、ポンと手をグレイフェズの肩に乗せた。
「どういう事だ? ベルべスクが素手で勝てるとも思えない」
「さぁ、どうなるか。まぁ、みてれば分る」
ムドルはそう言い、ニヤリと笑う。
そう言われるもグレイフェズは、ムドルの真意が分からず不安な面持ちになる。
(本当に大丈夫なのか? 確かにベルべスクは魔族だ。でも今は、人間の姿……魔族の力を使うことができないはず。それなのに、心配するなって……)
そうこうグレイフェズは考える。
「では、グレイフェズとムドル。別室でみていてください」
そう言いカロムは、ティハイドが居る部屋と違う場所を指差した。
それを聞きグレイフェズとムドルは頷き指示された部屋へ向かう。
カロムはそれを視認するとベルべスクの方に視線を向ける。
「ベルべスク、定位置についてください。私も位置につきますので」
「ああ、分かった」
そう言いベルべスクは指示された場所へ移動した。
そのあとを追うようにカロムは向かう。
(どの程度の力があるのか。まぁ所詮、冒険者レベル。強いと言っても、それほどではないだろう。それにみた感じ力があるようにみえないしな)
そう思いながらカロムは定位置についた。
(素手か……最近、運動不足だったから丁度いいかもな。だが、感覚が鈍っていなければいいが)
定位置につくとベルべスクは、そう思い目を凝らしながらカロムをみる。
――場所は移り、グレイフェズとムドルが居る部屋――
グレイフェズとムドルはカロムに指示された部屋にくると、窓越しからベルべスクとカロムをみた。
「ムドル、本当に大丈夫か? いくらベルべスクが魔族でも、今は力を抑えてるんだよな」
「ああ、問題ない。アイツは、確かに召喚魔導師だ。それに人間のアイツは、ただの魔導師。しかし、元々は格闘の方が得意だ。オレよりも弱いけどな」
「……」
それを聞きグレイフェズは絶句する。その後、口を開いた。
「待て、じゃあなんで召喚魔導師になった?」
「オレのためらしい。……いいと言ったんだがな」
「なるほど……お前の能力を、補佐するためか」
そう言われムドルは、コクリと頷く。
「そういう事だ。ん? そろそろ始まる」
「ああ、そろそろか。だが、意外といいヤツなんだな……ベルべスクは」
「ええ、仕える主を間違えただけ。まぁベルべスクは、魔族ながら人がいいので……」
そう言いムドルは微笑む。
それを聞きグレイフェズも笑みを浮かべる。
そしてその後も二人は、ベルべスクとカロムの試合をみていたのだった。
ここはティハイドの屋敷の地下にある闘技場のような施設。その場所がみえる部屋の窓越しにティハイドはいた。
「ベルべスクが最初か。魔導師と聞いているが……恐らく、それだけじゃないだろう」
そう言いながらカロムの方へ視線を向ける。
「素手か……カロム、見誤ったな。多分、ベルべスクのあの様子を見る限り……格闘の方も得意なのかもしれん」
そうこう考えながら二人の様子を伺っていた。
――場所は、闘技場のような部屋の中央に移る――
ベルべスクとカロムは身構え睨み合う。
(……隙が……ない。普通の魔導師ではないのか?)
そう思いカロムはベルべスクの隙を探す。
(ほう、思ったよりも……戦いなれてるようだな。恐らく、少しでも隙をみせりゃ……攻撃を仕掛けてくる。だが、このままじゃ日が暮れちまう。さて、どうする……)
そう思考を巡らせながらカロムとの間合いをとる。
(どうする? 俺がわざと動くか……それともこのまま、いや待つはないな)
そう考えるとカロムは、外側に右足を滑らせるように動かした。
それをみたベルべスクは一瞬、動こうとする。だが、動くのをやめた。
(……フェイクか。オレが動くのを待っている……ってことは、仕方ねぇ……仕掛けるしかねぇな)
そう考えがまとまるとベルべスクはカロムを見据える。と同時にカロムへと突進した。
それをみたカロムは、右横に跳び避ける。その後、即座にベルべスクの背後を取り腕を掴もうとした。
「う、まさか!?」
そうカロムは叫んだ。
それを予測しベルべスクは、カロムの方を向き後ろに跳ぶ。
カロムは体勢を崩し顔から地面に落下する。
それを確認するとベルべスクは、即座にカロムのそばまできた。そして、すかさずカロムの背中にまたがり両腕を掴み押さえ込んだ。
「これでお終いか?」
そうベルべスクが言うとカロムは、悔しそうな表情で頷いた。
「クッ、まぁいいでしょう。合格とします」
それを聞きベルベスクは、カロムから離れる。
カロムはよろけながら立ち上がりベルべスクをみた。と同時にカロムの鼻から血が一滴、落ちる。
「……。大丈夫か?」
そうベルべスクが問うとカロムは、不機嫌な表情になった。
「ええ、問題ない。次の方の試験を行いますので……」
そう言いカロムはグレイフェズ達が居る部屋を指差す。
「ならよかった。じゃあ、ムドルと交代だな」
そう言いベルべスクは、グレイフェズ達が居る部屋に向かう。
(まさか……ここまで動けて、予測まで……)
そう思いながらカロムは、ベルべスクの背中を見据える。
(予想に反して収穫かもしれない。あとの二人も、恐らく上位の冒険者? そうなると……油断は禁物だな)
そう考えグレイフェズとムドルをみた。
ここは闘技場のような場所がみえるグレイフェズ達が居る部屋。
部屋の中にベルべスクが入ってくる。
「思ったほどじゃなかった。だが次、どんな方法を指定してくるか分からねぇ。ムドル、気をつけろよ!」
そう言いムドルの肩を、ポンと叩いた。
「フッ、問題ない。それよりも、もう少し手を抜いても良かったと思うんだが」
「……。アレでも、手を抜いてた方だぞ」
「なるほど……それだけ、あのカロムが強いって訳か」
そうグレイフェズが言うとベルべスクは頷く。
「じゃあ、行ってくるか」
そう言いムドルは部屋を出て闘技場のような場所へと向かう。
それを二人は目で追った。
――場所は、カロムの屋敷へと移る――
ここは厨房だ。私とメーメルは、マリリサの案内でここに来ていた。
あれから色々と仕事内容を聞きながら屋敷の中を案内してもらう。
そして最後に、ここに来たのだ。その後、料理長のケイルズさんに挨拶をする。
現在……私たちは、なぜかテーブルを囲み椅子に座っていた。
そうケイルズさんが作ったお菓子を食べながら、ハーブティーのようなお茶を飲み話をしている。
「えっと……こんな所で、お茶なんかしてて大丈夫なんですか?」
「ルイ、心配ないわよ。仕事さえ終えれば、何していてもね」
「そうなんだね。だけど、もっと大変な仕事だと思ってた」
私がそう言うとマリリサは、クスッと微笑む。
「そうね。多分、この屋敷だけだと思うわ。私の知り合いも、他の屋敷でメイドやってるけど……大変だって言ってるし」
「そうなのか。確かに、アタシの知り合いも大変だって言っていた」
「メーメルの知り合いも、メイドの仕事しているの?」
そう言われメーメルは首を横に振る。
「メイドじゃない。男だから執事だな」
「そっかぁ。って、その知り合いって彼氏?」
マリリサは身を乗り出しそう問いかけた。
「いや、違うな。ただの幼馴染なのだ。それにアイツは、好きな女がいる」
そう言いメーメルは、つらそうな表情で俯く。
メーメル……やっぱり、まだムドルさんのこと好きなんだね。それに多分、ムドルさんの好きな相手が私だって知ってる。
だけど……私は、何も声をかけてあげられない。それに告白されたことも言えてないし……。凄く気まずい……どうしよう。
そうこう思考を巡らせる。
「そうなのね。でもその様子じゃ、メーメルは好きなんでしょ?」
「うん、でも……いい。今の関係を壊したくないからな」
「メーメル……」
私は何か言おうとするも、声にならなかった。なぜか涙が出てくる。
「ルイ、問題ない……気にするな」
そうメーメルは、私を慰めてくれた。
……気にするな、って……どういう事? もしかして、何もかも知ってるの……。だったら、どうして……。……分からない。
そう思い私は、不思議に思いながらメーメルをみる。
そしてその後も、私たちは色々と話していたのだった。
ここはティハイドの屋敷の地下にある闘技場のような場所。
ムドルはカロムが待つ中央まできた。
「次は、貴方ですか。では試験内容ですが……」
そう言いカロムは、異空間から二丁の魔弾銃を取り出し片方をムドルに渡す。
「魔弾銃……まさか、これで撃ち合うのか?」
「いいえ、的を用意します。その的を先に撃ち落とし……その数が多い方の勝ち」
「なるほど……まぁその方がいい、か。それよりも……これは、魔力を使うタイプじゃないようだな」
そうムドルが聞くとカロムは頷いた。
「ええ、魔力がなくても使えるように設計されているのですよ。ですので引き金さえ引けば、魔弾を撃つことができます」
「こんな物があるのか……初めてみた。それに、重いな」
そう言いながらムドルは、魔弾銃を隅々までみる。
(噂には聞いていましたが。これが……。でもこんな重い魔弾銃……なぜ、魔族領土内に出回っている。出所は、恐らくここでしょう……。
それと……この魔弾は、小さい。それが十個か……どういう仕組みなのでしょうか)
そうムドルは考えていた。
「使い方は、大丈夫ですか?」
「……引き金って、これのことか?」
そう聞きムドルは、引き金の部分を指差す。
「はい、そこです。撃ち方は大丈夫ですか?」
「そうだな……試し打ちをしてもいいか?」
そうムドルが問うとカロムは頷いた。
「いいでしょう。但し一発のみです。では、的を用意しますか」
そう言いながらカロムは、練習用の的を異空間から取り出す。その的には白い板の上に何重にも円が描かれている。
それを持ちながら壁まで行く。そして壁に、その的を設置した。
その後カロムは、ムドルの居る方までくる。
「あの的に当てればいいのか?」
「そうなります。ですが、試験の的は動く物体を用意しますので……それを撃ってもらう。それと魔弾には、適当に魔法が詰まっている」
「分かった」
そう言い頷くとムドルは、魔弾銃を構え的を見据えた。
(照準の合わせ方は、魔弾銃と変わらない。なんとかなるとは思いますが……)
そう思いながらムドルは、的に目掛け引き金を引く。
――バアァァアアアーーンッ……――
途轍もなく大きな音が部屋中に響き渡る。
ムドルは魔弾を放ちその反動で少し後ろに移動した。と同時に両手で両耳を塞いだ。
一方ムドルが放った魔弾は、的の中央に当たる。当たった魔弾は、魔法を放ち的を凍らせた。
「クッ、なんて音だ。それに……威力が、半端ない」
そう言いながらムドルは耳から手を放し、ブルッと頭を振るう。
「そうですね。ああ、そうそう……耳栓を渡すのを忘れてました」
それを聞きムドルは、ジト目でカロムをみる。
(わざと? それとも、本当に忘れたのでしょうか……)
そう思いながらカロムから耳栓をもらう。それと魔弾も受け取る。
「使ったことがないにしては、中々ですね。それでは、そろそろ試験を行いましょうか」
そうカロムが言うとムドルは頷いた。
カロムは試験に使うための的となる物を異空間から取り出した。
それは、この世界にあり得ないような装置である。
そうセットされた拳ぐらいの球が装置から飛び出すのだ。……ハッキリ言って、これバッティングマシンだと思う。
素材はこの世界にある鉱石などで造られている。見た目は、間違いなくバッティングマシンそのものである。
だが……それにしても、小型とはいえ……よくこんな物が異空間に仕舞って置けるな。
「このショット装置を壁際に設置します。少し、待ってください」
そう言いながらカロムは壁際へと向かった。
(……アレが的? みたこともない装置です。動く物体を撃つと言っていましたが……どんな仕組みになっているのでしょうか)
そう思いながらムドルは、カロムが設置しているショット装置を目を凝らしみる。
(それにしても、まだ耳が変です。まぁ、視力は大丈夫なので問題ないと思いますが)
そう思考を巡らせながらカロムが設置し終えるのを待った。
カロムは設置を終えると戻ってくる。
「さて、ルールを説明します」
そう言いカロムは説明し始めた。
「……なるほど。あの装置が放った球を撃つって訳か」
「ええ、ムドル……そういう事です。その球を撃ち合い、数多く命中させた方が勝ちとなる。それと開始の合図と共に、私が持ってるこの装置に魔力を注ぎ作動させますので」
それを聞きムドルは、カロムが持っているスイッチのような物に視線を向ける。
「球を放つ度に、その装置に魔力を注ぐのか?」
「いいえ、開始すれば……連続で球が放たれます。一定の間隔で、ですが……」
「という事は、休んでる暇がないな」
そうムドルが言うとカロムは頷いた。
「そうなる。さて、そろそろ開始しましょう。遅くなってしまいますし」
「ああ、そうだな……」
そう言いムドルは耳栓をすると、カロムに指定された位置に立ち魔弾銃を構える。
それを確認するとカロムは、自分も定位置についた。
「開始します!」
そう言いスイッチに魔力を注いだ。と同時に、そのスイッチを床に無造作に放り投げた。すかさず魔弾銃を身構える。
それと変わらずの時差で、壁際に設置されたショット装置から球が斜め上に発射された。
それに反応しムドルとカロムは、魔弾銃の引き金を引く……。
二人の銃口から魔弾が発射されて、的へと向かう。そしてカロムの魔弾が球に命中する。すると球が燃え、炭になった。
ムドルはそれをみるも、悔しがる間もなく球が発射される。
それに即座に反応し二人は、魔弾銃を構え引き金を引く……。
二発目はムドルの魔弾が命中した。そして中った球は、バンッと破裂する。
ゆっくりしている暇もなくショット装置から球が発射されていく……。
それを二人は、引き金を引き撃っていった。
そして、十発……全て打ち終える。
それと同時にカロムは、ガクッと肩を落とし床に膝をついた。
「まさか……十発中、七発も命中させた。前半の三発は、外したものの……。ムドル、魔弾銃を扱ったことがあるのか?」
そう言いながらカロムは、ムドルを上目づかいでみる。
「いや、このタイプのはない。だが、魔力を放つ魔弾銃ならある」
「なるほど……そうなると、格闘だけでなく魔法も使えるのですね」
「多少ならな。それで、試験はこれで終わりか?」
そうムドルに聞かれカロムは頷いた。
「ええ、いいでしょう。では、次のグレイフェズと交代してください」
そう言いながらもカロムの顔は、ピクピクと引きつっている。
それをみるもムドルは気づかないフリをして、グレイフェズとベルべスクの居る部屋へと向かった。
そしてムドルはグレイフェズ達の方に向かいながら、してやったりと口角を上げ笑みを浮かべる。
ここは闘技場のような場所がみえる部屋。そしてそこには、ティハイドが居る。
ティハイドは窓越しから試験の様子をみていた。
「面白い! ベルべスクに続いて、ムドルもクリアーか。さてグレイフェズは、どうなる……楽しみだ」
そう言い口角をあげ笑みを浮かべる。
(だがこのままだと、恐らくグレイフェズも容易くカロムを負かすだろう。それならば、実力を試すのも面白いかもしれんな)
そう考えながらカロムの方へと視線を向けた。
――場所は移り、闘技場のような部屋がみえるグレイフェズ達が居る部屋である――
部屋の中にムドルが入ってきた。
「ムドル、どうだった?」
「どうって……みての通り、まだ耳が変だ」
「いや、そういう事じゃない……あのカロムのことだ」
そうグレイフェズに言われムドルは、窓越しからカロムの方に視線を向ける。
「ああ、そのことか。何を考えているか分からない。カロムのことは、分からないが……。
この試験、わざと得意じゃないと思われるものを指定してくる」
「なるほど……じゃあ、俺はなんだろうな。あの紹介状には、剣術と体術に炎系の魔法って書いたが」
「そうだな。何を指定してくるか予測ができない」
ムドルがそう言うとグレイフェズは頷いた。
「ああ、でもなんで……わざわざ不得意なもので試験をする必要があるんだ?」
「さぁ……なぜでしょうか。オレには分からない。……それよりも、なんでベルべスクがここで伸びてる?」
そう言いムドルは、ベルべスクの方に視線を向ける。
「さっき耳が痛い、うるさい、頭が変になる、って言い……最後に泡を吹いてぶっ倒れた」
「そういう事か……耳がいいからな、オレもだが。あの魔弾銃は、かなりの音がする。それに重い、隙をついて撃つには適さないだろう」
「そうか……。さて、そろそろ行かないとな」
そうグレイフェズは言い、闘技場のような場所の中央に立っているカロムを見据えた。
「オレは、ベルべスクをアイテムで回復しとく」
「そうだな……いつまでも、そのままじゃまずいだろう」
グレイフェズがそう言うと、ムドルは笑みを浮かべ頷く。
その後グレイフェズは、部屋を出てカロムが待つ中央へと向かう。
それを確認するとムドルは、バッグからアイテムを取り出しベルべスクの回復をした。
――場面は、闘技場のような部屋の中央に変わる――
カロムはグレイフェズ達が居る部屋をみていた。
(さて、次はグレイフェズか。紹介状に書かれていた得意なものは、剣に体術と炎属性の魔法だったな。……そうなると、頭脳戦の方がいいか?
いや、得意と書いていないだけかもしれない。だとしても……どうする? 敢えて、なんでもありのバトルで……。
でも、それだと試験の意味がない。得意なことができるのは当たり前だ。そうなると……)
そうこう考えてるとカロムの腕輪が光る。
それに気づきカロムは腕輪の魔石に手を添えた。
すると魔法陣が展開されそこからティハイドの声が聞こえてくる。
“……カロム、恐らくグレイフェズは強いだろう。あの二人もだがな”
「ティハイド様、ではどうしましょうか?」
“そうだな……どこまでやれるかをみてみるか。アレをセットしろ!”
そう言われカロムはティハイドの居る部屋の方に視線を向ける。
「……分かりました。そうしたいと思います」
そう言いカロムは不敵な笑みを浮かべた。
その後、ティハイドとの通信が切れる。
「さて、グレイフェズがくる前にフィールドを造っておきますか」
そう言うとカロムは、部屋から出て自分の方に向かってくるグレイフェズの方を向いた。
「……来ましたね。これは、急ぎませんと」
カロムはそう言い、急ぎ道具置き場に向かう。
その後カロムは、フィールドを造るための道具を取ってくると設置し始める。
そして中央へと向かっていたグレイフェズは、カロムが何をしているのかと思いみていたのだった。
カロムはティハイドの指示通り、闘技場のような部屋の中にフィールドを造り始めた。
それを不思議に思いながらグレイフェズはみている。
(何を始めようとしてるんだ? 相当、大掛かりな仕掛けみたいだが)
そう思いながらカロムの動きを目で追った。
一方カロムはバスケットボールぐらいの大きさのオレンジ色の鉱石を、魔法を使いながら両壁際付近に設置する。
それは、浮遊魔鉱石と言う。だが実際は、ここまで大きくはない。それに魔力で浮くのだが、長時間は無理だ。
ただこの浮遊魔鉱石は、錬金術によりこの大きさに加工されている。それと魔力を注げば長時間浮くことができるのだ。
その浮遊魔鉱石を魔力を注ぎ宙に浮かせ、三個ずつ両壁際付近に設置していった。
設置を終えるとカロムはグレイフェズが待つ中央へ向かう。
グレイフェズはその光景をみて、更に何をしようとしているのか理解できずにいる。
(終わったみたいだが……何をさせる気だ? 明らかにムドルとベルべスクとは、試験内容が違うよな)
そうこう思考を巡らせていると、カロムがグレイフェズのそばまできた。
「さて、設置が終えましたので……試験の内容を説明したいと思います」
そう言いカロムは試験の内容を説明し始める。
「ルールは簡単です。自分の陣地に設置されている浮遊魔鉱石が、全て破壊されたら負けとなる」
「なるほど……俺だけ実力をみるって訳か」
「ええ、あの二人もでしたが……強いと判断しましたので。それにティハイド様が実力をみたいとのこと」
そうカロムに言われグレイフェズは、ティハイドの方をみた。その後、すぐカロムの方に視線を向ける。
「そういう事か。それで、攻撃方法はどうするんだ?」
「何でも構いませんよ……一番得意なものでも、複数もちいての攻撃も可能です」
「それだと簡単に決まるんじゃないのか?」
そうグレイフェズが聞くとカロムは、不敵な笑みを浮かべた。
「フッ、そうですね。確かに、私かグレイフェズのどちらかが……一瞬で魔鉱石を破壊してはつまらない」
そう言いながらムドルとベルべスクが居る方をみる。
「では、あの二人にも手伝ってもらいましょう」
「ムドルとベルべスクに、って……」
「ええ、お互いの浮遊魔鉱石を守って頂きます」
それを聞きグレイフェズは不安になった。
(……ってことは、ベルべスクかムドルと対戦するかもしれない。大丈夫だとは思うが……)
グレイフェズはどっちがカロムの陣地についたとしても勝てる気がせず……。
(恐らく手は抜かないだろう……特にムドルはな。それにカロムは、二人に手を抜くなと釘を刺す)
そう思い自分の言ったことに対し後悔していた。
「……そういう事か……それでいい」
「では、二人を呼んで来ます」
そう言いカロムはムドルとベルべスクが居る部屋の方に向かい歩き出す。
それをみながらグレイフェズは、色々と思考を巡らせた。
そんな中ムドルとベルべスクは、二人の会話が聞こえていたため真剣な表情で考え込んでいる。
(まさか……こんな所でバトルをする破目になるとは、恨みますよグレイ。いえ、ちょっと待ってください! これは……カロムの陣地の守りにつけば……。
そうですね、グレイと一戦交えるチャンスかもしれません。一度は対戦してみたいと思っていましたので……)
そう思いながらムドルは、グレイフェズの方へと視線を向け笑みを浮かべた。
(おい、どうすんだよ。オレは、知らんぞ……どうなっても)
ベルべスクはそう思い、ジト目でグレイフェズの方をみる。
そして二人は、何も聞いていないフリをしながらカロムがくるのを待っていたのだった。
ここは闘技場のような部屋の中央。
グレイフェズはカロムが戻ってくる間、周囲を見渡し考えていた。
(壁付近に三個の浮遊魔鉱石……大きい。狙い易いが……守りに阻まれるだろう。それに、どこまで本気でやるかだな……やり過ぎてもまずい。
……大岩や瓦礫などの障害物が数ヶ所に設置されている。これを上手く利用できればいいんだが)
そう考えながら部屋の隅々まで見回す。
(それに……カロム側に、ベルべスクとムドル……どっちがつく? どっちだとしても、突破できるのか不安だ。だが……これをクリアーしないと、俺だけ不合格になる)
そう思いムドルとベルべスクが居る部屋の方をみる。
「運に任せるのも性に合わない、が。……やるしかないよな」
そう言い苦笑した。
しばらくしてカロムがムドルとベルべスクを連れてくる。
「それでは、再度ルールを説明します」
そう言いながらカロムは、三人を順にみたあと再び話し始めた。
「私とグレイフェズ、お互いの陣営……壁際の方に三個ずつ浮遊魔鉱石が置かれています。その浮遊魔鉱石が、全て破壊された方の負けとなる」
「それと……破壊の邪魔をするのがムドルとベルべスクなんだよな?」
「グレイフェズ、ええ……そうです」
カロムはそう言いムドルとベルベスクをみる。
「なるほど……それでオレとベルべスクは、どっちにつけばいい?」
そう聞かれカロムは考えながらムドルをみた。
「そうですね……」
そう言いながらカロムは、バッグの中からコインを二枚とる。その一枚をグレイフェズに渡した。
「もしかして……コインで決めるのか?」
グレイフェズにそう聞かれカロムは頷く。
「ええ、コインの表を出した方が指名権を得る」
「なるほどな。確かにその方が、後腐れない」
「それでは、やりますか。ベルべスク、始めの合図で【トス】と掛け声をお願いします」
「ああ、分かった」
そう言いベルべスクは頷いた。
「あー、そうそう。コイントスの方法は、分かりますか?」
「やってるのをみたことはある。恐らく、大丈夫だと思う」
「それなら……問題ないでしょう。では、始めますか」
カロムがそう言うと三人は頷く。
その後グレイフェズとカロムは、少し離れた位置で向かい合う。
そして右手を軽く握るように、人差し指が上向きになるように構える。その軽く握った拳の人差し指の上にコインを乗せた。
それを確認するとベルべスクは……。
「トスッ!」
そう掛け声を発する。
二人はその声を聞きコインを親指で弾く。
互いのコインは上に弾かれ落ちる。コインを右手で覆うように左手の甲でキャッチし隠した。
そしてお互い覆っていた右手を左手から退ける。
「……」
グレイフェズは絶句した。
「綺麗に決まりましたね。私が表……グレイフェズは、裏。では、私が指名権を得ましたので……」
そう言いながらムドルとベルべスクを順にみる。
そしてその間グレイフェズとムドルとベルべスクは、どっちを指名するのかとカロムをみていた。
闘技場のような部屋の中央。カロムはムドルとベルべスクのどっちにするか悩んでいた。
片やグレイフェズとムドルとベルべスクは、カロムが誰を選ぶのかと思いながら待機している。
そのためか四人の周囲の空気は、重くなっていた。
(どっちを選ぶつもりだ? 人間の姿に変え能力を抑えていても、二人は魔族だぞ。そんな二人に、能力を封印している俺が勝てるとも思えない)
そう思いながらグレイフェズは下を向いている。
(さて、カロムは誰を選ぶのでしょうか? まぁ……どちらでも構いません。ただ、できればグレイと対戦してみたいですね)
ムドルはそう考えグレイフェズへ視線を向けた。
一方ベルべスクは無言のまま不安な表情でカロムを見据えている。
(さて、指名権を得ることができたが……どっちにする? ベルべスクにムドルか……。両者ともに悪くないが。
身長で言えば、約十五センチの差で……ベルベスクよりもムドルの方が高い。それにみた感じだと、グレイフェズよりも約五センチぐらいベルべスクの方が低いな。
どうする? 能力では、選びようがない。それなら……身長差で選ぶか。まぁ、賭けは嫌いじゃないしな。あとは運に任せるってことで……これで行くか)
そう考えがまとまるとカロムは、ムドルの方に視線を向けた。
「そうですね。悩みましたが……ムドル、私の陣営の守りをお願いします」
それを聞きムドルは、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ああ、承知した」
そう言いムドルは、チラッとグレイフェズをみた。
(……ムドル。なんであんなに嬉しそうなんだ? いや、それよりも……あの様子だと。俺と対戦したいと思っていたのか……。まぁいい……お前がその気なら、やってやろうじゃねえか!)
そう言いグレイフェズは、ムドルを鋭い眼光で睨む。
それに気づいたムドルも、グレイフェズを睨み返した。
(その表情は……やるきですね。面白い、私もその気でしたので……)
ムドルはそう思いグレイフェズを目を細めみると微かに笑う。
(あーオレは知らんぞ。ここがどうなってもな……)
そう思いながらベルべスクは、グレイフェズとムドルを交互にみる。
「それでは決まりましたので、作戦タイムを設けましょうか」
そうカロムが言うと三人は頷いた。
「そうだな……その方がいい。じゃあベルべスク、向こうに行こうか」
グレイフェズはそう言いベルべスクの方に視線を向ける。
「了解だ!」
そうベルべスクが返答するとグレイフェズは、自分の陣地にある浮遊魔鉱石の方に歩き出した。そのあとをベルべスクが追う。
「さてと、我々も作戦を立てましょうか」
そう言いカロムは、ムドルをみたあと自分の陣営の浮遊魔鉱石がある方へ歩き出す。
それを聞きムドルは、軽く頷くとカロムのあとを追いかける。
そしてその後、四人は二手に分かれて話し合ったのだった。